ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第144話 ??時間軸・愛しい娘

 

 優しい手が、私の頭を撫で続けている。

 淀んだ意識の中、うっすらと目を開ける。

 

 私は膝枕をされていて、頭を撫でられている。

 柔らかい太股の感触も感じている。

 

 物凄く長い金髪が、揺れている。

 体躯や顔は、原初の一(エンシェント・ワン)に似ている……が、やや幼い印象を受ける。

 

 アドリ=ブヨーワ公爵家に呼ばれ、マイゴーノ領まで馬車で出かけたあの日。

 馬車内でうたた寝をしてしまった時の光景と、全く同じだ。

 あの時の私は、彼女に対して最後にエンシェント・ワンと声をかけた記憶がある。

 だがこうしてじっくり彼女を見ると、わかる。似ているが、彼女ではない。

 

 周囲は、夜の森だ。

 大量のオーク達と、大勢のレッドキャップが整列している。

 小数だが、アラクネ女性の姿も確認できる。

 

 あの時と同じだ。

 織津江大志が目の前にいても気づかれなかったように。

 

 彼らの前に立つ、ヒビの入った面をつけている白面金毛にも。

 そばにいる長老面のレッドキャップにも。

 私が黒い面をつければこうなるだろうかという、黒面銀毛にも。

 

 誰にも気づかれていないのに、最前線の特等席で見ているかのよう。

 次元という壁の向こうから、景色を覗いている?

 

「本作戦の発案者にして人類の裏切り者・黒面銀毛です。本作戦の説明をします」

 

 私と同じ声、同じ背格好の女性が、夜の森の中でそんなことを語り出した。

 見れば、景色の向こうに人間の街が見える。

 あれは……【死の森】前要塞?

 

 私を膝枕して、頭を撫で続けている金髪の少女はクスクスと笑う。

 

「黒面銀毛とか、面白すぎ」

「……あれは……誰? 私?」

 

 思わず声に出すと、金髪の少女は含み笑いで。

 

「女性として生まれてしまった平行宇宙のパパです。美人の女性として生まれてしまったパパは、家族を含めて色々な人にレイプされそうになっちゃったんです。だから全員返り討ちにして皆殺しにしてたら、最終的に誰も近づいてくれないぼっちになっちゃって。今はここにいるパパの代わりに頑張ってくれてるんだけど……人間が友人になってくれないのなら、亜人を友人にするって言い出して、パパの計画を微調整してはりきってるんです。全部空回りしてるのが、また面白くて」

「空回りしてるんだ……」

「見ててください、ドン引きなこと言いますから」

 

 視線を黒面銀毛に移す。

 

「私が【死の森】前要塞の最東端にある隠し脱出路の出口を開けますので、そこから逆に辿って一気に内部に突入します。通路となっている地下坑道には幾つも鉄扉があって、自在に行き来できるのは鍵を持った部隊だけですが、私が! 皆さんの! ために! 鍵を持った部隊を殺して鍵を奪っておきました。なので先行でレッドキャップの皆さんが夜襲をかけて城壁内に侵入、鏖殺を開始してください。バリスタは基本的に外に向いているので、一度内部に侵入してしまえば無用の長物です。バリスタを壊さずに要塞を占領できれば、後日奪還にやってきた人間を殺すために使えます。後は混乱の中、白面金毛が南門を開けるので、オーク部隊とアラクネ部隊は一気に雪崩れ込んでヤっちゃってください。中央からの脱出坑道は北・南・東の三箇所のみですが、あえて潰さすに出口にアラクネ女性を二人組(ツーマンセル)で配置しておけば一人も逃すことなくいけると思います。子供を連れた娼婦とか狙い目だと思うので、レッドキャップの皆さんは頑張ってください」

「しょ、諸君。我らレッドキャップ種が誇る英雄・白面金毛と、人類の裏切り者・黒面銀毛がいれば要塞の奪取は成功したも同然である」

 

 長老面のレッドキャップが、白面と黒面を紹介する。

 ざわついていたオーク達が、ワンテンポ遅れて『お、おー!』と歓声をあげる。

 

 私は、黒面銀毛の作戦を聞いて眉をひそめる。

 

「逃げ道すら封じてるから、余裕で人間が皆殺しになるんじゃ……」

「それどころか、黒面銀毛さんはオーク帝国の使者をこっそり殺して人間と亜人の交渉の可能性を無くすつもりです。人間はどうしようもない鼠さんになって、猫さんに噛みつきはじめるので双方の死者数がわりと酷い数字になります」

「孫子の兵法、囲師必闕(いしひっけつ)を女性の私は忘れているのでしょうか」

「生き方の違いですね。彼女は憎しみの連鎖がイヤで、根っこから皆殺しにする人生を送ってきたので、窮鼠が猫を嚙んで死兵になることはむしろ望むところなんだと思います」

 

 囲師必闕(いしひっけつ)

 要は、敵の逃げ場を残しておいてあげようね、という策。

 敵から降伏も逃走も奪ってしまうと、敵は死兵となるしかないので被害が甚大となる。

 勝ち戦が目前なのに死にたくない兵士は戦意が落ちるので、余計にぐだぐだが増す。

 

「このまま見てても良いのだけれど……もうそろそろ、自己紹介をしてもらっていい?」

「二度目まして、パパ。愛しい娘(スィーティ)とでも呼んでください。今はパパのお腹で受精卵になっている、パパといちお母さんの娘です。一応、セイお婆ちゃんの子供のいちお母さんの娘として転生する予定なので、二重の意味で娘になります」

「待って、情報量が多い……」

 

 さらっと混乱させないでほしい。

 

「私はパパから産まれた後、約一万年をマムの管理人として四次元空間の住人として管理します。禁忌の核となったエルフ約100人と共に、節電用の生体コンピューターになる人生を送るというわけです。パパが将来深き不可知の迷宮(ふかふかダンジョン)を倒せば私達は全員お役御免になるので、マムの完全復活と共にみんな一緒に輪廻の円環に加わることになります」

「そっか……一万年を生体コンピューターとして頑張ってくれたんだね……」

「私は最短最速のタイミングでパパに会いたかったから、パパのハーレムにおいて近親相姦を許してくれるセイさんの子供にいちお母さんを転生させました。創世神の管理システムをクラックするだけなので簡単でした。後は、セイさんの娘として生まれた原初の一(エンシェント・ワン)こといちお母さんが抱ける年頃になった際、パパがいちお母さんに膣内射精(なかだし)をしまくってくれれば私が娘として転生できるという流れです」

 

 愛しい娘(スィーティ)が、左手の人差し指と親指で輪っかを作って、右手の人差し指を出し入れするジェスチャーをおこなう。

 

「ずっこんばっこん、パパは頑張ってください」

「……私が、娘を抱くのは確定なのですね……」

「ここをどこだと思ってるんですか? 創世神(KAKERU)の世界ですよ? 近親相姦なんて、加護がつくレベルで応援されるに決まってるじゃないですか」

 

 乾いた笑いが浮かぶ。

 そうか、この()は四次元空間の住人で、なおかつ創世神の管理システムをクラックとか言い出せるぐらいには、次元の向こう側を含めて全てを理解できてしまっているんだ。

 

「私がTS処女懐胎とかしている時点で、今更という話ですか」

「ケンタウロスには、父親が娘に性教育をするよう調整しましたし。全てが終わった後、人間と亜人が手をとって仲良くなっていく過程で亜人達の文化が人間にも浸透していくから、出産と子育ての練習という名目で実の娘を孕ませることに対する忌避感や嫌悪感は、なんだかんだで薄れていきます。つまり私、大勝利です」

「手を取り合うということは、文化の融合も意味する。一万年かけて減った人口が、今度は増えながら混ざっていく……」

「ケンタウロスのレプラさんとパパの娘として、ふたさん……トゥー博士が転生する予定なので、人工知能代わりに使われてる今の博士はさっくり殺しちゃってください。転生した博士も、抱いてあげるときっと喜びますよ。転生だけあって彼氏作るの下手なんで。ケンタウロスなのに」

 

 トゥー博士の転生の話自体は嬉しいが、抱いてあげると喜ぶというのも複雑になる。

 でもケンタウロス的には当たり前だから、母親のレプラ自身がそれを推奨する。

 

「……近親相姦の二人目ですか。いえ、一人目?」

「そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()んですよ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なはずです。パパが手を出さなかったナァルさんやメキシさん達も、パパが抱こうと思えばいつでも抱けますし、ジャンさんもクロスさんもボーゲンさんも白面金毛さんもテオさんも、パパに口説かれたら一発で陥落するはずです。別の世界線において『人類はジャン君に美少女ハーレムの100人ぐらいは贈呈していい』とパパは考えていたようですが、この世界線においてハーレムの100人を贈呈されるべきはパパなんです。パパの好みがどう変化しても良いように、人間でも亜人でも、男でも女でも、パパが望むハーレムを望むがままに作れる、そんな感じになっていたはずです」

「私にとって、都合の良い世界……」

 

 思い当たることばかりで、苦笑するしかない。

 

 考えてみれば、幼少時の自分に無理難題を出されたのは、私を家に縛り付けておきたいという両親や兄弟の意思だったのかもしれない。

 ニク=ドレ卿に目をつけられたのも、ビケワ嬢が結婚のために暗黒大陸に渡ったのも、もしかしたら、ビジョレがビケワになってしまったのも。

 二桁人数のハーレムが一切破綻していないのも、調整されているからなのだろうか?

 

「クコロやアイリスにも、再会できるのかもしれないのですね」

「今世かどうかはわかりませんけど、いつか、きっと」

 

 愛しい娘(スィーティ)の手が、私のお腹に触れる。

 その瞬間、何かが吸い出された感覚がした。

 

「今この時から、私は四次元空間の住人となり、過去と現在と未来が等しくなりました。マムの管理人となり、結果として一万年を見続けることになります。八百万(やおよろず)の関係で異世界転移に対応しやすい日本人を強制転移させ、エネルギーを高次元空間に潜ませて……パパとママのセックスを見たり、パパのハーレムセックスを見たり、プラチナさんにフェラチオされてうろたえるパパを見たり、人間と亜人が戦いはじめるところを見たり、色々見ながら一万年を過ごします」

「……もう少し、違うものを見ていいんですよ?」

「パパ。私もパパにとって都合の良い存在なんです。いつでも抱いてくださいね」

「近親交配を何代も繰り返すのは、ケンタウロスでも駄目なはずでは……」

「パパの言葉を借りれば『知ったことか』です」

 

 私は思わず、両手で顔を隠してしまった。

 愛しい娘(スィーティ)が、くすくす笑う。

 

「何か聞きたいことはありますか? 見張り人(ウォッチャー)のかまいたちのこととか、知りたければ教えますよ」

 

 私は、首を左右に振る。

 

「お腹を痛めて貴女を産む覚悟を決めていたのに、もう産んだ、と言われて正直拍子抜けです。……私が次に何をすればいいのかだけ、教えてください」

「パパを、深き不可知の迷宮(ふかふかダンジョン)が地球に来る日に飛ばします。禁忌のスイッチを入れる、とマムに宣言してください。禁忌の実行は、エルフ達にもマム自身にもできません。そしてマムに命令できる人間は、当該時間軸において、事実上一人だけです」

「つまり……」

 

 私は、僕に戻った。

 

「僕は男の身体に、戻って良いということか」

「私を抱いていきますか?」

「受精卵を抱くとか、娘の中でパパはどんな性癖になってるの?」

「ちぇー」

 

 そう言って、愛しい娘(スィーティ)は僕の頬にキスをする。

 

「一万年モノの喪女を舐めないで下さいね? 受精卵であると同時に、私は一万歳の処女なんです」

「三次元空間で再会するまでに、腹を括っておくよ」

「なるべく早めにお願いしますね」

「娘として転生したいっちゃんを抱く話とか、いっちゃんの娘から聞きたくなかったよ」

 

 肩をすくめて、苦笑するしかない。

 

「ああ、お母さんの部屋に飛ばす予定なので、服はそこで着替えていって下さい。今は服の見た目の時間軸をずらしているだけなので、三次元空間に戻ったら血塗れの服に戻ってしまいます」

「……わかった、ありがとう。シャワーも食事も出来そうだ」

 

 娘の膝枕を堪能しながら、別れの挨拶をする。

 

「スィーティ、僕といっちゃんの愛しい娘。この世界をお願い。きっと、また会える」

「はい、パパ。姿はエルフじゃないかもしれませんが」

「そんなの、気にしないよ」

 

 手を伸ばし、娘の頬に触れる。

 

「どんな姿でも。愛しい娘は、愛しい娘さ」

 

 愛しい娘(スィーティ)が、長い金髪を揺らして微笑んだ。

 

 

 * * *

 

 

 寝転がり、手を伸ばしたままの体勢で、最近見慣れていた原初の一(エンシェント・ワン)のベッドに出現していた。

 口も服も、原初の一(エンシェント・ワン)の乾いていない血で染まり、匂いが凄い。

 

 窓から見える景色に大差はなく、この部屋も綺麗なままだ。

 だが、離れたテーブル上に置かれていた時計が、内閣府庁舎に呼ばれた時から150年以上の年数が経過していると教えてくれる。

 

 よろよろと起き上がると、室内にホログラムが出現した。

 マムは、ただ静かに頭を下げている。

 

「……わかってる。シャワーを浴びてくるから、食事をお願い」

「外は陸海空の全ての軍隊が動員されており、迎撃態勢を進めています」

「禁忌の準備は?」

「もう既に。エルフの人数が多かったため、設備はショッピングモールを偽装した建物の地下深く、複数箇所に分散配置しています。設備の目印として、エンシェント・ワンの偉業を称える賢者の杖に疑似時間停止措置を施して、永遠に朽ちぬよう建物内に飾ってあるので、数万年の先でもユーリ様に会うことはできるでしょう」

 

 もしかして、原作でジャン君達が立ち寄らなかった暗闇のエリアの奥だろうか。

 

「何が起きたのかは、聞かないの?」

「そのお姿を見れば、わかります。いち様は寿命で亡くなった、そういうことになっております」

「人間は愚か」

 

 

 僕は苦笑しながら洗面所で服を脱ぐ。

 シャワーを浴びながら、ぼんやりと考える。

 

 聖典564項、(よこしま)な人殺しが主の敬虔な信徒となり人を救い続け、ついには救済された。

 僕は革命で全人類を救い続けたから、(よこしま)な人間として一万人ぐらい殺しても救済される……なんてことを、ネゴ神父とシエ神父に言った記憶があるけれど。

 

 禁忌はエンシェントエルフ達の総意であり、原初の一(エンシェント・ワン)の願いでもある。

 

 ならば禁忌は呪いではない。

 ゆえに禁忌は祝福ではない。

 

 人類の未来をエルフ達が必死に考えた先にあるもの。

 生体コンピューターとなってまで人類に身を捧げたエルフ達が見守る先にあるもの。

 

 だから禁忌は、愛だ。

 (よこしま)でもなんでもない、純粋な想い。

 

 わかったよ、いっちゃん。

 わかったよ、トゥー博士。

 わかったよ、マム。

 

 人類の代表として。

 大量虐殺の引き金を、僕が引こう。

 

 そうなるとハーレムは報酬というより、もはや義務なのでは?

 カスメじゃないけど、子供を沢山増やさないとダメなのでは?

 

 僕は自嘲しながら、シャワーの温水を止めた。

 

 

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