ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第140話 ??時間軸・悪い狼

 

「これは魔法でも永久機関でもありません。喩えるなら水車や風車のような、流体の力を受けて羽を回転させる極めて原始的な仕組みです。皆さんにはその流れが見えていないし、感じることも観測することもできないから、まるで勝手に周り続ける永久機関のように見えるだけ」

 

 金髪碧眼、腰までのロングヘア、長耳の美少女。

 原初の一(エンシェント・ワン)が金の風車を片手に、大学の実験場で魔法の講義をしている。

 

 全ての計測機器が、風をはじめとして動力足りうるものは何もない部屋だと示している。

 だが、風車は回り続けている。

 

「この宇宙と重なる別の宇宙の間に、大きな、それこそ宇宙規模に大きなあらゆる方向への非物質的な存在の流れがあると考えてください。その流れに風車を当てることができれば……当然回ります」

 

 科学者達が用意した『動力足りうるいかなる波動も外部から送り込めないよう遮断された部屋』で、彼女は『普通の紙に金箔を貼った風車』の金箔部分に流れがあたるようにして、風車を回している。僕が原作で見て、平行宇宙の地球で真似してみせたその風景を、元ネタたる原初の一(エンシェント・ワン)が丁寧に説明している。

 僕は実験場には入れないので、ドアの前で誰も入れないよう護衛をしている。

 

 説明を全て終えた原初の一(エンシェント・ワン)が部屋から出てくると同時に、多くの科学者達が風車をバラバラにするために実験場へと入っていく。

 少し疲れた様子の原初の一(エンシェント・ワン)に、僕は歩きながら声をかける。

 

「お疲れ様」

「……ありがとう。私は同じ事しか言っていないし、映像記録も実験データもいつだって繰り返し見られるのにね。何度でも同じ説明と、同じ実験を求められるの」

 

 そう言って、彼女は疲れた微笑を浮かべる。

 僕ですら、三徹つきあうから試行回数1000回とか言われたしな。

 彼らにとっては試行回数は大事らしい。

 

「ところでいっちゃん」

「なに?」

「この世界の法律、よくわかってないんだけど。正当防衛なら殺していい?」

「……えっ?」

「ナノマシン治療がどうとか言ってるし、生きてればどうにでもなるのかな」

 

 そういうと僕は歩きながら左手を鞘に、右手を柄にかける。

 実験場とはいえ元が大学、廊下の幅は多少は広いがあくまでも通路。

 原初の一(エンシェント・ワン)の講義後ということもあって人通りが多い。

 この時、原初の一(エンシェント・ワン)は僕の右隣にいて、周囲には生徒や教授達が多かった。

 

 つまり、わかりやすく横や斜め方向に抜刀をする隙間は無かった。

 

 左前方、剣の柄の部分を右手で取り出して振りかぶろうとしてきた相手に対し、踏み込みながら柄頭を相手の右手小指側の面に叩きつけるように抜いて突く。

 小指を折られながらも親指が柄のスイッチを押して、柄から光の剣が伸びてきたのが見えたので、そのまま股関節と体で抜刀し下から上に刀を斬りあげた。

 相手の右肩を付け根から半分ほど切断する形になったが、完全に切断はしない。

 護衛対象が右側にいるので、刀の背に左手を添えて相手の重心ごと崩しながら吹き飛ばすように押し倒す。

 

 膝を抜きながら瞬時に反転、一人になった原初の一(エンシェント・ワン)の左後方(つまり僕から見て背後だ)の老齢の人間の敵意がわかったので前方に落ちながら踏み込む。

 スタンガンのような何かを手にしている。技術差が違い過ぎてわからないが、危険度は高そうだ。ボディアーマー、あるいはベストのような何かを着込んでいる?

 

 右手の握りを薬指と小指だけにし、左手は刀の背をつまむ。

 スタンガンのような何かを刀で受け止めた瞬間に右手の握りで雷切(らいきり)をおこない、相手の仙骨を崩す。相手の軸が崩れた瞬間に、背をつまんだ刀を放す勢いで相手の右手の人差し指から小指までの四本を、刃をスライドさせるがままに切断する。

 シグルイでいう秘剣・星流れのようだが、あっちは漫画的演出もあって人差し指と中指で刃を握っている。こっちは親指と人差し指で挟むようにつまんでいるだけだ。

 浅山一伝流をはじめとして、刀をデコピンのように使う技は古流には実在する。

 そして剣術だけではなく、古流や中国拳法などの体術にも存在する。

 右手指を四本跳ね飛ばした後、僕はそのまま刀と柄を棒術のように相手の腕に絡め、スタンガン的な何かを弾き飛ばしつつ相手の顎を柄頭を回して強打した。

 

 通行人の多くが立ち止まり、悲鳴をあげる。

 動かない人間は無視していい。動く人間を探す。

 

「うわあああ!」

 

 やや離れた場所で、飛び出してきた音が原初の一(エンシェント・ワン)に銃を向けている。

 声を出している時点で素人だし、ターゲットの腹ではなく頭を狙ってる時点で三流もいいところだ。だが、彼が手にしている銃のようなものはいただけない。

 銃口が狙う先。空間を描く直線。この距離で放物線落下は無いだろう。

 人差し指。彼の顔。撃つ、という意の念。指は引く。

 

 ならば空間を描く直線の上に刃を置いておく。 

 

 居合いの要領で、最短で直線の上に刃を置いた瞬間に銃のようなものの引き金が引かれた。

 銃口から放たれた細い光の線は僕が置いた刃に分断され二筋に別れ、一本は廊下、一本は原初の一(エンシェント・ワン)のそばにいた生徒を貫いた。

 

 縮地。

 レーザー銃を撃った人間を含めて周囲の全員が唖然としているが、僕に言わせれば銃を撃てたということは空間に直線上の隙間があるということだ。

 走り(がか)りからの逆袈裟で相手の両腕を肘から切断し、続く袈裟斬りでアーマーに守られていない首を切断した。

 

 三人目の暗殺者が、首からぴゅーっと血を噴き出しながら倒れる。

 

 残心。

 一人目は右脇大動脈からの大量出血で死亡寸前。

 二人目は右手の指を四本切断、顎骨折で戦意喪失。

 三人目は両腕を肘で切断され、首も半ばまで切断された。

 

 敵に相当する者の動き……無し。

 

 刀をくるりと回し、香取神道流の血振るい動作で血を払う。

 こん、と柄を叩いてさらに刃から血を払い、納刀動作を行った。

 

「……いっちゃん、怪我はない?」

 

 僕は彼女に近づきながら尋ねる。

 金髪碧眼、長耳の美少女は立ちすくんだまま震えている。

 

「あいつら誰だかわかる?」

「多分……エネルギー産業の、潰れた大企業の元社員」

「第一種永久機関の影響を受けた人達、か」

 

 警備員を含め、色々な人達が足早に駆けつけてきた。

 

原初の一(エンシェント・ワン)、大丈夫ですか!」

「……なんだこりゃ。一刀両断? ってやつなのか」

「光学兵器の取り扱いには注意しろよ!」

 

 原初の一(エンシェント・ワン)の顔は、青ざめている。

 青ざめてはいるが、同時に()()()()()もいる。

 

「……また、死に損なってしまいました」

 

 そう言って、原初の一(エンシェント・ワン)は無理矢理笑った。

 

 

 * * *

 

 

 講義後に暗殺騒ぎが起きた後、警察に事情聴取された。

 聴取に時間がかかったので、既に外は夜空で、月も浮かんでいる。

 

 二人乗りの飛行ドローン車の名称は、ビートルというらしい。

 つまり夜空をビートルに乗って空中移動しているわけで、変な気分だ。

 

 ドアの窓ガラスに、こてんと頭を乗せるように。

 原初の一(エンシェント・ワン)は、無言でずっと外を眺めている。

 

 僕は僕で、暗殺騒ぎのせいでバラバラにされなかった実験室の風車――僕の実験の時とは違って元々大量に設置してあったから、余裕で余っていた――を手に持って、ふぅふぅと息で吹いて風車を回していた。

 不意に、原初の一(エンシェント・ワン)が夜空を眺めたまま、静かに語りはじめた。

 

「……私は突然変異体と言われていますが、要は失敗作なんです。その意味では、私の友人達はみんな失敗作です。造物主たる人間の思ったものが最初から出来なかった。人間が意図して遺伝子に組み込んだはずの機能は、中途半端なものだけ私に残り、その他はまるで見当違いの失敗作が出来上がってしまいました。ただ、私という失敗作のエルフが生まれた為に、他のエルフや亜人達が急死せず生き残るようになったのは皮肉な話ですが」

「人間は何を作ろうとしていたの?」

「元々は、ゴブリンの女性です。異常な少子高齢化や、過酷な環境に対応しながら個体数を増やしていく新人類たる生命体。少子高齢化の原因は、人間全体が性嫌悪症(初出・科学的5巻105P)に罹患してしまったせいだと言われています。草食系や絶食系という言葉を使っていた時代もあったようですが、今はそれすら越えて性行為イコール悪という風潮まであります。疲れたと言って自殺していく男性、男性が死んでも一切顧みない女性達。何が良いとか悪いではなく、個体数を増やすための性行為すら忌避するようになっては生命として終わりです。だから、個体数を増やすという目的に対して、積極的に性行為をおこない、不特定の相手との生殖行為……俗称・乱交も嫌がらず、そしてハーレムすら許容する、生命として大変都合の良い存在を産み出した方が早いと人間は判断し、遺伝子改造に着手しはじめました。……ゴブリン女性は、意図的に知能指数が一定数値以上に高まらないよう設計されていました。なのに真逆の存在と言える私が生まれました。……ふふっ、変な話です」

「セックスしないと、個体数もへったくれもないもんね。じゃあオークは、性嫌悪症の人間女性にとって都合の良い存在ってことか」

 

 しかし母体優先の法則がある以上、ゴブリンとオークも失敗作ではないのか?

 数千年~数万年単位で見ればオークすら消え、食料が少なく済むゴブリンに地上は満たされてしまうのではないだろうか。

 もしくは、人間からゴブリンに支配種を置き換えるつもりだった?

 

「一度に生まれる命を一つではなく二つや三つにできないかと、意図的に双子や三つ子を作り続ける研究もされたようです。ですが……神様がそう定めたのかどうかは知りませんが、命を分けることはできませんでした。一つの身体に二つの命を持つ結合双生児を意図的に作ることはどう頑張っても出来なかった。結合双生児ではなく寄生性双生児、つまり一つの命に複数の身体を持つ研究は成功しました。私の友達にしてケンタウロスのトゥー博士も、そうやって作られました」

「アラクネ女性も同じか。結合双生児ではなく寄生性双生児、の三つ子版。同時に、ゴブリンのように男にとって都合の良い存在」

「発想的には、もっと頭が悪い感じだったようですよ? 一度の性行為で二人や三人産むようになれば、という意味合いもあったようですから」

「……頭が悪いというか……なんでそっちの方向性にいっちゃったんだ」

「大体は、意図した遺伝子設計と別の何かが出来上がってしまい、そして意図的に出来上がった何かは長生きできず短命に終わっているようです。ラミアやハルピュイアはその好例ですね。鳥を参考にしようが蛇を参考にしようが、人間は卵生を得ることはできませんでした」

「待って、じゃぁデュラハンは首が切断されるような過酷な環境でも大丈夫なように作ったわけじゃなくて、もっと頭の悪い理由?」

「……性嫌悪症の人間から、オーラルセックスで採取した精液を肉体に還元することで個体数を増やせないかという、いわゆるフェラチオ好きの男性へのニーズというか……」

「あたまわるぅい……」

 

 じゃなきゃ口唇を性感帯にしたりしねぇか(科学的9巻137P)。

 

「トロールの声も男の庇護欲をそそるため、だっけ。トロール女にとっちゃ人間のペニスなんて小指を入れたぐらいに感じないだろうけれど、亜人である以上人間のペニスに文句なんて言わない。ヴァンパイアも亜人だから、人間を殺すより共存してペットにしたがる……頭の悪い意味で」

「だから、要は。亜人って全体的に、人間に対して都合良く作られているんです。仮に人間と亜人が戦争状態に陥ったとしても、何百年以上も戦い続けるような愚かな真似をしない限り、亜人側は人間を許してしまうでしょう。それぐらい、亜人は遺伝子的に惚れやすくなっているというか、性的嫌悪感を除去されているというか、ええと、その、つまり……」

 

 何百年以上も戦い続けるような愚かな真似、ね。

 内心でそう思いながら、僕はビートルのドア窓に反射されて映る原初の一(エンシェント・ワン)の顔を眺める。

 原初の一(エンシェント・ワン)の顔は、半泣きだ。

 

「魔法を使ういっちゃんが、どうして護衛なんか必要なのかと思ってたけど。要は人間を攻撃できない……いや、攻撃したくないから、が正解か。でさ、いっちゃん。魔法を使ういっちゃんに僕が怯えると思っていたのに僕が全然怯えなくて、あまつさえ護衛としてちゃんと働いてるから、いっちゃん的には動揺してるってことかな?」

 

 ふぅー。

 からから。

 息を吹いて、僕は風車を回す。

 

「怖く……ないんですか? 魔法を使い、強大な力を振るい、産み出したものが強大すぎて暗殺までされる。皆が怯えて近づいてこない、なのに私が振るう力だけを都合良く求められる! 私は人を求めるよう望まれて産み出されたはずの存在なのに、人の方が勝手に怖がって近づいてこない!」

「僕は別にいっちゃんのこと、怖くないけど」

「なんでですか! 怖がってくださいよ、嫌になってくださいよ! でないと……」

「でないと?」

 

 そこでようやく、原初の一(エンシェント・ワン)は僕の方を向いた。

 彼女は、涙を流している。

 

「ただの偶然であんな場所にいたわけ、ないじゃないですか。貴方を都合良く利用しようと、貴方の力だけを求めて、マムの天啓計算に従ってあの公園で待っていたんです。なのに……なのに! 私に怯えてくれさえすれば、人間のためと割り切って、貴方を解剖でもなんでも出来たというのに!」

「……ああ。異世界人は人間ではなく、最も無関係な亜人の一種(科学的14巻95P)なんだっけ」

 

 僕が原初の一(エンシェント・ワン)に怯えていたら、創世神の新連載とかはじまってたかもしれないね。

 でも、その新連載はきっとどこか、別の平行宇宙の話になったんだろう。

 

「いっちゃんは人間のために作られて、人間のために頑張っている。なのに、当の人間はいっちゃんに怯えるか、いっちゃんに寄り添わずに都合良く使い潰そうとしている。それでもいっちゃんは人間のために動いているわけだから……いや、違うか。違うな。もっと単純だ」

 

 織津江アイは、空気が読めない。

 いや、織津江パイセンが空気読めないって意味じゃなくて。

 ……相手の情報を丸裸にするから、駆け引きの妙とかそういうのがさァ!

 

「死にたくなるぐらい嫌われてるけれど、愛されたい」

 

  原初の一(エンシェント・ワン)を抱き寄せる。

 彼女は真っ直ぐな瞳で涙を流しながら、僕を見つめる。

 

「私、貴方を殺して解剖しようとしていたんですよ?」

「美少女が涙を浮かべるとか、ダメでしょ。即死魔法だよ」

「流れを見て掴む目なんて、いらなかった。私はどうして生まれてしまったの? 消えてなくなりたい」

「意味はある。絶対に意味はある。いっちゃんが生まれた理由(わけ)は必ずある」

「知らない、命の理由(わけ)なんて知らない、知りたくもない。私に待っているのは、死亡後に解剖されてホルマリン漬けになる運命だけ」

「でも人間を助けたい? 重症だね、いっちゃんは」

「だって私はそう作られてしまったから!」

 

 仕方ない。

 右手で彼女を抱き寄せて、左手に風車を持ったままだった僕は、彼女の顔に風車を向ける。

 

「可愛い女の子は、狼に食べられちゃうって言わなかったっけ?」

 

 風車が回り、風が原初の一(エンシェント・ワン)の顔にあたる。

 彼女は一瞬何が起きたのか理解できず、きょとんとしていた。

 僕が非物質的な存在の流れに風車をあてていると理解し、泣き顔が驚愕に塗り変わった。

 

 というか、そもそも彼女自身が最初に言っちゃってるんだよな。

 『ゴブリンを作ろうとして中途半端なものだけ私に残った』って。

 普通に愛されたいのに、解剖してホルマリン漬けにする目でしか見られないんじゃ死にたくもなるわな。

 

「天啓計算だかなんだか知らないけどさ。僕、悪い狼だから」

 

 そう言って、僕はいっちゃんを抱き寄せてキスをした。

 彼女は全く抵抗することなく、まぶたを閉じた。

 

 ビートルは、とうの昔に目的地に到着したまま、搭乗者達が降りるのを待ち続けていた。

 

 

 * * *

 

 

「ちゃらららっちゃ・ちゃらーん♪」

 

 翌日の朝。

 原初の一(エンシェント・ワン)の研究所兼住居の寝室。

 嬉しそうに口ずさむマムの声で、僕は目覚めた。

 

 隣で寝ている全裸の原初の一(エンシェント・ワン)は、可愛い寝顔だ。

 破瓜の痛みにもすぐ慣れ、昨晩は随分と可愛い声で鳴いてくれた。

 

 僕がジト目でマムを見ると、寝室に投影されているマムは何故かゆっくりと話し出した。

 

「おはよう……ございます。ゆうべは……おたのしみでしたね」

「どうぐ、マム、すてる」

「それをすてるなんてとんでもない!」

 

 僕は深いため息をつく。

 

「まさか録画とかしてないよね」

「最新コーデックの五感録画、クオリティ優先の容量無視で記録庫(アーカシャ)に保存済みです」

「この世界のAVどうなってんだ……」

「性嫌悪症の悪化により売り上げは低迷、経営が難しいジャンルの一つです」

「それ、放っておいても人間滅びるんじゃない?」

 

 僕は起き上がり、身体を拭いて服を着始める。

 下着類は、よくわからない科学で新品同様の綺麗さになっていた。

 

「マムはご飯とか作れんの?」

「赤飯とケーキを中心とした祝い膳。パンと目玉焼きとベーコンと豆のスープを中心とした通常の朝食とどちらがよろしいでしょうか。精力剤を配合した特別版もご用意できます。いち様との再戦も万全です」

「いや流石に今は寝させてあげようよ、処女を失った翌日は歩きにくいとかよく聞くし、休ませてあげたい。だから普通の朝食ね。というか赤飯の文化なんてあったんだ」

「ユーリ様。朝食後で構いませんので、お話をしていただきたい方がいるのですが」

「いいよ。誰?」

 

 マムは、青い竜の耳をピコピコさせた後、一礼してから答えた。

 

「現在、小地球の研究所にいらっしゃる、ケンタウロスのトゥー博士です。人類はいま滅亡の危機に瀕していますが、その最前線で戦っておられる方です」

「……どういうこと?」

「亜人を作った理由は、既にお聞きになられたのでは? 異常な少子高齢化や、過酷な環境に対応するためです。トゥー博士は前者の理由で生まれましたが、後者のために働いています」

「待って。なんでその話を知ってるの」

「悪い狼様。ビートルの制御をしているのは私です。いち様のファーストキスも録画済みです」

「クソがぁ……」

 

 何をすれば元の世界に帰ることができるのか、なんて考えていたけれど。

 こうなったら、とことんやってやる。

 

 一万年の間に、一体何が起きたのか。

 世界が帰っていいよと僕に告げるまで、じっくり調べてやる!

 

 

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