ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第124話 原作時間軸・聖歌ライブ

 

 聖娼女の展開予想をしても、誰も幸せになれない。

 だから『聖女』でも『聖娼女』でもない、第三の選択肢。

 『聖少女』の概念を作り出すことにした。

 

 ……というか、このままだと御使い6人と精霊10人の野郎共が造反まっしぐら。

 彼ら自身が率先して聖女を守りつつ、セックス無しで聖女を支えることができる存在に仕立て上げなければならない。

 

 『聖少女』が聖歌(チャント)として歌を歌い、精霊10人が伴奏し、御使いが盛り上げる。

 反戦歌なり、亜人達との友好の歌なり、メッセージ性があるものを色々歌って貰えばいい。

 マクロスシリーズで有名な歌姫戦略だ。

 聖女に歌わせながら突撃する予定は無いが、亜人との交流用には良いかと思われる。

 

 最大最悪の問題は、この世界で音楽が未発達な点にあった。

 ずっと殺し合いをしていたから、仕方が無かったのかもしれないけど。

 

 聖女の踊りに、ゴブリンが太鼓的リズムを合わせていたので伴奏の文化はある。

 同様に、楽器が無い時に足踏みなどで音を表現する文化もある。

 科学的13巻141P、ゴブリンの歌には歌詞がなく音程も単調。

 歌に歌詞を入れないのはゴブリンの文化。

 宇宙刑事ギャバンを織津江&ゴブリン娘コリンとで、オペラ的に再現したらしい。

 

 だがその先が無い。

 客を歓待する際に食事かセックスで盛り上げる、そこで止まっている。

 演奏や舞踊で客を楽しませる文化が、ふかダンにも科学的にも一切見られない。

 酒場や広場に吟遊詩人もいなければ、室内に楽器が置かれている描写も無い。

 

 結局の所、音楽関連の描写はふかダンにも科学的にもほぼ無い。

 聖女の舞踏すら、伴奏無しに一人で練習しているぐらいだ。

 ……振付師とかいるのかな?

 

 前世地球では、石器時代には既にネアンデルタール人の笛が発掘されている。

 紀元前の古代ペルシア時代からギター、リュート、フルートに似た構造の楽器が使われている。

 戦争ばかりで実利的なことにしか興味が無く、娯楽が少ない世界だとはわかっているけれど、せめてルネサンスとかバロックとかの、中世ヨーロッパ的音楽文化ぐらいは欲しかった。

 

 でも、音楽の欠片ぐらいはこの世界にあるはず。

 唸れ侯爵パワー、この異世界の楽器を片っ端からかき集めろ!

 

 ……というわけで!

 侯爵パワーでかき集めた、素敵な楽器達を紹介するぜ!

 

 南イタリアの手持ちオルガン・オルガネット!

 ブルガリアのギター・タンブーラ!

 アフガニスタンのギター・ラバーブ!

 アラブのギター・ウード!

 中世のバイオリン・フィドル!

 トルコのドラム・ダラブッカ!

 ペルーの箱状ドラム・カホン!

 中近東のタンバリン・レク!

 北アフリカ系の笛・カワラ!

 スコットランドの笛・バグパイプ!

 

 ……民族音楽っていうかなんていうかさぁ……。

 どんな音になるのか想像すらできないんですけど。

 全てが鳴った時に調和できるの? どうなの?

 この世界の娯楽は本当にダメだな。

 TRPGか読書かセックスしかないのだろうか。

 むしろ何故TRPGがある、やはりゲイリー・ガイギャックスが転生したのか!

 

 開き直って精霊10人に、この楽器達を全力でマスターしろと厳命した。

 お前等の演奏の努力次第で聖女達が光り輝く。

 お前等が聖女を支えるんだよ!

 

 御使いには何させようかね。

 オタ芸でもさせとくか。

 

 

 * * *

 

 

「あの、ユーリ様……さん」

「うん、どうしたのレピアちゃん」

 

 歌と踊りの練習をしている時に、レピアがユーリに相談を持ちかけた。

 

「私達の後で、ユーリさんは『妹のユーリ』として歌うんですよね?」

「うん、今後の融和計画の為に亜人語で歌っておこうと思って」

 

 ユーリが答えると、リリィがじっと見つめてきた。

 

「それなら、最初の歌も三人一緒に歌いませんか? せっかくの初ライブですし」

「……三人かぁ……」

 

 レピアとリリィのユニット『聖少女レピリリ』として、最初に歌ってもらおうと思い選曲したのは魔法少女まどか☆マギカOP『コネクト』。

 ClariS(クラリス)の二人組時代、一章~二章をイメージしていた。

 だがユーリちゃんが加わると、三章の三人組になる。

 ユーリの前世の死亡時期は2025年5月、ClariS(クラリス)が三人組になったのは2025年1月。

 約四ヶ月分しか三人時代を知らない。……再現できるか?

 別に異世界で三章を完全再現する必要は全く無いのだが、ユーリは悩んだ。

 

「プロデューサーのグラスちゃん、どうですか」 

「ユーリ君をユーリちゃんとして参戦、ですか……」

 

 聖少女レピリリの今後の活動全てをプロモーションすることになったスーツ姿のグラスちゃんが、真剣な表情で眼鏡をクイッとあげる。

 スーツは冒険者ギルドのお姉さんの制服を参考に発注した新作である。

 

「歌詞も曲もユーリ君が提供したものです。すぐに違和感無くユニットに混じることができるでしょう。特に最初のライブは話題作りのために、レア度の高いユーリちゃんを出すのは悪い話ではありません。ユーリ君の地味に多い嫁達を順に歌わせる案もあることですし」

 

 嫁勢全員でAKB48やら乃木坂46やら、そんな方向性に行ってしまったらどうしようとユーリは内心焦るが、そうなったらそうなったで最前列でオタ芸でもするかとユーリは覚悟を決めた。

 グラスは立場上、壇上にあがることはないと高をくくっているので余裕の笑みだ。

 

「レピアちゃんをイメージした薄茶、リリィちゃんをイメージした水色、妹のユーリを出すなら銀……は難しそうだから白。三種類の各色をベースにした推しグッズも作っておいて。ジャン君もアドバイザーとして引っ張り込んでいい。ファンサうちわって言うんだけど、紙と木で応援用のグッズを作ってもいいかもね。単価は多少高くても構わない、堂々と高値で売って。うちわに書く文面だけど『レピアしか勝たん』『リリィたん最強』『レピリリ箱推し』『3秒見つめて』、こんな感じでいこう」

「みんなを表す、絵かなにかが欲しいかな……紙に印刷して、宣伝に使いたいかも」

「わかった。活版印刷ではなく、木版印刷も併用だ。画家と木彫り系の人間を引っ張ってきてくれ。レピアちゃんとリリィちゃんの似顔絵を画家に描かせて、それを木版に彫らせるんだ」

 

 その後、アドバイザーとしてやってきたジャンが、イメージ色の法被が欲しいとか、ペンラは無理でもイメージ色の短い棒が欲しいとか、鉢巻きはどうでしょうとか、木版印刷まで使うなら宣伝だけでなくポスターも必ず売りに出しましょうとか、注文販売でフィギュア製作まで手を出しましょう等、矢継ぎ早に助言を出しはじめた。

 

「妹のユーリさんのグッズも作るんですよね? 無いわけないですよね?」

「あ、うん、わかった、作る、作るから落ち着いてジャン君……」

「なんならコール本作りますか?」

「まだそこまで歌が揃ってないからやめとこう、ね?」

 

 

 * * *

 

 

 アイギス港街。

 街の中央にある巨大なセルヨーネ侯爵家邸エリア。

 普段は厳重な警備で入れないそこに、美しい庭園を背景とした特設ライブ会場が作られていた。

 控え室に相当する簡易小屋まで建設され、その他に仮設トイレや屋台など、この世界初の歌唱イベント開催とは思えないぐらい妙に先回りされた施設や人員が揃えられていた。

 科学的~の魔王国で使用されている、音響通信機や拠点通信拡声器をライブ用に完全改造した大音量化装置まで準備している念の入れようである。

 (音響通信機も拠点通信拡声器も、連合国軍がその存在を知れば、いいから特許を出せと暴れるヤツだ)

 

 【聖少女レピリリ with ユー 聖歌(チャント)ライブ】

 

 元聖女騎士レピアと聖杖の賢者リリィが、『聖少女レピリリ』として歌を歌う、この世界初のライブが開催される。

 冒険者以外はよく知らない『妹の』ユーリとやらも特別参加のオマケで歌うらしい。

 

 用意されたチケットはお高めではあったものの、ただでさえ娯楽の少ない世界なので即完売。

 ライブ開催地こそアイギス港街だったが、高速馬車道が整備されているので【死の森】前要塞からわざわざ来た人もいた。

 アイギス港街には宿泊施設がないので、アイギスの宿泊施設は全て埋まりきった。

 この世界初の『泊まるところが無いなら金くれれば泊めてやるよ』という民泊まで発生した。

 

 

 そして、今日はライブ当日。

 沢山の人がアイギス港街に集まり、港街の美味しい食事を楽しんだりしている。

 そんな中、一人、異様な格好をした男が真剣な表情でライブ会場を訪れていた。

 

 この世界には一着しかない、いわゆる推し特攻服。

 白の布地に、背中には『妹のユーリ』の精巧な似顔絵の刺繍が縫われている。髪の表現に高価な銀糸まで使われている。内部関係者特権で、『妹のユーリ』の似顔絵ポスターの試し刷りで廃棄予定だったものを一枚拝借し、それを元に特注したものだ。

 合わせて、大きく『妹のユーリ』と背中に文字が描かれている。

 特攻服の前面には、それっぽい言葉も書いてある。

 『貴女の笑顔がある限り一生推すと決めたから』

 『二度と戻らぬこの時を悔いを残さず燃え尽きよ』

 彼の鉢巻きには『with ユー』と書かれている。

 

 ジャンである。

 特注の特攻服に金をかけすぎの完全装備である。

 イメージ色の白い短棒を左腰に差し、右腰には『3秒見つめて』のうちわが装着されている。

 前世なら多分ケミカルライトをバルログ持ちしている。

 どうしてこうなった。

 

「レ・ピ・ア! レ・ピ・ア!」

 

 ジャンのそばで、大声が聞こえる。

 六人ほどの男達が全員薄茶の法被を着て、円陣を組んで叫んでいた。

 彼らは御使いの男達だが、誰もそんなことは知らない。

 この場では、ただのレピア推しのファンである。

 

 ライブ前の会場でコールをするとは、なんという恥知らずか。

 ジャンは憤慨したが、そもそも世界初のライブだ。

 この世界でライブマナーを知っているのはジャン含めて二人しかいない。

 

 しかし、何よりも気に食わない存在がジャンの視界に入っていた。

 後方腕組み彼氏ヅラをしている弓王ボーゲンである。

 なんかもう全ての態度が『フッ、俺は妹のユーリの男だが?』と語っている。

 いつか超強弓フルドローを弓王の顔面にぶち当てたいとジャンは思った。

 どうしてこうなった。

 

 

 * * *

 

 

 関係者しか入れない控え室の建物内。

 フードを深く被り、ローブで全身を覆い隠した人物が二人、隅の方に座っていた。

 

 一人は白面金毛(プラチナ)

 もう一人は、二代目白面金毛ことワインだ。

 

 白面金毛(プラチナ)が意のままに身体を動かせるようになり、ワインが百斬無斬の理を習得し終えた。

 時期が来たということで、これから白面金毛(プラチナ)は中央大陸に渡り、計画を実行する。

 ライブの関係もあって港街にいるから、あとは船で出立するだけだ。

 聖教会や各国の上層部に潜り込み、現教皇をはじめとして戦争推進派を殺す。

 身体でもなんでも使って籠絡し、情報を抜き、問答無用で殺す。

 母親の強姦殺害疑惑がある、おじいちゃん伯爵も拷問して殺す。

 

 ユーリはユーリで、聖教会の象徴でもある勇者を寝返らせ、聖女を意のままとし、人間と亜人との融和計画に同意させることに成功したらしい。

 これからはじまるライブとやらは、表向きは『前向きに生きて頑張ろう』という歌のようだ。

 だが計画を知っている者にとっては、人間と亜人が手を取り合う未来のために頑張ろうという意味の歌詞となるらしい。

 暗黒大陸は暗黒大陸で、うまく殺して計画を遂行してみせる。歌の影響で死にたくないと考えてしまい、最前線から去る者が増えれば、前線には殺しても問題の無い連中ばかりが残る。

 とにかく、亜人と本気で手を取り合いたいという気持ちを歌詞に籠めて、歌を通して白面金毛(プラチナ)とワインに伝えたいとユーリが言ってきた。

 

「歌で気持ちを伝えるとは……本当に文化が違いますね」

 

 ゴブリン達ですら歌に歌詞は無い。

 思えばレッドキャップは、生きて増えることのみに必死だった。

 精霊に捧げる儀式や、産屋窯で赤子の死亡率を減らすことばかり。

 何かを楽しむという文化そのものが無い。

 人間と亜人ではなく、人間とレッドキャップの関係について白面金毛(プラチナ)は考えた。

 

「白面様……じゃない、うう、プラチナ様……どうなされたのですか?」

「いえ、ね。昼に生きる人間と、夜に生きる僕達。昼間の僕達は、遮光器無しには歩くことすらロクにできません。生活時間帯がズレていて、安眠できない相手だからこそ、昔のレッドキャップは宗教として人間を殺さねばならないと言うようになったのではないか……さながら、今の人間達が宗教として僕達を殺せと定めたように。そんな事が、脳裏をよぎってしまいまして。事実、宗教を律儀に守っているのは『敬虔な信徒』だけで、どちらかといえば宗教を利用はしても全く信じていない(科学的3巻14P)巫女や(おさ)が多いでしょう。そもそも宗教自体を薬と定義し、薬に酔うなとまで僕達は指導されるのですから、宗教に従って人間を殺すのは首を傾げますよね? 実際、僕達が人間にキレたのも、人間が絶滅戦争のはじまりの鐘を鳴らしてそれを止めなかったからです。それですら人間にメッセージを伝えようとしていたぐらいには、僕達レッドキャップもテオ殿のように忍耐強く我慢していたわけです。僕達は人間と何百年も殺し合いを続けておいて、それでもなお……問答無用で人間は殺せという宗教ではなく、絶滅戦争に対する等価報復としての反撃しかしてこなかった。僕達の宗教に従うのであれば、僕達の方から人間に対して絶滅戦争を仕掛けていなければ道理が通らないというのに」

「もしかしたら。もしかしたら、ですけど。みんな甘いのかもしれませんね。ケンタウロス達も含めて、みんな」

「戦争は、人材と資源を莫大に消費し続ける行為です。業腹ではありますが、お兄ちゃんのやろうとしている事は正しいのでしょう、きっと」

 

 白面金毛(プラチナ)は、苦笑しながらステージを眺める。

 もうすぐ、気持ちを伝える歌とやらがはじまる。

 

「しかし……歌、ですか。歌なら……昼間はロクに見えない僕達でも、聞くことができますね」

「……そうですね」

 

 ワインは、白面金毛(プラチナ)の声が信じられないぐらい穏やかだと思った。

 確かに仲間を沢山失ったが、それでも前に進めている。

 終わりの見えない戦争から、終わりが見える戦争に変化した。

 

 白面金毛(プラチナ)もワインも、これから沢山人間を殺す。

 もちろん、殺される可能性はある。

 計画の性質上、それはもうどうしようもない。

 

 それでも。

 

 それでも、ワインは白面金毛(プラチナ)の穏やかな声を聞きながら、生き延びてみたいと感じた。

 沢山の白面金毛(プラチナ)の子と、一人のユーリの子を抱きながら、のんびり過ごしてみたくなった。

 例えそのために、どれだけの血を流すことになろうとも。

 

 

 * * *

 

 

「皆様、お待たせしました。それではこれより『聖少女レピリリ with ユー 第一回聖歌(チャント)ライブ』を開催させていただきます!」

「「「わぁーーーーー!!」」」

 

 会場内に、通信拡声器を通してグラスの声が響き渡る。

 既に入場を終えて待機していた観客達から、歓声と口笛があがる。

 

 (いくさ)がはじまる。

 ジャンは『3秒見つめて』のうちわを右手に、白い短棒を左手に握った。

 

 関係者席でもなんでもない普通の一般席。

 弓王ボーゲンはドヤ顔で腕を組みながら、微笑を浮かべていた。

 

 

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