ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第142話 ??時間軸・禁忌案

 

 原初の一(エンシェント・ワン)が全裸にバスタオル姿のままだったのがいけなかった。

 そんな姿でボロボロ泣かれたら、もう抱くしかないじゃん。

 こういう時は、肌を重ね合わせて無心になるのが良い。

 

 『処女喪失の後は休ませてあげたい』という台詞は一体なんだったのか。

 甘えてくる彼女が可愛すぎるのが悪い。

 トゥー博士の死も、ちょっと衝撃的だったしね。

 

 それはさておき。

 未来知識を話す時って、なんか大事なワードだけ言えなくなったり、言ったはずなのに相手が認識できない異音になったり、そういう措置を上位存在からされるケースってよくあるよね。

 ……そういうのは、さっぱりありませんでした。

 だから、ベッドの中、お互い全裸でいちゃつきながらピロートークをしてたんだけど。

 

「なるほど、一万年後の世界から……しかも途中で平行世界の地球まで経由、ですか」

「いっちゃんも魔法を使えるんだし、転移出来るんじゃないの?」

「いえ、確かに私は流れを見ることも掴むこともできますが、そういった転移は出来る気がしません。推察するに、転移の際に四次元空間を利用しているのではないでしょうか? だとすれば、お兄さんが転移できて私が転移できない理由は、私が三次元視覚の感覚を持っていないからだと判断できます」

「三次元視覚の感覚?」

「私達は三次元空間に生きています。でも私達の目は、二次元的な平面として空間を認識する能力しか持っていません。無限に積み重なった二次元平面を見ることで三次元空間に生きているのです。ただ、お兄さんは武術の鍛錬で、三次元空間を無限の平面ではなく空間として認識できるようにずっと努力していますよね? 私達が暗殺者に襲われた時に、誰がどこにいるのか、光速で飛来するレーザーがどこを通るのか、お兄さんは正確に把握していました。これは擬似的に三次元視覚を持っていると解釈することができます。二次元視覚では、今の私はただの全裸です。でもお兄さんは、その気になれば私の中身、つまり骨や内臓まで見えてしまうのではないですか? 擬似的なものであれ、空間を空間として認識できる三次元視覚の能力があるからこそ、四次元空間を認識して利用できる。二次元視覚しかない私には三次元空間までしか利用できない。その差ではないでしょうか」

 

 その発想は無かった。つまり、空間聴勁(ちょうけい)音見(エコロケ)で空間を把握する鍛錬を重ねていたから、結果として三次元を三次元として認識できるようになった。

 そして三次元視覚を持つことは、四次元空間を認識するための絶対条件。

 

 その意味では、織津江パイセンも三次元視覚はあるのだろう。

 ただ、パイセンには流れを見る目と掴む手が無かった。

 多分、たったそれだけの違いだ。

 

「なるほど……人間が本来持っている危険察知能力を磨くことが、四次元空間を認識する条件である三次元視覚に繋がっていて、だから僕だけが転移できる……いやわからないってそんなの」

「深き不可知の迷宮に対抗するために、禁忌……内燃機関、外燃機関、電気、火薬を封じる策を実行したというのも、わかります。熱と文化を食べる化け物を相手にするのなら、私達エルフは仲間も含めて全員そう発想するであろうということも。ただ何点か、不明なことはあります」

「不明なこと?」

「マムで禁忌を維持するのなら、その必要電力だけで熱源を深き不可知の迷宮に察知されかねません。マムは第一種永久機関をエネルギー源にしていますから、連中の格好の餌食です。禁忌システムを維持し続けるには、なんらかの代替手段が必要になるでしょう。また、深き不可知の迷宮を倒すためという目的があったとしても、私達亜人は禁忌の発想はできても実行ができません。亜人は基本的に、人間に都合の良い存在として遺伝子レベルで作られています。だから、亜人が何百年も人間と戦争をし続けたのでも無い限りは、目の前に禁忌の実行スイッチがあったとしてもそのスイッチを押せないのです……亜人である限り」

「マムのエネルギー源はともかく、禁忌の実行スイッチは僕が押せばいいさ」

「政治・経済・軍事・通信・流通が崩壊、世界同時暴動と内戦、戦争、大飢饉に疫病。……禁忌の実行スイッチを押すということは、大量虐殺犯になるということですよ?」

「……なんだかんだでさ。生命って何度も絶滅しかけてるじゃん。でも、こうやってしぶとく生き延びてる。一万年後から僕が来てるんだから、少なくとも一万年は、人類は生き延びるよ」

 

 4億5000万年前、オルドビス紀末。火山噴火による地球寒冷化で、85%の生命が絶滅。

 3億8000万年前、デボン紀末。寒冷化と海洋無酸素事変により、82%の生命が絶滅。

 2億5000万年前、ペルム紀末。火山活動と気候変動から来る酸素濃度低下により、96%の生命が絶滅。

 2億100万年前、三畳紀末。地殻変動と連動した火山活動により、76%の生命が絶滅。

 6600万年前、白亜紀末。隕石衝突による全地球規模での気温低下(有力説)により、70%の生命が絶滅。

 

 これは、ごく一部だけ。前世地球だって何度も滅びかけてた。

 平行宇宙のこの地球だって、何度も同じように滅びかけたはずだ。

 

「あとは……モンスタースタンピード、でしたか。先ほどと同様に、システム維持のためのエネルギー源をどうするのか、といった悩みはありますね。()()……いえ、トゥー博士が作った認証IDチップのアップデートプログラムを参考にモンスターの思考を誘導するにしても、想定されるエネルギー量は莫大なものとなります。禁忌に関する奸計をめぐらせた人間をまとめて滅ぼすのは、認証IDチップで管理できる以上はグループ分けするだけなので、対象とするのは簡単なのですが……」

「マムは普段、どんだけ電気使ってるの……」

「大体、恒星系規模でしょうか」

 

 カルダシェフ・スケールにおけるタイプⅡ文明。

 太陽熱をそのままエネルギーにしてる感じか。

 

「……太陽光発電ぐらいにまで節電できない?」

「ちょ、ちょぉっと、厳しいですね……」

「そっか。僕が生きてきた世界の架空の小説の中では、コールドスリープとかよく出てきたけど、この世界だとコールドスリープってどうなってるの?」

「結論からいえば精子以上は不可能です。解凍するより、ナノマシンで臓器を新しく作り直して置き換えた方が早いです。ただ、仮に脳細胞を含めて全身を完全再現できたとしても、魂というか心というか、人間としての根幹を成す部分が戻りません。植物人間のできあがりです。だから、私を数百年先に送るようなことは、できないのです」

「うまくいかないなー」

 

 ごろり、と僕はベッドに身を投げ出す。

 ふと上を眺めると、天井に張り付いてる小さな動物が見えた。

 あれは、ヤモリだろうか。

 

「……ヤモリ?」

「ヤモリのヤっくんです。アラクネやヴァンパイアの足の、分子間結合の参考にしたんですが……捨てるのも忍びなくて。なんとなく飼い続けてます」

「ヤモリは飼うのが難しいって聞くけど……マムのサポートがあるからどうとでもなるのか」

「はい。でも、よくヤモリってわかりましたね。イモリとかトカゲとか、区別が面倒だと思うのですが」

「家がヤモリ、井戸がイモリ、地面がトカゲ……だったかな? この世界に井戸なんてないか」

 

 そういえば、と思い出す。

 

「トカゲで思い出したけど、ドラゴンってどうなってんの? 一万年後だと森の守護者として大絶賛、暴れてるんだけど」

「ドラゴン、ですか? 乱獲が激しかったので、モンスター園で保護されてます」

「……ヒュドラは?」

「クラーケンもですけど、大型のものは大体モンスター園で保護されてます。光学兵器でなくとも、人間の武器で一掃されてしまう生物ですから」

「なるほど……じゃあモンスター園で保護されてたやつが逃げ出したか何かで、全世界に広がったのかな……」

「禁忌後の世界は、大変そうですね」

「製鉄技術はちゃんとあるから、頑張ってるよ。禁忌があっても武器は作れる」

 

 ヤモリのヤっくんが、天井からこっちをじっと見つめている。

 僕はなんとなく、前世で遊んでいたゲームの小説を思い出した。

 

「……弱くて小さなトカゲが、夜を守りたいという夢を(いだ)いた。空を飛ばなければならないから、空を飛んだ。火を吹かなければならないから、火を吹いた。誰よりも強くならなければならないから、強くなった。トカゲは夜遅くまで起きれないから、トカゲをやめようと、来る日も来る日も頑張った。トカゲは永い永い来る日の果てに、ドラゴンとなった……」

「なんですか? それ」

「僕が生きてきた世界にあった、物語の中の小話……トカゲが頑張った話」

「ヤモリのヤっくんも、ドラゴンになるんでしょうか」

「分子間結合で三次元機動するドラゴンは怖いなぁ……空を飛んでくれた方がまだマシかも」

「ふふっ」

 

 ベッドに転がっている原初の一(エンシェント・ワン)が、ヤモリのヤっくんに手を伸ばす。

 手を伸ばしただけ。当然天井までは遠いから、掴めない。

 

「ねぇ、ヤっくん。深き不可知の迷宮が地球にやってきて、人類もモンスターも絶滅して、地球が小地球のようにただの餌になってしまったら。そしたらヤっくんがドラゴンになって、地球を壊してくれる?」

 

 ヤモリのヤっくんが、わかったとばかりに舌先をチロチロと出した。

 

「ありがとね、ヤっくん」

「別の物語だと、願いを受けて星ごと消すドラゴンの話とかあるんだよなぁ」

 

 ヤモリが、どうにもならなくなったらドラゴンになって星を壊してくれとお願いされた、

 ドラゴンにならなければならないから、ヤモリはドラゴンになった。

 火を吹かなければ身を守れないから、火を吹けるようになった。

 魔法を使わなければ星を壊せないから、流れを見る目と掴む手を手に入れた。

 ヤモリのヤッくんは、何千年もの努力の末、地球を星ごと消すドラゴンとなった……。

 

 ……まさか、そんな絵本のような話が起きるわけがないか。

 

 内心で苦笑していると、マムが室内に出現して一礼した。

 どうせ録画されてたんだろうし、裸を隠すのも面倒だ。

 

「いち様。小地球の居住区が全滅した件で、政府から分析と対策を求める連絡が来ております」

「……分析と対策って言われても」

 

 原初の一(エンシェント・ワン)の、困り顔。

 

「禁忌案でも送っとく?」

「そうする……()()の死を、無駄にしないためにも」

 

 禁忌は、祝福。

 禁忌は、呪い。

 後世では、色々と言われることだろう。

 

 だが、深き不可知の迷宮という化け物が、トゥー博士の死体を無理矢理稼働させて人工知能代わりに使い、人類どころか熱量(カロリー)となる何もかもを食い尽くす為に地球に来るというのなら、話は別となる。

 

 何度も滅びかけ、何度も原始時代に巻き戻り。

 気が狂わん程に、歴史の全てを最初からやり直すことになったとしても。

 それでもきっと人類はしぶとく生き延び続け、必ず最後は人間と亜人の皆で力を合わせて、なんならモンスターと一緒に、深き不可知の迷宮に勝つのだ。

 

 ならば。

 禁忌は、愛だ。

 

 

 * * *

 

 

 クトゥルフ神話の領域に足を突っ込んでいる深き不可知の迷宮に、主力武装を光学兵器に置き換えてしまった人類に勝ち目は無い。

 人間は、熱量(カロリー)と文化を捨てるしか生き残る方法が無い。

 那由他の確率の先で、誰かが魔法を手に入れるか。

 何度も人口を激減させ、何度も原始時代に戻りながらも、立ち向かうだけの力を手に入れるか。 

 

 文化の不要なモンスターに、地球を守ってもらうしかない。

 その上で、人間と亜人で手に手を取って、深き不可知の迷宮に立ち向かう。

 

「……マムのエネルギー源だけどさ」

「はい」

 

 僕と原初の一(エンシェント・ワン)は、禁忌案をまとめ、検討しながら愛し合う日々を過ごしていた。

 

「エルフの脳を生体コンピューターにして節電する案ってマジなの」

「マジです」

 

 マジ、という言葉がすっかり伝染してしまった原初の一(エンシェント・ワン)が、真顔で答える。

 

「今はエルフの数が足りません。計算上、最低でも三桁人数にエルフを増やして並列で繋ぐ必要があります。コールドスリープではなく、脳を活動させたまま生命活動を最低限に抑えるので部品として長持ちするでしょう」

「エルフ達の脳がコンピューター並なら、開き直ってコンピューターのように使ってしまえ、ということか……」

「禁忌を実行すれば、多くの人間が死ぬことになります。エルフを部品扱いすることなど、今更でしょう」

 

 エンシェントエルフを、禁忌の核とする案。

 原初の一(エンシェント・ワン)は、禁忌を実行し、管理・維持するためのシステムを淡々と考えていく。

 

「ただ、これはあくまでも節電案にすぎません。マムのエネルギー貯蓄をマグマ偽装して隠すにしても、マムを稼働させ続けるための莫大なエネルギーを何十年か何百年かに一度、補充しなければなりません。マムのエネルギーが枯渇する前に、恒星系規模のエネルギーを不定期であれ補充する方法がなく……」

「違うよ、いっちゃん。いっちゃんは人間にとって都合の良い存在だから、人間を使う案は亜人としてのいっちゃんにはつらい考えというだけなんだ」

「お兄さん……」

 

 恒星系規模のエネルギーを、不定期に補充する方法。

 

「つまり、人間を使えばいい」

「……人間を?」

「平行宇宙の地球の人間を、電力不足になる前にこちらの世界に持ってくる。その際に発生する位置エネルギーを、マムの電力としてお裾分けしてもらおう。平行宇宙の地球は、毎年ものすごい人数の行方不明が発生してる。万の人数が行方不明になっている中、少々異世界転移してきたとしてもわかりゃしないよ。もしかしたら、モンスタースタンピードで巻き戻った文明を進化させてくれるかもしれないし」

「問題があります。私の力では、平行宇宙間の転移は扱えません。今のお兄さんも、転移は使えません。禁忌がはじまってから、最低でもお兄さんが転生体として出現する約一万年もの間を、流れを見る目と掴む手を持つものが世界を見守り続ける必要があります」

「いっちゃん、遠回しはいらない。何が必要なんだ?」

「四次元空間を認識できる人間が、四次元空間の住人としてマムの管理人になることが必要です。理論上は、過去も現在も未来も等しく同じになる。等しく同じだから、今も一万年後も、四次元空間の住人にとっては変わらない。もしかしたら、六次元以上の余剰次元にエネルギーをしまいこむことで、深き不可知の迷宮の感知から貯蓄エネルギーを隠し続ける手段もとれるかもしれない。行ったことも見たことも無いから、一万年もの時間を四次元空間の住人として過ごすのがどういうことなのか、正直シミュレーションすらできませんが」

 

 いきなり話が難しくなった。

 余剰次元と言われても困る。

 

「深き不可知の迷宮がいる時だけ三次元空間に出てきて、倒したら四次元空間に戻るとかそういう都合の良いことは……無理か」

「流れを見る目と掴む手を持った上で、空間認識ができて四次元空間に入れる人間が、同時に二人以上出現する可能性に賭けるのであれば、アリです」

「うん、まぁ、僕の転移能力が戻れば、四次元空間の住人になれるかもしれない。そうすれば、マムの管理人になれるかも。となると、アレだ。僕が名実ともに『ヒモのお兄さん』になれるってことだね。超弦(ヒモ)理論だけに」

 

 原初の一(エンシェント・ワン)に、笑顔で蹴りを入れられた。

 うぇーん、痛い。

 

 

 * * *

 

 

 小地球の探索をすることで、化け物たる深き不可知の迷宮を目覚めさせてしまい、小地球の居住区が全滅した。

 このままでは天鳥船(アメノトリフネ)に乗っている兵士達も全滅だし、一刻も早く帰還させたほうがいい。

 

 ただ、深き不可知の迷宮が星を渡ってやってきた生物なら、天鳥船(アメノトリフネ)があろうがなかろうがいずれは地球にやってくる。そうなれば、人類は遅かれ早かれ禁忌と向かい合うしかない。

 

 政府に対して禁忌案を提出して暫くしてから、内閣府庁舎へと説明に来るよう政府から要請があった。禁忌に対する理解と協力を得るためには、説明でもなんでもするしかない。

 原初の一(エンシェント・ワン)と護衛の僕は、急ぎ内閣府庁舎へと向かった。

 

 その行為が、原初の一(エンシェント・ワン)の本当の命日に繋がるとも知らずに。

 

 

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