ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第35話 原作開始前・妾三人

 双子少女が両側からローキックをキメた時、僕は弓王ボーゲンにやったやつだなとぼんやり遠い目をしていた。ソファに座っていたバトさんは、両脚をさすって涙目だ。

 僕は困ったように、こめかみをポリポリと掻いて。

 

「どうしたんですかバトさん、そんなに経営ヤバいんですか?」

 

 いまは以前と比較して状況が変わってしまったから、暗殺の仕事は無いです。

 バトさんは時折見せるむにゃむにゃ口で、もごもごする。

 そこへすかさず、双子がバトさんの耳元で囁く。

 

「五人目(小声)」

「蜘蛛の巣(小声)」

「う、うう……」

 

 言われたバトさんが、びくっと震える。何かの暗号だろうか? 

 僕が首を傾げていると、バトさんはようやく意を決して。

 

「あ、あのな? 前に言うてくれた、お(めかけ)さんの話、あったやろ……?」

「はい。でも、バトさんの心を捻じ曲げてまで押し通す気は無いですよ」

「……その話、受けよう思とって……まだ、アリなん?」

 

 双子の顔に、にんまりと笑みが浮かぶ。

 僕は思わずバトさんに近づいて、織津江パイセンがパーラちゃんに言ったような台詞を吐く。

 

「……幾ら必要なんです? 正直に言ってください」

「ちゃ、ちゃう! ちゃうねん!」

「バトさん?」

 

 双子が握りこぶしで、「そこだ!いけ!(小声)」「押せェ!(小声)」とか言ってる。

 

「あれから、色々考えてな? 考えとるうちに、頭ん中が、(ぼん)で一杯になっとった……」

「「おおう……」」

 

 バトさんの本音台詞、しかも剛速球なやつに、双子が思わず感嘆の声を挙げる。

 うーん、そうか。ここはもう、腹を括るしかない。

 僕は跪いて、バトさんの左手を手に取り、彼女の(めし)いた目を真っ直ぐ見つめた。

 

「バトさん。一夫一妻の主義を捨て、妾の件を受ける気になってくれた。合ってますか?」

 

 顔を真っ赤に染めたバトさんが、こくりと頷く。

 双子の握りこぶしが感無量に震えているのがわかるけど無視。

 

「……わかりました。ユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息の名において、バトさんを三人目の妾として迎えると、ここに宣言します」

 

 そう言って僕は、バトさんの左手の甲にそっと口づけをした。

 挨拶の時にやるような口づけをするフリ、ではなく、正式な求愛行動なのでガチの口づけ。

 

「よ、よろしゅうな……(ぼん)……じゃなくて、ユーリ、様……?」

「呼び捨てでいいですよ、慣れないでしょう?」

「め、めっちゃ照れるわ……なんなん、これ……」

 

 口をむにゅむにゅさせるバトさん。

 

「そうですね、バトさん……バトの……あ、駄目だ、僕も慣れない。まぁいいや、今はバトさんで。バトさんの両隣にいる御二方を紹介していただけますか?」

「せやな……髪の長い方がミルヒで、短い方がカカオや。ウチで掃除の仕事をしてもろとる」

 

 紹介された双子は、ぎこちないカーテシー(平民なので仕方ない)を見せてくれた。

 僕は立ち上がって、ボウ・アンド・スクレープの返礼をする。貴族だしね。

 

「ユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息です。お見知りおきを。……ちょうどいい、ではこちらも。メイド姿ではありますが、正式な妾です。まず、一人目のバーチェ」

 

 バーチェは一歩前に出て、綺麗なカーテシーをする。

 

「17なので、バトさんの3つ下ですね。次は二人目のアイリス」

 

 アイリスが一歩前に出て、笑顔でカーテシーをする。

 

「僕と同い年の12歳。すぐにわかってしまうことなので(あらかじ)め言っておくと、二人は元々、法的には僕の両親が所持していた奴隷です。それを身請けした形になります」

「なんや、お貴族様は世界が違うなぁ……いうて、ウチも娼館一歩手前やったし、暗黒大陸で冒険者でもしよかと思っとったから、あんま変わらんな……」

「んー、その意味では、二人は元を辿れば娼館の禿(かむろ)から無理矢理引き上げたので、特にバーチェはギリギリでしたね」

「はい! 質問です先生!」

「はいミルヒ君」

 

 ミルヒが挙手してきたので、先生として返事をする。

 

「二人ともめっちゃ美人なんですけどぶっちゃけ幾らだったんですか」

「あー、やっぱ気になりますかソコ」

「構いません、ユーリ様」

 

 バーチェが微笑を浮かべて答える。

 

「金貨3000枚です」

「私も金貨3000枚です! いぇい!」

 

 アイリスが指を三本立てて元気に答える。

 ミルヒとカカオが顔面蒼白になる。

 

「さっ……?」

「さんぜん?」

「申し上げておきますと、お小遣い等ではありません。自己資金ゼロの状態から『革命』を興し、ユーリ様が自ら稼がれたものです」

「二人合わせて金貨6000枚です! いぇい!」

 

 バーチェとアイリスが補足する。双子はぽかーんとしている。

 うーん、聖教会の時から感じてたんだけど、バーチェは妙に自己評価が低い。

 もしかしたら、自分につけられた値段を心の拠り所にしているのかもしれない。

 バトさんが、ソファに脱力気味に座る。

 

「なんや、色々悩んでたんがアホらしゅうなってきたな……いや、(ぼん)の金目当てだったわけやないで?」

「わかってますよ、バトさん。乙女をずっと貫いてたじゃないですか」

「乙女は後でユーリ様に貫いてもら痛ッ!?」

 

 カカオちゃんが何かを言おうとして、バトさんがカカオちゃんの頭を軽くひっぱたいた。

 ……うん、カカオちゃん、何か下ネタを言おうとしたんだね。わかるよ。

 

「なんかな、こう……ユーリがウチを大事にしてくれとる、ってのがじわじわ効いてきてなぁ」

「じゃあバトさん、正式な書類はともかく、決心の証を見せてください」

 

 バトさんが、軽く手で自分の胸を押さえて、幸せそうにしてくれてる。

 僕はなんだか嬉しくなって、両腕を広げた。

 

「ハグです、ハグ。()()()()()()?」

 

 バトさんが頷いて、立ち上がる。そろりそろりと、僕の腕の中にバトさんが入る。

 

「このキスは誓いの証でもあり、バトさんの決心の証でもあります」

 

 そう言って僕はバトさんの顎に手をかけて……優しいキスをした。

 バトさんの身体が少し震えて、完全に大人しくなり、僕に身を委ねてくれる。

 双子は、わー、わー、と顔を真っ赤にしていた。

 

 キスの最中、バトさんが僕の匂いを吸おうと、鼻呼吸を深めにしているのがわかった。

 ……ああ。バトさんが盲目だというのを、僕は失念しかけていた。

 舌すら入れないキスが終わり、バトさんは照れ顔を浮かべる。

 グラスちゃんより初心(うぶ)なキスですね、わかります。

 

「まだですよ、バトさん。……ほら、お手をどうぞ」

 

 僕はバトさんの両手をとり、僕の顔に誘導する。

 きょとんとしていたバトさんは、僕の意図に気づいて嬉しそうに微笑む。

 バトさんの両の手のひらが、僕の髪や頬、顎に優しく触れていく。

 彼女の指が優しく、僕の両目のまぶたを撫でる。

 もし()()()になれば僕の両目は潰されているが、構わない。

 

 ……やがて、バトさんは満足したのか。

 最後にもう一度僕にキスをして、ゆっくりと身を離した。

 双子がそれを茶化す。

 

「これで『行き遅れチンピラ』が『ただのチンピラ』になりましたね!」

「『蜘蛛の巣の乙女』もようやく卒業ですね……」

「お前らいい加減にせえよ?」

 

 そういうバトさんは、どこか寂しそうだ。

 うーん? ああそうか、バトさんはこれでミルヒカカオ姉妹とお別れになってしまうと思ってるんだ。原作知識に囚われすぎていた僕は、黙ってても二人が側付きとしてバトさんについてくるものだと思ってた。

 

 ……またやらかすところだったなぁ。

 バトさんが貴族の一員になってしまう以上、仲良し平民グループはもはや維持できない。

 貴族側の(あるじ)たる僕が声をかけてアクションを起こさないと、姉妹は何もできないじゃないか。

 

「ミルヒちゃんとカカオちゃんなんですけど、メイド見習いになるのはどうです? 高給なのは保証しますよ。バトさんではなく、僕に仕えて貰う形になりますけど。将来的にバトさんが子供を産んだら、ナースメイドとして子守を担当してもらってもいいですし」

 

 アロちゃんに対する、ナギさんとウォルさんになるのもアリだよね。

 そんなことを考えていると、姉妹はバトさんを軽く押しのけて。

 がしっ。僕の両腕が、それぞれミルヒちゃんとカカオちゃんに抱えられる。

 ……あざとい。自分の小さな胸が僕の腕に強くあたるようにしてる。狙ってるな。

 

「ミルヒ10歳。四人目を希望します、ユーリ様」

「カカオ10歳。五人目を希望します、ユーリ様」

「お前らなぁ……!?」

 

 バトさんが二人を僕から引き離そうとするが、二人は「やだー!」「玉の輿ー!」と暴れて離れようとしない。さすが異世界、欲望に全力すぎる。

 

 彼女たちは将来的に音見の技術をマスターし、A級パーティ「闇蝙蝠」の一員として()()()()()()()()()()()()()()活躍するエースに育つ。

 恐らく真の暗闇の中で正確に弓を命中させる技術があるのだろうと原作装備から推察できる。

 だから将来のパーティ要員として押さえておくのは悪くないし、巨乳の美少女に育つのも知っているから姉妹を妾として迎えることに関して何も異論は無い。

 

 別に僕は巨乳星人ではない。おっぱいに貴賤は無い。そう、ただちょっと、バトさんのせいで性癖に亀裂が入る音を何度も聞いたぐらいで。僕は何も悪くない。裁判官、僕は無罪を主張します。

 

 バトさんもなんだけど、弓を撃つ時にクソ邪魔になりそうな巨乳は正直心配になる。ただ、前世は女性の胸を守る為のプロテクターとかあったし、今世は鎧があるし、考えてみればジャン君のパーティも巨乳の弓使いばかりだから、気にしたら負けなのかもしれない。……ブラジャーとかあったっけ、この世界? 巨乳が多い印象だから、将来的におっぱいの形が悲惨な感じに崩れたりしない? 創世神の加護案件だろうな多分。加護と言えばなんでも許される。

 

「うーん……正妻やら側室やら、いわゆる政略結婚枠の嫁が今後何人増えるのかはわからないけど、僕が最低でも子爵家当主になるのは確定だし、下手すると侯爵家当主になるから、生存戦略的にミルヒちゃんとカカオちゃんを妾として迎えるのは実はアリ寄りのアリなんだよね。バトさんを迎えると宣言してから舌の根も乾かないうちにこんな話をするのは大変申し訳ないのだけれども」

「はぁ……確かに複雑な気分にはなるな。でもユーリが言いたいことはわかるで? お貴族様の闇、つまり暗殺やらなんやら、ごっつめんどいのが絡んでくるんやろ?」

「「えっ?」」

 

 バトさんの発言に、姉妹が驚く。

 僕は苦笑して答える。

 

「そりゃ守るよ? 全力でみんなを守るけど、そういう貴族の闇はどうしてもつきまとっちゃう。つけくわえるなら、将来的に暗黒大陸に冒険者として出向く予定だから、その意味でも死の確率はあるっていうのは先に言っておく。……死なせないよう、全員、キッチリ鍛え上げるけどね」

「ウチは『音見』と呼んどるけど、真っ暗闇の中で遠くを狙撃できるような技術を教えることはできるで? まぁ、ウチは真っ暗闇ってのがどんなんか知らんけど」

「うん、ありがとうバトさん。明日から毎日、ミルヒとカカオに仕込んであげて。そうだね、4年……できれば3年以内の習得が望ましい。バトさんの妊娠の可能性もあるし」

「に、にんし……せやな。そうやな。……ん? ユーリにも教えたるで?」

「ああ、僕は『エコーロケーション』って呼んでるんだけど……その『音見』、僕とバーチェとアイリスはできる。だから大丈夫」

「なん……やと……」

「だから、ミルヒちゃんとカカオちゃんに改めて聞いておくけど」

 

 腕を掴まれたまま、僕は彼女たちを交互に見る。

 

「バトさんと一緒に()()()()()()になる? それとも、ミルヒちゃんとカカオちゃんとして、ナースメイドとしてバトさんの子供を育てる方に回るかい?」

「はい! 質問です先生!」

「はいカカオ君」

「バトさんの『音見』を仕込まれるってことは、ユーリ様の妾になろうがメイドになろうが、私達が暗黒大陸で冒険者をやる方針に変わりはないってことですよね?」

「えっ? あーうん、そうなるかな。二人は確かにメアキかもしれないけれど、盲人であるバトさんと長い付き合いみたいだし、『音見』がどんな感じなのか感覚で理解してると思うんだよね。つまりバトさんのようになれる素質があるってこと」

 

 僕は原作知識を知らない振りして、それっぽく表現する。

 大丈夫。君たちは将来のエース級確定人材なんだ。

 カカオちゃんに続いて、ミルヒちゃんが質問を重ねてくる。

 

「将来的にどれだけ増えるのかわからない奥様の人数を私達が受け入れることができるのなら、ユーリ様ご自身は私達を妾として迎えることは、アリ寄りのアリなんですよね?」

「そうだね。貴族は家の存続が最重要の目的で、優秀な子供の数はそのまま家の力になる。その辺の感覚が平民と違うから、貴族の常識は最低限受け入れてもらうことになる。妾の子供自身に強い権力は発生しないけれど、正妻や側室の子等に何かがあった時のスペアにもなれるし、相応の地位や責任を伴う仕事にも簡単に就職できる。軍隊でいうなら、平民なら一兵卒スタートでも、貴族出身であれば庶子だろうと指揮官スタートが普通なんだ。何故なら、貴族出身ということは、幼少時から相応の教育を受けている証左でもあるからね」

「妾になってもメイドになっても、やることに大差がないのなら……」

「断然、妾だよね。下手すれば侯爵とか言ってるし。勝ち組中の勝ち組」

 

 二人は目線でやりとりし、強く頷いて。

 僕の腕を、より強く自分の胸に押し当てながら。

 

「「お(めかけ)さんでお願いします!」」

「うん、わかった。バトさんと君たちを、引き離す気もないしね」

 

 そう言って僕は肘を曲げて、肘から先の両手を垂直に挙げる。

 その瞬間、僕の腕を強く抱えていたはずの双子達は、あっさりとその腕を引き剥がされる。

 どうして腕を外されたのかわからない、と双子達の顔に困惑が浮かぶ。

 

 僕は再び跪き、ミルヒの左手とカカオの右手を同時に手にとった。

 わかりやすく見せつけるように、二人の手の甲にキスをする。

 

「ユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息の名において、ミルヒとカカオを四人目と五人目の妾として迎えると、ここに宣言します」

 

 双子の顔は驚き、ふわぁ……と呆け、にまにまと笑い、二人で顔を見合わせて。

 二人で抱きしめあい、飛び跳ねて喜んだ。

 

「「やったー! 勝ち組! 玉の輿! 保証された人生!」」

「いや冒険者やる言うとったやろ。なんも保証されとらんわ」

 

 バトさんが右手でツッコミを入れるが、二人は聞いちゃいない。

 きゃいきゃい喜んで大騒ぎだ。

 

「そうだ、バトさん。この店舗は賃貸ですよね?」

「ん? せやな、引き払うことになるな」

「大丈夫です、このまま土地ごと僕が買い取ります。あ、お店は閉めますよ? 三人の主要な荷物は聖都のハサマール家の屋敷に送って貰って、今後は僕達と一緒に貴族学校の貴族寮で過ごして貰うことになります。普段の就寝は使用人室で、そうでない時は僕の部屋で。……部屋に余裕はあるよね、バーチェ?」

「私達は八人部屋を二人で使っております、ユーリ様」

「ウチもメイド服を着るってことやねんな?」

「バトさんだけじゃなく、ミルヒもカカオも、ですね。暫くはメイド見習いとしてみんなに色々学んで貰います。あと、これから僕が創設する『雷光流』という武術に弟子入りしてもらって、戦い方も覚えて貰います」

「えっ? 私達、『音見』も覚えるんですよね?」

 

 ミルヒが驚く。バーチェとアイリスが答える。

 

「私もアイリスも、同じことを同じように学んでまいりました。皆様も同じように、とのユーリ様のご意向かと思います」

「最近はラケットメイス術も学んでるよ? 大抵の弓矢は跳ね返せちゃうかも」

「お、おう……随分詰め込んどるな……」

「あはっ、流石にバトさんにラケットメイス術を覚えて貰おうとは思ってませんから安心してください。そのかわり」

「そのかわり?」

 

 僕は意の念も()()()もなにもかも消して、バトさんの喉に人差し指の先端をぴとりと当てた。

 一瞬遅れて、バトさんの顔色が驚愕と困惑に染まる。ミルヒとカカオが息をのむ。

 何度もやられているバーチェとアイリスは「そうなりますよね」と苦笑を浮かべる。

 

「バトさんの武に、僕の術理を加えます」

 

 

 * * *

 

 

 たった一日で、妾が三人も増えてしまった。流石にこれ以上妾を増やす気は無い。

 嫁さんで夜のローテをする気はない。

 気が向いた時に好きなだけ抱く、この方針は今後も変わりない。

 

 双子の両親に挨拶したり、支度金としてある程度包んで渡したり。

 セスレ先輩の件とか、色々片付けないといけないことはあるけれど。

 

 原作との乖離が目に見えて始まったのだと僕は理解し、肩をすくめた。

 

 

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