ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第71話 原作開始前・開き直り

 

 レッサーハルピュイアに獲物と定められ、狙われているユーリちゃんとカスメの姿を、山中の森の中から注視している一人の男がいた。原作一巻冒頭で顔が出ていた、ジャンの狩人の師匠ことハンティ爺さんである。ハンティ爺さんは背後から森の中をほぼ無音で近づいてくる存在に対し、それでもお前の気配なんざわかりきってるんだよと言わんばかりに声をかける。

 

「どうだったよ、ジャン」

「村に8、こっちに20以上……今は12です。あの()、助けないんですかハンティさん?」

「確かに、美人の嬢ちゃんだからいいとこ見せられるたぁ思うけどよ」

 

 ジャンを慕う周囲の少女達の想いに気づかぬまま、自身の友人達に堂々と少女達を寝取られ続けているのに全く気づけない哀れな弟子。どれだけジャンを茶化しても曖昧な困った笑顔で返してくるだけだ。

 

「そっ、そういうのじゃなくて。村の方は男衆がいるから大丈夫です。それもあってこっちにレッサーハルピュイアが集中してるみたいです」

「ふぅん。服からわかるが、領主様関係だな。ほら、見えるか?」

「セルヨーネ侯爵家の紋章が入ったメイド服……?」

「武器も見たことがねぇ。弓と槍が一緒になってやがる。趣味で作った奴か?」

「矢の音が小さすぎる。リカーブじゃないですね」

「新開発の装備なんだろうよ。領主様といえばホラ、『革命』をした発明好きじゃねぇか」

 

 流石に『革命』はジャンも知っている。

 自分が理論を知らず、できなかった冷蔵庫やエアコンをこの世界に実現してしまっているのだ。

 村に大きな変革はまだ来ていないが、それでもインフラなどに影響は出ているし、村が住みやすくなるのも時間の問題だろう。

 ジャン的には、隣町の本屋への行き帰りがラクになったし、本の在庫も充実しはじめたしで本当に助かっていた。

 

「日本刀……? ンッ! 変わった武器ですね。異国のものでしょうか」

「ハルピュイアを護りながら戦ってるのはわかる。わかる、が、ちと立ち回りがおかしい。多分身体に不調を抱えてんなァ。怪我か、病気か。なんにせよ本調子じゃぁねぇ」

「そっ、それじゃ早く助けに行った方が」

「それなんだがなぁ」

 

 ハンティ爺さんは、ユーリちゃんが大弓槍を構えて戦っている姿をじっと観察している。

 

「クソ鳥への矢の食い込み方がおかしい。あの()の使ってる矢はまず間違いなく無反動矢だ。ジャン、お前の考えたアレだよ」

「えっ? あっ、でも領主様関係なら……ウチの村から情報が流れた可能性が?」

「それはあるかもしれねぇ。そうだとしても、領主様なら無反動矢を悪いようにはしねぇだろ。だからそれはいい。ほら、わかるか? 嬢ちゃんの視線がちょくちょく荷車に向いてる。多分あの中に矢の予備が入ってる。状況を考えるんなら無理無茶上等で荷車ン中を開けて、矢を出すべきだ。でもそうしていない。何故だと思う」

「レッサーハルピュイアの数が多すぎて、余裕が無い」

「違ェな。それもあるだろうが本命じゃねぇ」

 

 ハンティ爺さんは、ジャンの予想を切って捨てる。

 

「心の余裕、だよ。あの嬢ちゃん、身体に不調を抱えた上でなお、化け物みてぇな強さだ。儂とジャン、二人がかりでも多分余裕で返り討ちにされる」

「……そこまで? そこまで強いんですか、あの()?」

「おめぇがオサン流を頑張ってんのはよぅく知ってんよ、ジャン。不意打ちの拳打を磨いてるのも承知の上さ。だがそれでも、だ。それでもなお……近接戦は一瞬であの()に殺される。矢も当たらねぇだろうな。全部躱されるか、斬って捨てられる」

 

 尊敬している師のハンティ爺さんが、そこまで言う少女。

 あんなに可愛くて、綺麗な()なのに。

 自分以外の村人達が、物凄い速度で剣や弓に上達していくのを何度も目の前で見ていたから、この世界に残酷な才能差があるのは知っているけれど……5才の時にダンジョン行きを決意してから九年間、真面目に研鑽してきた自負はある。

 それでもなお、師匠と二人がかりでも同年代の女性に返り討ちにされるというハンティ爺さんの言葉には受け入れがたいものがあった。

 

 ……もっとも、それは才能差ではない。

 ユーリの前世は古武術の奉納演舞をする程であったし(神社で奉納演舞をする人の力量がいかほどのものなのか、ちょっと考えればすぐにわかる)、今世は幼少時から鍛錬を重ねている。

 そもそもの年期と、知識と、戦いの経験と、そして加護の差。

 ジャンが保持している主人公補正をもってしてもなお、どうにもならない力量差があった。

 

「そんな()が、なんでこんなところにいるのか。間違いなく、お貴族様絡みの厄介ごとだ。下手に首を突っ込むと、儂ら村人程度じゃ帰ってこれねぇかもしれねぇぞ、ジャン。それでも行くか?」

「行きます」

「ハッ。そう言うだろうと思ったよ。儂は右、お前は左だ。全力疾走で森から出ての()び撃ち、あとは流れだ。いけるな?」

「誰の弟子だと思ってるんですか」

 

 ()び撃ち。走行中に安定した射撃をおこなうための射法。

 全力で走るなか止まらずジャンプし、上昇中と下降中に重心を制御し『上半身が上下動しない時間』を作り出し撃つ。

 ハンティ爺さんが得意とし、ジャンに受け継がれている技だ。

 

 ハンティ爺さんのハンドサインで、二人は同時に駆けだした。

 

 

 * * *

 

 

 さっきから森に隠れて誰かが見ているなー、と思ってはいたが。

 まさか二人同時に森から飛び出してきて、しかも()び撃ちで参戦とは思わなかった。

 

 っていうかあの格好いいクール爺さん、原作で見た記憶があるぞ。

 じゃあこっちの青年ってもしやまさかそんなマジですか本当にィッ!?

 

「今です、矢の補充をどうぞッ!」

 

 若い青年が、クール爺さんと共にレッサーハルピュイアを射殺しながら声をかけてくれる。

 着地しながらも早撃ちをして、害鳥共にキッチリ命中させている。

 どこからどう見ても一巻冒頭の若ジャン&狩人様ですねわかりますヒャッホイ!

 

「ありがとうございます!」

 

 すかさず礼を言い、戦荷車(ウォーワゴン)を開けて弓矢ケースを交換する。

 交換途中に背後からレッサーハルピュイアが襲いかかってきたが、織津江パイセンがやっていたように後ろを見ずに脚を掴み、地面に叩きつける。

 ……うええ、戦荷車(ウォーワゴン)とメイド服がちょっと汚れちゃった。ミンチ戦法も考え物だな。

 

 自分にとっては普通の対応をしたつもりだったが、ミンチを見て驚いたのか若ジャン&狩人様がドン引きしていた。

 ですよねー、こんなドブ鉄とアンモニアの悪臭が移るミンチとかイヤですよね!

 僕もイヤです! 早く戦闘を終わらせて川の位置を聞かないと。

 

 ジャンもハンティ爺さんも、後ろを見ずに背後からの攻撃を淡々と処理したユーリちゃんにドン引きしていたのだが、そこは悲しいすれ違いが発生していた。

 

「来るぞ、ジャン!」

「はいっ!」

 

 その呼び方で、若ジャン確定ですね。サイン欲しい……。

 ユーリちゃんがそんな事を考えている間に、若ジャン&狩人様はレッサーハルピュイアを処理していく。

 ユーリちゃんもすかさずの早撃ちで、レッサーハルピュイアの脳天をぶち抜いた。

 

 狩人&狩人の弟子コンビの参戦で、思いのほか早く戦闘が終わった。

 大弓槍と弓矢ケースを戦荷車(ウォーワゴン)にしまい、蓋を閉める。

 

 地上戦での数の暴力は敵を盾にする立ち回りができる。

 でも空中戦での数の暴力相手は、ちょっと、いや、かなりきつい。

 これは体験しないと実感できなかったな、とユーリちゃんは苦笑する。

 ……その、ほっと一安心した心の隙間を、残心ごとユーリちゃんは襲われる。

 

「ユーリーーーッ!」

「わぷっ」

 

 繰り返すが、レッサーハルピュイアはハルピュイアの天敵である。

 喰われて当然の戦闘力格差が存在しているのである。

 ただでさえ勝てないレッサーハルピュイアに、しかも何十匹もの数に追いかけられて。

 涙目で必死に全力で逃げ回った先に居たメスのユーリちゃんが格好良く助けてくれた。

 カスメでなくとも、ハルピュイアの一般的な感覚では「助けてくれてありがとう今すぐ抱いて犯して子供を孕ませて」になる、のだが。

 

 問題は、周囲が血とミンチまみれの惨劇で。

 さらに、ジャンもハンティ爺さんも見ている眼前での出来事だったことか。

 

 ショートヘアの美少女ハルピュイアのカスメが、超絶美少女のユーリちゃんを押し倒し。

 必死に、ついばむように、何度も何度もユーリちゃんにキスを繰り返しているのである。

 さらに言えばカスメはハルピュイアなので乳房も陰部も露出状態。

 

「……やっ、やめっ……カスメ……んっ……んふっ……」

 

 カスメの心理状態を考慮すると、無理矢理止めさせるのは怖い。

 少なくとも、ある程度落ち着いて貰うまで待つ必要があった。

 流石のユーリちゃんにも、どうにも出来ない流れだったのだ。

 

 突然の百合キスシーンに、ハンティ爺さんは頭を抱える。

 そしてそれは、ジャン君からすると。

 

 半裸の美少女ハルピュイアが、人間の美少女メイドを押し倒し。

 恐怖で涙目ながらも、その表情には安堵と愛情が入り混じり。

 見ているだけで照れてしまうようなキスをハルピュイアが繰り返しているものだから。

 

 ジャンの心の奥底で、何かにピシリと、亀裂が入る音がした、

 

「……嬢ちゃん達、悪ぃけどその辺で一旦やめてもらっていいかい」

「あっハイすみま、カスメ、お願い、離れ……後で。後でね?」

 

 言われて、渋々引き下がるハルピュイア。

 空にレッサーハルピュイアの姿が見えないのを確認し、ハルピュイアは不満げにサッと大空に駆けていってしまった。

 

 とはいうものの、ジャンはユーリちゃんの台詞の最後『後で。後でね?』がこびりついて離れない。……後で、彼女達は何をしてしまうのだろう?

 知らず、ジャンは息を飲んでしまう。

 

「川まで案内してもいいが、嬢ちゃんは矢を補充したいだろう? 服も汚れちまったようだし、サビレ村まで来ちゃどうだい。領主様の紋章入りの服を、汚したままってのはいけねぇや」

「あっでも、この矢は特別製で……ん?」

 

 ジャン君がここにいるってことは、そのサビレ村にある矢って、まさか。

 補足するように、ジャンが笑顔で告げる。

 

「安心してください、ウチの村で扱っている矢は全て無反動矢です」

「……そうでした。そうでしたね。ご安心下さい、特許は申請していません」

 

 特許を申請していない、というのは広めていないということ。

 軍事機密にしてありますよ、という台詞に等しい。

 

「領主様は田舎村の事にもお詳しくていらっしゃる。まあそれはいい。流石にここはニオイが酷い。早いところ村の風呂に入るといいさ」

「お言葉に甘えさせて頂きます。レッサーハルピュイアの死体処理はこちらの手の者にお任せ下さい……そうだ、名乗っていませんでしたね」

 

 ユーリちゃんは、身をただす。

 やばいなー、設定考えてなかったな、と思いつつ。

 カーテシーをしながら、色々でっちあげる。

 

「ユーリ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵の双子の妹、ユーリ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵令嬢と申します。諸事情ありまして、僕、じゃない、私と兄さん……兄様は名前が被っておりますので紛らわしいですが、どうかお許しを」

 

 ユーリちゃん自身は必死に設定を考えながら話したため、ボロがでまくった話し方になっていた。だがそれは、結果的に、無意識で奥義を発動させることになった。

 聞いていたジャンからすれば「もしかして普段は僕っ()? しかも普段は兄さん呼びなのに、外向けに兄様って言い直した!」と興奮要素が漏れでている形になった。

 

「そいつは丁寧にどうも。儂は狩人のハンティ。皆はハンティ爺さんと呼ぶ。コイツは弟子のジャン。まだ若ェのに、冒険者になって深き不可知の迷宮(ふかふかダンジョン)に行くんだと聞きゃしねぇ」

「……しっ、師匠、そりゃないですよ! 俺は最強の冒険者になって名を馳せて、故郷のサビレ村に錦を飾りたいんです!」

「素敵なお考えだと思います。実際、私も4~5年後には、兄様と共に暗黒大陸に出向き、深き不可知の迷宮(ふかふかダンジョン)を攻略していることでしょう」

「貴女もなんですか?」

「ユーリ、と。そうお呼び下さい」

「ユーリさん……俺のことも、ジャンと」

「はい、ジャン君」

 

 ジャンはめっちゃ照れた。ハンティ爺さんは苦笑する。

 

「お貴族様で、しかも一族揃って北に行くたぁ、今度のご領主様は大分頭がおかしくていらっしゃる」

「師匠!」

「否定はしません」

 

 くすくす、とユーリちゃんは笑う。

 

「一時的にせよ、先代のミーナ夫人にハーベラ領の全てを任せるという意味でもありますからね。でも兄様は、中央大陸どころか暗黒大陸にもさらなる『改革』を施して、領民のみならず人類全体をさらに生きやすくしてから北へ行くつもりのようなので、ただ無責任にハーベラ領を放置することはありません。ご安心下さい」

「さらに生きやすくなるってのか。儂にゃ想像もできん」

「俺もです。凄いですね、ご領主様は」

 

 なお、歩きながらこの会話をしているが。

 先ほど発生した大量のレッサーハルピュイアの死体は、現在進行形で周辺の野良スライム達が手分けをして喰い漁っている。

 

「嘘かマコトか知らねぇが、ドラゴンを倒したとかいう話もあらぁな」

「それですよ、それ!」

 

 ジャンが食いつく。

 

「ハーベラの領兵が全員死ぬぐらいの激しい戦いの末にドラゴンを倒したって話! 新聞で読みました!」

「……ドラゴンを倒したのは、事実です」

 

 ドラゴンを倒した後に、そのハーベラ領兵に後ろから射貫かれただけで。

 僕ことユーリちゃんは懐から……この服、懐がないな?

 女性が手提げ鞄を持つ理由は、服にポケットが無いからだっていうのがわかるなぁ。

 荷車を開けさせて貰って、二枚のうろこを取り出す。

 

「ここでお会いしたのも、何かのご縁でしょう。ドラゴンのうろこです。どうぞ」

 

 ほう、と興味深そうにハンティ爺さんはうろこを眺める。

 一方、ジャンはうろこを手に大興奮だ。

 

「……凄い、これが! ドラゴンのうろこ!」

「お話中、すいやせんがね。ハーベラ領イチのど田舎、サビレ村へようこそ」

「いえ、視察にもなります。弓矢代もちゃんと支払いますので」

「なんでしたら、ウチに泊まっていきますか?」

 

 ジャン君のお母さんに会えるのは、悪くない。

 村娘ルマノの聖地巡礼なんてどうでもいい。

 ジャン君の聖地巡礼でしょ、ここはッ!

 

「はい、お言葉に甘えさせていただきます」

「やたっ!」

 

 ジャンがガッツポーズで喜ぶ。

 そんな喜ぶこと、あったかな?

 

「……お嬢ちゃんがお貴族様ってこと、忘れてねぇか?」

「そっ、そん↑なこと↓は無いです↑?」

 

 ジャンは動揺する。

 実際、とんでもない美少女をジャンが連れてきたことに、村人達は遠目に大騒ぎだが。

 ユーリはユーリでジャン邸の聖地巡礼で頭がいっぱいで。

 ジャンはジャンで、ユーリのことをもっと知りたかったため、村人達は見えていなかった。

 

「ああそうだお嬢ちゃん、頼みがあるんだけどよ」

「はい、なんでしょう?」

「いつか北に行くってんなら、一緒にコイツも連れていっちゃもらえねぇか? 領兵か狩人として村に落ち着いて貰いたかったんだが、どうにもコイツはおさまりがつかねぇ。放っておいても勝手に村をでちまうってんなら、領主様ご一行と一緒に北に行って貰った方が、まだ生き残りの芽があらぁな」

 

 真剣なハンティ爺さんの頼みに、ジャンは困り顔をする。

 

「師匠……」

「コイツの強さも、この村じゃもう頭打ちだ、できることがねぇ。才能が無いと言い訳をすることはできる、でもそれじゃ……そんなんじゃ、北の地は……駄目なんだろ?」

「……そうですねぇ……」

 

 変に僕がジャン君に介入すると、下手したら原作5巻のジャン君vs白面金毛戦で決着がついて、後は消化試合になるんじゃ? みたいなことはぼんやり考えていた。でも必ずしも人類側に僕が味方するとも限らないし、バーチェのエルフ耳の件が問題となって聖教会と全面戦争に突入する路線もありうる。クコロとグラスちゃんの件がどう転ぶのかもわからない。アロ・ナギ・ウォルもそうだし、カタナちゃんもそうだし、聖剣の勇者メンバーも同様だ。

 ただ、アロの側室入りの懸念や、今の僕の女性体のこと。そもそもバトさんには僕の子供が産まれているし、セスレが側室となっていること。既にもう、原作のどこをどう参照すれば未来予測ができるのか? というレベルで原作が崩壊していて、現時点ですら「どーなんのこれ?」と首を傾げざるを得ない。

 

 なるようにしか、ならないか。

 

 原作知識を使って『うまく立ち回った』として、だからなに? って感じだよね。

 例えばヒュドラ戦の原作知識を活用して、ヒュドラに完封勝ちしたとしよう。

 それで、何か楽しくなる?

 無理矢理呼び込んでヒュドラ軍vsシロミミズリュウモドキ戦とかはじまったら少しは面白いかもしれんけど。

 

 開き直りが全然足りてないんだと思う。

 それこそ、世界の全てに介入するぐらいの勢いで動いた方がいいのかもしれない。

 

 可能性の例をちょっと挙げる。

 例えば、最初の最初。ジャン君がA級パーティ「先導者」に加入したとしよう。

 その場合、カタナちゃんで童貞を捨てたジャン君が、そのままカタナちゃんに魅了されて逆ハーメンバー入りしてケンタウロス側になってしまい、絶望の草原に行ったまま帰って来なくなる。

 これはこれである意味斬新かもしれないが、少なくとも僕がエンジョイ出来ない。

 ゆえに却下とする。

 

 原作5巻のジャン君vs白面金毛戦の時、ジャン君はカマセドッグスが負けた理由をキチンと分析して白面金毛戦に活用している。

 言い換えるとカマセドッグスの犠牲があったからこそ新人組は戦略を立てることができた。

 そうなると、原作知識を活用するなら、カマセドッグスを見捨てた方が良い……という流れになってくる。

 

 いやいやいや。そうじゃないでしょ。そうじゃない。

 我らがネームド英雄カマセさんの薙刀無双を見てみたかったとネタで泣いて、そこで終わらせるのではなく!

 ガチでそれを実現させてこその原作介入なのではないだろうか?

 

 もっとだ。もっと開き直れ!

 僕がいるこの世界線を覗き見している上位存在の連中が、「えっこれマジでどうなるの?」と首を傾げるぐらいに!

 

 そして、それが出来るのは!

 かくあれかしと舵を回せるのは、僕だけなのだから!

 

 

「二つ。お二つ程、ご提案があります」

「聞こうじゃないかね」

「まず、ジャン君。貴方がいま学んでいる武術の流派を捨てる気はありますか? 対人と対モンスターのみならず、対亜人をも視野に入れたこの世界初の武術、雷光流。その雷光流を創流した宗家たる私の兄様、ユーリ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵に弟子入りし、先ほどジャン君自身が言った……文字通り最強の冒険者となることを、本当に実現してみませんか」

「……オサン流を捨てて、雷光流……?」

「兄様はとても喜ぶでしょう。ハーレム程度なら確約するほどに」

「ハッ、ハーレム!?」

「兄様は聖王国も保証するドラゴンスレイヤーです。王城内で帯剣すら許されている……この意味がわかりますか?」

 

 ハーレム発言も含めて、ジャン君は色々と動揺する。

 聖王国は平民でも重婚アリだよジャン君、思い出して。

 

「そして、ハンティ様。ジャン君の弓の師にして狩人の師。貴方もまた、北の地へ。暗黒大陸に行きませんか? もちろん高給は保証しますが、お金ではなく、このサビレ村の優先開発を、セルヨーネ侯爵家の者として約束しても構いません」

「儂も、じゃと……?」

「ええ。もちろん最低でもあと五年は長生きして貰わないと話になりませんが。『魔術師の森vsハンティ様』……個人的に楽しみなドリームマッチでございまして」

 

 ゴブリンマジシャンガールの「ねぇどんな気持ち(NDK)?」に真正面から対抗できる数少ない存在だと思うんですよジャン君のお師匠様はッ!

 

「どちらのお話も。お住まいを含めた衣食住の全て、セルヨーネ侯爵家が保証いたします。来るべきその日まで、全てを鍛錬に費やして頂いて構いません。……ですが、ひとまずはその前に」

 

 僕は。ユーリちゃんは、ジャン君を見ながら。

 

「オサン流、ジャン。雷光流、ユーリ・ハーベラ・セルヨーネが、一手ご指南いたしましょう」

 

 

 銀髪碧眼ロングボブに眼鏡の超絶美少女。

 一般的な同年代の少女より遙かに綺麗な肌。

 格好良いデザインのメイド服に膝丈のスカート、頭にはホワイトプリム。

 あきらかに日本刀の大小とわかる刀を腰にさした少女は。

 

 返り血が多少残ったメイド服のままで。

 左手を鯉口にかけ、薄く微笑んでみせた。

 

 美少女の壊れたような微笑みは、ジャンの心の何かをまた破壊していった。

 

 

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