ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング! 作:RAP
セルヨーネ侯爵家、本邸の応接室。
アドリ=ブヨーワ公爵家と広さや豪華さは同じでも、コンセプトが全く違う。
質実剛健? あるいは、シンプルにしてエレガント。
公爵家と違う点は、他にもある。
例えば僕達の姿。
僕も、セスレも、バーチェも、アイリスも、バトさんも。
全員が全員とも、冒険者が冒険に出るときのような格好だ。
……つまり、その気になれば戦うことができる。
掛け値無しの全力装備ではないけれど。何かあっても撤退ぐらいは可能だ。
例えば相手側の壁。
メイドがずらりと並んでいたりはしない。
僕達を案内したメイドが一人だけ、佇んでいる。
例えば部屋の隅。
ふけだらけ、汚れだらけ、乾いた血で全身が真っ黒な女性。
悪くない美人だったろうに、その面影はどこにも残っていない。
彼女とはかなり離れているのに、饐えた匂いすら漂ってくる。
それでいてギラギラとした目つきで、物凄い勢いで木炭棒を走らせて。
ふひひ……とか、うふふ……とか時折ニヤつきながら。
ユニコーンに乗った美少女のラフスケッチを、様々な構図でひたすら描き続けている。
量産され続ける沢山のスケッチが、彼女の周囲に散らばっている。
彼女が力を篭めすぎて、ばきっ、と木炭棒が折れた。
美少女が描かれていた紙に、力強い直線が無意味に引かれる。
彼女はわなわなと震えながら、頭をかきむしって叫ぶ。
「あ"あ"あ"あ"あああ!!!」
彼女の頭から、フケとも血の塊ともわからぬ何かが周辺に散らばる。
叫ぶ彼女の頬に刺さっていた小さな白いトゲが、床にぽとりと落ちて。
彼女はその白いトゲを見て、びけわさま、びけわさま、と震え出す。
白いトゲを見て震えながら呟き続ける彼女を見たメイドは、ため息ひとつ。
メイドは彼女に近寄り、彼女のすぐそばに山と積まれている木炭棒を手に取り、彼女に渡す。
木炭棒を受け取った彼女は、嬉しそうに笑って、スケッチを再開する。
メイドは手についた木炭を軽く払うと、また壁際へと戻っていく。
無言だ。
椅子に座っている僕も、後ろに立っている嫁達も。
みんな、無言で待っている。
「やあ、やあ、やあ。待たせてしまったようで、すまないねぇ」
高位貴族で、
前世日本なら、市役所を見渡せばどこかに一人はいるような。
バーコードハゲの、優しそうな微笑みを浮かべた眼鏡のおじさんにして、CV:井上和彦。
一番近いイメージは、アニメにもなった「悪役令嬢転生おじさん」の主人公、屯田林憲三郎だろうか。リーマンスーツではなく、高位貴族の礼服姿ではあるけれど。
そんなニク=ドレ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵が、恥ずかしそうに入室してきた。
僕はすっくと立ち上がり、簡易貴族礼をとる。
「本来であればもっと早めに挨拶に伺うべきところを、こんなにも遅くなってしまい慚愧の念に堪えません。改めまして、ユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息と申します。本日はどうぞよろしくお願いします」
僕の礼に合わせて、嫁一同も礼をする。
ひらり。
完成したユニコーンと美少女のスケッチが宙を舞い、視界の隅にはいる。
女性画家が新たに紙を手に取り、新しいスケッチを描き始める。
「丁寧にありがとう、ハサマール子爵令息。ニク=ドレ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵だ。こちらこそ、もっと早くに招待の案内を送っていれば良かったと思っているよ。いや、固すぎるかな。私は君を実の息子と同様に考えている。以前手紙に書いたように、『子を成せぬ妻の成した奇跡の愛息』というのは、嘘でもなんでもない。貴方のことを名前で呼ぶ栄誉を、私にも授けてもらえないかな?」
「はい、どうぞユーリと。僕のほうこそ、ニク=ドレ卿と呼ぶ栄誉を頂ければ、幸甚の至りでございます」
「ああ、
僕は素直に思う。
アドリ=ブヨーワ公爵家での、一ヶ月半近くに及んだ毎晩の種付けイベント。
短時間で多くの女性を見極めようとしたことで得ることができた「ジェネリック劣化織津江アイ」。他人の思考や感情の一端を読む能力の手がかり。
劣化版とはいえ、それを入手していなかったら……いつか僕は、何も知らぬまま消されていただろう。挨拶通り、早めにここに来訪していたらと想像すると、背筋に寒いものが走る。
彼は無手で、何も武器は所持していない。
僕は軽装鎧で、刀も装備しているけれど。
……この人は怪物であり、化物だ。
軍を意のままに動かし続けてきた彼は、その気になれば数の暴力で何でも出来る。
領兵どころか、聖王国ごと虚報で動員してしまうかもしれない。
僕がセルヨーネ侯爵家の本邸を訪れた記録は残ってしまっている。
目の前のニク=ドレ卿に直接何かをすれば、僕を潰すために王家が動く理由になる。
考えてみれば、軍務大臣というのは自国の平和と敵国の滅亡を同時に考え続ける仕事だ。
だとするなら、こんなにも。彼に相応しい仕事はない。
愛情も慈しみも憎しみも破壊欲も、彼にとっては全て等しく、全てが混ざっているのだから。
憂国烈士は嘘では無い。国の全てを愛して慈しんでいる。
ただ、同時に壊したいと思っている、それだけの話だ。
部屋の隅で放置されている女性画家も、壊してあげたい。
同時に、彼女をたっぷりの愛情で包んでいる。優しく慈しんでいる。
あの手紙に書いてあったことは、きっと全てが本当なのだろう。
裏の真実が記述されていないだけの、簡単なお話。
……解放された妾達が本当に五体満足で無事だったのかどうかは、要調査だ。
簡単に手がかりを得られるとは、欠片も思っちゃいないが。
「それでねユーリ君、私は
後継者にしたいと思うほどに僕を愛しているから、婚約者との仲を横紙破りして僕を壊した。
……わかるかよ、こんなの。わかんねーよ。ふざけんな。
何も繋がっていないが、彼の中では繋がっている。
等しく愛して、等しく壊したい。
「本当は……ビケワのために、ユーリ君には暗黒大陸へ渡ってもらうつもりだった。東アイギスのユニコーン共を、君に一掃してほしかった」
「残念です、ニク=ドレ卿。僕は、こちらのセスレ・マイゴーノ・アドリ=ブヨーワ公爵令嬢を側室に迎えるための結婚式を控えており、動けません」
無言で一礼するセスレを、ニク=ドレ卿はニコニコとした笑顔で見やる。
ビケワと違って生きているセスレが憎い。側室となるセスレを壊したい。ユーリの嫁となるセスレを愛している。セスレもセルヨーネ侯爵家の一族となるのだから、慈しんでいる。
「愛するビケワは、死んでしまった。馬鹿なビケワは、ユニコーンの仔馬を望んでしまった。当然壊すべきだし、丁重に弔われるべきだ」
……なにがどうしてこうなった? 彼がこうなってしまったきっかけはなんだ?
彼の妻は、いまどこで何をしている? ビジョレは生きているのか?
「ああ、そうそう。それでね。本邸の裏に用意したビケワの墓に、花を一輪添えて欲しいんだ。この本邸を出て真正面に見える山に、コマクサという高山植物の生育地がある。ピンクと白の、ビケワによく似合う可憐な花だ……ユーリ君に暗黒大陸に行って貰うのは諦めたから、せめてそのコマクサを彼女の墓に供えて欲しいと願う」
コマクサ。高山帯の砂礫地の厳しい環境に咲き、『高山植物の女王』とも呼ばれる花。
「わかりました。ビケワ嬢との婚姻ではなく、葬送となるのは本当に哀しいことですが……彼女のために、そうしましょう」
「護衛の領兵はいるかい? コマクサが生えている場所は危なくてね。ユーリ君が心配なんだ」
愛しているから心配。心配しているから壊す。
「いえ。不要です。そこで領兵の力を借りてしまっては、僕の愛情とはいえないでしょう。せめて、私と、私の家族……後ろにいる嫁達とで、コマクサを取りに向かいたいと思います」
ていうか領兵なんて連れて行ったら囲まれて殺されるでしょ。
ヤだよそんなの。
「ふむ。それではユーリ君、何をもって君自身が成したと見なす?」
「冒険者登録をして、冒険者となりましょう。僕に指名依頼でも飛ばして下さい。ギルドが証明してくれることでしょう」
「なるほど、冒険者! それでそんな格好をしているわけだ。流石ユーリ君、私がこんなことを言い出すと読んでいたんだね?」
読めるわけねーだろ。
「あ"あ"あ"あ"あああ!!!」
女性画家がのたうち、絶叫する。
メイドは再び、彼女に木炭棒を渡す。
ニク=ドレ卿は、井上和彦ボイスで照れたように苦笑する。
「騒がしくてすまないね、ユーリ君。私の新しい妾は、お絵かきに夢中なんだ」
「いえ、そんな! とんでもない。彼女を愛してあげて下さい」
「ありがとう。ビケワに尽くし続ける彼女が、とてもいとおしくてね」
沢山愛してあげる。だから壊すね。って顔に書いてある。
……オノケリスとも全然違う。わかんねーな、マジで。
「ニク=ドレ卿、僕は早速、冒険者ギルドに向かおうと思います。依頼書を早馬で出しておいて下さい」
「おや、泊まっていかないのかい? ゆっくりしていってくれて、いいんだよ?」
「一刻でも早く、ビケワ嬢に花を捧げたいと思います」
ここに泊まりたくないです! 逃げます!
「うん。うん。待っているとも、ユーリ君。ビケワの棺桶には、ちょっとした肉片程度しか入っていないが……君の捧げた花があれば、ビケワの心も満たされるだろう」
ニク=ドレ卿は、うっとりとした瞳で、ビケワへの愛情を吐露する。
僕は改めて立ち上がり、再度の貴族礼をした。
そして微妙な早歩きで、退席することにした。
優しい眼鏡のおじさんは、慈しみの笑顔で見送ってくれた。
* * *
「ああ、良い子だったな、ユーリ君。とても愛らしい顔立ちで、有能で……」
隠し扉と隠し階段を抜けて、ニク=ドレ卿は地下へと降りていく。
新しい妾は一週間以上眠らずにビケワの絵を描いてくれている。
とても愛らしい。もっと絵を描いてもらいたい。
絵を描けなくなってしまったら、沢山愛して、壊してしまおう。
「ビジョレも……ユーリ君のように賢く育ってくれていたら……」
地下には、清潔な分娩室と、沢山の檻。
不在の檻も多いが、ところどころで妾の女性が寝泊まりしている。
妾達は皆が死んだ瞳で、全裸で横たわっている。
そのうちの檻の一つを、ニク=ドレ卿は無造作に開ける。
そこには、細身で美麗な金髪赤目のセミロング。
ビジョレ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵令息が。
他の妾達のように、全裸で横たわっていた。
「お前がユーリ君を愛さなかったから、ビケワは死んでしまったよ。無能なビジョレ」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
ビジョレはびくりと震える。
もう、あんなものを。
馬のような巨根のアレを、ぶちこまれたくない。
沢山の女達が、アレに身体を壊されている。
「なんと言ったか。ああ、グラス・タレーメ・マンセー子爵令嬢。お前のお気に入り」
「そ、それは」
「そんなにお気に入りなら、もっと早くに押さえておけば良かったんだ。高位貴族の自分が低位貴族に惚れ込んだのだと素直に認めていれば良かったものを、変なプライドを振りかざして社交界デビュー後まで子爵令嬢の成長を見守りたいとかくだらないことを言いだすから、社交界デビューの当日にユーリ君に奪われることになった。ああ、なんと愚かで、無能なビジョレ。……寄子のマンセー子爵にも、随分と無理を言ってしまった。子爵をとても大切にしていたのに」
「たっ、大切にします! 彼女を大切にしますっ!」
「お前の代わりに、私が子爵令嬢を愛するのはどうだろう。それまで茶会の類に出ていなかったユーリ君が、社交界デビューの当日に子爵令嬢を選んだぐらいだ。『革命』に等しい、とても素敵な理由があったのだろうね……きっと、ユーリ君の愛を感じられるに違いない」
ビジョレは恐怖する。
自ら進んで、誓いの言葉を言うしかない。
「父上……私を愛して下さい」
「いいだろう、無能なビジョレ。無能なお前でも、私は愛しているよ」
もしかしたら、自分も彼女たちのように。
父上のアレのせいで、身体を壊された妾達のように。
死んだ目で、ただ横たわるだけの生き物になってしまうのだろうか。
ビジョレは絶望しながら、四つん這いとなって尻を父に向けた。
「ああ、ビケワ。あんなにも愛していたのに。私が壊せば良かった」
「父上、私が……私がビケワとなります!」
「愛しいビジョレ。ならば今度は、お前にドレスを用意しなければいけないね」
ニク=ドレ卿は、なんでもないように自分のイチモツを取り出す。
ユーリがいれば「トロールでも抱いてろよ!」と叫んだだろう。
雄々しく屹立し、太い血管がビキビキと音を立てていると錯覚するほどの異様な巨根。
巨根信仰作家が描くNTR本の竿役として、多くのエロ漫画で扱われてきたようなそれ。
ああ、またこれを。
この恐ろしいモノを、ぶちこまれてしまう。
ビジョレは、泣きながら歯を食いしばった。
* * *
グレゴリー・エフィモビッチ・ラスプーチン。
ロマノフ王朝の悪魔と呼ばれた怪僧ラスプーチンは巨根であり性豪だった。
ロシアの博物館に、ペニスがホルマリン漬けになっていると言われている。
実の娘が計測したら、勃起時には33cmだったとも言われている。
博物館に展示されている彼のペニスはナマコで作られた偽物だという話もある。
展示されているペニスはホルマリンのせいで少し縮んでいるとも言われている。
だが、そういう話はこの際どうでもいい。
重要なのは、女性を壊してしまうレベルの巨根持ちが実在するという事実。
ラスプーチン以上にしろ、以下にしろ。巨根を越えた巨根の持ち主はいるのだ。
そして、そういう男が童貞を捨てようとしても商売女に泣いて断られる。
巨根すぎて彼女ができないし童貞も捨てられないと涙する、哀しい男達の物語。
ニク=ドレ・ハーベラ・セルヨーネの不運は、巨根を越えた巨根の持ち主だったということだ。
そして、高位貴族の上澄みである彼とのセックスを拒める女性は事実上存在しなかった。
女を愛し、慈しみ、どれだけ丁寧に抱こうとも、女は全員壊れてしまう。
妾も、メイドも、領民も、みんな壊れてしまう。
愛情という名の意地で拡張を努力した妻も、子供を二人産むのが限界で身体が壊れてしまった。
ドラゴンの気まぐれで壊滅的な被害を受けたタレーメ領の難民を受け入れた時が一番酷かった。
十分手厚い保護をしているはずなのに、金が欲しいから抱いてくれと迫られる。
妻を、娘を。時には女装させた少年すら用意して、金が欲しいから抱いてくれと言ってくる。
難民とて、愛しい国の領民だ。だから、彼らが望むまま、言うがままに優しく抱いてあげたのに。愛せば愛するほど、壊れてしまう。男を女装させて愛しても、壊れてしまった。
つまり、愛することは、壊すことなのだ!
理解したからこそ、ひたすら愚直に民を愛して、民を壊し続けた。
だからこそ、ユーリの提案した『革命』に脳を焼かれた。
自分が全く思いつかなかった手段で、聖王国どころか中央大陸の全てを愛するとは!
一目惚れだった。何を捧げても良いと思った。
自分の全てで愛して、自分の全てで壊そう。
ユーリ自身は面倒くさいから早く説明を終えて帰りたいという、ただそれだけの話だったのだが。何も知らない者が見れば、論点を簡潔にまとめて陛下の前で堂々と演説し、聖王国のみならず世界の未来を憂う若者でしかなかった。
そして、ユーリがニク=ドレ卿と直接会うことで、彼の本質の一端を理解できたように。
ニク=ドレ卿もまたユーリと直接会うことで、ユーリの本質の一端を理解してしまった。
彼は。ユーリは。
その気になれば、世界を壊せてしまう!
ニク=ドレ卿は感涙する。
世界を愛しながらも、壊せてしまう彼。
彼は、セルヨーネ侯爵家の全てを受け継ぐに相応しい!
ユーリ君、ユーリ君、ユーリ君。
泣きながら腰を振っているうちに、愛しいビジョレは動かなくなってしまった。
なんと無能で、愚かな息子だろう。
ユーリ君の代わりにも、ビケワの代わりにもならない。
私自身も情けない。ビジョレ同様に、私も無能だ。
ユーリ君とビケワの新婚初夜に、二人を丸ごと愛したかったのに。
馬鹿なビケワが、ユーリ君と肩を並べようとしたから死んでしまった。
せめて出発前に、ビケワだけでも愛してあげるべきだった。
愛しいビケワ。愚かなビケワ。私は等しく、愛しているよ。
* * *
「……
セルヨーネ侯爵家の本邸から無言で出て、急いで馬車に乗り。
冒険者ギルドに向かう道すがら、バトさんが絞り出すような声で呟いた。
みんな、疲労の色が凄い。ぐったりしている。
僕も精神力的な何かをごっそり持って行かれた。
「ユーリ様、どこかで少し休みませんか?」
「……賛成。なんていうか、ちょっと……無理」
青息吐息のバーチェが、げっそりとした表情で言う。
セスレも完全に精神が参っている。
「ここは中央広場付近に全部集中してる町だから、とりあえず中央広場に行こうか……ギルドも宿も食事処も、まとめてあるはずだよ」
なんというか、アレは。
200気圧さんを完成させないと、駄目だ。
侯爵家の領兵を丸ごと相手にする覚悟じゃないと無理。
若返りの秘薬の件でさらなる収入増が見込めるのはタイミング的に助かった。
札束ビンタでもなんでもいい、早めに戦力をどうにかしたい。
白面金毛やヒィロは、亜人のネームドだ。個の戦力が高すぎる英雄。
ならば、ニク=ドレ卿は? 数の暴力を意のままに操るネームド英雄だ。
聖教会の、
今にして思えば、聖教会の連中は基本的に
ゴブリンやレッドキャップを捕まえて拉致してきているのが、聖教会ではなく、連合国軍という線はないか?
例えば、聖王国の軍隊の練度を維持しながら、金のかかる軍隊運営を少しでも楽にするために。
亜人達を捕まえてきては聖教会に売り飛ばすシステムを、バーピィチピット聖王国が確立させているとしたら。
亜人達は、ニク=ドレ卿がバーピィチピット聖王国から動かないのを感謝すべきだ。
ニク=ドレ卿は、亜人やモンスター達が人類生存圏に逆撃できない理由の一つなのだろう。
「……ユーリ様、あれ。クコロさんでは?」
「ん? あ、本当だ」
中央広場に入ると、冒険者ギルドの前で、原作11巻表紙の鎧姿のクコロ嬢が。
青いリボンと青いスカートを微風にたなびかせながら、腕組みをして待っていた。
クコロ嬢は僕達に気がつくと、安心したように笑って片手を軽く挙げ、振ってくれる。
馬車を止めて皆で降りて、どうしてここにいるのか彼女に尋ねると。
クコロ嬢は肩をすくめて説明してくれる。
「ミルヒとカカオに泣きながらお願いされたの。今の私達は無力だけど、クコロさんなら戦力になれます、って。屋根付きリヤカー荷車も渡されちゃった」
ミルヒとカカオに詳しいことを話さずに冒険者装備で出かけたものだから、ハーベラ領で本当に戦争をはじめるのだと双子たちは思ってしまったらしい。
そこで双子はクコロ嬢に泣きつき、何度も何度もお願いしてきたという。
「宿の人に聞いたら、みんなここで泊まる予定だってわかったから。ここで待ってれば会えるかなーって」
「大正解。会えました。流石だね、クコロ」
本来なら宿泊予定者なんて教えて貰えない。
貴族パワーの正しい使いどころというやつだ。
「とりあえず、さ……クコロ、お腹はすいてる?」
僕は『ちょっと寄ってかない?』な仕草で、食事処を親指で示した。
休みたい。とりあえず休憩したい。
僕達は一息ついてから、改めて冒険者ギルドに向かうことにした。
50話頃に初の冒険タイムがありまぁす!
……ダンジョン? 知らない子ですね……