ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第26話 閑話・『JKリフレ』と『初心義妹』

「聖女の戦い方を知っているかい?」

 

 ユーリ様は、そう切り出した。

 聖女騎士。通称『聖女』。神聖教会に属する対ゴブリン・対オーク専門の女性騎士。

 『神の奇跡』を顕現させ邪悪を討ち、処女のまま妊娠して神の子を産む。

 

 でも、私は。そのような尊い存在ではなく、ましてや処女ですらない。

 

「聖女達は、全裸の上にシースルーの布地の服を多少羽織っただけの……はっきり言ってしまえば、乳房も陰部も丸見えのまま戦う露出狂だ。だがそれが聖女の戦略でもある。敵の視線誘導と油断を誘発し、視野狭窄に陥らせる狡猾な罠。そこを……神の御使いが『神の奇跡』で粛正する」

「聖女のような格好をしろ、という話ですか?」

「そこまでする必要はないよ、バーチェ。重要なのは、敵の視線誘導と油断の誘発、そこからの視野狭窄という点さ。奥義『JKリフレ』は、相手の油断を誘発して相手の選択肢を大幅に狭め、行動予測を立てやすくし、視野狭窄に陥った相手を文字通り絡め取っていくカウンター技、そこに至るまでの一連の流れ――それら全てをまとめて、『JKリフレ』と呼ぶんだ」

「行動予測からのカウンター技……」

 

 なんだか凄そうな技だ、と私が呆然としていると、ユーリ様は私のメイド服をじっと眺めて。

 

「そうだね、今のバーチェが着ているロンスカメイド服でも出来なくはないんだが、中盤以降の流れはロンスカだと想定外の事象を誘発しやすい。聖女級の痴女スタイルは論外。……うん、膝上スカートでいこう。女性冒険者が好む極端なミニスカートは、僕が伝授する『JKリフレ』には向かない……流派がね、あるんだ。色々と」

 

 これ以上ないほどの真剣なまなざしで、ユーリ様は熱く語られた。

 

 

 * * *

 

 

 ザコビー男爵令息が住んでいる貴族寮のドアの下の隙間に、偽名の手紙を投げ入れた。

 校舎裏手の庭園、噴水で音がかき消される向こう側に、植物園の建物が静かに佇んでいる。

 ユーリ様のように医学を学んでいる方しか来ない建物であり、放課後ともなれば来訪者はゼロ。

 

 その植物園内の、広場とも言いがたい中途半端な広さの芝生エリア。

 私はそこで、ユーリ様が特別に仕立てて下さった異国の服――紺スカーフセーラー夏服膝上プリーツスカート、という長い名称らしい――を着て、メイドをしている時のように手を前で組んで、やや俯きがちに待機していた。

 そこへ、足音が近づいてくる。一人分。エコーロケーションの練習の成果が出ている。

 

「……君かい? お小遣いを稼ぎたいという、悪い子は」

 

 調査報告書通りの容姿。ザコビー男爵令息が、そこに居た。

 ここからだ。『JKリフレ』は、もう始まっている。

 私は、こくりと頷く。今からやることを想像するだけで、顔が赤くなる。

 

「ふふっ。照れているんだね。……こんなに美人なのに、お金が足りないんだ」

 

 彼は無遠慮に近づいてこようとする。私はちょっと待ってと言いたげに、軽く手を挙げる。

 彼が歩みをとめて、ニヤニヤと、ジロジロと、私の身体を舐め回すように見始める。

 

 私は、意を決してスカートの端に両手を伸ばし、ゆっくりと……『たくしあげ』をはじめた。

 彼の瞳が驚愕で開かれる。視点はまっすぐ、私の下半身に向いている。

 ゆっくり、ゆっくり。するすると、スカートをめくっていく。

 ……やがて、私のスカートの中身が、彼の前だけに露わになった。ああ、恥ずかしい。

 これも、ユーリ様が特別に仕立てた下着――水色縞パンリボン付きという名称――だ。

 

 彼の鼻息が荒くなる。興奮して、両手を軽く前に出して……気をつけろ、ここからだ。

 ユーリ様が言っていたことを思い出せ。ゆっくり来るか、突然来るか。

 

「……金貨? 余裕で払うよ! もっと出したっていい!」

 

 最低でも金貨一枚は欲しい、手紙には現実的な価格を書いておいた。

 高級娼婦なら当たり前の現実的な価格だからこそ、『JKリフレ』の成功確率はあがる。

 

 彼が私の下着目がけて突っ込んでくる……突然来た! 想定パターン3、タックル!

 

 私は彼のタックルにできるだけ逆らうことなく、押し倒されるように後ろに倒れ込む……ようにして、彼の左手を掴んで引き込み、右膝を彼の首にかけ、左膝を右脚にかけて完全にロックする!

 その上で、彼の左肘が極まって動かないようにしながら、彼の手と腕を私の胸で包み込むように、私の両腕の全力をもって抱え込む!

 

 気がつけば私の太股が彼の首を絞めていたわけで、ザコビー男爵令息は苦しそうにもがく。

 私は彼を逃がさないように、全力で両脚をロックし、彼の左手を腕と胸で抱えて押さえ続けた。

 

 奥義『JKリフレ』の最終形の1つ『三角締め』! 私にもできた!

 ユーリ様曰く、私の生足と下着と胸の三角形(トライアングル)が完成すると、もはや逃れること(あた)わず。

 むしろ、相手によっては自ら死へと邁進する行動すらはじめるらしい。

 

 彼は私の太股や下着をなぞるように顔を動かしたり、胸から逃れるように腕を動かしてくる。

 でもそれは逆効果だ。その行為は自動的に、私の脚と手のロックを強化する。

 彼は脱出を試みているようだが、(みずか)ら率先して技にかかりにきているようにしか思えない。

 

 最後の最後、首を絞められて酸素を欲しているはずの彼は、逆に私の下着に全力で顔を押し当ててきた。引いて駄目なら押してみろ、ということだろうか?

 良くわからなかったが、それがトドメとなったのか。彼はその行為を最後に、軽く痙攣して動かなくなった。油断はしない。暫く絞め続ける。相手の腕から完全に力が抜けているのを確認して、ようやく私は彼から離れた。

 

 彼の死を確認し、呼吸を整える。非力な女性が男性を絞め落とす、その難易度の高さ!

 しかし、ユーリ様が教えてくださった奥義『JKリフレ』は、それを可能にした。

 

 敵の視線誘導と油断の誘発、行動予測からのカウンター。

 これが、ユーリ様の言う術理なのですね。

 

 でも、彼は何故、自分からロックが強まるような動きをし続けたのだろう?

 ユーリ様が言う『死へと邁進する行動』を彼がとった理由がわからず、私は小首を傾げた。

 

 

 * * *

 

 

「確かに『可愛い』は強い。ただ、今回のように暗殺が主目的の場合、強力な合わせ技がある」

「……合わせ技、ですか?」

 

 『可愛い』が最強なら、『可愛い』だけで十分なのでは?

 私はそう思いながら、ユーリ様の説明を聞く。

 

「うん。ただ()でられたり、撫でられたりするだけなら『可愛い』で十分だ。でも、それだと相手はずっとこちらを……今回の場合はアイリスだね。アイリスを意識し続けてしまう。意識され続けると、相手を殺すのは難しくなる。そこで合わせ技を用いて、相手を油断させる」

「どうやって相手を油断させるんですか?」

「それはね、『安心』だよアイリス。『安心』は簡単に得ることができないからこそ、相手を油断させることができる。例えば、アイリスの主人であり夫でもある僕が、こうやって……アイリスの頭を撫でたら、アイリスは『安心』してくれるよね? 僕だってアイリスに撫でられたら『安心』するさ。でも仮に、名前も知らないはじめて会った人に頭を撫でられたら……イヤだよね?」

「はい、『安心』できないです」

 

 こくこく頷く。

 

「ただ、裏技というか……よく知らない人に急接近することが可能な、限りなく初見殺しのテクニックがあってね。今回、アイリスにはそれを覚えて貰う。『可愛い』と『安心』が合わさると、相手は油断する。相手が油断したら……こっちのやりたい放題になる」

 

 『可愛い』を極めるには、合わせ技が必要。

 私も、うにょうにょさん達も、みんな興奮してドキドキした。

 

 

 * * *

 

 貴族寮の一室。ドアの前で、私は手鏡を見ながら、髪型の最終チェックをする。

 かつらを被っているから、バーチェ姉様のようなロングヘア。

 服装は、貴族のお忍び服のような高級生地のワンピースや可愛い靴。

 

「あの、すみません」

 

 コンコン、とドアをノックする。暫くして、怪訝そうな顔の青年がドアから顔を覗かせる。

 資料にあった、ザコシー子爵令息だ。

 

「誰?」

「あのう……ザコシーお兄様? お兄ちゃん? ええと……」

「はあ?」

「えっ? もう、お父さんからお手紙は届いてるはずだって聞いたんですけど……」

「待って、どういうこと?」

「あの、えっと……私、イーリャです。法的には、ザコシーお兄様? の、新しい妹になります……もしかして、入れ違い? どうしよう、困ったな……」

「ああもう、あのクソ親父! 聞いてねぇよ! ……あっゴメン、君に怒鳴ったわけじゃないんだ。とりあえず話を聞きたいから、入って貰える?」

 

 ザコシー子爵令息が、部屋のドアの鍵を開けて、私を案内してくれる。

 あれ? もう『安心』がはじまってる?

 

 室内に入ると、ソファに座るよう促された。

 きょろきょろと部屋を見渡しながら、照れ顔で(ユーリ様の指定!)ソファに座る。

 テーブルを挟んで向かい側のソファに、ザコシー子爵令息が座る。

 

「私の両親は、ザコシーお兄様? お兄ちゃん? の、お父さんのお友達だったんです。でも、馬車の事故で急に死んじゃって……テンガイコドク? になってしまった私を、友人の子を見捨てるには忍びないと、養子として迎えて貰えることになったんです」

「……はー、なるほど。それで新しい妹……義理の妹ってことね」

「はい。それで、私も年齢的には学校に行けるから、とココに。部屋代が勿体ないから、ザコシー兄上? ザコシー兄さん? と、同室でいいんじゃないか、ってお父さんとお母さんが」

「アホか! 義妹とはいえ年頃の女の子やぞ! 一緒の部屋なんて……」

 

 ザコシー子爵令息は、心配そうにこちらを見る。

 私は、にっこり笑う。

 

「私は、嬉しいです! 新しいお兄ちゃん? お兄様と、一緒になれるなんて!」

「ぷっ。くく……安定しないね、イーリャ。僕はお兄ちゃん? それともお兄様?」

 

 ザコシー子爵令息はクスクス笑う。

 私はぷくーっと、頬を膨らませる。ユーリ様の指示通り!

 

「もう! ずるいです! どうお呼びすればいいのか、ずっと悩んでいたのに!」

「あはっ、そんな事気にしてたんだ。好きに呼んでくれていいのに」

「……むー。じゃぁ、ちょっと試していいですか?」

「試す? どうやって?」

 

 私は立ち上がって移動して、ザコシー子爵令息の隣にいきなり座る。

 彼は顔を染めて、動揺した表情になって。

 

「なっ、なんだよ」

「えっと……お耳、いいですか?」

「ん? こう?」

 

 私は彼の耳元で、そっと囁く。

 

「お兄様。兄さん。お兄ちゃん。兄上。あんちゃん?」

「うっへ、くすぐったい」

「……わかりました。お兄ちゃん、ですね?」

「うわ。なに。なんなの。もう一回言って」

「えっ? 正解ですか? ふふっ」

 

 嬉しそうに笑う。彼も笑ってくれる。

 

「意地悪しないで、もう一回。お願いだよ、イーリャ」

「仕方の無いお兄様ですね……じゃぁ、もう一回」

 

 私は彼と距離を縮めるように座り直す。

 ザコシー子爵令息は、笑顔で耳を寄せてくれる。

 

「ザコシー、お・に・い・ちゃん」

 

 私の口から、うにょうにょさんが飛び出てザコシー子爵令息の耳の中に入る。

 あれ、ここで首にナイフのはずだったのに。みんな興奮しすぎ!

 

「……あ? ……え? イーリャ?」

 

 ザコシー子爵令息は身体の力が突然抜けて、痙攣をはじめる。

 うにょうにょさんが毒を注入したって報告してくる。

 もー。どうせ食べちゃうから結果は同じっていうけどさー。

 私はかつらを外して、軽く頭を振る。本来の紫髪が、さらりと露わになる。

 

「奥義、ウブギマイ? でした。どうです? 『安心』しましたか?」

「ふ、ふざ、けんな……」

 

 うーん。やっぱり奥義は難しい。研究しなきゃ。

 私は()()()()()()()()()()、猫手で可愛くポーズをとった。

 

「ふざけてないにゃん、ザコシーお兄ちゃん!」

「クソが!」

 

 そう言い残して、ザコシー子爵令息は死んだ。

 えっ? キソンしちゃった?

 私の中で、私とうにょうにょさん達が激しい議論をはじめる。

 

 やっぱり猫耳と尻尾が駄目だったんだよ!

 猫手ポーズはキソンしてないと思う!

 

 はぁ。ユーリ様にキソンを相談できればいいのに。

 

 ザコシー子爵令息の身体が()()()()()()()()()()()()のを見ながら、私はため息をついた。

 

 

 

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