ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第19話 原作開始前・高位貴族

 鍛錬を終え、校舎内で着替えを済ませてから貴族寮(高位貴族が使うような広い部屋を、札束ビンタで確保済みだ。流石に平民寮は別にある)に戻ろうとした時。

 渡り廊下。僕達三人を待ち受けるかのように、四人の男子生徒が立ちはだかった。

 

 一目で高位貴族とわかる貴公子服の男子生徒が一人。

 下位貴族とわかる貴族服の男が三人。合わせて四人。

 

 ただ、生徒の帯剣が許されていない学校の敷地内のはずなのに、高位貴族のそばに控えている男が帯剣しているのがわかる。

 武器類は、剣術や槍術の授業中に貸与されるのが基本で、あとは自己練習や決闘の際に武器使用に関する書類申請をする必要がある。仮にも大事な子供達を人質として預かっているのだから、刃傷沙汰にするにも手順が必要という話だ。

 とはいえ、側付きが帯剣しているアレは学校で貸与されるようなものではない。

 下賜されたのだろう、下位貴族に合わぬレベルで宝石混じりの派手な拵えや飾りを備えた鞘。

 おそらく、鞘から抜けばその中には、名工が鍛え上げた逸品たる仕上がりの刃があるはずだ。

 

「ユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息だな?」

 

 細身で美麗な高位貴族――鍛えられてはいない――が、ニヤニヤ笑いながら近づいてくる。

 金髪赤目のセミロング。骨格的に僕より成熟している。年上だ。二年生か、三年生か。

 取り巻きのうち二人はどうでもいい。あれは文字通りの取り巻きだ。何もできやしない。

 問題は帯剣している残り一人。いつでも抜剣できるように、左手は鯉口に添えられている。

 鍛え上げられた体躯。鋭い眼光。短めの髪は、近接戦で髪を掴まれにくくする工夫か。

 

 右手の指先をそっと振る。「右手側」「待機」のサイン。

 僕の後ろを歩いていたバーチェはそのまま廊下の脇に立ち、こちらを向き直して軽く一礼。

 特殊な指の組み方。「承諾」「待機」。

 

 アイリスも同じようにバーチェの隣に立ち、ぎこちなく一礼。

 キラキラ輝いた瞳で、「承諾」「戦闘準備完了」の指の組み方をしている。ん?

 そのサインはこの状況下だと「いつでも殺せます!」って意味になっちゃうよ。

 緊張で間違えちゃったのかな? 「待機」「待機」と連続で指示を出し直す。

 

 

「確かに、わたくしはユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息と申します。貴殿の御名を寡聞にして存じ上げぬ不見識と無礼をお許しください、(サー)

 

 右手を左胸にあて、軽く頭をさげる。簡易の貴族礼。

 高位貴族の彼は笑みを一層深め、同じ簡易礼を返してから。

 

「ニク=ドレ・ハーベラ・セルヨーネ軍務大臣が一子、ビジョレ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵令息である」

 

 初手マウントか。まぁ、それはいい。

 僕は彼の右隣……彼から見て左に立っている人物を、わかりやすくみやる。

 

「ふふん、彼が気になるかい? 彼はソーコラ・テキト・モーブ男爵令息。このわたしの護衛として、特別に帯剣を許されている」

 

 モーブ男爵令息は、左手を鯉口に添えたまま、簡易貴族礼をしてみせる。

 ただ、目線は僕から外さない。前世日本人からすると、違和感が半端ない。

 オリンピック中継などで、外人選手がおこなう礼を見たことがあるだろうか?

 日本人と違い、彼らの礼は前を見たまま頭を下げる。オリンピック出場選手ですらそれだ。

 

 何かしらの合図があれば、取り巻き二人は脇に避け、モーブ男爵令息が鯉口を切りつつ踏み込んでくるのだろう。それで()()()だ。

 鞘の形状的には直刀。居合いの術理的な、(たい)を使った素早い抜剣か?

 原作的に例えるなら、盲導人バトの一閃。居合いは曲刀限定のお家芸というわけではない。

  

「いや、難しいことはなにもない。わたしの妹が君に興味を抱いていてね、ハサマール子爵令息。君から見れば雲の上の侯爵令嬢が、夫の候補として君を見ている。(こうべ)を垂れて受け入れるのが当然の、素晴らしいニュースを携えてやってきた使者というわけだ。妹思いの、よき兄だろう?」

 

 セルヨーネ侯爵令息は、ウインクをしてみせる。

 僕はモーブ男爵令息が抜刀した際のシミュレーションを脳内で何度も繰り返している。

 

「セルヨーネ家は子爵位も所持しているから、君は立派な独立子爵家として……」

「……お兄様! ビジョレお兄様!」

 

 彼らの後方から、貴族子女的には精一杯の速度(ドレス姿だしね)で走ってくる女性が一人。

 兄と同じ金髪赤目の、縦ロールのロングヘア。縦ロールという言葉から連想されやすい、密度の高い縦ロールではない。緩くふんわり仕上げた何本もの縦ロールが全周を覆う感じ。何人ものメイドが長時間かけて手入れをしているのが見てとれるセレブお嬢様仕様。

 

「おお、ビケワ! ちょうど彼に出会えたところだ!」

「まあ、お兄様! わたしのために、ありがとうございます」

「さあ、こちらへ。わたしの愛しきレディ」

 

 ビジョレは自分の右手側に縦ロールを誘導する。そうだよね。抜刀の邪魔だもんね。

 彼女は扇を取り出し、汗をかいた身体を冷やすようにゆっくり(あお)ぎ始める。

 僕はニッコリ笑って、ボウ・アンド・スクレープ。

 

「察するに、妹君であらせられる、ビケワ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵令嬢……でいらっしゃいますか? わたくしは、ユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息と申します」

「まあ! まあまあまあ! ビケワでよろしくてよ、ユーリ様!」

 

 カーテシーで返される。

 お前に僕の名前を呼ぶ許可なんざ出しちゃいねぇよ。

 

「……お話を続けさせていただいても?」

「ああいいとも! つまり、君はビケワを正妻として迎え、子爵位を与えられ、セルヨーネ家の寄子となる。()()()()()()()()()()()

「お待ちください。グラス・タレーメ・マンセー子爵令嬢は、わたくしの正妻となる女性です。正妻二名は、王族級を同時に迎えいれるような奇跡が起きなければ、成り立ちません」

「その件なのですけれど」

 

 聞き捨てならない発言をビジョレが言った後に、ビケワが困り顔で口を挟む。

 黙っててくんないかなぁ、縦ロールさん?

 

「わたし、側室を好まぬ性格(たち)ですの。ですから……」

 

 彼女は僕のそばに立っているメイド二人に目線をやって。

 おかわいそうに、と哀れみの微笑を浮かべて。

 

「マンセー子爵令嬢は、(めかけ)としてなら受け入れるつもりでしたの」

 

 正妻、側室、妾。

 妾はただの愛人で、その子供には基本的になんの権力も与えられない。

 正妻と側室の間に溝があるように、妾との間にも溝がある。永遠に埋まらない、深すぎる溝が。

 

「うん、そこなんだ! 仮にも子爵令嬢を、妾にするのは可愛そうだろう? だから!」

 

 わたしの素晴らしい提案を聞いてくれ! とばかりに、ビジョレは両手を広げて。

 

「寄親の好意として、わたしはマンセー子爵令嬢を側室として迎えてあげようと思う!」

「まあお兄様! なんて()()()()!」

「子爵家()()()の令嬢が、わたしの側室となる! 慈悲深い行為だろう?」

「ノブレス・オブリージュの意思……感服いたしますわ、お兄様!」

 

 ノブレス・オブリージュの意味を、辞書でひいてこい。

 僕の殺気は押さえ込んでいたはずだが、『どう踏み込み、どう斬るか』という意の念が、モーブ男爵令息から飛んできた。

 ……僕もまだまだ未熟だな。『どう動いて、どう殺すか』という意の念が漏れたようだ。

 

「グラス・タレーメ・マンセー子爵令嬢とは、既に婚約式を挙げ、書類も提出済みですが」

 

 うふ。うふふ。ビケワ嬢が笑う。

 あは。あはは。ビジョレが笑う。

 心の底から、可笑しそうに笑う。

 

「言っただろう、ハサマール子爵令息! わたしの父上、ニク=ドレ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵は、軍務大臣なのだと! 結婚ではなく婚約! しかも寄子の子女ときた! そんな書類、()()()()()()()!」

「わたし、知っているのよ? ユーリ様、あなた将来有望なお金持ちなんでしょう? お父様が言ってらしたわ! 『革命』の真の立役者は、あなたなのだと!」

 

 ああ。婚約破棄とか、婚約解消とか、どちらの有責だとか。

 異世界恋愛タグでは、ほんの少しの違いでいつも大騒ぎになっているそれが。

 ……こいつらには、まったく、何にも関係ないんだな。

 権力の正しい使い方、ってやつだ。

 

「わたし、夫を支える(すべ)は心得ているつもりですから。お茶会のたびに、新しいドレスと、新しい宝石を用意してくださる()()で構いませんの。夫に寄り添えるよき妻であれと、お母様の指導を受けていますもの!」

 

 

 バーチェとアイリスを見る。

 スカートの中には、太ももに隠しナイフが仕込まれているはずだ。だが遅い。

 めくって抜いて投げるの3アクション。

 帯刀野郎は、踏み込んで抜刀の2アクション。一手遅い。

 ましてやバーチェ達はロングスカートだ。めくり動作はもう少し、時間がかかる。

 

 バーチェの指の組み方は「待機」。アイリスは「戦闘準備完了(いつでもヤれます)」。

 うん、いや、やっちゃいたいのは山々なんだけど。

 僕の指示は待機だから。待機。後でハンドサインの復習をしようね、アイリス?

 

 先に抜かせて合わせて下がり、踏み込んで打突。踏み込み時に返し刃が来るか?

 抜刀時に先の先をとって柄頭(ポンメル)を右足で押さえてからあとは流れ? 博打だな。

 

 場に緊張が走る。帯刀野郎を見る。やはり先に抜かせて、それで――

 

 

「……ユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息ですねッ!?」

 

 緊張高まる渡り廊下の向こう側。苛立ち気味に僕を呼ぶ声が響いた。

 

 ハイヒールのドレス姿のくせに、すたすたと器用に早足で近づいてくる。

 それはまるで、ファッションショーのランウェイ・モデルウォークのよう。

 僕の目の前で、ランウェイの先端で見せる『休め』の姿勢を崩したような、腰のくびれが目立つポーズで彼女は停止し、手にした書類の束を見せつけるようにして、まっすぐ僕を見る。

 

「セスレ・マイゴーノ・アドリ=ブヨーワ公爵令嬢……?」

「いいえ」

 

 ビジョレ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵令息の驚きに、大和撫子は彼の方を見ようともせず否定の返事をする。

 

「今の私は、生徒会長です……ハサマール子爵令息」

「はい、アドリ=ブヨーワ生徒会長」

「……セスレで構いません。あなたへの苦情が余りにも溜まりすぎています。生徒会室まで同行して貰えますか。説教です」

 

 おう、ちょっとツラ貸せや。彼女は優しくそう言っている。

 

「……わかりました、セスレ生徒会長」

「よろしい。ついてきなさい」

 

 くるりと振り返り、ランウェイ・モデルウォークが離れていく。

 モデルウォークってお尻の揺れが強調されて超エロくなるんですけど、その辺理解なされてますかセスレ生徒会長?

 

 僕は兄妹とその取り巻きの隣を通り過ぎながら、呟く。

 

「ご意向は承りました。お話はまた今度」

 

 バーチェとアイリスの足音が、僕の後をついてくる。

 僕は戦闘モードのせいで興奮しすぎていたので、心を落ち着けるために目の前をふりふり揺れるお尻をできるだけ凝視していた。

 見ればみるほど、原作でレイプされまくって精液まみれになっていたセスレ生徒会長の姿を思い出してしまう。これはBSSなのか、NTRなのか。うーん、よくわからん。

 

 ともあれ、校内用の暗器を用意する必要がある。

 ダガー1本でも隠し持っていれば、選択肢は増える。

 

 さあ、考えよう。原作の時間軸到達前に、死ぬわけにはいかないのだから。

 

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