ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第33話 閑話・ミルヒとカカオ

 双子の姉妹こと、ミルヒとカカオは10歳にして立派に働いている子供だ。

 ユーリが生きていた前世の人達が聞いたら、児童労働だの国際労働条約だのと騒がれるだろうが、ここはそもそも中世的ファンタジー世界であり、就業最低年齢も義務教育もへったくれもないのでごく普通の当たり前の光景である。

 むしろ身体を売ってないだけマシである。この世界は娼館等で女性を買う値段が安いので性欲を解消しやすく、10歳以下に手を出そうとする人はいない(いないとは言ってない)。

 

 原作ではわかりにくいが、ミルヒの方が長髪で、カカオの方が肩までのボブカットである。

 二人ともまだ幼いながら、将来的に美少女になることが確定している勝ち組の美貌だ。

 

 30歳で結婚した彼女たちの母は、大変な苦労の末に結ばれたので、家計に余裕は全く無い。

 両親の共働きどころか、子供の姉妹を含めた家族全員で生活費を稼いでいる。

 

 以前は仕事を見つけることすら難しかったが、最近は『革命』の関係で仕事の選択肢やその幅が増え、賃金も上昇傾向にある。ご飯のおかずが一品増え、家族の談話も増えてきて。貧乏平民ながら、そこそこ幸せに暮らせている。

 

 

 ミルヒとカカオは、昼間は清掃やゴミ拾いの仕事でお金を稼いでいる。

 『革命』後は観光や外食産業が活発化して街のゴミが増えたため、ゴミ掃除も立派な仕事だ。

 

 昼間の仕事が終わり、陽が暮れる頃、彼女たちは知り合いのお姉さんであるバトの店に向かう。

 バトさんが経営しているマッサージ店の掃除をしてお小遣いを貰って、仕事は全て終了だ。

 

 幾ら美人女性が店主とはいえ、按摩は力仕事だと考える人が大多数のこの世界において、女性に按摩を依頼する客は少数派だ。

 仮にも聖都のメインストリートに店舗を構えているはずなのに、閑古鳥が鳴いている。

 経営はつらいはずなのに、それでも子供のミルヒとカカオを雇い続けてくれるバトのことが、彼女たちは大好きだった。

 

 

 * * *

 

 

 お店の前に立った段階で、何かの異変があったと直感した。

 ドアにかかっている看板こそクローズドにはなっている、しかし。

 それこそが既に違和感だ。バトさんは、私たちの掃除が終わってから閉店処理をする。

 私たちが最後の掃除をしていないのに、もう閉店処理?

 

「……カカオ」

「なに?」

「ドアが開いてる」

 

 あり得ない。看板がクローズドなのに、ドアが開いたまま?

 ミルヒがそっとドアを開け、カカオも静かに後を追う。

 

 夕陽しか光源のない店内は相応に薄暗く、見えにくい。

 バトさんは盲目だから、見えにくい云々は関係ない。

 むしろ、今はまだ視覚に頼らざるを得ない私達姉妹の方が不利な場だと感じる。

 

 店内には、栗の花の匂いと、不思議とドキドキする臭気が混じるように漂っていて。

 店の奥から、女性のくぐもった声……子供の姉妹ですら興奮してしまうようなものが聞こえて。

 

 バトさんの探知能力は半端ない。普通なら、誰かが店の扉を開けた瞬間に対応する。

 でも、ミルヒとカカオの二人が侵入しているのに、誰も出てこない。

 

 ……ようやく見えた。

 バトさんが、施術用ベッドの上で、半裸で横たわっている。

 問題は、強姦の事後かと錯覚してしまうような、その景色だった。

 

 ぐったりと横たわった彼女は、淫らに乱れた髪を直そうとすらせず。

 口腔内に溜まった何かを味わうように、むにむにと頬を動かし。

 時折口を開けて、にへらと笑っている。 

 

 唾液やら、鼻水やら、涙やら汗やら、沢山の分泌物が中途半端に乾いて残り。

 バトさんの口の()からこぼれていた何かの液は、透明に近いさらさらとした何か。

 時間が経ち、液化した精液が形状変化してそうなる、という知識は姉妹にはない。

 

 彼女は右手で自分の胸を揉みながら、伸ばした左手は股間をいじっている。

 男が聞いたら一発で勃起確定の、いやらしい声をだしながら。

 彼女は突然、深呼吸……というより周辺の空気を強く吸い込む動作をして。

 その空気が鼻孔を伝って脳内を刺激したのか、彼女はそれだけで達したようで。

 

 悲鳴にも似た、満足そうな吐息をもらし。

 足先をピンと伸ばし全身を震わせて、彼女はこてんと、ベッドに頭を預けた。

 

 

「……レイプ……じゃないか。凄く満足そうな顔してる」

「服の上から乳首がバキバキに立ってるのが見えてエロい」

「オナニーともちょっと違うよね? セックスでもない」

「バトさんは仕事一筋の人でしょ? 声はかけられまくるけど絶対なびかないし男の影もないし」

「これって精液、なのかな? 見たことないけど匂いは噂で聞いたことある」

「駄目だこれ。もし私達以外の誰かが、しかも男の人が今、入ってきちゃったら」

「大惨事確定だぁ……うわぁ、どうしよう」

 

 ミルヒとカカオは半泣きで憧れのお姉さんの服を脱がし、身体を念入りに拭き、ベッドを掃除して、服やシーツの洗濯もして、室内に籠もる妙な匂いを室外に追い出して。

 予備のワンピースドレスと下着を二人がかりでなんとか着せて、そこでようやく一息ついた。

 

 憧れのお姉さんたるバトが、一体何がどうなってこんな痴態を晒してしまったのか。

 私達に一切気づかない、普段のバトさんなら絶対にありえないほどのめりこんだオナニー。

 

 双子は互いに耳年増ではあったが、10歳という年齢の前には限界もあった。

 今回見てしまった光景は、ちょっと高度すぎた。

 事情聴取が必要である。決して好奇心ではない。ないのだ。

 

 

 * * *

 

 

「コイバナ……?」

「にしては一歩か二歩ぐらい飛び越えてる気が」

「んー、そういう話とは、ちょい(ちご)うてな……」

 

 ミルヒとカカオの事情聴取。

 バトは口をむにゃむにゃさせている。

 

「「お客さんに惚れちゃったんです?」」

 

 瞬間、バトの顔が全面真っ赤に染まった。

 

「おっとぉ?」

「いきなり核心ついちゃいました?」

「た、ただの裏メニューの客やねん……惚れたとかそういうんは……」

「裏メニューって……」

 

 姉妹は怪しむ。バトの裏メニューには、前提条件が沢山あるからだ。

 礼儀正しく、清潔感があり、金払いもよく、絶対に裏切らないと確信できそうな人。

 バトは盲目なので、支払いをキャンセルして全力で逃亡されると何も出来ない。

 偽の銀貨やら金貨やらで支払われても面倒だ。

 

「下手したら高級娼婦より価格設定の高いアレですよね?」

「手だけで半銀貨3枚(1万5千円)、口で銀貨3枚(3万円)でしたっけ?」

「……せ、せやな……」

 

 銀貨2枚もあれば普通に女を抱ける。高級娼婦のフェラだって余裕だろう。

 

「それで? 本番でも許したんです?」

「一発ハメて『女の味』ってやつを教えたんですねふひひ」

 

 耳年増姉妹がニヤニヤと尋ねたが、バトは首を横に振る。

 

「……う、ウチは……そんなんしたことないし……」

 

 何言ってんだコイツ、という目で姉妹はバトを見る。

 

「き、キスもまだなんやで? れっきとした乙女やで?」

「「乙女はあんなオナニーしねぇんですよ!」」

 

 双子はキレた。

 あんな、同性の私達ですら混乱するような光景を見せておいて。

 

「キスもまだとかありえないでしょ」

「え? 本当に口だけだったんです?」

「……せやな、少々オマケはついとったけど……」

「幾ら貰ったんです?」

「あー……」

 

 バトは、両手の指先をつんつん合わせて。

 

「金貨、2枚……」(20万円)

「「は?」」

「……い、いつもは金貨1枚なんやで?」(10万円)

「「は?」」

 

 労働舐めてんのか、ぶっ殺すぞ。双子はそう思った。

 半銀貨1枚貰うのに、こっちがどれだけ苦労していると思っているのか。

 

「はぁ……それで? 年上の金持ちでイケオジの魅力にころん、と?」

「フェラに金貨2枚とか……40代半ばのおっさんです? 脂ぎってたりします?」

「……と、年下、かな……? 二人より2つ3つ上ぐらいの……」

「「は?」」

「お貴族様の(ぼん)やからな? お(めかけ)さんも二人おるって言うてたし……」

「ああ、コクって断られたんですね?」

「そんな簡単に玉の輿とか無理ですよねえ……」

 

 姉妹の台詞に、バトは目線を逸らす。

 

「ちゃうんや……」

「はい?」

「何がちゃうんです?」

「お(めかけ)さんにどうかと乞われて……断ったのは、ウチの方やねん……」

「「は?」」

 

 バトは恥ずかしそうに顔をむにゃむにゃさせている。

 

「あ、あんな? ウチ乙女やから……その……」

「旦那は一人で独占したい、と?」

「平民の一夫一妻サイコー! ですか?」

 

 姉妹は徹底的に問い詰めねばならぬと決意した。

 

「あのですねバトさん。私達と似た年齢の男爵令嬢が、自分の親より年上の伯爵様と結婚して第十夫人になったとか、よく聞く話なんですよ」

「第十!?」

「貴族は嫁の10人や20人、当たり前の世界ですよ? ましてやお金持ちのお坊ちゃまなんでしょ? そんなお坊ちゃまの『3人目』なんて、最速の部類でしょ!」

「……フェラ程度に金貨2枚だしちゃうお坊ちゃまだから、お小遣いが凄いのかな?」

「そうなんかなぁ……自分で稼いでる言うとったで? 『革命』したからお金にはあんまり困ってないとかなんとか……」

「えっ? 『革命』を、()()? 恩恵とか影響を受けてるとかじゃなく?」

「バトさん、その子の特徴は? なんか名前とかわかります?」

 

 問われたバトは、マッサージ用オイルをケースで送った住所を思い出す。

 

「確か、ええと……ハサマール家?」

「ユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息!」

「複式簿記本の著者じゃないですか! 複式簿記を覚えて使いこなせるようになったら、どんな商店だろうが面接飛ばして就職できるって言われているヤツですよ!?」

「そ、そうなん?」

「「あああああ!」」

 

 双子は叫んだ。幾ら優しいバトお姉さんといえど許せないことはある。

 

「それで? 行き遅れ乙女のバトさんに、今日何があったんです?」

「そこですよそこ! なにをどうやったらあんなバトさんになっちゃうんですか!」

 

 バトは顔を染め、ぷるぷると身体を震わせて答える。

 

「指と舌だけで、数えきらんぐらいイかされてな……頭おかしなったで……」

「……本番もキスもなしに?」

「え? こっちはフェラだけだったんですよね? どういうこと?」

「なんもかんもわからんなって……色々ぶっ壊されたっちゅーか……」

「今日のあんなバトさん、私達が男だったら絶対押し倒してますよ」

「ドアの鍵開いてたんですよ? レイプされてても今日のバトさん文句言えないですよ?」

「うう……終わった後、なんか聞かれたんは覚えとるけど……わからん……」

「ホンマ! つっかえ!」

「涙目バトさん可愛い」

 

 涙目のバトに、双子は容赦なく追い打ちをかける。

 

「それで? 性格が良くて金持ちで甲斐性持ちの少年で、夜の技量もある子にコクられて?」

「前後不覚になって私達の目の前でオナニーするぐらい頭ぶっ壊されたのに、結婚を拒否?」

「……で、でも……ウチ、やっぱり一夫一妻がエエし……」

「現実見ましょうバトさん。それって本当に必要な条件なんですか?」

「男って基本的に年下の女性を求めるんですよ? なのに年上のバトさんを口説いたってことは、遊びでもなんでもなく、本気の本気で愛されてるってことじゃないですか!」

「……本気の、本気……」

「まさかとは思いますが、もしかして、閑古鳥が鳴いてるこのお店を維持できてるのって、その人が関係してませんか?」

「私達が毎日清掃をしなきゃいけないほど忙しいお店じゃないですよね? 結構無理してますよねこのお店」

「な……なんや……言葉でめった刺しにしてくるやないか……」

 

 はぁ、と双子はため息をつく。

 駄目だこの女。わかってねぇ。

 

「じゃぁ整理しましょうバトさん。意地で一夫一妻ルートを貫いたと仮定します」

「問い1。性格が良くて億万長者で夜も凄い年下の天才少年に惚れられて、向こうから告白される確率を述べよ」

「……えっ?」

「えっ、じゃないんですよ、えっ、じゃ」

「私達が立候補したっていいんですよ? そしたらバトさんは5番目ですね」

「えっ? えっ?」

「はー。性格が良くて億万長者で夜も凄い年下の天才少年に惚れられてコクられる一夫一妻ルート! 小説にしたら売れそうですね!」

「年下の男性が年上の女性にコクるって真面目にありえないんですけど、理解してます?」(※異世界調べ)

 

 ガーン。

 バトはわかりやすくよろめいた。

 

「危機感が全然足りてない。なんだこの行き遅れチンピラ」

「のんびり構えてたら全てが手遅れになる宝くじの一等賞なんですけど」

 

 ぐさぐさっ。ぐさぐさっ。

 バトの心を、何本もの槍が貫いていく。

 

「次はいつ頃来そうなんです? 私達がバトさんの代わりになりますから!」

「乙女のバトさんは後生大事に処女を抱えて、蜘蛛の巣でも張っといてください」

 

 バトは何も考えられなくなって、倒れた。

 

 

 

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