ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第148話 原作時間軸・一之太刀

 

【繧「繝??繝??繝亥?螳ケ縺ョ縺疲。亥?】

 

 白面金毛(プラチナ)、ゆりこちゃん共に任務達成。仕上げをどうぞ、パパ。

 

 ――ふかふかダンジョン譛?邨らォ? に譖エ譁ー螳御コ?@縺セ縺励◆。

 

 

 * * *

 

 

 フェニックス便より早い愛しい娘(スィーティ)便を受けて、早速僕は動き出す。

 

「えー、バーチェとカタナちゃん、あとまだ皆に挨拶させていないアラクネのブラウィドだけ連れて要塞に殴り込みに行きます。今回連れていく条件はたった二つ、亜人語が流暢で、ある程度の戦闘力がある人」

 

 僕がそう告げると、しゃーないな、という空気が嫁達の間に流れた。

 

「亜人語が流暢って時点でもうそのメンツしかおらんな……?」

「他の皆もカタコトな感じだし」

 

 バトとアロが、私も行きたかったという顔をする。

 

「わかりました、ユーリ様」

「ん。問題無い」

 

 バーチェとカタナが嬉しそうに頷く。

 僕は最終戦のことも伝えておく。

 

「仮に亜人達と仲良くできたとして、最後の最後、ふかふかダンジョン戦がある。その時はみんな一緒だ。亜人達と一緒に暴れよう。時期がまだ不明だから、その時に妊婦な人は大人しく家で僕達の帰りを待っててね」

「うん、大人しくしとくねー」

 

 お腹をさすりながら、セイちゃんが答える。

 

「んじゃ大司教、いや、次期教皇に挨拶してから、死の森経由で【死の森】前要塞……いや、『ネク族の大森林前要塞』に向かう。そこで一旦、人間と亜人の関係を一段落させよう」

 

 リーン・ケン・ジーンフォースの貴族服、つまり4000年前の技術の服を着続ける理由は無かったのだけれど、まだ一戦もしてないうちにおニューの服に着替えてしまうのはなんか勿体ない。

 4000年前って言ってもアラクネ布とCNF使ってるから、4000年後の今でも最先端レベルなんだよね。CNFは配合次第で色々な素材と組み合わせる事が可能だから便利過ぎる。

 実際、令和の時点でCNF配合素材だけで車を作ったニュース記事とかあったはずだ。

 配合無しのCNF100%でも、加熱圧縮して車のボンネットを作ったりしてる。

 

 平行宇宙の地球でマルボロ1カートンを入手して4000年前の栗結パイセンと交渉せにゃ入手できん服やぞ! 服にサイン貰っておけばよかった! ちくしょう!

 

 

 * * *

 

 

「首席枢機卿、というか最早貴方しかいないので満場一致がどうとかいうより確定でお決まりになられるアーク第16代教皇猊下」

「……胃薬を箱単位で貰えるかね? 本当によく効くんだ」

「中央大陸においても、いつでも無料で入手できるよう、手続きをしておきます」

「ああ、助かるよ、侯爵閣下。私の次代も早めに決めて貰いたい」

「ソウハカイ神父かサイエンのどっちかで」

「……究極すぎる二択だねぇ……」

 

 怪我で療養中のアーク大司教は、げんなりとした顔で胃薬をボリボリと食べた。

 それはもはやお菓子かなにかを食べるような、日常の光景だった。

 

「聖典は書き換えというよりは500年前のものに戻すことになるでしょう。あとは初代と12代のやらかしをテヘペロで誤魔化す感じで全世界に向けて布告を……」

「それはテヘペロで済む布告なのかい?」

 

 

 * * *

 

 

「ユーリ、わたしの夫!」

「久しぶり、ブラウィド。ちょっと怪我してて来られなかった、ごめんね」

 

 死の森でブラウィドと久しぶりに会い、キスを交わす。

 戦荷車(ウォーワゴン)を連れているので、馬車ではない。

 

「予定通り、ネク族の大森林前要塞を亜人達に引き渡した。亜人達を殺せと命じてる連中も大体刈り尽くした。後は我慢できない連中を殺す。それで僕とブラウィドは、一緒に暮らせる」

「アラ姉さん、要塞いるよ。ユーリ抱く、喜ぶ!」

「ユーリ様、嫁を何人増やすおつもりで?」

「……流れで」

 

 バーチェが呆れ顔を見せる。

 流れとしか言えないんだから、仕方ないじゃん。

 

 【死の森】前要塞こと、現『ネク族の大森林前要塞』に、僕達は向かった。

 

 

 * * *

 

 

 僕はオークエンペラー・テオから直々の要請を受けて、テオの嫁に英雄付けをした人間だ。

 黒面銀毛の真似をする必要は欠片も無い。

 供にアラクネのブラウィド、エルフにしか見えないバーチェ、名誉ケンタウロス族のカタナもいる。

 

 だからネク族の大森林前要塞から、錘連弩(おもりれんど)やバリスタが飛んでくることもない。

 

「おー、ユーリ、元気してたかぁー?」

「アラ女史、おっひさぁー」

「どうした? オーク帝国のついでか?」

 

 見張りから連絡が飛んでいたのだろう。

 待ち構えていたアラ女史と邂逅し、ハグとキスをされる。

 

「うん、ついで、だね。人間側の準備が整ったからさ。終わらせに来たんだ」

「……そうか……おっぱいさわるか?」

「さわる」

 

 そこに大きなおっぱいがあって、触って良いと言われた。

 触るしかないじゃん!

 触るだろう!

 

 

 * * *

 

 

「人間を代表し、オークエンペラー・テオにも認められし英雄、ユーリ・ハーベラ・セルヨーネが亜人達に告げる! 亜人達を皆殺しにするよう人間に命じた聖教会の教皇をはじめ、各国上層部の反亜人派をあらかた掃除し終えた! 新しく決まる教皇は、人間と亜人の融和へと向かう告知と謝罪の行動をおこないはじめる! これはレッドキャップ族の英雄、白面金毛の全面協力も得て成功した作戦だ! ゆえに告げる! 僕は君達に告げる!」

 

 ネク族の大森林前要塞にある広場的空間で、僕は叫ぶ。

 

「憎しみを捨てきれない者! 殺意を捨てきれない者! どうしても手を取り合えない者! あまりにも長すぎた戦乱に、もはや人間の顔すら見たくない者もいるだろう! 殺さずには済まない者もいるだろう! 顔を見たくないだけで収まりそうならば、まだ道はある! だがそれすらも無理な者! 血を見ずには収まらない者! そういう者達の相手をするために、僕は来た!」

「そこの、アラクネ女に戦わせようという腹づもりか!」

 

 広場で聞いていたオーク戦士が叫ぶ。

 僕は叫び返す。

 

「逆だ。アラクネ女性をはじめ、ネームド級は僕一人が相手する。僕が相手でなくてもいい者、とにかく殺意を発散したい者のみが、彼女達を相手にするといい。彼女達はそれだけの力を持っている一流の戦士だ。一応説明しておこう。名誉ケンタウロス族の英雄、剣鬼カタナ。アラクネ女性の名はブラウィド、彼女は一流の中でもさらに上澄みの戦士だ。エルフの名はバーチェ、飛び道具の名手。僕ら四人がお相手つかまつる……何百人が相手だろうと」

「剣鬼……カタナだと!?」

「ん。私、有名」

「だから言っておく、先に言っておく。一切の手加減はしない。来れば殺す。力こそが全てならば、力で平和を説く。むしろ君達の方が詳しいんじゃないか? 人間と亜人が戦っている余裕なんて欠片もないことを。深き不可知の迷宮を、一刻も早く殺し尽くさないといけないことを、人間より亜人の方がずっとずっと詳しいはずだ。それだけ身近な場所で生きてきたのだから」

「戯れ言はいらない!」

 

 一人のアラクネ女性が、前に出る。

 

「アラクネ女性とネームドを相手にする? 本当にそれができるというのなら、まず私を殺してみろ!」

 

 ブラウィドが、真顔で囁く。

 

「ユーリ。彼女、死ぬ気だよ」

「わかってる。自分に勝てない程度の人間なら、クソ雑魚の人間の主張ということでこの話はおしまい。でも、アラクネ女に人間が勝てるというのが真実なら、自分以下の強さの亜人達が無謀な突撃をすることが無くなる……そういう顔をしている」

「……あの子が自己犠牲を選んだ、ってのはわかるよ」

 

 そばにいたアラ女史が、剣を抜いたアラクネ戦士を見やる。

 どうやら、知り合いのようだ。

 

 もし誰かが死なないといけないのであれば。

 死者が出ないとおさまらないというのであれば。

 強い者が頂点付近から数人削れるだけで、他は戦意喪失する。

 

「いいだろう。一対一の殺し合いだ。囲んで殺したいのなら、好きにすればいい」

「……アラクネ戦士を侮辱するかぁ、人間!」

 

 彼女はあえて激高することで、邪魔をするなと周囲に主張した。

 優しい。彼女はとても優しい。

 こんな出会いでなければ、彼女を抱くような未来もあったかもしれない。

 

「ユーリだ。雷光流、ユーリ・ハーベラ・セルヨーネ」

「……知っている。アラクネ、ネク族のキラシロ」

 

 金髪に、色白の肌の彼女が名乗る。

 キララシロカネグモってのが、いたっけな。

 

「僕とブラウィドの模擬戦を見た上で挑むか」

「アレは、お情けで拾った勝ちでしょう?」

 

 わざとだ。

 キラシロは、わざと煽っている。

 

 男を殺したくない、戦いたくない。

 当然、ブラウィドやアラ女史とも戦いたくない。

 でも『ネク族の大森林前要塞』の死者が減るのなら、自分から死のう。

 そんな顔をしている。

 

 いい女だ。

 ああ、本当にいい女だ。

 

 

 ゆっくりと歩きながら、僕は二刀を抜く。

 両手を大きく広げ、手にした二刀を平行に広げる。

 雷光流というより、二天一流の演舞前の儀式。

 

 そこから二刀を、だらりと自然に下げる。

 下段の構え。

 

 少し離れた場所で、キラシロがこちらを見ている。

 僕は少し、考える。

 

 ……何か、違和感がする。

 

 

 * * *

 

 

 両手に剣を手にしたキラシロが、飛び込んでくるだろう。

 それはさながら、アラ女史と聖剣の勇者セイが相対した時のごとく。

 

 つまり八本足移動、四本攻撃。

 原作風に言うなら上半身腕部「袈裟」「逆袈裟」、上半身脚部「刺突」「防御・刺突」。

 人間部分の足で防御が絡むのは、その奥にサブ脳があるから。

 そしてブラウィド戦の時とは違い、きちんとした剣盾重装甲。

 

 攻撃は最大の防御にあらず。

 攻撃は最大の隙なり。

 

 そしてキラシロの右手剣袈裟・左手剣逆袈裟・右足刺突が来る。

 上半身脚部の「防御・刺突」側、つまり僕にとっての右側、相手にとっての左側に踏み込むと同時に右刀にて相手左手剣にくねり打つ。

 

 雷光流・指先(さっせん)

 回避と同時に相手の喉を突く技だが、アラクネの喉には普通にやったら刀が届かない。

 故に右刀を、相手の振りに対し螺旋を絡ませるように打ち込んでいく。

 

 アラクネの次列以降、つまり蜘蛛部分の膂力はとんでもなく強い。

 だが人間部分は、あくまでも人間の腕力にすぎない。

 相手が剣を振り下ろす力の流れを螺旋で外に弾きながら、螺旋の中心を剣を握る手に向かわせる。

 僕の右刀は、キラシロの左手指をバラバラに削ぎ落とすだろう。

 そして同時、左刀が右手剣袈裟を受け流す。

 

 雷光流・雷切(らいきり)

 キラシロの人間部分が、前につんのめる。

 上半身脚部が、存在しない大地に足をつこうと試みる。

 

 雷光流・切先(きっさき)返し。

 くねり打ちした後の右手から、僕の刀が後ろに倒れる。

 刀の重さと遠心力で、手の内の刀がくるりと回る。

 円を描いた右刀が、キラシロの顎下から鼻、左目奥まで両断する。

 

 顔を半分切断されても、キラシロは止まらない。

 八脚から四脚に移行し、つんのめりを解消しながら同時に攻撃態勢となるだろう。

 キラシロの身体が大きく見え、下半身初列二脚「胴」「逆胴」と次列二脚「右斬り上げ」「左斬り上げ」の動きをする。

 

 僕も止まらない。

 さらに踏み込み、左半身、左刀を斬り上げて初列二脚の左脚(僕から見て右側)の根元を多少斬りながら、刀を添える。

 キラシロの初列二脚と三列二脚、つまり()()()()()()()()が四脚に移行した体勢のまま後ろに落下する。

 攻撃の軸たる初列二脚、及び支え脚の三列二脚が崩れたのなら、流石のアラクネもよろめくはず。

 

 ここだ。

 このタイミングで、初列二脚と次列二脚の根元、鎧の無い部分、かつサブ脳がある付近に右刀を突き刺す。

 それで終わり―― 

 

 

 * * *

 

 

 ――違う、とユーリは感じた。

 未来予知じみた、恐らくは確定でそうなるイメージを、頭を軽く振って排除した。

 

 斬って殺すという思考に、()()()()しまっている。

 

「ごめん。少しだけ、待って」

「……はぁ?」

「いい女を殺すのは、趣味じゃないんだ」

「殺し合いの前に口説いてどうする」

「そういうわけじゃないんだけど……」

 

 キラシロの憤慨に、ユーリは苦笑する。

 

 

 * * *

 

 

 織津江流古武術の『手品・裏』、非接触による相手の操作技術について、『ネク族の大森林前要塞』に来るまでの間、ユーリはカタナやバーチェ、ヴラウィドに対してこっそり色々試しながら、考察を重ねていた。面白いことに、背後から、つまり相手の視界の外からでも相手の重心を操作できるとユーリは気がついた。

 

 鍛錬の有無に関係無く、どんな人間だろうとセンサーがついている。

 エコーロケーションにしても、何にも訓練していない人間が最初からある程度は実行可能なように、人は生きている限り感知しようとする。

 

 武の術理は、センサーに誤作動を起こさせる領域まで到達している。

 起こりを消す、意念(思念でも『思う』でもいい)を消す、などが良い例だ。

 ほんの少し肩が、筋肉が、神経が動いただけで人間はそれを察知してしまう。

 

 だから先の先とか、後の先とか、先々の先なんて言葉が生まれる。

 センサーを誤作動させる合気捕りなんて技が開発される。

 

 創世神が大好きなフェイントも、その一つ。

 隙を作ってわざと攻撃させる、なんていうやりとりもある。

 

 個人的には、最初から殺意も意念も何もかも消した方が早いと感じていた。

 

 人間の防御反射は大きく四種類に分けることができる。

 警戒、反撃、逃走、凝固。

 筋肉の力で攻撃すると、逃走か反撃を選ぶ。

 びっくりすると凝固したりする。

 

 そういう風に人間はできてしまっている。

 数百年の同族間による殺し合いの末、武の術理はそれを解明するまでに至った。 

 だから防御反射の誤作動を利用した合気捕りなどの技が誕生した。

 

 合気捕りの練習の際、ミラーリングを意識するように指導される。

 心理学にもミラーリングという言葉があるが、合気のミラーリングは少し違う。

 自分の動く運動に、相手が鏡のように反応するのが合気におけるミラーリングだ。

 重心の共有と軸の共有をしているから、相手はこちらの意のままに動く。

 

 ああ、そうか、とユーリは得心した。

 

 非接触による重心操作技術。

 つまりこれは、重心の合気だ。

 

 今まで、ユーリにも出来ない合気があった。

 恐ろしいことにYoutubeに実演動画があがっているが『眼球の運動エネルギーを相手に伝える』という、文章だけを見ると何言ってんだお前と言われそうな技術だ。

 しかし術理として確実にこの世に存在している。

 

 眼球運動というのは、目玉を動かすと連動して頭蓋骨も動こうとする。

 自分自身は頭蓋骨の動きを止めた上で、ミラーリングで相手の頭蓋骨を動かす。

 

 相手の頭の重心の位置を捕まえて、眼球運動で引き()り降ろす。

 人間は二本脚で立っていて、前に支えが無いからそれだけで崩れる。

 

 ならば、織津江照志(てるし)が杖を倒したのは、手品師でいうところの『指パッチン』か。

 杖が倒れる音を鍵として、防御反射に凝固の誤作動を発生させた。

 原理的には、聴覚経由の合気と表現することができる。

 

 術理をつきつめていくと、身体が関係無い世界になる。

 ただでさえユーリは、下半身さえあればよく、上半身はおまけの領域に来ていた。

 非接触の合気という領域まで来ると、自分と相手がいれば成立する。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 

 二天一流は、一刀と合気の二刀流。

 どちらが欠けても成立しない。

 

 一刀は、武である以上は相手を殺す行為。

 合気は、相手と繋がって相手に支えて貰う行為。

 

 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 

 

 * * *

 

 

 ああ、なんてことだ、なんてことだ、なんてことだ!

 

 武道が掲げる理念を鼻で笑い、殺す術を磨き続けてきた!

 不殺活人も神武不殺も馬鹿にしてきた!

 柳生新陰流のエマすとか言い出す所は意味不明だったけど、新陰流は二天一流と同じく『触れて崩す』が最終地点にあるのは理解していた、なのに活人剣とか言ってるところだけは気に食わなかった!

 

 でも違った、殺すをとことん突き詰めていったら、愛することが同居してしまった!

 

 心術、心法、人の心。

 どれだけ強い武士だろうと、知らなければ不覚をとる。

 一之太刀(ひとつのたち)は、単なる操剣の技術ではなく高度な心法を含んでいる。

 

 今までの僕は人間の防御反射を越えた0.2秒以内で斬り伏せるのが最終結論だと思っていた。

 防御反射を越えた速度で斬ればそれで一之太刀(ひとつのたち)なのではないかと。

 ()()()()()()()()()、でも違う!

 

 

『三つの先、一つは我が方より敵へかかる先、(けん)の先と云也。

 亦一つは、敵より我の方にかかる時の先、是は、(たい)の先と云也。

 又一つは、我もかかり、敵もかかりあふ時の先、躰々(たいたい)の先と云。

 是三つの先也。いづれの戦初めにも、此三つの先より外はなし。

 先の次第を以て、はや勝事を得る物なれば、先と云事兵法の第一也。』(五輪書・火の巻)

 

 現代地球では、「(けん)の先」を「先の先」、「(たい)の先」を「後の先」、「躰々(たいたい)の先」を「先々の先」と解釈していた。

 「先々の先」は、相手の起こりの見えないうちに打つことだと言う人が多数だ。

 だがそれだと、「万里の一空」とぶつかってしまう。

 「万里の一空」は、相手の起こりの見えないうちに打つことだと僕は前世の口伝で教わった。

 

 しかしいま、僕の頭の中で、ぱちりぱちりと音を立てて、一枚ずつ石が裏返っていく!

 オセロの盤面が塗り変わっていく、意味が全て変化していく!

 

 『我もかかり、敵もかかりあふ時の先、躰々(たいたい)の先』。

 

 今ならわかる、ミラーリングだ!

 接触も非接触も何もかも使って、相手と一緒になる! 

 

 先の先でも後の先でも先々の先でもない!

 我もかかり、敵もかかりあふ!

 

 先々の先なんて解釈をしていたら一生辿り着けない。

 『躰々(たいたい)の先』で合っている!

 

 それは無理だ、失伝なんてして当たり前だ!

 相手のセンサーとインプットとアウトプットの全てに誤作動を発生させる。

 そんな技、簡単に伝授できてたまるか!

 

 塚原卜伝(ぼくでん)一之太刀(ひとつのたち)

 上泉伊勢守(いせのかみ)の、自分の心を敵の心に重ねることで相手を制するという新陰流!

 晩年の宮本武蔵の言葉、惣躰(そうたい)自由(やわらか)が、本当に言いたかったこと!

 

 みんなみんな、言ってることは同じ。

 

 形などない、型などない。

 全ては自由だ!

 

 

 * * *

 

 

 ジャン相手の模擬戦の際、女性体で微笑んだことをユーリは思い出した。

 『兵道鏡』の第一章、決闘に臨むとき相手に対し「笑い」かけるとある。

 

 笑うことによって首の緊張が取れる。

 それは合っている、間違いではない。

 

 しかし今のユーリは、それすらも意味が変わると感じていた。

 笑うことにより相手を安心させる。

 催眠術でいうところの、信頼関係(ラポール)を築く行為。

 相対した時より、もうミラーリングの布石がはじまっているのだ。

 

 

 ユーリは微笑みながら、ゆっくりとキラシロに近づいていった。

 走る必要なんてどこにもない。

 

 両手に剣を手にしたキラシロが、ユーリ目がけて飛び込んだ。

 それはさながら、アラ女史と聖剣の勇者セイが相対した時のごとく。

 

 そしてユーリの目の前で、キラシロは四脚歩行となり大きく構えた。

 両手に一本ずつ手にした剣が、きらりと光る。

 

 上半身腕部「袈裟」「逆袈裟」。

 上半身脚部「刺突」「防御・刺突」。

 下半身初列二脚「胴」「逆胴」。

 次列二脚「右斬り上げ」「左斬り上げ」。

 全体「突進」。

 

 それはアラ女史と聖剣の勇者セイが相対した時と全く同じだったが、大きく違う点があった。

 聖剣の勇者セイは、人間がタイマンで勝てる相手ではないと踏んで全力で下がった。 

 ユーリは、キラシロが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()前に出た。

 

 ジャンがリアル九頭龍閃と称したアラクネの全力攻撃が、ユーリを包んだ。

 見ていた誰もが、ユーリがバラバラになって死んだと思った。

 

 

 キラシロの人間部分が、平伏するかのように頭を差し出していた。

 ユーリの右打刀は、キラシロの首に添えられている。

 

 キラシロの蜘蛛部分が、八本脚の全てを使って踏ん張っている。

 それは人間部分が前に落ちないように、必死に耐えているからだ。

 ユーリの左脇差が、下半身初列右脚(ユーリから見て左)の剣盾装甲に、上から触れている。

 

 キラシロの八本脚は、ユーリと繋がることで十本脚となった。

 二足歩行という無茶をするユーリの不安定が、ただでさえ支えの無いキラシロの人間部分に全て襲いかかった。

 人間部分が強烈に()()()()()から、全てを(なげう)ってキラシロはそれを支えるしかなくなった。

 

 キラシロは恐怖した。

 何の力がどう自分に入り込み、何がどう作用してこうなっているのかさっぱりわからない。 

 全てが、最初から決まっている殺陣(たて)のように。

 何もかもが、打ち合わせ通りに運んだとばかりに。

 

 

 山頂が、垣間見えた。

 雲間が開き、陽が差して見えた気がした。 

 

 韴霊(ふつのみたま)

 フツは一般的に刀剣の神の呼称として理解される。

 その語源は、「物を斬る擬声語」と説かれることが多い。

 倭語の「(ふつ)に」「(ふつ)くに」が「すべて」の意をもつことから、フツも一瞬にしてすべてを切り伏せるような霊威をあらわした語という説もある。

 フツの語そのものは刀剣とは無関係として、フツに「依る」「寄る」「添う」と類似する意味があることを指摘したうえで、神霊の寄り添うモノと解する説もある。

 

 同じだ、とユーリは感じた。

 

 フツは斬るであり、同時に添う。

 ミタマはその霊格化とも言われているが、単純に(みたま)、つまり心でいい。

 

 韴霊(ふつのみたま)の法則の真理。

 ミラーリングだ。

 相手の心に寄り添うこと。

 

 宮本武蔵は言う。

 上手のする事は緩々にと見へて、間のぬけざる所也。

 

 それはそうだ。

 今回のキラシロとの戦いにしたって、キラシロの方から平伏して頭を差し出したようにしか見えない。

 何も知らない人間から見れば、なんと間抜けな光景だろう。

 武ではなく、舞のようにしか見えなかったはずだ。

 

「あなたを殺したくない、キラシロ」 

「……参った」

 

 

 * * *

 

 

 自分、ブラウィド、カタナ、バーチェ。

 数百人を相手どれるメンバーで来たつもりだし、実際何人か殺すつもりで来た。

 特にヒィロだけは絶対に殺すしかない、という意気込みで来た。

 

 しかし、蓋を開けてみたら。

 相手を殺すことが、割とどうでも良くなってしまった。

 

 どうしてもこっちを殺したい、というのなら殺してあげるけど。

 そうでないのなら、寄り添ってもいい。

 

 

 * * *

 

 

 カタナは、震えた。

 ほんの少し前までは、ユーリに対して負けるにしても、いい勝負ができると思っていた。

 

 ……でも、もう無理だ。

 こちらが時を遅く見る目を使い、どれだけ最短距離で動こうと変わらない。

 ユーリが望む位置に自分は誘導され、ユーリが望むタイミングで攻撃をしてしまうだろう。

 

 アラクネと相対した、ほんのわずかなあの一瞬で。

 自分の夫は、とんでもない場所へ辿り着いてしまった。

 

 自慢の夫ではあったが、少しだけ寂しくも感じた。

 ……追いつける気が、しない。

 

 

 * * *

 

 

「オークヒーローのヒィロの居場所、わかる?」

「……オーク帝国の帝都かと」

 

 キラシロが、僕に教えてくれる。

 キラシロとの一戦のあと、『ネク族の大森林前要塞』で殺意を抱いていた亜人は、みんな心変わりしてしまった。

 無駄死にはゴメンだ、だそうだ。

 

 こっちはこっちでヒィロへの殺意が薄れてしまって、どうにも困ってしまった。

 それでも、オーク帝国へと向かうしかない。

 

「行くだけ、行くかぁ……」

「ユーリ、なんでイヤそう?」

 

 ブラウィドが、首を傾げて尋ねてくる。

 

「家畜通りが面倒臭そうで……」

「あは。みんな妾にしちゃえ」

「それはもっと面倒……」

 

 テオ。サイエン。ヒィロ。ホヤク。

 クッコロ、メキシ、セズレ、97班長。 

 会ったことないけど、原作にはリーボちゃんとか居たっけな。

 

 何はともあれ、人間と亜人の融和が成立しそうなことを話に行かないといけない。

 

 あ、でもニコニコオークだけは殺してもいいかな?

 特に何の意味もなく、理不尽に。

 

 僕は苦笑してから、皆と一緒にオーク帝国を目指すことにした。 

 

 

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