ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第129話 原作時間軸・ゆりこちゃん

 

 聖教会のアイギス支部たる教会。

 謎の白い異形達の襲撃をなんとかしのぎ、結婚式関係者が大量の怪我人と死者に対応し。

 街の外ではモンスター・スタンピードにより、大量のモンスターが白い異形達と戦い勝利。

 

 アイギスの外壁に突進してきたモンスターもいたが、アイギス内の白い異形達を全滅させた瞬間にアイギスに興味を持たれなくなった。

 一部外壁破損だけで済み、アイギスの防御力にそう変化はない。

 アーク大司教は大量出血というより鎖骨骨折がわりと洒落になっておらず、最低一ヶ月は安静、骨の癒合まで三ヶ月、半年から一年は走ったりすることを禁ずる、という診断結果が出た。数ヶ月間は三角巾をしたまま片手生活が確定である。

 

 とにかく白い異形達との戦いの被害は決して軽視できるものではなく、聖騎士や教会兵達には大多数の死者と重軽傷者。

 侯爵軍は当主のユーリが行方不明という、散々な結果だった。

 

 教会内部に血の匂いと死臭が漂う中、ユーリちゃんであってユーリちゃんではない彼女が何気なく放った一言により、それを聞いた全員が戦慄した。

 

「そういえば、嘆きの街のヒュドラはどうしたのですか? アレをきっかけに沢山死ぬから、私は随分と助かったのですが」

 

 女侯爵(マーキオネス)ユーリは、あまりに命に無頓着すぎる。

 旦那様のユーリちゃんは、可愛い。

 女侯爵(マーキオネス)のユーリちゃんは、綺麗。

 

 それはともかく、ちょっとこれは話を聞く必要があるぞ、と侯爵家の嫁一同は思った。

 

「ええと、貴女のことをどう呼べば良いのかも含めて、一度アイギス港街まで来ていただけませんか? 結婚式の中断による後始末もそうですが、どうも情報のすりあわせが必要そうですので」

 

 侯爵家の事実上トップであるセスレが、困り顔で女侯爵(マーキオネス)ユーリに相談する。

 女侯爵(マーキオネス)ユーリはセスレを見て驚き、じろじろと眺める。

 

「セスレさん? ですよね?」

「……はい、そうですけど」

「オーク帝国に攫われたところを、男の私に助けられたとか?」

「いえ、そもそも前線に出ていないというか……」

「はあ……私の時とは、随分と流れが違うのですね」

 

 アロを除いたジャンパーティと別れ、侯爵軍はアイギス港街まで一旦引き上げることになった。

 女侯爵(マーキオネス)ユーリは、アイギスを一歩出た瞬間から驚く。

 

「水力車両!? これでさらにアイギス港街なんてものまで作ったのですか」

「ユーリ様は、二つ名に発明家(インベンター)があるぐらいですので」

 

 バーチェの説明に、彼女は首を傾げる。

 

「発明家? アロさんの二つ名ではなく?」

「えっ? 私はSのE級、写実、調査官(インヴェスティゲーター)で、発明は旦那様任せです」

「噛み合わないなぁ……」

 

 噛み合わないのはこっちの話だよ、とユーリの嫁全員が心の中で思った。

 

「そういえば、ユーリお姉様、じゃなくて、ユーリ女侯爵さんのこと、どう呼びましょう?」

 

 マユリが尋ねると、うーん、と女侯爵(マーキオネス)ユーリは小首を傾げた。

 

「マーキオネス・ユーリで省略してマユリとか? マユリさんを殺すことになりますが」

「ひっ」

「皆さんが私を『ユーリちゃん』とはなんとなく呼びたくないと感じている空気ぐらいは、わかります。ただ、私の世界では()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので、新鮮なんですよね。ユーリ女侯爵、略して『ゆりこちゃん』はどうでしょう。女侯爵ユーリの省略で『おゆりちゃん』だと、マユリさんと紛らわしくなるので、やはりマユリさんを殺した方が手っ取り早く――」

「『ゆりこちゃん』にしましょう! ねっ! みんなもそれでいいよねっ!」

 

 マユリが必死に、周囲に同意をとる。

 愛称と名前が被った程度で殺されてはたまらない。

 

「『妹のユーリ』の冒険者証を使い回すんなら、対外的には『妹のユーリ』で、内輪では『ゆりこちゃん』ってことやな……ま、なんとかなるやろ」

 

 疲れたようにバトがため息をつくと、ゆりこちゃんはバトをジロジロと見た。

 

「……なんや?」

「いえ、私の世界だと貴女は弓王ボーゲンと結婚して、ミルヒさんとカカオさんを連れて魔術師の森に行ってしまったので……」

「ウチが? アホンダラの童貞王ボーゲンと結婚? 無いわー。無いな(マジトーン)。ないない。待ちぃ、それやとミルヒとカカオは誰と結婚したん」

「皆さん、ああ、ボーゲン・バト・ミルヒ・カカオの四名のことですが。皆さんと共に魔術師の森に行ったB級パーティ『弓の会』の誰かか、魔術師の森に住んでいるゴブリンの誰かと、でしょうね。魔術師の森には他に男性がいませんから、彼女達に選択肢なんて最初から無いですよ」

「えっ」

「マジで」

「弓王ボーゲンは既にバトさんとゴブリン娘の二人を嫁にしていますから、そこへさらにミルヒさんとカカオさんが割り込むのは難易度が高いでしょう。弓王ボーゲン同様に、弓にしか興味が無い弓の会の男相手に腰を振るか、人間の女は総じて孕み袋として顔の区別すらつかない男ゴブリンに腰を振るか、あるいは独身のまま過ごすか、森を出て人間の街に帰るか……そもそもボーゲンが街を離れる原因になった聖教会は私が皆殺しにしたので、山奥に隠れ住み続ける必要は特に無いと思うのですが、その情報をわざわざ私がミルヒさんとカカオさんに伝える義理は無いので……」

「お願いします伝えてあげてください!」

「別世界の私にも幸せになって欲しい!」

 

 ミルヒとカカオが、ありがとう旦那様、と空に向かって祈祷をはじめた。

 ゆりこちゃんは、アロを生暖かい眼差しで眺めはじめた。

 アロがびくっとして、ゆりこちゃんに尋ねる。

 

「な、なんですか?」

「ああ、いえ。アロさんが、男の私と結婚するルートもあったのですね。てっきりアロさんは、グラスさんが一番苦手とする方と結婚なされたと思っていたので」

「……私が、一番、苦手とする方?」

 

 グラスが首を傾げる。

 

「はい。要は自分の父親よりだいぶ年上の、でっぷりと太ってて身体も大きく性欲も旺盛な、おじいちゃん伯爵。それが私の世界のアロさんの夫で、アロさんは第九夫人ですね」

 

 聞いた瞬間に、アロとグラスが青ざめ、嫌そうな顔をする。

 ゆりこちゃんは不思議そうに首を傾げる。

 

「頬を染めて『旦那様をお慕いしてる』と私の世界のアロさんは言っていましたが?」

「その世界の私に……介錯をしてあげてください、ひと思いに……」

「はぁ、かまいませんけど……」

 

 アロがガンギマリの瞳で、ゆりこちゃんに訴え出た。 

 平行宇宙のアロの命が、風前の灯火になった。

 

 

 * * *

 

 

 アイギス港街、セルヨーネ侯爵家邸、その応接間。

 皆でひとっ風呂浴びて、着替えて、一人を除いて全員がぐったりしている。

 ユーリの嫁勢を元気づけようと、子供達がやってきて、きゃいきゃい騒ぎ始めた。

 

 その様子を、複雑そうな眼差しでゆりこちゃんは眺めていた。

 気を遣って、炭酸ジュースを渡しにセスレが訪れた。

 

「……ゆりこさん」

「『ゆりこちゃん』」

「……ゆりこちゃん」

「はい、セスレさん。なんでしょう?」

 

 炭酸ジュースの入ったグラスを受け取りながら、ゆりこちゃんが答える。

 

「元気のない顔をしていたから、気になって」

「ああ、そう難しい話ではありません……物心ついた時から、私は実の兄弟にさえ身体を狙われ続けました。学校に行けば、いつの間にか高位貴族と結婚したことになっていました。王族すらも無理矢理に私を娶ろうとする。聖教会の神父であれば多少は禁欲的なのではと思い、教会で神に祈りを捧げれば『動物みたいな声を出してマジイキしまくる経験に興味はありませんか? 結婚しましょう』と神父にくどかれる。人間にうんざりしたので、それなら亜人側に……と亜人に近づけば、彼らにとって私は孕み袋でしかなく、そうでなくとも挨拶代わりに乱交しようと迫ってくる。気がつけば、私は男性恐怖症気味になっていました。……つまり子供とは無縁だったのです。男として産まれていればこんな人生もあったのかと、この部屋の景色を眺めていました」

 

 そう言って、ゆりこちゃんはグラスの中の炭酸ジュースを飲む。

 飲んだ後で、しげしげとグラスを眺めた。

 

「こんなものを、町ごと作ってしまうなんて……相当テコ入れしたのでは?」

「ぶっちゃけると、世界の経済を握っている感じ」

「アホですか、男の私は……でも、それもまた一つの可能性だったんでしょうね」

「アルコールカクテルも色々ありますよ。飲みますか?」

「ええ、お願いします。飲みながらでも、情報をすりあわせたいです」

 

 真面目な話になるので、母親達が子供達を退出させはじめた。

 その光景を見ながら、ゆりこちゃんは微笑ましげに遠い目をしていた。

 

 

 * * *

 

 

 ドラゴンが縄張りを変えたために、嘆きの街のそばに遺跡にヒュドラが住み着いた。

 その遺跡を、そうと知らずにジャンパーティが訪れ、メンバーのクロスが負傷する。

 なんとか逃げ帰りヒュドラのことを報告するも、ヒュドラは街のそばまで追ってきた。

 嘆きの街の連合国軍が迎撃に出るも、500人が死亡(兵士497人、冒険者3人)する。

 

「……嘆きの街の連合国軍が全滅してしまったので、減った兵士を他の街から呼んだ兵士で補充した隙に、【死の森】前要塞が白面金毛率いる亜人達に奪われ、街に住んでいた人達は殺されるか、虜囚となりました。それが私の世界で起きた出来事です」

 

 淡々とゆりこちゃんが説明していく。

 彼女の世界ではヒュドラと戦う前に聖教会軍は勇者ごとゆりこちゃんが皆殺しにした。

 さらに言うと、亜人に味方しようと【死の森】前要塞に行ったら『死ぬか孕み袋になるか選べ』と挨拶されたので、数字的な意味で半殺しにしたら『仲直りのセックスしようぜ! お前オナホな!』と言われたので数字的な意味で全殺しにした。

 原作とは流れが違うどころの話ではない。

 

 話を聞いて、代表して第一夫人のセスレが受け答えをする。

 

「【死の森】前要塞は、ユーリの計画でも亜人に取らせる予定だったの。絶滅戦争を命じる上からと、復讐心で後戻りできない下から、その両方を削る計画の一環として。その後の流れにもよるけれど、予定として嘆きの街は双方の交流場所として機能させて、人類はアイギスと名のつく街を維持するのみに留める。後は、生きた深き不可知の迷宮を亜人と共に攻略して、亜人と手をとって共に生きていく……そんな流れ」

「……なるほど、大体わかりました。スタート地点は同じでも、性別が違うだけでこうも変わるのですね。私には補佐のメイドすらいませんでしたから」

 

 エルフ耳のバーチェを見て『エルフ、いたんだ……』とゆりこちゃんが呟いた。

 勇気をだして、バーチェが問う。

 

「アラクネの糸はともかく、アラクネ布は現時点ではユーリ様しか使用を許されていません。ゆりこちゃん様は、その服をどう入手なされたのですか?」

「ああ、これですか」

 

 ゆりこちゃんは、着ていた服をつまむ。

 

「多孔質ゲル……というか、私の発明品の全ては私のためだけに作りました。当然ですが、特許は出していません。男の私がやったような『皆のための発明』なんてやりたくありません。その上で、アラクネ女に対して『私に皆殺しにされるか、私とアラクネ布の取引をするか好きな方を選んでください』と言ったら、彼女達は無料でアラクネ布をくれました。だからこれは、私の手縫いの自作です」

「そ、そうですか」

「【死の森】前要塞に駐留していた亜人を全殺しにした直後の話し合いでしたので、死の森とは大変距離が近く、楽で良い取引でした」

 

 それは取引と言わないのでは。

 という台詞は、誰にも言えなかった。

 

「それより……どうするのですか? 【死の森】前要塞を亜人に渡すつもりだったのであれば、男の私も連合国軍500人を見捨てる予定だったのではと思うのですが」

「それは……」

 

 セスレがちらりと、セイを見る。

 腕に包帯を巻いているセイは、暗い表情を見せる。

 

「……ぼくは、全員見捨てるとかじゃなくて。少しでも多く、出来れば半分ぐらいは命を残せないか、ってユーリ君に相談してた。でもユーリ君は困ってた。『軍隊の指揮権は、そう簡単に他人に渡すことはない。彼らが目の前で緩慢な自殺をしていくのを、見守るだけしかできない』って言われちゃった」

「正論すぎて、付け足す言葉がありません。他には何か?」

 

 記憶力の低いセイだが、このやりとりは正確に覚えていた。

 ゆりこちゃんの追求に、マユリが答える。

 

「中央大陸の工作結果次第で、セイの希望を叶えられる可能性はあるって言ってた。大司教様が、第16代教皇になることに成功すれば勝ち確だから、そうなれば死人を大きく減らせる可能性がでてくるって。でも大司教様、全治三ヶ月の怪我を負っちゃったから、どうなるんだろ?」

「白面金毛と手を組むどころか、こちらの命令を聞かせるとか、男の私は何をどうしたというのですか……まさか、身体で籠絡とかしてます?」

 

 嫁勢が目線を逸らしたので、ゆりこちゃんが慌てた。

 

「えっ、なんで目をそらされるんですか!?」

「ん。私の前にキスしてた。でも私の方が沢山キスしたから、私の勝ち。むふー」

 

 すぱーん。

 

 むふってるカタナの頭を、軽くバトが引っぱたいた。

 起こりの無いツッコミという、無駄に高度な技術のツッコミだった。

 

「ユーリちゃん状態で一方的にキスされてたので」

「ノーカンってことで一つ、お願いします!」

 

 ミルヒとカカオが握りこぶしで力説する。

 

「……はぁ。話だけ聞いてると、ただのハーレムじゃなくて、男も墜としているのですね。ジャン君、ボーゲン、白面金毛……まさかジャンパーティのクロス君も!?」

「いえ、クロス君はジャンパーティではないです。クロス君には既にエロモーブさんという彼女がいます」

 

 レピアが顎先に人差し指をあて、思い出すように語る。

 

「えええ……てっきりレピアさんがクロス君の彼女なんだとばかり」

「一応、私はユーリさんの妾候補です。許可も貰ってます」

「なんなのですか、男の私は。人間女性だけで12人、アラクネ女1人? ジャン君に下げ渡す前にナギさんウォルさんも抱いていたというのであれば、ナァルさんとメキシさんでコンプですね」

「メキシさんが誰なのかはわからないけど、ナァルちゃんはジャン君のものだから絶対手出しはしないって言ってたわ」

 

 セスレの発言に、ゆりこちゃんが苦笑する。

 

「私の世界では、セスレさんとクコロさんとメキシさんは、女騎士として基地防衛している時にオーク帝国に襲われて、そのままみんな虜囚の身となりました。だから貴女も含めた三人は亜人達に毎日のように強姦(レイプ)されて、何度も膣内射精(なかだし)されていました。セスレさん、貴女は女騎士の道を選ばなかったようですが、それで正解だったと思います」

 

 そう言われて、セスレが懐かしそうな、遠い目をする。

 

「まだ学生の時にね、ユーリに言われたことがあるの。亜人に敗北し、虜囚となり、陵辱される。連中の子を孕み、乳を与えて育てる。そのまま死ぬまで人間牧場に住み続ける。女騎士になった時の『あり得る可能性の一つ』について、ちゃんと考えたことはあるか、ってね。私の場合、親の意向とか、自分が公爵令嬢だったこととか色々絡んでて、女騎士になる道しか選択肢がなかった。でも、侯爵家がユーリに対して強引に長女を押しつけるという横紙破りをしてきたから、子爵家だったユーリは公爵令嬢の私を側室にするという手段を実行することができた。……横紙破りの影響で婚約が白紙になったグラスちゃんには本当に申し訳ない話ではあるのだけれど、私としては本当に助かった。私はいらない子、だったから」

「セスレさん……」

 

 グラスが、悲しそうな顔をするセスレを心配する。

 ゆりこちゃんは、肩をすくめた。

 

「なんにしても、聖剣の勇者様の意向次第ですね。連合国軍500人を見捨てるのか、少しでも助けたいのか。ヒュドラを放置していれば良いという話になるかもしれませんが、遺跡は嘆きの街から案外近いです。ジャンパーティじゃない他の冒険者が見つけてしまう可能性もあります。そうなれば、結論を長引かせて放置していても勝手に事態は進行するでしょう。聖剣の勇者様がなにをどうしようとも500人は死ぬことになります。【死の森】前要塞も同様に沢山死ぬでしょう。……どうですか、聖剣の勇者様。割り切れそうですか?」

「嘆きの街の連合国軍が全滅した後、聖教会兵は……」

 

 セイが、ゆりこちゃんを見ながら悔しそうな顔をする。

 ゆりこちゃんは、そんなセイを見ながら苦笑した。

 

「……そう。聖教会がどうなるか、聖剣の勇者様は私から読めないんですね。きっと、なんらかの防衛機構が働いているのでしょう。聖教会がどうなるのか、私の推測を言うことは簡単ですが、それでは意味がありません。皆さんが決めた方針通りに私は動きますので、どうか指示を出していただければと思います」

「あの、ゆりこちゃん様。セイさんに塩対応なのは、何故なのですか?」

 

 おそるおそる、リリィが尋ねる。

 ゆりこちゃんは、ため息を一つ。

 

「ごめんなさい。ただの八つ当たりです。セイさんもカタナさんも勝ち筋が見えなかったので、私は二人に勝つ為の思考を放棄してしまったのです。だから私の世界での二人は、剣ではなく魔法で無理矢理殺しました。最初に言いましたが、男の私の人間関係を壊すつもりはありませんので、少々時間をいただければ普通に接することはできると思います」

 

 冷静で真面目なゆりこちゃんだったが、一瞬、表情に悔しさが混じった。

 セイはゆりこちゃんの目を真っ直ぐ見ながら、言ってのける。

 

「ユーリ君は15年以上、ぼくとカタナちゃん相手にどう戦うかずっと考えてた。15年以上、ぼくとカタナちゃんに片思いしてくれてた。何度も殺して何度も殺されたって言ってくれた」

 

 ガタッ。

 凄い勢いでカタナが立ち上がり、むふー、とドヤ顔をした。

 

「ん。私はセイより強くて愛されてるミステリアス系」

「おう天然娘、座っとれ」

「はい……」

 

 バトに言われ、すごすごとカタナが座り直した。 

 ゆりこちゃんはゆりこちゃんで、目の前のテーブルに突っ伏した。

 テーブルに頭を押しつけながら、ハイライトの死んだ瞳でぼやきはじめる。

 

「なんなんですか、なんなんですかもう、男の私は……殺し文句どころの騒ぎじゃないです、そんなの惚れるしかないじゃないですか……私だってそんな台詞言われてみたい……どうして私の世界にはそびえ立つクソを煮詰めたような男しかいないんですか……」

 

 セスレが苦笑する。

 

「男に襲われすぎて、男性恐怖症気味。同性愛に走っても、仕方のないレベルね」

「ちょっと殺しすぎたと申しますか……殺しすぎて、男女問わずで距離を置かれるようになりまして……恋人以前に友人と呼べる者すら……蜘蛛の巣が張ってる状態なのに毎月生理は来るし……私、結構生理が重くてツラいんですよ、なのに妊娠以前にセックスの機会すら……幸せ……私の幸せはどこに……」

 

 ミルヒとカカオが顔を見合わせて、ニヤリと笑った。

 おもしれーオモチャを見つけた目をしていた。

 

「耐用年数」 

「ごふっ」

「女は若さの先払い」

「げふっ」

 

 テーブルに突っ伏していたゆりこちゃんが、言葉の槍で串刺しにされていく。

 

「行き遅れ処女」

「かはっ」

血の貴婦人 (クリムゾン・レディ)じゃなくてぼっちの貴婦人(ロンリー・レディ)

「おぶぁっ」

 

 白い異形達の誘導弾より高性能な槍が、ゆりこちゃんに刺さっていく。

 昔を思い出したバトは、いたたまれなくなった。

 

「……あんな、ゆりこちゃん。ウチ、20歳まで独身やってん。ユーリに結婚してくれ言われて、最初は一夫一妻にこだわって断ってもうたんや。せやけどちゃぁんと考え直して、妾の話を受けたんよ。……そしたらユーリは、ウチの手を握って自分の顔を触らしてくれた。盲目のウチが音見で見えとんのはみぃんなわかっとるから、だぁれもそんな事せんかったのにな。ウチがその気になれば目潰しだって出来る、でもユーリはウチを信じて、ぺたぺた顔を触るんを許してくれたんよ。嬉しかったなぁ……。そんなウチも、今は二児のママさんや。父親似の銀髪と、ウチに似た金髪の可愛い姉妹やで。だからな、ゆりこちゃん。そのうち、きっとそういう相手が……」

「バトさんバトさん」

「フォローじゃなくてトドメになってます」

 

 ミルヒとカカオが、苦笑する。

 見れば、ゆりこちゃんは顔面蒼白で痙攣していた。

 ゆりこちゃんはガバッと起き上がり、鋭い視線でバトを睨んだ。

 

「バトさん! 貴女は……貴女はねぇ! 私の世界じゃ26歳まで行き遅れだったんですよ! それで、神父達を殺して人里を離れようとするボーゲンさんの嫁に無理矢理なったんです! なのにボーゲンさんとの初夜は、全裸の貴女を見てもボーゲンさんがピクリとも勃たないから、処女の貴女がフェラチオからナニからナニまで全部自分でやることになって! そこまでしてボーゲンさんと一夫一妻の嫁になったはずが、魔術師の森で若いゴブリン娘が乱入してきて結局は一夫多妻になって、毎晩ゴブリン娘を殴りそうになりながらも二人一緒に抱かれてるんですよ! ばーかばーかざまぁみろばーかうわぁんそれでも羨ましい!」

「さ、さよけ……26歳まで行き遅れやったんか……」

 

 バトがニヤリと笑った。

 

「そっちのウチは大変やなぁ?」

「ごふぁっ」

 

 ノーダメージすぎて全然ダメだった。

 そんなゆりこちゃんに、ミルヒとカカオが近づいた。

 

「ゆりこちゃんは旦那様と同じ18歳ですよね」

「私達は16歳です」

「……知ってますけど?」

 

 ゆりこちゃんの強がりに、双子がトドメをさす。

 

「私達、一児の母です。よろしくね!」

「私もミルヒも、子供は男の子でーす」

 

 ぱくぱくぱく。

 餌を求める鯉か何かのように、ゆりこちゃんは何度か口を開閉した。

 やがて、座った目で手元のアルコールカクテルを一気飲みすると。

 

「おかわりお願いします」

 

 ごく。ごく。ごく。

 

「おかわり」

 

 ごく。ごく。ごく。

 

「おかわり」

「あの、ゆりこちゃん様、ペースが早すぎるのでは」

 

 バーチェが心配そうに声をかける。

 顔を赤くしたゆりこちゃんが、低い声で言う。

 

「貴女もお母さんとか言いませんよね」

「一児の母です。金髪碧眼の女の子」

「……おかわりぃ!」

 

 彼女の要求は、止まらなかった。

 連合国軍500人を見捨てるかどうかの話は、うやむやになってしまった。

 

 

 * * *

 

 

「アロさん! せーざしてくらはい! せーざです!」

「えっ」

 

 べろんべろんに酔っ払ったゆりこちゃんが、アロを呼びつけた。

 アロは驚愕し、周囲を見渡す。

 他の嫁勢は全員、アロに『ごめん!』というジェスチャーをしていた。

 仕方無く、アロはゆりこちゃんの前で正座をした。

 

「ええと、その……なんでしょうか?」

「アロさん! あなたはなんれあんらものを作ってしまったんれふか!」

「あんなもの?」

「オーバーパワーボウ・ロッドれふ!」(16巻82P)

「作ってないんですけど……」

 

 アロは苦笑いをした。

 彼女の世界での自分は発明家(インベンター)かもしれないが、この世界の自分は記憶描写ができる絵画型S級冒険者『写実』であり、状況図を描ける調査系S級冒険者『調査官(インヴェスティゲーター)』のアロだ。

 発明関係は全て旦那様のユーリにぶん投げしている。

 

「『Instant Legolas』でググればわかります! しゃりんのさいはつめーなんれふよ!」

「……ぐぐる?」

「しかもゆみけーさつが次元の壁を越えて追ってくるやつでふ、わかりますか!」

「……ゆみけーさつ?」

「オーバーパワーボウ・ロッドは命中精度的に非常に問題だし、弓にも負担がかかるし、弓力しか見てないから机上の空論感がすごいんですよ、あんなのまともに(あた)るわけないでしょう、弓力の強弱だけが全てじゃないって何度言えばわかるんですか! 正しく垂直に(あた)るかどうかを全部投げ捨ててるのに『狙いやすさではコンパウンドボウすら上回る』とか寝言ほざいてんじゃねーれふよそーせいしん、聞けこのやろー!」

「はぁ……どうもすみません……」

「あと、ちょうごーきゅーで30くらいとかなぁに言ってんれふかアロさん! そんらにゆみけーさつに殺されたいんれふかぁ! 15ですら強豪校の女子とか国体選手なんれふよ! 20以上は弓具屋ですら特注! 男性でも20以上を正しく引ける人は全体の割合的に少ない(注:ネット掲示板だと統計学を無視して95%ぐらいの人が20以上を正しく引けると主張する)んれふ! Grokに質問してないで弓道部に取材しろぉーl」

「……ぐろっく?」

「ああ! やめて! こないで! 許して下さい弓警察さん! もうヤダぁああ!」

 

 一通り泣きながら喚くと、そのままゆりこちゃんは寝てしまった。

 むにゃむにゃ、と口を歪めて幸せそうな寝顔だった。

 

 

 * * *

 

 

 アロはため息と共に立ち上がる。

 めんどくせー女ですね、この人。

 

 やはり近接。

 弓などおまけ。

 

 あの時、身体に刺さった矢でハリネズミのようになりながらも、あのオークは目的を完遂した。

 死を恐れず戦う気概、見事なり。

 

 『Book 'em!(捕まえろ/追い詰めろ!)』

 

 何度そう叫びそうになったことか。

 ならばあのオークは、『Book 'em!』だ。

 少し言いやすくして、ぼっけもん、と呼ぶのはどうだろうか。

 死を恐れずに目的を完遂する者。 

 

 嗚呼、ならば。

 私は死を恐れずに目的を完遂する者(ぼっけもん)でありたい。

 

 武士道は死狂ひなり。

 刀を持つ者は、死に狂え。

 

 首級(くび)

 あれから私は、寝ても覚めてもそればかり。

 ならば。

 

 『That's my heck, go!(それが私の(heck=hell、無茶な)やり方!)』

 

 さつまへご。

 そうよ、私は首級(くび)をとる。それが私の無茶なやり方(さつまへご)

 

 『That's my heart, oh!(それが私の意思!)』

 

 さつまはやと。

 こっちも言いやすいかもしれない。

 首級(くび)をとる、それが私の意思(さつまはやと)だから!

 

 

 * * *

 

 

 ゆりこちゃんがめんどくせー女なら。

 アロは島津家になっていた。

 

 どうしてこうなった。

 

 

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