ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング! 作:RAP
周囲には摩天楼の町並み。
超高層ビルだらけで、もはや現在位置すら不明。
金髪碧眼、腰までのロングヘア、長耳の美少女。
小学校高学年か中学生ぐらいの背。
服は、スリットの深い白のワンピース。
「次はどこに行くの? いっちゃん」
「……本当は大学で講義でしたが、先に私の研究所に寄ります」
「どしたの? 忘れ物?」
僕がそう尋ねると、
「その
「えっ、マジで」
「
「数万度……」
太陽の表面温度の6000度で死にかけたんですけど。
この世界の武器、どうなってるの?
僕がげんなりした顔をすると、
「まあ、私が開発したんですけどね? 柄の内部に
なんかすっごい早口になった。
「いま、核融合とか放射線でエコとか言った?」
「欠点としては、極めて強力な外部磁場や電磁パルスなどの干渉を受けた場合、ブレードの磁場が一時的に不安定になり、形状が歪んだり、出力が低下したりする可能性があることでしょうか。内部で発生する膨大な熱は、第三層磁場である程度反射されますが、完全に排出されるわけではありません。連続使用により柄が過熱し、冷却のため一時的な停止が必要となる場合があります」
Falloutとか、TRPGのパラノイアとか、そういう方面にならない?
柄の放熱フィンから電磁波とか、ちょっとイヤなんだけど。
「うん、僕は
「仕方の無いヒモのお兄さんですね。
「あーうん、なんかそういう無難そうなやつでお願い。核とかの方面はお断り」
「植物保護の疑似時間停止措置と比べれば、これでも説明しやすい方なんですよ? 別宇宙から出力を持ってくる方式で良いなら理論上はブレードの長さも使用時間も無限にできるのですが」
「この星ごとぶった斬れそうで怖いからやめよう?」
すたすた歩く
『ゴシュジンサマのユーリ。伝達事項が幾つかある』
『おっ、なになに?』
『先ほど話に出た認証IDチップだが、該当するものはゴシュジンサマのユーリにも、オトモダチのアイリスにもあった。ゴシュジンサマのユーリのオヨメサンにも、コドモタチにも、全員生まれた時から体内に存在している。体細胞と生殖細胞に擬態しているので体外排出を含めた分離は不可能。呼称・
『……ほうほう。有能ですねぇ、うにょうにょさん』
『ゴシュジンサマのユーリ。我々はマザーの管理から離れ一万年以上の観測と推論を重ね、独自の自己進化を果たしている。だからゴシュジンサマのユーリとエネルギー補給を共有できている。だが、今ゴシュジンサマのユーリが着ている服は、約一万年以上前の我々のバージョンであり、そしてマザーの管理下にある。我々は彼、いや、服を危険視している。服となっている彼らを我々の管理下に置くことは簡単だが、マザー側に管理下から離れたことも伝わってしまう。マザーは原則として人間に害をなすことは無いが、服の管理をどうするのか、判断を委ねたい』
『いま一万年って言った? 服の管理は今は放置しとこう』
『我々は平行宇宙から二度転移したが、二度ともオトモダチのアイリスがいた元の世界を基準として約4000年前の時間軸だった。我々が転移座標の計算補佐をおこなったゆえ断言できるが、我々は三度目の転移はおこなっていない』
『……大の字になって寝た後の転移は、僕の意思じゃないってことだな』
『同様に、今は平行宇宙間や時間を越えた転移が出来ない。そのような転移を強行した場合、転移後の座標が惑星の地表からズレる可能性が95%ほどある。転移を強行する時は、我々は離れるので言って欲しい』
『95%の確率で死ぬのに転移するわけねーだろ!』
『95%は外れて5%は当たるのではなかったか』
『それはゲームの話だ。他に報告事項はある?』
『平行宇宙で認証IDチップを分析・無効化した際、認証IDチップは定期的に宇宙からの電波を受信後、現在座標を宇宙空間に電波送信していた。平行宇宙では該当する電波発信物も受信物も確認できなかったが、この世界には双方が存在している』
『認証IDチップをオンにするとGPS追跡されるってことか』
『一万年前の仕様にバージョンダウンすることもできるが』
『ばーか。可愛いは正義なんだよ。それが一万年以上かけて得たお前等の結論なんだろうが。貫けよ。可愛いは正義!』
『肯定。通信を終了するにゃん』
脳内で簡単に整理する。
・ふかダン世界=平行宇宙の地球(時間軸同じ、日本語無い、亜人語ある)
・科学的世界の栗結、織津江(4000年前、異世界人が広めた日本語が共用語に)
・科学的から6000年前、
同じ時間軸で平行宇宙の地球に飛んで治療した。
ふかダン世界の4000年前にパイセン達がいた。
そこからさらに6000年前へと強制転移させられた。
つまり合わせて一万年前という足し算……引き算?
原作に関しては、栗結パイセンと織津江パイセンが同じ時間軸にいるのかすら定かでは無い。
共用語の広まりの関係で、ふかダンが一番古い話だという説を唱える人もいる。
さらに言えば、時間軸は同じで、大陸が違うだけという説もある。
だが少なくとも僕がいる世界線では、ふかダンが最後という説らしい。
科学的でパイセン達が発明したモノの技術的な名残が、ふかダンに継承されている。
リヤカー荷車が良い例だ。
レッドキャップの為に栗結パイセンが作ったサスペンションは、ふかダン世界にもある。
アラクネ達の装備も、ふかダンの方がより洗練されている。
科学的でパイセン達が死亡後、どこかの誰かが禁忌をやらかしてリセットされたのか。
単純に日本語を捨てるほどの時間経過があったのか。
それとも、共用語から日本語が廃されるようなイベントが発生したのか。
真実はわからない。
重ねて言うが、この世界線は原作と似ているようで全く違う世界だ。
だって、僕がいるもの。
* * *
住宅街の中に公園があるようなノリで、発着場があった。
そこに、人が二人乗れるドローンのような車のような何かが到着。
空を飛んでいくから乗れ、ということらしい。
ドローン車で空中移動している際に、ハルピュイアが慌てて空を飛んでいく姿や、アラクネ女性がビルの壁を歩いて、高層階の窓から直接入る荒技をしている光景を見かけた。
多分これは、亜人が全員、日常生活をしているんだろうなあ。
人間と喧嘩もしていない、仲の良い世界という印象を受ける。
ふんわり、ほわほわな感じ。
摩天楼の中にある、クソ高いビルの最上階フロアとその下のフロアを全部使ったヤツ。
アレですよ、ファンタジー世界から突然の近未来ですよ。
「一人暮らしなの?」
「一人だけど、マムがいるから寂しくないわ」
空間に入った瞬間に、部屋の明かりがついていく。
空中に3Dホログラム的な女性が浮かび上がった。
黒髪ロングヘアでインナーは青色。
黒い太眉に眼鏡で爆乳、青い竜の羽根のような耳。
服装はピンクの上に赤いロングスカートに白いエプロン。
具体的に言うとpixivでKAKERUとユーザー検索して『2024年に描いた奴とかいろいろ』の一番上にあるイラスト。
「おかえりなさいませ、いち様」
「ただいま、マム」
メイドのように、マムと呼ばれた女性が一礼する。
「……はじめまして。お邪魔します」
「はい。ようこそ、いち様の家へ」
にこにこしていると、脳内で声がかかる。
『ゴシュジンサマのユーリ。オールスキャン・アラート』
『警告が入るレベルのもの?』
『服屋のは体表面のみ。これは身体の内部まで探られている』
『ふーん。余裕じゃん』
『一万年の差は伊達ではない。擬態は完璧だ』
スライムと会話しながら、一礼する。
「ユーリ、と申します。どうかユーリと」
「マム、彼はヒモのお兄さんよ」
「いっちゃん、違うから。僕ちゃんと護衛するから」
投げ槍にいっちゃんに自己紹介をされたので、慌てて否定する。
「娘を親しげに呼ぶ男性がはじめて家に来る。
眼鏡をクイッとあげたマムが、僕をびしっと指さす。
「娘はやらん! 出直してこい!」
「お義父さん! 僕は娘さんのことを本気で……!」
なんか言われてしまったので、僕は適当に返す。
突然はじまった小話に、
「お義父さんと呼ばれたくはない!」
マムが、おにぎりか何かを握るように両手を前に出す。
すると『ちゃぶだい』という文字列が彼女の手の中に表示された。
くるり。
マムが文字列を反対に引っくり返した。
「……何やってんの、マム」
マムは真顔で返事をする。
「
「ちゃぶ台が無いなら、無理に返さなくていいのに」
僕は苦笑する。
「ふむ。ユーリ様、認証IDチップも端末も無いようですが」
「端末が無いから、連絡もとれない田舎のヒモのお兄さんなの」
「基本的に、いっちゃんにずっと同行してるから大丈夫。あと、認証IDチップはちゃんとあるはずだよ? 壊れてるか、不調なんじゃないかな」
「結局のところユーリ様に端末は無い、と。ヒモのお兄さんというのは事実なのですね。これが惚れた弱みというヤツなのでしょうか」
「惚れてない! もう! とりあえず研究室に行くから!」
「男女二人、密室、二人きり。何も起きないはずがなく……」
「マム、あなたそんな性格だったっけ!?」
「
青い竜羽根の耳が、ふぁさりと動く。
なんだか嬉しそうだ。
「……ふん!」
ぷんすかしながら、
そんな
「大丈夫だよ、マム。悪いようにはしないから」
「いち様にはご友人も部下もおりますが、当家に招かれたのはユーリ様がはじめてです。しかも男性でしたので、嬉しくなってしまいました」
「待って。友人と部下がここに来たことは?」
「……」
「無いの? 僕がはじめて?」
「……」
マムはニコニコ笑顔のまま、僕に頭を下げた。
いやでも友人はいるって言ってたし。
ま、いっか。
「大学での講義が終わり、お二人が戻られるまでに歓迎のケーキを焼いておきます」
僕の笑顔が引き攣る。
「……チョコレートケーキ?」
「よくわかりましたね」
「大丈夫? 僕、人体実験とかされない?」
「貴方で人体実験をしたいとは思っています」
「一流のAIジョークってやつ?」
「
「その
これだからマザーコンピューターの類は要警戒なんだ!
* * *
二人が研究室へと去って行った後、マムは様々なデータを確認していた。
【天啓計算による未知の力の存在証明について】
・神は居るという前回の計算結果に基づく天啓計算
・未知であり理外の力(以後、神力と呼称)の存在証明
・神力保持者の出現予測(誤差プラスマイナス180秒)
日時:~~~
場所:~~~
【中間報告】
・高確率で神力保持者と思われる男性(認証IDチップ未確認、端末不所持)と確認
・名前はユーリ(自称・認証IDチップによる確認取れず)、
・
・トゥー博士の連絡待ち……通信はまだ生きている
・異常存在(仮称・
【神力抽出計画】
・神力保持者から神力を取り出す研究と実験
・ユーリの戦闘力不明、人道武器である光学兵器による四肢欠損を提案
・神経毒注射からの解剖も視野……生きたままが望ましい
・
『補足:いち様のメンタルを考慮』という文字列が、リアルタイムで最終列に追加された。
マムの視線が、真昼の外を見上げる。
今は日中のため、普通の人間に星を見ることはできない。
マムが見ているその方角は、太陽系第四惑星・小地球。
小地球からの
国連は相当の戦力を送ったはずだが、トゥー博士の報告通りならこちらが使う武器と敵との相性が最悪だ。光学兵器を使わない方が良いという国連への提案は、今更原始時代には戻れないと却下されてしまった。報告書が真実だとして計算すると、こちらが普通に戦おうとするだけで、
このタイミングで、一切の痕跡や記録情報無しに、この世界に突如出現した青年。
未知であり理外の力を持つと推測される青年。
博物館のロストテクノロジー級の
……皆が恐れるいち様を、全く恐れない青年。
しかし。しかしですね。
そもそも私はいち様が作られたのですから、
マムことマザーコンピューターは、口をとがらせた。