ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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この二次創作は、創世神KAKERU様の信徒の皆さんに支えられております。ジャン君との出会い編は遠慮無くアクセルを踏ませていただきます。


第70話 原作開始前・サビレ村のジャン君

 

 ユーリ・アイダ・ハサマールの外見は、元々『Fate/Grand Order』オベロンに似ていた。

 ゲームを未プレイでも、「fgo オベロン」で検索すれば外見の雰囲気は把握できる。

 

 ユーリ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵となった今は「fgo オベロン イラスト」と、画像検索ワードに単語を一つ追加してもらえるとわかりやすい。

 大変失礼な話ではあるのだが、公式の羽海野チカ先生ではなく、コミケで同人誌を出しているようなファンが美形度や中性度をマシマシで描いたオベロン。

 それが現時点のユーリの男性としての外見であり、身体である。

 

 つまり素の状態でも、女装した瞬間に似合ってしまうのである。

 身体を鍛えているといってもボディビル的な見せ筋ではなく、インナーマッスルを中心とした実用的な鍛え方。鉄砂掌をはじめとして部位鍛錬もおこなっているのに、加護……と言いたいが神の悪ノリにより綺麗な指先。

 女装コンテストに参加したら1位か2位のどちらかしか取れないような外見である。

 

 それなのに。

 大していじる必要もなく素で美少女になれてしまうユーリ君に共生しているスライムが。

 可愛いの毀損を恐れるあまり、全力でユーリ君の身体をユーリちゃんにしてしまったら?

 

 そりゃもう突き抜けた美少女である。

 ソシャゲ運営ならTVCMも打つしゲーム起動時に動画も流すしトップページで大広告だ。

 プレイヤーなら全員が天井まで回すし、二枚でも三枚でも言われるがままに重ねる。

 出るまで回せば出るんだから、実質無料ガチャなんだよ。

 

 銀髪碧眼ロングボブに眼鏡の超絶美少女。

 一般的な同年代の少女より遙かに綺麗な肌(若返りの秘薬のせい)。

 格好良いデザインのメイド服に膝丈のスカート、頭にはホワイトプリム。

 二本差しの刀に、背中に大弓槍という特殊武器。

 

 属性盛りすぎなユーリちゃんだが、昨今のソシャゲ事情を考慮すればさらに猫耳ぐらいは追加してもいい。そして「猫耳を追加しよう」と言われた瞬間にスライムは本気でそうするだろう。

 

 猫耳の追加はともかく、トランスセクシャル(TS)では断じてない。

 身体は完全に女体化していてセックスも可能だが子供は産めない。

 性自認も男性だし好きなのは女性だが、その気になればフタナリ可である。

 ……やりたい放題の超絶美少女、それが完全生命体ユーリちゃんであった。

 

 なおスライムが本気を出すと膣性交で快楽を感じるように研究されてしまうので、迂闊に膣でのセックスを試せない。子供に関しては『科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日記』に出てくる「冷たい身体の美少女」で良いのなら、材料となる野良スライムを人体の重さ分用意すれば単為生殖のように増やせてしまう。

 

 個の武力もあり、魔法も使えるユーリは確かに織津江級の「俺TUEEE」ではあるのだが。

 生物学的な観点からは「人間とスライムのいいとこ取りの身体の上に、人間もスライムも増やせるなんて俺TUEEEにも程があるのでは」となるユーリちゃんであった。

 

 なお創世神は腹を抱えてゲラゲラ笑っていると申し添えておこう。

 その姿は、無反動矢を教えて貰った直後の弓王ボーゲンもかくやの抱腹絶倒である。

 

 

 * * *

 

 

 とはいうものの、当のユーリちゃん本人としては色々と洒落になっていなかった。

 

 前世も男だったというのもあるが、今世はわざわざ幼年期から「正しい立ち方」「正しい歩き方」を男の身体で鍛錬し続けてチューニングしていたのだ。この場合のチューニングというのは、ミリ単位で身体の外も内も動かし、ピタリと制御することをさす。

 雷光流の授業の際、ユーリは『筋トレをして神経が通ると、身体の隅々まで動かすことが可能になる』と述べたが、筋トレで神経を通して身体の隅々まで動かすことが可能になったその先に合気捕りなどの技術ツリーが存在する。

 身体のチューニングができるようになって、そこではじめて「何も知らない第三者からすると魔法としか思えない意味不明の技術」を行使する雷光流の深奥に到達可能となるのだ。

 

 つまり、ユーリちゃんは身体のチューニングをしないといけない。

 

 例えば『合気道ってなに?』と聞けば、ユーリはこう答えるだろう。

「人間は二足歩行という無茶をしはじめたので、触れると四つ足になって四足歩行をしたがる。四つ足になって安定したいと願いそう動いたところで、足を一本減らす。すると歪な三本足になって崩れてしまうからバランスをとろうとする。バランスをとるために相手に支えて貰おうとして相手にくっついていたがる。その原理を使った技が合気道」

 

 例えば『合気ってなに?』と聞けば、ユーリはこう答えるだろう。

「重心の共有と軸の共有をして『あなたの身体はわたしのものです』とやること。相手と繋がってさえしまえば、相手を握る必要もない。剣や棒経由でも共有は可能なので、剣や棒が触れているだけのように見えても相手を制圧してコントロールできる。それが合気」

 

 例えば『気ってなに?』と聞けば、ユーリはこう答えるだろう。

「靱帯と腱の収縮をドミノ倒しのようにやること。靱帯は骨と骨を接いでいる組織。基本的に1mmか2mmしか収縮しない。それを5mmぐらい収縮できるようにする。相手に触れている時にこの収縮を使うと、相手の身体中の色々な部分が、攻撃をされたと認識して誤作動で防御反射を起こして逃げようとする。晩年の植芝翁がやっていたレベルに達すると、手を開いたままや、手のひらだけで相手を制圧することができる。それが気」

 

 この『靱帯と腱の収縮幅を広げる』と言い出すのがユーリのチューニングがやっていることと言えば、少しは頭のおかしさが伝わるだろうか。

 

 ユーリの説明自体が難解であるし伝わりにくいと思われるかもしれないが、このレベルのユーリの説明ですら省いて感覚で説明しようとしてしまうのが武術の達人あるあるなのだ。

 

 ユーリが文句を言っていた柳生新陰流の「エマす」だが、これは「相手を斬る際に全身から発生する力を刀の切っ先に集中させるため」に「足腰の力を上半身に伝えるために下半身と上半身を繋げるべく股関節を外旋(両足を外方向に回す)させる行為」だが「単純に両大腿骨を外旋させるわけでも膝を開くのでも腰を落とすわけでもなく」「仙骨を(かなめ)とし、扇をパッと開いた時にその力が要に手中するがごとく中心に集まるイメージで()()()()()()」、これを柳生新陰流の人達は『エマす』として古来より現代に伝えている。明確な動作定義が存在しないため、感覚的に解釈するしかない言葉『エマす』。十人に聞けば十通りの答えが返ってくる柳生新陰流の基本にして奥義『エマす』。

 

 なろう小説の類でも、剣の達人に剣を習おうとしたら「こう、ババッとしてギュギューンとするんだよ!」みたいなオノマトペ説明をされてよくわからないギャグシーンを見かけると思う。まさにそれだ。あれは読者的には笑ってしまう場面かもしれないが、真剣に剣を学ぼうと思っている側からすれば「ぶっ殺すぞお前」としか言えない。その代表例が「エマす」だ。

 

「敵を斬る際に全身の力を一点に集中する。その為に『エマす』のだ」

「……『エマす』とはなんでしょうか師匠」

「『エマす』は『エマす』なのだ! 膝に力をとるのだ!」

「膝に力をとる、ってどういう意味なんでしょうか」

「こうだ! こう! 真似をしてみろォ!」

 

 マジでこんなノリである。

 柳生三世代は(ケツ)の前に論ずるべきことがあったとユーリは心底思う。

 そして、柳生十兵衛達が三世代に渡って(ケツ)について熱く語っていたように。

 

 今のユーリは肛門を締めることで仙骨を連動させ、正中線を立てて綺麗に歩く鍛錬からやり直していた。つまり正しい姿勢で正しく歩いていることになる。

 

 肛門を締め、正しい姿勢で正しく歩く超絶美少女の姿は……そりゃもう、美しかった。

 

 

 * * *

 

 

 さて、ここでハーベラ領のハーベラ山中にあるサビレ村出身のジャン君について話そう。

 下記が原作から読み取れる情報である。

 

・クソド田舎の村出身

・山が友達レベルの近所

・割と平和な国でゴブリンと戦ったことがない

・冒険者はともかく、ダンジョンを目指すなら暗黒大陸しかない

・お金はあまりない(冒険者学校を含め、徹底的に安上がりにしてる)

・最強の冒険者として名を馳せ、故郷の村に錦を飾りたい

・オサン流の兵士に剣と槍、狩人に弓を習った

・5才から鍛えはじめ、13才で腕を認められ、15才で子供達の先生になり、18才で独立

・山育ちで狩猟には慣れているが人殺しは未経験

・村、もしくは近所の町に本屋がある(村娘ルマノが買える)

・重婚OK

・現在ユーリと同じ14才。前世22年+14年=36年も童貞をこじらせている

・ヤらせてくれる女は等しく女神

 

 ユーリがいるこの世界線の場合、ジャン君は以下のようになる。

 

・『革命』の影響を受けたのはサビレ村の村長ぐらいで、他の村民には手が回っていない。単純に村の資金不足もあるがそれ以上に建設業界の人手不足が深刻で、革命開始四年が経過してなおバーピィチピット聖王国全体が空前の好景気に包まれたままだ。それでもサビレ村への街道整備などインフラはよくなり、サビレ村の村長も村民に洗濯機や脱水機などを快く貸し出して使わせている。そのため、前世日本においてテレビが普及しはじめた際に街頭テレビのプロレス中継を見に観衆が殺到したノリで奥様方は毎日のように村長の家に詰めかけ、少なくともジャンの母親を含め洗濯をする女性陣は恩恵を滅茶苦茶受けている。

 

・ハーベラ領はニク=ドレ卿統治時代、ほぼ完璧に亜人を処理していたため、冒険者のように山や森の奥地へ行かない限り亜人と遭遇するようなことはまず無かった。鹿や猪やコカトリスなど、よく見られる動物やモンスターを狩るのは村の男衆の大事な仕事の一つであり、また村人達の大事なタンパク源でもあった。

 

・ニク=ドレ卿の統治の影響により、牧歌的な雰囲気でありながら同時に防衛意識の高い領土だったため、兵士や狩人達はジャンだけではなく子供達に率先して戦う術を伝授していた。

・真面目に剣や槍、弓を習っていたジャンは大人達から見れば将来の良い領兵候補であり、隊長級の器でもあったので早めに「他人への指導方法」をはじめとした隊長級育成の方針に切り替えられている。実際に、原作ジャンはナァルちゃんへの指導方法やリーダーの持ち回りチートなどを活用して、大人達の見込み通りリーダーとして大活躍している。

 

・ジャンは周囲の大人達が隊長級候補と認めるぐらいの優良物件である。性格も真面目で身体も大きくて実際に戦いも強く、顔も悪くないジャンが女性にもてないわけがない。周囲の女性達もジャンを好意的な視線で見ていたが、村時代のジャンに唯一足りなかったものはお金、要は甲斐性である。では何故、甲斐性が無いジャンを手付けとして彼氏にしておこうと考えた女性がいなかったのか? これには理由が二つある。一つはジャンが童貞をこじらせすぎて、本当に、まったく、心の底から、思いっきり、大変、鈍感だったこと。一つは、ジャンが冒険者という不安定な職業に憧れているのを普段から公言していたためである。『革命』の影響もあり、中央大陸全土で空前の好景気なのだから、身体が大きくて力持ちのジャンが将来建設業界に飛び込みでもしたら、それこそ村中の少女達が獲物を見つけた目でジャンに入れ替わり立ち替わり身体を使って大胆に迫ってきたことだろう。大人達が期待するように領兵になった場合は隊長格が確定で、自然と高給取りになっていたのだから結果は同じだ。つまりジャンはダンジョンにとりつかれて冒険者に憧れるあまり、自分からハーレムルートをゴミ箱に投げ捨てている青年だったのだ。本来ならジャン一人に村中の少女の処女が食い散らかされていたところをジャン自らが投げ捨てていたのだから、村の青年達は大変好意的な目でジャンを見ているし、ジャンに憧れる少女の処女が他の青年にもっていかれても全く気づかず平然としている彼の姿に、周囲の大人達も大変(なま)暖かいまなざしで彼を見守っている。

 

 良く考えてみてほしい。

 この世界はバトさん級の爆乳超絶美人が按摩で食べていけないのだ。

 女冒険者は暗黒大陸ではZ級だの半額だの言われてまともに扱って貰えないのだ。

 それぐらいシビアに現実的な目で相手を判断する世界の人達の目の前で。

 

「僕は●●になるよ(●●には冒険者・ミュージシャン・漫才師・小説家など任意の夢を追う職業を入れて下さい)」と普段から公言してしまったらどうなるのか。

 

 例えばジャン君に片思いする村の少女Aが好きな村の青年Bがいたとしよう。

 普段からジャン君を憧れの目で見る村の少女Aを横目に、悔しい思いをしていたとしよう。

 でも、夢を追いかけることを決して諦めないジャン君を見て、絶望した村の少女Aが。

「貴方が冒険者(ミュージシャン)ではなく領兵(サラリーマン)になってくれるのなら、私を処女ごとあげるから結婚して」

 そんな事を言いながら服を脱いできたら、村の青年Bは喜んで領兵(サラリーマン)になるはずだ。

 そして似たような理由で村の少女達に迫られた村の青年達は、心の中でジャン君に感謝しながら少女達を抱く。

 

 スイッチをパチンと切り替えるように、少女から女になった女性達はジャン君に微笑みかける。

 『私は昨日まで貴方のことが大好きだったけど、昨晩他の男に処女をあげちゃったから、今日から貴方のことは諦めるね。だって冒険者志望より、領兵志望の男のほうが絶対に稼ぎが安定しているもの! ごめんね!』

 そんな、微妙な表情でジャン君を見ながらエヘヘと苦笑してくる少女に対して、彼女の真意が良くわからずに日本人的な愛想笑いを浮かべてしまうジャン君である。

 

 冒険者ではなく、せめて狩人であってくれたら。

 嫁を一人と定めて、職業を狩人に絞って村のために稼いでくれたのなら。

 そうすれば、13才で技量を認められた時点でいつでもジャン君は結婚できていた!

 

 それを! 全部! 深き不可知の迷宮(ふかふかダンジョン)のために投げ捨てた!

 彼は投げ捨ててしまったのだ!

 

 つまり、ジャン君は簡単にへたれと一言で切り捨てることができない、なんていうかこう、大変もどかしい、ええい、そのなんだ、大変好意的な表現として『夢追い人』とかそういうふわっとした……童貞もこみで色々こじらせすぎていたのだ!

 

 

 * * *

 

 

 そして今、ハーベラ領を中心に重大なバタフライエフェクトが発生していた。

 ニク=ドレ卿が聖王国兵まで動員してハルピュイアを狩りまくったことで、ハルピュイアが激減したことによる影響が少しずつ出はじめていたのだ。

 

 ハルピュイア自体は割と何でも喰うので、ハルピュイアの数が減ったことによりハルピュイアが食べていたものへの影響こそ無かったが。

 問題は、ハルピュイアを好んで食べていた連中の側だった。

 そう。ハルピュイア自体は人間にとって『真の最強種』かもしれないが、他の亜人やモンスター達にとってはそうではない。

 

 ハルピュイアをご馳走とするアラクネはまだいい。他に幾らでも食べるものがある。

 問題はレッサーハルピュイアだった。

 レッサーハルピュイアは、ハルピュイアの中でも最強級の連中が技を使い罠にかけてようやく倒しうるレベルの、ハルピュイアの天敵である(「織津江大志の異世界クリ娘サバイバル日誌」64話参照)。

 ハルピュイアが減ったことで、ハルピュイアの天敵の一つであるレッサーハルピュイアが餌を求めて活性化し、狩り場の範囲を人里まで広げはじめていたのだ。

 

 

 * * *

 

 

 キャキャキャ。

 キャキャキャキャ。

 

 織津江パイセンは、超害鳥とこいつらを評していたが。

 ホンッとマジでクソうぜぇ……!

 

 ハーベラ山中、僕を餌と定めた十匹以上のレッサーハルピュイアが大空を周回し、飛び回っている。僕は無言で大弓槍に無反動矢をつがえ、あえて上を狙わずに弓を地面側に下げている。

 連中は中途半端に頭が良いので、引きつけて撃たないと回避運動をはじめてしまう。

 

 レッサーハルピュイア。

 名前に「下位の(レッサー)」とついてはいるが、ハルピュイアより二回りは大きい。

 レッサーとは大きさではなく、ハルピュイアと比較して「知能面で下位である」ことから名付けられている。

 知能面で下位。つまり無駄に頭が良い上に、役にも立たない凶暴な人面鳥。ハルピュイアは人類なので胎生だが、レッサーハルピュイアは鳥類なので卵生という違いもある。

 

 ハルピュイアは人間の仲間なので、大空で羽ばたけない。

 レッサーハルピュイアは鳥類なので羽ばたける、完全な飛翔生物だ。

 

 ハルピュイアより大きく、ハルピュイアより飛行能力に優れている。

 そんなレッサーハルピュイアにとっては、ハルピュイアも人間もただの餌に過ぎない。

 

 レッサーハルピュイア達の動きに対抗しきれず、カスメが全速で僕に飛び込んでくる。

 

「ユーリーッ!?」

「カスメ、そこの岩陰に隠れて!」

 

 任意で筋力で加速してくるレッサーハルピュイアに対し、ハルピュイアは『重力でより速く加速し、より大きく高度を下げ、より大きく空戦力を失う』以外に対処方法がない。

 カスメと落ち合おうとしていたハーベラの山中、まさにその合流地点。

 レッサーハルピュイアに追われながら、カスメは必死に逃げ回っていた。

 

「メス ナノニ ユーリ ニオイ スルニャ!?」

「こんな格好だけど僕だ、ユーリだよカスメ! 僕を信じて、僕に任せて!」

「ワ ワカッタニャアアア!」

 

 スライムに命じて今の一瞬だけ男声に戻しつつ、振り返りざまに弓の一撃。

 投石で僕を潰そうとしたレッサーハルピュイアをギリギリまで引きつけた不意打ちだ。

 胸を矢で貫かれたレッサーハルピュイアがたまらず石を落とす。

 それでも僕を蹴り殺そうと突っ込んできたが、運足で軽く回りつつ、大弓槍で引っかけて地面に落とした。

 物凄い速度で地面に激突することになったレッサーハルピュイアは、醜いミンチとなり果てた。

 死体から即座にドブ鉄とアンモニアの悪臭が漂ってくる。

 絶対に食べられない対象だとわかるニオイ。

 

 僕が回ったので、膝丈スカートもふわりと浮き上がる。

 僕が履いている黒のニーハイソックス(冒険服姿のバトさんや、原作16巻のナギ&ウォルのセックスシーンでも彼女達が着用している。ブラジャーの無い世界だが、創世神はニーハイが好みのようだ)が大胆に、一瞬だけ露出する。

 ズボン着用時の感覚で、見切ってギリギリ回避とかしたら、スカートを巻き込む可能性があるな……と冷静に判断をくだす。

 

 カスメを一瞬で制圧した魔法『(なぎ)』(ナギさんと名前が被るが、わかりやすいので仕方が無い)を使おうにも、向こうの数が多すぎる。

 『(なぎ)』は、一定の範囲内に存在する力、例えば揚力をゼロにすることができる。

 対カスメ戦は、カスメの揚力をゼロにして飛べなくさせてからゆっくり料理した。

 

 まだ研究途中だが、空気などの媒質を伝わる波をゼロにする、つまり音を遮断できるので、その気になればバトさんから姿を消すという荒技もできなくはないが、その場合バトさんからすると『音の反響が無い空間』が突然出現することになるので逆にわかりやすくなってしまう。高い熟練度で音見を使える人間には通じないかもしれないが、『(なぎ)』はかなり便利だと思う。

 

 『(なぎ)』で範囲制圧できれば良かったんだが。熟練度がありません。

 ドラゴン戦の時のように、無理に強大なことをしようとすると何が起きるかわからない。

 「ゼロにする」「マイナスにする」の方面なら、シロミミズリュウモドキ(仮)もこんにちはしてこないはず。

 そう思っての『(なぎ)』だったんだけど、もっと練習&研究しておけば良かった。

 

 

 それにしても、困ったな。

 

 女性体の身体操作にまだ慣れていないことが一つ。

 カスメを護らないといけないことが一つ。

 矢を補充したいのに、戦荷車(ウォーワゴン)を開けてる余裕が無いぐらい数の差があるのが一つ。

 

 レッサーハルピュイアの全部が全部、僕の方に来てくれれば織津江パイセンのように連中を地面でミンチにできなくもないけれど――

 本気でニオイがきつい。川はどこだ?

 

 

 ユーリちゃん、地味にピンチです。

 お願いバーチェ、完全予測の偏差射撃で僕を助けて。

 

 役に立つ私を、一緒に連れて行かないなんて。

 おかわいそう。おかわいそうなユーリ様! 

 

 バーチェの幻聴が、なんとなく聞こえた気がした。

 

 

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