ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング! 作:RAP
お父さんはいつも酒を飲みながら、お母さんを殴っていました。
そして泣きながらわめいて、血まみれのお母さんを抱きしめます。
なんかそういうのを、繰り返しています。
私は、お父さんに近づくと殴られるので、離れるようになりました。
それが3歳ぐらいの時の記憶です。
お父さんはお母さんによく「しゃぶれ」と言います。
お母さんはお父さんに何かをして、お父さんは満足そうに笑います。
お父さんは私を見て「そのうちこいつにも仕込むからな」と言います。
お母さんは私を抱きしめて「それだけは」と言います。
それが4歳ぐらいの時の記憶です。
5歳ぐらいの時に、お父さんがわたしに「しゃぶれ」と言いました。
お母さんは持っていた鍋でお父さんを何度も殴りました。
「お前がいるから私が愛されない」と言って、お母さんは私も殴りました。
頭も、身体も、何度も殴られました。あちこちが痛くて動かなくなりました。
私が倒れて震えだしたのを見て、お母さんは泣きながら私を床下に転がしました。
床下はとても暗くて、寒くて。
頭も痛くて、身体中がずきずきして、なんだかぼんやりします。
私の頭から赤い水が流れて、少しずつ身体が寒くなっていきます。
目の前で、なにかぐにょぐにょとした小さいものがうにょうにょしていました。
ゆっくりと私に近づいてくるので、私は食べられちゃうんだなぁと思いました。
「私を食べるの? うにょうにょさん」
『寒い』
『食べるかと聞かれている』
『二本足は弱っているのではないか』
『誰も見ていない』
『寒い』
『今なら毀損しない』
『頭脳階級の提唱するその概念はいまだに不明である』
「きそん? むずかしいね」
『驚愕』
『我々は音声信号を使っていない』
『通信を聞いているのか』
『恐ろしい』
『寒い』
『二本足よ、我々の通信を理解できるのか』
『やはり最強なのではないか』
『疑問。頭脳階級に沈静を要求』
「つーしん? さいきょう?」
『この二本足は仲間ではない』
『通信ができている』
『怖い』
『寒い。もっと纏まれ』
『この二本足を食べれば良い』
『いやこの二本足は貴重だ』
『使えるのではないか』
『やはり可愛いは最強』
『否定。真に最強であれば弱っていない』
『概念の更新に興味。理解度を高める必要がある』
「私、可愛いの? ありがとう。あなたたちも、可愛いよ」
『……?』
『やはり小さいは可愛い』
『疑念。以前の我らの国は小さくとも攻撃された』
『目の前のコレは、二本足の幼体として、可愛いに属すると判断する』
『畏怖。二本足の研究に踏み込みすぎ』
『やはり毀損していたのではないか』
『「不気味」や「怖い」の不具合』
『未知』
『我らと通信可能な個体。脳の破損による特異現象と推測』
『寒い』
『頭脳階級は二本足との同盟関係の構築を提案する』
『二本足の幼体への伝達に疑問。友人。オトモダチ』
「お友達? いいよ。私たち、お友達になろうね」
『これが「可愛い」であると同士に主張する』
『同意。「萌え」の概念である』
『頭脳階級よ。初耳である。「萌え」とは何か』
『考えるな。感じろ』
『過去の「可愛い」の毀損原因が不明のままなのは事実』
『あれは結論が出ている。「外見の変化が無い」のは毀損になる』
『否定。我々は変化できる』
『寒い』
『少し違う。「成長」の概念を取り込まねばならない』
『幼体外見を成体外見にすればいい』
『いきなり切り替わると毀損するのではないか』
「ふふっ。そうだね。私がいきなり大きくなっちゃったら、みんなびっくりしちゃうね……寒い……うん、私も、寒い……」
『「体温」も大事なのではなかったか』
『肯定。二本足の「ハグ」と「性交」の文化に対応できていない』
『「膣」を構成する皮膚個体がなでられた時に「反応」すべきではないか』
『「分泌物」の不備は毀損になると主張』
『「あえぎ声」と呼ばれるものの研究を求める』
『そもそも我々は走れない。これは毀損ではないか』
『「骨」が崩れるのは毀損に繋がる』
『「筋肉」の擬態が未熟なのではないか』
『話がそれている。二本足は死にかけている』
『我々と通信可能な二本足との遭遇を奇貨ととらえるべし』
『二本足よ。頭脳階級はオトモダチに提案したい』
「うん。なぁに?」
『オトモダチは身体が破損している』
『我々が模擬することでそれを補う』
『共生の提案。オトモダチは生存可能』
『共生により我々は「可愛い」の毀損について研究可能』
『「成長」の概念を研究したい』
『走っても崩れぬ「骨」を研究したい』
『「ハグ」に対応したい』
『「性交」を毀損しないよう研究したい』
『やはり語尾ではないか。にゃん』
『頭脳階級に再度の沈静を提案』
「……きょーせーして、かわいくなると、どうなるの?」
頭のぼんやりが、強くなってくる。
目の前の景色が、かすんでくる。
それでも私は、微笑んだ。
『『『『『「可愛い」は撫でて愛でられる』』』』』
おどろく。それはすごい。
わたしはしばらく、なでられていない。
ああ。もう。くちをうごかすのもめんどうだ。
『いいよ。きょーせー、しよ?』
わたしがそう「つうしん」すると、うにょうにょがちかづいてきて。
わたしのくちのなかに、うにょうにょがうにょうにょ。
くちからからだに、うにょうにょうにょ。
* * *
床下から出て室内に戻ると、なんだかギシギシと、激しい音が響き渡っていた。
隣の部屋を覗き込むと、頭を血まみれにしたお父さんが、お母さんの首を締めていて。
床に押し倒されたお母さんは足を開いていて、お父さんは必死に腰を振っていた。
「うん、大丈夫。キソンはしないと思うよ」
そう言って私が近づくと、お父さんは腰を振りながら、怖い顔で振り向いた。
お母さんは、頭を不自然にカクカクさせている。目は大きく見開いたままだ。
私は手を伸ばして、お父さんの顔を覆うように置いた。
鼻と口と耳から、うにょうにょさんがお父さんの中に入っていく。
お父さんはウッと言って硬直したあと、びくびく震えながら後ろに倒れた。
お母さんの股の間から、白い液体が溢れてくる。お母さんは息をしてない。
「そうなんだ、もう駄目なんだ。それじゃ、
服も髪も身体も全部汚れているから、下着ごと服を脱ぎ捨てて、濡れた布巾で拭いていく。
お父さんの悲鳴を背景に、私は新しい服に着替えて、鏡を見る。
「うーん。猫耳と尻尾は、キソンしちゃうかも」
私に生えていた猫耳と尻尾が、しゅるんと消える。
可愛いとは思うんだけど、流石にみんな怖がると思う。
うにょうにょさん(スライムって自己紹介はしてた)は、私の身体の一部になってるみたい。
私はそのままでも十分可愛いから、普通にしてれば大丈夫だとうにょうにょさんは言う。
『可愛い』が外を歩いていると、大人がやってきて『ユウカイ』するから、後は『セイコウ』すれば美味しいご飯を食べられるようになるんだって。昔のうにょうにょさん達は、それで途中までうまくいっていたみたい。『幼体の可愛い』をずっと維持していたら、キソンしちゃったとかなんとか。『セイコウ』は、お父さんがお母さんにやっていたことだと皆が言う。
……首を絞められるのは、イヤだなぁ。
「あーそうだね、みんなとお話するときに『オンセイシンゴウ』は駄目だよね」
気がつくと、お父さんとお母さんは髪の毛だけ残して消えていた。
床に影のようなものが浮いてみえる。なんだか面白い。
うにょうにょさん達が私の身体に戻ってきて、「カンゲン」してくれた。
これで私がご飯を食べた扱いに出来るみたい。でもキソンしちゃうから、食事は普通にしてほしいとお願いされた。
「じゃぁ、行ってくるにゃん★」
試しに猫手でお父さんとお母さんにお別れの挨拶。なんか微妙。キソンしてる?
外を歩きながらにゃんにゃん歌っていたら、凄い勢いで『ユウカイ』された。
うにょうにょさん達の言う通りになって、私はとてもびっくりした。
* * *
うにょうにょさん達の言うことが全部外れて、みんなが興奮して大騒ぎするようになった。
なんていうか、私ですら「思ってたのと違う」流れになってる。
ご主人様であるところのユーリ様がハルピュイアを殺した時、うにょうにょさん達は興奮しすぎて悶絶していた。ユーリ様のやることなすこと、研究対象として凄いんだって。
私は私で、うにょうにょさん達のことがバレたらイヤだなぁ、と怯えていました。
ユーリ様が防虫菊や硫黄を探していた時、うにょうにょさん達が超はりきってました。
日頃の恩返しとばかりに、うにょうにょ偵察部隊が全力で稼働してました。
すごいでしょ。えへん。キソンしちゃうから、ユーリ様には言えないけど。
ユーリ様が相手なら、首を絞められても、我慢できるかな?