ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第5話 原作開始前・デビュタント

 時が流れるのは子供の頃は遅く、大人になってからは早い、なんて良く言うけれど。

 今世はやりたいことが多すぎて、あっという間に年を重ねていく。もうすぐデビュタントだよ。

 

 男性形がデビュタンで、女性形がデビュタントだっけ?

 この世界は細かいことを気にしてないからどっちでもOK。

 わかればいいんだよ。

 

 お茶会へのお誘いとか時々来るんだけど、ほぼ全部ガン無視してる。

 うん、わかるよ?

 普通の貴族なら、貴族として横のつながりや、婚約者候補探しとか、色々あるもんね。

 社交界デビューしたら、学校卒業までは貴族的な付き合いも我慢するから許して欲しい。

 

 どうせアイリスとバーチェを妾として迎えさせてから、正妻やら側室を娶らせるんだろ?

 『明らかに有能なのはわかるんだけど何考えてるのかよくわかんないから首輪をつけておきたい子供』だもんね。学校でどういう流れになるのかは不明だけど、最終的には冒険者ルートを想定して全力で下準備はしておきたい。

 

 ともあれ、現時点でのリザルト。

 

 読み書き、算術、地理、この辺は楽勝。算術はすぐにでも学校卒業できると褒めて貰った。制空権が人類の手にあったら等高線チートとか言い出しても良かったんだけど、今世は無意味そう。

 

 礼儀作法は、念のため高位貴族用まで教えて貰った。ハサマール家の現状、陞爵の可能性だけはいつだってあるじゃん? 一応、ね。

 

 貴族教養。貴族の家系や義務とかの暗記。この世界、モブ的存在の名前がマジでいい加減だから、紐付け暗記がしやすくて地味に助かった。だってニク=ドレ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵とかソノヘ・テキト・モーブ男爵とかそういう感じの貴族名ばっかなんだもん。社交界も「ニク=ドレ卿のご子息は……」とか「モーブ男爵家とザコスギール子爵家の婚姻が……」とか大真面目にやってるみたいだし。貴族との交流中に笑っちゃったらタイキックだけで済ませて貰えるだろうか?

 

 ダンス。開き直って、体軸の認識や正中線保持の鍛錬と割り切って学んでたら案外早く習得できた。練習相手のアイリスとバーチェがいい匂いして困る。特に年上のバーチェがやばくて、自分が二次性徴を迎えてたら余裕で勃起してそうなフェロモン漂わせてる。逆に、高嶺の花オーラで萎える可能性もあるけど。ブスも美人も3日で慣れる? いまだに慣れません。無理。

 

 法律。ここは特許がある世界だから、その辺を念入りに覚えた。商会系貴族だから余計に。適当な商品開発チートで実家を潤わせて発言力を得てから、できるだけ早めに装備開発に着手したい。自分の加護のことを考えると、日本刀は絶対作りたい。織津江さんも「日本刀の製法を教えた」の一言でさらっと流して簡単に「ぼくのかんがえたさいきょうの日本刀」作ってたしね。

 

 乗馬。(あぶみ)はもうあるから比較的乗りやすいにしろ、暗黒大陸での冒険に騎馬は使いづらい。でも作中のクコロちゃんやセスレちゃんのように将来早駆けする可能性は捨てきれないし、襲歩(ギャロップ)をちゃんとできるようにはしておきたいよね。だから頑張ったよ。脱力じゃなくて抜力、もしくは放鬆(ファンソン)という表現の練習にもなったし。あ、聞き慣れない人も多いと思うけど、身体の全てではなく、一部は緊張させて一部は脱力させる技術の事です。日本語難しいね。

 

 剣術。兵士が先生だけあって、実戦的なロングソードだった。とはいえ、身体が全然できてない子供の時期だから、走り込みとか素振りとかそういう身体作りが主軸。打ち合いの練習は貴族への忖度スペシャルで最初は激甘ぬるぬる難易度だったが、剣を巻き取って弾き飛ばす練習をしてたらいつの間にか先生がガチになってた。僕まだデビュタント前ですよ先生。大人げないですね。

 

 槍術。前世で大人気だった(ラン)(ナー)(チャー)とか一生懸命予習したけどあんまり意味無かった。いざ授業がはじまって手渡されたのが子供の体格に合わせて作られた短槍だったというのもあるけど、僕の中の建御雷神(たけみかづちのかみ)の加護が起動したのか、「杖術のごとく扱うべし」という直感が短槍から伝わってきたので全部ご破算です。「突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀。杖はかくにもはずれざりけり」ですね、わかります。いえ短槍なんですけど。最初から槍なんですけど。杖でも棒でもないんですけど。まぁいっか。もう少し身体が成長しないと槍は使いこなせないね。

 

 弓術。子供の体格だから弱弓でも超きつい。西洋的ロングボウだから、これを極めようとすると多分左右の手の長さが変わっちゃう上に手の骨も変形しちゃう。加護のことを考慮すると和弓開発したほうがいいと思う。竹を探そう。この世界に竹があることは『科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日記』で触れられている。商業流通関係に本格的に手を出すのはデビュタント後のつもりだけど、竹だけでも早めに大量入手したいところ。そのうち狩人の先生に聞いてみよう。

 

 薬学と医学。流石に瀉血療法とかはしていなかった。別に前世で医者をやっていたわけではないが、この世界においては前世知識だけで十分医学チートになるのは強く理解できた。いうて医学以前に即死させられちゃうケースばかりなんですけどね。亜人と魔物が強すぎです。大事なのは薬学。薬は毒に通ずるし、毒は薬に通ずる。将来的に冒険者になった時、山菜も重要になる。個人的にはキノコにさえ手を出さなければ、ある程度感覚でいけるんじゃないかと思っている。キノコはハイリスクローリターン。色んな意味で。ともあれ、将来的にこの世界の医者免許の取得を目指したい。前世日本よりは圧倒的に試験が楽なはずだから。

 

 獲物追跡と解体技術。これに関しては学校入学のギリギリまで学び続けたいと思わされた。鶏や魚、豚や牛、鹿などの解体技術。相手をするのは動物だけではなく、人間、亜人、魔物と仮想敵は多い。それだけではなく、山中や森を通過時の移動や休息、水分補給など、あまりにも学びが多すぎる。原作の「緊急生存術教練」は本気で必要最低限レベルのサバイバル知識なので、冒険者ギルドは今からでも必須授業化して指導者に補助金やボーナスをだすべきだと思う。もしかしたら、補助金が出るような規則を通そうとしても、創世神にこっそり握りつぶされている可能性は真面目にある。あの創世神ならやりかねない。

 

 エコーロケーション技術はある程度習得できた。このまま習熟努力を続けていけば、舌打ち音や杖をつく音ではなく、そよ風程度の音源、または空気が動く気配で周辺把握をする領域に手が届くかもしれない。多分これは僕の加護も手伝ってくれていると思う。ありがとう転生神。神社か鳥居でも作った方がいいんだろうか。

 

 ぶっちゃけ、学校で学ぶ知識面に関しては、既に卒業レベルで習熟できてると思う。

 デビュタント後は市場調査と商品開発と武術鍛錬に集中したい。

 

 

 というわけで、社交界デビューすることになったユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息です。

 

 その年に10歳の誕生日を迎える男女が王宮に集まって、王族に挨拶して、舞踏会でダンス。

 

 入場時の連れ添いは、姉妹も婚約者もいないんで、母上ですかね。

 母上は笑顔で了承し、なんか気合いの入った服をオーダーメイドしてくれた。

 『貴族 パーティ 男性』とかで画像検索すると出てくるような貴公子衣装。恋愛・異世界タグなら気合いのはいった地の文で描写されるやつ。でもそういう話じゃないので省略です。

 

 銀髪碧眼の中性的な細身の美少年、それが僕。

 魔性の男とか目指したいですね。

 女装も似合いそう。機会あるかな?

 

 今まで茶会にでなかった僕のエスコートということで、母上はわざわざドレスを新調。

 

 はじめての王宮、はじめての舞踏会。

 はじめての貴族令息・令嬢達との出会い。

 本番は学校に入学してからなので、現時点で交流の幅を広げる気はあんまりない。

 

「ユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息、バーラ・アイダ・ハサマール子爵夫人、入場です」

 

 茶会の類に全然でてない自分は、ハサマール家の秘蔵っ子とも、ぼっちのコミュ障とも、隠しておきたい精神障害者とも噂されている。どれも正解だから困る。

 

 会場の貴族達がざわめいているのがわかる。

 初お目見えだもんね。黙っていればイケメンです。

 母上の用意した貴公子衣装が凄すぎて、子爵位に見えない。高位貴族級の仕上がりで超格好いい。格好いいは正義。可愛いは正義ってスライム娘も言ってたし。

 

 困窮なさっている高位貴族の方々の歯ぎしり音が聞こえてきます。お前らどうせ爵位にふんぞりかえって無駄遣いばっかしてるんだろ? 「ここからここまで全部ください」とかやるんだっけ? いやお抱え商人が屋敷にすっ飛んでくる人達だからそういうのは無いのかな? 無駄に宝石とかドレスとか買いあさる人達。

 

 アイダ領が海に面してたら真珠の養殖チートとか挑戦してみたかったけど、海がどうなっているのかは『織津江大志の異世界クリ娘サバイバル日誌』以外の情報が超少ない。魔物対策とれてんのかなぁ? イマイチわからんわ、中央大陸の情報が少ない。

 

 

 立食パーティがはじまり、流れ作業で王族に挨拶していく。

 国王&王族一同の前で跪き(こうべ)を垂れ、右手を左胸に添える。

 この国における貴族の最敬礼。

 

 頭をあげよ、楽にいたせ、今後の成長と貢献に期待している、学校でよく学び己の未来を見据えよ、うんぬんかんぬん。校長先生のクソ長話レベルの割とどうでもいい挨拶だったんで、あくびを我慢するのがつらかった。王妃様も王女様も美人だけど、あんまりお近づきにはなりたくない。

 

 ダンスは最低3回踊るのがノルマ。

 婚活兼ねてるしね。ファーストダンスはお美しい母上と。

 

 この会場内、イケメンが多いのでバーラお母様は眼福らしい。

 イケメンの男子同士が会話しているのを見てうふふ、と笑っている。

 

 前世では百合の間に挟まる男は死刑と聞いていたけれど、薔薇の間に挟まる女性はどうなんですかね? 教えて腐女子の皆様。逆ハーとベクトルが違うことだけはわかる。

 

 

 セカンドダンスの相手を探す必要がある。婚約者がいれば三連続で一緒に踊って終了だけど。

 会場を見渡すと、個性的な子が舞踏場の端っこの方で目立たないように佇んでいた。

 腰まで伸びた美しい黒髪。緑色ベースの、奥ゆかしくも美麗な印象のドレス。

 目が悪いのか、時折目を細めて会場を見渡し、顔をゆがめ、真っ赤にし、青ざめ、真顔になり。

 美人さんなのに、百面相のおもろい子やな。よし! 君に決めた!

 ゆっくりと歩み寄り、ロングヘアの黒髪少女の前に立ち、右手を左胸にあてて軽く頭を下げる。

 

「ユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息と申します。麗しきご令嬢、その手をとって共に踊る栄誉をわたくしに頂けませんでしょうか」

 

 顔をあげ、微笑みながら少女に対し右手を伸ばす。

 公的な場なので、僕じゃなくてわたくし。

 少しだけ逡巡した後、彼女は恐る恐るこちらに手を伸ばしてくれた。

 これは了承の返事。

 

「お申し出、お受けします。グラス・タレーメ・マンセー子爵令嬢と申します」

 

 笑顔を維持できず、一瞬真顔になった。

 改めて微笑み、右肘をさしだした。

 

 マンセー子爵令嬢が、僕の右腕に左手をそっと絡めてくれる。

 舞踏場に、マンセー子爵令嬢をゆっくりエスコートしていく。

 ダンスが可能な適当な空間を見つけたのでエスコートをやめ、お互いに向かい合う。

 

 指揮者が指揮棒をあげ、振り始める。

 舞踏場に、クラシックワルツの生演奏が響き始める。

 

 彼女の手をとり、丁寧にダンス。

 1・2・3、1・2・3。

 ずんちゃっちゃ。ずんちゃっちゃ。

 彼女は、目を細めたり、広げたりしながら、こちらの顔を必死に見ようとしているのがわかる。

 

「どうしました?」

「あの、一時期、ハサマール子爵令息との婚約話がありまして。それを思い出しておりました」

 

 頬を染めた彼女が、ふふっと笑う。ターンに合わせて、スカートがふわっと翻る。

 

「ユーリ、で構いませんよ。わたくしは茶会が苦手で遠慮していたもので、マンセー子爵令嬢に限らず、婚約者候補の話は全て様子見とさせてもらっていたのです」

「それではこちらも、グラスとお呼びくださいませ。わたくしが年上の旦那様の後妻にならぬよう、お祈りを頂ければ幸いです」

「グラス嬢なら、引く手あまたでしょう。……いらぬ進言かもしれませんが、視力が低下しているとお見受けします。目を細めた際に、お相手が睨まれたと勘違いしてしまうかもしれません。騙されたと思って、眼鏡の着用をご検討なされては?」

「あっ、あり、ありがとうございましゅ!」

 

 嚙んだね?

 聞かなかったことにして、笑顔で返す。

 ダンスが終わる。ゆっくりと離れる。

 

 僕はボウ・アンド・スクレープ。

 彼女はカーテシー。

 

「また、お会いできますか? ユーリ様」

「茶会でも、学校でも、その願いは叶いましょう。またいずれ、グラス嬢」

 

 ああ! もう!

 眼鏡をはずした眼鏡っ娘とかわかるわけないやろ!

 しかも10歳時点のロングヘアやで! 原作と違っておっぱいの大きさも年齢相応だったし!

 グラスちゃん! なんでこんなところに! グラスちゃん!

 

 

 原作キャラとの初邂逅。

 一度場を離れ、オレンジジュースを飲んで心を落ち着ける。

 サードダンスの相手をどうしよう、と遠い目をしていると、令嬢の方から近づいてきてくれた。

 

 金髪碧眼。長目の髪を青リボンのポニーテールでまとめている。

 ドレスも綺麗な青色だ。

 10歳としては背が高い。

 目線を合わせるには、軽く見上げる形になる。

 二次性徴。異性を受け入れるべく、身体が急激に大人に変化していく過渡期。

 ほらアレですよ。小学校高学年になると女子の背が伸びて身体が丸みを帯びて、背中のシャツと服を貫通してブラジャーラインが透けて見えるようになる、あの時期です。

 

 彼女は真顔というか、無表情に近い。

 心の底から、舞踏会を拒絶している雰囲気だ。

 

「お相手が誰でも良いとお思いなのであらば、この男爵家次女で済ませてみませんか」

「美しきご令嬢との出会いに感謝を。ユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息。お見知りおきを」

「……そのような世辞は無用です、ハサマール子爵令息。クコロ・カンド・サンゼバー男爵令嬢と申します。礼儀とは無縁たる武家の子女なれば、無作法は寛恕願います」

 

 悔しそうに、心底この場には居たくないのだと誰にでもわかる顔を見せる彼女。

 一方僕は、ふーん、そう来るのね、と内心ニヤニヤしていた。

 

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