ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第77話 原作開始前・血塗れ侯爵

 

 狭間悠里(はざまゆうり)が中国拳法を学ぼうと思った時、一番難儀したのは師匠探しだった。

 本気の本気で()()がいない。思い返せば九割は偽物だった。

 金儲けのことしか考えていない嘘つきだらけで、心底残念だった。

 

 ようやく出会えた本物の師父(シーフー)は見た瞬間に「この人が日本、いや世界で最強だ」とわかる人で感動してしまい、その場で土下座して教えを請うてしまった。

 苦笑いを浮かべながら、その人は師となることを了承してくれた。

 

 その師匠からは、八極拳、擒拿(チンナ)、査拳、銬手翻子拳を。

 その人の奥さんからは、太極拳、八卦掌を教えて貰えた。

 

 ある程度学んだ後、一緒に酒を飲むことを許された。

 中国人に嘘ばかりつかれて苦労した話をすると、師父(シーフー)は遠い目をした。

 

「『もし八極拳の演武を頼まれたら、大八極(大架式)をやれ。絶対に小八極(小架)は見せるな』という言葉があってね。彼らは仲間以外には決して真実を言おうとしないんだ」

「小八極も八卦十二天肘も八卦腿も、今じゃYoutubeとかの動画サイトですぐ出てきちゃうじゃないですか……」

「うん、その動画が偽物の套路(とうろ)であったとしても、知らない人達には本物と区別がつかないね」

 

 師の台詞に、思わずマジマジと師を見つめ返してしまった。

 そうだねぇ、と呟いてから師は続ける。

 

「例えば、中国人の師が『龍のように打て』と言った場合、多くの外国人はゲームに出てくるようなドラゴンを想像してしまう。だけど中国人にとっての龍というのは、山脈よりも大きい何かなんだ。ゲームの龍と、山脈よりも大きい何かでは、イメージしながら打つにしても全然違ってくるよね。でも彼らは、外国人が勘違いしているだろうとわかっていながら、それを正そうとせずに黙ってる。誇張もとっても多い。呼吸するように大げさに盛ってくる」

「えっ、じゃぁ、二の打ち要らずの李書文とかも嘘なんですか。猛虎硬爬山とか超有名じゃないですか」

 

 そう言うと、師は酒を一口飲んでから笑って言った。

 

「あれはこっそり二回打ってる。知らない人が見てもわからないように相手を崩してるだけ」

「俺の八極拳への尊敬を返してくださいよ……じゃぁ相手の頭が胴に沈んだ逸話とか、牽制の一撃で即死した話とかも?」

「どっちも、今のキミなら出来ると思うよ? やったら警察が来るから試せないけど」

「うっわ、それはそれで酷くないっすか師父(シーフー)

「謎かけみたいなものだよ。ある程度下地があって、謎が解ければ出来るってわかるから」

「そんなもんですかねぇ」

「そんなもんだよ」

 

 談笑のあと、今度また飲みましょうと師父(シーフー)は言ってくれた。

 残念ながら、車に跳ねられてその願いは叶わなかったけれど。

 

 

 * * *

 

 

 すぐそばでバーチェにセクハラしまくっている第二王子を見ながら、条件が整っているなと冷静にユーリは判断した。

 ついでだ。前世の謎かけを、今解いてしまおう。

 

 ユーリの身体が右に向きながら一歩踏み込み。その右手が曲線を描いて伸びた。

 無造作に、全くの自然な動作で、ユーリの右手が第二王子の額に触れた。

 起こりのない動作というのは、そこにあるのが当たり前なのだと錯覚するぐらい自然な動きに見える。頭でも撫でられるのだろうかとその手を受け入れた第二王子(受け入れるもなにもそもそも人体の防御反射が発動しておらず、回避自体不可能)だったが、ユーリの右手が下に押し込む動作をした瞬間、第二王子の頭はぐにゃりと胴に沈んだ。

 この世界にはまだない概念だが、漫画かアニメか映画か、といった演出レベルの出来事が発生してしまった。文字通り眼前で見ていたバーチェを含め、副宰相も軍務大臣も、開いた口が塞がらないぐらい驚いてしまった。

 

 猛虎硬爬山。

 

 『拳児』や『バーチャファイター』では、連携技のフィニッシュの掌底として扱われている。

 だが、その技名は「山を駆け上る虎」という意味だ。そんな技が、連携技の掌底であるはずがない。中国人お得意の大嘘というやつだ。

 「虎が引っ掻くような動作」があるはずなのだが、彼らは教えてくれない。

 師は言った。こっそり二回打っている、と。

 

 他の人には、ユーリの右手が真っ直ぐ伸びたように見えたかもしれない。

 実際には纏絲勁を活用しているので、螺旋の描き始めのような軌道で伸びている。

 当然、起こりは完璧に消している。

 

 額に上段突きでも良かったが、それでは謎解きにならない。

 結果として崩すのだから、突きである必要は無い。

 

 ユーリは初打として掌で軽く額に触れることにした。

 

 ここで二つの反応が無意識に第二王子に発生した。

 額を押されたから、頭を前に押し返す反射動作が入り。

 額を押されたことで、連動して腹筋に力が入らなくなった。

  

 二の打ち。

 掌を倒して、前に押し返された相手の頭を崩す打ち方をした。

 

 やはり、第二王子に二つの反応が発生する。

 頭を崩されたから、顎が前に出る。

 身体を横から見て、頭~頸骨~胴体のラインがN字型に歪む。

 

 このタイミングで、ユーリの「虎が引っ掻くような動作」が発動する。

 纏絲勁、十字勁、沈墜勁の同時発動で手を押し下げる。

 N字型に歪んだ脊椎が連続して脱臼し、起きてはいけない音を発生させながら頭が沈んでいく。

 第二王子は腹筋に力が入らないので、一切の抵抗ができない。

 

 虎が山を駆け上がり、山が沈んだ。

 まさに絶招、猛虎硬爬山。ユーリ式の解法である。

 

 「額に軽く触れ」「頭を軽く打ち」「頭を押し込む」。

 何も知らない人が見れば、ユーリの手がなんとなく伸びたら第二王子の頭が胴に沈んだ。

 戦慄の技である。室内にいる全員、近衛兵も含めて誰も動けない。

 

 ユーリ的には、こっそり二回打って崩してさらに押し込んでるからコストパフォーマンス的にどうなんだろうと思い始めていた。

 李書文も結局は同じ中国人なわけで、彼らの性格上、掌底の発勁で相手が死ぬレベルに到達しちゃったらなんか色々面倒臭くなってきて、「李書文よ、これがかの猛虎硬爬山なのか!?」「そうそう、それ猛虎硬爬山。弟子募集中!(猛虎硬爬山の真実は秘奥で口伝ってことにすれば弟子も増えて金も儲かるやろ)」みたいなノリで掌底が猛虎硬爬山扱いになってしまったところを李書文が毒殺されて真実がうやむやになったのはわりとあり得るかもしれないと感じてしまった。

 

 あーでも素手攻撃の範疇だし、これも僕の加護含みかもしれない。

 謎が解けたのかは、ちょっとわかんねーな?

 でもついでだし、牽制の一撃で即死させるのも試してみるか。

 多分中国人のノリ的に「本気の一撃なんだけど牽制のように見える一打」なんだろうな。

 メンツを重んじる民族だって言うのはわかるけど、そこまでする?

 

 無表情のユーリが、副宰相の方を向く。

 軍務大臣は、なんとか叫ぶ。 

 

「ひっ、ひいい」

「せっ、セルヨーネ侯爵乱心! 第二王子が殺されたっ!」

 

 ユーリは副宰相の方に歩きながら、問う。

 

「あのさ、副宰相さん」

「ひいい」

「ミーナ夫人、何回抱いたの?」

「いっ、一回」

「そっかー、気持ちよかった?」

 

 この発言の時、既にユーリは副宰相の目の前に立っている。

 コクコクと、必死に副宰相は首を縦に振っている。

 

「じゃ、とりあえず一回」

 

 そう言って、ユーリはポン、と軽く副宰相の胸に中指一本拳を置いた。

 その瞬間から、副宰相の身体はズシンと重くなり、胸骨が開いていく感覚に陥った。

 中指一本拳が膻中(だんちゅう) に置かれた瞬間から、崩しがはじまっている。

 

 寸勁。

 ユーリの発した足下からの体当たりの力が、術理を伴って崩しの入った膻中(だんちゅう)に吸い込まれた。

 しかも吹き飛ぶ打ち方ではなく、浸透勁として身体に残る打ち方。

 むき出しの心臓に一撃を貰ったようなものだ。

 副宰相は激しい目眩と呼吸困難に陥り、胸を押さえて昏倒し、ふらりと倒れる。

 口から泡を吹いて、目を剥いてビクビク痙攣している。

 

 ユーリが軽く副宰相の胸に手を置いて、身体を押したら突然倒れて死んだように見えた。

 流石の近衛兵も後ずさる。

 軍務大臣はぶつぶつと、こんな、こんなはずではと繰り返している。

 

 ユーリはユーリで、自分の拳を眺めながら。

 やっぱ死なないよなー。偶然不整脈とか起きて死んだのかな?

 いや、泡吹いて倒れたのを「死んだ」扱いに誇張して吹聴したんだろうな。

 相手が気を失ったんなら、あとで撲殺してもバレないだろうし。

 中国人なら絶対やる! あり得る! 僕達は妙な信頼感で結ばれている!

 そんな事をユーリは考えていた。

 

「あっ、あの。セルヨーネ侯爵」

「ん?」

 

 剣を構えた近衛兵が、震えながらユーリに尋ねる。

 

「乱心と伺ったのですが」

「うん、第二王子と副宰相と、あと軍務大臣が乱心してね?」

「はあ、第二王子達の方が……」

「そうだ。近衛さん、その剣借りていい?」

「は? これを、ですか?」

「いや、僕とやりあうってんならやりあってもいいですけど。やります?」

「い、いえ、どうぞ……」

「どうもー」

 

 ユーリはそう言うと、素早く踏み込んで。

 近衛から借りた剣を、無造作に軍務大臣の股間に突き立てた。

 室内に、軍務大臣の絶叫が響く。

 

「軍務大臣の陰毛とかついてたら、ごめんね?」

 

 血のついた剣を近衛に返す時に、近衛がちょっとイヤそうな顔をしていた。

 

 

 * * *

 

 

 白面金毛さんがよくやる演出、あるでしょ。 

 アレ、一回やってみたかったんだよね。

 

 血塗れの股間を押さえて悶絶し続ける軍務大臣の片脚を引きずって、そのまま陛下のおわす謁見の間まで行きました。

 

 陛下や宰相達が呆然とし、謁見の間に配置されるレベルの近衛兵に槍を突きつけられる中、僕は軍務大臣を放り投げる。

 

「ひっ……やめ……助……」

「ご注進申し上げます、陛下」

「……何事か、セルヨーネ侯爵」

 

 冷静に陛下が聞いてくる。

 軍務大臣がうるさいんで、背中を踏みつける。

 

「第二王子と副宰相と軍務大臣の罠にハメられそうになりましてね。とりあえず第二王子は()っときました。証言用に副宰相と軍務大臣だけ残してあります。副宰相は気絶したんで縛り上げました。……第一王子がご健在なら、スペアの第二王子がいなくても大丈夫ですよね?」

「簡単に経緯を述べよ」

「宰相、こちらへ来て貰っていいですか? あ、これ『新革命』の草案です。そんなに怯えなくて大丈夫です。後で模型見本を王城に運ばせますので、陛下と一緒に『新革命』の草案をご検討下さい。最低でも10年か20年は忙しくなると思いますけど、王太子は確定しそうだし、聖王国の未来も安泰ですね。で、コイツ等なんですけど」

 

 僕は言いながら、軍務大臣の横腹を蹴り上げる。

 

「『新革命』の草案があれば第二王子が王太子になれると信じて、僕の嫁を寄こせと言ってきたり、先代のミーナ夫人を強姦してたり、とにかく色々やらかしてます。僕以外の被害者もいるはずなので、家宅捜索とか拷問とか、きっちり締め上げておいてもらえません?」

「セルヨーネ侯爵。卿が内政関係の大臣になったり、軍務大臣になったり、いっそ副宰相から宰相コースを駆け上がってくれても聖王国としては一向に構わんのだがね?」

「聖王国の弱点は人材不足ですねぇ。4~5年経ったら一回暗黒大陸に遊びに行こうと思ってるんで、せめて帰ってきてから、かなぁ……王太子が確定したあとの第一王子とはキチンと仲良くしておきますので、今はそれで勘弁してもらえませんか」

「卿がドラゴンスレイヤーでなければ、副宰相から宰相コースを強制できたというのに。ふむ……正妻に第一王女はいるかね? 年頃だと思うのだが」

「いやそれ第二王子にも言われたんですけどね、ちょっとご遠慮したいなーって」

「それは残念だ。今回は邪魔が入ったようだが、いつでも奏上や、第一王女に対する心変わりは受け付けているよ。……衛兵! 副宰相と馬鹿大臣をひったてよ!」

「ひいいいい」

「うるせぇ」

 

 軍務大臣をもう一度蹴りとばしてから、僕は簡易貴族礼をして謁見の間を後にした。

 

 バーチェがずっと青ざめていたので、必死に慰めながら帰宅した。

 第二王子の頭が胴に沈み込んだ場面を目の前で見ちゃって、身体の震えが止まらないっぽい。

 恐怖の対象が僕に向かわないようバーチェが必死に心をコントロールしているのがわかっちゃって、本当にごめんね、と馬車の中で抱きしめ続けた。

 

 なお、王城の様子がどこをどう伝わったのか。

 僕の冒険者としての二つ名に「血塗れ侯爵(ブラッディ・マーキス)」というのが追加されていた。

 なんでやねん。そこまで血ぃ流してないっつーの。

 面倒で噂を放置してたら、いつの間にか弓王ボーゲンのような逸話に変化してた。

 僕は王子を殺し、宰相を殺し、大臣を殺し、奪った近衛兵の剣が血で紅く染まるほど暴れ、謁見の間を血で染め上げたそうだ。

 なんか一部は合ってるから妙に否定しにくいのがタチ悪い。

 

 あっ。これ色々勘違いされて、聖教会から警戒されるか笑われるやつだ!

 

 

 * * *

 

 

 『新革命』案が無事に奏上され、陛下と宰相をはじめ各大臣間で色々と話し合われ。

 世界が新たに動き始め、技術革新のアクセルを踏みはじめていた、まさにその矢先。

 

 原作11巻21Pにおけるアロちゃんの台詞には、こうある。

「私の実家は、お父様が発明した最新の暖炉のおかげでもってたからね。煙突とか暖炉についてはちょっと詳しいわよ?」

 

 秋が深まり、冬が近づき、暖炉関係を売り上げる最大の好機だというのに。

 マキスト・ビスス・ローリン男爵家が取り扱う最新暖炉は、僕が陛下に奏上した『革命』『新革命』関連に完全に喰われ、ローリン男爵家が存在意義を失うレベルで領地経営が悪化し、ビスス領は借金でヤバイことになってしまった。

 

 そこで、マキスト・ビスス・ローリン男爵家からユーリ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵家に対し、寄親寄子関係の打診、及び借金返済に関する相談、男爵家が抱える奴隷メイド達(ナギさんとかウォルさんね)の侯爵家への売却、またアロ・ビスス・ローリン男爵令嬢(もうすぐ11才の現10才、今年社交界デビューしたばかり)を将来の側室としてセルヨーネ侯爵と婚約させて欲しいという打診が来たのは、バタフライエフェクトというかなんというか……まぁそりゃ男爵家の食い扶持に手を出しちゃったら当然そういう流れになっちゃうよね、さてどうしたものかと遠い目をしてしまうことになるのだった。

 

 仮に来年アロちゃんがウチに来るとして、僕15才、ジャン15才、アロ11才、セスレ17才、バーチェ20才、バトさん23才、ミルヒ&カカオ13才、ついでにナギ25才、ウォル19才。

 

 つーか原作1巻で「男嫌い」とウォルに言われてるアロと、3巻で女性の社会進出とか言い出してるアロと、それでもおじいちゃん伯爵を夫として愛しているアロが糸で繋がらないんだけど、あれはどういう繋がり方をしているわけ? 直接会って話を聞いてみないと本気でわからん。14巻の過去回想と照らし合わせてもマジで意味不明なんだが?

 

 場合によっては、暗黒大陸に行く前に、中央大陸で徹底的に教育しないと駄目かも。

 女性解放戦線みたいな思想を持ったメイドがそばに居たりしてねぇよな?

 

 カスメも最近姿を見ない。

 僕の子か、どこかのオスハルピュイアの子を孕んでたりするかもしれん。

 

 ジャン君はジャン君で、ゴブリン少女との間に子供作ってたりしそう。

 頑張れ。頑張れナァルちゃん。

 結婚前に処女喪失が駄目な国、または地方がわからなくて探せないよ。

 探せたらジャン君専用にしてあげるからさ。

 

 流石に奴隷メイドとして買い取っちゃったらナギ&ウォルは多少つまみ食いせざるを得ない。ごめんねジャン君、諦めて。その代わり、僕が予想より全然使ってないから余裕で在庫が余ってる異世界ペッサリー、使い放題にしてあげるからさ!

 ナギさんが煽ってたような妊娠の危機とか感じずにガンガン膣内射精(なかだし)していいよ、僕が許す。

 

 

 マキスト・ビスス・ローリン男爵家との話し合いの結果、年を開けてすぐ、婚約期間一年としてアロちゃんがウチに来る事になった。

 さて、男嫌いとか、女性の社会進出案件はどうなっているのか。

 この世界線の貴女に会って確かめてみるとしましょうか、アロお嬢さん?

 

 

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