ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第49話 原作開始前・冒険者ギルド

 冒険者ギルド。

 世界各国に大昔から存在する「危険な雑用や調査を担う何でも屋」。

 身元不明でも犯罪者でも外国人でも誰でもなれるし、確実になんらかの仕事があって収入を得られるという「治安悪化を防ぎつつ危険度高めの仕事をこなさせる」という公共事業従事者とその管理組織。

 

 弱い害獣の駆除や予定外の戦闘はあるが、討伐や戦闘は基本的には無い。

 子供でもできる安全な農作業の手伝いや、街の人々からの採取や狩猟依頼、未踏破地域の偵察・探索・マッピングなど、そういった方向性のものがメインだ。

 冒険者は危険な場所に赴き「冒険」する者達だが、ガチの「戦闘・戦争」は軍人や兵士の仕事だ。ゴブリンの集落襲撃など、軍が間に合わない時などの例外的な依頼(ミッション)はあるにせよ、死ぬ確率は低い。

 

 死ぬ確率が低い、というだけであって死なないわけではない。

 猪や鹿は容易く人を殺せる猛獣だし、亜人型モンスターがはびこる地は死の可能性が高い。

 「ほぼ確実に死ぬ」か「低確率で死ぬ」かの違いがあるだけで、「安全」ではない。

 

 つまり、どういうことかというと。

 死を恐れぬ連中、身元不明の怪しい連中、安定職より冒険に魅入られた連中など、控えめに言ってちょっと突き抜けてしまった人が所属している割合が高い。

 犯罪者でも受け入れている時点でお察しである。

 

 

 * * *

 

 

 ざわ・・ ざわ・・

 

 ハーベラ領の冒険者ギルド、中央広場支部。

 パーティというにはあまりにも異様な面々が、ギルドを訪れていた。

 

「たのもーーーー!」

 

 扉を勢い良く開けて、ニコニコ笑顔で先陣を切ったのは。

 少年から青年に羽ばたこうとしているまさにそんな時期の風体、肩当てと胸甲のみの軽装鎧――刺繍や布地も含めて超高価な貴族礼服デザインだとわかる――姿の貴族令息で。

 異国の武器だろうか、見かけない剣を左腰に二本差している。

 

「よ、よろしくお願いします……」

「どうも」

 

 次に入ってきたのは、女騎士が二名。最初に入ってきた黒髪ロングヘアは重装甲に赤リボン赤スカート。その次の金髪ポニーは青リボン青スカート。どちらもロングソードを佩いている。

 

「……(ぺこり)」

 

 無言で頭を下げながら入ってきたのは、黒髪ロングヘア姫カットの、弓兵系重装甲鎧に薙刀姿の美女。

 

「よろしくにゃん☆」

 

 パーティドレスとしてはあまりにも異様な、ひらひら、ふわふわとした白とピンクベースの服を着た美少女が、猫手で挨拶しながら。冒険者を舐めきっているのか、武器もなければ装甲もないが、手提げ袋だけ保持している。

 

「チッ」

 

 軽い舌打ちをしながら最後に入ってきたのは、盲目の爆乳美女だ。しかしその姿は、冒険者として見るにはあまりにもデザイン優先というか「当たらなければどうということはない」を地で行く装甲無しの格好だ。 その盲目を補佐するように、手にした白杖を時折地面についたり、地面付近で左右に振ったりしながら歩いている。

 

 

 つまりまとめるとこう!

 

 ユーリ(13)銀髪碧眼の子爵令息。外見はFGOのオベロン似かも。

 セスレ(15)美少女。爆乳。公爵令嬢。

 クコロ(13)美少女。巨乳。男爵令嬢。

 バーチェ(18)美女。ナイスライン。物静か。

 アイリス(13)美少女。ナイスライン。にゃん。

 バト(21)美女。爆乳。盲目。

 

 誕生日? 知らない子ですね。年齢は一律であがります。

 

 原作なら速攻で「問題アリだ」とB級以上のベテランに警告されてしまうような。

 それが僕達だ! いぇい!

 

 弓と弓矢、ラケットメイス一式は外の屋根付きリヤカー荷車(三連動滑車付きで崖や段差に強い)にしまってます。

 余談だけど、『科学的に存在しうる~』で栗結パイセンが開発していたサスペンションリヤカーは、ふかダン世界には既に存在してます。

 アラクネの装備内容の差と共に、考察勢が鼻息荒く興奮する案件のひとつ。忘れないでね。

 

 

「……美人の女ばっかり」

「あれはメクラ、なのか?」

「冒険者舐めてんのか?」

 

 ギルド内にたむろしていた冒険者達が、こちらをジロジロ見ながら思い思いに感想を呟く。

 イラッとしたバトさんが、すかさず先制する。

 

「おう……聞こえとんねん。こそこそ喋んなや」

 

 きた! バトさん原作台詞!

 僕は内心盛り上がる。

 

「なんだぁお前等。冷やかしかぁ?」

「いい女ばっかじゃねぇか。紹介してくれよ。一晩幾らだ?」

 

 ハゲでドワーフ髭のおっさんと、大きな斧を背にした粗野なおっさんが絡んでくる。

 

 くぅ~っ! これだよこれ! 僕が待っていたのは! これ!

 思わず握りこぶしで震える。僕は感動している。

 ああ、前世で散々妄想したこのシーンが、今まさに!

 

「あのっ、受付のお姉さん!」

「えっ? 私ですか?」

 

 冒険者ギルドの受付のお姉さんが驚く。

 暗黒大陸と共通しているのか、ショートヘアのスーツ姿だ。

 

「依頼ですか? それとも、助けて欲しい……とか?」

 

 困惑しながら、受付のお姉さんが言う。

 おっさん二人は、女性陣のおっぱいを見比べてニヤついている。

 

「この人達、殺しちゃってもいいですかッ!?」

 

 僕は鼻息荒く、興奮したまま受付のお姉さんに尋ねる!

 

「「「……えっ?」」」

 

 受付のお姉さんとおっさん二人が同時に困惑する。

 バトさんがため息をつく。

 

「そら、美女揃いやからな。雑魚が絡んできてめんどいねん」

「冒険者ギルドは冒険者同士の争いに不干渉なんですよねッ!?」

「えっ、そんなことないですけど……」

 

 興奮した僕の発言に、受付のお姉さんが眉をひそめる。

 

「あの、法の秩序というか、そういうのがありまして……」

「登録前の新人が絡まれてるんですよ!? これを放置していたらギルド登録希望者が減っちゃうでしょう!?」

 

 犯罪者でも受け入れる冒険者ギルドにおいて、冷やかしや喧嘩は日常茶飯事である。

 やりすぎれば法律が絡むし、やりすぎなくても目に余ればギルドマスターの出番だ。

 

 ある程度は見逃すから、やりすぎないでくれ。憲兵を呼ぶとか面倒臭いし。

 それが一応、冒険者ギルドのスタンスである。

 確かに絡みはしたが、手は出していない。流血騒ぎでも骨折騒ぎでもない。

 むしろ『行き場の無い人間の受け皿』である以上、この程度で登録希望者は減りはしない。

 

「絡まれたのに……殺しちゃ駄目だっていうんですか……?」

 

 僕は絶望した。なんということだ。

 美女と美少女のハーレムパーティ!

 ギルド登録前の、因縁をつけやすい若造! 

 もっと酷い目にあう感じのパターンのはず!

 

「そんな上目遣いで泣きそうな顔で言われても……」

「もっとこう……もっとこう、なんか! あるでしょ! よくわかんない助言の代金として冒険報酬を全部巻き上げられるとか! 裏路地に連れて行かれて変なグループに勧誘されて強制加入することになって、初心者指導代として報酬を毎回半分納めろと言われるとか! 引き連れてる女を全部寄こせ、話は全部それからだと命じられるとか! 依頼を受けて指定された宿に泊まると、宿の主人と協力関係にある盗賊が深夜に襲いかかってきて何もかも全部奪われるとか、そういう……そういう! 凌辱がないでしょッッッ!」

「ないです! ていうか貴方の中で冒険者ギルドはどういう組織になってるんですか!?」

 

 以前僕が使った「虎王」の元ネタ、「餓狼伝」の板垣恵介版漫画オリジナルキャラ・クライベイビーサクラのように僕は叫んだけど、受付のお姉さんに怒られた。

 悲しみで一杯の僕に、髭のおっさんが近づいてくる。

 

「おい坊主、さっきから聞いてりゃッ!?」

 

 髭のおっさんが僕の右腕を掴もうとした。

 彼が僕の腕を掴む前に右肩を少しあげ、彼が腕を掴んだ瞬間に僕が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を彼の手経由で彼の首と腰に伝える。

 技の起こりをできるだけ消したので、傍目には彼が僕を掴んだ瞬間に、突然後ろに転んだように見えたはずだ。

 何が起こったのかわからず、髭のおっさんは転んだまま目を白黒させている。

 

「はい、斧の人。適当に僕の腕を掴んで下さい」

 

 驚いている斧の人に向けて、僕は左肘をあげて左腕を見せつける。

 一瞬きょとんとするも、斧の人は右手で僕の左腕を掴み、怒り顔でギリギリと握りしめる。

 

「あー。痛いです。これは痣になっちゃいます。正当防衛成立ですね」

 

 両手で使うような大きな斧使いが、子供の腕を強く掴んでいる。

 痛いなぁ、もう。

 

「ここで雷光流・五点捕りの実演です。まず手首と肘と肩」

 

 宣言した瞬間に、斧使いのおっさんが硬直して、右腕全体が震え出す。

 傍目には、僕の左腕を掴んでいるおっさんが、勝手に動かなくなったように見える。

 僕は彼を掴んでいない。彼が僕を掴んでいるだけ。

 

 僕は右手の人差し指で、おっさんの手首と肘と肩を順に指さしていく。

 

「いま、この三点を攻めています。手首関節、肘関節、肩関節。次は首関節」

 

 僕がそう宣言した瞬間に、おっさんの頭が上にあがる。

 おっさんはぷるぷる震えながら、少しずつ頭が後ろに下がっていく。

 

「首から背骨を通して腰関節を攻めます」

 

 おっさんの頭が突然飛び跳ねたように前に振られる。

 真下に落ちそうになって、おっさんは足を広げて必死に耐えて踏ん張る。

 

「応用として、六点目の臍下(せいか)丹田を攻めることもできます。実行するとこう」

 

 踏ん張っていたおっさんの片膝が地面につく。

 ぱっと見は、少年の腕を掴んだおっさんが震えながら床に片膝ついている感じ。

 女性陣から、お~、と声が漏れる。

 

「今回はゆっくりやりましたが、本来は一瞬で全部捕っちゃいます。一瞬で捕るとこう」

 

 がくん、とおっさんが崩れて、後ろに転ぶ。

 僕はすかさず踏み込み、相手の股間を踏み抜くフリをする。

 

 ズダァン!

 

 倒れたおっさんの股間のすぐ下で、僕の震脚が強烈な音を立てる。

 当ててたらおっさんは今日から女の子だ。

 

 今回の五点捕りもそうだけど、雌豚お姉さんにやった土下座合気も、というか僕がやってる技って大体YouTubeにアップされてるんで適当に検索して見つけてください。

 架空の技じゃなくて人間がちゃんとできる技で、動画公開済みってことです。

 もう少し成長して身体が出来上がればさらに酷い技もできるよ。

 

「相手に接触さえしていれば割と掴めます。その気になれば剣や槍でも」

 

 足をゆっくり引き上げる。割れた床石の破片が、パラパラと僕の靴から落ちる。

 金玉が潰れた錯覚がしたのか、斧のおっさんは泡を吹いて気絶してしまった。

 

「というわけで、今のが雷光流・五点捕りの……」

「六点だったよね?」

 

 クコロが呆れたように言う。僕は言い訳をする。

 

「五点捕り……」

「六点捕り」

「あー、むしろいきなり臍下丹田を攻めてくれても」

「そういう問題なの?」

「何やってるんですかっ!」

 

 受付のお姉さんが、ぷんすかしながら近づいてくる。

 僕は左腕についた、握られた痕跡の痣を見せつける。

 

「あのぅ、正当防衛、なんですけど……」

「床」

「えっ?」

 

 僕は下を見る。

 あっ。床石にヒビが。

 

「なんて酷い……誰がやったんだ……あだっ!?」

「すみません、弁償しますので」

 

 僕を引っぱたいたセスレが、頭を下げる。

 受付のお姉さんは、ため息一つ。

 

「いえ、今後は気をつけて下さいね。……それで、登録ですか?」

「イエスマム!」

 

 敬礼する僕を見ながら、アイリスとバーチェがこそこそと話す。

 

「……なんだかユーリ様、妙にテンション高いですね?」

「セルヨーネ侯爵とのお話でストレスが溜まっておられるのかと」

 

 バトさんが、困ったように口をむにゅむにゅさせて。

 

「八つ当たりで殺したくなる気持ちは、わからんでもないなぁ……」

「なんなんだお前等っ!?」

 

 転んだままの髭のおっさんが、居丈高に叫ぶ。

 

 正直、ニク=ドレ卿に会った後だと何もかも可愛く思える。

 世界は愛に満ちている。生きているって素晴らしい。

 

「冒険者志望の新人(ニュービー)です! 冒険者登録に来ました!」

「……はぁ……冒険者学校はどうされます? 最長一ヶ月で、寮もありますが」

「冒険者……学校?」

 

 受付のお姉さんの質問に、僕は青ざめる。

 やっべ! すっかり忘れてた!

 冒険者ギルドにおける義務教育!

 ジャン君とナァルちゃんがアナルセックスしてたアレ!

 

「……多分、僕に指名依頼が来てるはずなんですよね。冒険者学校は、今回は後回しということで……信号笛だけ教えて貰って、新人テストに合格してお茶を濁しておく感じでお願いします」

 

 貴族学校に通ってなくて、なおかつミルヒとカカオもいれば皆で冒険者学校行ってたんだけどなぁ。もっと色々落ち着いたら札束ビンタでもなんでもして学ぼう。

 

「指名依頼? 冒険者の登録前なのに、ですか?」

「早馬とか来てません? 僕、ユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息って言います」

「ユーリ・アイダ・ハサマール……侯爵家の次期当主様じゃないですかッ!?」

「そうだ、思い出した。ギルド経由で特許申請すれば、冒険者等級の認定に評価が加味されるんですよね?」

「……えっ? 『革命』や『量産板金鎧(マスプロデュースド・プレートアーマー)』の件は私も伺っておりますが、なにぶんギルド登録前の事案ですので、ギルドマスターに確認をとる必要が……」

「あーいえいえ違います。まぁギルドマスター自体は呼んで貰った方が話が早いかもしれません。冒険者稼業に役立つ発明を何点か持参しているので、僕だけでもS級スタートしたいなぁと」

「はぁ?」

「めんどいんで出しちゃいますね。えーと……」

 

 僕は荷物を預かってくれていたアイリスから色々受け取り、受付机に並べていく。

 

「これはファイアーピストン。竹水筒。蚊取り線香」

 

 こん、こん、こんと物を置いていく。

 

「あとこれは……うーん、どうしよう。まぁ遅かれ早かれ、か。遠眼鏡です」

 

 これだけあれば、S級いけるんじゃないかな?

 

「はぁ……侯爵家の次期当主様といえ、一切忖度とかはしませんが?」

「いいですよ? こちらとしては、冒険者ギルドから特許を出す理由なんて冒険者等級のためぐらいしかないですしね」

 

 軽く振り返って、バーチェとバトさんを眺める。

 少なくとも、バーチェとバトさんは現時点でもS級余裕なんだよなぁ。

 『音見』だけで言うならアイリスだってS級だ。今は秘匿するけど。

 

「それで、その……竹水筒や線香は名前からわかりますが、これは?」

 

 受付のお姉さんがファイアーピストンを手に取って首を傾げる。

 ですよねー。一見わかりませんよね。

 僕は冒険者申請用の紙を一枚、机から勝手に取り出してひらひらさせる。

 

「この紙、貰っていいです?」

「どうぞ?」

 

 紙をくしゃくしゃ丸めて石床に置く。

 ファイアーピストンを分離させて、中にチャークロス(炭化させた綿布)が仕込み済みなのを確認する。僕はチャークロス……黒いなにか、をお姉さんに見せる。

 

「いいですか? よく見てて下さいね」

 

 ファイアーピストンを元の形に戻す。

 僕はしゃがんで、ファイアーピストンを勢い良く石床に叩きつける!

 すかさずファイアーピストンを分離させ、チャークロスを紙の上に落とす。

 

 すると、チャークロスから煙があがりはじめて。

 チャークロスと接している紙の部分から炎があがり、やがて紙を燃やしはじめた。

 

 冒険者ギルド中の全員が、ぽかーんとしている。

 

「簡単に火をおこす道具、ファイアーピストンです」

 

 さあ、とくと見よ人類!

 本来なら五年が経過した原作時間軸でも火打ち石と火打ち(がね)を使っている世界に対して、ファイアーピストン様の投入なるぞ!

 お前等はもうこの便利さから逃れられない!

 

 まぁ僕はそのうち火打石と灯油を使ってライターを作る予定なんですけどね?

 

 受付のお姉さんは、震える手で遠眼鏡を手に取った。

 

「こ、こちらは……?」

「あー、遠眼鏡ですか。お姉さん、筒の細い方を片目にあてて、窓の外を見て下さい」

「こうですか? ええと……えええええっ!?」

 

 遠眼鏡を通して窓の外を見たお姉さんが絶叫する。

 うん、なんで遠眼鏡の類が無いんだろうね、この世界。眼鏡はあるのにさ。

 

「文字通り、遠くを見る道具です。冒険者のみならず、軍隊にも使えます。……つまり、戦略級の道具です。この意味はわかりますか?」

 

 お姉さんはコクコクと高速で頷く。

 もはや涙目にすらなっている。

 

「中央大陸の全ての国と軍が欲しがるでしょうねぇ……あっ、暗黒大陸もか。ところでお姉さん、僕の冒険者等級についてご相談があるのですが……」

「まっ、ますたー! ギルドマスター! 助けて! 助けて下さいっ!」

 

 お姉さんの泣き声で、奥の部屋からギルドマスターがすっ飛んできた。

 

 

 * * *

 

 

 冒険者証。等級と名前と登録番号が書いてあるだけの木の割符。

 セスレやクコロ達も、同様に受領している。

 彼女たちは全員F級だけど、僕だけは違う。

 

 信号笛を含めた新人テストには、一時間もかからなかった。

 中央広場支部のギルドマスターが、揉み手で僕の機嫌を伺ってくる。

 ここのギルドマスターも市役所のどこにでもいるようなバーコードハゲのおっさんなんだけど、ニク=ドレ卿と比べたら可哀想だ。

 本当にどこにでもいるようなおっさんである。

 

「SのF級、『発明家(インベンター)』ってことでどうでしょうか?」

「『発明家(インベンター)』! いいですね、気に入りました!」

 

 よーしよしよし、まともな二つ名ゲットだぜ。

 『†闇の女王†』とかじゃなくて良かった。

 

 実のところ、バーチェとバトさんには事前に説明済みだ。

 その気になればいつでもS級になれるだろうけれど、今は我慢しておいてほしい。

 わざと相手に侮られたい、と話しておいた。

 

「ユーリさんへの指名依頼、確かに来ています。内容は高山植物コマクサの採取です」

「本当なら緊急生存術教練を受けたかったんですが、今回は指名依頼優先で」

「……その件なんですがね、ユーリさん」

 

 ギルドマスターは周辺の簡易地図を取り出す。

 

「ここが街です。私達が今いる場所。そしてこの山がコマクサの採取場所」

 

 ギルドマスターが、指で地図をさしていく。

 その指が、コマクサの採取場所への中間地点にある森をトントン、と叩いた。

 

「ここです。この地点。つい先日、ゴブリンの集落が発見されたと報告がありました」

「……続けて下さい」

「確認できているだけでゴブリンのオスが10匹以上、メスと幼体は20匹以上。オークも最低4匹確認されています」

 

 セスレが息を飲む。

 

「完全武装で50人は欲しい、かも……」

「集落ではなく、『城塞』規模ですね」

 

 クコロが真剣な顔になる。

 ギルドマスターがため息一つ。

 

「ハーベラ領の領軍と、聖教会には伝達済みです。経路を大回りに迂回するよりは、軍隊がゴブリン達を処理してから出かける方が無難でしょう。一週間か二週間程度、時間を置かれては? その間、冒険者学校の授業を受けてみたり、先ほど話に出ていた緊急生存術教練を体験することは、冒険者として決して遠回りではない正しいことだと胸を張って申し上げられます、ユーリさん」

「……そうですね、ギルドマスター。あなたの発言は全て正しい。冒険者学校での授業も、緊急生存術教練も、さらにいえば軍隊がゴブリン集落を駆除するのを待つのも、何もかも全て正しい」

「それでは!」

「いえ。コマクサは採りに行きます」

 

 僕は頭を抱える。

 偶然? それとも、ゴブリン集落の話を知っていたからコマクサを理由に?

 僕は散々悩んで、声を絞り出す。

 

「セスレは置いていく。君は留守番してほしい、セスレ」

「は? 行くけど?」

「結婚式前なのにセスレになにかあったら公爵家に申し訳が」

「『女騎士』になった時の『あり得る可能性の一つ』、だっけ?」

 

 セスレはニヤニヤと笑いながら言って、次に真顔になる。

 

「ユーリ。貴方が指摘してくれたこと、一言一句(たが)わずに言えるわ。……亜人に敗北し、虜囚となり、陵辱される。連中の子を孕み、乳を与えて育てる。そのまま死ぬまで人間牧場に住み続ける可能性。バーチェにも、アイリスにも、バトさんにも、もちろんクコロにも、等しく全員にその可能性はある。それなのに、私だけ留守番? ミルヒとカカオですら泣いてすがってクコロを送り込んできてくれたのに、私だけ安全地帯で貴方達の帰還を待てと?」

「……セスレ、」

 

 パァン!

 

 セスレの強烈なビンタが、僕の頬を叩く。

 ……誰も止めない。誰も声をかけない。

 

「あなただって覚えているはず、ユーリ。私のお父様の言葉を」

「……アドリ=ブヨーワ公爵家を舐めたら殺す。侮られることを受け入れるぐらいなら死を選ぶ」

「みんな覚悟してる。バーチェも、アイリスも、バトさんも。嫁ですらないクコロだって」

 

 そこではじめて、バーチェが口を開いた。

 

「ユーリ様。何かあっても、助けてくださるんですよね?」

「マジカル装備? でしたっけ。アレがあれば大丈夫だと思うんですけど……」

 

 アイリスが小首を傾げる。

 クコロは自分の首を横にかっきる仕草で言う。

 

「うーん、もしオークかゴブリンの子を孕んじゃってたら、ひと思いにお願い」

「確認とれとるんで35匹なら、未確認含めて全部で50匹ってところか?」

 

 バトさんが笑う。

 

「ほんなら、一人で10匹()れば釣りが出るなぁ」

 

 僕はひりひりする頬をさすりながら苦笑する。

 

「そんな事言うから、ミルヒとカカオにチンピラとか言われちゃうんですよ、バトさん」

「チンピラの旦那様に言われたないで?」

 

 ギルドマスターが驚く。

 

「えっ? じゃぁ、行くんですか!? 軍隊を待たずに?」

「はい、行きます」

「全員がF級の、女性と子供しかいないパーティなのに!?」

「あっ」

 

 僕は言われて気づく。

 

「パーティ名、考えてなかった!」

「そこを気にするんですか!?」

「大事でしょう! 一番大事でしょうよ!」

 

 うーん、と考える。

 雷神……でもいいんだけど。少し捻ろう。

 

「ナルカミ。F級パーティ『鳴神(なるかみ)』を名乗ります」

「はぁ……本当知りませんよ? 冒険者ギルドは一切責任とりませんからね?」

「セスレ、ありがとう。一緒に行こう」

「ん」

 

 嬉しそうに、セスレが微笑む。

 

「F級パーティ『鳴神(なるかみ)』、明日から出陣だ。宿の朝食後、8時に集合して出発!」

「OK」「うん」「了解」「はい!」「おう」

 

  

 最初は()()に冒険したいと思っていたのに、状況がそれを許さなかった。

 弓胎弓(ひごゆみ)やらコンパウンドボウやらファイアーピストンやら、やりたい放題だ。

 さらに言えば……魔法少女装備もあるわけで。

 

 完全武装で50人は欲しい。

 集落ではなく『城塞』規模。

 どちらも嘘ではない。

 

 ゴブリンの集落を潰すのは『攻城戦』であり、想定されるゴブリンの数の三倍以上を集めてのレイド戦か、連合国軍が出陣する事態だと判断される。オークの存在で倍率ドンだ。

 だからギルドマスターは領軍と聖教会に連絡を入れたし、『全員がF級の、女性と子供しかいないパーティ』に行くなと言った。

 

 ()()()()()()

 

 ……僕達の初冒険が、はじまる。

 

 

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