ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング! 作:RAP
「聖女の戦い方を知っているかい?」
ユーリ様は、そう切り出した。
聖女騎士。通称『聖女』。神聖教会に属する対ゴブリン・対オーク専門の女性騎士。
『神の奇跡』を顕現させ邪悪を討ち、処女のまま妊娠して神の子を産む。
でも、私は。そのような尊い存在ではなく、ましてや処女ですらない。
「聖女達は、全裸の上にシースルーの布地の服を多少羽織っただけの……はっきり言ってしまえば、乳房も陰部も丸見えのまま戦う露出狂だ。だがそれが聖女の戦略でもある。敵の視線誘導と油断を誘発し、視野狭窄に陥らせる狡猾な罠。そこを……神の御使いが『神の奇跡』で粛正する」
「聖女のような格好をしろ、という話ですか?」
「そこまでする必要はないよ、バーチェ。重要なのは、敵の視線誘導と油断の誘発、そこからの視野狭窄という点さ。奥義『JKリフレ』は、相手の油断を誘発して相手の選択肢を大幅に狭め、行動予測を立てやすくし、視野狭窄に陥った相手を文字通り絡め取っていくカウンター技、そこに至るまでの一連の流れ――それら全てをまとめて、『JKリフレ』と呼ぶんだ」
「行動予測からのカウンター技……」
なんだか凄そうな技だ、と私が呆然としていると、ユーリ様は私のメイド服をじっと眺めて。
「そうだね、今のバーチェが着ているロンスカメイド服でも出来なくはないんだが、中盤以降の流れはロンスカだと想定外の事象を誘発しやすい。聖女級の痴女スタイルは論外。……うん、膝上スカートでいこう。女性冒険者が好む極端なミニスカートは、僕が伝授する『JKリフレ』には向かない……流派がね、あるんだ。色々と」
これ以上ないほどの真剣なまなざしで、ユーリ様は熱く語られた。
* * *
ザコビー男爵令息が住んでいる貴族寮のドアの下の隙間に、偽名の手紙を投げ入れた。
校舎裏手の庭園、噴水で音がかき消される向こう側に、植物園の建物が静かに佇んでいる。
ユーリ様のように医学を学んでいる方しか来ない建物であり、放課後ともなれば来訪者はゼロ。
その植物園内の、広場とも言いがたい中途半端な広さの芝生エリア。
私はそこで、ユーリ様が特別に仕立てて下さった異国の服――紺スカーフセーラー夏服膝上プリーツスカート、という長い名称らしい――を着て、メイドをしている時のように手を前で組んで、やや俯きがちに待機していた。
そこへ、足音が近づいてくる。一人分。エコーロケーションの練習の成果が出ている。
「……君かい? お小遣いを稼ぎたいという、悪い子は」
調査報告書通りの容姿。ザコビー男爵令息が、そこに居た。
ここからだ。『JKリフレ』は、もう始まっている。
私は、こくりと頷く。今からやることを想像するだけで、顔が赤くなる。
「ふふっ。照れているんだね。……こんなに美人なのに、お金が足りないんだ」
彼は無遠慮に近づいてこようとする。私はちょっと待ってと言いたげに、軽く手を挙げる。
彼が歩みをとめて、ニヤニヤと、ジロジロと、私の身体を舐め回すように見始める。
私は、意を決してスカートの端に両手を伸ばし、ゆっくりと……『たくしあげ』をはじめた。
彼の瞳が驚愕で開かれる。視点はまっすぐ、私の下半身に向いている。
ゆっくり、ゆっくり。するすると、スカートをめくっていく。
……やがて、私のスカートの中身が、彼の前だけに露わになった。ああ、恥ずかしい。
これも、ユーリ様が特別に仕立てた下着――水色縞パンリボン付きという名称――だ。
彼の鼻息が荒くなる。興奮して、両手を軽く前に出して……気をつけろ、ここからだ。
ユーリ様が言っていたことを思い出せ。ゆっくり来るか、突然来るか。
「……金貨? 余裕で払うよ! もっと出したっていい!」
最低でも金貨一枚は欲しい、手紙には現実的な価格を書いておいた。
高級娼婦なら当たり前の現実的な価格だからこそ、『JKリフレ』の成功確率はあがる。
彼が私の下着目がけて突っ込んでくる……突然来た! 想定パターン3、タックル!
私は彼のタックルにできるだけ逆らうことなく、押し倒されるように後ろに倒れ込む……ようにして、彼の左手を掴んで引き込み、右膝を彼の首にかけ、左膝を右脚にかけて完全にロックする!
その上で、彼の左肘が極まって動かないようにしながら、彼の手と腕を私の胸で包み込むように、私の両腕の全力をもって抱え込む!
気がつけば私の太股が彼の首を絞めていたわけで、ザコビー男爵令息は苦しそうにもがく。
私は彼を逃がさないように、全力で両脚をロックし、彼の左手を腕と胸で抱えて押さえ続けた。
奥義『JKリフレ』の最終形の1つ『三角締め』! 私にもできた!
ユーリ様曰く、私の生足と下着と胸の
むしろ、相手によっては自ら死へと邁進する行動すらはじめるらしい。
彼は私の太股や下着をなぞるように顔を動かしたり、胸から逃れるように腕を動かしてくる。
でもそれは逆効果だ。その行為は自動的に、私の脚と手のロックを強化する。
彼は脱出を試みているようだが、
最後の最後、首を絞められて酸素を欲しているはずの彼は、逆に私の下着に全力で顔を押し当ててきた。引いて駄目なら押してみろ、ということだろうか?
良くわからなかったが、それがトドメとなったのか。彼はその行為を最後に、軽く痙攣して動かなくなった。油断はしない。暫く絞め続ける。相手の腕から完全に力が抜けているのを確認して、ようやく私は彼から離れた。
彼の死を確認し、呼吸を整える。非力な女性が男性を絞め落とす、その難易度の高さ!
しかし、ユーリ様が教えてくださった奥義『JKリフレ』は、それを可能にした。
敵の視線誘導と油断の誘発、行動予測からのカウンター。
これが、ユーリ様の言う術理なのですね。
でも、彼は何故、自分からロックが強まるような動きをし続けたのだろう?
ユーリ様が言う『死へと邁進する行動』を彼がとった理由がわからず、私は小首を傾げた。
* * *
「確かに『可愛い』は強い。ただ、今回のように暗殺が主目的の場合、強力な合わせ技がある」
「……合わせ技、ですか?」
『可愛い』が最強なら、『可愛い』だけで十分なのでは?
私はそう思いながら、ユーリ様の説明を聞く。
「うん。ただ
「どうやって相手を油断させるんですか?」
「それはね、『安心』だよアイリス。『安心』は簡単に得ることができないからこそ、相手を油断させることができる。例えば、アイリスの主人であり夫でもある僕が、こうやって……アイリスの頭を撫でたら、アイリスは『安心』してくれるよね? 僕だってアイリスに撫でられたら『安心』するさ。でも仮に、名前も知らないはじめて会った人に頭を撫でられたら……イヤだよね?」
「はい、『安心』できないです」
こくこく頷く。
「ただ、裏技というか……よく知らない人に急接近することが可能な、限りなく初見殺しのテクニックがあってね。今回、アイリスにはそれを覚えて貰う。『可愛い』と『安心』が合わさると、相手は油断する。相手が油断したら……こっちのやりたい放題になる」
『可愛い』を極めるには、合わせ技が必要。
私も、うにょうにょさん達も、みんな興奮してドキドキした。
* * *
貴族寮の一室。ドアの前で、私は手鏡を見ながら、髪型の最終チェックをする。
かつらを被っているから、バーチェ姉様のようなロングヘア。
服装は、貴族のお忍び服のような高級生地のワンピースや可愛い靴。
「あの、すみません」
コンコン、とドアをノックする。暫くして、怪訝そうな顔の青年がドアから顔を覗かせる。
資料にあった、ザコシー子爵令息だ。
「誰?」
「あのう……ザコシーお兄様? お兄ちゃん? ええと……」
「はあ?」
「えっ? もう、お父さんからお手紙は届いてるはずだって聞いたんですけど……」
「待って、どういうこと?」
「あの、えっと……私、イーリャです。法的には、ザコシーお兄様? の、新しい妹になります……もしかして、入れ違い? どうしよう、困ったな……」
「ああもう、あのクソ親父! 聞いてねぇよ! ……あっゴメン、君に怒鳴ったわけじゃないんだ。とりあえず話を聞きたいから、入って貰える?」
ザコシー子爵令息が、部屋のドアの鍵を開けて、私を案内してくれる。
あれ? もう『安心』がはじまってる?
室内に入ると、ソファに座るよう促された。
きょろきょろと部屋を見渡しながら、照れ顔で(ユーリ様の指定!)ソファに座る。
テーブルを挟んで向かい側のソファに、ザコシー子爵令息が座る。
「私の両親は、ザコシーお兄様? お兄ちゃん? の、お父さんのお友達だったんです。でも、馬車の事故で急に死んじゃって……テンガイコドク? になってしまった私を、友人の子を見捨てるには忍びないと、養子として迎えて貰えることになったんです」
「……はー、なるほど。それで新しい妹……義理の妹ってことね」
「はい。それで、私も年齢的には学校に行けるから、とココに。部屋代が勿体ないから、ザコシー兄上? ザコシー兄さん? と、同室でいいんじゃないか、ってお父さんとお母さんが」
「アホか! 義妹とはいえ年頃の女の子やぞ! 一緒の部屋なんて……」
ザコシー子爵令息は、心配そうにこちらを見る。
私は、にっこり笑う。
「私は、嬉しいです! 新しいお兄ちゃん? お兄様と、一緒になれるなんて!」
「ぷっ。くく……安定しないね、イーリャ。僕はお兄ちゃん? それともお兄様?」
ザコシー子爵令息はクスクス笑う。
私はぷくーっと、頬を膨らませる。ユーリ様の指示通り!
「もう! ずるいです! どうお呼びすればいいのか、ずっと悩んでいたのに!」
「あはっ、そんな事気にしてたんだ。好きに呼んでくれていいのに」
「……むー。じゃぁ、ちょっと試していいですか?」
「試す? どうやって?」
私は立ち上がって移動して、ザコシー子爵令息の隣にいきなり座る。
彼は顔を染めて、動揺した表情になって。
「なっ、なんだよ」
「えっと……お耳、いいですか?」
「ん? こう?」
私は彼の耳元で、そっと囁く。
「お兄様。兄さん。お兄ちゃん。兄上。あんちゃん?」
「うっへ、くすぐったい」
「……わかりました。お兄ちゃん、ですね?」
「うわ。なに。なんなの。もう一回言って」
「えっ? 正解ですか? ふふっ」
嬉しそうに笑う。彼も笑ってくれる。
「意地悪しないで、もう一回。お願いだよ、イーリャ」
「仕方の無いお兄様ですね……じゃぁ、もう一回」
私は彼と距離を縮めるように座り直す。
ザコシー子爵令息は、笑顔で耳を寄せてくれる。
「ザコシー、お・に・い・ちゃん」
私の口から、うにょうにょさんが飛び出てザコシー子爵令息の耳の中に入る。
あれ、ここで首にナイフのはずだったのに。みんな興奮しすぎ!
「……あ? ……え? イーリャ?」
ザコシー子爵令息は身体の力が突然抜けて、痙攣をはじめる。
うにょうにょさんが毒を注入したって報告してくる。
もー。どうせ食べちゃうから結果は同じっていうけどさー。
私はかつらを外して、軽く頭を振る。本来の紫髪が、さらりと露わになる。
「奥義、ウブギマイ? でした。どうです? 『安心』しましたか?」
「ふ、ふざ、けんな……」
うーん。やっぱり奥義は難しい。研究しなきゃ。
私は
「ふざけてないにゃん、ザコシーお兄ちゃん!」
「クソが!」
そう言い残して、ザコシー子爵令息は死んだ。
えっ? キソンしちゃった?
私の中で、私とうにょうにょさん達が激しい議論をはじめる。
やっぱり猫耳と尻尾が駄目だったんだよ!
猫手ポーズはキソンしてないと思う!
はぁ。ユーリ様にキソンを相談できればいいのに。
ザコシー子爵令息の身体が