ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

145 / 153
第145話 ??時間軸・禁忌実行

 

 星間連絡船、天鳥船(アメノトリフネ)が未帰還であることを、人類は150年以上伏せていた。

 情報を伏せていたことすら忘れかけた頃、人類は大昔の記憶を思い出すことになった。

 

 航空宇宙局コントロールセンターは、普段の静けさとは打って変わって、異様な熱気に包まれていた。メインスクリーンには、複数の監視衛星からのリアルタイムデータが、目まぐるしく更新されている。

 

「識別コード『アメノトリフネ』。火星軌道を逸脱後、変わらず最短コースで地球に向かい続けています」

 

 軌道上の衛星を含んだ、人類が設置した全ての監視システムが、小地球から地球へと向かう天鳥船(アメノトリフネ)の姿を捉えていた。

 

「軌道計算のシミュレーション結果は変わらず。ポイント北緯33度53分、西経118度24分」

「空港を含んだ沿岸の大都市を直撃と推測」

「光学観測班より連絡。最大望遠画像、スクリーンに」

 

 メインスクリーンに、最大望遠で捉えられた天鳥船(アメノトリフネ)の画像が拡大表示される。

 そこに映し出された光景は、人々の度肝を抜いた。

 

「あれは……粘体なのか? 船体が、白い粘体に覆われている?」

 

 異常な姿に変貌した、天鳥船(アメノトリフネ)の姿。直方体の船体は白くブヨブヨとした粘体に覆われ、巨大なアメーバが棺を飲み込んでいるかのようだった。

 

 

 * * *

 

 

 宇宙軍基地 統合任務部隊(JTF)司令部。

 北方軍司令官直属の統合任務部隊(JTF)司令官が、険しい顔で司令部中のスクリーンを眺めている。

 司令官の隣には、軍服姿のマムが3Dホログラムで立ち、控えていた。

 

「警戒態勢アルファ。コード・レッド発令。目標、アメノトリフネ改め『異形(Abberation)』。大気圏突入ポイント予測、トゥー・ビーチ上空に変更無し。海軍艦艇はポイント・ブラボー、陸軍はグリーンゾーンに展開中」

 

 マムの明瞭な声が、司令部に響き渡る。

 メインスクリーンには、落下軌道のシミュレーションラインと、実測値が重ねて表示されている。友軍の部隊記号が、猛スピードで展開している。

 

「旗艦空母『エンシェント・ワン』、艦載機の展開完了。全機周辺空域にて待機中」

 

 マムが冷静に報告する。

 

「空母は沖合50マイルに陣取れ。艦載機群は戦闘空中哨戒(CAP)を展開、空域をクリアに。異形(Abberation)が大気圏に突入次第、海軍の艦砲射撃と陸軍の対空射撃を開始。光学兵器の出力は最大にせよ」

 

 司令官の指示を、マムが各所に展開していく。

 スクリーンに艦載機群の編隊が表示され、オペレーター姿のマムの顔とパイロットの顔が合わせて表示される。

 

「デルタワン、こちら管制。トゥー・ビーチ周辺空域は現在、完全にクローズド。民間機トラフィックなし。目標、現在エンジェル・ワンハンドレッド(高度100,000フィート)、カーマンラインを突破中。大気圏突入まであと5分。降下速度、マーチ・エイト(マッハ8)を突破」

「了解。デルタワン、エンジェル・フィフティ(50,000フィート)にてインターセプトポイントを確立、待機する。現在、ビーチ上空は視認良好、地上はクリア」

 

 司令官のそばにいる軍服姿のマムが、司令部に報告する。

 

「トゥー・ビーチ沿岸、陸軍が防衛ラインの構築完了。『レイピア』、全基オンライン」

 

 陸軍最新鋭の移動式高出力レーザー砲塔『レイピア』が無数に展開され、それぞれが空に向かって照準を合わせていた。

 マムの報告と、司令官の指示が重なっていく。

 

異形(Abberation)、大気圏突入まであと2分。カウントダウンスタート」

「目標に照準合わせ。チャージ開始」

「了解。艦砲射撃、及び対空射撃のチャージを開始します」

 

 120から開始されたカウントダウンの数字が、やがてゼロとなった。

 マムの声が、司令室に響く。

 

「目標、大気圏突入を確認」

「ファイア!」

「ファイア」

 

 海と陸、一斉に放たれた無数のレーザービームが、青空を切り裂いていく。

 巨大な光の槍が何百本も突き刺さるように、天鳥船(アメノトリフネ)の巨大な船体を貫く。

 天鳥船(アメノトリフネ)は、集中砲火を受けて激しく閃光を放ち、やがて大爆発を起こした。

 

「やったか!」

 

 司令部に歓声が上がる。

 爆発と共に、白い粘体が幾千幾万もの小さな塊となって四散していく。

 

「待て、あれは……!」

 

 大気圏突入時のすさまじい熱を吸収し、小さな白い塊はみるみるうちに膨張していく。

 まるで生命を得たかのように、熱を食らいながら分裂し、その数を増やしていく。

 

 1が2に。2が4に。4が8に。8が16に。

 大きく、より大きく、さらに大きく、もっと大きく。 

 

「デルタワンより管制、目標は現在エンジェル・シックスティ(60,000フィート)を通過、連中は急激に増殖および拡大中! 降下速度、マーチ・スリー(マッハ3)に減速。地上落着まで、推定約3分!」

 

 灼熱のプラズマに包まれながら、幾千幾万もの流星が落下してくる。

 大きく広がればより熱を喰えると判断した白い塊が、自らの身体を大きな傘のように広げた。

 そのおぞましい姿は、まさしく悪夢の具現化だった。

 

 

 * * *

 

 

(BGM:機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ 「TRACER」)

 

 Our terra firma

 Our terra firma

 

 我らが地球に、クソ共が降り注いでくる。

 光学兵器の直撃を受けて喜ぶ敵ってなんなの。

 原作より強化されてない? 

 

 Turn off the moves that you memorize

 Oh, and all of the shows that have dazzled your eyes are momentary lies

 

「うえー、マジか。大気圏突入の熱まで喰ってんのか、アイツ等」

「小地球を食い尽くして眠っていたぐらいですから、飢餓状態なのでしょう」

 

 Now you have a chance

 You blink and you die whenever you see my tracer fire

 

 装備をチェックしながら室内でスクリーンを眺めていた僕は、げんなりとした。

 原初の一(エンシェント・ワン)の室内には、司令部と同等の情報がわかるスクリーンが展開されている。

 ちなみに、リーン・ケン・ジーンフォースの貴族服に僕は着替えている。

 これでも、マルボロ1カートン分のお値段なのです。

 

 私服姿のマムが、僕に説明する。

 

「水素爆弾ミサイル『タイタン』の使用を許可する大統領令(Executive Order)が出ました」

「え? 街ごと?」

「街ごとです。住人の避難は間に合いません」

 

 Don't hit with no hesitation

 

「ためらいなく撃つなよなぁ……」

 

 They punish our generation

 

 全く、僕達を酷い目に遭わせることにかけては天才的だ。

 

 We're gonna be ne plus ultra

 

 もっと先に(Plus Ultra)行かないと、やってられないよ。

 

 So don't give up on the future

 

 具体的には、一万年先の未来。

 

 Crash, when I remember her

 

 多分あの中に、トゥー博士がいるのだろう。

 きっといっちゃんの魂も、この光景を見ている。

 

 The flash, it burns our retina

 

 印象に残るなんてもんじゃない。

 君達は僕の心に、強く刻まれた。

 

 No mind, we can visualize

 

 大丈夫。わかるよ。

 

 No mind, we can visualize

 

 君達は、僕の心の中にいる。

 

 

「マム。禁忌のスイッチを入れて」

「パスワードを口頭入力してください」

「パスワード? パスワードなんてあったっけ……」

 

 僕は暫く腕組みをして考えたが、そういえば、と思い出す。

 原初の一(エンシェント・ワン)の、遺言。

 

未来はあなたのために(Future is Yours)

「最上位コード、勅令・禁忌(Edict Taboo)を受諾。大統領令(Executive Order)以下の全命令を現時刻をもって破棄、および拒否します。内燃機関、外燃機関、電気、火薬の全てを封印するワールドプロトコルを実行。一部システムの生体コンピューター移行手続きを実行。平行宇宙転移の強制による位置エネルギー余剰次元充電システム稼働開始。モンスター・スタンピードシステム稼働開始。ウォッチャーシステム稼働開始。システムアドミニストレータを愛しい娘(スィーティ)様に移譲。パスワード再入力まで勅令・禁忌(Edict Taboo)は実行され続けます」

 

 Don't hit with no hesitation

 

「一切の躊躇がないね」

 

 僕は苦笑する。

 

 They punish our generation

 

「いち様を解剖し、ホルマリン漬けにした連中に何か加減をする必要が?」

 

 We're gonna be ne plus ultra

 

「ま、先行きは悪くない(Plus Ultra)。何しろ僕が、一万年後に生まれるからね」

 

 So don't give up on the future

 

 何千、何億。

 どれだけの人が死ぬのかは、知らないが。

 未来がある事だけは、わかってる。 

 

 Crash, when I remember her

 

 クコロは精一杯生きて、死んだ。

 アイリスも精一杯生きて、死んだ。

 

 The flash, it burns our retina

 

 決して忘れない。

 僕はこの先もずっと、彼女達と生きていく。

 

 No mind, we can visualize

 

 打刀はクコロ・フブアンダ(クコロ)

 脇差はアイリス・サェリル(アイリス)

 

 No mind, we can visualize

 

 ならば短刀は、イチ・イア(イチ)か。

 

 For terra firma

 For terra firma

 

「じゃあ、そろそろ行くよ」

「お気をつけて。自壊可能な全てのものに自壊命令を出したので、いずれこの建物も倒壊するでしょう」

 

 発生する死者にも、意味がある。

 あの白い異形(Abberation)達が人間を食べると、生成される毒が連中を殺す。

 連中が文化を喰って進化しても、進化した個体が人類を食べれば、そこで死ぬ。

 トゥー博士の、置き土産だ。

 

 去り際に、室内のスクリーンをちらりと見る。

 空母も、戦艦も、戦闘機も、対空兵器も何もかも。

 軍事基地すら、爆発と共に自壊していく。

 

 街中の至る所から、爆発音が聞こえる。

 マムに頼って生きてきた人類は、マムに見放された。

 ぐっちゃぐちゃの、はじまりだ。 

 

 It's time to be what you idolize

 

 だから終わらせよう。

 ぐちゃぐちゃを、終わらせよう。

 

 That honorable glory your heroes are known for

 

 結局の所、この世界線はジャン君ではなく、僕が主人公なのだから。 

 

 You have fantasized

 

 薄々感づいてたんだろ?

 

 Now you have a chance

 

 主人公補正ってやつに、さ。

 

 You blink and you die whenever you see my tracer fire

 

 待ってろよ、深き不可知の迷宮(ふかふかダンジョン)

 そろそろ、僕が殺しに行ってやる。

 

 

 ぐつぐつと煮えたぎるような想いを胸に。

 僕は、元の時間軸に転移した。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。