ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第138話 ??時間軸・ホテル魔王国

 

 自分が学んできたこと全ての、総決算となるだろうか。

 

 歩きながら『手品・裏』。それで終わればよし。

 終わらなければ、僕版の一之太刀(ひとつのたち)

 

 歩みを進めていた僕は、一度立ち止まることにした。

 大勢に見られているだけではない。弓も向けられている。

 リパブリック共和国の兵士と勘違いされているのか?

 

「その弓矢を撃ってもいいけどさ。一騎打ちを邪魔するのなら、僕が織津江パイセンに勝った時は殺すからよろしくね」

「やめなさい。……彼の言う通り、邪魔をしてはいけません」

 

 織津江大志が、こちらから視線を外さずに言う。

 構えていたのは、レッドキャップの男達か。

 ならばそばにシンクちゃんが……いた。

 

 メイヤさんとワカクサさんの姿も見える。

 ワカクサさんは、こちらに向けていた弓を下ろした。

 メイヤさんはメイド式待機ポーズだが、乳首の突起が服の上からわかってしまう。

 メイヤさんもだけど、この世界は爆乳のせいで乳首の突起が見える人が多すぎる。

 

 リン、フーリン、コリン、メイヤ、オルワ、パーラ、ワカクサ、カガシ、シンク。

 織津江パイセンも、なかなかハーレム多いよなぁ。

 ゴブリン娘以外は、ほぼ専属みたいなものだし。

 

 というか、正直メイヤさんとワカクサさんとシンクちゃんは僕の好みだ。

 僕に絵の技術があれば、コミケでエロ同人ぐらいは出していただろう。

 

 そういえば、頑張って習得した織津江アイだけど。

 祖父の名前が出たからか、パイセンは僕を殺すかどうか悩んでる。 

 あの逆さ長巻、トリカブト毒を含めて色々仕込んでるからね。

 

 逆さ長巻。

 一見日本刀だけど、その正体は柄の方が刃で、鞘が柄の長巻。

 柄の内部に刀身の大半が入っていて、任意にバネで飛び出し長くなる。

 

 常備性は剣と同等。

 伸ばせば剣より長く、切れ味は日本刀。

 織津江大志が考え作り上げた、最強の剣。

 

 逆さ長巻は、創世神がSNSでこう言っている。

 

 『逆さ長巻は殺意の塊。初見殺しでぶっ殺すことと、リーチを伸ばしてぶっ殺すことしか考えてない』

 『逆さ長巻のバネは体重+勢いで押し込まなきゃいけないレベルなので、だいぶ強いですよ。織津江が全力で突きを放つ力より強い』

 

 うん、わかる。わかるよ。

 ()()()()()()()()()()()()だよね、その剣。

 だって()()()()()()()()()()()()()もの。

 

 そもそも長巻の柄はあくまでも刀の「柄」なので、薙刀や槍のように石突を使う攻撃が出来ない。長巻は一般的な槍や薙刀と比べて刀身の部分が長く、全体の重量バランスが刀身側に偏っている。必然的に重く、端を握って大きく振りかぶったり振り回したりするという使い方は出来ない。

 

 槍や薙刀の操法は、棒術と同じく長さを活かしたもの。

 それに対して、長巻は柄の長さを間合いの長さとしては活かせない。

 全体の長さを間合いの優位として活かすことは難しい、というかほぼ不可能な武器だ。

 だから剣術とも薙刀術ともさらに違う、全く別の「長巻術」となる。

 

 大弓槍も結局、槍術の術理を捨てている。

 槍としての大弓槍は、あくまでも叩いて突く系の使い方に限定される。

 棒術的な使い方を含めた槍術の使い方ができないから、あくまでも槍は補助だ。

 大弓槍は、僕にとってはあくまでもコンパウンドボウの偽装でしかない。

 

 逆さ長巻の初見殺し、大いに結構。

 

 でも、初見で殺せなかったら?

 リーチの差を合気捕りで無効化されたら?

 僕の二刀を、ただの(ましら)剣術だとでも思ってる?

 

 バネが仕込んであるということは、中空だということ。

 初見殺しの武器なので、耐久性が低いということだ。

 

 そう考えていくと、14巻132P。

 あのリパブリック共和国の達人兵士に『まともにやってたら僕が負ける可能性もありました』と言っていた理由もわかる。

 鎧の有無というより、薙刀の方が単純に扱いやすくて強い。

 長期戦に持ち込まれていたら、織津江パイセンは不利になっていたことだろう。

 

 僕の二刀は、その意味では()()()()()()()()()()()だ。

 2043年の最新鋼材と理論を使った最強の日本刀。

 ()()()()()()()()()()()()()()使()()()

 

 織津江パイセン。いや、織津江大志。

 確かにあなたは僕より四年分強い。

 でも、今のあなたは隠れん坊をしていない状態の忍者だ。

 

 侍の僕にも、意地がある。

 真正面から全てを捻じ伏せる術を磨いてきた、意地がある!

 

「織津江パイセン。胸をお借りします。物理的に」

「……死ねって言ってます?」

「タイシ様ーッ!」

 

 必死な形相の、ワカクサさんの叫び。

 しかし、その叫びが合図になった。

 

 勝負は、一瞬で片付いた。

 

 

 * * *

 

 

(そういや、パイセンはまだ彼女達に『好き』とか『愛してる』って伝えてないのかな?)

 

 ワカクサさんの叫びに、ぼんやりとそう考えた瞬間。

 織津江パイセンは顔面蒼白となり。

 パイセンの右拳が、パイセンの右頬に突き刺さった。

 

「!?」

 

 僕を含めた観客全員が、息を飲む。

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あああああああああッ!」

 

 頭を抱え、苦悶の表情で、身体全体をくねらせて血涙を流しながら、パイセンが絶叫した。

 

「救いようがない……っ!」

 

 崩れ落ちるようにパイセンが地面に四つん這いになり、物凄い勢いで両手で地面を叩いた。

 ドオオォォォン!

 信じられないぐらい大きな打撃音が周囲に響き、小さな地震が発生した。

 

「ふ……ふふ……参りました……僕の……負けです……」

「あっはい」

「じいちゃんの拳を……思い出しましたよ……」

 

 いやそれパイセンの拳っすよね。

 うん?

 そうか、僕が思った言葉がクリティカルヒットだったのか。

 えっ、じゃぁまだ9人の誰にも好きとか愛してるとか言ってないの!?

 

「……まさか」

 

 四つん這いの織津江パイセンが、びくりと身体を震わせる。

 

「童貞は捨てたけど、感覚はオサマ王国時代と大差無いとか」

 

 パイセンの左拳が、パイセンの左頬に突き刺さった。

 ずしゃぁ。

 織津江パイセンが、地面に崩れ落ちて痙攣をはじめた。

 僕は空を見上げた。

 

「……勝利は……いつもむなしい……」

 

 『手品・裏』も!

 僕版の一之太刀(ひとつのたち)も!

 数千万円かけた最強の日本刀も、何一つ使わなかった!

 

 残心なんて投げ捨てた。

 苦笑しながら納刀し、少し戻ってコンビニのレジ袋を回収。

 

「織津江パイセン、これ」

 

 そう言って、僕は懐から『探しています』と書かれたチラシを取り出した。

 そこには、犬二匹を抱えて笑う、織津江パイセンの写真が印刷されている。

 

「このチラシは……」

「二匹の墓は、庭の片隅にありました。きちんと手を合わせておきました」

「タロ……サクラ……」

 

 織津江パイセンは起き上がり、受け取ったチラシを大事そうに胸に抱えた。

 パイセンの両頬が、痛々しい。

 ガチ殴りにも程がある。

 

「織津江照志(てるし)さんからの依頼は、これで終わりです。織津江パイセン、宿泊料も持ってきました。ホテル魔王国、泊めて下さい」

「宿泊料……?」

 

 僕は、コンビニのレジ袋をそのまま渡す。

 中には、オーソドックスな銘柄のカップ麺が3つ入っている。

 醤油BIG、シーフードBIG、カレー味BIG。

 

「……こっ、これは……っ?」

「どうです? 宿泊料にはなりそうですか?」

 

 織津江パイセンは、チラシとカップ麺を抱えたまま、ぽろぽろ泣き出してしまった。

 メイヤさんとワカクサさんとシンクちゃんが一斉に駆けだして、パイセンによりそった。

 

 織津江パイセンは、チラシをレジ袋に入れて立ち上がる。

 軽く涙を拭いて、僕に手を伸ばしてくれた。

 

「ホテル魔王国へようこそ。……ええと、ユーリさん?」

「はい。ユーリ・ハーベラ・セルヨーネ。どうかユーリと」

 

 僕と織津江パイセンは、静かに握手をした。

 

 

 * * *

 

 

「転生と転移の合わせ技……」

「他にも細かい話はあるんですが、その説明が早いです」

「なるほど。それでうちのじいちゃんから、技を」

「孫に会えたら代わりに殴っておいてくれと言われて、パイセンに会えたから殴った。だから僕にとって魔王国は、様子が見られればそれで満足だったんです」

「事情はわかりました。ホテル魔王国としては、誰か抱いて行かれます? とユーリさんに聞くところですね」

 

 絶対服従契約である雌犬の姿勢を捧げられた男にはその女の独占権があり、他の男とのセックスを禁じることができる(科学的8巻165P)。

 織津江パイセンはその権利を行使していないが、問題はゴブリン文化がヤリ捨てを禁止していること。……ケンタウロスと同じなんだよねぇ。

 

 人間のメイド勢は織津江パイセンへの専属を表明している。

 だからメイヤさん達を僕が抱くことはできない。

 

 つまり人間以外であれば、パイセンの周囲の亜人女性すら抱けるということになる。

 なる、が、ワカクサさんとかシンクちゃんを抱くのは解釈が違うというか、うーん。

 

「空いてるラミアっています?」

「あー、ラミアはレッドキャップのヒイロ族が来た関係で埋まっちゃいましたね」

「ヒイロ族、か」

「里姫のシンクちゃん以外なら抱けるレッドキャップはいると思いますが……どうしました?」

「ああいえ、ヒィロって名前の敵がいましてね。織津江パイセンにぶつけなかった技を、全部彼にぶつけることになりそうで。名前が似ていたので、苦笑してました」

「じいちゃんの技に興味はありますが、その敵の冥福を祈っておきましょう」

「あっ、もう僕の勝ち確定ですか」

「うちのじいちゃんが、生半可な腕の人に伝授するわけがないです」

 

 僕は苦笑して、大の字に寝転がる。

 科学的14巻、シンクちゃんを抱いた時に敷かれていたような、要はセックス可能な寝所。

 

「たまには一人で寝ますよ。今日は色々ありすぎたので」

「わかりました。気が変わりましたらいつでも」

「はい。おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 

 僕は大の字のまま、目を瞑った。

 織津江パイセンは、静かに去って行った。

 

 

 * * *

 

 

 ゴブリン種ミドリ族の長ジャーが、織津江大志に話しかける。

 

「タイシ、良かったのか? わざと負けたようだが……」

「いえ、勝率は低かったです。そもそも織津江流古武術は情報を重んじます。敵に情報を与えずに敵の情報を得て、敵が得る情報を攪乱する。なのに彼は、僕が何を用意していてどう戦うか、それを全て知った上で僕に対処できる装備と術理を準備しているようでした。つまり織津江流古武術的にはその時点で敗北です。まして地の利の無い平地……ドラゴン相手に戦うようなものです」

「ドラゴン!?」

「ええ、ドラゴンです。ジャーさんは敵地のベッドで大の字になって寝られますか?」

「いや、無理だが」

()()()()()()です。それより、僕はこれから大事な用があるので」

「なんだタイシ、誰を抱くのか悩んでるのか?」

「いいえ」

 

 織津江大志は、かつてない真剣な顔でジャーを見た。

 

「醤油か、シーフードか、カレーかです」

「……はぁ?」

「やはり王道の醤油。しかしシーフードは神。だがこの世界でカレーはまず出会えない……くそっ、なんて三択ですか……ッ!」

 

 そう言いながら、織津江大志が去って行ったのでジャーは首を傾げた。

 結局、織津江は自分のハーレム勢の誰にも『好き』『愛してる』と伝えていない事実から逃げた。だって……なんかこう……勢いとかそういう……今更……ッ!

 

 いや、今からでもいいから伝えようよ。

 ユーリがいたらそう突っ込んでいたことだろう。

 

 だが今夜の織津江大志は、異世界究極の三択について悩むことを最優先とした。

 ……最優先としたのだ!

 

 

 * * *

 

 

 妙なざわめきが周囲にあって、ユーリは目覚めた。

 まず、家の中ではない。外だ。

 雪景色ではない。体感的には春か秋。時間は……とりあえず日中?

 

 遠くには、摩天楼の景色。

 どこの建築様式かもわからない異常な高さのビル群が視界を埋め尽くしている。

 

 ここは?

 公園。

 ビル街の中にオアシスとして作られた公園だろうか。

 

 動く水の気配と、音。

 噴水がすぐそばにある。

 

 自分は?

 ベンチで寝ている。

 日本刀の大小は、装備したままだ。

 

 自分から少々離れた場所。

 金髪碧眼、腰まであるような長い髪の美少女。

 小学校高学年か中学生ぐらいの背で、長耳。

 服は、スリットの深い白のワンピース。

 長耳の美少女は、面白そうな顔で自分を見つめてニコニコしている。

 

 さらにその周囲。

 ユーリと美少女を見守るように、だが近づかないように。

 興味深そうに見守る、人間の老夫婦。

 スーツ姿の、サラリーマンのようなオーク男性。

 女子高生のような制服を着たケンタウロス娘。

 できるOLのような女性用スーツ服のラミア女性。

 タンクトップに短パン姿のレッドキャップ少女。 

 

 ()()は、()()の、()()だ?

 

 

 * * *

 

 

「お兄さん」

 

 くすくすと、金髪碧眼の長耳美少女が笑う。

 

「暑くないですか? 真冬には、まだ早いですよ」

「……ごめんね。ちょっと記憶が無くて。飲み過ぎたのかも」

 

 僕は周囲を警戒する。

 だが、観察以上の気配が無い。

 

「腰のものは、なんですか? まさか、実剣(スパイド)? 光剣(スパッド)ではないようですが」

「あー。刀というか、武器というか……僕、逮捕されちゃう?」

「えっ、本当に実剣(スパイド)なんですか? 博物館のロストテクノロジーを輸送中?」

「一応、私物。もしかして法律上、やばい?」

「やばいです! でも」

 

 金髪碧眼の長耳美少女は、ワンピースをくるりと翻して一回転。

 どう? 私が怖いでしょう。

 そう言いたげな顔だ。

 

「私と一緒なら、どうとでもできますよ。私の護衛に任命すれば、いいだけなので」

「そうなんだ。なら、キミの護衛でもなんでもするよ。これを手放したくないんだ」

 

 僕がそう答えると、少女は驚き、周囲はざわついた。

 なんだ。なんだなんだ。

 

「……あれ? 私が怖くないんですか?」

「ただの美少女にしか見えないけど」

「わぁお」

 

 言われた少女は、嬉しそうに長耳をピコピコさせる。

 反対に、周囲は僕の褒め言葉にドン引きしているようだ。

 

「あの人達は、なんで遠目に見守ってるの?」

「見守っているのではなく、私に怯えてるんですよ」

「……なんで怯える必要があるのか、わからないな。こんな美少女に」

「ああもう、くすぐったいですね。お兄さんの名前はなんですか?」

 

 褒め言葉に慣れていないのか、長耳美少女は照れ隠しに聞いてくる。

 

「僕はユーリ。ユーリ・ハーベラ・セルヨーネ。ユーリでいいよ」

「ふぅん、変わった名前ですね。私も人のことは言えないんですけど」

 

 長耳美少女は、右手首につけていた腕輪を僕に向けてくる。

 腕輪の上に、透明なスクリーンが浮かびあがった。

 

「……データベース照合なし? 違う、認証IDチップが無いんだ!」

 

 おいおいマジかよ、どこの田舎モノだよ。

 あれ、認証IDチップ無しって法律上ありえるのか?

 そんなざわめきが、周囲の見物客から聞こえてくる。

 

「面白い! あなた面白いわ!」

「う、うん。キミの名前は?」

「そっか。私のことを知らないんですね、だから」

 

 長耳美少女は、少し悲しげな表情をした。

 

「うーん。怖くなってから怯えることにするよ。でも美少女に怯える自分がちょっと想像できない。軽く自己紹介してみて?」

「……お兄さん、なんか妙に手慣れてません? さりげなく情報引き出されちゃうんですね、私」

「そうだね。可愛い女の子は、狼に食べられちゃうんだよ」

 

 赤ずきんの話が、この世界にあるのかどうかは知らないけれど。

 僕は苦笑しながら、彼女と受け答えを重ねる。

 

「いち。私の名前は、()()です」

「いち?」

原初の一(エンシェント・ワン)と呼ぶ人もいます。というより、原初の一(エンシェント・ワン)と呼ぶ人しかいません。『いち』の名称は、どこに行ったのでしょうか……」

「ふーん」

 

 そう来たかぁー。

 僕は遠い目をする。

 6000年前ぐらい?

 場所は……どこなの、マジで。

 

「あれっ、本当に知らないんですか」

「知ってる知ってる。マジマジ。いっちゃんでいい?」

「マジって古語ですか? あー、古語ですね。本気という意味ですか」

 

 原初の一(エンシェント・ワン)は、腕輪を操作している。

 

「認証IDチップがないのに、なんでナノマシンが検知されるんです?」

「いやー、記憶喪失の酔っ払いで田舎モノなんでちょっとわかんない。この世界のこと教えて、いっちゃん」

「いっちゃん……いいですけど。私これでも、結構偉い人なんですけど」

「じゃぁ、いっちゃん様?」

「……いっちゃんでお願いします」

「じゃぁいっちゃん、護衛でもなんでもするからさ」

 

 僕はそう言ってベンチに正しく座り、頭を下げた。

 

「養って下さい」

「こ、これが記録庫(アーカシャ)で見た伝説の『ヒモ男』なのですか……?」

「待って。ヒモ男って無職でしょ。僕ちゃんと働きますから。護衛しますから」

「しかたがないですねぇ。お兄さんを養ってあげます」

 

 ユーリと呼んだ後に、原初の一(エンシェント・ワン)が何故恐れられているのかを知られて、怯えられるのが怖い。

 だから確実に怯えられないとわかるまでは、お兄さん呼び。

 

 彼女の顔に、そう書いてある。

 

「とりあえず、ヒモのお兄さんの服を買いに行きましょうか」

「これ新品なんだけどなぁ……」

「えっ、なんで()()()()()()なんですかこの服? なんか裏地が変!」

「セルロースナノファイバーの裏地だと思う」

「……増殖させたバクテリアナノセルロースではなく?」

「うん? 木や草をぐっちゃぐちゃにするとセルロース繊維っていうのが取れるから……」

「植物の疑似時間停止措置を解除しちゃったんですか!? 大犯罪じゃないですか!」

 

 ざわ・・ ざわ・・

 

 犯罪者?

 疑似時間停止措置を解除とか、恐ろしい……

 警察、そうだ警察を……

 

「待って、うん、僕なにもわかんない。とりあえず逃げよう、いっちゃん」

「わわっ」

 

 ひょいっ。

 僕は原初の一(エンシェント・ワン)をお姫様だっこで抱える。

 何歳ぐらいだ?

 すっごく軽い。

 

「うーっし、走るよ!」

 

 問答無用で適当に走り出した僕。

 原初の一(エンシェント・ワン)が、半泣きした。

 

「待ってください逆方向ですぅぅぅぅうううう!」 

 

 人間の老夫婦、オーク男性、ケンタウロス娘、ラミア女性、レッドキャップ少女。 

 服のセンスだけが平行宇宙の地球で、中身や装備はまるで別物、近未来のナニカ。

 そんな人達の間を駆け抜けて、僕は走る。

 原初の一(エンシェント・ワン)を抱えて、走る。

 

「いっちゃんナビゲーション、オン!」

「み、右! 次は左ですぅ!」

「おー、便利だ」

「私これでも、結構偉い人なんですけどー!?」

 

 お姫様だっこをされながら、頬を膨らませる原初の一(エンシェント・ワン)

 僕はなんだか楽しくなってきて、笑いながら叫んだ。

 

「知ったことか!」

「うわーん!」

 

 騒ぎながら走っていると、一瞬で周辺が影になった。

 思わず立ち止まって、空を見上げる。

 細長い直方体の超巨大な箱のようなものが、空に浮かんで移動している。

 

「なんだあれ……」

 

 僕がそう呟くと、原初の一(エンシェント・ワン)がドヤ顔をした。

 

「星間連絡船、天鳥船(アメノトリフネ)です。小地球に向かうのでしょう」

「はー、すご」

「本当に、田舎から来たんですね。ヒモのお兄さん」

「ユーリって呼んでよ」

「考えておきます。とりあえず降ろして下さい」

「わかりました、お嬢様(フラウ)

 

 僕は丁寧に原初の一(エンシェント・ワン)を降ろし、ボウ・アンド・スクレープをした。

 彼女は、顔を真っ赤にする。

 

「ああもう! 調子狂う!」

「どこなの、ここ」

「服屋です! 暑苦しいんです、その格好!」

「新品なんだけどなぁ……」

 

 マルボロ1カートン分の値段だったのに。

 なんだかもう、どうにでもなれって感じだ。

 僕は苦笑しながら、原初の一(エンシェント・ワン)と服屋に入った。

 

 店内で3Dスキャンしたら、スライムが出てきて、変形して服に変化した。

 ふかふかダンジョンの7巻、91Pの絵から服に変形したと思ってほしい。

 

「……スライムが、服になった」

「塩と毒以外をエネルギー変換して増殖するナノマシンを、軟体動物としてペットのように管理しています。細胞変換して人体の治療にも使われるんですよ。マザーコンピューターの管理下にあるので、絶対に安心かつ安全の技術です。……というか、お兄さんの身体にもありますよね?」

「昔、大怪我したから、その影響かも」

「はぁ……お兄さんはどこの田舎ものなんですか」

「ハーベラ領。アイダ領。静岡県伊豆半島。うーん?」

「適当言わないでください、記録庫(アーカシャ)の検索で出てこないじゃないですか」

 

 ぷりぷりと頬を膨らませて怒る、原初の一(エンシェント・ワン)

 僕は、肩をすくめることしかできなかった。

 

 

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