ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第125話 原作時間軸・聖少女レピリリwithユー

 

 アイギス港街、中央区、セルヨーネ侯爵家邸エリア。

 美しい庭園を背景とした特設ライブ会場は、今や大勢の人でぎっしり埋まっていた。

 

 前世の民族楽器を詰め合わせてみましたと言わんばかりの音が、会場中に響き始める。

 

 南イタリアの手持ちオルガン・オルガネット。

 ブルガリアのギター・タンブーラ。

 アフガニスタンのギター・ラバーブ。

 アラブのギター・ウード。

 中世のバイオリン・フィドル。

 トルコのドラム・ダラブッカ。

 ペルーの箱状ドラム・カホン。

 中近東のタンバリン・レク。

 北アフリカ系の笛・カワラ。

 スコットランドの笛・バグパイプ。

 

 ただ、ギターもベースもドラムもピアノも擬似的に揃っている感じではあるので、確かに民族音楽色は強いが、総合的には前世地球人から聞いても『まぁこれならアリかな』というレベルに仕上がっていた。

 前世地球人が聞いてそう思ったのなら、現地異世界人にとっては満点どころの騒ぎではない。

 何が起こるかの展開予想もできず、わくわくのドキドキというやつだ。

 

 そしてユーリちゃんを先頭に、レピア、リリィがステージ右奥から壇上にあがってきた。

 これは単純に背の順であり、ユーリちゃんがセンターというわけではない。

 一人につき10cm以上は確実に身長が違うので、せめて少しでも見栄え良く、というわけだ。

 

 三人共に、白のワンピースを軸とした簡素な印象の強い衣装だ。

 聖少女が 聖歌(チャント)を歌うという名目なので、清楚イメージを前面に押し出している。

 そのままユーリちゃん、レピア、リリィの順に並んだ。

 センターのレピアが、満員の会場を見渡しながら(おごそ)かに告げる。

 

「聖少女レピリリの、レピです」

 

 右端のレピアが、ぺこりと頭をさげる。

 

「同じく聖少女レピリリの、リリです」

 

 左端のユーリちゃんが、静かに頭をさげる。

 

「初回特別公演ということで、ご一緒させていただきます。ユーです」

 

 センターレピアが、緊張の面持ちで真正面を見据えながら。

 

「はじめての聖歌(チャント)ライブ。『コネクト』、聞いて下さい」

 

 三人が同時に、右手小指で目線を隠すようなお洒落ポーズの姿勢をとった。

 

(BGM:魔法少女まどか☆マギカ 「コネクト」 歌:ClariS)

 

 右手小指を上につきあげるように右腕を伸ばしながら、三人の歌唱(コーラス)がはじまる。

 

 交わした約束忘れないよ

 目を閉じ確かめる

 押し寄せた闇 振り払って進むよ

 

「はい! はい! はい! はい!」

 

 演奏開始と共に、御使いのコールが入る。

 ユーリちゃん、レピア、リリィは三角形を描くような配置で、互いに天を小指で差す。

 その後くるくる回りながら、横一列に並んだ。

 

 レピアが右手の動きで、私はあなたに伝えたい、という仕草をする。

 センターのレピアのソロ。

 

 いつになったらなくした未来を

 私ここでまた見ることできるの?

 

 同じ動きを、リリィがする。

 リリィのソロ。

 

 溢れ出した不安の影を

 

 ね、ほら聞いてる?

 そんな仕草で右手の人差し指を振りながら、ユーリちゃんが微笑む。

 ユーリちゃんのソロ。

 

 何度でも裂いてこの世界歩んでこう

 

「はーいはーいはいはいはいはい!」

 

 とめどなく刻まれた 時は今始まり告げ

 

「うぉーはい! うぉーはい! うぉーはい! うぉーはい!」

 

 変わらない思いをのせ

 

 三人一緒に揃ったポーズで右手を伸ばしていく。

 レピアのソロ。 

 

 閉ざされた扉開けよう

 

 三人が可憐に踊り続ける。

 腰を左右に振るだけでスカートが揺れる。

 清楚なイメージの服装なので、何かいけない気分になる。

 

 目覚めた心は走り出した未来を描くため

 難しい道で立ち止まっても空は

 きれいな青さでいつも待っててくれる

 だから怖くない

 もう何があっても

 

 レピアが、右手を高く挙げながら歌う。

 

 挫けない

 

「「「わあああああああああ!」」」

「はい! はい! はい! はい!」

 

 間奏パート。

 既に会場のボルテージは凄いことになっている。

 

 ユーリちゃん、レピア、リリィは踊りながら会場に背を向ける。

 

「レピー!」

「リリちゃーん!」

「ユーさーん!」

 

 一際目立つ絶叫はジャンだ。

 会場の声に応えるように、ユーリちゃんが振り向いて歌う。

 

 振り返れば仲間がいて

 

 リリィが振り向いて歌う。

 

 気がつけば優しく包まれてた

 

 最後にレピアが振り向いて歌う。

 

 何もかもが歪んだ世界で

 唯一信じれるここが救いだった

 

「はーいはーいはいはいはいはい!」

 

 三人一緒に、スカートを揺らしながら可愛く歌う。

 

 喜びも悲しみもわけあえば強まる想い

 この声が届くのなら

 

「うぉーはい! うぉーはい! うぉーはい! うぉーはい!」

 

 レピアが右手をくるくる回す。

 

 きっと奇跡はおこせるだろう

 

 三人全員が右手をくるくる回しながら、会場に向かって手を伸ばす。

 ユーリちゃん、レピア、リリィの声が綺麗にハモる。

 

 交わした約束忘れないよ

 目を閉じ確かめる

 押し寄せた闇 振り払って進むよ

 どんなに大きな壁があっても

 越えてみせるからきっと

 明日信じて

 

 レピアが両手を合わせて、祈る仕草で歌う。

 

 祈って

 

「「「うおおおおおおおおお!」」」

「はい! はい! はい! はい!」

 

 三人はくるくる回りながら三角形配置となり、全員が三角形の頂点に手を伸ばす。

 三人揃った綺麗なポーズに、会場中からため息が漏れる。

 

「「「わあああああああああ!」」」

「はい! はい! はい! はい!」

 

 レピアが観客の方を振り向いて歌う。

 

 壊れた世界で彷徨って私は

 

 ユーリちゃんとリリィが観客の方を振り向いて歌う。

 

 引き寄せられるように辿り着いた

 

 三人は踊りながら、会場の観客のあちこちに適当にファンサを振りまいた。

 投げキスをしたり、ウインクしたり、両手の指でハートを作ったりした。

 

「レピー、投げキスありがとー!」

「俺にやったんだよ!」

「俺にしたんだが?」

「ハッ、馬鹿どもめ」

「なにもわかってない……」

「哀れな連中だ」

 

 勘違いした悲しい御使い達の台詞を置き去りに、三人は踊りながら歌う。

 精霊達は『は? 俺達の演奏が聖少女を支えてるんだが?』と御使いを馬鹿にした。

 ジャンは『3秒見つめて』のうちわにウインクファンサが入って死にかけた。

 弓王ボーゲンは後方腕組み彼氏ヅラのまま意味深に頷いた。特に意味は無い。

 

 目覚めた心は走り出した未来を描くため

 難しい道で立ち止まっても空は

 きれいな青さでいつも待っててくれる

 だから怖くない

 もう何があっても挫けない

 

 最後に、三人は観客に手を伸ばす。

 締めで歌うのはレピア。

 

 ずっと明日待って

 

「「「うおおおおおおおおお!」」」

「はい! はい! はい! はい!」

 

 演奏を背景に、三人は仲良く手を繋いで踊る。

 最後に手を繋いだまま観客に向かって一礼をし、フィナーレ。

 

「「「わあああああああああ!」」」

 

 絶叫、歓声、口笛、拍手。

 様々な好意のアピールが、聖少女レピリリwithユーに飛んだ。

 

 何度でも言うが、ここは娯楽の種類も少なく、未発達の世界だ。

 そんなところに、レーザー光やスモークなどの電力や化学を要する演出は無いにしても、令和最新型アイドルのノウハウを凝縮して詰め込み、眼前で炸裂させたのだ。

 さらに、歌は静かに聞くもの、ではなく。

 みんなで踊って騒いで楽しんで良いのだというロックの種を植え付けることにも成功した。

 

 今回も、そして今後のライブも、きっと成功し続ける。

 私が絶対に成功させ続けてみせる。

 慣れてきたらイケメンの男の子達のグループも手がけてみたい。

 スーツ姿のグラスは、にへりと笑った。

 

 元精霊の10人も、元御使いの6人も、思った以上に満足できていた。

 なによりも、レピアとリリィの尊い笑顔を支えた自負があった。

 確かに聖女達を抱くことは、もうできない。

 だが聖少女レピリリを支え続けることで、港街高級娼館のVIPパスポートを使える。

 

姉妹(シスターズ)を抱きたいなぁ……」

「ああ、あの娘達、いいよな」

 

 元御使いの台詞を、元精霊は馬鹿にする。

 

姉妹(シスターズ)は抱くんじゃなくて、ご飯を食べさせるのがいいんだよ」

「わかってねぇな……セックスだけが全てじゃないのに」

 

 元御使い達と、元精霊達の、不毛な戦いがはじまっていた。

 

 

 * * *

 

 

「次が、最後の曲になります」

 

 汗だくのレピアがそう言いながら、脇へ下がった。

 代わりに、ユーリちゃんが前へ出てくる。

 これは、ユーリちゃんのソロ曲だ。

 

「私が、歌詞を書きました。……タイトルは『届かなくてもいい歌』です」

 

 ビートルズの『Love Me Do』を、アイドルポップ調アレンジした前奏が流れ始めた。

 

 ユーリちゃんは一人、意を決して歌い始める。

 これは、聖教会上層部が聞いたら極刑待ったなしの歌だ。

 誰かが騒ぎはじめれば、初手から二刀流で戦い始めなければならない、そんな歌。

 

 ビートルズのデビューシングル『Love Me Do』。

 簡単な英語で『僕を愛して』と繰り返し歌いあげる。

 そして簡単な言葉で愛を歌う歌は、異国の言語を習得しやすい。

 だからユーリなりに、愛の言葉を繰り返す歌詞を書いてみた。

 いつか人類が亜人語を学ぶ時が来る、その日のために。

 

 そして人類史上初の、人間が亜人(モンスター)語で歌う歌が、会場に響き始めた。

 

 

 ルグ(好き) サェドゥ(愛して)

 クァグダスラゥ(抱きしめて)

 ミゥクタイェ(あなたがいい)

 ムドタエク(お願いよ)

 

 サェドゥク(愛してよ)

 コロゴ(ねえ) サェドゥ(愛して)

 

 ルグ(好き) ルグウク(好きなの)

 グルレドゥ(キスをして)

 サェドゥド(愛してる)

 ニルトジェウ(振り向いて)

 

 サェドゥク(愛してよ)

 クスサ(さぁ) サェドゥ(愛して)

 

 クァセミワムドゥ(誰でもいい)

 シュレコロウィ(そんなわけない)

 ビベィエドク(ここにいるよ)

 グザエゥク(気づいてよ)

 

 ルグ(好き) サェドゥ(愛して)

 クァグダスラゥ(抱きしめて)

 ミゥクタイェ(あなたがいい)

 ムドタエク(お願いよ)

 

 サェドゥク(愛してよ)

 コロゴ(ねえ) サェドゥ(愛して)

 

 ルグ(好き) ルグウク(好きなの)

 グルレドゥ(キスをして)

 サェドゥド(愛してる)

 ニルトジェウ(振り向いて)

 

 サェドゥク(愛してよ)

 コロゴ(ねえ) サェドゥ(愛して)

 クスサ(さぁ) サェドゥ(愛して)

 コロゴ(ねえ) サェドゥ(愛して)……

 

 

「「「わあああああああああ!」」」

「よくわからんけど良い歌だったー!」

「意味がわからないけど素敵ー!」

「せーの」

「「「ユーちゃーん!」」」

 

 亜人語で歌われたので、当然人間には意味が伝わらない。

 でもなんかいい曲だったし、頑張って歌い上げていた。

 可愛い女の子が一生懸命歌っていたのなら、可愛いは正義だ。

 ならばよし、なにも問題は無い。

 

 

 さて、話は変わるが亜人は基本的に乱交文化だ。

 片思いが理解できない。

 『ここにいるよ、気づいてよ』とか言う前に犯しに行くし抱かれに行っている。

 だから愛情表現は、交尾して膣内射精(なかだし)したい or してくれという超剛速球になる。

 『私はたくましいモノに屈服しております。私の子宮に子種をお恵みくださいませ』という言葉が『本気で相手を愛していないと、絶対に言わない(たぐい)の台詞』と解釈されるのが亜人サイドの文化なので、想いを秘めたまま恥じらうなんていうのは新感覚というか、斬新すぎて理解に苦しんで恥ずかしくなった。

 性嫌悪症とも違う。麻薬漬けでも人間病でもない。この感覚は……一体?

 1から10まで人間は病気ということにしておきたい亜人達は、きっと混乱するだろう。

 

 カタナは照れた。今すぐユーリちゃんを抱きしめてキスしなければいけないと思った。

 ワインも照れた。わ、私の子供が欲しいってそういうことなの? と思った。

 白面金毛(プラチナ)は頭の回転が早いのが裏目に出て『わざわざ亜人語で、秘めた想いについて歌う? しかも女性の姿で……まさか、つまり、これは』と衝撃を受けた。回転が早すぎた。

 バーチェは青ざめた。オーク帝国でも同じ歌を歌うとユーリ様は言っていたけれど、こんな歌を亜人達の前で歌ったら、歌い終わった直後に問答無用でベッドに連れて行かれる。なお死の森で歌おうものならユーリは拉致監禁が確定し、絞り尽くされ干からびてもなお解放されず、人間社会に帰ってこられなくなる恐れがある。

 ジャンは、ユーリの意図通りに亜人語の勉強を真面目にやろうと決意した。現段階でも既に『届かなくてもいい歌って……まさか!』と勘違いを加速させている。そもそもジャンは、ユーリちゃんにフェラチオをしてもらったと思い込んだままなのでつける薬が無い。

 

 そんな、余波の大きさに思いを馳せることもなく。

 観客に向かって、嬉しそうに両手を振って感謝のアピールをするユーリちゃんだった。

 

 

 * * *

 

 

 控え室となっている小屋は、観客からは中が見えない。

 だが小屋からステージは見ることができる、そんな造りと配置になっていた。

 屋外ステージなので、工夫を凝らしているのだ。

 

 ユーリちゃんをはじめ、レピアとリリィが控え室に戻ってきた。

 

「「「お疲れ様でーす!」」」

 

 スタッフとして働いている嫁勢にタオルを手渡され、ユーリちゃんが汗を拭いていると、目の前にフードを深く被ったローブ姿の人物が歩み寄った。

 白面金毛(プラチナ)だ。

 

「……プラチナ?」

 

 ユーリちゃんが首を傾げると、言われた相手はバサリ、とフードを下ろした。

 

 そんな二人を眺めていた嫁勢は、驚愕し、混乱した。

 フードを下ろした人物は、レッドキャップ特有の赤い帽子こそ被っていないものの、一目でレッドキャップとわかる顔だったから。ただでさえユーリは、嫁勢の他にも色々な女性と交流があるから、一応はその関係なのだろうと嫁勢は判断できた。

 判断できた、が、しかし。

 

 神の造形、絶世の美少女、APP19。

 揺れる金髪の、一本一本までもが美しい。

 画家や彫刻家が『何故この姿を現世にそのまま残せないのか』と憤死しそうな程の金髪美少女が、赤い帽子すら被らぬレッドキャップとしてユーリちゃんの目の前に立っている。

 そしてその美少女は、同じく美少女であるユーリちゃんをそっと抱き寄せ、こう言った。

 

「全く、仕方の無いお兄ちゃんですね」

 

 絶世の美少女顔の白面金毛(プラチナ)が、軽く背伸びをしてユーリちゃんに口づけをした。

 パッと見は美少女同士のキスなので、誰も止められなかった。

 しかも絶世の美少女側から望んでしたようにしか見えないキスである。

 あと妙にキスの時間が長かった。

 

「!!??」

 

 ライブ疲れの中、突然白面金毛(プラチナ)にハグからのキスをされたユーリちゃん。

 当然、大混乱の極みに陥った。

 えっ? 一体何が? どうして? こうなった?

 

「見えませんでしたが、歌は聞こえました。()()が全てです」

 

 ワインは、凄く怖い顔で白面金毛(プラチナ)からユーリちゃんへのキスを見ていた。

 『グラップラー刃牙』の本部以蔵の顔をしていたと言って伝わるだろうか。

 

 ――ユーリさんを……

 ――否、白面様でさえも……

 ――私が守護(まも)らねばならぬ。

 

 そう決意するワインであった。

 周囲の混乱をよそに、白面金毛(プラチナ)は混乱を増幅させてしまう台詞を吐いた。

 

「今の僕達は、女性同士にしか見えません。少しぐらいは、許されるのではないでしょうか」

 

 そう言って白面金毛(プラチナ)は、フードを元に戻して顔を隠した。

 

 ユーリちゃん、白面金毛(プラチナ)、ワインから見れば男同士のキス。

 ユーリちゃんは男だと知っていても、白面金毛(プラチナ)も男だと知らなければ男女のキス。

 何も知らない人から見れば、美少女同士の百合キス。

 

 白面金毛(プラチナ)の素顔を知っているのはユーリちゃんとワインしかいなかったため、なおのこと収拾がつかなかった。

 ユーリは口に出して明言こそしていないが、アイリスが死んでから『お兄ちゃん』と呼ばれることを避けているフシがある。そんなユーリを『お兄ちゃん』と堂々と呼び、それをユーリが受け入れている謎の美少女の出現に嫁勢はビビった。

 神の造形、絶世の美少女、APP19。

 そしてその場にいた嫁全員が、白面金毛(プラチナ)が男性であることに気づかなかった。

 一目見ただけで事情を察しそうなセイは、残念なことに控え室にいなかった。

 

「ユーリーーーーッ!」

「わぷっ!?」

 

 森の中を落下行動するぐらい、壁や障害物を上手に使って最短距離で駆け抜けてきたカタナが、挙動不審になっていたユーリちゃんを真横からタックル気味に抱きしめた。

 悪意も敵意もない、完全に愛情のみのタックルだったのでユーリちゃんは反応できなかった。

 もつれあうように転んだカタナとユーリちゃんだったが、それでもカタナはユーリちゃんにしがみついて離れない。

 

 ぎゅぎゅぎゅーっ!

 ちゅっちゅっちゅっちゅっ。

 

「ユーリ、ユーリ、ユーリ」

 

 カタナがユーリちゃんを沢山ハグして、沢山キスしはじめた。

 ユーリちゃんは思考を放棄していたので、化粧が落ちるなぁ、とぼんやり考えた。

 

「……アンコール! アンコール! アンコール!」

「アンコールって観客が叫んでる」

「えっ、どういう意味?」

 

 観客達からアンコールの叫びが聞こえる。

 スタッフたるミルヒとカカオが首を傾げる。

 

 この世界で初のライブなのに、アンコールの文化を知ってる人がいるわけ……あ、一人いた。

 ユーリちゃんは苦笑しながら指示を出す。

 

「聖少女レピリリで、もう一度だけコネクトを歌ってきてください。それで完全に終わりです。演奏隊に伝えて下さい。レピアさん、リリィさん、お願いします」

「はい、わかりました」

「行ってきます!」

 

 見渡せば、白面金毛(プラチナ)もワインも姿を消していた。

 そしてカタナからのハグと、キスの嵐が止まらない。

 

「どういう歌やったん?」

「亜人語で、好きとか愛してるとか、キスしてとか、抱きしめてとか、ひたすら繰り返す歌です」

 

 バトに聞かれ、バーチェが答えている。

 

「はー。そらカタナちゃんのテンションあがるわ。戻ってこんな」

「先ほどのレッドキャップ美女からのキスも、当然と言えます」

 

 なお正妻のセイとマユリは、列整理に絶大な効果がでるので外で誘導をおこなっている。

 アロはカタナのキスの嵐を見ながら、顔を真っ赤にして言う。

 

「にっ……人間だって、さっきみたいな感じで好きとか愛してるとか、キスしてとか抱きしめてとか繰り返し歌われたら、どうにかなっちゃうわよ……」

「ねぇバーチェ、どんな歌詞だったの? 人間の言葉だと正確にどんな感じ?」

 

 裏方の最上位として見守っていたセスレが、バーチェに尋ねた。

 バーチェは一言一句正確に翻訳していく。

 

「はい、セスレ様。好き、愛して、抱きしめて、あなたがいい、お願いよ。愛して、ねぇ愛して。好き、好きなの、キスをして、愛してる、振り向いて。愛してよ、さぁ愛して。誰でもいい、そんなわけない、ここにいるよ、気づいてよ……」

「ま、待って、やめてバーチェ。もう十分。私だってユーリにそんな歌を耳元で聞かされたら、今のカタナちゃんみたくなっちゃう」

「ユーリ、ちゅっ、ユーリ、ちゅっ、ユーリ、ちゅっ」

 

 もしかして……歌で訴える、というのは。

 娯楽的文化の発展が未成熟なこの世界において、早すぎたのでしょうか。

 まさかこの世界は、歌と歌詞と歌手の分離ができない人達だらけですか?

 

 聖少女レピリリがアンコールとして歌うコネクトが、会場に響き渡り始める。

 ユーリちゃんはひたすらカタナにキスされながら、この世界でラブソングを歌うことの危険性を軽視しすぎていたことを乾いた表情で思い知った。 

 未成熟だからこそ、階段をすっ飛ばしてはいけない文化だった。

 受け皿となる人々の価値観の変容を、多少なりと時間をかけて待つべきだったのだ。

 

 ……今度も正座で、白面金毛(プラチナ)の説明を要求されるのでしょうか。

 

 ユーリちゃんは、遠い目で空を見上げた。

 カタナのハグとキスは、全然止まらなかった。

 

 

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