ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第65話 原作開始前・侯爵襲名

 

 【聖王国新聞の記事より一部抜粋】 

 

 ビケワ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵令嬢は暗黒大陸への進出に伴う査察中に不慮の事故死。

 ビケワ嬢がユニコーンに乗って駆ける美しき絵画が、彼女に同行した画家の好意によりセルヨーネ侯爵家に大量に寄贈された。

 

 また、タレーメ領を襲ったシャイニングドラゴンに対し、マンセー子爵家より正式にドラゴン退治を打診されたユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息は冒険者として指名依頼を受諾。

 グラス・タレーメ・マンセー子爵令嬢は側付きのメイドと共に、シャイニングドラゴンに破壊されたニアフォの街を慰撫していたが、ドラゴンの再襲撃の際に行方不明となる悲劇に襲われた。

 事態を重く見たハサマール子爵令息はアドリ=ブヨーワ公爵軍およびセルヨーネ侯爵軍の両家に支援を要請した上で、ハサマール子爵令息がリーダーを務める冒険者パーティ『鳴神(なるかみ)』がたった三人でドラゴンと相対することになった。

 

 アドリ=ブヨーワ公爵軍は山間部に重騎兵を動員するという奇策を弄し、ハサマール子爵令息をドラゴンに接近させるという作戦を成立させた。

 ドラゴンとの苛烈極まりない戦いの結果、次期当主たるハサマール子爵令息の盾となった勇敢なるセルヨーネ侯爵軍は全員が死亡し、また『鳴神(なるかみ)』も一人の死者を出したが、二名は無事に生還。

 セルヨーネ侯爵軍を率いていたビジョレ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵令息はドラゴンとの激闘中、タレーメ領の川に転落して事故死(名誉の戦死扱い)。

 

 ニク=ドレ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵は二人しかいない子供の急死に心労がたたり、身体の調子を崩して病死。

 ビケワ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵令嬢を正妻として迎えるはずだった夫であり、前々から憂国烈士ニク=ドレ卿自らがセルヨーネ侯爵家の次期当主として指名していたユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息は、一人残されたニク=ドレ卿の妻たるミーナ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵夫人と相談の上でセルヨーネ侯爵家を引き継ぐことを正式に決意。

 

 ユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息はドラゴン戦の負傷を癒やした後、事前に聖都に届けていたシャイニングドラゴンの頭と共に凱旋パレードを行う予定だ。

 また、パレード後に王城に出向いてユーリ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵の襲名もするという。

 

 特筆すべきは、ハサマール子爵令息がシャイニングドラゴンに勝利した際、ドラゴンから人類への警告を受けたその内容と、『ドラゴン戦の勝利と引き換えに呪いを受けた』件も公表することだろうか。

 ドラゴンから人類への警告とは? そして、ドラゴンの呪いの真実とは?

 本誌記者は今後も詳しくこの件を追っていきたいと思う。

 

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 * * *

 

 

 とりあえず、全部大本営発表にしよう。

 そういうことになった。

 

 ミーナ夫人? 殺すわけないです。

 ニク=ドレ卿がなんであんな感じになっちゃったのかという事情も一応聞いたんだけどさ。

 セックスしたら女性を壊す巨根の話は、話を聞いていた全員が無言になった。

 ゆるゆるのガバマンとか、そういうレベルじゃねーぞ。茶化すことすら出来ない。

 

 私も抱きますか? なんて事もなげにミーナ夫人は言ってきたけど。

 幾ら貴女の外見が島田流家元でも、無理なもんは無理です。身体を大事にしてね。

 貴女は代官としてずっとセルヨーネ領の管理を補佐してください。死ぬまで。

 

 『シャイニングドラゴンの頭の防腐処置はしてありますので凱旋パレードしてください。王家への献上はギルドでは代行できません。早く聖都に来て全部やってくださいお願いします何でもはしません妾なら引き受けます!』

 冒険者ギルド聖都支部の受付のお姉さんが泣きながら書いたんだろうな、とわかる手紙まで届いた。さりげなく妾アピールとかしないでもらえます?

 

 D級パーティ『鳴神(なるかみ)』の冒険者等級は、パーティ人数が増えたら再評価しないといけないので据え置きの後回し評価だそうな。

 それならそれでそのうち『音見』の技術を公表した上で「ウチのパーティは全員が『音見』できますが何か?」路線で将来はドヤ顔しようと思う。

 原作の闇蝙蝠がA級なら、『鳴神(なるかみ)』は放っておいても勝手にA級確定だ。下手すりゃドラゴン戦やゴブリン砦攻略の件が加味されてS級認定っすわ。ドヤァ……。

 

 

 * * *

 

 

「そんなわけなんで、エルフ耳の件を思ったより大々的に公表しないと駄目そうだ。ハルピュイアの売買禁止令を早急に広めるためでもあるんだけど……ごめんね、バーチェ」

「……ドラゴンの呪いでそーなった、いうんはわかったけど……聖教会から刺客とか来はったらどないするん?」

 

 バーチェの長耳を見ながら、バトさんが心配する。

 ここは聖都のセルヨーネ侯爵屋敷のリビングにあたる部屋。

 バトさんの腕には、愛娘のヒカリが抱かれてスヤァしている。

 ……将来のヒカリ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵令嬢です。

 

「聖教会が暗殺者とか送ってきたら上層部から3倍返しか、ランダムで10倍返しするから好きな方選んで、って言うつもり」

「さ、さよけ」

「逆に考えればさ。大々的に凱旋パレードをすればこそ、連中は僕達に手出しできなくなると思うんだよね。バーチェになにかあったら犯人なんて丸わかりじゃん。今の教皇が14代なのか15代なのかは知らないけれど、数字がプラス1されるぐらいは覚悟してもらうさ。ただ、残念だけどバトさんとヒカリはパレードには出せない。何千人、あるいは何万人見に来るのかわからないけれど、産後間もないバトさんと、生まれて間もないヒカリを連れていくような場じゃない」

 

 口には出したくないんだけど、「盲人が妾になれるのなら私だって」と勘違いした女性が突撃してくる可能性すらある。悪意が僕にだけ向いてくれるのならどうにでもできるけど、万が一バトさんとヒカリに悪意が向いてしまうと守り切れない。

 

「ま、そらしゃーないな」

「聖都の屋敷に限らず、ハーベラ領の本邸を手直ししたいとか、家具を入れ替えたいとか、そういうの考えておいて貰えたら助かる」

「正式に侯爵を継いじゃうと、流石にアドリ=ブヨーワ公爵家の屋敷を使い続けるわけにはいかなくなっちゃうからね……」

 

 セスレが肩をすくめる。

 

「ああ、そうそう。女性陣のために、身体のラインを美しく魅せるだけでなく、歳をとっても身体のラインが崩れにくくなる下着……ブラジャーとショーツっていうのを開発したんだ。あと、生理対策が簡単になる生理用品の試作品も作ってみた。みんなにはその試作品を使ってもらって、改善のために感想や希望を遠慮無く教えて欲しい。将来的には、バトさんのお店があった聖都のメインストリートのあの場所を一号店として、売り出すつもり。最初はどうしても、貴族とか富裕層向けの商品になっちゃうだろうけれど……いつかは庶民層にも広まるようにしたい。特に生理用品は、収支を度外視してでも出来るだけ安くしたいな」

「ん……ユーリ様がそういうことを突然言い出す時って」

「何か別の思惑があるって、アイリスさんが言ってました」

 

 ミルヒとカカオに、じーっと見られる。

 僕は苦笑する。

 

「僕や、僕の奥さん達に将来的に何か不利益があったとしてさ……世界の半分が味方についてくれるのなら、嬉しいよね。だって僕達になにかあったら、生理の時の経血を外に漏らさず全部吸収してくれるような便利な生理用品も、身体のラインを美しく維持するブラジャーとショーツも、そしてお肌の水分を潤わせる若返りの秘薬も、全部偽物ばかりが世に出回る事態になるんだから」

「……そう聞くとえげつないでホンマ」

「ブラジャーとショーツは猿真似できるだろうけれど、生理用品を安価で製作するのはちょっと難しいはずなんだよね」

 

 脱脂綿にはソーダ灰、つまりソルベー法が必要だし、パルプ紙綿はセルロースナノファイバーの攪拌技術を応用した製作をするので、そう簡単には真似できない。

 

「王城での侯爵襲名はともかく、凱旋パレードなんてやるつもりはなかった。義父上(ちちうえ)の置き土産のせいで、こっちはいい迷惑だ」

「アレは……まずいんやろ、ユーリ? 相当洒落になってないんやろ?」

「うん。早急に、しかも暗黒大陸を含めた人類生存圏全てに手を打たないとまずい。迂闊に放置したら一年経たずに人類が全滅するだろうし、それを僕は何も不思議には思わない」

 

 ハルピュイアの怒りが限界寸前なのか、もう限界を超えてしまったのか、それはわからない。

 だが、あの置き土産は……それでも動かざるを得ない、とんでもない爆弾だ。

 

「……まだ間に合えば、良いのだけれど」

 

 思わず、遠い目で窓の外を見た。

 

 

 * * *

 

 

 ドラゴン討伐の凱旋パレードの日。

 僕は最高潮にパレードが盛り上がった所で、隣に立っていたバーチェのフードを外し、エルフの長耳を露出させた。

 ゴブリンでもオークでもないが、亜人の耳だと一目でわかるそれに、どよめきが広まる。

 

「聞いてくれ! ドラゴンは二つの警告を僕達に残した! 一つは、ドラゴンは恐ろしい敵でもあるが同時に大地の守護者でもあるということ! ゆえに安易にドラゴンに手を出すと、その者は呪いを受ける! 彼女が元々人間だったことは、この国にキチンと記録が残っている! 気になる方は幾らでも彼女の過去を調査していただいて結構!」

 

 彼女の過去には闇しかないけどな。

 

「そして、もう一つ! ドラゴンは大地の守護者として『これ以上ハルピュイアを殺して剥製にすることなかれ』と僕達に警告した! これ以上僕達人類がハルピュイアに喧嘩を売ると、空から毎日糞尿と生ゴミが降り注ぎ、食料と水源を汚染され! 或いは火のついた炭と硫黄と油が降り注ぎ、街も畑も火の海となるだろうと! 街から逃げ出しても、ハルピュイアは大空を無限に駆け、馬よりも速く飛ぶ! 海を越えようと地の果てに至ろうと、死ぬまでつきまとわれ必ず殺されるだろうと、ドラゴンは勝利の報償として僕達に警告してくれた! その思いを! ドラゴンの意思を軽視してはならない!」

 

 僕は片手を掲げ、握る。

 皆の視線と意識を、僕の声に集中させる。

 

「聞け、人類よ! ハルピュイアの剥製化や売買を、今後は死刑を含む厳罰付きで徹底的に禁止せねばならない! でなければ、人類は遠からず滅亡するだろう! 中央大陸だけではなく、暗黒大陸も含めた全てだ!」

 

 僕は人差し指を空の彼方に突き立てるように伸ばす。

 

「聖教会よ! 各国の王族達よ! 冒険者ギルドよ! 僕の声を聞いた全ての人間達よ! 繰り返す! 『これ以上ハルピュイアを殺して剥製にすることなかれ』! それが、大地の守護者よりの警告である!」

 

 防腐処理されたシャイニングドラゴンの頭を背後に、僕は聖都中に響けという思いをこめて叫んだ。

 

 

 * * *

 

 

 王城内の、謁見の間。僕は陛下に対して、最敬礼の貴族挨拶をとった。

 

 ……社交界デビューの時にやったやつね。

 跪き(こうべ)を垂れ、右手を左胸に添えるやつ。

 これを立ったままやると、簡易礼になる。

 

 なんか知らんけど、ドラゴンスレイヤーってことで、帯剣すら許されてる。

 ちょっと駆け寄れば王様が目の前なのにね。凄いね、侯爵。

 軽い冗談で、王様のところに駆け寄ってみたくなったけど我慢した。

 

 そんな忠誠を誓う儀式と、国に対する忠義の宣誓を終えて。

 

 

 僕は、ユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息から。

 ユーリ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵になった。

 

 百合の間に挟まって死ぬのかと思っていたら。

 今度は百合を侍らせてしまうらしい。

 どちらにしても死ぬのでは?

 暗殺者を送ってくるのは、聖教会じゃなくてガールズラブ過激派ですよね?

 

 ハサマール子爵家は、陞爵を断る理由が完全になくなってしまった。

 今後は周辺の土地を再編して、伯爵家になるそうな。

 

 距離的にちょうどいいので、マンセー子爵家はタレーメ領ごとハサマール伯爵家に組み込まれた。流石はハサマール家というか、マンセー子爵家が抱えていた借金は全額一括でセルヨーネ侯爵家に返済された。

 

 ……本当は僕とグラスちゃんの結婚でマンセー子爵家の借金が消えるはずだったのに。

 グラスちゃん、今どこで何やってんだろ。

 ていうかこれ、メイドがグラスちゃんを誘拐した事になるのでは?

 真面目に犯罪でしょ。

 

 

 * * *

 

 

 聖都カケルに、再び春が訪れて。

 沢山の花びらが街中を舞っていた。

 

 そういえば、入学式直前の期間は、花祭りなんだっけ。

 去年は公爵家でセックス祭りだったから、聖都にいなかったんだよね。

 マイゴーノ領に僕の子供は何人いるのだろうかと、苦笑する。

 

 今年は三年生で、侯爵だから……確実に生徒会長だな。

 

 結局聖教会は動かなかった。

 いつでも喧嘩は買うけど? ってわざわざお手紙送ったのになぁ。

 

 バーチェやセスレに避妊はしてない。

 まだ妊娠の兆候はないけど、無精子症で可能性ゼロとかよりは断然マシ。

 

 バトさんは産褥期を過ぎ、崩れた体型を取り戻すべく頑張っている。

 ヒカリも元気に成長中だ。

 乳母の手配も考えたが、最初の子供は絶対に自分の母乳だけで育てるらしい。

 確か最初の半年は完全母乳で、卒乳時期は……待てよ?

 暗黒大陸行きのことを考えると、家族計画をキチンとしないと駄目じゃん。

 授乳期間とか色々計算にいれないとアカンですわ。

 乳母に任せりゃいいってもんでもないだろうし。

 

 

 なんとなく、セルヨーネ侯爵屋敷の窓から庭園を眺めていると。

 花びらに混じって葉っぱも飛んできていた。

 

 ……ていうか、入学式の時は風車(かざぐるま)のせいで気づかなかったけど。

 これ、桜の花びらと、桜の葉っぱじゃん?

 

 桜の葉って、生薬として喉や肺に良いんだよね。

 僕は使用人に指示を出し、桜の葉を集めさせた。

 

 そして、桜の葉を一週間程度乾燥させてから。

 手近な材料を組み合わせて、即興で『桜の葉タバコ』を作ってみた。

 生薬を使った健康タバコだから、身体に害はない。

 

 

 僕はナイトガウンを着たまま寝室のベランダに出て、夜空の月を見上げた。

 寝室のベッドの中では、全裸のセスレが幸せそうにふにゃふにゃしている。

 ていうかセスレは感度が良すぎ。アレじゃオークに完墜ちしちゃうよ。

 

 僕はベランダの手すりに寄りかかる。

 『桜の葉タバコ』を取り出して、流れを掴んで火をつけた。

 ……6000度の白い炎とかじゃないよ? 

 シロミミズリュウモドキ(仮)も来ないよ?

 普通の火だよ?

 しかも懐にはライター完備である。

 掴む意味がまるでない。

 

 

 『桜の葉タバコ』を口に咥えて、ゆっくりと煙を吸って吐く。

 

 ……これは、さくら餅だなぁ。

 僕はぼんやり考える。

 

 燃えてる匂いもさくら餅。

 煙の味もさくら餅。

 吸った後の残り香も、全部、全部、さくら餅だ。

 

 なんとなく、郷愁にかられて。

 気がつけば、僕は涙を流していた。

 

 異世界の夜空と月が。

 桜煙草を吸う僕を、見つめていた。

 

 

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