ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第84話 原作開始前・新入門者、そして

 

 セスレが無事に出産してくれた。母親似の、黒髪黒目の男の子だ。

 龍の意味をこめて、ロンと名付けた。

 空を駆けるように、大陸中をまたぐぐらい大きくなって欲しい。

 いい名前だね、とみんな褒めてくれたけれど。

 

 ロン・ハーベラ・セルヨーネ。

 ……まさか将来、ロングヘアの女の子をはべらせる息子に育ったりする?

 

 さらに、バトさんが第二子を妊娠していることも判明した。

 考えてみれば、バトさんは今23才。この世界の常識的には、結婚自体が遅かった。

 僕と結婚するまでに、双子に散々行き遅れと揶揄(からか)われていたぐらいには。

 『もう一人ぐらい間に合うんちゃうか?』

 そう言って僕から搾り取るバトさんは、彼女なりに子供を生みたくて仕方が無かったのだろう。

 僕は僕でバトさんが大好きすぎるので(嫁間で順位付けはしたくないしみんな公平に扱っているつもりだけれど、あえて誰が一番好きかと問われるとバトさんになってしまう)、彼女が望むように避妊もしなかったしむしろ積極的に抱いた。

 

 とはいえ、ここが限界か。暗黒大陸行きを考慮すると、もう迂闊に子供は増やせない。

 

 迂闊に増やせないけど、増やさないとは言ってない。

 セスレの姉、セスアーネ辺境伯夫人に挨拶に行ったら第二子を妊娠したり。

 僕のことをニク=ドレと思い込んでいる()()のミーナ夫人が妊娠したりした。

 ……抱けば子供が生まれる。前世で無精子症だった僕としては、苦笑するしかない。

 

 『科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日記』10巻の巻末に「ハイエルフのエルゥさんと安定期のハイセックス」のイラストが複数掲載されているが、そのエルゥさんの髪色を黒にすると今のバーチェになる。

 長らく姫カットだったバーチェも、妊娠を機に髪を伸ばしてイメチェンしたようだ。

 まあ、イラスト通りに安定期セックスも楽しんだんですけどね。

 エルフ耳って今のところバーチェしかいないし(力説)。

 

 

 * * *

 

 

 アロ・ナギ・ウォルにかなり体力がついてきたので、雷光流がどんな感じなのか教えることにした。お腹が膨らんでる嫁達も含めて、大事な事を話すから、とできるだけ多くの関係者を道場に集めた。セスレ、バーチェ、バトさん、ミルヒ、カカオ、アロ、ナギ、ウォル、ジャン君、ハンティ爺さん。

 

「雷光流は人と亜人とモンスターの全てを仮想敵としているため、それだけ多くの状況を想定しなければならない。だから攻撃も防御も様々な技術や手法を教えている。覚えれば、覚えた分だけ様々な危険に対応できる……と言いたいところだが。少なくとも『触れて崩して斬る』という一つを覚えることができれば、二本脚で立つ全ての生物に一方的に勝利できる。逆に言えば二本脚ではないアラクネなどが例外になるが、対アラクネは僕が暗黒大陸で直接調べてこよう。とにかく、『触れて崩して斬る』が雷光流の基本にして奥義だ」

 

 僕は皆を見回す。

 

「元々僕は雷光流に関して、教えると決めた者には何でも伝えているし全ての疑問に答えている……が、この『触れて崩して斬る』に関しては正直言って伝授しにくい。まず下地として身体を鍛え、身体に神経を通す必要がある。その上で、筋肉や腱、骨といった身体の構造を知り、ある程度操作できるようにならなければならない。一朝一夕で出来るようなものではない。だからこそ雷光流が目指している場所に辿り着いてしまえば、どれだけ体格差があり、どれだけ体重差があり、どれだけ筋力差があろうとも、相手が二本脚で立って生きている限り殺すことができる。僕は13才の時にオークを一対一で殺したが、その場面を見ていた聖女騎士がわざわざ冒険者ギルドに報告してくれたので記録が残っている」

 

 僕はナギを手招きして呼ぶ。

 ナギに、遠目で薙刀(スピアソード)を構えて貰う。

 

「雷光流の鍛錬は大別して二種類。自己鍛錬となる套路(とうろ)と、練習相手を必要とする推手(すいしゅ)。この二つの鍛錬の行き着いた先に、雷光流が目指しているものがある。僕を信じてついてきてもらえれば、いつか必ず辿り着ける。……実際に見せよう。雷光流の深奥は二刀だが、わかりやすく一刀にて見せる……ナギ、僕の脚を斬ろうとしてみて」

 

 ナギが逡巡したあと、意を決して薙刀を振るう。

 僕は内から外に刀を振り、薙刀に触れる。

 僕の刀が薙刀に触れた瞬間、ナギの身体が震え、突っ張るように右肩があがり痙攣する。身体が()()に落ちようとしている。

 

「今、ナギの身体を刀と薙刀を通じて捕っている。正確には右肩を捕っている。これは刀で受け止めてから捕ろうとしても間に合わない。最初から捕ろうとする意思で刀を構えている、そこに薙刀が触れたからナギの肩を捕れた。あとは……僕が踏み込めば終わり」

 

 僕は踏み込み、刀を振り上げてナギの首筋に添える。

 ナギをはじめ、この光景をはじめて見る者は全員ぽかーんとしている。

 僕は下がり、元の位置へ。

 

「ナギ、この当たらない距離で、さっきのように薙刀を振ってみて」

 

 言われたように、ナギが右から……僕から見て左から振り下ろす。

 僕はさらにその左から、薙刀に刀をそっと添える。

 

「さっきは内で受けた。今回は外から添えただけだ。でも変わらない。触れているから」

 

 僕は刀を握った左手を、下から横にあげる。

 刀と薙刀がくっついて離れないかのように、薙刀がついてくる。

 ナギの身体は震えて何も出来ない。

 薙刀が刀に吸い込まれるように、腕が勝手に動いていく。

 

「槍や薙刀の利点はリーチ差だ。でも雷光流の『触れて崩して斬る』は、相手が二本脚ならそのリーチ差すら無効にする。相手がオークだろうと変わらない。何故ならオークは二本脚だから」

 

 僕が刀を外すと、ナギが前によろめいた。

 信じられないという顔で僕を見ている。

 

 僕は用意してあった玩具を取り出し、皆に見せる。

 いわゆるヤジロベエだ。この世界でなんというのかは知らない。

 僕はヤジロベエの中心であり真下、重心を人差し指で支える。

 

「ヤジロベエ、バランストイ、釣合人形。呼び名はともかく、二本脚で立っている生物はみんなこれだ。この、僕の人差し指で支えられているここが、普段僕が言っている仙骨だ。そして」

 

 僕はヤジロベエの頭を軽く揺らす。

 ヤジロベエは、前後にぷらぷらと揺れる。

 

「これが二本脚の生物の実態だ。二本脚というのはとても不安定なんだ。簡単に崩れて揺れてしまう。ウォル、おいで」

 

 ウォルが慌てて僕のそばに駆けつける。

 僕はウォルに左手を出して手のひらを広げさせる。

 僕はヤジロベエをしまう。

 

「例えば僕がこうやって、右手でウォルの左手を押してもウォルは動かない。キログラムという重さで、しかも力が分散しているから身体が抵抗できてしまう」

 

 僕はウォルの左の手のひらを、右の手のひらでグイグイ押してみる。

 当然、ウォルの左腕が多少下がるけれど、すぐに元に戻る。

 僕は懐から小さな重りを取り出す。

 

「この重りは、わずか150グラム。でも小さいから、点で力をかけることができる……このように」

 

 僕が重りをウォルの左手に置くと、ウォルは崩れて大きくよろめいた。

 僕は倒れかけたウォルを支え、重りをとりあげる。

 ウォルはどうして自分がよろめいたのかわからず、首を傾げている。

 

「筋力でもない。キロでもない。わずか150グラムで人は崩れる」

 

 僕は自分の右の手のひらを皆に見せる。

 左手の指先で、手のひらから肘のあたりまで線を引いてみせる。

 

「150グラムを生み出す方法は色々ある。手掌腱膜から長掌筋の収縮を使う方法」

 

 僕はウォルの手に、少し丸めた右手を載せる。

 ウォルの身体がひきつり、真上に落ちようとする。

 

「肩の裏。ここを使う手法は化勁の一つで、腕を伸ばしている時に使いやすい」

 

 僕は一度ウォルを解放し、伸ばした右腕をウォルの左腕にぴとりとつける。

 僕のいる方角に落ちてきたウォルが、僕の腕の中に収まる。

 ウォルはふわふわでふかふかしていて、良いねぇ。

 

「鼠径部の操作。女性の鼠径部は美しいけれど、武術的には意味合いが変わってくる。ウォルごめんね、少し触るよ。ここからここのライン。ここに鼠径靭帯がある。脚の力は手の何倍もあるけれど、その脚の力を伝えることができる」

 

 僕はウォルの両脚、その付け根をなぞっていく。

 ウォルの顔が真っ赤だけど、真面目な説明だから許してね。

 

「さっき僕は、ナギの肩鎖靱帯や肩鎖関節を操作した。ウォルでいうとこの辺」

 

 ウォルの肩の付け根の鎖骨寄りを指さす。

 

「つまり薙刀を操作したのではなく、相手の肩を操作した。相手の肩に力をかけたから、相手が崩れて不安定となり、僕の意のままになった……この先に、雷光流奥義・雷切(らいきり)がある。ジャン君、そこの木刀を二本持ってこっちへおいで」

 

 ウォルを解放する。木刀を持ったジャン君がやってくる。

 僕はジャン君から一本を受け取り、構える。

 

「ジャン君、僕を打ってきて」

「はい」

 

 言われた通りに、僕を斬るようにジャン君が木刀を振ってくる。

 僕の木刀がジャン君の一太刀を受け流した瞬間、ジャン君は左肘をあげながら前につんのめった。僕は優しく、ジャン君の左脇を木刀でそっと撫でる。

 

「触れて崩して、相手から弱点を晒してもらって斬る。これが雷光流奥義・雷切(らいきり)。相手がどれだけ重装甲だろうが関係ない。鎧の隙間の大動脈を切れば、120秒も経てば相手は死ぬ……木刀を貰うよ、ジャン君」

 

 僕はジャン君から木刀を受け取り、二刀流で構える。

 二天一流、上段の構え。

 

「『触れて崩して斬る』を、両手で持った一刀ではなく、片手持ちの一刀でできるようになると、この二刀となれる。この二刀こそが、一対多も想定している雷光流の最終形だ。ゴールとしては遠いかもしれないが、男や女といった性差どころか人間という種族の弱さにも関係なく、亜人やモンスターに対等に渡り合える流派であると、僕は信じている」

 

 ジャン君が、興奮に震えて歓喜しながら「宮本武蔵……」と呟いた。

 合ってるよジャン君、ベースは二天一流だもの。

 

「……と、いうわけで! 長男のロンが無事に産まれて嬉しかったのと、バーチェをはじめ色々な人に触れて崩すのがよくわからないと相談を受けていたので、一気に全部説明してみました!」

 

 わー。拍手が起こる。

 

「ね、ねぇ、ユーリ」

「ん?」

 

 婚約者から正式に側室入りしたアロが、わなわなと震えている。

 アロは側室入りしてから、呼び名がユーリ様から呼び捨てに変化した。

 

「……女性でも、戦えるってこと?」

()()()()()()()()()()()()()()()()かな」

 

 あれ? 今の僕の台詞、原作1巻で見たことがあるぞ。

 

「わかったわ! 私、雷光流、頑張ってみる!」

「えっ?」

 

 ざわ・・ ざわ・・

 

 思わず皆がアロの方を見た。

 アロは、夢とロマンに満ちた人間特有のどうしようもない顔で興奮している。

 あれ、これ14巻164Pの超興奮してる駄目なやつでは……?

 

「残り時間が二年ちょいぐらいなんだけど……」

「限界ギリギリまで、ううん、船の上でも鍛錬するわ!」

「弓も勉強もある……よね?」

「全部やるわ! 朝も昼も! 夜のお勤めも全部!」

 

 ナギもウォルもジャンも、みんないいように弄ばれるこんな風景を見ちゃったら!

 女の子のような顔をした旦那様が、13才でもオークに勝てたとか聞いちゃったら!

 勘違いだろうと、いけると思っちゃったら!

 我慢できるわけないじゃない!

 

 ……おじいちゃん伯爵に抱かれながら思ってた時みたいなこと考えてますね!

 織津江アイとか使う意味あるのかってぐらい考えが読み取れますね!

 

「……どうするのよ、ユーリ」

 

 セスレが呆れている。

 セスレは雷光流にあんまり興味がないから、練習もそんなにやってない。

 まぁ、後方支援してもらえるんでそこは全然OKなんだけど。

 

「あん()が雷光流をやるんは、おもろそうやなぁ」

「……くっ」

 

 バトさんはニヤニヤ笑い、バーチェは悔しそうだ。

 

「音見とラケットメイスと弓で限界ですぅ……」

「出産と子育てもあるし勘弁してくださいユーリ様ぁ」

 

 ミルヒとカカオは半泣き。

 君達はお腹膨らんでるんだから大人しくしてなさい。

 

「ハハッ、儂は新しいことを覚えるのはもう無理だ。任せたぞジャン!」

「はい! 二刀は無理でもせめて一刀は!」

 

 ハンティ爺さんとジャン君は超元気。

 ジャン君は既に内弟子なんでね、ガンガンいきますよ。

 

 で、そうなると。

 ナギとウォルは、アロに追従するしかないわけで。

 

「なんとか、できるだけ、私達も頑張ってみます……」

「……つ、ついていけるんでしょうか?」

 

 僕はため息を一つついて。

 

「まさかの近接戦アロ概念、かぁ……」

 

 これが『自由』だ、アロ。

 おじいちゃん伯爵の見開き決め台詞が聞こえた気がした。

 

 

 * * *

 

 

 そして、時計の針はどんどん進んでいく。

 原作時間軸より少し早く、ユーリ達は暗黒大陸入りをしていた。

 (注:子供の登場機会はほぼ無いので、子供の名前を覚える必要はないです)

 

 

 アロは成長期真っ只中の、吸収率も成長率も段違いな年頃。

 そんなアロが、原作よりも早い時期から、アスリート育成級のガチ鍛錬と必須栄養素を考慮した適切な食事、適度なセックスによる女性ホルモン分泌を積み重ねていったらどうなるか。

 鉄の自動人形(アイアンゴーレム)という二つ名を持っていないだけの、柔肌の下に鉄みたいな筋肉の詰まったアロの爆誕である。

 バストサイズこそ原作と変わらなかったが、そもそもおっぱいは脂肪である。身体を鍛えればおっぱいは削れるのが普通だ。脂肪率からして原作とは段違いのこの世界線のアロは、スタミナや筋肉が比較にならないほど成長しまくっていた。

 身体のラインはアスリート系だが女性ホルモンの関係でぷに肌も維持。夜も順調にセックス経験を重ねた関係で純粋にエロいというか、FANZAで月間一位は余裕で取れるレベルだった。

  

 アロに引きずられた形になるナギとウォルも、原作と違ってかなり鍛えられる形となった。

 ナギは爆乳から巨乳に減ったものの、くびれが強調されスタミナも戦闘力も大幅強化。

 ウォルもバストサイズの数字こそ減ったが、大胸筋が鍛えられて胸板に厚みが増し、バスト全体が上向きになり、胸がより大きく見える効果を得たので、結果として見た目の巨乳を維持したままくびれが強調されるという、女性から刺殺されかねない肉体を入手していた。

 ジャンのハーレム要員としてナギとウォルの所有権を譲渡する際、ユーリが躊躇してしまったほどの垂涎ボディに二人ともなっていたと言っておこう。

 

 ジャンは、原作では15才頃より子供達に教える立場となり、才能のある子供達が育っていく姿を三年間見つめてから冒険者となるべく国を出たが。

 原作で指導者としてなんとなく過ごしていたその辺の時間を全て雷光流の内弟子として、しかも全国高等学校総合体育大会(インターハイ)か何かで優勝を目指しているのかってレベルの鍛錬と栄養補給の食事を重ねたあげく。

 原作と違ってゴブリン少女で童貞を捨て、ナギ&ウォルをハーレム要員として原作よりも早い段階で恋人とし、ユーリから与えられるペッサリーで遠慮の無いセックス経験を重ねた結果、テストステロンの分泌が凄いことになって。

 前世だったら通りすがりの人に「UFCかRIZINか何かの選手ですか?」と聞かれ、その辺の不良が目線を合わせず「……ウッス」と挨拶してきそうな肉体に仕上がっていた。

 いつかのユーリが望んだように、戦闘民族に先祖返りしたと言ってもいい。

 白面金毛の命が心配である。

 

 セスレは一児、息子ロンの母。外見も体型も原作と変わらない。

 愛馬ハルジオンと共に暗黒大陸入りし、原作とは違い女騎士にはなっていない。

 セルヨーネ侯爵夫人であり、新設されたアイギス港町の町長(セルヨーネ侯爵が個人で土地を買い占めて町を建設したため、議会議員に相当する人間がいない)でもある。

 また、女性用下着や生理用品の会社社長として、暗黒大陸や中央大陸の色々な場所に店舗を出している。経理や計算はバーチェ任せで、判断と指示に専念しているようだ。

 

 バトは二児の母。二人目の子も女の子、髪は母親似の金髪、名前はユメ。

 ヒカリとユメで可愛い姉妹だ。

 原作と違って仙骨を重視した鍛錬や、仙腸関節、鼠径部の操作を繰り返していた関係で、爆乳を維持しながらくびれも強いというボン・キュ・ボン・スペシャル体型。 

 それでいて原作以上に起こりを消した神速の居合いで雷光流奥義・雷切(らいきり)を平然とやってくるという、ちょっと頭のおかしい強さ。

 26才になっても、普通にナンパされるのが嬉しいらしい。

 原作だとナンパはウザがってたじゃないか、と複雑な顔でユーリはこぼしている。

 

 ミルヒとカカオは、それぞれ一児の母だ。

 ラキとグリン、黒髪黒目の男の子達。

 子供は産んだが、ラケットメイス術やハンティ爺さんの弓術で鍛えられたぶん、二人の体型は原作よりもスマートになっている。

 原作通りに完璧に音見もマスターして使いこなしている。余裕のエース級冒険者だ。

 原作と完璧に違うのは、ミルヒとカカオも最新の魔法少女装備をしていることだろうか。一児の母なのに。大丈夫、19才までなら余裕で魔法少女だよ、とユーリは言う(リリカルなのはストライカーズ基準)が、ミルヒとカカオは死んだ瞳をしている。

 

 バーチェも一児の母だ。エルフ耳の金髪碧眼の女の子、ウィズが生まれた。

 ウィズが生まれたので、バーチェの実家が当然の権利とばかりに赤ちゃんを引き取りに来た。

 自分で娘を奴隷商人に売ったのに、どうして平然と孫を迎えに来られるのか?

 ユーリが首を傾げている間に、バーチェの実家にはバーチェの家族の人数分の黒い影がシミのように浮かび上がっていて、バーチェの実家から侯爵家に打診が来ることはなかった。

 なお、バーチェの外見はハイエルフのエルゥさんの髪色を黒にしたうえで、バストサイズをエルゥさんの超爆乳から3ランクぐらい落とした大きすぎず小さすぎずの美乳だ。

 暗黒大陸でのバーチェは、物流会社と不動産屋と多数の飲食店を経営しながらセスレの店の経理も手伝っているぐらいには侯爵家の数字関連を全て引き受けていたが、ユーリ曰くExcelマクロより早いとのことで何も問題はなかった。

 

 ユーリも順調に成長し、背が伸び、王子様度がマシマシになっていた。

 「fgo オベロン 礼装 一夜の夢」で画像検索してもらえれば、暗黒大陸で冒険する時のユーリの服装がわかる。アクセサリー系もそのままなので、つまり冒険時に全く不要どころか邪魔で仕方がなさそうなリボン紐、房飾り、首飾り、羽根飾りも全て着用している。

 これはセルロースナノファイバーの上位素材、多孔質ゲル(TKG)の研究が進んだことが大きい。

 手袋を着用しても合気捕りの感覚を邪魔しないようになったため、指先を含め完全に護られている。最前線を理解していない馬鹿貴族が、貴族礼服姿で冒険者をやっているように見えるが、実際にはプレートアーマーなぞ歯牙にもかけない最上級クラスの防御力だ。

 (中世時代に一人だけ防弾・防刃チョッキで装備を固めているようなものだ)

 さらにアクセサリー系は、一見すると歩行時に音が鳴ってすぐに敵に発見されそうに思えるが、実際には魔法「凪」でカバーしているので無音移動を可能としている。

 「ゼロかマイナス方向ならいいんだろ?」と割り切った魔法行使は、わりと洒落にならない感じにえげつなく進化している。

 

 

 そして、色々とバタフライエフェクトが増えている。

 原作パーティ「闇蝙蝠」は3巻171Pのメクラ男がリーダーとなって結成されたが、「闇蝙蝠」結成のきっかけとなったバトの暗黒大陸入りが原作より数年遅れて音見技術の伝授が遅れたのと、原作でパーティに存在していたミルヒとカカオも不在なため、音見技術を学びはじめたE級パーティとして研鑽を積んでいる最中だ。

 原作1巻冒頭、特殊個体のゴブリン戦士とジャンの戦いは発生していない。

 酒場でアロは女性の権利が云々と騒いでいないし、アロ達は速射弓を使っていないし、カタナからアロへの興味で発生した「先導者」のダンジョン体験会は開催されていない。

 緊急生存術教練をはじめとした、冒険者学校で受けられる有料授業はユーリの札束ビンタにより全員受講終了済み。

 アロやジャン達の装備も、ユーリの全面バックアップを受けているから何もかも違うし、パーティ住居も利敵行為の報償で与えられたのではなく最初から所持している。

 

 原作とはわりと何もかもが違う程に、歯車がずれていた。

 

 

 ユーリ18才、ジャン18才、アロ14才、セスレ20才、バーチェ23才、バト26才、ミルヒ&カカオ16才、ナギ28才、ウォル22才。

 ついでに言うならグラス、クコロ、セイ、マユリは全員18才。

 

 

 ――ユーリの生まれた世界線が、ようやく本来の原作時間軸に突入しようとしていた――

 

 




原作時間軸に突入です! 長かった……
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