ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第20話 原作開始前・セスレ先輩

「セスレ生徒会長」

「なにか?」

 

 キリッとした顔で、セスレ生徒会長が振り返る。

 ランウェイ・モデルウォークをもう少し眺めていたかったが、仕方が無い。

 お尻ふりふりは、また今度だ。

 

「道を間違えています。左折ではなく右折。生徒会室は戻ってすぐそこです」

 

 あっ、やっちゃったという顔。これは原作で見かける素の表情ですね?

 『やり手で人気ある生徒会長』という猫をかぶっていらっしゃったと。

 

「……間違えました……」

 

 これも原作で時折見たむずがゆそうな顔。うんうん、なんだか嬉しくなっちゃうね。

 僕はメイド達二人に指示を出す。

 

「すまない、ちょっと疲れすぎていて、夕飯前にお風呂に入っておきたい。先に寮に戻って、お湯の準備と、夕飯の下拵えをしておいてもらえるかな? もう放課後だし、二人組(ツーマンセル)でならナンパとかで絡まれる確率は低いと思う」

「かしこまりました、ユーリ様」

「今日はお肉多めの日です!」

 

 綺麗な所作で礼をするバーチェに、ふんす、と嬉しそうなアイリス。

 今回みたいな高位貴族がいるのなら、バーチェ達を見て「こいつらは僕が貰っていくからよろしく」なんて言われる日も来るのかもしれない。

 

 前世の話だが、美人の知り合い達は、学生として制服を着ていた時代は通学電車内で毎日痴漢されていたらしいし、街を歩いていても三日に一度は必ずナンパされるし、胸をはじめとしてとにかく視線がまとわりつく日々で、大変だったらしい。

 毎日痴漢されていたと遠い目で話していた女性は、相対しているだけで「今聞いてる男性からの被害話は全部事実なんだな」ってわかるぐらいには、その辺のアイドルが涙目で逃げ出すレベルの超絶美人だった。そしてそういう人に限ってイラストはプロ級だしギターはぼっちちゃん級だしで、天は二物も三物も与える無慈悲な世界なのだと悟りを開くしかなかった。神はいない。もしくは、神はえこひいきが大好きなのだ。

 TS美女転生には興味を抱いていたが、少なくともこの世界では断固お断りだ。

 

 セスレ生徒会長が頑丈そうな扉を開けると、面食らうぐらい豪奢かつ広い部屋が待っていた。

 見れば、セスレ生徒会長が座った椅子の前にある机の周辺にしか、書類が置かれていない。

 

「……他の生徒会の方々は?」

「あー……」

 

 僕がそう尋ねると、セスレ生徒会長は抱えていた書類――僕への苦情が書かれているやつ――を机に置いて。張り詰ませていた空気をふにゃり、と崩して、だらしなく椅子に体重を預けた。

 何度でもいうが、これはコンビニ前でうんこ座りしてる連中の所作に該当する行為だ。

 

「私だけです。生徒会を動かしているのは、私だけ」

「副会長とか、書記とか、会計とかの皆様は?」

「この学校においては、基本的に爵位順というか、高位貴族に生徒会役員への所属のお声がけがかかります。一部他国のように、選挙的なものは発生しません」

 

 うん、まぁ、選挙の概念を貴族社会に植え付けたら、将来のギロチンとかなんか色々、ね?

 

「例えば、先ほどあなたがご一緒していたセルヨーネ侯爵令息。彼は副会長です」

「はぁ……何故ここに来ていないんでしょうか」

「彼らは名誉として生徒会役員の打診を引き受けます。名誉職なので普段は放置というか、生徒会室に来る必要は無いのです。生徒会役員として何かしなければいけなくなった時、取り巻きや、実家の文官の方が代わりに仕事をしていかれます。それらの成果は、全て生徒会役員が実行したものと見なされます」

「名ばかり役員ですか……それなら、どうしてセスレ生徒会長はこの部屋に? ノブレス・オブリージュですか?」

「ノブレス・オブリージュ?」

 

 鼻で笑って、やってられるかー、とぐんにゃりするセスレ生徒会長。

 

「性分というか……放置できなかったというか……」

「真面目でいらっしゃるのですね、セスレ生徒会長は」

「あなたねえ……学校中に迷惑かけてるの、わかってるの? 苦情が凄いのよ?」

「あはは……鍛錬はもう少し校舎から離れた場所でやることにします」

「……そうしてちょうだい。はぁ……ほんっと疲れる……」

 

 セスレ生徒会長が深くため息をつく。

 僕は適当にその辺の椅子を引っ張ってきて、セスレ生徒会長の前に座る。

 

「先ほどは性分と言ってましたけど、セスレ生徒会長が真面目なのはわかりますよ」

「……どうして? 初対面の貴方に対して、こんなにだらけているのに?」

 

 人差し指を一本立てる。変なことはしませんよー、とばかりに見せつけてから、ゆっくりと彼女の掌に触れる。皮膚が多少硬質化している。薄い剣ダコを、そっと撫でる。

 

「真面目に剣を学ばれています」

「~~っ」

 

 セスレ生徒会長の顔が真っ赤に染まる。

 

「あと、廊下での歩き方です。馬術……でしょうか。身体の軸が、本当に安定していました」

 

 恥ずかしくなったセスレ生徒会長が、僕の人差し指をぎゅっと握る。

 僕は何も見なかった振りをして、発言を続ける。

 

「ゆえに、セスレ先輩は真面目なのだと、ユーリ後輩は指摘します。証明終了(Q.E.D.)です」

「……ユーリ後輩は知らないと思うけど。公爵令嬢の、しかも次女って結構面倒なんですよ?」

「へぇ。ユーリ後輩は興味があると、セスレ先輩に申し上げます」

 

 セスレ先輩は、僕の人差し指を握り続けながら、ぼんやり話し続ける。

 

「まず公爵の子女という立場。爵位差から、友人を作ることすら難しい」

「……お茶会とか、あるのでは?」

「真の友人なんて作れませんよ、あんな場所」

 

 死んだ瞳で、セスレ先輩が答える。闇深案件ですね、わかります。

 

「政略結婚相手としても、次女というのは中途半端です。ギリギリ公爵家と縁を繋げるかどうか。私に婚約を申し込む人達は、誰も私を見ていません。そのこと自体は、政略結婚として割り切るのだとしても……される話は、権力とお金と得られるコネクションのことばかり。誰も彼もが、私の好きな花や、好きな色、誕生日すら知らない」

「武家の子女でもないのに、ここまで鍛えていらっしゃる。……『女騎士』でも、目指されるのですか?」

 

 女騎士。連合国軍の伝令兵における女性兵士の通称であり、厳密に騎士というわけではない。

 原作の彼女が、将来は女騎士の曹長になっていることを知りながら、僕は尋ねる。

 

「それが一番、無難な道だから……腐っても公爵令嬢だから、出世も早いと思うし」

「はぁ。本気で言っているのですか?」

「ん?」

 

 僕は呆れたようにため息をつく。どうしたの? と僕を見るセスレ先輩。

 

「僕はついさっき、副会長様に縁談を破壊すると言われましてね。まだ確定ではないものの、少々やさぐれてるんですよ。わかりますか? ()()なんです、()()。ぷんすか」

「あー、なんか面倒くさそうな雰囲気だと思ったら、そんな話の流れだったんですね。それで、ユーリ後輩はどうするのです?」

「わかりません。婚約式まで挙げているのに後から全部引っくり返されるとなれば、もう何も信じられません。ユーリ後輩は自暴自棄になってます」

「ふーん? それなら、セスレ先輩と一緒に『女騎士』にでもなりますか? ユーリ後輩なら、女騎士姿、似合いそうですよ? ふふっ」

「自暴自棄の後輩としては、先輩と一緒ならアリですね。でもセスレ先輩。『女騎士』になった時の『あり得る可能性の一つ』について、ちゃんと向かい合って考えてみたことはありますか?」

「『女騎士』になった時の、『あり得る可能性の一つ』?」

 

 真剣な雰囲気になった僕に対して、セスレ先輩は小首を傾げる。

 僕は掴まれた指ごと彼女の手を握り、そのまま彼女をグイと引き寄せる。

 僕の真顔が至近距離に迫り、顔を染めた彼女は硬直する。

 

「……亜人に敗北し、虜囚となり、陵辱される。連中の子を孕み、乳を与えて育てる。そのまま死ぬまで人間牧場に住み続ける可能性」

「そっ、それは……」

「人類が負けるはずがない? 私は無縁? 1%すらありえない、向こう側の景色?」

 

 彼女の瞳を見つめたまま、一気にたたみかける。

 考えたことがなかったと、彼女は目を伏せる。

 あるいは、考えないようにしていたのか。

 

「あなたのファーストキスも、大切な処女も、ましてや心の尊厳も、何もかも破壊される」

「そ……んな、ことを、言われても……公爵子女の私には、どうしようも……」

 

 爵位差のせいで、誰も近づかない。

 近づかれても、爵位しか見られない。

 公爵令嬢とて、一人の少女。できることには、限界がある。

 

「セスレ先輩。自暴自棄となった男を、甘く見ていませんか?」

「えっ?」

「下位貴族とはいえ、閨教育は済んでいます。ここには先輩と僕以外、誰もいない」

「ひゃっ!?」

 

 彼女は思わず離れようとする。でも彼女の身体は動かない。

 僕が彼女の手を握っている。手を通じて腕、腕を通じて肘を極めている。

 肘が動かないから、身体を離す動作を実行できない。

 

「先輩はいま、敗北し、虜囚となりました。この先の選択肢は、2つ」

「……2つ?」

 

 彼女の身体が、少し震えている。顔は赤く染まったままだ。

 僕はゆっくりと彼女を立たせ、そばに歩み寄り、腰を抱き寄せる。彼女は抵抗しない。

 腰に当てた指に少しだけ力を込める。彼女が抱き寄せられていることを意識させる行為。

 

「生徒会長として、何も無かったことにするか。先輩として、少しだけこの先を覗いてみるか」

 

 顎先に指を添えて、彼女の顔を少しだけあげる。顎クイと呼ばれるそれ。

 

「ハサマール子爵令息か。ユーリ後輩か。好きな方を選んでください」

「どうなって……しまうのですか……ユーリ、後輩……」

 

 僕はそれを聞いた瞬間、彼女にキスをし、舌をねじこみ、激しく蹂躙し続けた。

 徹底的なディープキス。つまみ、吸い、転がし、絡ませ、ねぶる。

 暫くは(みだ)らに身体をくねらせていた彼女だったが、やがて大人しくなり。

 むしろ、彼女の方から僕の頭をしっかり抱えて、率先して舌を絡ませてきた。

 キスを終えて身体を離すと、混ざった唾液の糸の橋が、お互いの唇を濃厚に結んでいた。

 

 セスレ先輩のうっとりとした瞳が、僕を見つめている。

 

「……この、先は……まだ怖い……です」

「選んだのは、先輩です。お忘れ無く」

 

 セスレ先輩は返事代わりに、ぎゅっと、僕の服の裾を掴んだ。

 選択肢を減らして、誘導したのは僕だけど。

 最後に選んだのは貴女だから、二度と後には戻れない。

 あとはじっくり、調理するだけ。

 

 

 これは本気の自暴自棄で、完全に八つ当たりの行為だった。

 生徒会室にはいる直前までは、サインの1つでも貰うつもりだったのに。

 いざ入室すれば、このザマだ。後先なんて、考えちゃいない。人間関係? 知ったことか。

 アドレナリンがどばどば出ていた僕の前で、エロそうなケツを揺らして歩いていたのが悪い。

 こんな事でもしないと、溢れ続ける戦意と殺意を抑えきれなかったのだ。

 

 戻ったら、きっと風呂場でバーチェとアイリスを蹂躙することになる。

 明日の二人に休暇を与えるぐらい、徹底的に犯すことになるだろう。 

 

 戦場帰りの男は勃起が収まらないとよく聞くが。

 今の僕は、まさにそれだ。

 

 敵は殺せ、女は犯せ。

 人間だって亜人だってやっている、至って普通の、当たり前の行為。

 

 割り切れ。僕はこの世界に、生きている。

 死と隣り合わせの世界に、生きている。

 

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