ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング! 作:RAP
ここはセルヨーネ侯爵邸の僕の個室、執務机。
椅子に座っている僕は、アロが持参した設計図や風景画、動物デッサンの紙の束を見ていた。
机の向こう。アロは真剣な顔で、僕の手つきを見ている。
ナギとウォルは心配そうな顔で、アロのそばに控えている。
僕は紙の束を全て読み終えると、やっぱ凄いな、と感嘆した。
「うん。アロには記憶描写の才能と、発想の柔軟性がある。例えば作戦指揮や報告書では、状況図というものが必要になる。位置・距離・方角を正確に記録し、状況を絵で直感的に伝えることができる書類、それが状況図だ。それを描ける知識を身につければ、アロはそれだけで立派なS級になれる素質がある」
写真記憶って言いたいんだけど『写真』の概念が無いんだよなあ。
僕はアロの顔をまっすぐ見ながら言う。
「状況図を描ける調査系S級冒険者。記憶描写ができる絵画型S級冒険者。その気になれば僕と同じ発明型S級にもなれる。凄いね、これだけで三つの才能だ……こっちにおいで、アロ」
僕はアロを隣に来るよう呼ぶ。
恥ずかしそうに近づいてくるアロ。
僕はそんなアロの頭をゆっくり撫でた。
アロは顔を染めて俯く。
「確かにアロの戦闘能力は低い。アロは女性だから、と気にしていたよね。でも僕に言わせれば、武の研鑽歴が短いから仕方が無いという言い方になる。社交界デビューしたとはいえ、まだまだ立派な女の子だ。背も低いし、腕力も無い。そしてそれは、暗黒大陸に行く予定の14才になったとしてもあまり変わらない。仮に弓一本に絞って研鑽するとしても、早い段階で限界がやってくる。でもね?」
僕は椅子から立ち上がり、アロをそっと抱き寄せる。
「……その限界を、アロは頭で飛び越えられる。オークや人間の男達の腕力に対して、可愛いアロが腕力で乗り越えようとする必要は全く無い」
「か、かわっ!?」
「僕から見れば、アロに必要なのは1にも2にも、まず体力だ。冒険者として最前線に行くのなら、足腰と心肺を徹底的に鍛える必要がある。ジャン君は子供の頃からこのハーベラの山中を、重たい薪を背負って駆けずり回っていた。そこまでしろと言うつもりはないが、今のアロでは重装鎧を着たジャン君にすら置いていかれてしまう。だからアロ、
アロのほっぺたに、軽くキスをする。
アロは、むぅ、という顔で怒っているようで、でも顔は赤い。
僕はナギとウォルの方を見る。
「ナギとウォルも同じかな。ナギはスピアソードに習熟している分まだマシだが、スタミナを鍛えておいて損は無い。ウォルはどこに出しても恥ずかしくない至って普通の19才の女性だから、そういう意味ではアロと全く変わらない。とにかくスタミナを鍛えないと、あっという間に何もできなくなる。休憩時間がやがて活動時間を超え始める。そうなったら地獄さ。後はなぶり殺しにされておしまい」
ひっ、という顔をするウォル。
原作でもウォルは普通の女性なのに必死にお姉ちゃんとして頑張ってるんだよね。
「だからいいかい、アロ。考えて、考えて、考えるんだ。ナギやウォル、ジャン君と共に生き残るためにはどうすればいいのか、ひたすら考え続けるんだ。どれだけ絶望的な状況であっても、選択肢を増やす力をアロは持っている。アロは必ず正解を選ぶ……なんて耳障りの良いことを言うつもりはないよ。間違えないで。アロは選択肢を増やせる賢い子だ。ハズレの選択肢を99増やしてしまったとしても、最後の1つで正解の選択肢を増やせればそれでいい」
「……っ!」
「数年後に僕達が向かうのは、『自由ごっこ』でも『冒険者ごっこ』でもない。鹿や猪相手に、死ぬ確率が少しある山を探索するのとはわけが違う。正真正銘の最前線、亜人とモンスターのはびこる死地、暗黒大陸だ。それでも構わない、死など覚悟の上。どうしても知りたい、見てみたいから行くのだ……とアロが願うのなら」
僕はアロの目を真っ直ぐ見つめて。
「どうしても、その想いが捨てられないのなら。僕はアロとの婚約関係を、正式に婚姻として手続きを進めよう。死にたがりの馬鹿なアロは、死にたがりの大馬鹿な僕と結婚する。それを望むかい?」
アロはその瞳を大きく見開いて、驚愕している。
だが、迷いはほぼ無かった。
アロは僕の頭を両手で挟むと、ぎこちなくも真剣なキスをしてくれた。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
ゆっくり数えてから、僕はアロの唇を離した。
「今夜、お風呂に入ったら僕の寝室に来て。ナギ、ウォル。アロの身体を、丁寧に洗ってあげて」
「はい、
「かしこまりました」
ナギとウォルが、心をこめた一礼をしてくれた。
* * *
その晩、僕はアロを抱いた。
原作より一年早いアロの処女喪失だったが、原作のように破瓜の痛みがほぼ見受けられなかったので、最近ようやく使いこなせるようになった織津江アイを駆使して、アロを沢山気持ちよくしてあげた。
といっても、キスをしながらのセックスが一番最高だよねという結果に終わったのだけど。
婚約期間は一年どころか一ヶ月経たず終了し、ローリン男爵は金銭援助が早まって喜んだ。
僕は暫く、他の嫁から「やっぱり若い子がいいの?」とつつかれ、いじられまくった。
助けてください茜新社。僕は無実です。
* * *
本邸の敷地内に、鍛錬専用の道場を建設しました。
札束ビンタで超突貫工事です。
いやー、特急工事って言葉がいいね。
でも特急印刷は、印刷所の人が死ぬので同人作家は自重してください。
完成した道場で、ジャン君に正座木剣振りという指導をおこなった。
バトさんは木剣ではなく両の手のひらを合わせて剣のように振ってもらっている。
アロ達には走り込みをやってもらってる。
他の嫁は全員妊娠中なので、不参加。
この鍛錬には色々な意味がある。
・力任せではなく正しい姿勢で剣を振る力を養う
・全身の力を繋げる中継点として体幹を鍛える
・人間は立っていると不安定になるので、正座によって下半身を安定させ、上半身の正しい姿勢に集中させる
・骨盤の中心にある「仙骨が入る」感覚を覚えさせ、全身の連動性を向上させ、力の伝達を効率的にさせる
柳生新陰流の「エマす」の目的である上半身と下半身の連動。
それをエマすという言葉を使わずに理解させる鍛錬でもある。
何故この鍛錬をさせるのか?
動作の目的はなに?
意識するべきことは?
言わない師範も多いが、僕はそういう「これこれこうのためにこうする」というのを全部最初に解説する指導派だ。
「武術は仙骨にはじまり仙骨に終わるぐらいの勢いで、しつこいぐらい仙骨が絡んでくる。運命だと思ってあきらめてほしい。肛門を締めると自然と仙骨が連動して背筋が伸び、歩いている途中でも正しい姿勢になるから試してみて。それじゃ、正座振りの動作を意識しながら100回、いってみよう」
普段の僕なら彼らの動作を見守っていたが、今日はどうしてもお腹をすかせておきたかった。
お腹をすかせておきたかったので、僕は動くことにした。
腕立て伏せというか、正確には指立て伏せ。
五本の指を立たせ、部位鍛錬なのだと意識しながらやる。
「膝を少し閉じぎみに。真上に伸びるような、お尻がわずかに浮く感覚が生まれる。その微妙な感覚を掴んだら、意識して維持してみてほしい」
指立て伏せのまま、僕は逆立ちする。
顎を地面すれすれに。腕を伸ばす。繰り返し。
「木剣を力強く振ることが目的じゃない。全身を繋げると、力まずとも手先から自然と強い力が発揮されるようになる」
さすがに、これは、あせが、でるな!
逆立ち指立て伏せを終え、身体を戻す。
ふう、と一息つくと、ジャン君とバトさんが呆れていた。
「あー。指の部位鍛錬は雷光流と相性が悪いので、程ほどに……」
「ならなんでやっとんねん」
「指立て伏せならまだともかく、逆立ちかあ……」
「握力じゃなくて『瞬間で握る力を鍛える鍛錬』っていうのがあるんだけど、二人はそっちをやった方がいいかな? 背中の力を手に伝える身体操作の練習なんだけど、素手・剣・槍、全部に効果が出るから……というわけで今日の鍛錬はおしまい! 正面に向かって礼!」
「「お疲れ様でした!」」
シャワー欲しいなぁ、作るかぁー!?
* * *
お風呂のあと、さっぱりした僕は台所に来ていた。
台所、といっても侯爵家本邸なので、調理場という表現の方が正しい規模。
本来、こういう場は料理人専用なんだけど。
家主特権で無理矢理使っている。
僕の目の前には、網で焼いてるお餅。
海苔が無いけど仕方が無い。醤油で我慢してあげよう。
念のために刻んだベーコンと、チーズも用意してある。
鰹が無いので、鰹っぽい魚で作った
余計な物は今回なに一つ入っていない。純粋にお餅だけ、味はすまし汁だけで勝負。
鍋に湯煎で作った熱燗も準備済みだ。
ククク。
餅をつかせた使用人は自分が何を作らされているのかわからなかっただろうな。
だが知らん! 僕が喰う!
焼いたお餅を皿にとり、醤油を軽くかける。
これでいい。これだけでいい。
海苔が無いのだけが残念だ!
あむっ!
はふ、はふ!
くぅ~~~っ!
織津江パイセンのように、露天風呂につかりながら貝の身をつまみつつ、魚介だしの海水スープを酒代わりに飲むのも超よさげだけどさ!
これは! これで! 最高だろがよ!
僕は熱燗を
え? まだ15才ですがなにか?
逮捕しに来いや日本の警察! 異世界までカモン!
ぐび。
ぐびぐび。
くはぁ~!
「おっ雑煮ちゃーん」(日本語)
ほろ酔いした僕は、ご機嫌な笑顔で茶碗(作った)にお雑煮をよそう。
「すまし汁ですか。俺の家は白味噌だったんですよ」
「いやー、静岡なんだよね、静岡は東西混ざってるけど伊豆半島は関東寄りで……さ……」
(BGM:機動戦士Gundam GQuuuuuuX EDテーマ「もうどうなってもいいや 」)
テレレレレレレ・テレレレレレレ♪
テレレレレレレ・テレレレレレレ♪
僕の首が、グギギと回る。
ジャン君が、笑顔で雑煮を茶碗によそっている。
なお『おっ雑煮ちゃーん』以降の発言は全て日本語である。
堂々巡りのファンタジー♪
アンソロジーなぞる謎謎♪
「なるほど静岡。大阪だったんで、白味噌に大根と人参と餅でしたよ」
「み、味噌はまだ手がけてないんだ。醤油を優先したくてさ」
「あっ、いけますねこれ……関東風の雑煮、美味しいなあ!」
本能のままに行動♪
鼓動に高まる衝動ぅぅぅぅ♪
「追加を焼くけど、ベーコンとチーズを載せて焼くとうまいんだ……何枚?」
「2枚で。ベーコンとチーズは片方だけ、もう片方は醤油かけたいです」
「おっけー。熱燗いっとく?」
「いいですね、お酒はあんまり飲んだことなかったんで」
もう、どうなってもいいや。
僕は、酒を飲みながらジャン君と日本語トークをかわす。
「えー、ユーリさんアラフォーだったんですか。俺22ですよ享年」
「手を出しちゃいけないやばい女の子に手をだしちゃってね、謎の交通事故死って感じ」
「うっへ、俺の方は普通のトラック転生でしたよ、でも知識チートができなくて……あーそうか、ユーリさんの革命って知識チートだったんですね。俺そういうのわかんなくて……でもなんか、やたら遠回しな感じの発明ばかりでしたよね?」
「それがさぁジャン君、この世界は禁忌ってのがあるんだよ。火薬とか電気とか蒸気機関とか内燃機関に手を出すと、手を出した人間どころか国ごと滅びちゃうクソな法則があるワケ。異世界転生お約束の鉄砲とか作ったらマジで死ぬんだよ!」
「ユーリさんめっちゃテンション高いっすね! もう一杯いきます?」
「おっ、悪いねぇ~ジャン君、おっとっとそこまで! 日本語は久しぶりだよ、15年ぶりかぁ」
「コーラとかいけませんかユーリさん? 俺、炭酸飲みたいです」
「Dr.STONEって漫画のレシピだと炭酸水とパクチーとライムとカラメルでコーラなんだけど、パクチーとライムがどこにあるかわからないなぁ。レモンなら僕の実家のアイダ領にあるんだけどね? 炭酸は……クエン酸と重曹だから……今ならいけるかな? 嫁のセスレの実家が海に面してるから、そこから重曹を引っ張ってこれる。暗黒大陸なら海が目の前だから、暗黒大陸でクエン酸の材料を確保すればいけるかな!」
「はー、お雑煮マジうっま」
「うまいよねぇ~。やっぱ醤油様だよ。あはははは!」
なお大阪住まいだったジャン君の好む料理はソースが必要なものが多いので、ソースから手作りしないといけない。
たしか
あっはっは! あはははは!
なお、夕飯前だというのに調理場で勝手にメシ作って酒飲んで酔っ払ってたので、後で嫁さん達にめっちゃ怒られました。
チッ うっせーな(小声) 反省してまーす!