ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第3話 原作開始前・幼年期

 ハサマール家の先代は、元々は平民の商人だったそうだ。

 店舗の経営規模拡大に応じて、余計な敵を作らないよう貴族や王家に付け届けをかかさず贈っていたところ、ハサマール家を貴族として囲うべきと判断した王家が男爵の地位を与えた。

 

 授爵してまもなく、困窮していた子爵家に土下座レベルで頭を下げられ、仕方なく政略結婚。あの困窮貴族を救えるのならウチも助けてくれ、と懇願してくる周辺の貧乏貴族を低金利融資などで支援していたら、呆れた王家から「お前がアイダ地方を全部まとめとけ。なんなら伯爵位をやろう」と言われてしまい、全力で遠慮して子爵への陞爵で止めてもらったとかなんとか。

 

 うん、男爵からそう間を置かずにいきなり伯爵位になんてなってしまったら、上位貴族に目をつけられて嫌がらせの嵐で酷いことになるから仕方ない。

 ゆえに領土の広さや経済規模的には伯爵家相当だけど、必死になって子爵家を維持している。

 それがハサマール子爵家。

 

 だからこの家には美人のメイドさんが多いのか、と納得する。多分、息子達がメイドにお手つきしても側室か妾的な意味で何人でも迎えるから大丈夫と両親が笑顔でニコニコしちゃうやつだ。

 前世知識なしでこんな環境に幼少時から置かれていたら、確実に女性の扱いは歪みまくるだろうな。玉の輿狙いの美女達に迫られ続ける青年期? 余裕で『ざまぁ』コースだ。

 

 転生者的には、色々と助かった。例えば家の書庫はちょっとした図書館レベルの蔵書数を誇るし、毎日お風呂に入れるし(半裸の下女が身体を洗ってくれるよ!)、食事には困らないし、他国に支店が出せそうなぐらいハサマール商会の支店数や流通は整備されているし、何より三男なのに家庭教師(ガヴァネス)もキチンと手配してくれるらしい。

 

 産まれ表のダイス目に感謝しておこう。主人公ジャン君のような平民スタートだったとしても、速攻で小銭を稼いで技術や知識習得をロケットスタート気味にブーストする予定だったけど、ハサマール子爵家という下地があればわりと容赦なく色々できる。

 将来的にどうするか、どうなるか、そういうのは全く不明だし決めてないけれど。

 

 もし何かを成し遂げようと強く決意した時に、弓王ボーゲンや剣姫カタナといった原作ネームドの英雄達が自分の前に立ちはだかってしまったとしても、五体満足で勝つか逃げるかという()()()を追加できるような努力と下準備はしておきたい。

  

 自分の現在地は中央大陸。いずれ北方の暗黒大陸を目指すとしても、その前にやらなければいけないことが山ほどある。

 焦ってはいけない。千里の道もなんとやら。

 

 貧乏貴族でなければ、一般的な貴族令息は、5~8歳頃から家庭教師(ガヴァネス)がついて本格的な教育がはじまるらしい。本格的な教育前ならば、多少の好き勝手をしても、変な子供扱いで許して貰えるのではないだろうか。 

 

 家の敷地内限定(裕福な伯爵家級だからマジで広い、舐めちゃいけない)かつ、猪や鹿が出るような裏山に入らなければ、とりあえず好きに遊んでいいらしい。

 だから、もし異世界転生したら子供の頃からやっておきたいと前世でなんとなく思っていた事を、全部やることにした。

 

 

 晴天の中、敷地内に幾つかある庭園に、広場的なスペースがある。従者的にそばで見守ってくれているメイドの怪訝そうに向けてくる目はガン無視。

 

 じっと立つ。身体には骨が通っていて、筋肉があり、神経がまとわりついていると意識する。

 正中線と仙骨を特に強く意識する。自分の身体が少し揺れているのがわかる。身体ができていない。骨も筋肉も未熟。だから揺れる。

 ただ立ち続ける。「正しい立ち方」とはなんだろう、と考えながら。これを一時間。

 メイドから見れば、なんかぼーっと、ただ突っ立っているだけだ。頭おかしく見えるよね。

 

 歩く練習。足から歩くのではなく、仙骨と丹田を繋いで背中を押されるように。

 腰は捻らず、大股ではなく小股で、大きく歩くのではなく小幅を積み重ねるように。

 正中線を立て、両肩が動かないように。腰は捻られないように。

 ただ歩き続ける。「正しい歩き方」とはなんだろう、と考えながら。これを一時間。

 メイドから見れば、なんかずーっと、ひょこひょこ歩いているだけだ。頭おかしく見えるよね。

 

 走る練習。歩く行為の延長線上。重心を強く意識する。重心を崩して立て直すのを繰り返す。

 右半身と左半身を交互に上下させると、骨盤と胸郭は連動するというのを意識して。

 前世の体育の授業のように、腕を大きく振ったりしない。肩は動かさない。腰も捻らない。

 ただ走り続ける。「ただしい走り方」とはなんだろう、と考えながら。これを一時間。

 メイドから見れば、右手右足、左手左足を同時に出して走るお坊ちゃまがいるだけだ。頭おかしく見えるよね。

 

 感じる練習。両目を閉じる。涼やかな風が肌にあたる。土と草の匂い。遠くの花の匂い。

 足から伝わる土の感触。片足を軽く上げる。少し横に。足を下ろす。骨が動いて重心も動く。

 ()()()を前に伸ばす。繋がっているから、腕が動く。肩も動く。脇も動く。胸も動く。

 手を伸ばし続ける。身体が開く。背骨が動く。腰が動く。重心が移動し、身体を支えるために片足が動き、タン、と地面につく。

 少し身を沈める。重心が下がる。伸ばした手を優しく開き、握り、ゆっくりと肘を丸め、打ち払うかのように伸ばす。次は逆の手で、同じ事を繰り返す。

 連動している。骨があって筋肉があって神経があって、肌があり、押すと返ってくる。返ろうとする。世界には重力がある。身体は重力の影響を受けている。これを一時間。

 メイドから見れば、突然変な踊りをはじめた変なお坊ちゃまだ。頭おかしく見えるよね。

 

 昼食のあとは、書庫で片っ端から本を読みあさる。

 絵本ではなく、狩人の日記や、薬草や毒草の図鑑。魔物や亜人の研究書。

 メイドから見れば、大人が読むような法律や医術の本をめくっているお坊ちゃまは、賢しらぶって格好つけている可愛そうな子供だ。

 

 そして夕食は肉や魚の量を少々増やしてもらい、お風呂に入って寝る。

 それを毎日繰り返す。

 

 お友達? いません。

 兄弟との交流? 最小限です。

 

 

 そんなことを繰り返していたある日、なんか突然母上に号泣されて強く抱きしめられた。

 ごめんなさい、あなたを愛しているの、あなたは愛されているのよ、とわめかれて。

 大兄も小兄も怪訝そうな顔をしてるし、父上は執事と真剣に精神科医について話している。

 

 大丈夫です!

 狐に取り憑かれたりとかそういうことはないです安心してくださいお父様!

 泣かないでください本当マジ大丈夫ですからお母様!

 はい愛してます! 信じて!

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