ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第63話 原作開始前・中島とめ子とBBQ

 

 心地よい鼻歌が、聞こえてくる。

 洞窟内の反響音を確かめるまでもなく、柔らかい脚に膝枕されているとわかる。

 同時に、様々な情報を物凄い早さで僕の脳が認識する。

 

 ――目は治っている感覚がある。目を閉じたままだがわかる。

 ――右手は修復されている。筋肉を含め、鍛錬の度合いすら元通りだ。

 ――蛆虫に食い荒らされた右胸の痛みは何も無い。

 ――クロスボウに引き裂かれた左肩も大丈夫。

 ――右腿の動脈刺創も、何も無かったかのように。

 ――あいつら、僕の身体のあちこちに、分散して居着いてやがるな?

 

 そして、もっとも大事な情報。

 洞窟内のこの場には、二人しかいない。

 ビジョレの死体すらもなく、ただ。

 僕とバーチェだけが、ここにいる。

 

 鼻歌の主は、優しく僕の頭を撫でている。

 それはいつかの、馬車内の景色のように。

 

 ああ、アイリスは。

 僕の嫁でもあり、妹でもあり。

 同時に母にもなった。

 まさしく『家族』だな……。

 

 僕が生きていること。

 失明した目を含めた、身体の全修復。

 自分と、大切な子供すら引き換えに僕とバーチェの生を望んだ。

 ……全ての感謝を、彼女に。

 

 

 柔らかい膝枕の感触と共に、目を閉じたまま色々な感傷に浸っていると。

 僕が目を閉じたままではいられない歌を、バーチェが歌い出した。

 

「♪ユーヤーケコアケーノ、アアツォンヴォー♪」

 

 パチッ。

 驚愕に、僕の目が開く。

 そんな僕を見て、優しい瞳で彼女は。

 黒髪ロングヘアの()()()()のバーチェは。

 愛おしげに僕を撫でながら、歌を続ける。

 

「♪オアレーテミタノーワー、イトゥノーヒーカァー♪」

 

 待って。待ってバーチェ。

 情報量が。情報量がちょっと多い。

 

「……おはよう、バーチェ」

「はい、ユーリ様。おはようございます」

「随分思い切ったイメチェンだね」

「はい? ああ、これですか?」

 

 バーチェは、恥ずかしそうに自分の長耳に触れる。

 

「破損していたイデンシも、修復してくれたそうです。ユーリ様にそう言えば伝わるとか」

「おうふ……」

「文献で伝え聞く、エルフの長耳ですね。……私が人間だと、言い張れなくなってしまいました」

 

 『交配による人種の品種改良』をガチで試みて、人造エルフを大真面目に作ろうとしていたバーチェの一族は、ある意味成功していたわけだ。皮肉にも、失敗作のゴミとしてごみ箱に捨てられたバーチェこそが、ある意味成功作で……いや、結局失敗作か。

 本来のエルフ族が持つ性能と比較すれば、劣化の劣化の劣化であることは否定できない。

 

 ん? 違う、そこじゃない。

 

「バーチェの一族は『金髪碧眼の容姿端麗で頭脳明晰』な人間を掛け合わせ続けることで、金髪碧眼の長耳エルフを作ろうとしていたんじゃなかったっけ?」

「はい、そのように聞いております」

「バーチェのご先祖様に、異世界人が居たとかそういう話はあった?」

「そのようなことまで、ご存じだったのですか?」

 

 バーチェが驚いている。

 いえ、ご存じではありませんでした。

 

「もしかして……トメコ・ナカズィマとか言う?」

「はい。私の曾祖母にあたります。実家のことはわかりませんが、存命かと」

「じゃぁ、さっきの歌も?」

「私がまだ小さい頃に、二度歌ってくれました」

「ひいお婆ちゃんって黒髪黒目じゃなかったの?」

「いえ、金髪碧眼でございました。『にっそはあふ』だと笑っていました。『ときおおりんぴっく』前に生まれたそうです」

「待ったバーチェ、ゆっくり! 一つずついこう!」

 

 情報量が地味に多いんだよ!

 

 バーチェが覚えている限りの曾祖母、中島とめ子の話を聞いていく。

 バーチェが実家にいた時は存命だったかもしれないが、原作の飲み屋の会話と照らし合わせるのなら、もう既に大往生している可能性はある。

 幼少時のバーチェが曾祖母から聞いた話を必死に繋ぎ合わせ、僕なりに解釈してみた。

 

 東京オリンピック前に、中島とめ子の母はソ連から来日した動物使い(ボリショイサーカスの団員?)の男と恋に落ち、とめ子が産まれた後に一方的に帰国されて捨てられた。

 日ソハーフの金髪碧眼美女にして日本国籍の中島とめ子は、昭和のご時世を奇跡的に何事もなく生き延びたかと思いきや、お見合いの日に異世界転移したらしい。

 こちらの世界であわや奴隷商に売られるところを、『金髪碧眼の容姿端麗で頭脳明晰』好きなバーチェの一族に拾われて以下略。

 

 一般的なハーフは、金髪碧眼と結婚してもアジア人側、つまり黒髪黒目の方が強く出がちだ。

 最初は白髪や金髪でも、歳を取れば茶色に変化したりするケースが多いと聞いた。

 しかしそれも結局は確率論でしかない。中島とめ子は金髪碧眼のれっきとした日本人だった。

 

「ただの隔世遺伝じゃねーか……」

「カクセイイデン、ですか?」

「ああ。つまり、トメコ・ナカズィマのお母さんは、黒髪黒目だったんだよ。バーチェから見てひいひいお婆ちゃんの黒髪黒目が、バーチェに受け継がれた。だから別に、バーチェのお母さんは浮気とかしてない。バーチェの父親と母親が普通に愛しあったからバーチェが生まれて……金髪碧眼じゃなかったから勘違いされて捨てられた。立派な子供で、立派な子孫なのに、黒髪黒目だったというだけで」

「なるほど……そういう事が起きうるのですね」

 

 隔世遺伝。先祖返りとも言われる現象。

 ハルピュイアを殺す時に、ジャン君に先祖返りしようとか言ってた事を思い出した。

 命を賭けた博打行為だったからテンション高すぎたんだよね……恥ずかしい。

 

「バーチェの、そのエルフ耳のことだけどさ。『ドラゴンの呪い』だったことにしない?」

「『ドラゴンの呪い』ですか?」

 

 バーチェがきょとんとする。

 

「説明がとにかく面倒臭いし、する気も起きない。アイリスの真実、スライムの共生、バーチェの長耳……全部、墓まで持って行くべきものだ。でもバーチェの見た目だけはどうしようもない。フードで耳を隠すように生活したとしても、いつか必ずバレるだろう。バレた時にあたふたするよりは、最初から『ドラゴンを殺したせいで亜人化の呪いをかけられた』とでも言って、堂々としていればいい。どうせ誰も、確認なんか出来はしない。……それに」

 

 僕はバーチェの長耳に手を伸ばす。

 長耳にそっと触れる。バーチェはくすぐったそうだ。

 

「黒髪のエルフ。いいじゃないか。僕は大好きだよ、バーチェ」

「……はい。『ドラゴンの呪い』。承りました。それにしても、私の曾祖母のことまで調べておられたのですね。流石はハサマール子爵家といったところでしょうか」

 

 トメコ・ナカズィマの件はさらに説明が面倒臭い。

 夕焼け小焼けの正しい歌詞を伝えることも、やぶさかではないけれど。

 どうしたものかと悩んでいると、川縁の方から切羽詰まった女性の声が聞こえてくる。

 

「……ユーリ! いた! ユーリ!」

 

 鎧を乾いた返り血で染めた、重装甲の女騎士姿。

 セスレだ。

 

「セスレ! 無事でよかった」

「私の台詞よ、馬鹿! 三日も探したんだから! マンセー子爵令嬢もいなくなっちゃうし! えっなに、バーチェその耳どうしたの? アイリスは? アイリスは無事なの?」

 

 ……情報量が。情報量が多い。

 三日も経ってたのか。

 

「あの後、死にかけていた僕達を殺しにビジョレが来てね。アイリスは、ビジョレと共に死んでしまった。バーチェの耳だが『ドラゴンの呪い』だと僕は判断してる。ドラゴンを殺したせいで、亜人化の呪いをかけられてしまったんだ」

「……アイリス……そう。そんなことがあったのね。ドラゴンの呪いはわかったけど、トドメを刺したユーリじゃなくて、バーチェに呪いが?」

 

 セスレのド正論。

 僕は笑って誤魔化す。

 

「ドラゴンに致命傷を与えたのがバーチェだったからかな? トドメを刺した僕も、そのうち長耳になるかもね。それより、グラス嬢がどうしたって?」

「公爵家部隊は戦いの顛末を子爵家に報告してから、ユーリ達の捜索隊を急ぎ手配していたのだけれど。ユーリが生死不明(MIA)になった話を聞いた後に、マンセー子爵令嬢の側付きメイドが、彼女を連れてどこかに行ったまま帰ってこないのよ」

「そうか、わかった。とりあえず、アイリスとビジョレの装備を回収して帰還しよう……そうか、三日か。道理でお腹がすいてるはずだ」

 

 セスレはため息をつく。

 

「お腹がすいた、じゃないわよもう……ドラゴンの死体は公爵家で確保済み。こっちを裏切った侯爵軍も、公爵軍の重騎兵で一掃したわ。捜索も含めた手間賃として、バーチェの狙撃で破壊したドラゴンの首のクリスタルぐらいは、公爵家が貰ってもいいぐらいなんだから」

「……まぁ、それぐらいは問題無いよ。それより、オットー卿も公爵軍も、まだいるんだろう?」

「いるわよ? 捜索隊として、今もみんなでユーリを探してる」

「よし、じゃぁ。みんなが気になって仕方が無いことを実行しようじゃないか」

「みんなが気になって、仕方が無いこと?」

 

 セスレが首を傾げる。

 僕は悪い顔をする。

 

「戻って、風呂にでもはいってさっぱりして、キチンと着替えたらさ。……みんなで、ドラゴンステーキパーティと行こう」

 

 なんだかんだでお腹がすいていた、バーチェとセスレは。

 ごくり、と息を飲んだ。

 

 

 * * *

 

 

「うわははは! 肉がまずい! あんまり美味しくないな!」

 

 イケオジヒゲマンなオットー卿が、エールを片手にゲラゲラ笑っている。

 ここはマンセー子爵家の庭園、急遽セッティングされたドラゴンステーキパーティ会場。

 公爵軍、無事な子爵領兵、使用人も含めた関係者全員。

 戦場の汚れを落として着替えている最中に、料理人に全力でドラゴンを調理してもらって。

 今はドラゴン肉で、バーベキューパーティの最中だ。

 

「ドラゴンの血を飲めば不死身になれるとか、超強化されるとか、そういう話はどこ!?」

 

 普通の血じゃんか。美味しくない。

 なんかこう、魔力があがるとかそういうのは無いの?

 セスレは首を傾げながら、ドラゴン肉の串焼きを味わっている。

 

「うーん、牧草飼育(グラスフェッド)牛のお肉を、もっと固くしたような……」

「シチュー肉として煮込んだものが、幾らか……食べやすいですね?」

 

 関係者以外に説明が面倒になったバーチェは、結局フードで耳を隠している。

 通信でうるさいから、スライム達にもこっそりドラゴン肉を食べさせている。

 まぁみんな気になるよね。ドラゴンステーキの味。

 

「あ、あのぅ、ユーリさん……」

「ああ、ギルドのお姉さん。丁度良かった」

 

 何故かタレーメ領にまで派遣されてきた、冒険者ギルド・聖都支部のお姉さん。

 なんか知らないけど、専属的に僕の担当を押しつけられているらしい。

 

「ドラゴンの討伐部位証明とかどうなってるんです?」

「いえ、その、誰も倒したことがないので、前例がなく」

「はー! お役所仕事! 前例主義! 面倒臭いから、頭ごと聖都に持ち帰って下さい」

「え"っ? ドラゴンの頭ごと、ですかぁ!?」

「は? D級パーティ『鳴神(なるかみ)』の冒険者等級昇格がかかった大事なモノなんですよ? あと面倒臭いんでそのまま王家に献上しといてください」

「面倒臭いって言った! 面倒臭いって二度も言った!」

「どうせ聖都に戻られるんでしょう? 手間が省けていいじゃないですか」

「タレーメ領から聖都までドラゴンの頭を輸送とか、一体幾らかかると……!」

「輸送料も護衛料もこちらで全額負担してさしあげますが?」

「ドラゴンの頭の持ち込みとか、聖都が祭りになるじゃないですかぁ!?」

 

 僕はニチャァと笑う。

 祭りになるのがわかりきってるからこそ面倒臭いんでしょ。

 ギルドのお姉さんは涙目だ。

 

「ユーリさんだって聖都に戻られるんでしょうに!?」

「いいえ?」

 

 僕は焼きドラゴンの串肉を頬張りながら、何でも無いように言う。

 マジで美味しくないなコレ。あんなに苦労したのに。

 

「僕はこの後、ハーベラ領に殴り込みに行くつもりです」

「ハーベラ領? 冒険者ギルドの中央広場支部でしょうか?」

「やだなぁお姉さん……殴り込みなんですから」

 

 僕はお姉さんの肩に右腕をかけ、仲の良い関係のように。

 左手には、串肉を持ったまま。

 お姉さんに小声でそっと囁く。

 

「セルヨーネ侯爵家に決まってるじゃないですか」

 

 僕は右手の人差し指で、お姉さんのほっぺたをぷにぷにつつく。

 お姉さんの顔は青ざめて引きつる。

 これ、ただでさえ左手に持った肉串の鋭い先端が見えてちょっと怖いのに。

 頬をつつく人差し指は、お姉さんからは死角で見えないから、恐怖倍増なんだよね。

 

「斬首か……(ぷにっ)鋸挽きか……(ぷにっ)磔刑か……(ぷにっ)串刺しか……(ぷにっ)」

「ひいい」

「はい、あーん」

「あわわわ」

 

 怯えるお姉さんに、僕は優しくドラゴン肉を食べさせる。

 

 誘拐には無関係だとしてもさ。

 幇助とか、監禁はしてるでしょ。

 

 押込(おしこめ)? 蟄居? 

 いいよそんなの。もうどうでもいい。

 

 ……死刑でいいよね、ニク=ドレ卿?

 どうせ僕を待ってるんでしょ?

 なーにが、僕と一つになりたがってる、だ。

 息子と娘のところに送ってやるよ。

 

 

 僕の殺気に、お姉さんが気を失いかけて。

 呆れ顔のセスレが、僕の頭を軽く引っぱたいた。

 

 

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