ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第23話 原作開始前・トラップ

 いま、僕は貴公子服を着て、髪の毛も整えた貴族的戦闘服モードだ。

 ここは聖都のセルヨーネ侯爵家の屋敷内にあるクソ広くて豪華な応接室。

 銘柄も何もわからないお高そうな雰囲気の紅茶を飲んでいる。

 

 どうでもいいが、使用人達の敵意というか、見下し感が凄い。

 どいつもこいつも僕をじろじろと見て、鼻で笑いやがる。

 ここが侯爵邸で、僕が子爵令息だから?

 アホか? アホなのか? ……僕が本当にセルヨーネ家の一員になったら、お前ら全員クビになることをしてるんだけど、その辺理解できてんのかな?

 

 

「ユーリ様! お待たせしましたわ!」

 

 ビケワ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵令嬢が入室してくる。クソお高そうなドレス。髪飾り、首飾り、腕輪、どれもこれもなんか凄そうな宝石が仕込まれてる。異世界恋愛タグだったら細かく描写されていたと思うが、肝心の僕が彼女に全く興味が無いのでそういう描写は(はぶ)かれる運命にある。仕方ないね。

 僕は優雅に立ち上がり、右手を胸に。貴族的簡易礼で彼女を出迎える。

 

「面会の申し込み、受けて頂いて感謝致します、ビケワ嬢」

「デートと表現してよろしくてよ? ユーリ様」

 

 軽いカーテシ-。彼女の全周ふわふわ縦ロールは、前世地球ですら手間暇がかかるだろう。

 それをこの世界でやっているのだから、彼女の身支度に時間がかかるのはわかる。

 先触れで余裕をみた来訪時刻を伝えてあったというのに、結局は大遅刻だ。

 高位貴族は相手を待たせるのが当たり前なので、つまり彼女も当たり前のことをしている。

 

 彼女が僕の対面のソファに座ると、執事が丁寧な仕草で紅茶を入れる。

 おう。お前。そこの執事。僕ん時と随分態度が違うな? あ"? お"? やんのかコラ。

 

「ビケワ嬢もお忙しいご様子。手短に要件をお話いたします」

「……伺いましょう」

 

 つまむようにティーカップを手にし、音を立てずに紅茶を飲むビケワ。

 

「此度のセルヨーネ家の申し出、横紙破りであろうことは流石にご理解頂けていると思います」

「それで?」

 

 剣呑な瞳を見せるビケワ嬢。まぁ、まぁ。落ち着いてよ。

 

「やっていただきたいことが1つ、お願いが1つ。聞いていただけますか?」

「どうぞ」

「先日のお話で()()()()()()が言っていたことの確認がしたいのです。婚約式を挙げ、書類も提出済みであるマンセー子爵令嬢との婚約話を、セルヨーネ侯爵家は本当にどうにかできてしまうのか? という懸念を払拭していただきたい。つまり『私たちの破談を、どうぞ今すぐ実行に移してください。できるものなら』というのが、やっていただきたいことです」

 

 名前を呼ぶ許可なんてもらっていないが、わざと「ビジョレ兄上」なんて言っておく。

 僕の心は折れかけているのだと、さりげないアピール。

 ビケワ嬢は楽しげな笑みを浮かべる。

 

「お疑いでいらっしゃるのですね? わかりました。そうですね……タレーメ領に早馬を飛ばして、返事が来たとして。その後はお城の文官とお父様がお話をして、それで成立です。二週間以内に『無かったこと』になるのでは?」

「なるほど。流石です。ニク=ドレ閣下ではなく、義父上(ちちうえ)と呼ぶ日がそれだけ早まることになるのでしょうね」

「……それで、お願いとは?」

 

 答える前に、僕は紅茶を少しだけすする。ゆっくりとね。

 わざと時間を空けることで、言いにくいことを告白する。ように見える。ただの演出です。

 

「僕には、グラス・タレーメ・マンセー子爵令嬢への心残りがございます」

「マンセー子爵令嬢は、ビジョレお兄様が幸せにしてくださいますわ?」

「いえ、やはり現状ではどうしても引き抜けぬトゲが残ってしまいます」

「だから私との婚姻は呑めぬ、と?」

「そうではありません」

 

 ニッコリと笑ってみせる。ビケワ嬢が少し照れたのがわかる。

 ……うん、僕の中性的な顔、彼女には効いてるね。確率はあがりそうだ。

 

「ビケワ嬢、貴女は確かに美しい。それはマンセー子爵令嬢とて同意いたしましょう」

 

 あえてグラスちゃんを下げる。

 

「隠さず申し上げれば、僕はマンセー子爵令嬢の純朴な心に惹かれているのです。ただ残念なことに、今回の件はいささか性急に過ぎました。僕はあなたの心に疑いを抱いています」

「……私が醜い性根だとおっしゃりたい?」

 

 はいそうです。あぶね。即答しかけた。

 

「いいえ。いいえビケワ嬢。こう考えてください。であるのなら、貴女の心を。純朴さでも誠実さでもいい、そういった心根を僕に示して欲しいと、僕は望みます」

「……そのような、心根などという曖昧なものを、どのように示せと? そんなもの、幾らでも、どうとでも誤魔化せてしまうのではありませんか?」

「誰にでもはっきりとわかる証明方法がある、と断言しましょう。しかもそれは、今この時期でしか成立しない。その証明を、いえ、挑戦さえしていただければ、成否に限らず僕は貴女の心根を信じることができる。そうなれば、心のみのマンセー子爵令嬢と、外見と心の両面を備えたビケワ嬢という差が明確になります。それさえわかれば僕は、貴女を全身全霊をかけて愛することができる。『革命』を起こした僕が、その知恵と能力の全てを貴女に捧ぐと誓える」

「お続けになって?」

 

 怪訝そうなビケワ嬢。わかるよ。怪しい話だもんね。

 

「北にある、暗黒大陸をご存じですか?」

「……ええ。一応は」

 

 何を言い出しているのか、という顔。

 まぁ聞いてよ。悪い話じゃないんだ。ほんとほんとマジで。信じて?

 

「開拓城壁都市アイギス。暗黒大陸の入り口にして、もっとも安全な街。そのアイギスの周辺に、幻想的なまでに美麗な一角獣こと、ユニコーンという馬が棲息する地がございます。そのユニコーンは、残念ながら男を嫌うので、僕には近づけません。反面、心が綺麗な少女を好むのだと耳にしております」

「ユニコーン、ですか」

「はい。その美麗な馬の背にビケワ嬢が乗るなり、あるいは近づいて撫でるだけでも許して貰えたのなら、それだけで心の綺麗さの客観的な証明となります。ああ、女性画家を連れて行くのはアリかもしれません。その場でビケワ嬢の絵を描いて貰えば、必ずやセルヨーネ家の家宝となりましょう。『ユニコーンから認められし乙女』なんて題をつけ、本邸の玄関あたりに飾るのも良さそうですね。別にビケワ嬢自身がユニコーンを探す必要はありません。冒険者であれ領兵であれ、適当に誰かに任せて御身は安全なアイギスで待機していればよろしい。身の危険が生ずるのは唯一航海時でしょうが、軍務大臣の助力を得て連合国軍の輸送船に乗せて貰えれば、航海の危険度は限りなくゼロとなるでしょう」

「……暗黒大陸行きの船に乗る勇気があるかどうか。つまりはそういうお話ですのね?」

「その通りです。1つ心配ごとがあるとすれば、急がれた方が良いことぐらいでしょうか」

「『今この時期でしか成立しない』と言っていましたね。それは何故?」

 

 僕は立ち上がり、ビケワ嬢の前で跪き、左手を手に取りキスをするかの動作をする。

 貴族が令嬢に愛情や敬愛を示す時の動作だ。

 その姿勢を維持したまま、僕はビケワ嬢の目をまっすぐ見ながら告げる。

 

「言ったでしょう、ビケワ嬢。貴女が()()()からです」

「……はあ?」

「何度でも言います。ビケワ嬢、貴女は美しい。ゆえに急がねばなりません」

 

 不意を突かれたビケワ嬢の顔が、真っ赤に染まる。

 僕は彼女の左手の指先を少し強めに握り、指先で彼女の手をさする。彼女の左手を自身に強く意識させることで、僕の心はもう既にビケワ嬢に寄っていて、あとはマンセー子爵令嬢を切り捨てる理由が欲しいだけなのだと、錯覚させる。

 

「美しいというのは、成人女性としての色気を放ちつつあるということです。つまり、ビケワ嬢の美しさは、ユニコーンに対して不利な要素となる可能性がある」

「……だから、急がねばならないのですね。私が少女の印象を残しているうちに」

「まさに。美しさは罪、とは良く言ったものだと思います……ビケワ嬢?」

「なにか?」

「使用人達に、しばし後ろを向いて貰っても?」

 

 ビケワ嬢の指先が一瞬震えたのが伝わってくる。

 僕はビケワ嬢を見つめ続ける。

 

「……いいでしょう。貴方達、許可を出すまで退室していなさい」

 

 ニヤニヤとした表情を浮かべた使用人達が、次々に退室していく。

 無駄に広い応接室の中に、僕とビケワ嬢の二人だけとなる。 

 

 僕は手にしていた彼女の左手をそのまま引き上げ、一緒に立ち上がった。

 空いていた手をビケワ嬢の背に回して抱き寄せる。ビケワ嬢は潤んだ瞳で、僕を見つめている。

 大人びた印象とはいえ、結局は年相応の、恋に恋する少女だ。ちょっと権力が強いだけの。

 

 僕はビケワ嬢の背に回した手を、背骨、肩甲骨、首と順に意識させながらそっと後頭部に運ぶ。

 ゆっくりと()らしながら、気分を盛り上げていく。

 あわわ。動揺したビケワ嬢が小口を開けた瞬間、僕は舌先を彼女の口腔に捻じ込んだ。

 ただし、セスレ先輩にやったように蹂躙はしない。ゆっくりと、彼女の舌に舌を絡めていく。

 彼女が身もだえながら、興奮しているのが伝わってくる。

 

 唇を離す。唾液の糸が見えたので、彼女の唇をついばむキスをして、唾液の糸を消失させた。

 ビケワ嬢の腰が抜け、崩れ落ちるようにソファに座った。

 ぼーっとしている彼女の耳元で、僕は甘く囁く。

 

 「貴女はきっと、ユニコーンですら虜にして()()()()()()()()のでしょうね」

 

 彼女は顔をとろけさせたまま、えへら、と脱力した笑みを浮かべた。

 それでは、と一礼し、僕は退室する。

 

 

 廊下を早足で歩きながら。

 知らず、口角があがっていた事に気づく。

 駄目だ、笑いが止まらない。

 

 

 彼女はきっと、伝説に残る偉業を成し遂げる。

 その偉業は、永遠に語り継がれることになるだろう。

 

 

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