ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング! 作:RAP
「確認しました。遺体はB級パーティ『サドンデス』のものです」
「そうか……」
「化け物がいます。明らかにドラゴンよりでかい」
「こっちはオークとレッドキャップの死体です」
「戦闘痕が無い。サドンデスとまとめて殺されたか」
「よし。決して三人以上固まらず、それぞれ自由に動ける距離を保て!」
教会軍の後ろを、連合国軍が続いていく。
全員の先頭に立つのは、馬に乗った女性が五人。
セイ、マユリ、リリィ、レピア、カタナだ。
「見ろ、聖剣の勇者様だ!」
「
「聖少女レピリリだー!」
「『剣姫』カタナまでいる!」
「勝てるぞ、俺達は!」
そして、最後方。
神父服にギターを背負った、
長い銀髪をなびかせて場を睥睨していたが、突然大声(魔法加工つき)で叫んだ。
「ヒュドラの投石を確認ーッ! 各自、突撃せよ! 投石の内側に突入!」
「任せて!」
「ん」
馬上のマユリとカタナが応えるように、先頭で併走する。
マユリの後ろをセイとリリィ。
カタナの後ろにレピアがつく。
「……そのまま! 速度維持、まっすぐ!」
ザァァ……
多量の石が、一斉に降ってくる音が聞こえてくる。
ガィィンッ!
キィンッ!
マユリがラケットメイスで。
カタナが刀で、それぞれ弾いた。
「スリルあるねー!」
「余裕余裕!」
「ばっちし」
セイが青ざめながら叫ぶ。
マユリが笑顔で叫ぶ。
カタナがドヤ顔をする。
なお、馬上の女性陣を追いかけると自動的にパンチラ、もとい、パンモロが拝めるので、聖騎士をはじめとした教会兵達は黙々と突撃している。途中何人かがヒュドラの投石弾幕の前に即死していったが、恐らく笑顔のまま死んでいる。
原作に加えて見えそうで見えない見えるかもなレピアや、勇者一行同様パンモロ余裕でしたのカタナまでいるので、男共の突撃に遠慮がない。
パンモロが馬で遠のいていく? 問題無い! 鎧を着たままでも全力疾走してみせる!
あの並んだパンモロのためになら、俺達は命を賭ける!
* * *
人間の突撃タイミングが思いのほか早かったため、ヒュドラ達は焦りはじめた。
投石の内側に入ってこられた為、苦肉の策で木を倒しはじめた。
適当な小さな木を引っこ抜いて、丸ごと投げはじめた。
「なんだこの多重障害は!?」
「まだ作り始めたばかりだろう、どうして!?」
先遣隊の聖騎士達が焦る。
この、木や藪を倒しただけのバリケードが手強い、と直感する。
無論ただの倒木、梯子も用意してある。
乗り越えることは難しくない、だが。
乗り越える間の無防備な時間を狙われれば、ただでは済まない。
木々の間からヒュドラの姿が時折見える。
あれは10mか、それとも20mか。
とにかく大きい。
別の先遣隊と馬の悲鳴が、かすかに聞こえた。
……なんだ。なんだこれは。
想像と全然違う!
森が、わずかな時間で城になるとは聞いてない!
* * *
「撤退進言、ですか?」
「バリケードの規模が想定以上です。こちらの被害が全滅水準であると判断しました。増援を待ち、再度作戦を立て直すべく撤退を……」
一時帰還した先遣隊の聖騎士達が、神父服姿の
「お待ちを。……作業員! 十字架を掲げなさい!」
「ハッ!」
十字架が地面に固定されていくが、問題はそこではない。
十字架の一つ一つに、一人一人が。
両手のそれぞれに釘、両の足首をまとめて釘。
巨大な十字架に、聖騎士三人が生きたまま磔刑されている。
そして、三人には首から看板がぶらさげられている。
・『私は敗北主義者です』
・『私は戦友を見捨てました』
・『逃亡兵!』
「どうしました。何故戦わないのです?」
「い、いえ、その、増援を……」
「増援ならば既に連合国軍がいるでしょう。あなたは蛆虫だったのですか?」
「そ、そういうわけでは」
片方の切っ先を、聖騎士の股間に向ける。
「あなた方の先頭を行ったのは誰ですか。勇者一行ですか、それとも勇気ある女性ですか。うら若き女性を盾にし、囮とし、あげく見殺しにして、あなたは下がろうというのですか。ならばその腐った棒も腐った玉ころも、いらないとは思いませんか」
「いや、その」
「あなたが右手に持っているのはなんですか、言ってみなさい!」
「ど、毒槍です!」
「あなたの前に見える街はなんですか!」
「嘆きの街です!」
「眼前に敵を放置してェ……何が教会軍ですか、嘆かわしい!」
十字架に掲げられた三人の聖騎士達が、呻いている。
三つの十字架を背景に、
「引き返してヒュドラと戦うか。蛆虫として十字架に晒されるか。好きな方を選びなさい」
「たっ、戦います!」
「よろしい」
二刀を十字に重ねて告げる。
ヘルシングのアンデルセン神父、ではなく、原作2巻ラストのレピアのポーズだ。
「主は必ず見ておられます。ご照覧あれ。
エイメンってなんだろう?
聖騎士は内心で首を傾げながらも態度には出さず、ヒュドラへと突撃をはじめた。
* * *
原作は、物凄い早さで撤退が決まった。
この世界線では、
勇者達が最前線で戦っているがゆえに、聖騎士もまた最前線であらねばならない。
そして聖騎士が最前線がゆえに、教会兵もまた最前線であらねばならない。
連合国軍も後ろをついていってはいるが、配置的に死者は少ない。
弓矢などで、教会軍を援護するのが限界だ。
* * *
「「ご加護を!」」
聖少女レピリリが、背中合わせで格好良いポーズをとる。
目の前のヒュドラに16発の毒矢が刺さり、ヒュドラが沈んでいく。
「セイ! 後ろに!」
「わかった!」
「ん。行ってくる」
マユリがラケットメイスと盾で攻撃を防ぐなか、マユリを休憩所としたセイとカタナがスイッチングで攻撃を繰り返すという、夢の連携プレイが20m級の超大型ヒュドラに襲いかかっていた。
持久戦の苦手なセイだったが、そこをカタナがフォローしている。
ヒュドラ達の毒のつぶても、マユリが全て防いでくれる。
そして聖女コンビは、元々回避や防御能力が高い。
確かに兵士達の悲鳴や泣き声が周囲から聞こえてくる。
しかし原作のセイが期待していたように、がむしゃらに突っ込んで毒槍で襲いかかる作戦は、大量の聖騎士や教会兵の死亡と共に成功を収めつつあった。
「セスレさんも来てるんだっけー?」
「うん、犬狼を率いてる。トップシークレットのヤバい装備を使うとかなんとか」
「……絶対聞いちゃダメなやつですね、それ」
それぞれセイ、マユリ、リリィだ。
リリィはレピアと組めてニコニコの笑顔だ。
反面、森の中で御使いと精霊が不良のようににらみ合いをしていた。
いかなる状態でもヒュドラの攻撃を躱すカタナが、超大型ヒュドラの背に乗って好き勝手にざくざくと刀を刺しまくっていた。やがて真の脳が傷ついたのか、超大型ヒュドラが物凄い勢いで倒れ、周辺の木々をなぎ倒して痙攣をはじめる。
「これなら……うまく、いくかも」
汗だくの顔で、それでもセイは微笑んだ。
* * *
「今から撃つ矢の正体は、あなた達は何も知らない。絶対に知ってはいけない。知らないまま矢を番えて、知らないまま撃つ。いい?」
「そう繰り返されずともわかります」
「あいよ。儂等はなぁんも知らんさ」
セスレの念押しに、カマセが真顔で大弓槍に特殊矢を番える。
ハンティ爺さんは苦笑しながら特殊矢を番える。
「ボスの奥さんが直接
今日のクロスは、近接で全員の防御要員だ。
普段は港から指示を出してくるセスレが直接指揮しているので、笑うしかない。
「構え」
セスレが右手を挙げる。
カマセとハンティが、100m先と120m先のヒュドラに狙いを定める。
「撃て」
セスレが手を振り下ろす。
森の木々の間、丁度良いラインを通り、二本の矢がヒュドラに命中した。
矢がヒュドラに命中した瞬間に衝撃で矢が砕け、大量の小さな毒矢が一斉に散らばった。
本来であれば原作71話で投入されるファントム・アレイが、45話付近の時間軸で投入された。
なので一切の容赦なく、大量のトリカブト毒がヒュドラに襲いかかった。
ヒュドラ二匹は暫く悶え苦しんだ後、倒れて死んでいった。
「撤収」
セスレが指示を出す。
犬狼部隊は、静かに森に潜んで消えた。
* * *
(BGM:川村万梨阿 「PISTOLE UND BLUME」)
ヒュドラが倒れていく。
蟻のように人間が突撃していく。
聖騎士も、教会兵も倒れていく。
ヒュドラに毒槍を刺し、自分の役目は終えたとばかりに死んでいく。
この世界ではじめて流れる、ドイツ語の歌詞で歌い始めた。
声優・川村万梨阿のアルバム「月と桜貝」に収録されている「PISTOLE UND BLUME」。
OVA機神兵団の挿入歌「鉄砲の花」を編曲し、日本語の歌詞をドイツ語で歌い上げたもの。
「PISTOLE UND BLUME」版で歌っているが、作品コードは「鉄砲の花」版しかないので日本語歌詞を掲載する。
父さまどこに 母さまどこに 私はここです 弟もいます
眩しき朝陽 子供の笑顔 笑いのなかで 光るは瞳
手に手をとって 希望を囲み 育てる夢を 見守れ大地
銀髪ロングヘアの美少女が、多数の死者を出している戦いを思いながら歌う。
色々な意味が込められている平和の歌だ。
一つ問題があるとすれば。
十字架に掲げられた三人の聖騎士達を背景に、彼らを一切気にせず歌っていることだろうか。
美しい曲だとわかる。
綺麗な歌声だとわかる。
ドイツ語は兵士達には意味不明だが、歌詞もきっと良いのだろう。
だが。
あまりにもミスマッチというか。
少なくともそうせよと命じた人が、磔刑者の前で歌う曲ではなかった。
戦いを終えて帰還した勇者一行&聖女&剣姫達も。
大半が死んだ教会軍も。
指揮官級がおらず、思うように動けず、ほとんど死者がでなかった連合国軍も。
磔刑にされた聖騎士達(胸には看板)の前で、優しそうに微笑んで歌う
みんなみんな、ドン引きした。
平和を願う歌を歌う私は、きっとちやほやされるに違いない!
ゆりこちゃんが背景のミスマッチに気づくまで、少し時間を必要とした。
* * *
『連合軍は少し死ぬけど聖騎士はいっぱい死ぬ作戦(Minor Allied Loss, Paladin Heavy Annihilation)』、通称
聖剣の勇者セイを粗雑に扱った教会軍が、がっつり減った。
その分、全滅まではさせなくて良いとセイが感じていた連合国軍が減らなかった。
ユーリが未帰還なのが残念だが、その他は概ね成功と言えた。
嫁勢も全員無事に大活躍した。
だからギルドそばの酒場(セルヨーネ侯爵家経営)で、みんなで打ち上げをした。
原作とは違って、ジャンはエールではなくビールの生中を頼んだし、ユーリの嫁達も大勢席に座っていた。日本の飲み屋みたいなメニュー(焼き鳥とか、たこ焼きとか、そういうの)をテーブルに並べて満足していた。
そしてジャンがマユリに日本語で話しかけるイベントが起きて、勇者一行も真面目に答えた。
「どんな人だったのかとか……わかる?」
「記録を読んだだけですけど……トメコ・ナカズィマという女性の方で」
この時、バーチェが近くの席にいればもう少し違う未来もあっただろう。
だが、残念ながらバーチェの席は離れていた。
そしてもうひとつ、大きく違いすぎる点があった。
「馬鹿ぁーーーーーっ!」
何故かゆりこちゃんが、弾き語りで歌っていたことだろうか。
ゆりこちゃんは、完全に酔っ払っていた。
「いいぞねーちゃーん!」
「ひゅぅー♪」
妹のユーリさんは、どうして涙目で熱唱しているのだろうか。
なお、ゆりこちゃんはブルーハーツの『皆殺しのメロディ』を歌っていたが、ジャンの誕生年は1997年で、ブルーハーツの解散は1995年。ジャンが知らないバンドだった。
それはともかく。
ジャンは顔を引き攣らせながら、リリィにトメコ・ナカズィマの歌を要求した。
「う……歌ってくれないか」
「は……はい……」
「……」
ジャンが緊張する中、リリィが呼吸を整える。
「ユ……」
(BGM:「赤とんぼ」著作権は消滅済み)
「ゆうやーけこやけぇのぉー! 赤トーンーボォ"ォ"ォ"(デスボイス)」
「♪ユーヤーケコアケーノ、アアツォンヴォー♪」
デスメタルアレンジされた赤とんぼを、同時にゆりこちゃんが歌いだした。
ギターヒーローはここにいたんだね、ぼっちちゃん。
それぐらい、無駄にアレンジされた無駄な熱唱だった。
……うるせぇ。
勇者テーブル一行の冷たい視線が、ゆりこちゃんに突き刺さる。
「……はっ!?」
やばい。
原作で貴重な感動シーンを台無しにしてしまった気がする!
ゆりこちゃんの酔いは一気に醒め、彼女は慌てふためいた。
「うわぁぁぁん!」
泣きながら、ゆりこちゃんは酒場から走って出て行った。
お腹がすいたら帰ってくるだろうと、みんな遠い目をした。
「えっと……あの。仕切り直して、いいですか?」
「あっ、はい……」
赤とんぼはちゃんと仕切り直され、リリィの歌が響いた。
ジャンも思わず涙を流し、リリィも歌詞の意味をちゃんと知った。
とはいえ、流石のジャンも首を傾げる。
「やっぱり、あの人は妹のユーリさんじゃないですよね?」
セイは苦笑する。
「ユーリ君が戻ったら、聞いてみるといいんじゃないかな」
「そうします……」
* * *
嘆きの街の連合国軍が壊滅しなかったので、【死の森】前要塞は亜人の手に落ちていない。
防御が硬いので、亜人達も迂闊に手出しができない。
アーティファクトを含め、ヒュドラが根城としていた遺跡の再調査が行われることになった。
原作でジャンパーティが入らなかった洞窟の暗闇(11巻14P)は、ユーリ帰還後にカタナを除いた『
ゆりこちゃんは、お腹がすいたので帰ってきた。
『黒面銀毛とかいって私が黒い仮面をつけはじめたらみんな構ってくれるだろうか』と危険なことを考えながら部屋の隅っこで体育座りをしていた。
ぼっち度が悪化して、かなり駄目な感じになっていた。