ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第143話 ??時間軸・原初の一

 

 僕達は禁忌案の説明のために内閣府庁舎へと訪れ、指定された待合室で待っていた。

 

「いやーそれが案外まずくてさ、ドラゴンの肉。笑い話にしかならないよ」

「ドラゴンやクラーケンが美味しかったら、簡単に絶滅してしまうのでは?」

「違いない。ドラゴンステーキを食べるために、連中を絶滅させる自信がある」

 

 原初の一(エンシェント・ワン)と護衛の僕が談笑していると、怯えた顔のスーツ姿の男が一人、入室してきた。

 彼は室内を見渡すように確認してから、挨拶もそこそこに向かいの席へと座る。

 

「あ、あのー、エンシェント・ワン様。政府の決定事項をお伝えします」

「……聞きましょう」

「最新鋭の天鳥船(アメノトリフネ)は、技術力で頭一つ抜けている我が国の威信がかかっているため、撤退は許されません。同時に、八割以上の人間が死ぬと推測されている禁忌案もまた、到底容認できるものではありません。『エンシェント・ワンの解剖をおこない、人間は魔法という新しい扉を開くべきである』という案に、国連に加盟している全ての国が賛成しました。この通知を持ってエンシェント・ワンの人権を剥奪、魔法の解明のために善意の協力をしていただく流れとなっております」

「はぁ?」

 

 思わず僕が聞き返す。

 スーツ姿の男は、怯えた様子で続ける。

 

「へ、変な真似は考えないでくださいね? どのみちエンシェント・ワンは人間の為に生きるよう、最初から設計されております。時期が早まっただけで、これはそもそも規定事項なのです」

 

 最初から彼女を研究するつもりだった。

 彼女に利用価値があるから利用していたが、そうも言ってられなくなった。

 偉い人達の既得権益が以下略、権力が以下略、資産が以下略の為に、エンシェント・ワンは遅かれ早かれホルマリン漬けの研究材料となる。

 

 男が見ていた室内のポイントを再確認してみる。

 先ほどまでは何の変哲も無い壁や柱、背景の一部だったものに、小型カメラのレンズのようなものが生えている。

 二桁単位のレーザー発射口が、僕達二人を見ている。

 

 原初の一(エンシェント・ワン)は、微笑を浮かべた。

 

「……別れの言葉ぐらいは、許されますか?」

「なっ、何かあれば、正当防衛としてレーザーを撃ちますので……」

 

 男は新人か何かで、生け贄の羊というだけ。

 ここで怒りにまかせて彼を殺しても、何の意味も無い。

 そして解剖は、死体が相手でもいい。

 

「お兄さん。二つ、お願いが」

 

 原初の一(エンシェント・ワン)が、まっすぐこちらを見ながら問う。

 

「……なんだって聞くよ。言って」

()()()()になってください」

()()()()でいいの?」

 

 向かいの席に座っている男は、何のことかわからず首を傾げている。

 『お母さん』も、『その二つ』も、彼には意味不明だろう。

 僕は彼女の言葉に、寂しく笑う。

 

 原初の一(エンシェント・ワン)と愛し合う日々の中で、女性体になれることも説明して、実演してみせたけど。

 まさか、こんな使い方をするだなんて、なぁ。

 

「おいで、いっちゃん」

「はい。愛しい人(ダーリン)

「ダーリンときたか」

 

 僕は苦笑する。

 彼女は、僕の頭を抱きかかえる。

 

未来はあなたのために(Future is Yours)

 

 返礼として、僕は原初の一(エンシェント・ワン)を左手で優しく抱きしめる。

 

愛してる(I Love You)

 

 彼女は嬉しそうに笑ってから――私を殺して、という一つ目の願いを強く思い、顔に出しながら――僕に口づけをした。

 僕は、右手に隠し持っていた試験片(テストピース)の短刀で、原初の一(エンシェント・ワン)の肋骨の隙間から心臓を肺ごと貫く。

 

「ひいっ!?」

 

 向かいの席のスーツ男は、愛の言葉から突然の刺殺に驚愕の悲鳴をあげた。 

 彼女の口から溢れ出てくる血が、僕の口の中に入ってくる。

 

 僕の背が少しだけ短くなる。

 身体は丸みを帯び、乳房や尻が膨らみ、腰のくびれが強まり、銀の髪が長く伸びる。

 私の体内に疑似膣と疑似子宮が生成され、陰茎や陰嚢が体内に格納された。

 

 心臓と肺を損傷した原初の一(エンシェント・ワン)の血が、私達の口腔内を経由して、ナノマシンで保護された受精卵を私の胃に運び込む。

 私の体内のナノマシンが、エンシェント・ワンの受精卵を疑似子宮内に運び込み、子宮内膜に強引に着床させた。

 子宮内膜に受精卵が着床することを、医学的には妊娠と呼ぶ。

 

『ゴシュジンサマのユーリ。暫くは男性体に戻れない』

『わかっています』

 

 原初の一(エンシェント・ワン)()まれ、()きてきた証が、私の服を真っ赤に染め上げていく。

 私は立ち上がりながら、短刀を引き抜く。

 この状態で短刀を抜くと肺の空気が全部出て、呼吸困難となり短時間で死に至る。

 

 上半身が血で染まった原初の一(エンシェント・ワン)が、幸せそうな笑顔のまま死んでいく。

 彼女の身体を、灰も残さず燃やし尽くしたくなる。

 でもそれをやると、生きている亜人達を全員解剖されかねない。

 業腹だけど、解剖もホルマリン漬けも連中の好きにさせるしかない。

 どうせ奴らは、何も手に入れることができない。

 

「れっ、レーザー! レーザーを!」

 

 スーツ姿の男が叫ぶ。

 文字通りの光の速さでレーザーが私の身体を貫こうとしたまさにその瞬間、私を一万年前の世界に飛ばした存在が、私を転移させた。

 だから数十ものレーザー光線は、何も無い空間を貫くことになった。

 

 

 * * *

 

 

 護衛の男がお母さんになれと言われ、原初の一(エンシェント・ワン)とキスをして、彼女を刺殺した。

 そうしたら、護衛の男が女になった。

 正当防衛としてレーザーで反撃したら、部屋の中からかき消えた。

 彼の質量も熱源も何もかも、大量のセンサー群の探知範囲から突如消失した。

 

 録画記録は、新人職員が見た光景と全く同じだった。

 新人職員は胃壁に穴が開き、入院治療するハメになった。

 

 

 原初の一(エンシェント・ワン)は表に姿を見せなくなったが、彼女の家に連絡すると常に画面上で応対してくれたので、特に問題は発生しなかった。

 何十年か後、偉大なる原初の一(エンシェント・ワン)が寿命で亡くなったことは大きな出来事として石碑に残された。彼女が寿命で亡くなった事実を後押しするかのように、彼女の業績を称える出版物などが発行された。

 

 天鳥船(アメノトリフネ)は、小地球での事故により帰還不可能になった。

 天鳥船(アメノトリフネ)の乗員達は、小地球の居住区で過ごしたまま極秘任務につき続けることになったので、身内すらも乗員達のその後を知ることは出来なかった。

 

 何も無かった。

 小地球にも、原初の一(エンシェント・ワン)にも、天鳥船(アメノトリフネ)にも、何も無かった。

 そういうことになった。

 

 だから人類は何事もなく、約150年以上、幸せな日々を過ごすことができた。

 人類は150年以上も、現実逃避をすることができた。

 

 

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