ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング! 作:RAP
珍しく無風の、凪いだ静かな空だった。
恐らく四桁単位の兵士達が、そこまで広くはない山中にひしめいていた。
何故か無料の出店やトイレが複数設置されていて、兵站を含めて万全の後方支援だった。
ユーリやユーリの嫁達。犬狼部隊。
ジャンパーティや、ボーゲンをはじめとした冒険者達。
連合国軍や、教会軍達。
戦士長やホヤクを引き連れた、オークエンペラー・テオ。
素顔のワインを引き連れた、仮面姿の
オーク帝国の精兵達。
完全装備の兵士達が周囲を固めている中、
しかしこれはユーリの希望でもあり、無事に処女を捨て結婚し、いちゃラブ生活を送っているゆりこちゃんの念願のライブでもあったので誰にも止められなかった。
「戦闘がはじまったら、演奏はじめてもらえる?」
「イエス、ユア・マジェスティ」
別人のような、落ち着いた微笑みを見せるゆりこちゃんに、ユーリは顔を引き攣らせる。
「兄様とか、兄さんとかでいいよ?」
「はい、兄様。
どうにも、彼女の心の中では統一政権が見えているらしい。
ユーリは苦笑しながら、急ぎ作った演説台の上に登る。
ユーリの肩までの銀髪が、優しい風に靡いた。
ひとつ深呼吸をすると、ユーリは大声で語り出す。
「一万年だ。僕の調べでは、禁忌がはじまってから約一万年が経過した」
最新型の音響通信機や拠点通信拡声器がフル活用されているため、電気が無くともユーリの声は周辺によく響いた。
こっそりとした魔法行使でさらに音が響いているのは、内緒だ。
「僕はどうしても、この特別な日を迎えたいと思って過ごしてきた。特別な日とは何かって?」
集まった人間と亜人連合軍を前に、ユーリは語り続ける。
「ここで深き不可知の迷宮をぶっ殺して、人類は凄かったと言われたい?
英雄のユーリは英雄だったと皆に知らしめたい?
そんなことは全く、僕は欠片も思っちゃいない。
エルフの学者は首を傾げる、禁忌は呪いなのかと。
ケンタウロスの博士は問う、禁忌は祝福なのかと。
昔、この世界のために死んだ亜人がいた。
彼女は心の底からこの世界のことを想い、考え、そして死んでいった。
あの子は僕にこう言った。
『このまま消えても構わない』と言った。
あの子は僕にこう言った。
『命の
それは、軍を鼓舞する言葉では無かった。
だがユーリは、堂々と語り続ける。
「ふざけるな。ふざけるなよ?
そんな綺麗な癖して。
そんなに美しいのに。
そんなに純粋なのに。
何が『命の
何が『このまま消えても構わない』だ、ふざけんじゃねぇ!
禁忌は愛だ。
呪いでもない。
祝福でもない。
何度でも言う、禁忌は愛だ!
禁忌を乗り越えて人類は生き続けると信じた、エンシェントエルフ達の愛だ!」
ユーリは、左胸に挿していた金色の風車に右手を当てた。
無風の中、勢い良く金色の風車が回り出す。
使え、マム。余剰次元充電システムに、遠慮無くたんまりと使え。
小声でユーリが呟く。
その瞬間、大空に超巨大な女神が出現した。
黒髪ロングヘアでインナーは青色。
黒い太眉に眼鏡で爆乳、青い竜の羽根のような耳。
女神としか思えないデザインの服を着ている。
突然の女神マムの出現に、教会軍は即座に跪いた。
信仰心の無い者も、流石に両手を合わせ、祈りの姿勢をとりはじめた。
女神マムが両手を広げると、空を埋め尽くす勢いで無数の神々が出現した。
それは暗黒大陸、マーフォーク王国、中央大陸の全てで、同時に大空に出現した。
ユーリの頭上には、女神のマムと、直刀を手にした
マムの演出による投影だが、ユーリ以外、そんな事は誰一人として知らない。
ユーリが叫ぶと、その声は中央大陸にすら響いた。
「どうか照覧あれ、神々よ!
僕達人類は、本日をもって深き不可知の迷宮をぶっ殺し!
人間と亜人にとって、本当の和平を手に入れる!
連中は僕達を殺しに、一気に来るぞ!
盾を持つ者は盾を構えよ!
盾無き者は武器を構えよ!
第一波を凌いだのち、深き不可知の迷宮の深奥に突入、これを撃破する!」
ユーリが胸元で発生させているエネルギーを食べるために、
跪いていた兵士達が立ち上がり、構える。
同時に、森から、山から、海から、地面から、白い
不敵に笑う、シロミミズリュウモドキの姿も複数見える。
「連中が来た! 南部攻略戦、行くぞぉーッ!」
「「「おおおおおおーーーーーッ!」」」
全員が、鬨の声をあげる。
大空一面に投影された
愛する旦那こと、出陣する白面金毛に軽く手を振ってから。
ゆりこちゃんが、アラブのギター・ウードを全力でかき鳴らしはじめた。
「伝説をしちゃいましょう、兄様」
「……だね。伝説やるか。全員優勝でロックンロールだ」
苦笑してから、ユーリが全員に指示を出す。
「デタラメに強力な射撃武器が来る、盾持ちやラケットメイス術使いは奮起せよ、皆を守れ!」
(BGM:サンボマスター「Future is Yours」)
連合国軍や、教会軍達。
オーク帝国の精兵達。
皆が並んで、盾を構えた。
白い
I Love You 涙はふいて奇跡おこすの 輝きにつつまれて
分かち合うたび チカラは強くなる ひとりぼっちは終わりさ
「ぶひゃひゃひゃ! なんという弓だ、なんという矢だ!」
ボーゲンが、高笑いをしながらシロミミズリュウモドキを射貫いてく。
ドラゴン弓と専用矢があまりに素敵すぎて、ぶひゃぶひゃ笑いながら戦っている。
ボーゲンの技量で必ず当たるバズーカ砲。
そんなの、敵にとってみればたまったもんじゃないだろう。
弓の会の面々も、元気に弓を連射している。
これからの日々が崩れてくなんて
そんな事言われたのかい 悲しくヒザをかかえたのかい
「指揮官が最前線に出るとか、まったく仕方の無いお兄ちゃんですね」
「この戦いが終われば、避妊も不要になりますね」
仮面姿の
日中なのに戦う場所を選ばないレッドキャップは、この二人だけだ。
今までの日々は君だけのもの
これからの日々も君のもの 僕が一緒にみつめていくから
「ふはは! ここで終わりだ、化け物どもぉ!」
「飛び道具を防いでくれる連中が多いから、ラクでええの」
「この仮帽付被帽付徹甲弾(APCBC)ってやつ、意味あんの?」
犬狼部隊が、全力を出していた。
リーダーのカマセは、笑顔で薙刀無双をしている。ハーレム人生が楽しそうだ。
ハンティ爺さんは、和弓でやりたい放題。スライム娘通いは治ってないらしい。
エロモーブと結婚して既に子持ちのクロスも、愛銃の
逃げだしたい時 泣きだしたい時や 誰にも言えぬ
さびしさ数えたあの夜に
明かりが灯るよ 僕が灯しに来たのさ
「我が名はオークエンペラー・テオ! オーク帝国の帝王である!」
「クッコロ、オレ、ガンバル!」
「妻となったメキシのために!」
オークエンペラー・テオを中心に、戦士長やホヤク達が白い
オークやゴブリン兵士達も、全力だ。
流石の手腕といったところか、異形達の減りが早い。
当たり前の小さなことで構わないの ささやかな事でかまわない
ボクら必ずできるさ そう必ず
アラクネのネク族が、男衆も出てきて奮起している。
男衆が見ているから、アラクネ女性達の士気も高い。
マーフォークやハルピュイア達は、全力で後方支援に回っていた。
後方支援も立派な仕事だ。
兵站が無いと軍隊は成り立たない。
I Love You 涙はふいて奇跡おこすの 輝きにつつまれて
分かち合うたび チカラは強くなる ひとりぼっちは終わりさ
「ひっ、ひっ、ふっ……」
「セイさん、頑張って!」
アイギス港街、セルヨーネ侯爵邸。
グラスが見守る中、セイは必死に出産と戦っていた。
命が生まれてくる痛みに耐えながら、セイはセイの戦いを続ける。
君はいたほうがいいよ
「「ご加護を!」」
聖少女レピリリが森のそばで舞う。
森の付近にいる白い
君はいたほうがいいよ
「まさか先生と一緒に戦うなんて!」
「火炎放射で一掃したかったー!」
「贅沢言わない! ほら、構えて!」
ミルヒ、カカオ、マユリは、白い
君はいたほうがいいよ
「これが終わったら、沢山孕むよー♡」
「おう、ユーリから沢山搾り取らないとな!」
ブラウィドとアラ女史は、弓で殺しながら近接戦で殺すという器用なことをしていた。
君はいたほうがいいよ
「バーチェさん、もしかして、これで狙撃してるんですか?」
「そうですね、慣れです」
アジュは
バーチェは
君はいたほうがいいよ
「カタナちゃんのサポートがあると、ほんま助かるわぁ」
「ん。飛び道具は任せて」
バトとカタナが、ずかずかと進んでいく。
この世界線ではバトの戦力アップがとんでもないため、剣鬼カタナと組み合わせるとシナジーが酷かった。
彼女達のコンビに勝てる
君はいたほうがいいよ
「……かなり数が減ってきた? 行けそう?」
「先行して、深き不可知の迷宮に突入しましょう!」
「はい、アロお嬢様」
「わかりました、アロちゃん」
「わかったっす!」
ジャン、アロ、ナギ、ウォル、ナァル。
今や精鋭のジャンパーティが、迷宮に突入していく。
アロが叫ぶ。
「全員、『穿ち抜き』で突入! 武士道は死狂ひなり!」
「了解。武士道は死狂ひなり!」
アロはどこでその言葉を知ったんだろう、とジャンは首を傾げた。
ジャンパーティは、弓を撃ちながら走り始めた。
未来は君のためにあるの
Future is yours
「
ノリノリで歌いながら、二刀流で白い
「いっちゃんの転生予定日だ。派手に行こうか」
「ワールドプロトコル、順次ディセーブル。内燃機関、外燃機関、電気、火薬の全てを解禁するワールドプロトコルを実行。一部システムの生体コンピューター移譲を解除、解放手続きを実行。永久機関電力、順次稼働開始。平行宇宙転移システム、
逃げだしたい時
酷く寂しい時は
誰にも言えない涙があふれて
「ケンタウロス隊、レッドキャップ隊、迷宮内に突入するっす!」
カタナ兄の指示で、ケンタウロス部隊とレッドキャップ部隊が突入していく。
左耳が半分無く、左頬に傷跡のあるカタナ兄の左腕には、青いリボンが巻かれていた。
僕が灯しに来たのさ
君を探しに来たのさ
当たり前の小さなことで構わないの ささやかな事でかまわない
僕ら必ずできるさ そう必ず
「間に合った! 行くわよ、セズレ!」
「はい、セスレさん!」
産後、まだそんなに時間も経っていないというのにセスレがセズレと共に戦場に駆けつけた。
安静の指示を無視して、女騎士姿で騎乗している。
「目標、白い化け物達! 重騎兵隊、我に続け!
言うや否や、セスレ達は全速で馬を疾走させはじめた。
I Love You 涙はふいて奇跡おこすの 輝きにつつまれて
分かち合うたび チカラは強くなる ひとりぼっちは終わりさ
深き不可知の迷宮には、既に大量の兵士が突入していた。
だがユーリは、マムという卑怯なGoogleマップを完備している。
誘蛾灯となる金色の風車も、左胸で回り続けている。
だからこそ、誰よりも早く、
「おっ。一万年お疲れ様、トゥー博士……の死体。魂はもうレプラのお腹にいるはずだから、遠慮無く死んでくれ」
全裸で、ピンク色の帽子……のようなものを羽織ったケンタウロス女性、のような何か。
その股間や尻穴から、ミミズのような奇妙な生物がぼたぼたと大量に落ち続けている。
「あー? 懐……かしい……我が……故郷……」
「うるせぇ。死ねよ」
ユーリは笑いながら、トゥー博士だったなにかの首を刎ねた。
I Love You あなたに幸せふりそそげ
その旅に出よう今
あなたと出会う そのことが僕には
奇跡だと思ったのさ
「使いたきゃ使えよ、火薬。もうスタンピードは無いし」
恐らく最後のシロミミズリュウモドキに対して、ユーリが笑う。
最奥に居ただけあって、大きさもかなりのもの。
だが
小さなユーリが巨躯のシロミミズリュウモドキを一方的に蹂躙する不思議な現象が起きていた。
攻撃が通じず、苛立ちの表情を見せるシロミミズリュウモドキ。
歯で埋め尽くされている大きな口が開き、喉の中から砲塔のようなものが出現した。
シロミミズリュウモドキは自身の身体にある熱を圧縮し、身体を小型化させながら、レーザー光線をユーリに対して放った。
だが、熱量という己の命を投げ捨ててまで放ったレーザー光線は、ユーリの刀にあっさり散らされ、無効化された。
彼女の愛は、今日までの夫であり、今日からの父であるユーリをきっちり護りきった。
「榴弾すっ飛ばして、光学兵器を撃ってくるんじゃねぇよ」
ユーリは苦笑しながら、小さくなったシロミミズリュウモドキを刻みはじめた。
こいつ骨があるから、合気捕り可能なんじゃ?
二度と使う日は来ないであろう、シロミミズリュウモドキへの合気をユーリは試す。
「骨が違うとはいえ、骨は骨。案外いけるもんだな?」
雷光流は、一刀と合気の二刀流なり。
仙骨の有無ではなく、相手に骨があればそれだけで合気捕りできるユーリの技量。
小型化したシロミミズリュウモドキは、ユーリの前にひれ伏したまま死んでいった。
ユーリの雷光流は、この時をもってほぼ完成形となった。
ヒュドラですら、今のユーリの前にはひれ伏すだろう。
雷光流は完成形となったが、禁忌が解禁されたということは、文明が進んでいくということ。
つまり、前世地球のように、いずれ銃器に取って代わられる。
現時点ですら200気圧さんがいるのだから、雷光流が不要になるのは時間の問題だった。
「雷光流の完成は間に合ったけど……同時に剣術の最後でもある、か」
戦時が終わり、平和な時代がやってくる。
武術が生き残りを賭けて、必死に足掻く運命は決して避けられないだろう。
これも仕方の無いことか、とユーリはため息をついた。
「禁忌を再開しますか?」
マムが、ユーリに問う。
「いや、そこまでしなくていい。平行宇宙の地球でも、剣術の火を絶やさずに繋ぐ人達がいた。せっかく雷光流を完成させたんだし、残りの人生で次代に継承できるよう、頑張ってみる」
「わかりました。よろしければ、雷光流を
「ありがとう。これでようやく、本当の一段落かぁ……」
「私も、いち様も、ふた様もいます。きっと、復興は早いでしょう」
「いっちゃんとトゥー博士が、無茶苦茶な勢いで文明を進化させそうで怖いよ」
乾いた笑いで言ったユーリの台詞だが、それは事実となる。
同時に実の父であるユーリに近親相姦を迫るようになる。
前世地球と違い、この世界の近親相姦は創世神から笑顔でサムズアップされてしまう。
だから、ユーリの異性関係はぐちゃぐちゃの滅茶苦茶になる。
* * *
この星の生き物ではない、別の星から来た何か。
ひたすら
だが、約一万年をかけた人類の反攻作戦は実を結び、
沢山の人類が死に、無数の文化が何度も消えていった。
それでも人間は耐え忍び、生き続けた。
生体コンピューターと化していたエンシェントエルフ達の愛は、世界を救うに至った。
「管理人を貴女に移譲するわ、マム。人類を滅ぼしたくなったら好きにして」
「
四次元空間の住人、受精卵にして同時に一万歳の喪女である
やっぱり
あとはパパが、自分の娘を何歳で抱くかどうかよね。
彼女は一万年の役割を終え、眠りについた。
* * *
アイギス港街、セルヨーネ侯爵邸。
元気な赤子の、自己主張の泣き声が響いた。
「お疲れ様、セイさん。女の子だよ」
「……良かった」
グラスが、タオルにくるまれた赤子を抱きかかえてセイに見せる。
生まれてきてくれて、ありがとう。
セイは、涙を流した。
この娘には、ぼくのように寂しい思いをさせたくない。
自分は実母にネグレクトを受けていた。
だからこそ、自分が母親になったのなら、娘を沢山愛そうとセイは考えていた。
まさか自分の夫を娘と共有する未来が待っているとは、夢にも思っていなかった。
* * *
「きゅっ! きゅっきゅっきゅー!」
「ふぁーっ! きゅっ」
ダンジョンメイカー達が作ったダンジョン。
あるいは、『フカフカ』達の『だんじょん』、その奥にあるダンジョンコアのそば。
一万年前はヤモリのヤっくん。
四千年前はドラゴンのパピ。
今は、翼を持ち宇宙空間すら飛べる竜王。
地球を見守り続ける竜王は、眠り続けている。
ずっとずっと、眠り続けている。
この星の生き物ではない、別の星から来た何か。