ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第2話 転生直後

 人によって差違があるという前置きはするが、胎児時代もある程度見えるし聞こえるし、うすらぼんやり覚えている。薄暗い肌色の壁向こうから明かりが照らされると、影絵のように誰かと誰かが会話しているのがわかったりする。……うん、日本語じゃないね。覚えるの面倒くさ!

 

 母親の股の間から取り出された時のこともなんとなく印象に残ってる。胎内に居た時は呼吸も排泄も放置でいいし母親の心音が落ち着くし、天国そのものだった。だから、俺の初「おぎゃぁ」は、「外の世界に出たくないし自力呼吸に切り替えるのもやだ!」という魂の叫びだ。

 

 2歳児頃までは栄養補給と睡眠欲に耐えながら言語習得と歩行練習をしていたため、なかなか考え事ができなかった。3歳児頃になって、そこでようやく自分の家はナーロッパ的中世貴族であり、家格に伴う領地規模であり、相応のお金が回っていることを把握し、理解できた。

 眼鏡かけてる人がいるから技術レベルはそれなりにあるのかな?

 

 

 新しい人生、見知らぬ異世界。今世における自分の名前はユーリ。

 そう、子爵家の三男として転生したユーリ・アイダ・ハサマール。

 アイダ地方のハサマール子爵家のユーリ君です。みんなよろしくね!

 

 ……大丈夫? 自己紹介の挨拶しただけで過激派に殺されそうな名前なんですけど?

 まぁこの世界、日本語がベースじゃないから許される……のか?(多分許されない)

 

 今世はどうも容姿に恵まれたらしく、将来イケメン確定っぽい中性的印象の顔立ちの赤子だというのは鏡を見れば判断できる。それがユーリという女性的イメージの名をつけられた理由なんだけど、考えてみれば本来は『ざまぁされる役割の貴族』なわけで。

 高位貴族がイケメン低位貴族を侍らせて、そこで調子にのりすぎて一緒に断罪されちゃう感じだったのかな? 知らんけど。

 

 一人称、どうしよっかなぁ。前世は俺だったけど、イケメンなら私? 中性的容姿を前面に出す感じで、あざとく(ぼく)? (われ)とか小生とか言っちゃう系は避けたいなぁ。

 

 家族構成は父、母、長男、次男、三男。

 

 姉妹がおらんやんけ!

 側室とかいれなかったの?

 あ、ラブラブ夫婦なんですね。わかりました。いえわかりません。

 貴族の義務としてハーレムは割り切ろうよ。

 子爵家舐めとんのか。

 

 ただ、その分メイドさんが多いから眼福ではある。

 ビバ子爵家!

 

 長男が子爵家を継いで、次男は政略結婚か領地経営の補佐。

 三男の自分はスペア。適当に騎士か軍人でも目指しとけって感じの将来設計?

 

 父上はザムアーノ・アイダ・ハサマール。

 母君はバーラ・アイダ・ハサマール。 

 長男はノマカップ・アイダ・ハサマール。

 次男はネティル・アイダ・ハサマール。

 

 ……うーん? モブのネーミング自体が適当? 多分気にしたら負けだわこれ。

 

 

 さてそんなある日、メイドが3冊の絵本を持ってきてくれました。

 文字習得をするための教材というやつです。

 そのうち家庭教師(ガヴァネス)とかつけて貰えるのかな?

 

 そこそこ広めの自室内に配置された、子供視点からは大きく見える勉強机。

 寄り添ったメイドは、絵本を広げて見せながらにこやかに朗読してくれる。

 身振り手振りをまじえて、一生懸命だ。

 

 一方俺は、笑顔を引きつらせたまま、動揺する内心を必死に隠していた。

 上手に笑えているだろうか? 正直ドン引きだ。ふざけんな創世神。

 

『どらごんすれいやーはふかふかダンジョンをいく』

『えほん むらむすめルマノ 1かん』

『かいとうれいじょうしーでぃ ていとをかけるへん』

 

 ドラゴンスレイヤー。人の身でありながら魔物最強格たるドラゴンを倒した英雄が、ふかふかダンジョン――深き不可知の迷宮――を探検する物語。の簡略化絵本版。

 

 村娘ルマノ。普通の村娘が、父に習った弓の腕と、元気と明るさと勇気と機転だけで周囲の英雄達と肩を並べながら大冒険をする物語。の簡略化絵本版。

 

 怪盗令嬢シーディ。政略結婚を嫌った貴族令嬢が家出して、悪党を成敗する怪盗として大活躍する物語。の簡略化絵本版。

 

 ただの絵本と侮ってはいけない。むしろ、こんなそびえたつお糞でファッキンなブツが大人気書籍となり、さらに文字教育の教科書となる絵本バージョンまで発売された上で実際に貴族令息が目にしている時点で人類はやばい。思うに、これは恐らく創世神の人類に対する嫌がらせ。

 

 ……この3冊の本の内容は、人類滅亡を助長する()()()()()()()()だ。

 

 世界最大最悪の超巨大ダンジョン、ロマンと危険と未知の塊。深き不可知の迷宮(ふかふかダンジョン)

 

 ああ、わかる。わかるよ。ここがどんな世界か理解した。理解したとも!

 転生神、貴方は正しく教えてくれた!

 中世的ファンタジーであり、剣も魔法もあるけれど、剣と魔法の世界ではない!

 

 そもそも魔法なんて存在しないからね! アーサー・C・クラークの三法則の3『十分に高度な科学技術は、魔法と区別できない』ってヤツですねファック!

 今の人類には再現不可能な、認識すらできない未知の物理法則を利用した別次元の科学!

 うんそうだね魔法だね助けてエンシェントエルフ!

 

 ちくしょーめー(Sie ist ohne Ehre)!(ペンを机に叩きつける)

 

『ふかふかダンジョン攻略記〜俺の異世界転生冒険譚〜』という漫画が、前世では存在していた。

『科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日記』(スピンオフ『織津江大志の異世界クリ娘サバイバル日誌』)という漫画の同一世界ではあるが、地域や時代が同一であるかは不明とされている。一応、色々と考察はできる。登場人物の装備の違い。『科学的に存在しうる~』の主人公達が順調に国を成立させた場合、将来的な文化水準はどう移行するのかの推察、など。

 

 だが、そんな考察は最早意味が無い。関係がない。どうでもいいと切って捨てていい。

 

 前提条件1。この世界には、レッドキャップやオーク、アラクネといった、人類より遙かに強い個体性能をもった亜人達が存在する。

 そして同時に、人類には聖教会というゴミクズのような最大宗教派閥が存在する。聖教会は、人間以外の亜人の強さを恐れ、抹殺すべき対象であると宣言し、そういう法を組み上げ、各国と協力体制を敷き、神の教えたる聖典まで改ざんして、何百年もかけて亜人への殺意を具現化してきた。

 相手の絶滅を望んだ全面戦争。種の生存を賭けた闘争。オール・ハンデッドガンパレード!

 全軍突撃! たとえ我らが全滅しようとも、最後の最後に男と女が一人ずつ生き残れば我々の勝利だ! どこかの誰かの未来のために!

 ふざけんなぶち殺すぞ聖教会。お前らだけで死ね。

 

 前提条件2。この世界には、人類が逆立ちしても勝てないような魔物が多数存在している。

 それはヒュドラであり、ゴーレムであり、ドラゴンであり、クラーケンであり。

 制空権も制海権も支配できておらず(亜人と魔物に握られたままだ!)、大半の人類の重要生存圏たる中央大陸の支配権すら確立できていない(亜人と魔物に以下略だ!)のに、人類は亜人達の故郷とも言える海を越えた北方の暗黒大陸に手を出した。

 数も戦力も技術も何もかもが足りていない。なのに人類は生存圏を拡大しようと愚かな努力を継続している。聖教会をはじめ複数国家が形成した連合国軍が百年以上に渡って支払ってきた人命と大金の積み重ねを捨てきれない。戦前に戻ることは、もうできない。

 サンクコスト効果の好例というやつだろうが、指摘しても無駄だろう。人類の偉い人達は、自分が間違っていると認めることは出来ないから、誤った方向に走り続けることしかできない。

 

 前提条件3。この世界には、人類と亜人、さらに魔物が全面協力しても討伐できるかどうかなお怪しい、クトゥルフ神話級の存在が()()()にいる。

 植物なのか動物なのかも不明な謎の生物。あらゆるものに寄生して捕食して、岩すら溶かして栄養とし、地下にも地上にも根を張って広がっていく生きた悪夢。

 大昔にドラゴンか古代人類に駆逐されたはずの、大陸の旧支配者――深き不可知の迷宮。

 ふかふかダンジョンなんて称して内部探索とかしてる場合じゃないやばいヤツ。

 頑張れ頑張れ冒険者ギルド、君たちの未来は暗い。

 

 

 まとめよう。前提条件を全て考慮するに、この世界は人類にとって詰みまくっている。

 

 何も無ければ遅かれ早かれ人類は滅亡するだろう。原作の主人公たるジャン君の双肩に全てがかかっているといっても過言ではない。

 人類はジャン君に美少女ハーレムの100人ぐらいは贈呈していい。

 

 ドラゴンスレイヤーの本は、人類が絶対に勝てないドラゴンを人類の敵に値しないと誤認させるのみならず、ふかふかダンジョンの持つロマンに冒険者希望者達を誘導する悪書。

 

 村娘ルマノは、亜人は簡単に殺せると人類に誤認させ、人類の個体数を増やしてくれるはずの若い女性達を暗黒大陸に大量誘導し、亜人達の孕み腹たる人間牧場に仕立てる悪書。

 

 怪盗令嬢シーディは、政略結婚を否定し領民すらも投げ捨てる思想を貴族に植え付ける、ギロチン待ったなしの革命世界にインテリ達が想いを馳せかねない悪書。

 

 なんだこれ、クソ過ぎる。これ前世知識が無かったら死亡回避不可能でしょ。

 ざまぁ後に没落して冒険者目指して暗黒大陸でモブ死です、ってか?

 

 かといって内政チートも戦争チートも結構制限が強い。

 なんたってこの世界の根幹を成す、前提条件4があるからね。優先順位的には最大といっていいんだけど、話の流れとして四番目。

 

 前提条件4。『禁忌』。創世神の趣味、もとい、古代人類の一員たるエンシェントエルフ絡みでなんか色々あって世界に定められてしまったルール。

 曰く、「火薬」「蒸気の水車」「燃える水の水車」「雷の要素」を作り出すとモンスターの大群が押し寄せて国ごと皆殺しになる。モンスタースタンピード、よくあるアレです。アレ。

 要は銃とか内燃機関が封印されてる。ゴブリンをマシンガンで射殺したり、ドラゴンを戦闘機のミサイルで撃墜したりはできません。残念無念。助けて自衛隊。

 

 世界的に技術の進化発展が制限されている中で、人類は亜人や魔物やふかふかダンジョンといった自分たちより遙かに格上の存在に500年以上戦争を挑み続けている。亜人達は村レベルの極小規模の領地しか持っていなかったのに、数百年経っても人類の侵攻は一向に進んでない。亜人達も流石にブチ切れて「もう人間絶滅させようぜ、降伏も認めねーから!」という考えに至りつつある。むしろよく数百年も我慢し続けたと思う。えらいよねぇ。

 

 いやぁ、詰んでる。詰んでるなぁ。人類の亜人侵攻を煽る主原因たる聖教会は、聖女以外皆殺しにして、聖女達は全員ジャン君の肉奴隷にすれば世界平和に貢献できるんじゃないの?

 でも、この世界の聖女達は一人の例外もなく全員清純派ヤリマンビッチだから、ジャン君に突き返されるかもしれない。ジャン君は童貞をこじらせてるから仕方ない。

 

 詰みまくりの人類ではあるけれど、一応、かろうじて、亜人支配による人間牧場ルートを回避できるかもしれないような抜け道は、ギリギリあるといえばある。

 なんたってここの創世神は、熱力学の法則が大好きだからね。つまり、禁忌に触れなきゃ何したっていいのです。無双チートはできずとも、戦力バランスに影響を及ぼすようなテコ入れをすることは、かかる労力を無視すればできなくもない。

 うん、そう、労力。たぶんめっちゃ疲れると思う。過労死待ったなし。

 

 冷静に考えると、人類の滅亡回避に「無条件で」協力するかっていうと、違うんだよなぁ。逆もまたしかり、なんだけど。原作では描写されてないけれど、亜人側の乱交許容文化について、()()()()()()()()()()()がある。せめてそこは確認しないと、彼らに肩入れはできない。

 

 ああ、だからエンジョイ&エキサイティング、なのか。至言だな。ありがとう転生神様。

 楽しまなきゃやってらんないよね、こんな世界。

 

 はてさて、どっちに味方したものかな。

 多分、自分は主人公のジャンと同世代だ。

 俺が転生神でも創世神でも、絶対そう調整する。確信できる。

 つまり、時間はまだまだある。具体的には約15年。

 

 

 とりあえず今は、元気いっぱいに絵本を朗読してくれている美人メイドさんを見ながら、ニコニコしておこう。おっぱいでかいなこの人。長生きしてね。

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