ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第27話 原作開始前・神聖教会

 ビケワ嬢が言った通り、約二週間で僕とグラスちゃんの婚約は無かったことになった。

 完全なる白紙撤回なので、有責云々もなければ、慰謝料を支払うこともなく。

 当たり前のように、割り込んだ形のセルヨーネ家が両家にお金を払ったりもない。

 

 ハサマール子爵家は、僕が表面上は笑顔であり、動く気配がないので特に何もせず。

 マンセー子爵家のみが、一方的に歯ぎしりをするハメになった。

 

 そして入れ替わるように、僕とビケワ嬢の婚約が成立する。

 婚約の書類は提出済みで、婚約式はビケワ嬢が暗黒大陸から戻り次第、盛大におこなうらしい。

 ……ビケワ嬢は永遠に語り継がれる偉業のために、出立の準備を進めている。

 

 ビケワ嬢に、護衛として腕の立つ領兵や冒険者をつけるとのことで、僕はビケワ嬢の偉大なる旅路を支援する旨を正式に表明。

 ナイツ王国が開発に成功する前に、戦闘大鎌(バトルサイズ)車輪大盾(ホイールシールド)量産板金鎧(マスプロデュースド・プレートアーマー)の設計図を書き上げて中央大陸中の国家の特許管理部署に送りつけた。

 合わせて、「ニク=ドレ・ハーベラ・セルヨーネ閣下が上記特許に関連するものを生産する際、特別に特許料を免除する。ただし販売は許可しない」という一文もつけくわえた。

 「特許料の分、安く生産できるようにするから、差額で売却益を得たりしないでね」という話に、ニク=ドレ卿は大いに満足したようで。

 まだ顔も会わせたことすら無いが、ニク=ドレ卿直筆の丁寧な礼状が送られてきた。

 

 反面、ビジョレ兄様は護衛のモーブ男爵令息を決してそばから離さず、貴族寮に引きこもり状態と聞く。不思議なことにある日突然、ビジョレ兄様の取り巻き達が全員失踪してしまったそうだ。

 普段から敵が多い自覚はあるのか、誰に狙われているのかわからず、震えているらしい。

 ビジョレ兄様を心配した僕は、彼に量産板金鎧(マスプロデュースド・プレートアーマー)の試作品を送り、「これで身をお守りください」と手紙を添えておいた。

 「心の底より感謝する、君がセルヨーネ一族となることが本当に嬉しい」とビジョレ兄様直筆の丁寧な礼状を頂いてしまった。

 

 

 * * *

 

 

 直筆の礼状を二通ともゴミ箱に投げ捨てながら、僕は貴族寮の自室で考え事をしていた。

 

 ラケットメイスと中型盾のセットが、何故この聖都で売られていたのか?

 

 ラケットメイス術は、のちに「聖剣の勇者セイ」と「聖盾(せいじゅん)の騎士マユリ」と呼称される二人の故郷発祥のものだ。

 バーチェ達に一度ラケットメイス術を体験してもらい、可能なら習熟してほしいと考えていたが、やはり教師がネックだ。装備だけあっても意味が無い。

 セイとマユリが孤児として聖教会に保護されているのなら、聖教会からラケットメイス術が発信されるようになっている可能性は高い。

 ……このタイミングで、一度来訪しておくのはアリだな。

 

「馬車の準備を。適当に詰めた金貨袋を複数用意。あと、貴族礼服へ着替えさせてくれ」

「どちらへ?」

 

 僕の服を脱がしながら、バーチェが尋ねてくる。

 

「二人に、亜人を殺す経験を積んでもらう。可能なら、亜人の言葉の解析も追加だ」

「ということは、冒険者ギルドですか?」

 

 アイリスが僕の礼服を準備する。僕は礼服に腕を通しながら答える。

 

「いや。聖教会さ」

「「聖教会?」」

 

 だよね。疑問はわかるよ。

 でも、亜人を殺す経験を積むのなら……圧倒的に()()()()()()()()

 

 

 * * *

 

 

 神聖教会。通称「聖教会」。

 明確に人類の味方、徹底的に人類の味方。勝利のために宗教という麻薬を迷わず利用する組織。

 国政どころか、中央大陸の国際連合に直結した複数国家群を動かす頭脳の一部。

 

 自分達より強い「亜人系モンスター」を駆逐するためなら手段を選ばない。

 進撃の巨人のエレン・イェーガーばりに「駆逐してやる! この世から……一匹……残らず!」を体現している連中。何故そんなことになっているのかというと、ウォール・マリアを超大型巨人が襲ったから……ではなく。

 

 約500年前の初代教皇が、聖典を改訂して亜人を根絶するよう明記し。

 約100年前の第12代教皇が、暗黒大陸に乗り込んで亜人を根絶するよう指示したから。

 

 国家が定める国法や憲法など、あらゆる法の上にある「聖法」なんてものまで用意して。

 いいから亜人ぶっ殺せよ! と騒いで喚いて大暴れしたのである。

 言われるがままに中央大陸の国際連合は連合国軍を結成し、各国が攻略を開始した。

 

 ……中央大陸の支配権すら握ってないのに、脅威度の高すぎる海まで渡って。

 

 暗黒大陸において、小村程度の領土しかなかった亜人達を鏖殺しようとしてから約100年。

 約100年経っても侵略は進んでないどころか、将来的には逆侵攻まで受けている。

 

 アホである。

 

 亜人達の高スペックにビビり散らかして、恐怖したから殺そうとした。

 『科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日記』のオサマ王国の王様が、織津江パイセンの魔王国に対して「攻め滅ぼすなら……『今』しかないのだ……」って震えていたけれど、震えずに本気で実行しちゃっただけの話。それだけといえば、それだけなんだけど。大司教が語っていたように、いきなり絶滅戦争じゃなくて会話からはじめとけよボケが、ってなもんである。

 

 バーピィチピット聖王国の首都・聖都カケルには、その神聖教会の本部がある。

 神聖教会というシステム全てを稼働させるに相応しい中枢本部。

 無駄にでかくて豪華で権威の塊のような建物群、無駄に広大な敷地、うようよいる聖騎士達。

 

 

 僕は本部受付のシスターに、金貨袋を差し出しながらこう言った。

 

「こちらは聖教会への寄付金です。お納めください。合わせて、聖戦(ジハード)の体験会への参加を希望します。それから……こちらの本部で、ラケットメイス術を学ぶことはできますか?」

「ユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息様。この度は聖戦(ジハード)へのご賛同とご寄付をいただきまして、誠にありがとうございます。頂戴した寄付金は大切に使用させて頂きます。それから今回のお申し出ですが、両方ともお受けすることができます。幸いにも、体験会の開始時刻が近いので、まずはそちらからご参加なされてはいかがでしょうか? ラケットメイス術のソードマスターは当教会に所属しておりますのでご安心ください。今は不在ですが、体験会が終わる頃にはお会いすることが叶うかと」

 

 シスターと、そんな会話をしていた矢先に。

 聖教会の神父服が全く似合っていない、黒いワカメ髪に無精髭の不機嫌そうな顔の男が、受付を無視して顔パスで教会本部に入っていった。

 僕は真横を通過していった彼をチラリと見てから、シスターに笑顔を向ける。

 

「それは良かった。それともう一つ」

「なんでしょう?」

「あの方を指名して、懺悔室での懺悔をすることはできますか?」

「あの方……は……」

 

 僕が指名した人を見たシスターが、小声で僕に耳打ちする。

 

「異端審問寸前とまで言われている御方ですが、本当によろしいので?」

「はい、問題ありません。僕の妻二人を、先に体験会の会場まで案内してもらえますか? 僕自身は、懺悔室での懺悔を済ませてから向かいます」

 

 僕は満面の笑みでそう答えた。 

 

 

 * * *

 

 

 聖教会本部の教会部分、と表現すると変な言い回しになるが。

 本部には無駄に建物が多いので、そう表現するしかない。

 その教会の内部に設置されている懺悔室の、懺悔側の中にある椅子に座り、僕は待機していた。

 

 なお、カトリックの教会には懺悔室があるが、プロテスタントには懺悔室はない。

 カトリックは神父であり、伝統や教会組織を重んじる。

 プロテスタントは牧師であり、聖書や個人の信仰を重んじる。

 この世界の聖教会は神父である以上、懺悔室はあるだろう。考察終了。

 

 乱暴に扉を開ける音がし、乱暴に座る音が聞こえた。

 僕の目の前の、小さな窓から見える神父服の男は、苛立ちを隠さずに言う。

 

「……神父のサイエンだ。これより悔悛(かいしゅん)の秘蹟を執り行う」

 

 古聖典研究者、サイエン。神の敵にして、異端の学者。

 ソウハカイ神父のライバルだった彼が、棒読みで告げる。

 

「神の慈悲を信じ、あなたの罪を告白しなさい」

 

 わかるよ。神様なんてどうでもいいんだよね。

 僕は小さな窓の手前にあるテーブルに肘をつき、祈りの姿勢を捧げる。

 

「敬愛するサイエン神父よ、私は貴方にお願いいたします。どうか私の懺悔を聴いて、罪の赦しを私に告げてください」

「打ち明けなさい」

 

 さて、どう攻めるかな。この路線でいくか。

 

「我が一族が信じていた雷の神は、神ではなく天使なのだと、いつの間にか聖典にて定められておりました。この世に存在する、ありとあらゆる全てのモノに神が宿ると信じていた我が一族の教えは、聖典を伺う限り、神は1つであり全てであると定める聖教会の教えに反しております。これは、我が一族は生まれながらにして罪を背負う罪人であるということなのでしょうか」

 

 ぴくり。サイエン神父が、小さな窓の向こう側で顔をあげるのがわかる。

 

「雷の神を信じている。そう告げた瞬間、私は哀れな罪人であるとされ、異端審問にかけられてしまうのでしょうか」

「神の……慈悲は、貴方を包むでしょう……」

 

 非常に言いにくそうに、心にも無い事を無理矢理捻り出すサイエン神父。

 神の慈悲なんてあるわけねーだろ。それは無理筋ですわ。

 というかアレよね。もし『雷神流』や『鳴神流』みたいな流派名で武術の道場を創設したらその瞬間に異端審問にかけられるってか? ひでぇ罠だ。

 

「哀れな罪人である私は、それでも、私の信ずる雷の神は天使ではなく神の一柱であるのだと大声で叫び、告げたい。ただ、それには……サイエン神父、貴方の時間が足りない」

「……何を言いたいのです?」

「『13の不可思議』を解明し、聖典の示す真理に至るために。私の信ずる神が、天使などという見下された存在ではないと証明するために」

 

 僕は懐から金貨が詰まった袋を取り出し、小窓の向こうに押しやる。

 

「どうか北の地へ。いつか貴方が聖典の真理に辿り着いた時、その証となるものを貴方から受け取るための、これは前払い」

「北の地……暗黒大陸か」

 

 僕は、貴族礼服の内側に仕込まれている予備のボタン――ハサマール子爵家の紋章が刻まれている――をむしり取って、小窓の前に置いた。

 

「港にて、ハサマール子爵家の紋章がついた商船があれば、それがハサマール商会の船という証です。船長か副船長級に、このボタンを見せた上で『ヤオヨロズ』と。それが合い言葉です」

「『ヤオヨロズ』……」

「私が戻り次第、手はずを整えておきます。貴方の痕跡は港で途切れ、ただの荷物が北の地へ届くことになる。……クラーケンに襲われないよう、神でも天使でも、好きな方にお祈りを」

 

 小窓の向こうから手が伸び、紋章入りのボタンが回収される。

 

「……名前を聞いておこうか」

「ユーリ。ただのユーリです」

「そうか」

 

 家名を伝えている以上、ただのユーリなんかじゃないのはすぐわかっちゃうんだけどさ。

 僕が将来どういうルートを辿るのか、まだわからないから。一応、ね。

 

「サイエン神父、貴方の旅路に幸運があらんことを」

「貴方の罪を、神は赦します。ただのユーリ」

「棒読みがすごい」

「うるせぇよ」

 

 がさごそと、金貨袋をしまいこむ音が聞こえる。

 

「急いだ方がいいかも。受付のシスター、養豚場に送られる豚を見るような目で貴方を見てたし」

「ソウハカイの野郎のお手つきに興味なんてねーよ。いずれはボロ雑巾だ」

 

 あーらら。

 

「じゃ、頑張って生き延びてくださいね」

「……証明してやんよ、ユーリ。お前の信ずる神のことを」

「ええ。楽しみにしています。……それでは」

 

 僕とサイエン神父は、同時に懺悔室の扉を開けて。

 一度だけ目線をかわして。

 

 お互いに、ふふっと笑って。早足でその場から立ち去った。

 

 

 

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