ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第79話 原作開始前・話半分のアロ

 

 さて、アロちゃん関係のことを念のためにおさらいしておこうと思う。

 

 原作11巻21Pでのアロの台詞。

「私の実家は、お父様が発明した最新の暖炉のおかげでもってたからね。煙突とか暖炉についてはちょっと詳しいわよ?」

 アロの実家の男爵家は、暖炉事業で稼いでいた。

 この世界線では、マキスト・ビスス・ローリン男爵家。

 この台詞、裏を返すと暖炉が無ければ家を維持できないという意味になる。

 男爵家の経済は世知辛いのだ。

 

 原作6巻21P。

 ウォル自身が「法的にはアロちゃんのお父様所有の奴隷」と言っている。

 この時のアロは伯爵の第九夫人であるにも関わらず、ウォルはアロの実家父の所有物のまま。

 ウォル自身の事情はともかく、奴隷である以上「所有者が望めばセックスも可」ということ。

 

 原作6巻37Pのナギの台詞。

 「私は妾の立場に慣れてるので邪魔はしません」

 夜、貴族に抱かれることに抵抗がないということ。扱いが奴隷だからだろう。

 文脈から考慮すると、複数の男の間を妾として渡り歩いていた可能性もある。

 

 原作14巻139Pのアロの台詞。

 「(アロが産まれる前に)ナギが産んだ女の子もすぐに亡くなっちゃった」

 これは二つのパターンが考えられる。

 アロ父がナギを妾として抱いて産ませたパターン。

 アロ父の前の所有者が子を産ませたが子が死んだため、乳母にも妾にも使えるメイドとしてアロ父に売却した。

 どちらにしても、ナギもウォル同様に奴隷メイドであろうことは簡単に察せる。

 

 原作2巻、83Pのナギ。

 ジャン君にアロお嬢様を守って貰うためだけに、自分の身体を本番OKで捧げている。

 これも複数の意味が読み取れる。

 セックスで相手を縛るぐらいにセックスを手段として割り切れる女性である。

 自分が妊娠したら、敬愛するアロお嬢様が冒険を辞めてくれるかもしれない。

 (もっともこれは2巻時点であり、最新話付近だと膣内射精OKでヤりまくっているので、色々とどうでもよくなったぐらいジャンのことが好きになったと思われる)

 

 ゆえに、ジャンは16巻でナァルちゃんに「ナギさんとウォルさん娶るんですよね?」と言われているが、ジャンがそれを実行するためにはアロ父から奴隷の所有権を買わなければならない。

 ここまでは、原作から読み取れる公式設定と断言できる。

 

 ナギさんウォルさんのような美人を、オナホ代わりにすることが可能な奴隷メイドとして買うって相当の浪費だと思うんだよねぇ。

 好意的に受け止めるのなら、それだけ原作男爵家の最新暖炉は売れていたということになる。

 

 

 さて、原作では冒険を望むアロちゃんの受け皿となる貴族がおじいちゃん伯爵しかおらず、アロ父は相当難儀したと思われるが。

 僕のいる世界線では、話が変わってくる。

 

 まず、僕の『革命』『新革命』は暖炉どころか冷房も含めたパッケージ提案だ。

 アロ父マキストの発明暖炉の完全上位互換の『革命』の前に、暖炉が売れるわけもない。

 暖炉の売り上げで経済を支えていたローリン男爵家は没落寸前となった。

 そこで『革命』の発案者である僕、つまりセルヨーネ侯爵家に助けて貰おうと考えた。

 寄親寄子関係の打診、借金返済に関する相談、男爵家が抱える奴隷メイド達の侯爵家への売却という生々しい金策を経て、その上で娘のアロ・ビスス・ローリン男爵令嬢を側室として僕に婚約者として送り込んだ、という流れになる。

 

 冒険を望むアロちゃんだからウチに来たわけではなく。

 実家が潰れそうだから金策として売られた貴族令嬢、というのがまず最初に来るのが原作との大きな違いになるだろうか。

 二番目の理由として、冒険を望む跳ねっ返り娘なら、冒険者として活躍しているユーリ侯爵が結婚相手であれば、なおのこと問題はないだろう。

 アロ父にとっては一石三鳥か四鳥ぐらいになるわけで、やらない理由が無い。

 婚約中のアロに手をつけて結婚が早まるようなら、余計に男爵家は早く救われる。

 例のお爺ちゃん伯爵は他国の貴族なので、余計に彼に出番はない。

 

 ただ、原作のアロも、この世界線のアロも。

 「守るべき領民のために自分の心を隠し、貴族の責務として娼婦のように抱かれにきた令嬢」というのは変わらない。

 

 ほら、だって。

 原作14巻140ページの伯爵家と妻達の歓迎シーンのように……一月なので原作よりはもうちょっと温かい服装ではあるけれど。

 

 完全にハイライトの消えた瞳、思考停止でろくに周囲が見えていない。

 会話が成立するのかどうかも怪しいふらふら立ち。

 ぼんやりと下を向いて俯いているアロ・ビスス・ローリン男爵令嬢が、僕の目の前に立っているんだもの。

 

 

 * * *

 

 

 妊娠7~8ヶ月、大分お腹が大きくなってきたセスレ。

 妊娠2ヶ月ぐらいのバーチェ、ミルヒ、カカオ。

 1才のヒカリを抱きかかえたバトさん。

 そして貴公子服に、トリコーンハットまで被っている僕。

 執事をはじめ、僕の後ろにはメイド達もずらりと勢揃い。

 

 『館の前で、皆で婚約者を出迎える』。

 僕が一言告げるとこうなってしまうのです。

 

 なにしろ侯爵家ですからね。

 男爵は町か村単位、子爵は市単位、伯爵は県単位、侯爵は地方級。

 日本で例えるなら「静岡県の伊豆半島の南にある下田の東にある伊豆白浜を管理している男爵だが?」と言われたら「僕は中部地方全域を統括している侯爵ですが、何かご用でしょうか」と返せるぐらいの差が存在する。

 規模が規模なんで「嫁の10人は普通の話」とセスレが困り顔をするのも仕方が無い。

 『先代は病死ではなく毒死だ!』と言ってきた第二王子のように、権力やお金に群がるクソ共が僕の弱みを握ってコントロールしようと暗躍してくる。

 まぁ物理で排除するんですけど。

 やはり暴力……! 暴力は全てを解決する……!

 

 

「はじめまして、アロ・ビスス・ローリン男爵令嬢。ユーリ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵と申します。どうぞ、ユーリと」

 

 僕は顔も目も死んでいるアロ嬢の前に立ち、簡易貴族礼をする。

 すると、まるで機械のように、アロ嬢はカーテシーで反応をする。

 

「はじめ、まして……アロ・ビスス・ローリン男爵令嬢と、申します……ニク=ドレ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵様」

 

 ……うん?

 僕は小首を傾げて、アロ嬢の目の前で手を振ってみる。

 反応が無い。

 

 えっ、これなに? どうしちゃったの?

 そんな顔で、ローリン男爵家からきた奴隷メイド達を見る。

 ナギさんが青ざめた顔で、左右に首をぶんぶんと振った。

 ウォルさんは困った顔で目線を微妙に逸らす。

 

「アロ、と呼ばせて頂いても?」

 

 アロ嬢は無言で頷く。目は死んだままだ。

 

「アロ嬢は冒険者になって深き不可知の迷宮に挑みたいと伺いましたが?」

 

 原作の伯爵のように尋ねると、アロ嬢は困ったように。

 

「いえ……旦那様……そのようなことは……」

「その旦那様の名前をもう一度呼んでもらえるかい? 僕の大事なアロ」

「はい……ニク=ドレ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵様」

 

 流石に、侯爵家側がざわつく。

 アロ嬢の発言は侯爵家に喧嘩売りに来てる台詞だから仕方が無い。

 嫁一同も、執事もメイドも、みんな呆れ顔だ。

 

 あのー、()()、どうしたんです?

 そんな顔で、僕はアロ嬢を指さしながらナギさん達を見る。

 ナギさんとウォルさんは顔面蒼白で、ガクブルと震えていた。

 

 認知能力が死んでるってレベルじゃねーぞ。

 自分が悲劇の少女になった瞬間に全てが吹き飛んで、父親の話とか全然聞いてなかったな?

 

 あのね、アロ嬢。貴女が今言ってしまった発言ってね。

 下田市を管理している子爵や、静岡県を管理している伯爵に対して「どうしよう、困ったね?」と僕が苦笑するだけで、忖度が発動して一週間も経たずに伊豆白浜を管理する男爵が別人になってても誰も不思議に思わない出来事なんだよ?

 あるいはアロ父がすっ飛んできて僕に土下座した上で、アロ嬢は良くて修道院送り、悪くて……「ひぐらしのなく頃に」の雛見沢に「転校」かな?

 

 オークヒーローのヒィロに会う遙か以前の段階で、バッドエンドのアロ嬢です。

 私の冒険は、ここでおしまい。見開きページでキメ。

 

 あかん。セスレが静かに怒っているのがわかる。

 お腹の膨れた妊婦なんだから落ち着いてセスレ!

 『アドリ=ブヨーワ公爵家を舐めたら殺す』同様、『セルヨーネ侯爵家を舐めたら殺す』案件に引っかかってるのはわかってるから!

 

 ほら、異世界恋愛タグでさ。逆ハーのために高位貴族令嬢を片っ端から敵に回す男爵令嬢ヒロインとかいるじゃない。

 そういうのマジでないから。高位貴族側が本気になったらプチッと男爵令嬢潰れちゃうから。

 公爵令嬢のセスレ級だと、男爵家ごと歴史から消えて誰もいなかったことになるから。マジで。

 

 あー、うん、駄目だな。

 これは形ばかりでも、侯爵としての態度を見せないとアカンやつ。

 

「ローリン男爵家の皆様方。アロ嬢の認識について説明願いたい」

 

 そう言うと、ナギさんがすっとんできて僕の目の前で土下座した。

 

「全てわたくしどもの不徳と無能ゆえにございます。どうかこの首ひとつでご寛恕願います」

「……えっ!?」

 

 アロ嬢が驚いて顔をあげる。

 あれ、ここはどこ? とばかりに周囲をキョロキョロ見渡すアロ嬢。

 ……そこから? そこからなの?

 

「おはよう、アロ・ビスス・ローリン男爵令嬢。起きたかい? 僕の名前はユーリ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵。アロ嬢が嫁入りを希望するニク=ドレ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵は僕の先代で、今は墓の中だ。アロ嬢がどうしても先代と添い遂げたいと願うのなら、今すぐ先代と共に暮らす許可を与えよう。ああでも、先代夫人はご健在だから、嫉妬されてしまうかもしれないね。アロ嬢の父上、マキスト・ビスス・ローリン男爵の首を捧げて、先代夫人の怒りを鎮めることにしようか」

「え……え!?」

「どうかお怒りをお鎮め下さいませ、閣下。この首、いかようにでも」

 

 困ったな。ここからどうもっていこう。

 既にデコピンでおさまる状況ではない。

 セスレが「首を刎ねよ」と言ったら実行するしかないぐらいの雰囲気です。

 ビンタ? うーん、僕がやったら絵面もそうだけど、手加減に失敗してアロ嬢の顔の形が変わったらちょっと困る。

 

「そこのメイド、名前は?」

「恐れながら、ナギと申します」

「では、ナギに命ずる。アロ嬢の頬をはたいて、目を覚ましてあげてくれ」

「はい、閣下」

 

 ナギは立ち上がると、戸惑うアロ嬢に思いっきり平手打ちをした。

 ナギは怒ってもいるし、涙目にもなっている。

 そんなお母さん(ナギ)の姿に、アロ嬢は頬をおさえて混乱する。

 

「でも、私は……政略結婚として老人の所に嫁いで……領民のために……」

「ローリン男爵が、一体いつそのような話をしましたか! 何を聞いていたというのですか!」

 

 ここまでの流れで、僕は一人納得していた。

 原作では、挨拶をサッと流して「とりあえず初夜で処女だな」と、伯爵が肉欲を優先したために色々なものがキャンセルされ、アロ嬢が騎乗位の途中で我に返って伯爵とセックスしながら自由について会話したからこそ原作の流れになったと言える。ただこの世界線では、12才の結婚ではなく11才での婚約。しなければいけないことは初夜ではなく、婚約者との親交を深めるための会話だ。それなのに、話半分で勝手に絶望して父親の話を結果として全スルー。おそらく話の最初の方で「実家が潰れそうだから金策の一つとして結婚してもらうことになる」みたいなことを言われて、そこから頭に話が入らなかったのだろう。「ニク=ドレ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵の息子であるユーリ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵」みたいな説明も、キッチリ半分抜けていたんだろうなと今ならわかる。あとは小説あるあるの物語パターンで虫食いの記憶を補って、変な感じにアロ嬢の脳内で物語が構築されて、それが真実になってしまった。

 

「ふかふかダンジョンで頑張って……女性の社会進出を……」

「男尊女卑の世の中で活躍する麗しき少女ルマノ、そんな小説に夢を見るのはいいでしょう。でもその夢を現実で見続けてどうするというのです! 何がレディファーストですか! 何が誉れですか! 気高く、美しい(こころざし)? いい加減にしなさい、アロ! 弓一つ撃てない貴女が、『自由ごっこ』と『冒険者ごっこ』で何故満足できないのです!」

 

 うん?

 待って、その単語(キーワード)

 どこかで聞いたことが……(謎のほわんほわんSE)

 

 

 * * *

 

 

 僕は、ほんのちょっと、わずかに少しだけ、彼女に毒を仕込んでみた。

 

「……いえ。美しきご令嬢。僕はレディファーストを大事にしているのです」

「男尊女卑の世の中で、麗しき少女が活躍する。気高く、美しい(こころざし)が籠もった良き本です」

「弓の速射でオーク達に相対するルマノの勇敢さは、誉れといえましょう」

 

 

 * * *

 

 

 (謎のほわんほわんSE)思わずバーチェの方を振り返る。

 本屋での出来事を全部暗記しているバーチェは、にっこり笑って。

 口パクで、「ユーリ様のお言葉です」と教えてくれる。

 

 『村娘ルマノ』は、元々焚書にした方が早いぐらいの毒だけど。

 僕の迂闊な発言で、アロ嬢の中で毒が広がりすぎてしまったのだ。

 

 ……おうふ。

 全部僕のせいとまでは言わないけれど、僕の責任もありますね!

 はい、侯爵モードはやめ! やめです!

 この辺で全部許します!

 

 パンッ!

 

 僕は柏手を打つ。

 

「うん、そこまで。もういいよ。ありがとう、ナギ」

「……は、はっ!」

 

 ナギが一礼して下がる。アロ嬢は痛む頬をおさえて半泣きだ。

 うーん、アロ嬢はCV:釘宮理恵だから良心がチクチク痛い。

 

「改めて、アロ・ビスス・ローリン男爵令嬢。ユーリ・ハーベラ・セルヨーネ侯爵と申します。どうぞ、ユーリとお呼び下さい。アロ、と呼ばせていただいても?」

 

 僕はそう言って、ボウ・アンド・スクレープをする。

 正式な貴族礼。

 

 アロ嬢は、痛む頬を我慢しつつ。

 必死に笑って、カーテシーを見せる。

 

「はじめまして……アロ・ビスス・ローリン男爵令嬢と申します。どうぞ、アロとお呼び下さい。ユーリ様」

「うん、アロ。身体も冷えてしまっただろう? 僕の嫁も大半が妊娠しているから、これ以上彼女達の身体を冷やしたくないんだ。さあ、家に入ろう。執事! 落ち着いたら皆に温かい飲み物を!」

「かしこまりました、閣下」

 

 とりあえず、応接室で仕切り直すか。

 僕は苦笑した。

 

 

 * * *

 

 

「なるほどね。実家を潰しそうになった原因の僕に嫁ぐことになる、という父親の説明を話半分で聞いてるうちに、色々ごちゃごちゃになっちゃったのか」

「小説のように、結婚を蹴って逃げだすわけにはいかないと思いました。……領民がどれだけ不幸になるかわからない。確かに私は村娘ルマノに憧れて、冒険者になってみたかった。深き不可知の迷宮(ふかふかダンジョン)に挑んでみたかった。でも、ナギやウォル……私にとってのお母さんとお姉ちゃんを一緒に売り飛ばすしかないぐらい実家が困窮したと聞かされて、なんかそこから……本当に、すみません」

 

 応接室。主要メンバーには、全員ソファに座って貰ってる。

 アロは、メイド達と一緒に頭を下げた。

 

「アカンたれが。聞けば聞くほど、アロはこの家に来るしか無いで?」

「はい、そうですね……父の発明より、『革命』の方が、遙かに……」

「ちゃうわボケ」

 

 ヒカリをあやしながら、バトさんが答える。

 セスレはお腹をさすりながら言う。

 

「アロは本当に、父親の説明を聞いてなかったのね。ユーリが子爵令息から侯爵になったのは、なにも先代の推薦だけじゃないのよ?」

「えっ、違うんですか?」

「アロ、ナギ、ウォル、他にメイドが5、合わせて8枚か。ちょっと待っててね。執事、アレを」

「はい、旦那様」

 

 執事のウォルター(というコードネームにしてCV:清川元夢)が、うやうやしくハンカチに包んでアレを持ってきてくれる。

 そして、アレをアロ達に一枚ずつ手渡していく。

 

「これは?」

「ドラゴンのうろこ。みんなに一枚ずつあげます」

「え"っ」

「まだ余ってるんですね、うろこ」

 

 バーチェが苦笑する。

 

「ウチの旦那様はぁー」

「ドラゴンスレイヤーでーす」

 

 妊娠してから、僕の呼び名がユーリ様から旦那様に変わったミルヒとカカオが補足する。

 実家に妊娠の報告をした際に、周囲の友人達に自慢の旦那様だとドヤ顔しまくったらしい。

 実際、平民から侯爵閣下の妾なわけで、シンデレラストーリーにも程が有る。

 

「アロに関係なく、僕達は最初から暗黒大陸に行くつもりで準備中なのさ。僕だけじゃなくて嫁の皆も、冒険者証を持ってるよ」

「え……それじゃぁ」

「うん、行くよ。深き不可知の迷宮(ふかふかダンジョン)にね」

深き不可知の迷宮(ふかふかダンジョン)……!」

 

 アロが嬉しそうな顔をする。

 

「そうだね、今のうちにキチンと指摘しておこうか。このままだと、アロは中央大陸でお留守番だよ。とてもじゃないけど暗黒大陸になんて連れて行けない。ああ、ナギだけはギリギリ合格かな?」

「なっ、なんでナギだけ」

「ナギは戦う(すべ)がある。アロもウォルも、その(すべ)を持っていない」

 

 アロの顔が青ざめる。

 

「もうひとつ、大事なこと。アロは村娘ルマノの影響を受けすぎている。あれはあくまでも小説であって、事実ではない。ゴブリンは雑魚じゃないしオークはノロマでもマヌケでもない。ねぇアロ、キミは弓の速射で簡単に亜人共が死ぬと思い込んでいないかい? 速射程度で亜人が死ぬわけがないのに、アロは死ぬと思い込んでいるのなら……その思い込みの差だけで、アロは死ぬ。死ぬだけならまだいい。捕まって、犯されて、連れて行かれてまた犯されて……最後は連中の孕み袋として一生を終える。その可能性すら考えたことがない」

「待って……待って! じゃあ、みんなは……ユーリ様以外の皆は、戦えるっていうんですか!?」

「セスレは元々、女騎士の指揮官になるはずだった人だ。バーチェは僕と共に10年間、武の修行をしている。バトさんは居合いの達人だ。ミルヒとカカオは弓とラケットメイス術をマスターしつつある。では問おうアロ、キミは何ができる? 今まで何を学んできて、何をもって皆に貢献できる?」

 

 去年社交界デビューしたばかりの11才に言う台詞じゃないけど仕方ない。

 

「あ……あ……」

「後方支援として兵站を管理してくれるのなら歓迎だが、そうじゃないんだろう? 最前線で、深き不可知の迷宮(ふかふかダンジョン)のロマンに挑みたいんだろう?」

 

 駄目だ。結局私は憧れだけで、何もできないのか。

 アロの表情が絶望に染まる。

 

「そこで……だ。教材を渡すから、目を通しておいて。一週間もあれば生活も心も多少は落ち着くかな? 一週間後、暗黒大陸を疑似体験してみよう」

「疑似体験、ですか?」

「うん。アロはアロになってもいいし、()()()になってもいい」

 

 僕は事前に用意していた本を手に取り、アロ、ナギ、ウォルにそれぞれ手渡していく。

 

「ふかふかダンジョンズ&ファイアードラゴンズ?」

「TRPG。テーブルトークロールプレイングゲームといってね。紙とペンとサイコロだけで、物語を楽しめるんだ。そうだね、プレイヤーは……アロ、ナギ、ウォル……だけにしとくか?」

「ジャン様や、ハンティ様は?」

「彼らが入ると、プレイヤー知識だけで無双されるから駄目かな。バーチェは敵データとか全部暗記できちゃうから駄目」

 

 僕はバーチェに苦笑する。

 

「とりあえずさ、キャラメイクのページを中心に読んで、どんなキャラをやってみたいか考えておいてよ。剣の達人になったアロとか、狩人になったナギとか、槍の天才ウォルとか、そういうので全然いいから。もちろん、ルマノを再現したキャラでもいい。僕がゲームマスターをしよう。暗黒大陸の雰囲気を味わえることを優先するから、君達プレイヤーの選択によっては死んでしまうかもしれない。その時は疑似体験ってことで許して欲しいな」

「疑似体験……!」

 

 これなら死ぬこともない、とアロが喜んでいる。

 ナギとウォルも真剣に本をぱらぱらめくってくれている。

 

 TRPGの普及ではなく。

 暗黒大陸の再現の方を優先させるから。

 

 パーティが全滅しちゃっても、ゴメンねぇ……?

 

 僕は内心、ニヤリと笑った。

 

 

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