ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング! 作:RAP
「さて。『若返りの秘薬』における、互いの取り分の話はここまでにして……ユーリ君、キミにはやってもらいたいことが幾つかある」
応接室。オットー卿はそう切り出す。
僕は首を傾げる。
「100点満点中50点の秘薬を、100点にすることですか?」
「いいや。開発者としてより完成度を高めたいユーリ君の気持ちはわかるが、現状の50点を完成品として生産する方向性で進めたい。5年、10年と先を見据えるのなら、秘薬には進化の余地をあえて残しておいた方がいい。キミの実家のハサマール家とて、秘薬のことを知れば同じ事を言うと思うよ」
「……ああ、商人の視点ですか。失念していました」
「キミにとっての試作品、つまり50点のものをこちらで作れるようにするために、資料製作や技術指導としてマイゴーノ領に最低でも一ヶ月は滞在してもらう。場合によっては、滞在期間の延長もあるかもしれない。ユーリ君が二年生になるまで学校でやることはほぼ無いし、二年生になったとしても授業免除試験があるから結局はやることが無くなってしまうのだろう?」
キミのことは全部調査済みだよ。
オットー卿はそんな笑顔を浮かべる。
「さて、やってもらいたいことはまだある。ユーリ君自身に、キミが『革命』でやらかしてしまったことの責任を果たして貰いたいと思っている」
「『革命』でやらかしてしまったこと、ですか……?」
「うん、キミは気がついていなかったのかもしれないが、キミは多くの人間の仕事を奪ってしまったんだ。例えば、今まで長時間、冷たい水と格闘しながら皿洗いを担当していた下女やメイド達は、『革命』以後は食洗機を使ってしまえば、汚れと水滴のチェックをするだけで仕事が終わってしまう。規模が小さめの家ならまだ他の仕事を振ることができたかもしれないが、公爵家のように元々多くの労働者を抱えていた立場からすると、これは大変困ったことなんだ」
千歯扱きの逸話を思い出す。
脱穀作業は未亡人の主要な仕事の一つだったのが、千歯扱きの誕生により仕事がなくなり、後家殺しというあだ名までつけられてしまった。
『科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日記』でも、メイヤさんが「楽すぎて仕事してる感じがしない」とこぼしていた。
僕はそれを中央大陸規模でやってしまったことになる。
皆の時間が余れば、音楽や絵画方面が発達したり、学術が進化したりするのではないか、と淡い期待を抱いていた。
確かに夜はセックスしかやることがないとしても、日中ならあるいは?
しかし言われてみれば、被雇用者として一定時間を縛られている者は、帰宅しないと何もできない。『革命』によって色々な業界が盛り上がっているが、経済の循環はともかく、他が追いついていない。生活の変化が早すぎて、文化の発展に人類の意識が向くにはもう少し時間がかかりそうという話。
……亜人やモンスターの危機があるから、そう簡単に文化芸術方面の発達には進まないか。
「だからユーリ君。キミには、マイゴーノ領に滞在している間、毎晩一人の女性を抱いて貰う。下女かメイドかはともかく、綺麗どころを厳選するから外見面は安心してくれたまえ。キミは毎晩寝室に訪れる女性を抱いて、種付けをするだけでいい。子供は授かり物だから、確実というわけではないだろうが……数人ぐらいは孕むだろう。抱くのが一人なら、ユーリ君本来の夜の営みにもさして影響はあるまい? まだ若いのだから、一人追加で抱くぐらいはいけるだろう?」
なんか変なこと言い出した。
思わずジト目になってしまったが、背後に控えているバーチェが言う。
「本で読んだことがあります。亜人達が『英雄付け』と呼んでいる行為ですね」
「人間にだって似たような風習はある。田舎の村が、訪れた旅人に娘を抱かせたりする逸話だ。血が近づきすぎると壊れた子供が生まれてしまうから、外から血を入れるのは大事なことだ」
……FANZAさんで見た! 因習村、本当にあったのか!
いや異世界だしな。普通にあるのか。
「まぁ、英雄付けでもなんでもいい。この
「……セスレはそれでいいの?」
オットー卿の隣に座っているセスレ先輩を見る。
先輩は、寂しげな顔を浮かべて。
「ユーリの妻としての私は、複雑な気分だよ? でもね。公爵令嬢としての私は、不安で不安で仕方が無い。私ごときが側室という程度では、全然足りない。メイド達を抱くことで、もしかしたらマイゴーノ領に自身の子供がいるかもしれない……と、ユーリの心がほんのわずかでもマイゴーノ領に向いてくれるのであれば、それは公爵家として正しい行為になる。……それぐらい、アドリ=ブヨーワ公爵家は
「もう一つ?」
こくりと先輩が頷く。オットー卿が続ける。
「ユーリ君、キミは言ったね。セルヨーネ侯爵家との戦争はもう始まっていて、そして既にビケワ嬢は暗黒大陸で死んでいるのだと。キミが言うぐらいだ、ほぼ確実なのだろう?」
僕は無言で頷く。オットー卿は指を二本立てる。
「ビケワ嬢の死が確定した後、想定されるニク=ドレ卿の行動は二つだとキミは言った。軍勢を引き連れて娘の仇を討ちに行くか、息子同様に心を病むか。でも足りない。もう一つのパターンが残っている」
オットー卿は三本目の指を立てる。
「正妻たるビケワ嬢の仇を、愛娘を北に行かせた主原因たる夫自身が取れと、君自身を暗黒大陸に向かわせるパターンだ。その場合、護衛も領兵もつけられることなく、単身で向かうことになるかもしれないが……それでは不確実すぎる。領兵達は護衛の名目で確実につけられる」
「同行した領兵達は、アイギスから出た瞬間に、背後からユーリ達に襲いかかると思う。一緒にいる妾達も、まとめて皆殺し。……だって、私がニク=ドレ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵なら、そうするもの」
やばいな。その通りだ。
ミルヒとカカオに言い返せない。立派なポンコツじゃないか、僕は。
「幸い、もうすぐキミは二年生に進級する。それはつまり、セスレが卒業するということでもある。これを利用する。港に見張りを貼り付け、ビケワ嬢の死に関するニュースが入った瞬間に早馬を飛ばす。ニク=ドレ卿が動くより先に、ユーリ君とセスレの結婚を発表し、即座に結婚式を行うことも発表する。卒業から結婚までの準備期間とされる一年は風習であって義務ではない。要は結婚式をおこなうのに普通は一年かけて準備するというだけの話だ。今から急ぎで結婚式の準備を進めればいい。公爵家の格式の、豪勢な式を約束しよう。これでキミは動けなくなる。とてもではないが暗黒大陸になんて行けなくなる」
「仮にビケワ嬢の葬式を終えたとしても、セルヨーネ侯爵はアドリ=ブヨーワ公爵家に真正面から喧嘩を売るようなことはできない。私とユーリの新婚生活を無視して暗黒大陸に行けと命じることは、不可能だもの」
「私達は比翼連理になると、そう言ったね。まさしくその通りだ。愛娘の夫というだけではない。アドリ=ブヨーワ公爵家は、全力でキミを守るし、全力でキミを手放さない」
「……オットー卿、セスレ……ありがとうございます」
僕は座ったまま、頭を深く下げる。
そんな僕の背後から、バトさんがため息をついて。
「はぁ。しゃーないな。公爵はん。コトがコトや。たかが一ヶ月程度、ウチらは我慢したる。ユーリの種は、毎晩の女に全部注いだらエエ……確実に孕むやろ」
「……バトさん!?」
「ユーリ、これは妾の総意やで? なんや知らんが、秘薬のこと、どこかでユーリは軽ぅ見とるやろ。全然軽ぅないわ。めっちゃ重いわ。公爵家がここまで全力で動いとるんは、洒落にならんで。セスレはんとの側室の書類も、はよぅ出してもろて」
妾のみんなは、各々肩をすくめたり、仕方が無いなぁ、という顔をしている。
どうも、僕が思っていた以上に、僕が作った化粧品はヤバかったようだ。
「そういうわけだ、ユーリ君。側室も妾も全員公認の、やり捨てハーレム。娼館に毎日通うというより、娼館の方から毎日やってくると思ってくれればいい。寝る前に二回、起きてから一回、若いからもう一回。誰を何回抱いてもいい。私も、キミの嫁達も、まして抱くことになる相手も、誰一人反対しないどころか全員が賛成しているのだから、ここは男として遠慮無く田舎の村に泊まっていきたまえ。旅人のユーリ君?」
「……わかりました。口だけじゃなく、実行しないと信じてもらえないヤツですねこれ……一ヶ月か二ヶ月かはわかりませんが、マイゴーノ村に泊まっていくことにします、
「ははっ、ようこそマイゴーノ村へ! 我々はキミを歓迎しよう、旅人のユーリ君! 仕事は明日からで構わないが、
立ち上がったオットー卿が、嬉しそうに両手を広げる。
「村長、僕が滞在している間、毎日の食事に牡蠣料理を出して下さい。ナマでも調理済みでもいい、とにかく牡蠣を。牡蠣以外は牛肉と卵と牛乳メインで。無理を言いますが、お願いします」
「牡蠣、牛肉、卵、牛乳。いいとも。確かに承った」
かのガイウス・ユリウス・カエサルは、多くの女を抱くために牡蠣を食べまくっていたという。本当か嘘かはともかく、大量の亜鉛が僕には必要だ。
ちくしょー! やってやらぁ!
普段は織津江パイセンのことを考えがちな僕ですが!
今回は、性欲と精力の鬼・栗結パイセン!
一日15人は余裕で抱けるけど一日の時間が足りなくて抱ききれないと断言したパイセン!
栗結パイセン、僕にご加護を!
よろしくお願いします!
* * *
「……セスアーネはどうしている?」
「婚約者候補のネイト・ラーレ・タクラーン辺境伯令息の所に向かっているはずです。いつものように嫌がっておいででしたから、のんびりとした旅路でしょう。早馬でなくとも2日以内に追いつけるかと」
「呼び戻せ。馬はそのまま先方に伝令として飛ばし、娘は体調不良にて急遽戻ることになったと適当に伝えておけ」
「かしこまりました」
オットー卿と執事が話している。
ここには、公爵家側の人間しかいない。
「お姉様まで!?」
「ああ、そうだとも、セスレ。辺境伯は教育を間違えた。彼の個性を潰す軍隊式教育を施した結果、彼は次期辺境伯に相応しい筋骨隆々の身体に育ったようだが、それだけだ。ネイト君は辺境伯の想いとは裏腹に、気弱で意志薄弱、いつもセスアーネの顔色を窺ってばかりになってしまった。セスアーネの好みとは正反対だから、扱いも婚約者候補のまま。それでも政略結婚相手として辺境伯は第一候補なのだと、セスアーネ自身も理解している。それはいい。ユーリ君は徹底的に公爵家で雁字搦めにしておかないといけない人間で、大変喜ばしいことに、ネイト君もユーリ君も銀髪であるという、それだけの話だ。ただ、ユーリ君は……わかるだろう、セスレ?」
ニヤニヤと笑うオットー卿に、セスレは軽く目眩を覚える。
「……ユーリは、お姉様の好みど真ん中です……外見も、中身も」
「姉は妹より少しだけ早く彼の子を孕む。ネイト君もセスアーネと結婚でき、生まれた銀髪の子供を愛してくれることだろう。とても簡単な話で、誰も不幸にならない」
複雑だ。複雑だが、公爵令嬢としての自分はすんなりとそれを受け入れられる。
誰にも言えないことだが。生徒会室でのオナニーを、ユーリに見られたあの時。
痣が残るぐらい左胸を強く掴まれ、冷たい声で『続けろ』と彼に言われた時。
自分の秘部はどうしようもなく濡れそぼり、子宮が強く疼いてしまったのだ。
あの時のご主人様モードのユーリを姉が引き出してしまったのなら。
姉は喜んで彼に抱かれるだろうとわかってしまう。
だって姉妹なんだもの。男の好みもそっくりなんだもの。
「場合によっては、オカサも投入する」
「えっ、お母様も!?」
「そうですよ、セスレ。あなたに弟か妹が生まれるかもしれませんね。銀髪の」
「私は男も女も両方イケるくちだから、私が彼を抱いても構わないが、それは彼が望むまい。であるのなら、やはり。公爵家の女性を全員差し出すぐらいが、あの秘薬には丁度いい」
「お父様は陛下に、お母様は王妃様に、それぞれマウントとりたがってましたものね……」
セスレは遠い目をする。
そう。つまるところ、くだらない感情が原因なのである。
陛下は陛下パワーでいつも父様に自慢話ばかりするから。
王妃様は王妃パワーでいつも母様に自慢話ばかりするから。
公爵夫妻は、いつも内心歯ぎしりしながら、王城に出向いていたのだ。
でもこれからは違う。
お願いします、秘薬を上納してくださいと言わせることができる。
はー。ちょっと
あら王妃様、貧しい公爵家は、わたくしの秘薬を用意するだけで精一杯なのですが。
秘薬が欲しいのでしょう、陛下? ほら、お願いしてください。頭をさげて。
……仕方なく、秘薬を用意して差し上げてもよいのですよ?
くくく……
オホホ……
セスレは、怖い笑いを浮かべる両親を眺めながら。
やっぱり、どう考えてもやりすぎだよ、後輩くん。
もう絶対逃げられないよ?
逃がさないけど。
そんな事を、ぼんやり考えた。