ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

149 / 153
第149話 原作時間軸・家畜通り

 

「いやぁっ! やだ! ヤダ!」

 

 オーク帝国、家畜通り。

 全裸の人間女性が、マンキャッチャーと呼ばれる武器複数で地面に押さえ込まれていた。

 その金髪を振り乱し、泣き叫んでいる。

 

「見逃して! お願いぃいいい!」

 

 マンキャッチャー。

 刺股(さすまた)にトゲがついた10kgほどの武器。

 

「黙れクズ女!」

「もうレイプやだ! レイプやだ!」

「テメェが御種付け受けられるわけねぇだろ!」

「お前は便所の上で首吊るんだよ、何聞いてやがった馬鹿が!」

 

 家畜通りに住んでいる同じ人間の女性達が、必死に罵倒しながら彼女を押さえつける。

 首、両腕、両脚にマンキャッチャーのトゲが食いこみ、ガチャガチャと音を立てている。

 

「なんでぇヤダヤダヤダヤダ!」

「うるせぇっ!」

 

 取り乱して叫ぶ金髪女性に、蹴りが入れられた。

 オーク帝国側に教育された奴隷女達は、生き残りに必死だ。

 あるいは、完全に心を亜人側に移しているのかもしれない。

 

 見張りとして、さらに複数の奴隷女がマンキャッチャーを手に周囲を取り囲んでいる。

 そのさらに外側。

 30kgの金属製トゲ付き棒こと金砕棒(かなさいぼう)を手にしたオーク達が、ため息をつきながら見張りをしている。いつでも奴隷女の頭を叩き潰せるよう、待機中というわけだ。

 

 マンキャッチャーは女性が使うには武器として重く、オーク達には通じない。

 金砕棒(かなさいぼう)は使いこなすどころか持てれば奇跡。

 どちらも長くかさばるので、隠し持つことも不可能。

 セズレは、仲間の奴隷女が処刑されようとしているのを、極力無表情で眺めていた。

 

「はい、そこまでー」

 

 緊張した空間に、間延びした男性の亜人語が響く。

 セズレのみならず、押さえつけられている女性をはじめ全ての奴隷女達と、オーク達の視線が向いた。

 

 中性的な顔立ちの銀髪碧眼の青年。

 重装甲鎧のアラクネ女性。

 軽装鎧の人間女性。

 ワゴンを牽いている、エルフ女性。

 

「僕の名前はユーリ。オーク帝国では、英雄のユーリとして知られている。人間と亜人の和平を成す最大の条件を満たすという、オークエンペラー・テオとの約定を果たしたゆえ、たった今より家畜通りの人間女性に対する暴行を辞めてもらう。どうしても人間を殺したくて仕方が無いオークは今すぐ僕が殺してあげるから、かかって来い。奴隷となっている女性達は、申し訳ないがテオと正式な話し合いが終わるまで耐えていて欲しい。解放にしろ、オーク達と共に過ごす道を選ぶにしろ、悪いようにはしないと宣言する……とりあえずそこの女性を解放してもらえる?」

 

 銀髪碧眼の青年が、亜人語で堂々と宣言した。

 なお、この時の青年の心中は『マンキャッチャーが登場したってことは、これもうすぐマンティコアが来る時間軸じゃん、面倒くせぇな』だった。

 

「一応、同じ事を人間の言葉でも繰り返すよ」

 

 青年が淡々と人間の言葉で繰り返した。

 奴隷女達の間に、ざわめきが広がる。

 青年は地面に押さえつけられている金髪女性に無造作に歩み寄り、マンキャッチャーで押さえつけている奴隷女達を軽く追い払うジェスチャーをしてみせた。

 

「ほら、離れて、離れて」

「あ……ああ……」

 

 金髪女性から、マンキャッチャーが外れていく。

 

「あーあ、痣だらけ、血だらけだね。大丈夫、生きてるからきっと治る」

「ユーリ、さま……?」

「うん、ユーリ。悪いけど、テオとの話し合いの後まで待っててね」

 

 ユーリと名乗った青年が、笑ってみせる。

 死の寸前から助けられたことの落差により、金髪女性は微笑したまま気絶した。

 

「「ガオオオオオアアアアア!」」

 

 二人のオークが、雄叫びをあげた。

 金砕棒(かなさいぼう)を振りかざし、青年に突撃する。

 

 アラクネ女性と、軽装甲の人間女性が突撃に割り込んだ。

 

 一人のオークが、一瞬にして細切れに分解された。

 一人のオークが、両膝裏、両脇、首、両目を流れる舞のごとく切断された。

 

 奴隷女達の間から、悲鳴と歓声が同時にあがる。

 

 エルフ女性は、ワゴンから淡々と大きな武器をとりだしている。

 それはオーク達にはわからなかったが、機の二改(サブマシンガン)だった。

 科学的16巻、死の山脈に挑む織津江大志が用意していたものにスコープを取り付けてある。

 

「わかるよ。好んで家畜通りに来るってことは、抑圧された攻撃性を吐き出したくてたまらないんだろう? 戦場が大好きで、殺すのも犯すのも大好きなんだろう? 人間の女をサンドバッグにしたくてたまらないんだろう?」

 

 しゃがんで金髪女性の怪我の様子を見ていた青年が、ゆっくりと立ち上がる。

 

「人間と亜人、双方において攻撃性を抑えられない連中の処分がもうはじまっている。というか、処分それ自体はほぼ終わっている。多分、この家畜通りで最後じゃないかな? 遠からず絶滅戦争は終わり、融和と交流がはじまるだろう。オークエンペラー・テオと、新しい人間側の指導者と、見届け人の僕が手を取る、それでひとまずの区切りが付く。だから……」

 

 銀髪の青年は、にこりと笑って腕を伸ばし、人差し指をクイクイと曲げてみせた。

 

「家畜通りが無くなると、お前達オークは真正面からキチンと彼女達を口説かないと、今後二度とセックスすることができなくなる。ただでさえ家畜通りの女性は美人ばっかだから、口説くには苦労すると思うけどさ。それはイヤだ、俺は強姦(レイプ)が楽しいんだ、彼女達をサンドバッグにして嬲りたいんだ……そういうゴミクズオークは僕達がひと思いに殺してあげるから、来なよ」

「待て、英雄のユーリ! そんなこと、テオの兄貴から聞いてねぇ!」

 

 フル装備の巨躯にして、眼帯のオーク。

 オークヒーロー・ヒィロが、家畜通りの大きめの建物から慌てて飛び出し、叫んだ。

 

 銀髪の青年ユーリと、オークヒーロー・ヒィロの視線が交錯する。

 

 

 * * *

 

 

「やっぱりか……お前も『読める』もんなぁ……」

「……なんだァ、こりゃぁ……」

 

 視界一面を埋め尽くす光の奔流。

 天も地もなく、僕とヒィロしかいない無限の空間。

 ニュータイプ感応シーンの景色。

 

「全裸じゃないだけマシだ、うん」

「キラキラしてやがる……」

 

 光の奔流の中にいる僕と、ヒィロが顔を見合わせる。

 ヒィロの全てが流れ込んできて、苦笑する。

 

「そうか、俺は排除される側ってことか……」

「攻撃性を抑えられないのなら排除するしかない。テオも同意済み。そしてお前は僕に勝てない」

「英雄のユーリ、あんたテオの兄貴が暗殺されると知りながら放置してやがるな」

「確実にテオが死ぬと決まったわけじゃない。でも暗殺者を止めるスジも無い。運が良ければ生き残るし、悪ければ死ぬ。テオがそのカリスマで抑え込んでいた亜人側の過激派は、僕の、いや、僕とテオと白面金毛の計画によって激減し、もはや壊滅寸前だ。その意味では、もはや亜人側の統治者は誰であっても良い」

「……オーク帝国は和平してもいずれ終わる? 力ではなく、金が支配する戦場にとって変わるってことか」

「資本主義にはなるだろう、それは避けられない。オークは人一倍食べるし、オークに限らず誰しも食べなければ生きていけない。腕っ節ではなく、頭を使って生きるようになるだけさ。もっとも、全ては深き不可知の迷宮をノシてから、という話になるだろうけど」

「俺が補佐に徹することができるかどうかが全てってことだな?」

「ヒィロ。お前が知識の他に欲していた、いくら殴ってもいい肉袋と、いつ捨てても惜しくない安物おまんこは、もう二度とケツを拭く襤褸(ぼろ)切れの価値にはならない。気分よく殺して犯してやりたい放題には、もう二度とならない。それをお前が受け入れられるかどうかで決まる。受け入れられるのなら、それでよし。受け入れられないのなら、もはや世界に不要な異物にしかならない」

 

 オークヒーロー・ヒィロは、光の奔流の中、腕組みをして考えはじめた。

 しばらく考えた後に、ヒィロは口を開く。

 

「ゴブリンの娘っ子のおまんこがあれば、安物おまんこを諦めることはできる。だが英雄のユーリ、俺があんたに勝てない理由の術理とやらを、俺は知りてぇ。テオの兄貴が、あんたを英雄と言った理由を、俺は知りてぇ!」

「そろそろマンティコアの大群が家畜通りにやってくる。手早く終わらせるけど、いいかい?」

「おう、いいぜ!」

 

 

 * * *

 

 

「ふむ」

「おもしれぇ」

 

 見つめ合ったまま動かなくなっていたユーリとヒィロが、同時に喋った。

 周囲の皆は、ビクッと驚く。

 

 ヒィロが薙刀にロングボウをくっつけた弓薙刀を右手に構え、ユーリに対して突進をはじめた。

 ユーリはなんでもないかのように微笑み、右手を打刀の柄に伸ばしながら歩き始める。

 

 巨躯のヒィロが、走りながら弓薙刀でユーリを薙ぎ払った。

 確実にユーリが真っ二つにされる軌道であり、タイミングだった。

 

 観客から見えた光景をそのまま記すと、以下のようになる。

 

 弓薙刀で斬られたはずのユーリがヒィロの目の前にいて、左手をヒィロの右手に添えていた。

 ユーリが右手をヒィロの右腕に添えた瞬間に、ヒィロが自分から左脚で力強く飛び跳ね、自身の右腕を中心に円を描くようにくるりと回った。

 重力に伴い、ヒィロが地面に落ちかけた瞬間に、ユーリが腕を引いたのでヒィロの後頭部は地面に激突せずに済んだ。

 だが、ジャンプと共にヒィロの右手首が返されていて、ヒィロの弓薙刀をいつのまにかユーリが所持していた。

 地面に倒れ伏したヒィロの首筋に、弓薙刀の刃部分が静かに添えられた。

 

 見ていた全員、ヒィロも含め、何が起きたのかわからなかった。

 自分からヒィロが飛び跳ね、武器を譲り渡したように見えた。

 

「今のが……術理ってやつかぁ?」

 

 目をキラキラ輝かせて、ヒィロが歓喜する。

 ユーリは苦笑しながら、ヒィロに手を伸ばす。

 

「技名なんて無いけど、百斬無斬の(ことわり)からの隅落とし無刀捕りってところかな」

 

 ユーリに言わせれば、フェイント百回なんてやってる時点で手加減もいいところだ。

 体重差が数倍あるはずのヒィロを、ユーリはなんでもないかのように自然に立ち上がらせた。

 古武術の身体操作で、負担を最小限にして持ち上げている。

 

 ユーリとヒィロは笑いながら頷き合うと、同時に叫んだ。

 

「マンティコアの大群がやってくる! 女は建物の中へ、男は武器を手に戦え!」

「ブラウィド、バーチェ、カタナ! マンティコアが来る、好きに暴れろ!」

 

 ユーリはそう叫んだ後、立ち尽くして泣いている一人の女性のところへ近づいた。

 セスレ2Pカラーこと、セズレが静かに泣いていた。

 

「遅れてごめんね、セズレ。もう大丈夫。強姦(レイプ)され続けることは、無くなったよ」

「はい……」

 

 静かな涙が号泣に代わり、セズレはユーリの胸元に飛び込んだ。

 妾にはしないぞ、とユーリは無駄な決意をした。

 

 

 * * *

 

 

 マンティコア達は、オーク帝国が戦車を出すまでもなく、惨殺された。

 

 ユーリはものすごく理不尽に、特に何の意味もなくニコニコオークだけ殺そうとしていたが、ニコニコオークは家畜通りの女達を守って名誉の戦死を遂げた。

 鼻に絆創膏を貼ったリーボ(3943)はニコニコオークの死に泣いていたが、セズレ(3945)は生ゴミを見るかのような目でニコニコオークの死体を見つめていた。

 

「奴隷として過ごしていた女性達よ! 僕が再度ここを訪れるまでに、人間の国に帰るか、オーク帝国に残るか決めておいて欲しい! 人間の国に戻っても決して悪いようにしないし、迫害と無縁な生き方ができるようにすると誓う! 亜人と離れたくない者はそのままオーク帝国に尽くせばいい! どちらにせよ、扱いは大きく変わることだろう! 人間と亜人が手を取り合う日が、すぐそこまで迫っている!」

 

 家畜通りが、事実上無くなる。

 ひたすら耐えてきた奴隷女達は、歓喜の涙を流した。

 

 洗脳か理解かはともかく、亜人達に心を売り渡していた奴隷女達は、呆然としていた。

 構築しなおした常識が、音を立てて崩れていったから。

 

「死にたいと思う者もいるかもしれない。でも、折角今日まで生き延びることができたんだ。もう少しだけ、一緒に先を見てみようよ」

 

 ユーリはそう告げて、オーク帝国の帝都へと向かった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。