ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第50話 原作開始前・コカトリス

 ジャン君は、屋根付きリヤカー荷車をさらに布加工して「戦荷車(ウォーワゴン)」とした。

 戦荷車(ウォーワゴン)戦術は、荷車を盾もしくは移動式トーチカとして使う戦術だ。

 フス戦争などで有名。詳しくは「乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ」を読んで欲しい。

 この世界の創世神が大好物なベクトルで美少女が大活躍する漫画だよ。オススメだよ。

 

 荷車の壁は薄いので、矢を撃ち込まれたら簡単に貫通してしまう。

 かといって壁を厚くすると重くなってしまい、まともに扱えなくなってしまう。

 そこで矢や刃物に対して防御効果の高い麻布(まふ)で多重装甲としたわけだ。

 

 ……麻。麻、なぁ。探したんだけどなぁ。

 アイダ領近辺には群生地が無かったんだよね。

 麻の群生地がアイダ領にあったのならシュリヒテン剥皮機を作成して、繊維をとる作業を簡素化して麻布(まふ)を大量生産、布服で儲ける……なんてルートもあったかもしれない。

 麻の実の油は食用以外にスキンケアにも使えるから、若返りの秘薬に使えたかもしれない。

 米があるから、麻幹(おがら)と合わせてバイオプラスチック樹脂を作ってもいい。

 蓋付き密閉容器を作成できれば、従来では輸送不可能だったものを輸送可能になる。

 とはいえ、今は後回しだ。麻の群生地がわかったとしても、研究をする余裕が今は無い。

 

 原作のジャンパーティは女性四人を二人一組として二台の荷車を活用していた。

 一人は荷車に乗り、一人が輸送する。常に一人が休憩していることで、体力を温存する。

 「交代式高速移動法」により、女性二人を男性一人相当の輜重(ポーター)とするわけだ。

 

 一方、僕達のパーティは戦荷車(ウォーワゴン)は一つだけ。

 さらにいえば最初からある程度荷車のスペースは埋まっている。

 荷車を武器や道具、保存食の輸送を主軸にすると最初から割り切っているためだ。

 

 仮にモンスターを狩ったとして、冒険者ギルドに本体を持ち帰る気が無い。

 討伐部位となるものを持ち帰り、狩った証とする。

 ……お金はもうあるから、ジャン君達のように無理に稼ぐ必要は無い。

 

 さらに言うと、僕達F級パーティ『鳴神(なるかみ)』が使用しているこの戦荷車(ウォーワゴン)は、パッと見の外見こそジャンパーティが使用しているものと似ているが、チート改良で完全な別物となっている。

 まず、使用している防御布は原作最強素材セルロースナノファイバー様を用いたものだ。

 僕が今着ている貴族礼服軽装鎧も、裏地にセルロースナノファイバー様を編み込み済み。

 

 原作ではサスペンションだけだったが、織津江パイセンがバネを使って仕込み鞘作ってたんならいけるやろ理論で、コイルスプリングを使ったショックアブソーバーも組み込んでいる。

 そして、植物油脂と硫黄から製造したファクチスを用いてゴムチューブの代用品を作成し、その外部を覆うように樹脂製の外皮を用いることでゴムタイヤ様を模している。

 荷車は不整地に弱いため、女性が一人で輜重(ポーター)となるのは正直きつい。

 原作のアロもへばって死にかけていた。

 だが、このゴムタイヤにより走破性能や持ち運びのしやすさが大幅に改善されている。

 原作で使用されている木製車輪とはワケが違う。比較するだけゴムタイヤ様に失礼というものだろう。電気が禁忌とされている世界でも、ゴムは立派に戦略級物資だ。

 

 セルロースナノファイバー防御布+ショックアブソーバー+ゴムチューブタイヤ。

 将来の暗黒大陸で使うために研究所に開発させた試作品だが、試作品の時点でチート満載だ。

 実際、「交代式高速移動法」を使う必要が無い。女性一人で運べる上に疲労も少なく、悪路でも荷物へのダメージが最小限。

 正直自分でもファッキンチートだと思うが、できるんだから仕方が無い。

 できるんならやっちゃおうぜ! エンジョイ&エキサイティング!

 特許? とらないけど? この世界で硫黄の入手にどれだけ苦労したと思ってんの?

 

 今回は、セスレ、クコロ、バーチェが三交代で運ぶ。空いた二名が戦荷車(ウォーワゴン)の両脇を固める。

 僕とバトさんは遊撃(フリー)で、アイリスは防衛(ディフェンス)専門。

 アイリスは魔法少女(マジカル)装備が地味に重い(ラケットメイス改+中型盾+背中の特殊バックパック)ので輜重(ポーター)をするのは無理。

 ラケットメイスで緊急防御も得意なアイリスの疲労はできるだけ減らしたい。

 アイリスの魔法少女衣装にも、随所にセルロースナノファイバー様が組み込まれているので見た目と裏腹に防御力は結構高い。

 

 暗黒大陸に行く頃には戦荷車(ウォーワゴン)の研究も大幅に進んでいるだろうし、栗結パイセンのリピットやリピラスを組み込むのもアリだ。

 そもそも暗黒大陸でアイギス最寄りの港周辺の土地を大量に購入して港街を新しく作っちゃおう、なんて考えている人間がモンスターの輸送を考える必要はない。

 ……鎧竜を見つけたから狩った、とかそういう時に改めて輸送のことを考えればいい。

 

 

 * * *

 

 

「……ねぇ、ユーリ」

「ん? なに?」

 

 輜重(ポーター)として荷車を牽いているセスレが、首を傾げて聞いてくる。

 

偵察兵(スカウター)は用意しないの?」

 

 当然の疑問だ。セスレは卒業後に連合国軍に入隊するはずだった。

 恐らく下士官スタートで、伍長・軍曹・曹長と昇進していく予定だった。

 冒険者ではなく軍隊としてだが、入隊前にある程度兵士運用を予習していたのだろう。

 

 僕はため息をつく。

 

偵察兵(スカウター)、か。僕は家庭教師(ガヴァネス)の一人に狩人を起用して、5才の頃から教えて貰ってたんだけどさ」

「えっ? そんなに前から冒険者やるつもりだったの?」

「うん。だから僕もそれなりにわかるんだよ、獲物の足跡の分析とかさ。でもね」

 

 僕はアイリスとバトさんに手を振る。

 二人が微笑を浮かべて手を振り返してくれる。

 僕は悟りきった目で遠くを見る。

 

「アイリスとバトさんの探知能力がちょっとおかしくてね……」

「そこまでなの?」

「アイリスかバトさんがいればそれだけで偵察兵(スカウター)を配置する必要が無いって言えば伝わるかな? 今回は二人とも揃ってるんだよね」

「そんなにヤバイの?」

「探知範囲的には、一般的な偵察兵(スカウター)を前後左右の離れた位置に追加で配置していると思ってくれていい。あと、僕とバーチェとアイリスとバトさんには『真の暗闇』が関係ない。新月の夜や、灯りの無い洞窟内だろうと昼間のように行動できる……と言いたいんだけど、バトさんはその見える精度が違う。僕達は杖無しで歩けるレベルにはなってるけれど、バトさんは人の顔の判別もできるし壁の向こうもわかる」

「ヤバい」

 

 セスレから語彙が消失する。

 ……いや、なんかおかしいんだよ、二人の感覚。

 アイリスなんて、本気を出せば数キロ単位はわかります、と笑顔で冗談を言ってくるし。

 褒められて嬉しくなったのか、バトさんがそばに寄ってきた。

 

「間近で鉄板に音当てたら『自分の顔』も見えるで。『鏡』みたいにな」

「真の暗闇の狙撃能力も全然違くてね。僕達は近くの狙撃が限界。バトさんは遠くを狙撃できる」

「どっちもおかしいんだけど」

「セスレだってユーリみたくできるようになるで。がんばりな」

「あ、バトさん」

「なんや?」

 

 僕は歩きながらバトさんの片手をとり、自分の頬に運ぶ。

 バトさんは嬉しそうに僕の頬や顔や髪を撫でまわしはじめる。

 最後に僕の唇に人差し指をあてて端から端までなぞり、そっと離れていく。

 

 セスレを含め、この光景を見ている女性達にとっては微笑ましい眺めだ。

 でもこれは僕とバトさんにとっては、皆の目の前で愛を囁きあいながら、ディープキスのように舌を絡めている行為に等しい。

 

 恐ろしいことに原作では誰も気づいていない。

 ミルヒとカカオも、闇蝙蝠の面々も、夫である弓王ボーゲンも気づいていない。

 バトさんの『音見』が凄すぎるというのもある。

 バトさんは見える人となんら変わらぬ生活をしているから、余計にわからない。

 

 一般的に、見える人というのは視覚に頼り切っていて「触ること」を軽視している。

 推手によって聴勁(ちょうけい)を養い、接触と非接触を問わず相手や周辺の情報を得る鍛錬をしている僕達ですら、視覚によって世界が見えてしまう以上、気がつきにくい。

 

 全盲の女性、まして恋人であり妻である人に、自分の顔を無抵抗で触らせる行為。

 それはつまり愛の囁きであり、抱擁であり、接吻だ。  

 

 弓王ボーゲンは頭の中が弓で一杯で、セックスに興味すらない童貞だった。

 原作では処女のバトさんが必死のフェラで勃起させてセックスに成功した。

 恋愛に対して疎いボーゲンが、バトさんに触らせてと請い願われる前に自分で察して、無抵抗で自分の顔を触らせる行為をさせるだろうか?

 

 まあ。どうでもいいか。

 ……この世界線では、僕がバトさんの旦那様ですので。

 

 

 そんなことを考えていると。

 アイリスが突然停止し、右を見ながら――まばらな木々が生えた森で起伏もあり見えにくい――宣言した。

 

右方(みぎほー)、大型の鳥4、接敵まで約20秒」

「敵襲警戒。コカトリスと推測」

 

 僕の指示に、皆が動き出す。 

 セスレは荷車を止め、ストッパーをかけて戦荷車(ウォーワゴン)化の支度をする。

 バーチェがコンパウンドボウと矢を取り出し、構える。 

 クコロがロングソードをしゃらんと抜く。

 アイリスは戦荷車(ウォーワゴン)の前に出て盾を構える。

 バトさんは僕の隣で、仕込み杖に手をかけている。

 

 ……遠くから、女性の悲鳴が聞こえてくる。

 

「助けてェ! 助けてェーッ!」

「キャアアアアアッ!」

 

 成人男性のような大型の鳥に、蛇の尻尾。

 強靱な脚による機動力と攻撃力で相手を仕留める恐るべきハンター、コカトリス。

 そいつが四匹。過去に殺した獲物の断末魔の声真似をしながら、急接近してきた。

 

 コカトリスは最大時速70km。

 時速70Kmは分速にすると分速1.17Km。

 起伏のある森の中だから、多少時速が遅くなっているのだとしても。

 接敵まで約20秒、と断言するアイリスの探知能力が怖い。

 

「左の二匹は僕とバトさん。他は任せた」

 

 バーチェに対して直線距離で最も近い位置のコカトリスに対して、バーチェが矢を射る。

 しゅこん。

 正確無比な軌道でコカトリスの左目を矢が貫き、深く突き刺さった。

 しゅこん。

 矢がもう一本、同じコカトリスの右目を正確に貫く。

 

 ずざざざざー。

 両目を射られ、脳を負傷したコカトリスが走りながらつんのめるように倒れる。

 倒れた衝撃で脚が折れ、ばたばたともがきはじめる。

 しゅこん。

 無慈悲にバーチェの矢が頭に刺さっていく。

 

 時速70kmのコカトリスが、時速70kmの跳び蹴りをアイリスに放つ。

 時速140kmという矢に近い先端速度で、二本のナイフに等しい鉤爪を突き刺してくる必殺の体当たり。アイリスはその跳び蹴りをあっさりと盾で受け流し、クコロの前に誘導する。

 クコロの前に土下座スライディングしてきたコカトリスの頭に、クコロのロングソードが突き刺さる。セスレがさらにロングソードで切りつけていく。女騎士姿二人の共演だ。

 

 僕はバトさんの前に軽く立つ。僕に向かってコカトリスが二匹跳び蹴りしてくる。

 ギリギリまでコカトリスの跳び蹴りを引きつけた僕は、織津江パイセンがやっていたように。

 コカトリスの脚に手を添え、彼らの身体を空中でくるりと一回転させる。

 

 ……パイセンは一匹だったが、僕は二匹同時だ。二匹同時に回した。

 別に僕の方が凄いわけではなく、パイセンだって余裕で出来る。

 偶然、僕が二匹を同時に相手しただけの話。

 

 極上と言える刹那のタイミングで、バトさんが踏み込んで居合いをした。

 空中で回ったコカトリスの首が切断され、頭が一つ、宙を飛んでいく。

 

 そして今、残ったコカトリスが、僕の目の前で宙に逆さまになって地面に落ちようとしている。

 

 織津江パイセンは、そのまま首を抱えて垂直落下式DDTのようにコカトリスの頭を地面に叩きつけていた。

 

 雷神、剣神、軍神、武神として知られる建御雷神(たけみかづちのかみ)だが、相撲の神でもある。

 この場合の相撲は、前世日本で現行で行われているようなものではなく、殴る蹴るが有る古武術そのものだ。例えば日本書紀には、野見宿禰(のみのすくね)当麻蹴速(たいまのけはや)の相撲の戦いにおいて、野見宿禰が蹴速の肋骨を蹴り折り、腰を踏み砕いたという記述がある。

 そのぐらいガチで相手を殺す古武術、それが本来の相撲(SUMOU)である。

 そして、僕は鍛錬などで、何かを蹴ったり殴ったりしていた時に気づいたことがあって――

 

 僕は落ちていくコカトリスの後頭部に蹴りを入れた。 

 ボキ、グシャァ!

 寸勁の技法で足から勁を伝えている上に、相撲(SUMOU)の加護まで得た僕の蹴りは、コカトリスの後頭部を一撃で破壊した。

 コカトリスの脳みそが、鼻と口から噴き出すように漏れて溢れる。

 

 ――つまり、僕の殴る蹴るはわりと簡単に建御雷神(たけみかづちのかみ)の加護がつくらしい。剣と槍と弓の世界で、皮肉なものだ。

 

 ピクリとも動かなくなったコカトリスを前に、僕は「作画:川原正敏」の顔でニィと笑う。

 

「陸奥圓明流……『(いかずち)』」

 

 場が、しーんと静まりかえっている。

 ふっ。決まったな。

 

「……ムツなんとかじゃなくて、雷光流でしょ?」

 

 クコロがジト目で見てくる。

 あっ。

 

「ら、雷光流に今の技は無いから」

「雷光流って、(かみなり)の光、なんだよね? (いかずち)って技名はピッタリなんじゃないの?」

「……そうですね、では……雷光流・(いかずち)ということで。本来は相手の腕を極めながら投げて、相手の落下時に頭を蹴る技です……」

「なんで哀しそうに説明するの?」

 

 クコロの矢継ぎ早の問い詰めに、僕は答えられない。

 ごめんなさい、川原正敏先生。僕はこの異世界で堂々と(いかずち)をパクります。

 でも多分二度と使わない。理由は虎王と同じ。ここまでやる必要がないです。

 

「あの、ユーリ様。コカトリスはどうなさるのですか?」

 

 おそるおそる、バーチェが尋ねてくる。

 (話題転換に)ナイスゥ!

 

「バトさん、水場はわかります?」

「ん。……あっちやな。川の音がするで」

 

 バトさんはまっすぐ、どこかを指さす。

 セスレが呆れる。

 

「本当に、偵察兵(スカウター)がいらないんだね、このパーティ……」

「『音見』、かぁ。私も頑張ってみるね」

「おう、がんばりな。皆が思っとるより、ハードルは(たか)ないで?」

 

 クコロの決意に、バトさんが応援する。

 

「じゃあ、お昼にしよっか! コカトリス、捌いて食べるよ!」

「一匹だけなんですか? 他のは?」

「討伐部位だけ切り取って、その辺に隠して放置!」

「わかりました!」

 

 アイリスが妙に喜んでる。コカトリスが楽しみなんだな。

 僕も楽しみなので、ニヤリと笑う。

 

「ふふ……みんな、醤油様の前にひれ伏すといいよ」

「あ-。若返りの秘薬の、オマケ」

「こっちが本命ですぅー。醤油様が本命なんですぅ-!」

 

 醤油様をオマケ扱いするセスレに僕が答えていると、クコロが首を傾げる。

 

「その、醤油と、若返りの秘薬って?」

「「あっ」」

「お前等アホやな?」

「サンゼバー男爵令嬢も嫁として迎えられるのでしたら、問題ないのでは」

「クコロでいいですよ、バーチェさん」

「うーん、クコロの嫁案はワンチャン無くもない……のかなぁ?」

 

 僕はコカトリスを引きずって、苦笑しながら川へと向かう。

 初戦を比較的楽に対処できたので、皆も嬉しそうだ。

 楽しげに談笑する皆の会話を聞いていると、冒険中だと忘れてしまう。

 

 

 ……この時の僕は、クコロの変化に全く気がついていなかった。

 原作のクコロは、亜人の前に屈し、レイプされていく中で亜人側となることを受け入れ、セスレの敵にすらなっていた。

 しかし目の前の彼女は、僕と出会い、僕に影響を受け、僕の教えを受けていく中で「もしオークかゴブリンの子を孕んじゃってたら、ひと思いにお願い」と自分の首を斬るジェスチャーをする程に、精神性に変化が生まれていた。僕はこの、クコロと出会い踊った瞬間から発生していたバタフライエフェクトの変化を、完全に見逃していたのだ。

 このことを、僕は生涯に渡って悔やむことになる。

 

 

 * * *

 

 

 塩で臭みを抜いて同時に下味をつけたコカトリスの焼き鳥串を、醤油様で味付けした。

 うっま。めっちゃうっま。ごちそうさまでした!

 適当に隠して放置してたコカトリスは、僕達が川辺から戻る頃には綺麗に無くなってた。

 ……この森のモンスター、処理が早い、早くない?

 

 でも女性陣の皆には、醤油様はあくまでもオマケだとしか伝わらなかったようだ。

 僕はがっくりする。

 

「うーん、若返りの秘薬は、若い頃には不要……とまでは言えないか。日光を浴びるとどうしても皮膚は劣化しちゃうから、お肌の潤いを保つことも、肌の保護にも意味はあるわけで……わかった、わかりました。降参です。嫁だけじゃなく、クコロにもキチンと秘薬を提供します」

「ユーリ……大丈夫? 貴族籍、抜いてきた方がいいよね?」

「抜かなくていいです!」

「ねぇユーリ、思ったんだけど」

「なぁに、セスレ」

「子爵令息の今はハサマール家の意向がどうしても絡むから、確かにクコロの件は妾ですらどうしようもないのかもしれないけれど……正式に侯爵になった後なら、クコロを側室にする程度、造作も無いんじゃないの?」

「……ん? んんん? あ、いや、確かに、それなら……?」

「既に侯爵家の次期当主として指名されてるよね? ユーリが()()()()()()()、貴族学校を卒業すると同時に侯爵に任命されるだろうし、そしたらユーリの邪魔なんて誰にもできないよ?」

 

 クコロは歩きながら、嬉しそうにセスレの肩を揉む仕草をする。

 なお、今はバーチェが輜重(ポーター)だ。

 

「えへー、流石セスレ様、肩をお揉みしますぅー」

「うむー。くるしゅうないぞ?」

「セスレ重装甲じゃん……」

 

 肩なんか揉めないでしょ。そう言おうとした、まさにその矢先。

 

 

 しゃらん。しゃらん。しゃらん。

 

 

 森の中に響く異様な音に、僕達は立ち止まる。

 アイリスが目を細め、告げる。

 

前方(まえほー)。距離50メートル付近。ゴブリン4、オーク2、女性1。不確定の気配多数」

「……女の子が、一人?」

 

 呆然と、バーチェが呟く。

 セスレが、信じられないとばかりに言う。

 

「そんな、あの格好は……聖女様?」

「総員、隠密維持で移動開始。以後はハンドサインで伝える」

 

 僕達の視線の先。

 少し開いた、広場のような空間。

 複数のゴブリンとオークに囲まれた、絶体絶命の少女。

 

 

 シースルーの透ける布地を主体とした、桃色の蠱惑的な衣装。

 深いスリットで、太股どころかその奥の股間すら見えそうな。

 男を魅了する踊り子が、服を脱ぎながら舞う寸前がごとく。

 

 僕やクコロ、アイリスと同年代に見える彼女。

 いや。僕にはわかる。

 

 聖教会の神敵駆逐機関所属、聖女騎士レピア。

 銀の十字架を正式に着用している時期。

 

 たった一人でゴブリンとオーク達の前に歩み出た少女は。

 その両手にレイピアを抜き放ち、十字に構えて荘厳に告げた。

 

「主よ。我が剣舞を、ご照覧あれ」

 

 

 ……ならば、不確定の気配は。

 ()使()()の数は六人ではなく、八人だ。

 

 しゃん。しゃん。しゃん。

 

 音が変化していき、やがて。

 ふわり、と少女が舞いはじめた。

 

 

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