ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング! 作:RAP
ものすごい美人だ、結婚しましょう。
ソウハカイ神父に手首を握られながら求婚されたバーチェは、顔色ひとつ変えずに。
手首を掴まれた位置を下として、そこからくるりと半円を描いて自分の手を上に回した。
「えっ?」
ソウハカイ神父の上半身は押し出されるように前に倒れ、顔面が突き出される体勢となって。
――すかさず、バーチェの膝がソウハカイ神父の顔面に直撃した。
『メイド流護身術』の初歩、手首を掴まれた時の対処法。
相手の身分や状況、あるいは自身の実力に応じて「手首をあげて相手の握りから解放された上で逃走」「手をパーに開いて自分の肘を相手の肘に押し当て、身体を離す」「腕ごと引き込んで相手を倒しながら、倒す勢いに自分の体重を乗せて腕と肩を折る」など、色々な派生が存在する。今回バーチェがやったのは、割と軽めの対処、つまり
「ぐおおおお」
顔面を押さえて、地面を左右にゴロゴロと転がって悶絶するソウハカイ神父。
ゾクリとするような冷たい目で、そんな神父をじっと見つめているバーチェ。
忘れそうではあるが、ここは
血なまぐさい景色の中、新兵とベテランが殺気立ちながら亜人を殺している場所である。
要は沢山の人がこちらを唖然と見ているわけで。
空気を読まないイケメン神父が、明らかに貴族付きとわかるメイドを口説き。
そういうメイドは貴族の護衛も兼ねているのが当たり前で、その当たり前を実行した。
……外から見れば、それだけの話ではあるのだが。
「何をやっているんだ、バーチェ!」
「……ユーリ様」
メイドの主人である僕は、怒りの声をあげる! バーチェは僕の怒りに動揺する!
こんな、聖教会の敷地内、しかも血とゲロと絶望にまみれた広場で!
大勢の聖教会関係者が見ている中、よりによって神父格の人間に対して!
「こうだろう! こう!」
僕は地面でうつ伏せで悶絶しているソウハカイ神父の右手をとり、彼の右肘を曲げて彼の背中に手を押しつけて、そのまま彼の右肘の上に座り込んだ。
これは同時に両膝で全体重をかけて背中を押さえ込む態勢になるので、相手は身動きが取れず反撃もできない。こちらは両手がフリーだから、何でもやりたい放題。
「ま、まさか『JKリフレ』最終形の1つなのですか……!」
「そうだ。こういう応用法もあると覚えておいて、バーチェ」
『JKリフレ』最終形として見た場合、相手は右肘に伝う「女性の股間特有の高体温」を「下着経由で味わい」つつ「下着の感触も堪能」しつつ、なおかつ「両脚の太股の感触で右腕全体を包まれ」ながら全く身動きできない状況となる。マゾヒズム的資質のある男性なら「女性に乗られている」というのも追加されてしまう。なんにせよ、決まれば脱出不可能の恐ろしい技である。
「ちっ……違うだろ! やりすぎなメイドを主人として叱るところだろう!」
「は?」
ソウハカイ神父の絶叫に、僕は塩対応を返す。
「殺すか……」
「ごめんなさい解放してください」
僕はソウハカイ神父の首の後ろに、トン、と軽くチョップをしてから彼を解放してあげた。
「彼女は僕のメイドでもあり妾でもありますのでご遠慮ください」
「そっかー、妾かぁ……幾ら?」
起き上がりながらニヤニヤと笑うソウハカイ神父。状況わかってねぇな?
僕がジト目で見ていると、バーチェは彼に近づいて、こう尋ねた。
「幾らで買いますか?」
「……え? は?」
バーチェの唐突な問いに、ソウハカイ神父は困惑する。
「私が奴隷として売られていたとして、貴方だったら幾らで身請けしてくれますか?」
「んー、君を幾らで身請けするかって? そうだなぁ……」
真面目な顔になったソウハカイ神父は、頭をぼりぼりかきながら考え込んで。
「正直な話、女には困ってないんだよね。俺とヤリたい女なんて幾らでもいるしさ。だから本音を言えば『要らない』になるし、例えばの話だとしても……金貨30枚ぐらい、かな?」
ソウハカイ神父をフォローするわけではないが、この金貨30枚というのは、普通の娼婦なら余裕で身請けできる額だ。むしろ高評価と言える。前世と違って女は安いのだ。だから決して、安く見積もったわけではない、のだが。
その返事を聞いた瞬間、バーチェはソウハカイ神父への興味を無くしたのか。
「……行きましょう、ユーリ様」
「あ、うん。そろそろ、ラケットメイス術の先生が来る時間だ」
バーチェとアイリスは、何故か僕の両脇に位置して、二人で腕組みをしてくれた。
何事も無かったかのように二人が歩き始めたので、僕は引きずられるように。
「それじゃぁね、神父様」
残されたソウハカイ神父は、右腕をさすりながら、首を傾げた。
* * *
手が空いていたらしい受付のシスターが、ラケットメイス場まで案内してくれた。
僕は「こんな美人のシスターがソウハカイ神父にアヘ顔ダブルピースさせられているのか」と悟った瞳で彼女を見ていたが、僕は僕で両脇にメイド二名を侍らせていちゃいちゃしているようにしか見えなかったので、僕の脳内妄想がシスターに感づかれることは無かった。
「こちらです。……ああ、いらっしゃいますね。まだ子供に見えますが、あの黒髪の少女が、既にソードマスターの称号を得て当教会におけるラケットメイス術の指導役の任を……」
シスターの説明が、途中から耳に入らなかった。
僕の顔面は蒼白だ。ガクブル震えていたかもしれない。
やばい、やばい、やばい!
確かに可能性だけはあると思っていたけれど!
暗黒大陸入りしてからならまだともかく!
今はまだ! 会いたくない!
「あ、あのっ!」
「はい?」
僕はバーチェとアイリスを腕から引き離し、二人をシスターの前に差し出す。
困惑の顔を浮かべる、僕以外の三人。
「ラケットメイス術を彼女たちに! 暫くは毎週通わせます! 僕はその間、街で暇つぶしでもしていますので!」
「え、ええと? 見学も大丈夫ですよ? もちろん、貴方様のご参加も。それだけの寄付金はいただいてますし……」
「いえ結構! 授業時間はどれぐらいですか? 一時間? 二時間?」
「……着替えの時間も含めれば、毎回二時間程度でしょうか?」
「わかりました! それぐらいに戻ります! バーチェ、アイリス、頑張って!」
「あっ、はい……?」
「りょうかい、です?」
ラケットメイス場で、ラケットメイス術の授業を希望する生徒が集まっている、その向こう。
ラケットメイスを手にした、黒髪ロングの日本人顔の美少女が。
茶髪ショートの、少年のような……胸が大きく膨らみ始めた美少女と談話していて。
二人とも、満面の笑みを浮かべてはしゃいでいるのが見える。
いま僕が彼女に顔を見られた場合、何がどうなってどう転ぶのか全く予想がつかない!
暗黒大陸で会うのはいい! でも今は駄目だ! 本当に今だけはガチで何もわからない!
僕は! 全力で! 逃亡するッ!
「とにかく適当に時間潰してくるから、僕の戻りが遅くても待っててね! それじゃ!」
引きつった笑顔でバイバイと手を振りながら、僕は走り出した。
……マユリちゃんはともかく。セイちゃんだけは。
ハーフヴァンパイアの件も含め、どれだけ情報を抜かれるか全くもってわからない。
暗黒大陸で彼女と会う時期なら、聖教会相手に戦争だって挑めるだろう。
でも今は駄目だ。聖教会との全面戦争の覚悟と戦力なしに、彼女には会えない。
こちらの戦力は全く揃っていない上に、一瞬で原作が崩壊する可能性が高い。
オリチャー、ガバチャー、そんな次元を遙かに超えて、リセットが許されるレベル。
織津江パイセンと偶然出会う方が、まだマシだろうさ。
* * *
「あれ、坊ちゃん、どうしたんです?」
馬車置き場にて、待機していた御者に声をかけられる。
「あー、二時間ぐらいしたら戻るつもりなんだけど……いつものとこ、寄ろうかな?」
「最近お気に入りのあそこですね? ささ、乗ってください坊ちゃん」
「僕は好きなんだけど、人気の無いお店でねぇ……」
「そりゃ仕方ないですよ。按摩って結局力仕事ですから、ガチで行くなら男の手です」
「握力かぁ……まぁそうだよねぇ、一般的にはそうなっちゃうよねぇ」
本気の本気で疲れている人が、なけなしのお金でマッサージを受けるとして。
強く揉まれたい人が、男の施術と女の施術のどちらを選ぶのか。
前世と違って現実的に判断する人が多い今世では、女性のマッサージは人気が低い。
『美女に揉まれてエロけりゃいい!』と考える人は少数派の世界なのだ。
Z級だの半額だの、女冒険者が色々言われているぐらいだからね!
……それゆえの裏メニュー、なんだろうな。苦肉の策。わかるよ。
よーし、