ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング! 作:RAP
研究所は無事に完成。さらに言うならもうすぐ入学、聖都行き。
聖都における週末のなんちゃって冒険者稼業も考慮に入れて、こまごまとしたものを研究する指示を出しまくっておきたい、そんなユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息です。
僕は遠方から指示出しだけだし、やりとりは手紙だけだし、学校行ってる三年の間になんとかなればエエやろ。そんなノリで、わりとがっつり研究指示をだしてます。特に冒険者向きのやつ。
日本酒があるんだから、濁り酒に灰をぶちこんで布で濾過する澄み酒で大儲けだ!
勝ったな、ガハハ! とか思ってたら最初から既に澄み酒でした。過去の転生者め……!
清酒チートやるんなら、ついでに味噌とか醤油作っとけよぶっ殺すぞ! おっと本音が。
だもんで真面目にチートを考えました。
皆さんも、異世界に行った際は是非参考にしてください。
転生神様に、翻訳と鑑定と収納チートを貰えればより完璧だと思います。毒無効もいいね。
まず、圧気発火器ことファイアーピストン。
火打ち石とか使ってる世界ですわよ? この世界にしてみれば魔法みたいな技術。
冒険者に限らず一般のご家庭や軍隊の全てをカバー。これは売れるやろなぁ。うひひ。
竹水筒。これは、蓋となる部分にネジ型の切り込み加工をして、蓋を閉められるようにした竹製の水筒。逆さまにしても激しく扱っても水がこぼれない。さらに言えば、蓋を開けた時点で中身の確認が可能。目視で中身の確認が可能、っていうのは結構でかい。冒険者から軍隊まで有効。
除虫菊からの蚊取り線香。
蚊取り線香は「粉末状 → 棒状 → 渦巻き型」と進化していったけど、最初っから渦巻き型ね。
タブの木の樹皮と混ぜてコネコネして成形します。一般家庭、冒険者、軍隊まで有効。
『聖女様からは虫除けの匂いがする』って、「狙撃手」クロス君が原作で言ってたけど。
僕がいる世界線の「殺戮聖女」レピア様は、蚊取り線香の匂いをさせるようになるのかな?
絶対に着手しないといけないセルロースナノファイバー。
水力キャビテーション微粉砕機を使って大量生産に着手したいところだけど、焦らず研究。
なんといっても派生が多すぎる。油紙、強糸、弱糸のベースがあって、そこからやりたい放題。
冒険者や軍隊向けのテントは、早めに発表しておきたいな。
最終的には200気圧さんへ辿り着くための必須技術ツリーなので、大事に育てたい。
竹を利用した武器や防具の研究指示。
武器は、和弓のうち
これは和弓が戦国時代を通して激しく発展進化を繰り返した、その最終形と言えるものだ。
コンパウンドボウの試作。
ごめんねジャン君、アロちゃん。僕は偏心滑車の概念をちゃんと覚えてるんだ。
特許を取る気はいまのところ無くて。最終的には、原作最強級の大弓槍製作のため。
和弓とコンパウンドボウでノウハウを学んでから、大弓槍に着手したい。
現時点の世界技術とセルロースナノファイバーさんを使った防具。
僕の完全な趣味で、
もしかしたら、僕の加護が喜んで、なんかオマケしてくれるかもしれない。可能性って大事。
十文字槍。僕の趣味です。
この世界の槍って、槍の穂と柄の間に、横棒が仕込んである感じなんだよね。
僕的にはなんか気に食わないんで、最初っから刃でよくない? と改造したいのココロ。
トラバサミ。踏むとバネの力で動物の足などを挟んで捕獲する狩猟用の罠。
前世日本だと思いっきり禁止されてる罠です。危険だからね。おっきいのを作ろう!
この「前世で禁止されている」っていうのはとても重要で、前世で禁止事項となっているブツには全てそれなりの理由がある。罠や武器もそう。薬や毒、戦略や戦術の進化もそうだよね。
だからお願いだよ、亜人達。特に白面金毛。あんまり僕に本気を出させないで欲しい。
一応これでも、リミッターをかけてるつもりなんだ。
だってほら、この世界。ジュネーブ条約も、ハーグ陸戦条約も、化学兵器禁止条約も、生物兵器禁止条約も、オタワ条約も締結してないだろう? オークやゴブリン相手に、タスキギー梅毒実験をしたっていいんだ。人類の未来に貢献させてあげられる。
……そういえば、捕虜もいるのに、人類が亜人の言語を研究してないのは何でなんだろ? まさか聖教会が足を引っ張ってる? それとも、亜人に対する創世神の加護?
話がそれた。
牙簽弩(ヤーチエンヌー)。ミニミニクロスボウって名称にした。掌サイズの小さなクロスボウ。原作では大きな弓やクロスボウによる弓力や、一撃必殺の話ばかりなんだけど、これはその真逆。過去の中国において小学生の間で流行した、爪楊枝を飛ばせるクロスボウ。
爪楊枝どころか鉄釘を飛ばして失明者とかだして、余裕で禁止指定されました。
禁止武器は強いのだ。これは至近距離での暗器となりうる。特許なんて出さないよ、僕専用だ。
アランビック蒸留器。
大豆で醤油を作るつもりだけれど、副産物で色々できるから、それ用にね。
大豆は普通に世界にあるので、枝豆ともやしも普通にあります。
フフ……下手だなあ、僕。へたっぴさ……僕が本当に欲しいのは……塩を多めに振った枝豆と、醤油だれの焼き鳥……熱々のホカホカ……それを車
あー。あとこれ! 超大事なやつ!
眼鏡を作ることができる加工技術があるのに、なんで遠眼鏡の類が無いねん!
光通信による連絡は亜人が使ってて、人類は狼煙を使ってる。なお狼煙の暗号は亜人に知られている。アホだね人類。
どちらにせよ、作中では遠眼鏡も、双眼鏡も、望遠鏡も、一切確認されてない。
……亜人に盗まれたとして、どうせ亜人の方が目の性能が上なんだし、遠眼鏡ぐらい作ろうぜ?
* * *
というわけで、入学前の最終仕上げというか。
僕は今、雄大な山々の麓、草があんまり生えてない岩場、そういう場所に居る。
「ユーリ様、これ……ですよね? お探しのもの」
「残念ながら、温泉の類はありませんでした」
心配そうに、アイリスが声をかけてくる。
バーチェは淡々と告げてくる。
僕は念願の硫黄を目の前に、しかし真剣に悩んでいた。
噴煙の類はほぼ無い。腐った卵の臭いは薄い。つまり、火山性ガスがほとんどない。
だからこそ呑気に硫黄のそばに近づけているともいえる。本来なら即死級だ。
ここ、つまり火山というか、硫黄を探すのにかなりの時間を消費することになった。
硫黄ついでに温泉があればと呑気に構えていたが、全然見つからなかったのだ。
アイダ領を中心とした広範囲の調査エリア全体で見ても、活火山的なものがほとんどない。
休火山ばかりで、「火山を探して」という僕の指示が単純に悪かったというのもある。
「……ああ、ごめんよアイリス。これで合ってる。ずっと探してたやつだ。これが大量にあると、革命がはかどっていた……んだけどね。思った量は取れそうにない。狭い範囲の身内というか、ぶっちゃけ僕達だけで使うことになると思う」
硫黄があれば、ファクチスを作ることができる。
ファクチスとは、わかりやすく言えばゴムの代用品だ。つまりチート。
タイヤとか、靴とか、シーリングとか、応用範囲は広い。
対サンダードラゴン用に絶縁体として鎧に仕込んでおいてもいいかもしれないが、サンダードラゴンは高電圧みたいだし、絶縁破壊という現象が発生して役立たずになるかもしれない。
ともあれ、ゴムの木の入手が絶望的ないま、優先的に探していたブツの1つ、だったんだけど。
「……ユーリ様?」
バーチェが心配そうに顔を覗いてくる。ああ、ごめんよ、バーチェ。
でも気になるんだ。気になって気になって仕方が無いんだ。
仮にも硫黄がある場所であり、そういう雰囲気の景色なのに!
前世の箱根旅行で大涌谷の黒い温泉卵を食べた経験があるからこそ、なおのこと感じる。
……熱が。熱が無い。周辺に温かみが無い、とでも言えばいいか?
うん、そうだ。思い出せ。僕がこの世界に生まれてからの12年を。短くも長い12年を。
風呂に大喜びする皆を。妙に涼しい夏を。呼吸するように薪を用意していた皆を。
スピンオフでも、織津江パイセンは寒さ対策に必死だった。突然の雪とか。
軽いそよ風が吹いて、僕の髪の毛を揺らす。涼しく、心地よい風だ。
ぞくりとした感覚。僕の背中を、冷や汗が伝う。
そうだよ、熱が足りない! この世界には! 熱が全然足りてないッ!
クソが。クソが。クソが。
僕は内心で三回呟いてから、硫黄を研究所に運ぶよう、指示を出した。