ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第34話 原作開始前・ガバチャー

 異世界転生あるあるの1と2は以前に話したから、続きの3と4。

 

 「その世界はゲームではなくリアルであり、みんな懸命にその世界で生きている人達なのに、それを忘れてNPC(ノンプレイヤーキャラ)のように扱ってしまい、やらかす」

 「悪い噂を信じた上で、噂が真実なのかどうかを一切確かめずに婚約破棄を宣言したり、『お前を愛することはない』とか言ってやらかす」

 

 はい、これ両方ともやらかしちゃいましたユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息です!

 いぇーい! 異世界恋愛タグで『ざまぁ』されちゃったみんな、見てるぅー?

 今日から僕もみんなの仲間入りさ!

 選択肢の表示か、クイックセーブ&ロードが欲しかったよね!

 

 再走案件ですか? (淫夢要素は)ないです。イクゾォー!デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!

 

 

 * * *

 

 

 ニク=ドレ卿は側室嫌いの愛妻家だ。

 だが、適当にメイドや領民を妾としてつまみ食いし、飽きたら捨てているという噂がある。

 この噂について、僕は真正面から問い合わせる手紙を送ってみた。

 

 そしたらクソ長文のお返事がきたよ。

 長すぎるんで、読むのが面倒な人向けに後で簡単にまとめるよ。

 

「息子はともかく、娘の出産時は大変な難産で、結果として妻はビケワの生誕と引き換えに子を成せぬ身体となってしまった。優しい妻は側室を迎えなさいと進言してきたが、命を賭けて息子と娘をこの世に産みだしてくれた愛妻の提案に首を縦に振ることは私にはできなかった。しかし、この世界は簡単に人が死ぬ。モンスターや亜人達に襲われ、妻同様に子を産めなくなった女性や、稼ぎ頭の夫を亡くした女性、あるいは両親を失って奴隷商に身売りした子供など、そういう逸話に事欠かない。かといってそういった『生きづらくなった者達』に対して安易に金を配れば、それは悪意によって簡単に奪われてしまうだろう。ゆえに、お金を渡す際に少しでもセルヨーネ家が後ろ盾になれればという想いで、そういった女性や子供を妾として迎え、読み書き計算などの生きる術を教えた上で、生活費を多めに渡して解放することを繰り返した。少年に女装させ、偽装することで無理矢理に妾とみなすことすらした。しかし全員を救えるわけではない。お金を貰うことが出来なかった者達からは恨まれ、悪しき噂を流された。しかし噂を否定しようとすれば、それだけ時間と手間と費用が発生してしまう。であるのなら、その分を救済に向けた方がいい。私が悪しき噂を被ることで一人でも多くを救えるのなら、と割り切った。割り切ったつもりだった。

 だというのに、ユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息。庇護されるべき子供世代の貴方が考案した『ハサマール革命』に、私は脳天を割られるような衝撃を受けた。陛下を目の前にしても一切臆することなく『流通改善と生活の向上をもって人々の心に余裕を生み出し、人口増へと繋げる。人口増は畢竟、国力と戦力の強化に繋がる。つまり富国強兵である。この革命の真意は、中央大陸全体に富国強兵の概念を広めるものである』と、堂々たる態度で論じてみせた貴方の姿を今も脳裏に思い浮かべることができる。貧しき者に私財を分け与える発想しかなかった私は、富国強兵の概念の偉大さに、その場で軍務大臣を辞そうとしたぐらいだ。陛下に直接諫められ、辞職こそ断念したものの、貴方を『ただの下位貴族』で終わらせてしまうのはこの国の未来を潰す凡愚の行いだと感じた。私はさらなる汚名を被る覚悟で、無理矢理に貴方を高位貴族に押し上げる横紙破りを実行した。本当に申し訳なかったと思う。

 グラス・タレーメ・マンセー子爵令嬢と貴方が昵懇の間柄だとは知っていたが、マンセー子爵令嬢を息子のビジョレと結婚させることでセルヨーネ一族に迎え入れることが出来れば、寄子のマンセー子爵家が抱えている莫大な借金を、寄親たるセルヨーネ侯爵家が肩代わりする堂々とした理由になりうる。愛娘のビケワを貴方が気に入ってくれるかどうかは賭けだったが、心の美しい少女を好むというユニコーンと共に笑顔を見せる愛娘の姿を絵画として後世に残すことができたのなら、それは革命を成した偉大なる夫に臆することなく対等に肩を並べうる実績となる。偉大なる貴方に遠慮なく寄り添える権利を入手した我が愛娘は、何一つ迷うことなく貴方に愛情の全てを向けることだろう。共に手を携え、幸せな未来を歩む夫婦になれると私は堅く信じている。貴方が開発してくれた新型装備の特許料免除の申し出にも、改めて感謝を。あの装備は、今後の人類史において多くの人命を救うことになるだろう。貴方を私の、いや、私達夫婦の息子として迎えられることを本当に嬉しく思う。義理の息子などという表現ではなく、本当の息子として貴方のことを想っているのだと伝えたい。私のような老人に告白されても貴方は困るだろうが、子を成せぬ妻の成した奇跡の愛息であるとすら私は思っている。

 懸念があるとすれば、私たち夫婦はビジョレとビケワを溺愛しすぎてしまったということだ。言葉を飾らず言えば、教育に失敗してしまった。特に息子のビジョレは、貴方を怒らせてしまうような挑発的な言動や、紛らわしい行動をしてしまうかもしれない。だがそれは、幼くして絶大なる功績を挙げてしまった貴方への、いわば嫉妬だ。……できれば優しく導いてあげてほしい。まだ確定ではないが、このままビジョレが心を病んだままなのであれば、ハサマール子爵令息、つまり貴方を正式にセルヨーネ家の次期当主として指名するつもりだ。その場合、息子のビジョレは貴方にとって義兄にして寄子となる。ビジョレは寄親となる貴方を嫌うかもしれないが、ビジョレの弱点はビケワの笑顔だ。なんだかんだ言いつつも結局は、ビケワとの兄妹愛を優先し、君たち夫婦を支えてくれるようになるはずだ。その頃には、ビジョレとマンセー子爵令嬢との仲も近づいているかもしれない。そうなれば嬉しい。

 私も妻も、いつまで生きられるのかはわからない。だがそれでも、貴方とビケワの子、つまり初孫をこの手に抱くまでは、いかなる悪名を背負ってでも生き延びる覚悟だ。もしかしたら、私がビケワの。妻がビジョレの。つまり双方の、私達にとっての初孫を抱きながら、家族全員で笑いあう未来もあるかもしれない。そんな景色を見ることが出来れば、この老体は何一つ思い残すことなく、未来を子らに託して天に旅立てるだろう。

 貴方と愛娘の未来に永遠の幸せがあらんことを、聖教会の十字架と共に祈る。

 ニク=ドレ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵より」

 

 長文を読む気にならなかった人への簡単な説明。

 

 ・ニク=ドレ卿は母国を憂う憂国烈士でした。軍務大臣の鑑です。

 ・家族愛に溢れています。超いい人です。子育てには失敗しました。

 ・セルヨーネ侯爵家存続のために僕を次期当主にしようとしています。

 ・夢は、初孫二人を老夫婦で抱きしめて笑顔になることです。

 

 

「なんだよこれ……真のノブレス・オブリージュじゃん……」

 

 僕は読了後、胃をおさえながら机に突っ伏した。

 胃がキリキリ痛むよ! 正直吐きそうです。

 僕の家族なんて、実の息子に金貨6000枚払えって言ってきましたが何か?

 

 息子の教育に失敗したっていうレベルじゃねーぞ! 明らかに喧嘩売られてたぞ!

 というかもう後戻りできへんで! 戦争です! 戦争はじめてますがな!

 なのに独立子爵家はビジョレ兄様が継いで、僕がセルヨーネ侯爵家の次期当主になるパターンが成立しつつあるじゃねーか!

 

 初孫……初孫ときた! ですよねえ! 老夫婦の心残りですもんねえ!

 僕とビケワ嬢の子供! ビジョレ兄様とグラスちゃんの子供!

 家族みんなで幸せに食卓を囲んで、使用人達が微笑ましく見守るんでしょうねえ!

 

 

 ……誰かが、ほんの少し優しければあの子たちは──

 結婚し、子供を産んで、幸せに暮らしただろう。

 でも、そうはならなかった。ならなかったんだよ、ニク=ドレ卿。

 だから──この話はここでお終いなんだ。

 

 『BLACK LAGOON』は名作だからみんな読もうね。

 

 

 * * *

 

 

 意識を切り替える。冷静に考え直す。

 

 ユニコーントラップは、もうほぼ確定で発動する。ビケワ嬢は死ぬだろう。

 そして自動的に『二の矢』が発動することになる。

 死んだ愛娘の復讐に走るニク=ドレ卿が、軍勢を引き連れて暗黒大陸入りし、アイギス周辺のユニコーンを皆殺しにする。

 つまり、中央大陸におけるセルヨーネ侯爵家の軍事力は一時的にではあるが大幅に低下する。

 本来はそれで一年近く時間を稼いで、戦力を整えるつもりだった。

 そのうえで、軍事力低下の隙をついてビジョレ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵令息を殺す。

 高位貴族のくせに子供が二人しかいないセルヨーネ家は、もうそれで終わりだ。

 将来の展望をなくし、意気消沈するニク=ドレ卿に対しては、やりたい放題だろう。

 

 あとは、頃合いを見計らってグラスちゃんを迎えに行けばいい。

 はい、ここでタイマーストップです。

 エンディングのスタッフロールを眺めながら動画は終了です。

 

 ……そうはならねぇんだよなァァァァ!!

 

 

 というか、まずい。タイミングが悪い。

 全ての歯車が最悪の方向に噛み合って回り始めている。

 

 ビジョレ兄様の気鬱が続く限り、セルヨーネ侯爵家の後継者として指名することはできない。

 憂国烈士たるニク=ドレ卿は、民のことより自分のことを優先する者は、実子とて容赦しないだろう。内心はともかく、表向きの僕は自領どころか中央大陸全体、果ては人類の底上げまで視野に入れて実績を積み重ねまくっている人間なので、セルヨーネ侯爵家の次期当主に相応しいとニク=ドレ卿が考えるのは自然だ。

 なにしろ高位貴族となれば、国を改革するような提案を陛下相手に直接奏上できるから話はずっと早くなる。気がつけば宰相の地位とか指名されているかもしれない。

 

 ビケワ嬢の帰還を待たずして、セスレ先輩が僕の側室になる流れとなるだろう。侯爵令嬢が正妻、かつ、セルヨーネ侯爵家の次期当主候補の件が公爵家に伝われば、ほぼ確実だ。

 

 そこには僕の意思も、ましてやビケワ嬢の意思も関係ない。()()()()()は政略結婚には不要だ。

 

 セスレ先輩は、僕との関係が親密化したことをすぐに公爵家に報告するだろう。僕との繋がりを作りたい公爵家は、彼女を政略結婚の駒として有効活用できるのならきっとそうする。中途半端な立場の次女の使い道として、連合国軍に送るより余程良い。公爵家の権力を考えれば、下手すれば陛下からの勅命として捻じ込まれる。彼女の側室入りは、侯爵家と公爵家の関係性強化のために実現する。

 先輩が言った「侯爵令嬢が正妻なら、公爵令嬢を側室に迎えることができる」のはまさにその通り。むしろ、僕に心を惹かれていたセスレ先輩にとって、高位貴族の横紙破りで正妻を含む僕の状況が一変したことは全てが渡りに船だったろう。扉の鍵を閉めずに机で角オナをしていた彼女を見ても、強姦したりドン引きしたりせずに、全てを許して受けとめて心配までしてくれた僕を逃がす理由は、セスレ先輩側から見れば何ひとつない。

 僕はセスレ先輩を完墜ちさせるべく近づいたつもりだったが、彼女から見れば葱どころか具材と鍋つゆと鍋を背負ってノコノコやってきた鴨だったのかもしれない。真実はわからない。

 

 問題は、その先。簡単に予想できること。

 

 セスレ先輩を側室として迎えた後、ビケワ嬢がユニコーン伝説を残した場合。

 正妻枠が()()()()()()ことになる。

 一度側室になったら正妻にはなれないよ。セスレ先輩は僕の正妻になれない。

 

 側室たるセスレ先輩が公爵令嬢の次女だから正妻はそれ以上の格が必要になる。

 つまり侯爵令嬢の長女か、公爵令嬢の長女か、王族の女性しか迎えられなくなる。

 そうしないと侯爵家と公爵家の双方に喧嘩を売ることになるからね。

 

 ゆえにグラスちゃんは、僕の正妻には絶対になれない。第二側室が限界だ。

 僕が独立子爵家当主なら、まだ正妻の可能性はあった。でもそうはならない。

 侯爵(高位貴族)と子爵(下位貴族)の間には深い溝が存在している。

 

 正妻枠が空位のまま、第一側室セスレ、第二側室グラス。

 年頃の王女様を正妻に捻じ込まれる可能性すらある。王家の政略結婚。

 

 

 ……なんか色んな意味で、暗黒大陸に行くしかないのかも。

 このうえ王家とも繋がりができます、とかなったら僕の胃壁が保たない。

 

 前世で出会ったハーレムキングの完全上位互換版の話、覚えてるかな?

 本当のハーレムは、親が娘を差し出してくるんだ。親族になるためにね。

 前世地球ですらそうなんだもの。今世だって同じこと。何も変わらない。

 

 

 * * *

 

 

 僕が今世で強い影響を与えてしまった原作キャラ達を、原作から取り除いたと仮定して、物語がどう変化するのかを全力で脳内シミュレーション。

 

 グラスちゃんの場合。カタナちゃんから緊急生存術教練を指導してもらった時に、川で溺れたことがきっかけでカタナのお兄ちゃん(ケンタウロス)に助けてもらうことになる。それを「女性解放戦線(内ゲバの結果、未活動化)」に密告され、のちに冒険者ギルドのギルドマスターからカタナちゃんが聞き取りされる事になる。でもカタナのお兄ちゃん(ケンタウロス)は全然隠密活動してないし、遅かれ早かれ密告に繋がっていたと思う。そう考えていくと、グラスちゃんは物語に影響を及ぼすことはない。

 

 セスレ先輩の場合。クコロ、メキシという適当なネーミングの同僚達から推測するに、取り替えが効くモブのはずだ。『科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日記』において、知らないこととはいえ織津江パイセンと敵対してしまっているリパブリック共和国所属の訛葦笛地は、初登場時に『モブ』と紹介されている。織津江パイセンも『モブ』と紹介されてるのは内緒だ。ともあれ、「セズレ」とかそんなノリで、ジェネリックセスレ先輩というか、2Pカラー的存在が突然湧いてくる疑惑がある。セスレ先輩の2Pカラーが湧いてくるのなら、やはり物語への影響は大差ない。

 

 バトさんの場合。A級パーティ「闇蝙蝠」はバトさんとミルヒカカオ姉妹抜きという、チャーシューメンからチャーシューと麺を抜いた感じで結成される。ボーゲンは聖教会との話し合いのあと「弓の会」の面々と旅立つことになり、ゴブリン娘・リマを嫁に迎える。その後、ボーゲン夫妻は勇者パーティと邂逅して……あれ、バトさんの影響はどこ? 

 

 「全盲のSのF級」「闇の女王」「下部ダンジョンの案内人」「深き不可知の迷宮に最も愛された女」「音見の創造者」「盲導人」バト!

 二つ名が多い。闇の女王とか前後にダガーマークつけちゃおうぜ。「†闇の女王†」バト!

 

 ラスボスが深き不可知の迷宮(ふかふかダンジョン)である以上、下部ダンジョンの地図更新とかわりとどうでもいい。

 もしかして……枝葉末節に変化はあれど、三人の去就は大筋にたいして影響はない? 

 

 

 * * *

 

 

 僕がこの世界に転生してきた時に想定していたチャートは以下の通り。

 

 ・バトさんと狙撃手クロスの初邂逅時、バトさんの抜刀に割り込んで格好良く邪魔をする。バトさんはどうせボーゲンと結ばれるので、クロス側に好印象を与えておくのが賢い行為。

 ・カタナちゃんがクコロ達を連れ去ろうとするオーク帝国勢に会いに行ったときに、セスレ先輩に「いつか貴女の脱出を援護します。強く生きて」と伝えて好印象を与える賢い行為。

 ・弓王ボーゲンとバトさんが結婚した直後に部屋に乗り込んで、結婚祝いに「無反動矢」をリヤカー荷車ごとプレゼント。無敵夫婦に全力で媚びを売る賢い行為。

 ・アテウマちゃん、ヒキタテーさん、エロモーブちゃんなど、いずれ死んでしまう女性冒険者を札束ビンタで記念セックスしておく賢い行為。

 ・ジャン君と勇者パーティが邂逅し、赤とんぼの歌解説をする名場面をセイちゃんに顔を見られないように隠れて聞き耳を立てる賢い行為。

 

 賢い行為とはなんぞや。

 

 どうやってバトさんの抜刀に割り込もう? 彼女の抜刀時に刀を弾き飛ばすと、飛ばした刀で誰かが怪我をする可能性がある。それよりかは、クロス君のおばさん発言を聞いた後に、バトさんの首筋に居合いで刀を添えてドヤ顔したら格好よくない? でもバトさんに近づく行為は音見レーダーに引っかかるから、予めジャンパーティを手伝って彼らのそばに居た方がいいのかな……? って真面目に考えてました。

 

 今となっては全部ご破算っぽいんですけど。

 僕が組んだチャート、もしかして……ガバかった?

 

 

 僕がいま一番気にかけているのは、バトさんのことだ。

 

 一応、僕はこれでも、弓王ボーゲンとバトさんのカップリングを邪魔する気は無かった。

 バトさんがどれだけ一夫一妻を望んでいようとも、結局はゴブリン娘のリマと、ボーゲンを共有することになるし。

 エロモーブちゃんが死ぬ前に彼女と出会う事が出来たら、一晩買ってガッツリ犯しちゃおう!

 どうせ彼女が死ぬのなら、エロモーブちゃんに膣内射精しちゃうのもアリでは?

 ぐらいのノリでバトさんにパイズリフェラごっくんをしてもらってました。

 

 バトさんをドロドロのぐちゃぐちゃにしてしまった後、流石に「身体を綺麗に拭いた方がいい?」と尋ねたんだけど、バトさんはふんにゃり笑って少しだけ首を横に動かした(注:バト側に記憶無し)ので、ここまでの状態だと一人でお風呂入った方が早いだろうし、僕自身もラケットメイス術の授業終了までに戻りたかったので、帰還させてもらったんだけど……あの時に、バトさんの何かを致命的に壊してしまっていたのではないか疑惑がある。

 

 僕のガバチャーの影響を確認するために、一度バトさんの様子を確認したほうがいい。

 

 

 * * *

 

 

 御者に頼んで、いつものように『バトのマッサージ店』に向かった。

 普段と違うのは、バーチェとアイリスも一緒なこと。

 今日はラケットメイス術の授業がないうえに、裏メニューの気分でもなかったし。

 

 むしろ、いつも頑張ってくれてるバーチェとアイリスに、バトさんのマッサージを受けてもらいたい。マッサージオイルも追加購入して、売り上げに貢献しようじゃないか。

 その()()()にバトさんと話して、彼女の様子を見られればそれでいい。

 

 チリン!

 ドアに連動した鐘が鳴り、僕達は入店する。

 

 すると、店の奥。

 ソファに座っているバトさんの髪を、二人の少女が梳いている。

 年の頃は10歳ぐらいか? 片方は長髪、片方は肩までのボブカット。

 双子だろうか。顔立ちはものすごくそっくりだ。

 少女達は、前世におけるピアノ発表会で登壇するような、平民としてかなり頑張った布質の黒いワンピースを二人とも着ている。

 

 双子の少女達とバトさんは小声で内緒話をはじめるが、残念ながら筒抜けだ。

 音見というか、エコーロケーションの訓練してるしね。

 

「……バトさん?(小声)」

「ああ、(ぼん)や……後ろの二人は知らんが(小声)」

「えー……普通にイケメンなんですけど(小声)」

「お(めかけ)さんが美人過ぎてヤバい(小声)」

 

 話し終えたのか、双子がこちらに向かってくる。

 そっくりな顔立ちの少女は、僕達の前に並んで。

 

「いらっしゃいませ」

「店主がお待ちです。どうぞ」

 

 ささ、お入りください、とばかりに。二人は両手を部屋の奥に伸ばすポーズ。

 ……ミルヒと、カカオ? 暗黒大陸で合流じゃなくて、中央大陸(こっち)からもう居たのか。

 

 二人の誘導を受け、店の奥、バトさんの所に辿り着く。

 バトさんは、僕の方をちらちらと見て、暫く口をパクパクさせていた。

 双子の少女がため息をついてバトさんの両側に位置し、二人でバトさんの肩を軽く叩いた。

 

「ほら」

「言っちゃえ言っちゃえ」

「……あの……その……な? (ぼん)に言いたいことがあってな?」

「なんでしょう、バトさん?」

 

 僕は内心で首を傾げながらも、居住まいを正す。

 貴族礼服なので、皺がないか、とか、素早く確認(チェック)

 

「ええと……」

 

 バトさんは、両手の人差し指を伸ばして、先端をぐるぐる巻く仕草。

 なんだこの可愛い生き物。でも双子の視線が冷たくなってる。うーん?

 

「だ、誰を殺せばエエんや?」

「「ッシャおらぁ!」」

 

 バトさんが意味不明なことを言って、双子の少女は両側からローキックをバトさんにキメた。

 

 

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