ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング! 作:RAP
めっちゃ大きくて古めかしい、威厳に満ちたデザインの大講堂と呼ばれている場所。
前世でいうところの体育館を、めっちゃ豪華にして巨大化させた建物といったところか。
大講堂には椅子がぎっしり敷き詰められている。
前から新入生、2年生、3年生、教師達の順。従者達は、最後方で椅子無しの立ちっぱなし。
「随分と
貴公子服に、整髪料でビシッと髪型を決めている僕。貴族の戦場モードってやつ。
僕の隣には、久しぶりのグラスちゃんが座っていて。
僕が手にしているものを、不思議そうに眺めている。
彼女は風車の羽根部分にそっと触れて、軽くカラカラと回して、ふふっと微笑んだ。
公的かつ威厳のある場には全くもって似合っていない、オモチャの
椅子に身を預けるようにだらしなく座り、ぼんやりと
グラスちゃんは、そんな僕にもニコニコ笑顔だ。久しぶりに僕に会えた事が嬉しいらしく、彼女なりに必死に話しかけてきてくれている。わかるよ。希望に満ちた学校生活のあとに婚約期間の1年を過ぎれば、僕と結婚式を挙げて、初夜でいちゃついて、やがて子供を産んで、幸せな夫婦生活を送ることが確約されているんだもんね。今世の僕は前世と違ってイケメンで金持ちだ。幸せいっぱい夢いっぱい、ご自慢の婚約者を前に、テンションMAXといったところだろう。
「ああ、うん。花祭りで貰ってね。なんとなく……なんとなく、ね」
キザっぽく、生花を左胸のポケットに挿している貴族は多い。僕はオモチャの風車を、彼らと同じように左胸のポケットに挿す。僕の貴公子服は、高位貴族レベルの気合い入ったデザインかつ高級布地に凝った刺繍布がされているものだから、つまりぶっちゃけ、胸に挿した風車は全然似合ってない。グラスちゃんは、そんな僕の行為を勘違いして受け止めたようで。
「ユーリ様、入学式なんてすぐ終わります。明日からは、毎日会えますよ?」
「そうだね、グラス嬢。全くもってその通り! やる気を出さないと!」
そう言って姿勢を正す(風車のせいで台無し)と、僕の目の前に一人のご令嬢がやってきた。
金髪碧眼、長めの髪をポニーテールでまとめている彼女は、2年分、美しく成長していた。
「久しぶり、ユーリ」
「相変わらずだね、クコロ。元気そうでなによりだ」
グラスちゃんは驚いて、僕とクコロちゃんを交互に何度も見やる。
首をぶんぶん振っているようにも見えて可愛いけど、どうしたんだろう?
クコロちゃんは苦笑すると、綺麗なカーテシーをしてみせた。
「クコロ・カンド・サンゼバー男爵令嬢と申します。
グラスちゃんは慌てて立ち上がると、カーテシーを返して。
真っ赤な顔で、キッとした目でクコロちゃんを見て。
「ぐっ、グラス・タレーメ・マンセー子爵令嬢と申します!
クコロちゃんは微笑を浮かべ、ゆっくり姿勢を戻す。
いいなぁ、中心線が立ってる。軸が全然ぶれてない。
「御二方の素晴らしい未来に、
「ん? 空いてるよ、
「~~~~っ!」
僕の隣に、クコロちゃんがしずしずと座る。両手に花ってやつだね、素晴らしい。
クコロちゃんは猫をかぶってるのか、何もかもが丁寧で静かだ。
なんかグラスちゃんの鼻息が荒い? なんだろ?
「どうしたの、
「マンセー子爵令嬢、わたくしは武家の子女にて、礼法には疎いのです。ご寛恕を」
「久しぶりに見たけれど、
「お褒め頂き光栄です。……ふふっ。どなたにも、同じ言葉を?」
「貴族的な挨拶だよ、深い意味はないって。でも、似合ってるのは確かだよ?」
僕達の気安いやりとりに、グラスちゃんの顔が絶望に染まる。
がばっ。突然、グラスちゃんが僕の左腕をとって、両腕でがっちりホールドした。
「わっ、わわわ、わたくし
「まだ婚約者だよね?」
「存じております。側室候補がおられないことも含めて」
僕達がわちゃわちゃしていると、大講堂に鐘が鳴り響いた。
皆が、真正面をむき直す。入学式のはじまりだ。
学校長が、くだらない挨拶をする。校長先生のどうでもいい話は、異世界も共通。
教頭は、多少実務的な話をしてくれた。希望者は科目ごとにいつでも授業免除の試験を受けることができ、合格者は該当科目の授業を免除される。
婚約者を探す場でもあるため飛び級はできないが、既に婚約者がいたり、より専門的に深いことを学びたい生徒のために、専門化された授業が別にあるので、そちらの授業を受けてもいい。
例えば前世での国語・算数・理科・社会が必須科目だとすれば、美術や体育は専門科目にあたる。この世界風に言えば、読み書き・算術・貴族礼法などが必須科目系で、剣術や領地経営が専門科目系統だ。誰もが領地を継ぐわけでもなければ、騎士や兵士を目指すわけでもない。領土を継ぐ長男、継がない次男、想定される様々なケースに全部対応してるってこと。
僕はつまらなさそうにそれらの説明を聞いていたが、最後の最後、司会が告げたアナウンスに椅子から転げ落ちそうになった。
本気でバランスを崩しかけたので、クコロちゃんが僕の右腕を両手で支えてくれた。
つまり、今の僕は両手の花にがっしり掴まれている。
でもそれは本当にどうでもよくて。
「それでは最後に、当校の三年生で生徒会長を務めておられる、セスレ・マイゴーノ・アドリ=ブヨーワ公爵令嬢から新入生の皆様へのご挨拶です」
黒髪ロングヘアのおっとり清楚美人、前世でいう大和撫子、セスレ公爵令嬢が壇上にあがる。
セスレ? セスレって言ったか今? 公爵令嬢!?
うおっ、マジだ、原作大人気キャラことセスレさんじゃないッスか!
あわわ。あわわわわ。うひゃー。
「……ご紹介にあずかりました、セスレ・マイゴーノ・アドリ=ブヨーワ公爵令嬢と申します。このたびは、皆様……」
原作の盲導人バトがあの外見で26歳だから、原作のセスレはバトと同じ年齢層かもしれない。
仮に、目の前で生徒会長の挨拶をしているセスレ先輩が14歳だとして。
僕の魂が存在するこの世界線において、原作の時間軸に達したら彼女は20歳となる。
公爵で武家系ってことはないだろうから、おそらくは公爵子女としてのノブレス・オブリージュ。卒業後に連合国軍に入って、公爵令嬢への忖度が昇進に加味されたなら、五年で曹長は……異世界ならアリか?
つまり卒業後三年で忖度無しに兵長になったクコロちゃんは優秀ってこと。
「セスレ生徒会長、かぁ……」
ぼんやり僕が呟いたら、両サイドから思いっきり腕をつねられた。
セスレと呼ぶ許可を得ていないから、アドリ=ブヨーワ生徒会長と呼ぶのが本来の作法だ。
両腕の痛みに悲鳴をあげそうになって、壇上のセスレ先輩に怪訝そうな目で見られた。
3年生かつ公爵令嬢とか言われたらマジでセスレ先輩と接点がない!
1年の子爵令息ごときがどうやって近づけと!
うおお! 握手だけでもオナシャス!
ファンなんです、セスレ先輩!
ガチでサインください!
転売とかしないんで!
察するに、メキシちゃんは多分後輩だな。
悟りきった遠い目で、僕は壇上のセスレ先輩を見続けた。
なにか勘違いされて、両腕がさらにつねられた。ひぃん。