ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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歌詞の訳詞掲載がガイドライン違反のようなので、歌詞に極力沿ったシーン作りをしてます。


第61話 原作開始前・シャイニングドラゴン

 

 タレーメ領の中でもっとも山寄り、森のそばにある静かな街ニアフォ。

 『虐殺王』シャイニングドラゴンに襲われ半壊した街を背に、ヤツがいる森を前にして。

 僕とアイリスは万全の準備で待ち構えている。

 

 僕は冒険時に着ていた「貴族礼服に肩当てと胸甲をつけた軽装鎧(実際はプレートメイルより防御力が上)」に、黒いマントをつけている。

 アイリスは魔法少女冬服重装甲版というか、「魔法少女リリカルなのは」で例えるなら初期型のスカートふわりではなく後期Detonationのがっつりタイプ、かつ素足が見えないタイツ仕様というのが一番近い。

 

 傍らには、冒険者ギルドがある街ならどこでも入手可能な普通の冒険者用荷車。

 十文字槍とか、予備の武器を入れている。

 

 時間はといえば、もう陽が落ちかけている。

 冬の山間部ということもあり、寒い。

 日中ではなく、日暮れのこの時間帯を選んだのはわざとだ。

 

 シャイニングドラゴンは、大量の巨大な蜂と共生関係にある。

 奴らは蛍のように発光して通信をする。

 ドラゴンの背中にある発光体が指示を出し、それを受けた蜂が蛍のように返事をする。

 

 シャイニングドラゴンは、極めて凶暴な草食獣だ。

 光る蜂の群れを操って周囲の動物を皆殺しにし、危険を事前に排除し草木を独り占めする。

 たまに人間の街や軍隊が、危険とみなされて潰される。

 外に居れば蜂に麻痺毒を撃ち込まれ、卵を産み付けられる。

 建物の中に籠もっていれば、建物ごと押しつぶされる。

 当然、並の攻撃なんて効くわけがない。

 

 別名「虐殺王」。ドラゴンの中で一番人間が関わってはいけないとされているもの。

 そう、この世界の主役は人類ではないのだ。

 

「あっ」

 

 アイリスが思わず声を出して、軽く手を前に出す。

 うっすらとした小さな白いモノが、目の前を舞い降りはじめた。

 ふわり、ふわりと、周囲に小雪が散り始めていく。

 

「降ってきたか……」

 

 ACE COMBAT ZERO というゲームの最終ステージの台詞をつい吐いてしまった。

 かの名曲ZEROは、今の雰囲気にぴったりだ。

 

 不死身のエースってのは、戦場に長く居たヤツの過信だ。

 ……お前のことだよ、相棒(ドラゴン)

 

 ごめんなさい、言ってみたかっただけです。

 

 柿の木で組んだ焚き火台に、除虫菊で作った蚊取り線香を大量に載せたもの。

 それが僕達の周辺と、潜んだ領兵と森の間に大量に並べられている。

 

 柿の木は広葉樹の一種だ。

 密度が高く油分が少ない広葉樹は、火持ちが良く、温度が安定がしやすい。

 これがキャンプ場なら、長く穏やかな炎を楽しむのにオススメだ。

 

 柿の木の欠点としては、着火がしにくい事だろうか。

 だが一度火をつけてしまえば、火力と火持ちもよく、火の粉も少ない。

 

 一番近場にある焚き火台に、ライターの試作品で火をつける。

 それを合図に、戦場にある数々の焚き火台に火が灯されていく。

 領兵達が使っているのは当然、ファイアーピストンだ。

 

 焚き火台が燃えさかり、暗くなった周囲を照らしていく。

 合わせて蚊取り線香が大量に燃え、煙を吐き出していく。

 

 火の合図と同時に、二人一組の領兵が高圧ボンベを抱えて森の中へ走りはじめる。

 10本の高圧ボンベを森に設置した領兵達は、指示通り留め具ピンを外して脱出をはじめる。

 森の中に、高圧ボンベから霧状と化した軽油が噴き出していく。

 

 これはある意味賭けだ。禁忌に触れるかどうかはわからない。

 だが、仕組み的には火炎放射器と大差ない。規模が少々大きいけれど。

 ……ま、禁忌に触れたとどこかの誰かが判断したのなら、僕達は全員おしまい、それだけの話。

 

「総員配置につけ! 領兵はカタパルト準備!」

 

 戦いに慈悲はない。

 生きる者と死ぬ者がいる、それが全てだ。

 

「時間だ」

 

 僕は大弓槍を手にし、火矢の先端を焚き火台に突っ込む。

 火のついた矢を大弓槍――槍と合体したコンパウンドボウ――につがえ、無造作に森に放つ。

 陽が落ちて夜となった闇の中、一本の火矢が森に吸い込まれていく。

 

 霧状となった軽油は、常温でも引火するようになる。

 火種どころか、静電気ですら危ない。

 冬で空気も乾燥気味なので、格好良く静電気狙いでも良かったけれど。

 ……はじまりを告げる火矢って、誰の目にもわかりやすくていいよね。

 

 

 200メートル級を余裕で飛んだ火矢が森の中に飛び込んだ瞬間。

 爆発のような勢いで広範囲の森に一瞬で炎があがり、大きく燃え始めた。

 禁忌には触れなかったようだが、禁忌同然の唸り声があがる。

 

 グリュォォォォン……!

 

 ヴァアアアアアアアァァン……

 ヴァァァァン……

 

 何かが。何かが大きな足音と、無数の羽音と共にやってくる。

 ああ、来るのが早い。ほら、もう来た。

 

 四足歩行の大型恐竜。無数の光を纏った化け物。

 

 身体の半分が、クリスタル状の何十本もの巨大な角で覆われている。まるで全身鎧だ。

 大きな肉体を支える四つ脚の筋肉は、異様に厚く太い。

 草食獣だけあってわかりやすい牙は無いが、その口は人間など一息で飲み込める。

 その巨体だけでも、異様だというのに。

 

 特筆すべきは、陽の落ちた山中、美しい夜空の中で燦然と輝きながら舞う無数の光。

 独特の羽音を遠くまで響かせながら、竜の周囲を護っている。

 

 『虐殺王』シャイニングドラゴンと、デカくて光る大量の蜂の群れ。

 

 前世の漫画やアニメや小説や映画はもちろん、この世界の小説でもドラゴンは「嚙ませ犬」だ。

 勇者が狩ってドラゴンスレイヤーとなり、あるいはお姫様が配下として従える存在。

 どんなに恐ろしくても、武力とか知恵とか愛とか運で最後はどうにかできるもの。

 

 そんな都合の良い妄想を、一瞬で吹き飛ばす「本物」。

 殺意の塊の視線が、僕達を射貫く。

 

 

(BGM:攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX SOLID STATE SOCIETY「player」)

 

So pay the price and close your eyes and play the game and I'll make you cry

So pay the price and close your eyes and play the game and I'll make you cry

 

 最初(はな)から賭け(ベット)全額投入(オールイン)だ。

 掛け金(コイン)は僕達の命、全部。

 

 代価は払った。

 さあ、生きるか死ぬかのゲームをしよう、シャイニングドラゴン。

 お前を涙目にさせてやる。

 

Тихо плыли звёздной пыли Небесные прожектора

 

 シャイニングドラゴンは綺麗な星空の下、ゆっくりと近づいてくる。

 周囲を覆い尽くす程に舞う蛍蜂の光が、スポットライトのようにドラゴンを照らす。

 僕は再度火矢に火を灯し、シャイニングドラゴンに向かって放つ。

 

Разбивали Мои крылья Стальное лезвие ножа

 

 火矢が放たれても、シャイニングドラゴンは全く動じなかった。

 放たれた火矢は完全に見切ったとばかりに、軽く首を捻る。

 シャイニングドラゴンの首を護るクリスタルによって、火矢はあっさり落とされた。

 

「グリュォォォォオオオオオオ……!」

 

 一際大きな咆哮と共に、奴の全身を覆うクリスタルがチカチカと光り出す。

 ヴァアアアアアアアァァン……。

 凄まじい数の羽音が重なって聞こえる。

 蛍蜂の群れが、ドラゴンに呼応するように光り出す。

 

Сколько раз в атаке умирала и вновь воскресала

Моя нетленная душа

 

「スタンバイ・レディ、セットアップ。砲撃(カノン)モード」

「カタパルト、うちーかーたはじめー!」

 

 アイリスの声と、僕の声が同時に響く。

 遠眼鏡で僕達の様子を見ている領兵が僕の声に応える。

 

「うちーかーたはじめー!」

 

 シャイニングドラゴンから直接見えない位置のカタパルトから、複数の大瓶が曲射される。

 大瓶はドラゴンに当たったり、地面に当たったり、蜂にぶつかって落ちたり、様々だ。

 

Сегодня я просто player

Я ни о чём не жалею

 

「だんちゃーく! (きん)(えん)、初射夾叉(きょうさ)!」

「弾着、今! 初弾命中、同一諸元、効力射!」

「次弾装填急げ!」

「ありったけだ! 全部ぶちこめ!」

 

 遠眼鏡で覗いている両軍の監視員達が叫ぶ。

 ドラゴンの大きさを考慮したとしても、カタパルト隊の技量がとんでもないとわかる。

 惜しみなく精鋭部隊を回してくれてるんだなぁと感謝しながら、大弓槍を背にしまう。

 ドラゴンから視線を外さずに、冒険者用荷車にしまってあった十文字槍を取り出す。

 悔いの無いよう、できることは全部やる。

 

Мечту свою... И всё что есть за нею

На карту мира смело отдаю

 

 いまカタパルト隊が発射している大瓶の中には、いわゆる墨汁が詰まっている。

 渋柿からとった柿渋と、樹脂分を含んだ松などを不完全燃焼させた煤を混ぜたもの。

 防虫・防腐効果のある、昔ながらの建物の塗装に使われている日本古来の伝統技術。

 

Сегодня я просто player

Я ни о чём не жалею

 

 事前の腹案では石炭からコールタールを作って、ペッサリーにも使った松のテレビン油を混ぜてコールタールを柔らかくした上でぶっかけようと思っていた。

 だがコールタールは取り扱いが難しく、今回の作戦は火が絡むため事故の危険性が高い。

 さらにはコールタールの臭気から危険物と判断され、ドラゴンに逃げられる可能性もあった。

 だが、墨汁なら。少なくとも痛いだの熱いだの臭いだの、そういう攻撃的なものは強くない。

 

Тихо плыли звёздной пыли Небесные прожектора

 

 そう、墨汁は特に痛くも痒くもない。

 シャイニングドラゴンは身体を光らせながら悠然と歩き出す。

 何百匹いるのか数えたくない蛍蜂が、板野サーカスばりの軌道で突っ込んでくる。

 ファンネルにしちゃ数が多すぎる。もうちょい自重しろ。

 

Сколько раз в атаке умирала и вновь воскресала

Моя нетленная душа

 

 突っ込んでくる蛍蜂の数が多すぎて、斬るという線で対応しきれない。

 この戦いは、心が折れた瞬間に負ける。線で駄目なら面だ。

 僕は十文字槍を両手で勢い良く回し、面の防御壁を作る。

 だが流石に防ぎきれない、追いつかない!

 

Опять без правил играю

И на себя принимаю

 

 禁忌の枠内ではあるが、これはルールの無いゲームだ。

 僕はこの世界で生きている!

 何でもアリを喰らいやがれ!

 

「アイリス!」

 

Огонь...

 

「はいっ! マジカル、ファイアーッ!」

 

И это всё, что знаю

Я не ищу себе иную роль

 

 私の死地はここなのだ、と。

 そう言わんばかりに僕の隣にいるアイリスが叫び。

 ファイアードラゴンのブレスを想起させる火炎放射が、レイジングハートから飛び出した。

 夜の(とばり)を深紅の炎が引き裂き、僕達の周辺の蛍蜂を薙ぎ払う!

 

Сегодня я просто player

Я ни о чём не жалею

 

 アイリスの火炎放射が周囲を照らした、まさにその一瞬。

 火炎放射は届かずとも、シャイニングドラゴンの全体像が紅く染まって見えた刹那。

 ドラゴンの意識の外、景色と同一化した完全な暗闇の中から何かが超高速で飛来してきた。

 

 戦闘前に放たれた火矢を簡単に防いだ、シャイニングドラゴンの首を護るクリスタル。

 そのクリスタルごとへし折って、原作最強を誇る無反動矢の巨大サイズ版がシャイニングドラゴンの左首に深く突き刺さった。

 

 遠眼鏡をスコープ化して命中精度を高めた、圧縮空気狙撃砲による神業。

 約500メートル先からの、バーチェの狙撃だ。

 

Player...

 

 息が荒い。目が霞む。酸素を消費しすぎた。脳みそはフル回転だ。

 一丁を投げ捨て、もう一丁を抱えてバーチェはスコープを覗く。

 深呼吸をして呼吸を整えながら、バーチェは深く潜っていく。

 鼻血が垂れていることに気づけないほど、彼女は集中しはじめた。

 

Player...

 

 遠眼鏡で覗きながら、セスレは舌打ちする。

 何もかもがギリギリの戦いだ。

 今のところは、侯爵軍もちゃんと戦っている。

 ちゃんとしているのなら、それでいいが。

 一瞬たりとて、気は抜けぬ。

 

player...

 

 グラスは祈る。

 今頃、ドラゴンと戦っているであろうあの人。

 私の大切な、ユーリ君。

 どうか、どうか。

 無事に生き延びて下さい。

 

player...

 

 今夜はユーリの決戦日だ、と聞いてはいたが。

 バトはそれどころではなかった。

 既に朝から半日近く、陣痛に悩まされている。

 最初は痛みの間隔も長く、痛みの時間も短かったが。

 痛みの間隔はどんどん短く、痛む時間も長くなっていく。

 ミルヒとカカオはあわあわしていたが、どうにもできず。

 バトの手を握っていたミーナ夫人は、そろそろ分娩室かなと思い始めた。

 

player...

 

 首に深く突き刺さった矢の痛みに、シャイニングドラゴンは雄叫びをあげた。

 クリスタルを激しく光らせ、蛍蜂を総動員しようとする。

 しかし、ドラゴンの身体中にかかった墨汁がそれを許さなかった。

 通信は不完全なものとなり、蛍蜂が混乱をはじめる。

 動きが鈍った蛍蜂を、アイリスが根こそぎ焼き払っていく。

 

Player...

 

 いまだ。

 黒いマントを翻らせ、ユーリは膝の力を抜く。

 前に向かって、全力で()()()()()()

 

I dive to the night like a black cat, Got nine lives

 

 ユーリは闇の中を駆けるように前に落ちていく。

 

Gotta get up cut someone

 

 隠し持っているのは、白面金毛も使っていた火焔壺。

 

Don't beg for your mercy

 

 敵の攻撃が火焔壺に当たっていたらユーリは一瞬で焼死していた。

 

Save time for life and don't stop tryin'

 

 だがそれは、使うことを躊躇(ためら)う理由にはならない。

 

Listen up put your hands up

 

 火焔壺を、ドラゴンの雄叫びに向けて投げつける。

 

You gotta fight the nightmare gotta protect your soul

 

 愛すべき者達のために。

 

Gotta get down fight this pressure

 

 理不尽に抗うために。

 

Gotta get down and fight your own

 

 クソな世界で生き残るために!

 

Who's that?

Your worst nightmare a girl so true that's livin' in this world

 

 ナフサと灯油の混合燃料が、口腔内で消えない炎となり。

 一酸化炭素中毒という悪夢がドラゴンの肺を襲う!

 

That's right your worst nightmare a girl so true that's livin' in this

 

 それは全世界共通、誰しもが等しく味わう死。

 

So pay the price and close your eyes and play the game and I'll make you cry

 

 シャイニングドラゴンは全速力で逃げ出しはじめる。

 目指すは川。消えぬ炎を消さねばならぬ!

 

Come on

 

 かかった!

 ユーリは笑みを浮かべる。

 

No way out

 

 罠ではない罠に向けて、ドラゴンが走って行く。

 

She's loaded but you gotta trigger

 

 かかるはずもないテキサスゲートに!

 かかるはずもないトラバサミに、ドラゴンの脚が挟まり捕らわれる!

 

Baby it's a rush so fast that you just can't see me come on now

 

 二発目!

 約700メートル、距離と暗さの限界を超えたバーチェの狙撃!

 

You know I got my blood and take a washing through my veins!

 

 無反動矢はドラゴンの左目と左鼻と上顎を破壊!

 バーチェの両鼻から鼻血が吹き出る!

 

Ha! Can't catch me now

 

 ユーリの十文字槍が、ドラゴンの右目に突き刺さる。

 ドラゴンの脚カウンターはユーリに当たらない。

 

Haha! Yeah better just break me now

 

 だが、槍が右目に刺さると同時に首に巻き取られ、十文字槍は折られた。

 ハハッ、必死だな、ドラゴン!

 僕を殺すなら、今しかないもんな!

 

Well G.O.D. gonna punish me now?

 

 僕に()()を与えたこと、後悔してないよな、創世神サマ?

 

You can never ever touch me now 'cause

 

 異常集中。流れる景色がゆっくりに見える。

 

I am the rule I made the rule

 

 今なら世界の(ルール)を掴めると、確信できる。

 

Betcha gonna own the night gonna

 

 これを掴めるのなら、僕は夜の支配者にだってなれそうだ。

 

Goodbye to the one last kiss and what's so lovin' no time to sleep!

 

 見ているのなら力を貸せ、エンシェント・ワン!

 魔法のためなら、キスでもなんでもしてやるよ! 

 

 

 前世において、生前の黒田鉄山に指南されし民弥流居合術・斜払(ななめばらい)

 最短最速の居合いの術理が、魔法の(ことわり)を伴いドラゴンの喉元を斬り裂く。

 

 広大な宇宙のなかの超銀河団の、そのなかの銀河団の、そのなかの銀河群の、そのなかの銀河の、そのなかの太陽系の、太陽という恒星の。

 宇宙規模の力と比較すれば、全く大したことの無い、ほんのごくわずか、取るに足らない、些少な、ちょっぴりと表現することすら烏滸(おこ)がましい。

 

 『太陽の表面温度』という、小さな小さな小さな、本当に小さな流れを掴み、そうと気づかずユーリは取り出す。

 

 ジャンが使った光の剣とは全く違う、真の意味での光の剣が。

 居合いの抜刀が終わるまでのコンマ何秒かの間、世界に顕現した。

 

 一瞬とはいえ、周辺が昼間になったかと錯覚するような光。

 慣れぬ魔法の初使用。

 

 輻射熱をはじめ、色々な副作用を不思議な力が遮断してくれたが。

 太陽光を直視したユーリは一瞬で失明し、右手も手首から先が刀ごと消失してしまった。

 そして、その光はもう一つの不幸を追加で招く。

 

Только тёмной мантии скольежение

 

 右手首から先を刀ごと喪失したユーリの動きが突然硬直し、黒マントが揺れる。

 ユーリは同時に吐き気と目眩に襲われる。一酸化炭素を吸ってしまったのか?

 明らかなる筋肉麻痺は、蛍蜂の攻撃だ!

 

Беды отражение

 

 生き残っていた一匹の蛍蜂に、その光は攻撃命令を与えてしまったのだ。

 

Я не заметить не смогла

 

 ドラゴンの位置に合わせて、領軍は移動していた。

 ビジョレは隙を逃さず、手を掲げて指示を出す。

 

Опять без правил играю

 

「目標ドラゴン。弓、丸ごと撃て」

 

 ビジョレが手を振り下ろす。侯爵軍はドラゴンに向けて一斉に弓を放つ。

 ルールのないゲームは、続いている。

 

И на себя принимаю

 

 映画などで、弓兵が弓を一斉射撃するシーンを見たことがあるだろうか。

 50本の弓矢が、文字通りバラバラに降ってくる。

 アイリスはユーリの前に無言で立ちはだかる。

 

Огонь...

 

 学んだラケットメイス術を全力で実行したが、防ぎきれないと判断した。

 一瞬の太陽光の影響で、目がうまく働かない。

 アイリスは硬直して動けないユーリを抱きしめる。

 背中に背負っていたバックパック、つまり燃料タンクに弓矢が刺さり。

 矢が刺さった時の摩擦熱により発火し、炎を噴き始める。

 

И это всё, что знаю

 

 『もしもの時は……僕と一緒に死んでくれ』。

 ユーリの笑顔が、アイリスの脳裏に浮かぶ。

 

Я не ищу себе иную роль

 

 爆発音。

 アイリスのバックパックが爆発し、ユーリごと吹き飛ぶ。

 二人はまとめて川に落ち、沈み、流れていく。

 

Сегодня я просто player

 

 ビケワの姿をしたビジョレが、狂ったように嗤い始める。

 

Я ни о чём не жалею

 

「夫に寄り添えるよき妻であれ……ふふっ、ふふふっ、あはっ!」

 

Мечту свою

 

「……っ、重騎兵隊、総員騎乗! 騎兵以外はランスを準備!」

 

 オットー卿よりも早くセスレが叫ぶ。

 

И всё что есть за нею

 

「急げ、急げ、急げ……ランス受け取れ、総員整列!」

 

На карту мира смело отдаю

 

「目標、ハーベラ領兵! 重騎兵隊、我に続け! 突撃(チャージ)ッ!」

 

 言うや否や、セスレは全速で馬を疾走させはじめる。

 

Опять без правил играю

 

 バーチェは、吊り上げに使用した滑車を正しく使わず、強引に崖下に飛び降りた。

 落下の勢いがつきすぎて殺せず、足首にダメージを負う。

 

И на себя принимаю

 

 折れたか、ヒビでも入ったか。

 激痛に耐え、足を引きずりながらバーチェは川を目指す。

 

Мечту...

 

 ユーリ様、ユーリ様、ユーリ様。

 この私も、アイリスと共に。

 

Тихо плыли звёздной пыли

 

 残された一匹の蛍蜂は、戸惑うように(あるじ)のそばで待機していたが。

 

Небесные прожектора...

 

 光で何度通信を試みても(あるじ)は倒れたまま動かなくなってしまったので。

 蛍蜂は諦めて、シャイニングドラゴンの死体から逃げるように去って行った。 

 

 

 * * *

 

 

 乱戦を終え、返り血で染まったセスレが我に返った時には。

 ビジョレの姿は、どこにもいなかった。

 

「ユーリィィィ!」

 

 少女の嘆きが、星空に響く。

 積もりそうで積もらない、微妙な雪が降り続けていた。

 

 

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