ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第58話 閑話・狭間悠里

 

 『ふかふかダンジョン攻略記〜俺の異世界転生冒険譚〜』の主人公ジャンは、前世と合わせて40年程童貞だった為、色々こじらせていた。

 

 その意味では、ユーリ・アイダ・ハサマールは前世と合わせて50年以上、出産関連に対して色々こじらせていた。寝取られ絶許や逆ハーレムメンバー拒否もこじらせの範疇かもしれないが、出産関連は彼にとって突き抜けて最大級のこじらせだった。

 

 ニク=ドレ卿の娘を罠にかけて殺したのに、愛する女を気にかけるあまり女性向け製品の研究開発をしてしまったぐらいユーリの「色々と思うことがあって」がズレていた理由。

 それは、バトがユーリの精子で妊娠し、もうすぐ子供が産まれそうだったことにある。

 

 ニク=ドレ卿が怪物であるという認識を薄れさせてしまうほどに、ユーリは内心浮かれてしまっていた。

 

 もしかしたら。

 もしかしたら僕は、今世においては子供を作れるのかもしれない。

 

 それが単純にして、最大の。

 50年以上に及ぶ怨念じみた妄執にとりつかれていたユーリの、こじらせだった。

 

 

 * * *

 

 

 狭間悠里(はざまゆうり)は冴えない外見のオタクではあったが、男として性欲を持て余していた。

 異性に声をかけて失恋するのはまだいいが、それをネタにされて不良に絡まれるのは面倒だった。不良の多い田舎特有の出来事ではあったが、当事者としてはたまったものではない。

 恋愛沙汰に絡むイジメから逃れる為に、家の近所にあった古武術の道場に通いはじめた。

 

 戦国時代から伝わる甲冑組打系の由緒正しい古武術だ、と師は誇らしげに言っていたが、弟子を集めるための胡散臭いホラ話だろうと悠里は真面目に取り合わなかった。

 ただ「身体を鍛えればモテるぞ」という師の言葉には惑わされ、悠里は素直に古武術を学び続けた。もっとも、身体を幾ら鍛えても性欲が増すだけでモテには全く繋がらなかった。

 ボディビルダーが目指すようなわかりやすい筋肉をつける身体の鍛え方とは違い、必要な部位に必要な筋肉を無駄なくつけていく鍛錬法だったのもあり、武術的純度の高い人が見れば「良い軸をしている」と笑顔になる身体を悠里はしていたが、素人目には全くわからない普通の身体だった。

 ユーリ・アイダ・ハサマールが幼少時にしていた「正しい立ち方」や「正しい歩き方」を学ぶ鍛錬は、この時の古武術の師匠が子供時代にやらされたと愚痴をこぼしていた鍛錬、そのものだ。 

 

 

 織津江大志が長きにわたり苦しんでいたように、身体を鍛えてもモテには繋がらない。

 清潔であることは最低限で、むしろイケメンか金持ちかという上乗せで判断される。

 

 肉体よりも心を鍛えなければならぬ。

 そもそも真正面から目を合わせて冷静に異性と話せないとどうにもならない。

 当たって砕けろ、失恋がなんだ、恋愛は確率論だ。

 そのノリで美女や美少女に声をかけてみたが、失恋経験が積み重なるだけだった。

 

 しかしそのうち、悠里はなんとなくわかってきた。

 「身の程をわきまえれば良い」のだと。

 誰もが声をかけるような美人は、誰もが声をかけるからこそ対人経験値が高い。

 さらに彼氏候補が多すぎて男を選び放題なので、悠里が選ばれることはない。

 

 高望みはすまい。まずは基準をとことん落としてみよう。

 美人である必要はない。それこそ「眼鏡っ娘だったから口説いた」レベルでいい。

 とにかく数をこなして、彼女を作って、できれば童貞を捨てて、それから、それから……。

 

 この「基準を落として数撃ちゃイケるのでは作戦」が怖いぐらいにハマった。

 わりとあっさり童貞を捨てることができたし、女にだって性欲はあると学べたし、何人かの処女を破瓜させてあげることもできた。

 

 オタといっても色々あるが、悠里はいわゆるスコッパー的に沢山の物語を手当たり次第にインプットしていくタイプのオタだった。悠里はオタとして、物語や会話のパターンを多く把握していた。なんかのなろう小説でみた。どこかのエロ同人で見た。その程度の「何処かで見た」行動や台詞でも、知らない人には刺さってしまう。

 たとえば、リスカ癖のある女性にはリスカの痕跡に愛しそうにキスをして愛の言葉を囁く。

 恋愛に不慣れそうな女性が別れを惜しむ仕草を見せた時に、周囲にどれだけ人がいようとハグをしてキスをする。このような「何処かで見た」を実行することで、オタクには不釣り合いな人数の女性を抱くことに悠里は成功していった。

 

 

 この時の出会いの中で、悠里は二種類の女性と出会ってセックスをした。

 一人は、何十人もの男を渡り歩いて「一番良い男を捕まえようとする冴えない女」。

 一人は、セックス依存症としか思えないヤリマンビッチ。

 

 前者はいわゆる逆ハー願望で、ちやほやされることを楽しんでいた。

 決して美人ではなかったが、股を開けば大抵の男はセックスに同意する。

 自分が冴えない顔だと理解しているからこそ、少しでも良い男を捕まえようとする女。

 

 後者は完全にネジがぶっ壊れていた。彼氏に部屋の掃除をしろと言われたが、部屋の掃除をしたくないので他の男の家に遊びに行ってセックスをして平然と帰宅する女だった。

 このビッチの彼氏が悠里の友人だったこともあり、悠里は「お前の女が俺に抱かれに、たった今部屋に来てるんだが!?」と慌てて彼氏に電話したこともある。

 返事は「膣内射精(なかだし)さえしなきゃ何やってもいいよ」だった。悠里は仕方なくビッチを抱いた。

 

 両者に共通していたのが「ゆるゆるのガバマンすぎて抱いた気がしない」だった。

 数多くの男性に抱かれているから、当たり前のように巨根の男も含まれる。

 巨根の男に抱かれ続けると、哀しいかな膣口はゆるゆるになってしまう。

 

 ……これなら、TENGAでオナニーしてた方がマシじゃんかよ。

 すかすかの膣でしまりも何もあったものではない、と悠里は痛感する。

 

 異世界恋愛タグでは、逆ハーレムを望むヒロインが破滅する物語が沢山あるけれど。

 本当に逆ハーレムとかしたら、ヒロインのアソコはゆるゆるのガバマン確定だ。

 どれだけ美少女だろうが、抱いた瞬間に百年の恋も醒める。

 

 女性は二人とも、最終的に巨根の男を捕まえて結婚した。

 彼女達が巨根信仰で、巨根とのセックスが気持ちいいから結婚したわけではない。

 巨根ではない男達が、セックスをしても抱いた気がしなくて全員逃げ出したのだ。

 

 悠里も逃げた。

 逆ハーのメンバー入りとかやってられるか、と毒づいた。

 

 

 * * *

 

 

 異性に対する会話経験とそれなりのセックス経験が行き着く果て。

 要は結婚だが、それが悠里の人生において最大の転機となった。

 

 避妊なんて一切していないのに、子供が全くできない。

 子供を欲しがる嫁にせがまれ、仕方なく不妊治療を試みた。

 検査であっさり判明したことだが、悠里は無精子症だった。

 

 悠里は子供を産ませることが絶対にできない。

 それが理由で離婚することになった。

 

 

 離婚後に悠里は自暴自棄となり、無精子症なのを逆手にとって膣内射精(なかだし)セックスをしまくった。

 それまでに悠里が積み重ねた異性を口説くテクニックが、完全に暴走しはじめた。

 

「賭けをしよう。俺はゴムを使わずにお前を抱く。子供が出来たらいつでも責任を取る」

 

 そう言って、膣内射精(なかだし)をして愛していると耳元で囁き続ける。

 すると面白いことに、何人かの女性から責任をとってと言われ始めた。

 生理が来ないから結婚しましょう。妊娠検査薬に陽性反応が出たから結婚しましょう。

 

 ああ、なんてことだ。

 このクソ女共は俺の目の前で、堂々と寝取られ宣言をしている。

 

 無精子症の診断書コピーをテーブルに叩きつけ、無言で立ち去る行為を悠里は繰り返した。

 違うの、というクソ女の声が背中に届いたが、何が違うのか悠里にはさっぱりわからなかった。

 

 

 * * *

 

 

 きっかけは偶然だったが、不良に絡まれていた女性を護り武術で撃退したのがきっかけで、悠里は15歳以上年下の美人女子大生と付き合うことになった。

 武術家は横の繋がりが強い。この頃の悠里は中国拳法の術理を知り合いに教えてもらって自身の古武術に取り込むレベルにまで達していたので、一対多といえど不良程度を一蹴するのは余裕だった。死んだ直後の悠里が祝詞っぽく転生神に話しかけたのは、神社で古武術の奉納演舞をしていた実績があったからその流れで「なんちゃって祝詞」を使ったにすぎない。

 

 自暴自棄が悪化していた悠里は、あの手この手で美人女子大生をホテルに連れ込み、膣内射精(なかだし)セックスをしまくった。

 しかし相手が悪かった。彼女は、大会社の社長令嬢だったのだ。

 興信所まで使われて、悠里は相手の父親に住所も名前も電話番号も、過去を含めて全てを割り出された。あの子との付き合いを金輪際やめろ、という父親からの警告を無視していたら、ある日突然高級外車が突っ込んできた。

 

 車は躱せるかもしれない。でも躱すと、目の前の小学生がはねられて死ぬ。

 ……もし俺が無精子症で無かったのなら、こんな小学生を自分の子として愛する人生を送れていたのだろうか?

 

 そう感じた瞬間、悠里は車を躱さず、目の前の少年を抱きかかえる挙動をした。

 それが狭間悠里という男の人生の全てだった。

 

 

 * * *

 

 

 転生や輪廻を取り扱う部署は、狭間悠里の魂の取り扱いに少し困った。

 善人とは言い難く、かといって悪人でもない。中庸とも言い難い。

 なのに複数の女の情念がまとわりついていて、うっとうしい魂。

 

「一次創作系物語の主人公にするのは無理そうですねぇ」

「仮に勇者の仲間にしたとして、勇者が人殺しに悩んだりしたら悩んだ瞬間に見捨てそうです」

「かといって悪役にしたら、悪側を圧勝させちゃいますよこの魂」

「この手の魂は適当に『ざまぁ』させておくのが最近の流行なんですよ」

「じゃぁ『ざまぁ』されちゃう感じにしときますねー」

 

 部下の会話を聞きながら、上司は少し考えた。

 オタク的知識と武術の下地があり、恋愛経験も多い魂。

 法の倫理があるから実行しないだけで、法や文化の下地があれば人を殺せる魂。

 

 ……ああ、あの世界の創世神(KAKERU)が大好物そうじゃないか?

 

「ああ、待って。その魂はこちらで処理しておくよ」

「ざーっす!」

 

 適当な異世界恋愛の世界に送られるより、この魂もきっと喜んでくれるだろう。

 善行も悪行も気にしなくていい。

 人類の勝利を目指してもいいし、敗北に貢献してもいい世界!

 

 三方よしだねぇ、うんうん。

 転生神(上司)はにんまり笑った。

 

 

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