ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第45話 閑話・セスアーネ

 私は小さい頃から割となんでもそつなく出来た。

 学校では、礼法はお手本として扱われ、勉学は主席をとり、武術でも男の子達を圧倒した。

 格好いい男の子もいたが、私より弱かったり私より無能じゃ惹かれるものがなかった。

 女の子達に黄色い歓声で騒がれたりもしたが、別に嬉しくはなかった。

 

 政略結婚とはいえ、結ばれるのなら強い男相手がいい。

 辺境伯令息が私の婚約者として選ばれたのは、公爵令嬢長女としての立場も確かにあったが、一方で私個人の想い……強い男に愛され抱かれたいと願う心も確かにあった。

 辺境は亜人やモンスター達の生息域と隣接していることもあり、剛の者と謳われたタクラーン辺境伯同様、息子のネイトも背は高くがっしりとした体格で、筋肉の鎧に覆われた男だ。

 確かに彼は強いのだろう。ネイトが強引に私を押し倒そうとすれば、私は彼の骨の一本か二本ぐらいは折れるかもしれないが、結局はレイプされてしまうと思う。

 

 ……だが、あの目。おどおどとした子犬のような、あの目。

 直感でわかる。彼は私に踏みつけられ、罵られたいのだと。

 

 辺境伯が施した苛烈な教育は、確かに彼を鍛え上げたのかもしれないが、同時に完全な指示待ち人間に変えてしまった。

 性欲を封印し、厳しい鍛錬に耐え続けた結果、彼の中で何かが捻じ曲がってしまったのだろう。

 彼は心も身体も痛めつけられたいのだと、虐めて欲しいのだと。その態度が、仕草が、卑屈なあの目が、語っている。

 

 婚約者ではなく婚約者候補なのだと私は言い張っているが、公爵令嬢長女としての立場が彼以外の候補を許さない。

 何より一度選択してしまった以上、安易に後戻りすることはできない。

 デートとしての茶会のために、ラーレ領に行くことすら嫌悪感がある。

 今回もまた、自分の心を完全に殺して、ネイトのあの濁った瞳を見るために出かけることになるのだろうか。

 

 御者に決して旅路を急がぬよう厳命し、のんびり馬車に揺られていると、早馬に引き留められた。茶会をキャンセルし、急いで本邸に戻れとの緊急命令だ。

 封蝋された手紙を渡され、読んでみれば「セスレの婚約者を公爵家で全力で囲うために、公爵領の綺麗どころを毎晩抱かせている。オカサも抱かせるつもりだが、彼と年齢の近いセスアーネも一度彼に引き合わせておきたい。無理に抱かれる必要はないが、心を殺してネイト君に会いに行くよりはきっと刺激的な時間を過ごせることだろう。セスレも全て納得し、同意している。まずは急ぎ、本邸まで戻って欲しい」という、実の父親からの意味不明な内容が記載されている。

 

 妹の婚約者を囲いたいから、綺麗どころを大勢抱かせる……というのは、まぁわかる。

 でも、姉の私や、お母様まで抱かせるつもりってどういうこと?

 

 本邸に戻り、妹に話を聞いてみると、妹は遠い目で「もうお母様は抱かれました。そのうち私達の弟か妹が生まれると思います」と告げてくる。

 『若返りの秘薬』なる、名称だけ聞けば眉唾モノの製品を皆の目の前で実演して見せ、お母様を妹同様の外見にしてみせたとか。その秘薬が嘘なのではなく真に事実なら、公爵家が全力で動く理由も、確かにわからなくはないが……。

 お母様は秘薬を使って自分の外見を若返らせ、私が学生時代に好んで着ていた服を勝手に持ち出し、ノリノリで妹の婚約者に抱かれにいったらしい。

 (彼はお母様を一目見て「西住流家元かよ」と驚いたらしいが、その意味はわからない)

 

 彼が提示してきた二つの条件のうち、生理後の日数の条件は偶然満たしていた。

 もう一つの条件『その日着ていた服をそのまま着直す』というのは少し困った。

 今の私は高位貴族のドレス姿なので、脱いでから洗う前に着直すのは令嬢的に抵抗がある。

 

 妹は卒業後に連合国軍の伝令兵となる予定で、鎧などの装備も準備済みだった。

 しかしその予定は大きく変わり、卒業後はすぐに結婚式まで挙げるようだ。

 ……そうなると、鎧一式が浮いてることになる。

 幸い、私の体型は妹とそっくりだ。

 茶目っ気というか、悪戯心が湧いてきた。

 

 女騎士装備を貸して欲しい、と妹にお願いする。

 ()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()でしょうから、誤魔化せるんじゃない?

 妹はジト目で呆れた後、深い深いため息と共に了承してくれた。

 

 女騎士こと、伝令兵のセシー伍長。

 お金に困っていた私は、公爵様の命令で彼に抱かれる仕事を引き受ける。

 でも土壇場で怖くなって、手荒に扱ってしまい……彼を屈服させてしまうのだ。

 

 ……うん、そんな感じの設定でいこう。

 

 ネイトが浮かべるあの目、おどおどとした子犬のように、彼が私を見てくるようにする。

 姉より先に結婚する妹の婚約者なんて、どうなったってどうでもいいよね?

 踏みつけて罵倒するぐらいは、サービスしてあげる。

 

 

 * * * 

 

 

 メイド達に身体を丁寧に洗って貰い、鎧を着る。

 連合国軍の伝令兵姿となった私は、剣も含めて全体を確認。

 ……タイツがあるからまだマシだけど、ちょっとスカートが短かすぎる、ような?

 正式な女騎士の服装ってこんなんなの?

 なんていうか、扇情的な印象を受ける。

 

 着てしまったものは仕方が無いので、堂々と彼がいる寝室へと向かう。

 深呼吸してからノックを2回。すぐに返事がくる。

 

「入って、どうぞ」

 

 思っていたより全然若い声。

 青年というより、まだ少年の気配を残した感じの。

 私はそっと入室し、扉を閉めてから敬礼する。

 

「連合国軍第19伝令隊所属、セシー伍長であります」

 

 銀髪碧眼、肩までのボブカット。綺麗な顔立ちの男の子。

 全裸にナイトガウン姿、武器は携帯していない。

 ……剣でちょっとだけ脅してみるのも、面白そう?

 

 彼は一瞬だけ目を細め、小声で何かを呟いた。

 『16巻表紙かよ』という彼の呟きは、私には聞こえなかった。

 しかし彼はすぐに笑顔を浮かべる。

 

「女騎士さんですね! はじめて見たなぁ……そこに立って貰っても?」

 

 彼は自分のすぐそばを紹介するように、手で案内する。

 私は緊張した顔を作り、ゆっくりと近づいていった。

 

「僕のことはユーリ、と。セシー伍長の年齢は?」

「はっ、17であります」

「んー、固い! 今回の目的は聞いてますか?」

「……はい。貴方に抱かれることです」

 

 彼がニコニコと質問してくる。

 

「公爵家の命令で仕方なく? それとも、伍長の給与がちょっと足りなかった?」

「命令もそうですが、お金も欲しかったもので……」

「緊張してますね。……性的経験はありますか?」

「いえ、ありません」

「自慰の経験もあまり無い感じ?」

 

 わりと踏み込んで聞いてくる。

 私は少しイラッとして、剣の鯉口に左手をそっと添える。

 彼は私の間合いの中だ。

 いきなり抜いて、びっくりさせるのは面白そう。 

 

「……はい。勉学や鍛錬の方に夢中だったもので」

「ですよねー! そのお歳で伍長になれるぐらいですものね!」

 

 彼は何故か苦笑を浮かべる。

 

「パイセンの領域、ちょっとわかってきたなぁ。頑張って良かった」

「えっ? いま、なんと?」

 

 彼は私の問いに答えず、右手の人差し指で私の帯剣を指して。

 にこにこ笑いながら、なんでもないように言う。

 

「抜いたら殺すって言いました」

「っ!?」

「どうします? 抜きますか?」

「い、いえ、そんなことは決して」

 

 背筋を冷や汗が伝う。

 

「そうなんですか? 良かった、僕の勘違いで!」

「そ、そうです。いきなり抜くだなんて、そんな」

「じゃあ、握手しましょう! 仲直りの握手です」

 

 ベッドに座ったままの彼は、笑顔で右手を差し出してくる。

 私はひきつった笑顔で彼に歩み寄り、右手で彼の手を握った。

 

 差し出された右手を、私が右手で握っただけ。

 彼は手を広げたままで、握り返してすらいない。

 なのに、彼と何かが繋がった気がして。

 

 次の瞬間から、私はよろめきはじめた。

 ゆっくりと身体が崩れていく感覚。

 何もできない。身体を支えられない。

 

「身体操作で握手落としでも良かったんですけどね。あえて『合気』で繋げました」

 

 彼の姿勢は変わらない。ベッドに座ったまま。

 なんでもないように、手を差し出しているだけなのに。

 私の身体は、震えるように両膝をつき、左手を地面につき。

 はたから見れば、彼の前で四つん這いになっているかのよう。

 

「セシー伍長、流石に嘘が多すぎです。伍長設定はともかく、剣も鎧も綺麗すぎる。筋肉も歩き方も軍人ではない。あと、僕を値踏みしすぎです。お金に困っている設定なら、媚びて礼金上乗せぐらいは言うべきでしたね」

 

 淡々と彼は述べながら、広げた手のひらを少し下げた。

 それだけで私の身体はさらに崩れ、彼に土下座をしているかのように。

 急にそうなるのではなく、ゆっくりと身体が崩れていくのが、なおのこと屈辱的だ。

 

「セスレもそうでしたが、貴女も色々抱えていますね。相手を屈服させたいのに、同時に屈服したいと望んでいる……ああそうか、僕はまだ聞いてない。セシー伍長、名前は?」

「……セスアーネ……セスアーネ・マイゴーノ・アドリ=ブヨーワ……」

「婚約してるんでしたっけ? 婚約者候補? まぁどっちでもいいか。貴女のご主人様になってあげますから、僕の足に口づけして、誓いの言葉を」

 

 彼が手をさらに下げる。私の頭も同時に下がり、彼の素足に私の口が近づく。

 私はもう、なにがなんだかわからない。

 

 私は彼の目の前で這っていて。

 彼の素足が目の前にあるのだから、()()()()()

 

 私は彼の足の甲に、ちゅっと口づけをした。

 

「……誓います、ご主人様……ご寵愛を、くださいませ……」

「うん、いいよ。今から僕がご主人様ね。セスレは雌犬候補だけど、セスアーネ、君は雌犬以下の雌豚にしてあげる」

 

 彼が私との繋がりを消してくれたので、私は動けるようになった。

 四つん這いの体勢で、右手だけ彼に捧げたまま、私は彼を見上げる。

 頬が上気しているのがわかる。心臓のドキドキが止まらない。

 ……私は、酷く興奮している。

 

 彼はニヤリと笑って、大型犬用の首輪を取り出しながらこう言った。

 

「『合気ックス』とか、斬新だよね……植芝翁が泣いちゃう」

 

 公爵家とか、婚約者とか、妹のこととか、そういった物事が全て吹き飛んでいた。

 ご主人様は私をどうするのだろう、私はどうなるのだろう。

 私の頭の中は、それだけで一杯だ。

 

「明日、普段使いできるようなチョーカーを買いに行こう。首輪と違って、ずっとつけていられるでしょ? ああでも、明日は無理かなぁ……」

 

 彼は私に首輪をつけながら、ニコニコ笑う。

 

「多分、明日のセスアーネは動けないと思うから」

 

 足腰たたないぐらい、ぐちゃぐちゃのドロドロにしてやるよ。

 ご主人様の宣言に、私は背筋がぞくぞくして嬉しくなった。

 

 きっと私は、濁った瞳をしているのだろう。

 いつもネイトが私に見せる、あの目で。

 雌豚の私は、ご主人様を見つめているのだ。

 

 




オリキャラ、しかもモブのエロシーンは省略して、物語を少しでも先に進めていこうと思います。
(原作キャラエロ > ネームド級オリキャラエロ >>>(越えられない壁)>>> モブエロ)

今回のイベントをきっかけとして、ユーリ君が「なんちゃって織津江アイの片鱗」を入手したという描写を入れたかったのです。
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