ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第128話 ??時間軸・平行宇宙

 

 矢や鉄パイプなど、なにかしらの物体が人体を貫通したり刺さった場合、無闇に抜くと血が止まらなくなるから抜かない方が良いとは聞く。

 だというのにこのクソ武器、生きているから嫌がらせに時折振動を与えてくる。

 そのたびに激痛で落ちかけた意識を戻されるのだが、今回はその嫌がらせに感謝しなければいけなかった。

 

 僕はアイギスの教会の中にいて、床石の上に倒れていたはずだ。

 投げ槍の振動に意識を戻されてみれば、ここは……外にいる?

 青い空、陽の光、ひんやりとした御影石の床の感触。

 

 ……御影石?

 

 御影石、正式名称『花崗岩』は、マグマがゆっくりと冷えてできた石と言われている。クソラスボスこと、深き不可知の迷宮(ふかふかダンジョン)のせいで火山自体が少なく、硫黄の発見すら難易度が高い世界では、花崗岩の発見もまた難易度が高い。

 ユーリは力の抜ける身体に喝を入れ、這いずるように周辺の手近な障害物……香炉に手をかけ、背もたれにできそうな石によりかかろうと試みた。

 

 ……いやこれ見たことあるぞ、線香を入れる場所。

 

 両脇にはステンレス製の細長い花瓶があり、枯れ果てた花束が飾られている。

 背もたれにしようとしていたものを改めて見上げると、懐かしい日本語で、達筆に文章が彫られていた。『狭間家代々之墓』。まさか。

 

 幸い、すぐそばに霊標と書かれた石板が縦に置かれていた。

 『○○○○○○居士 令和七年五月二十七日 俗名 悠里 四●才』

 

 ……なんだよ、死ぬ前の準備が良すぎだろ。

 そうか、ここは。十八年ぶり……で、いいのか?

 あの世界は数え年っぽい何かと誕生日がごちゃ混ぜで、自分が何歳なのかよくわからなくなる。

 前世の墓参りなんて子供の頃にしかしてなかったから、記憶に薄かった。

 ってことは、現在地は静岡県伊豆半島ってところか。

 

 周囲に似たような墓石が立ち並ぶ中、ユーリは2m級の投げ槍を腹から抜くこともできないまま、前世の自分の墓に無理矢理寄りかかる。

 

 あんまり強く寄りかかるとバラバラに崩れてしまうかもしれないが、その時はその時だ。

 僕が許したということは、本人が許したということ。

 悪いな、俺。いいのさ、僕。

 

 ユーリは苦笑しながら、青空を見上げた。

 やあ、地球。元気だったかい?

 

 仮にも結婚式で、儀礼服だったから、桜煙草を用意してない。

 なんだよ、こういう時って、煙草を吸いながら死ぬんじゃないのかよ。

 トライガンのニコラス・D・ウルフウッドはお酒だっけ?

 『気楽に復讐を(Easy revenge!)』だとチェンソーマンの姫野先輩か。

 流石にもう、色々と、うろ覚え、だ……なぁ……。

 

 

 * * *

 

 

 西暦2043年5月27(水)。

 静岡県伊豆半島の山奥にある寺の敷地内。

 

 墓地が立ち並ぶ中、男女一人ずつが並んで歩いていた。

 男はひしゃくと、水を入れた安物のバケツ。

 女は、墓前に供える花としては豪奢な花を抱えている。

 

 男の名は、命尾(めいお)(たすく)

 救急専門医資格を理論値最短の29才で取得した、30才の若手ホープ。

 殺人的なスケジュール明けに軽く仮眠をとっただけなので、ひたすら眠い。

 あくびをしながらも、毎年欠かさず墓参りを実行している。

 文字通りの、命の恩人。その命日だからだ。

 

 彼の隣を歩いている女性の名は、財前豊子(とよこ)

 若干37才にして、大会社の女社長。着ている服装からも、超富裕層だと理解できる。

 黒髪ロングヘアをワンレングスにした、30代後半には決して見えない美人女性だ。

 大学生時代、心底愛していた年上の彼氏が不審死を遂げ、真相を追ったら実父に辿り着いた。

 実父が彼氏を殺すためにやった全ての証拠を集めて父親を告訴。

 ついでに()()()()()()、父親の会社を関連会社ごと乗っ取った。

 何度か見合いをしたものの、どうしても死んだ彼氏のことが忘れられず。

 ずるずると独り身のまま、今年も命日の墓参りをしている。

 

「財前さんも、律儀ですね。貴女なら、男なんて選び放題でしょうに」

 

 歩きながら、命尾が話を振る。

 

(たすく)君だって、女の子は選び放題でしょう?」

 

 苦笑しながら、財前が受ける。

 

「いえいえ、ERなんかで働いてたら異性なんて無縁ですよ。休みは殆ど無いし、看護婦がどれだけ闇が深い存在なのかっていうのはイヤというほど体験しましたし。医者や弁護士専門の出会い系とかもありますけど、自分より資産を見てくるような女の子はちょっと遠慮したいです」

「……それを言い出したら、私だって同じよ。みんな私の資産しか見てこない。私だけを見てくれたあの人がどれだけ貴重だったかと思うと、今でも悔しくてね……絶縁した父親を、もう一度刑務所に放り込みたくなるわ」

「うっわ、怖ぁ……」

 

 命尾は苦笑する。

 貴方を助けて彼氏が死んだのなら、貴方は自分の子供に等しい。

 そんな事を言って、財前は命尾が医者になるための金銭面サポートを全て手配したのだ。

 お金は返さずともよい、医者になるというのなら、医者になってくれればそれで良い、と。

 

「狭間さんが、武術の達人すぎてびっくりしたのを思い出します。総合格闘技でもなんでも出ていれば、絶対有名人になれたのに」

「それなんだけどねぇ……軍人がその手の大会に出たがらないのと一緒なんですって。殺した方が早い、手加減は苦手だ、ってずっと言ってたわ」

「医者としては、苦笑いするしかない台詞ですね」

 

 今でも命尾は思い出せる。

 自分を守ってくれた狭間の動きは、やらなくてよいはずの動きだった。

 狭間自身が自分の命を優先していたら、恐らくそれは実現できていただろう。

 結果として自分は生き延びたし、狭間は死んでしまった。

 

「でもまぁ、相手が生きてさえいるのなら。死ぬまで付き合うだけの話です」

 

 救急外来(ER)としては、命尾は若手のド新人だ。

 周囲はベテランばかりで、必死に食らいついている。

 だが救急外来(ER)の性質上、どうしても助けられない命もある。

 だから、患者が死ぬまでは付き合う。命尾なりの割り切りだった。

 

「そうね、生きてさえいるのなら……?」

 

 目的地。

 狭間悠里の墓に寄りかかるようにして、誰かが倒れていた。

 

 高校生、いや大学生の青年か?

 外人だろうか、肩までの綺麗な銀髪だ。モデルのような顔立ちをしている。

 コスプレなのだろうか、昔の貴族みたいな印象の白い服を着ている。

 本物かどうかはわからないが、宝石で飾られた大小の刀も差している。

 だが異様なのは、背中から腹に抜けて貫通している槍のような何かだ。

 そして彼の白い服が半分真っ赤に染まるレベルで、血が流れ続けていた。

 

「あれは? コスプレ? 違う、そうじゃない、救急車を呼びます!」

 

 見た瞬間に命尾が叫び、携帯電話を取り出す。

 財前は思わず青年に駆け寄り、まじまじと見つめてしまう。

 外見的には、何一つ似ているところなんかない。

 でも、何かが。何かが財前を惹きつける。

 

「……とよ、ちゃん……?」

 

 墓石に寄りかかっている青年の目がうっすらとひらき、綺麗な碧眼が見えた。

 風貌に似合わぬ綺麗な日本語にも驚いたが、何よりも彼の台詞に驚いた。

 財前の人生の中で、自分のことを『とよちゃん』と呼んだのはたった一人しかいない。

 財前は、微笑を浮かべながら青年に尋ねた。

 

「……とよちゃんですよ。あなたの名前は言えますか?」

「ゆー、り」

「馬鹿な」

 

 119番緊急通報をしていた命尾が、思わず呟いた。

 

「ちっ、きゅぅ」

 

 何かを言いかけた青年が、血を吐いた。

 それでも何かを伝えようと、呼吸を整えている。

 

「槍のようなものによる腹部刺創、槍は貫通したままです。吐血とチアノーゼを確認、腹腔内出血や内臓損傷の可能性……」

「ち、きゅうがい、せいめい……たい、いきた、さんぷる」

 

 青年が、震える指先で自分の腹を突き刺している槍を指さす。

 その槍の前と後ろには手のような足のような何かがついており、自立移動が可能にも見える。

 それどころか、槍が時折身じろぎをして、青年に苦痛を与えているようにも見える。

 

「……検疫法に基づいた感染症調査の要請、最低でも無菌室の準備を!」

「きみは、あのこ、か。おおきく、なったね」

 

 真っ青な顔で、それでも青年は命尾に向けて笑った。

 わかる。直感できる。この青年は、あの人だ。

 狭間悠里さんだ!

 

「財前さん、俺はひとっ走りAEDを……いや、警察? 生きた地球外生命体のサンプルなんてどこに連絡すればいいんだ、JAXA、理化学研究所、それとも文部科学省!?」

「こちらで警察を通じて全てに声をかけさせます。AEDの確保お願いします」

「……とよ、ちゃ」

「はい。とよちゃんですよ」

 

 財前豊子は、学生時代を思い出しながら青年の手を握った。

 青年はうっすら笑うと、意識を失った。

 そんな青年をあざ笑うかのように、青年の腹を貫く手足の生えた槍が蠢き、青年に苦痛を与えるのが見える。青年が、意識を失いつつも刺激で呻く。

 

「……JCSⅢ-200、とにかく早く来てくれ、頼む!」

 

 心肺停止(エイシス)にだけはなってくれるなよ。

 そう祈りながら、命尾は寺の住人にAEDの場所を聞くべく、境内の全力疾走をはじめた。

 

 

 * * *

 

 

命尾(めいお)君、ちょっと」

 

 緊急手術を終えた老齢の外科医が、命尾(めいお)を呼ぶ。

 

「どうしました?」

「彼はどこの未来人なんだい」

「……未来人? 貴族のコスプレをしていたのはわかりますが」

「JAXAと理化研と文科、全部乗り込んでくる。情報が漏れればNASAどころか世界が動く」

 

 老齢の外科医は、頭をかきながらため息をついた。

 

「彼の縫合はした。輸血もした。その後の回復速度が異常すぎる。血液検査を含めて洗い直した結果がコレだ。いいか、絶対に表に出すんじゃないぞ」

 

 外科医は手持ちのタブレットを操作する。

 タブレットに出た画面を見て、命尾(めいお)は驚愕する。

 

「細胞修復が可能なナノマシン!?」

「今の最新技術でギリギリ確認できた。他にも機能があると推測されているが、これ以上の分析は専門の調査機関の協力が必要だ。彼の血液や髪の毛のサンプルがあるだけで日本の技術力が何十年、いや何百年加速するか見当もつかない。例の地球外生命体のサンプルとやらにしたって、彼の意識が戻り次第、争奪戦になるだろうよ」

「……とはいえ、彼は……狭間さんは、財前さんが」

「そう。財前グループが全力で守ってる。24時間体制でSPが病室を守ってるとか、どこの政府要人だ。多額の寄付金とやらで院長を含めて誰も動かない、動けない」

 

 休日返上で働いていた命尾(めいお)は、思考放棄したくなった。

 

「コスプレじゃなくて、本物の可能性があるってことですね、あの服は」

「年代測定をはじめ、あらゆる検査を望まれるだろうが……私物である以上限界はある。ただ、抜け道は幾つかある。たとえば、手術時に切り裂かざるを得なかった布のサンプルとかね」

 

 ビニール袋に包まれた、血塗れの服の破片を外科医は胸ポケから取り出してみせた。

 

「切断用のハサミが、幾つも廃棄処分になっていた原因ですか」

「なんだいこりゃ。どこの防弾チョッキだっていう話だよ。中世の貴族がこんなもん着ててたまるかってんだ」

「オークションにでもかければ、大金持ちになれそうですね」

「もうどこかに漏れてるさ。看護師の誰かが欠片を持って行った」

 

 命尾(めいお)は、深いため息をついた。

 

「これは、荒れるなぁ……」

 

 

 * * *

 

 

 警察は歯ぎしりしていた。

 

 身元不明、戸籍も住民票も確認できないイケメンの外人男性が、生きている槍状の地球外生命体に襲われたという。

 どこの映画の話かと警察は思ったが、『生きている槍状の地球外生命体サンプル』とやらがガチで、JAXAと理化研と文科をはじめとして色んな機関が一斉に動いている。

 宇宙人はいたらしい。でも宇宙人に対して何かをするのは警察の仕事ではない。

 そういうのは専門家に投げるとして、問題はそのイケメンの外人男性とやらだ。

 

 まぁ、外国人なら出入国記録を当たれば一発だろう。

 密入国なら不法滞在で引っ張ってから事情聴取すればいいと考えていた警察は、弁護士からの連絡にぶっとんだ。

 

「記憶喪失診断書ォ!?」

「はい、財前グループの顧問弁護士が直接動いています。記憶喪失と診断された仮名・狭間悠里氏は地毛が銀髪のただの日本人であるとのこと。半年後に家裁で就籍許可を申し立て、就籍許可審判書を入手し、役所で就籍届と共に提出して戸籍と住民票を入手する予定なので、外国人ではなく記憶喪失の日本人として扱って欲しいと弁護士が」

「地毛が銀髪で碧眼の日本人とかいてたまるか馬鹿野郎!」

「あとは教育委員会が『義務教育終了相当』と認めれば高校生になれます」

「正攻法で来やがってェ!」

 

 この『医者からの記憶喪失診断書→半年経過→家裁で就籍許可申し立て→就籍許可審判書を入手→役所で就籍届提出』は、仮に異世界から美少女を連れてきたとしてもガチで日本人として戸籍と住民票を入手できてしまう。

 異世界から美少女を日本に連れてくることに成功した時は、是非参考にしてほしい。

 

 

 * * *

 

 

 理化学研究所。

 看護師からこっそり買い取った、『地球外生命体に襲われた青年が着ていた服のサンプル』を分析していた研究者は、難しい顔をした。

 

「二層構造というか、上手に組み合わせているというか。一つは2023年に論文が出ている高強度多孔質ゲル材料とほぼ同質の糸で織られた布です。もう一つは完全にお手上げというか、完全に地球上の物質ではないです。タンパク質分子がβシート構造をしていて、スピドロイン、水和リン酸二水素コリン、水分蒸発に伴う固化の痕跡が確認されたのでクモの糸に限りなく近いものですが、ナイロンやフロロカーボンの倍近い耐荷重を誇っています……なんなんスかこりゃ」

「年代測定は?」

「作られたばかりですよ、二ヶ月経過してません」

「『生きている槍状の地球外生命体サンプル』も欲しいところだが……」

「JAXAと殴り合いになるでしょうね」

 

 主任は、ため息をついた。

 

「ウチの予算、そんなに無いぞォ?」

 

 

 * * *

 

 

 ユーリが病院のベッドで目覚めた時、ユーリの手を握ったまま寝ている女性が傍らにいた。

 女子大生時代から約18年が経過した、財前豊子(とよこ)だ。

 やっぱりワンレングスが似合うなぁ、とユーリは嬉しくなる。

 

「……とよちゃん」

 

 ユーリが呼びかけると、女性はゆっくりと目を開き、微笑んだ。

 

「はい。とよちゃんですよ。悠里君で、合ってますか?」

「うん。今の僕は、カタカナでユーリなんだけど。この際どっちでも」

「一人称も、俺から僕になっていますね」

 

 財前豊子は、悲しそうな顔をした。

 

「悠里君、18年前に貴方を殺すよう手配したのは、私の父親です。刑務所には叩き込んだし、絶縁もしたし、会社も何もかも全部奪いましたが……それでも。ごめんなさい」

「とよちゃんが謝ることじゃないよ……ああ、でも。あの時の小学生の彼、無事だったんだね。立派な大人になってて、本当に良かった」

「……目覚めたばかりの悠里君にこんな事、言いたくないんだけど。例の『生きている槍状の地球外生命体サンプル』について、譲って欲しいって色々な所から言われてて。今は悠里君が寝てるからって断ってきたのだけれど、モノがモノだから断り切れない。悠里君は、どうしたい?」

「今は、西暦何年?」

「2043年」

「僕が着てた服とか、装備とか、全部くれって言われそうだ」

「新幹線どころか、筑波からヘリコプターで飛んできた人達までいたわ。はいこれ、彼らの名刺」

 

 宇宙航空研究開発機構、理化学研究所・情報統合本部、理化学研究所・生命医科学研究センター、文部科学大臣補佐官、科学技術・学術政策局政策課専門調査官、その他、なにか色々凄そうな肩書きが書かれている名刺の束がユーリの脇に置かれた。なんかすごそうだなーという感想と、乾いた笑いしかユーリは浮かばない。

 

「着ていた服に関しては、穴も空いてたし血だらけだし、渡して良いものなら取引材料にしちゃっていいと思うけど」

「わかった。取引を望んでる人達、明日まとめてここに呼んでよ。どうせ暫く入院だろうし」

「悠里君の回復が早すぎるって、医者が驚いてたわ」

「理由はあるんだけど、言いたくないなぁ……」

 

 ユーリが苦笑すると、財前豊子も苦笑した。

 

「しばらくは居られるの? 一応、日本国籍の取得手配を進めてるけど」

「身体を治して……リハビリをして……取引が終わったら……旅立つと思う」

「悠里君。とよちゃんは、これでも大会社の社長で、汚い大人になってしまいました」

「とよちゃん?」

 

 財前豊子は、真剣なまなざしでユーリを見つめる。

 

「私を、シングルマザーにできますか?」

 

 ユーリは、苦笑する。

 

「狭間悠里は、無精子症だから無理だった。でも、今の僕なら……可能だよ」

「結婚は諦めていたけれど。子育てには興味あったの」

「そっか……たまにでも戻ってこられるのなら、戻りたいんだけどね」

「そんなに遠いの?」

「うん、ちょっと遠い。そう簡単には行き来できない」

 

 隣り合い重なり合った平行宇宙間ぐらいの距離がある。 

 

「そうだ。ネット検索して欲しい単語があるんだけど」

「なぁに、言ってみて」

「織津江流古武術。道場があればそこも」

 

 財前豊子は、鞄からタブレットを取り出し、手慣れた様子で操作する。

 

「……道場もあるみたいだけれど、新聞記事の方が優先表示されたわ。25年以上前に、某大学理学部生物学科の生徒四名が全員行方不明になって、その中に織津江大志さん(22)がいた。彼は織津江流古武術の跡取り息子なので、関係者が懸命に捜索活動をしている……はい、これよ」

 

 渡されたタブレットに、大昔の記事が表示されている。

 そこには四人が神隠しのように行方不明になった記事と『栗結大輔さん(23)、織津江大志さん(22)、芸鋤ビエルさん(22)、訛葦笛地さん(21)』の顔写真も掲載されている。

 芸鋤ビエルさん(22)は、あの世界じゃ速攻でモンスターに殺されるか、亜人に拉致られて孕み袋確定なので、どうにか無事に生き延びていて欲しい。

 

「退院したら、織津江流古武術の道場に行ってみたい。あと、茨城県の鹿島神宮にも」

「鹿島神宮?」

「除災招福の御祈祷。あとお守り買ったり」

「外見はどう見ても外人さんなのに、中身は根っこから日本人ね」

 

 財前豊子は、恐る恐るユーリに尋ねた。

 

「……これだけは聞いていい? 悠里君は、どこかの国で生まれ変わったの?」

「とよちゃん、異世界転生って聞いたことある?」

「異世界転生!?」

「長い話になるんだよ、これが」

 

 ユーリは肩をすくめた。

 

「どれだけ長くても、全部聞くわ。教えて?」 

 

 その日ユーリは、消灯時間まで、とても長い話をすることになった。

 財前豊子にとって、その話は嘘でも本当でもどちらでも良かった。

 もう一度、狭間悠里と出会い、話せている奇跡。

 その事実だけで、墓参りに通い続けた長い年月が報われる気がした。

 

 

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