ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第89話 原作時間軸・テオの警告

 

「これが……コードネーム『戦荷車(ウォーワゴン)』!」

「チート改良済みだから、その辺の荷車とは完全な別物だよジャン君」

 

 ふふん、とユーリがドヤ顔をする。

 

「まず、特殊素材を使用した防御布。これで矢の貫通は防げる。サスペンションはもうこの世界にあるけれど、コイルスプリングを使ったショックアブソーバーを追加。そしてこれ……」

「まさかのゴムタイヤ!」

「外側は樹脂だけど内側は立派なゴムチューブ。走破性能は段違いさ」

「ふおおおお……」

 

 感動するジャン。

 

「オプションで武器も詰めるけど、いらないっていうから無反動矢とかボーラの予備弾を入れといたよ。希望変更があれば言ってくれればすぐ換装できるから」

「換装なんて単語、この世界で聞くとは思わなかった」

「ジャン君以外はコンパウンドボウだけど、ジャン君だけ弓胎弓(ひごゆみ)でいいんだよね?」

「和弓が一番しっくりくるかな……ハンティさんも和弓派だし」

「好きな方を使えばいいよ。弓胎弓(ひごゆみ)の最大射程は理論上400メートル。でもそんな数値はどうでもいいか。戦国時代の最終形態の弓だから、使い手次第でどうとでも化ける」

「コンパウンドボウは、あれはあれで悪くないんですけどね。完全に好みの問題です」

「それを言えるのは本当に一握りの弓使いだけだよ、ジャン君」

 

 ユーリは苦笑する。

 大槍弓を使っているように、ユーリですらコンパウンドボウ派なのだ。

 コンパウンドボウが逆に使いにくい人間なんて、弓王ボーゲンぐらいしか思い浮かばない。

 

 この世界線では、ジャンもアロも「ゴンザ武具屋」をあまり活用しない。

 だが「ゴンザ武具屋」はユーリと守秘義務を含めた裏契約を結んでおり、メンテを含めた細々としたものを一気に引き受けている。娘のゴメスかゴンゾをいつでもユーリの妾にあげるからと、ゴンザから言われているぐらいには高額契約のようだ。

 この世界線のゴンザはブラジャーをつけているので乳首の突起が透けて見えるようなことはないが、ブラ透けが発生しているのでエロさに関しては有識者の議論が待たれる。

 

「あとは水、保存食、調味料、ロープ、ランタン、油、虫除け、着替え、毛布、地図、筆記用具、外科道具、携帯用調理道具」

「虫除けは例の?」

「そそ。蚊取り線香」

「蚊取りブタが欲しくなります」

「作らせようか?」

 

 ははは、と二人の笑い声。

 

「前から説明しているように、売却用にモンスターの死体を持ち帰らなくていい。討伐部位だけ切り取って、後は自分達が食べる分だけ確保すればいい。さらに言えばこの戦荷車(ウォーワゴン)は女性一人でも楽に運べるから、例えばナギウォルナァルの三人交代で運ばせれば疲労も軽減される。その意味では、コードネーム通りのウォーワゴンとして使うには、ちょっと物足りない」

「一台だと、隠れる場所が無いですもんね」

「アロが思いのほか元気に動ける。ジャン君とアロを偵察兵として斥候(スカウター)役をすればいい。むしろ動きたくてたまらないようだから、気の済むようにさせてあげて」

 

 にわか仕込みの原作アロと、アスリート鍛錬を施されたこの世界線のアロは別物だ。

 

「アロは三人前とか余裕で食べるんですよ。あの小さい身体のどこに入っているのかいつも不思議で……」

「ジャン君だって大食いだろうに」

「食べ盛りなんで! 食事代無料(タダ)ってだけで本当に大感謝ですよ!」

「ま、その代わりに」

「わかってます。硫黄ですね? 温泉地など、硫黄がありそうな場所を見つけたら報告」

「空を飛べるハルピュイアならともかく、僕達は地道に探していくしかない。ただでさえこの世界は冷えていて、硫黄の発見難易度が高いんだ。せめてゴムの木が見つかればいいんだけど、もう北の地に来ちゃったから……」

「ブラジルとか、なんかそっちの方なんでしたっけ」

「そそ。年中高温多湿の気候で、毎月雨が降ってるぐらいの土地にゴムの木はある……んだけど。ほら、禁忌で電気が使えないじゃん? 流石にゴムの優先順位が落ちちゃうんだよね……」

 

 基本は膠とセルロースナノファイバーでゴリ押しである。

 

「ゴムがあってもサンダードラゴンと戦うとか言い出すのはやめてね? 高圧電流すぎて多分ゴムが通じないと思うんだよ」

「いやー、流石にドラゴンはないかな……」

「とにかく、まず硫黄かな。あとなんか変わった鉱物とか植物もあればお願い。それだけでいいよ」

 

 ジャンは既に沢山のものを無料で提供してもらっているので、価格交渉もなし。

 ユーリ自身が情報をくれと言っているのだから、情報を集めたい。

 

「それじゃ、行ってきます!」

「うん、お互いに楽しもう!」

 

 前世バレ後の二人は、親友というか悪友というか。

 なんかもうそんな感じだった。

 

 

 * * *

 

 

 ただでさえ、全員の防具はCNFやTKGで偽装されている。

 硬くて弾性もあるのに軽量という意味不明素材だ。

 ゆえに、原作よりも全員動ける。

 

 しかし特筆すべきは、やはりアロだろうか。

 武器と鎧という重しをつけた上で、動きまくってヘタらない。

 幼少時から足腰を鍛えていたジャンが真顔になる速度で、今も成長している。

 

 原作では、偵察任務の練習後、あまりの運動量に女性陣は全員動けなくなっていた。

 偵察任務に女性陣が耐えられないとジャンが判断したことが、のちのクロス加入に繋がる。

 

 だがこの世界線のアロは、多少息を乱しただけで、まだまだいけると意気込んでいる。

 女性陣で一人だけ立っていて、呼吸を整えながらも全周警戒を怠っていない。

 状況図を書けるだけの調査系S級冒険者ではない。

 アロは斥候(スカウター)役もしっかりこなせる、とジャンは判断するに至った。

 

 近接戦アロ概念は、想定外にうまく回っていた。

 

 

 * * *

 

 

「い……猪サイズのアルミラージ!? 大きすぎっす!」

 

 突然の急襲に、ナァルの悲鳴があがる。

 

 アルミラージ。

 世界中に広く生息する、角が生えた兎に似たモンスター。

 通常は野兎~大型兎程度のサイズ。似ているだけで兎とはまったく別種。

 アルミラージは肉食で極めて凶暴。クマや人間などにさえ積極的に襲いかかる。

 

 草食獣の全周警戒能力と高速持久走力、槍の攻撃力と革鎧の防御力。

 『気が触れている』と言われるほど狂暴な肉食獣、それがアルミラージだ。

 

「コイツ、人の味覚えてるっす!」

 

 射撃しながら、ナァルが警告する。

 そして今、アロのいる方角に真っ直ぐ向かって、アルミラージは突撃してきた。

 

 迫り来る特殊個体のアルミラージ。

 体重80kgはあるだろうか。アロの約2倍の体重が、恐ろしい速度で突進してくる。

 

 原作のアロは、13kgの弱弓で三発を射て、裂傷と貫通創と頭蓋骨負傷を与えた。

 だが、この世界線のアロは。

 

 二寸五分の影の運足で相対軸をずらしながら、居合い一閃。

 突進してくる猪大のアルミラージ、その左胸と左脚を切断せしめた。

 自分が口だけのお嬢様ではなく、戦士であることをアロは証明した。

 

 だが問題はその後だった。

 心臓を切り裂かれ、三本足となったアルミラージがその場で立ち上がるように暴れだした。

 大きな角が、残された足が、小さなアロの身体に襲いかかる。

 

 ギリィ。

 アロの焦りの歯ぎしりと、ジャンがアルミラージの角を掴む音が同時に聞こえた。

 瞬間、ジャンの足払いと、首を押すような肘が同時にアルミラージに入る。

 猪大のアルミラージの体重と、鎧装備のジャンの体重が、勢いも加わり首の一点に集中。

 異様な音を立てて、猪大のアルミラージの首の骨が粉砕された。

 

 首の骨が折れると、身体を動かす命令を伝えることができなくなる。

 だが、ジャンはユーリの教え通りに手を緩めない。

 角を強く握ったまま、地面にアルミラージの頭を何度も叩きつける。

 いかに猪大のアルミラージといえど、そこまでされてはお手上げた。

 しばらく痙攣していたが、やがて動かなくなった。

 

「大丈夫か、アロ!」

 

 ジャンが焦ったように振り返る。

 

「心臓を切っても大体のヤツは10秒ぐらい全力で動く。完全に死ぬのはもっと先なんだ」

 

 本来であれば原作でジャンがティーチ教官から言われた台詞。

 だがこの世界線では、アロがジャンから言われてしまった。

 

 アロは呆然としたまま、頷いた。

 指先が震えて、うまく動かない。

 

「この巨体の突進に負けずに剣先を振り抜けたのは本当に凄いと思う。正しい姿勢で正しく斬った、ってことでしょ?」

 

 ジャンの言う通り。

 巨体の突進を恐れ、死を意識し、少しでも軸や姿勢に乱れがでていれば。

 死んでいたのは、アロの方だった。

 

「ユーリさんなら、どうしたかな……『触れて崩す』が出来ていたら……」

 

 ジャンは苦笑する。俺も『触れて崩す』はうまくできないんだよね、と。

 原作のアロは、この時『女で小柄な私じゃ、ジャンやカタナのようにはなれない』と嘆いた。

 白面金毛戦後に完全に落ち込み、ナァルとクロスとの会話を経て発明家を目指すことになる。

 

 だが、この世界線のアロは。

 

「そうだ……そうだ! あの巨体の突進で、急に転んだら骨折は(まぬが)れない!」

「あーそっか、雷光流だとそういう対処ができるね!」

 

 ジャンと一緒に、なんか変な方向にぶっとんでいった。

 理解力や発想力の大半が雷光流に捧げられているアロは、伊達じゃない。

 ウォルはその光景を見ながら、アロちゃんはどこに行くんだろう、と苦笑した。

 

 

 なお、猪大のアルミラージは流石に珍しかったので。

 

「上手に焼けました~♪」

 

 こんがり肉ができた。

 みんなで美味しく食べた。

 

 

 * * *

 

 

 帰還後のパーティハウス。

 ジャンはナギウォル相手にエロエロな3Pを楽しんでいた。

 

 ナギに騎乗位で跨がってもらい、ウォルに顔面騎乗してもらう。

 ナギの腰を掴んで下から突き上げ、ウォルにクンニしつつ、二人に百合キスしててもらう。

 ナギとウォルが逆でもいい。どっちでも楽しめる。

 

 うおー、異世界最高じゃー!

 

 なんてことを思いながら、ナギの膣奥(ペッサリー装着済み)にガッツリ放出してたら。

 

 ゴーン、ゴーン、ゴーン。

 ゴンゴンゴーン、ゴーンゴンゴン……

 

「鐘信号だ」

   

 これより通信を行う、モンスター、追撃、冒険者、担当の門、集合、通信を終わる。

 

 三人は慌てて身体を拭きながら、装備を着るのだった。

 

 

 * * *

 

 

「何事です!?」

「オークとゴブリンどもが農家の娘達を攫いやがった! 山狩りだ!」

「半数はこのまま防衛に残れ!」

「女は全員防衛側だ!」

「盾とランプの用意はいいか!」

「敵は5匹のオークと10匹のゴブリンだが、他に伏兵もいる可能性もある!」

 

 一瞬でアイギスが騒然となり、戦場と化す。

 

「うー……女性は問答無用で留守番させるって……」

「……お嬢様、相手はオークですよ?」

 

 アロがため息をこぼし、ナギが呆れる。

 この世界線のアロは、オーク相手だろうが戦ってみたいのだ。

 

「やっぱりアロは面白いねー」

 

 屋台の肉串を片手に、カタナが近づいてくる。

 

「そっか、カタナまで留守番なんだ……」

 

 貴女もオークを殺したいのね。

 アロは悲しそうな顔を浮かべる。

 ……何か食い違ってるなー、とカタナは首を傾げる。

 

「まぁあんまり心配しなくてもいい、多分女の子達は……」

 

 途中で解放されると思うよ、とカタナがアロに言おうとしたら。

 もうそこにアロはいなかった。

 というかカタナが肉串を買った屋台にアロは押しかけていた。

 

「おじさん! 肉串とりあえず5本で!」

「5本!?」

 

 1本でも、わりと満足できるよね?

 カタナは自分が食べている肉串を、思わず見返した。

 

 

 * * *

 

 

 結論から言うと、ジャンは原作通りに、ゴブリン娘のコオニコを助けに来たオーク帝国のテオと遭遇することになる。

 長年こじらせていた童貞を捨てさせてくれたゴブリン少女にはデカい恩があるので、ジャンはあのゴブリン少女は元気にしてるかなー、と思いながら酷い風邪で死にかけているコオニコを救う。

 

 原作との大きな変更点といえば、テオの注意事項発言だろうか。

 原作のテオは、ハルピュイアを剥製にするのをやめろと警告してくれたが――

 

「お前達が無闇に戦線を広げたがる理由は知らんが、ケンタウロスには手を出すな。敵に対して『鏡返し』か『それ以下』を遵守するような、紳士的な文化を持っているのはゴブリンとレッドキャップだけだ。ケンタウロスは……彼らは敵に対してそんなに『甘く』ないうえに、結果的にお前達の生存を助ける行動までしている」

「……わかった、ありがとう。このことは上に報告する」

「ジャンよ。我が妻の恩人にして友よ。我が名はテオ。肩書きはオークエンペラー。多数の種族、部族をまとめあげるオーク帝国の帝王である。出来れば二度と会わないことを祈っている。可能なら今のうちに大事な者達を連れて海を渡り、国へ帰ることを強く勧める……さらばだ」

 

 小さな変更点としては、スライム偵察部隊の一員が木の枝に擬態した状態で、テオとジャンの会話を本体にリアルタイム送信していたことぐらいだ。

 

 

 * * *

 

 

 冒険者ギルド、取調室。

 下を俯き萎縮するジャン。

 淡々と聞き取りをおこなう、ギルドマスター、副ギルドマスター、ティーチ教官。

 そしていつでもジャンを殺せる位置にいる、警備兵二人。

 

「なるほど……オークエンペラー、か」

 

 ギルドマスターが、腕を組みながら曖昧な笑みを浮かべている。

 ジャンは顔面蒼白で、冷や汗どころか脂汗がダラダラだ。

 

「繰り返し確認するが、会話の内容も事の経緯も以上で間違いないか?」

 

 副ギルドマスターが、ジャンの周囲を歩きながら厳しく問い詰める。

 

「君がした利敵行為は本当にこれだけか? ……内容にかかわらず後から別の何かが発覚した場合、君の立場は非常に悪くなる」

 

 項垂(うなだ)れたジャンが、口を開こうとした、まさにその矢先だった。

 

 ダァン!

 物凄い音と共に、冒険者ギルドの取調室の扉が突然真横に吹き飛び、数メートルの水平移動を経て向かいの壁に激突し、そこではじめて扉の中心から放射状に亀裂が入り、床に木片となって散らばり落ちていった。

 取調室の全員が、驚愕と共に扉の方角を見る。

 そこには、銀髪の青年が手のひらをまっすぐ前に突き出した状態で、さらにもう片手には気絶した男の片脚を掴んで引きずっている光景だった。

 

「ちゃーっす、三河屋でーす」

「……何事かね」

「ゆ、ユーリさん!?」

 

 ギルドマスターとジャンが驚く。

 『礼装 一夜の夢』の画像検索で出てくる貴族礼服に大小の刀を佩いた、自称冒険者の姿のユーリ。

 

「建て付け悪いなあ、ちょっとノックしただけなのに」

 

 ユーリが、片手で肩をすくめてみせる。

 ユーリの足下の床石は、ヒビ割れている。

 

剣聖(ブレードフルネス)ユーリ、君にこの部屋への入室権限は……っ!」

「知ったことか」

 

 副ギルドマスターの叫びに、ユーリは平然と返す。

 足を掴んで引きずっていた男を、目の前に放り投げる。

 放り投げられた男が、その衝撃で目を覚まして呻き声をあげる。

 

「お前の利敵行為はこれだけか? 副ギルドマスターさんよ」

「……なっ」

「なーにが利敵行為だ、ふざけやがって。ジャン君は連れて帰るからヨロシク」

 

 見れば、A級パーティ『鳴神(なるかみ)』のハウスに送り込んでいた暗部の人間だ。

 かろうじて生きている、そんな状態。

 

「ギルドマスター・ルドス」

「なんだい、ユーリ君」

「あんたのモットーは『裏切り者と敵以外には最大限優しくしようと心がける』だったか?」

「その通り。安心してくれると嬉しいね」

「奇遇だね、僕も同じモットーなのさ」

 

 ふふ……。

 ふふふ……。

 

 ユーリとギルドマスターが、微笑みあう。

 なお警備の人間は、動いたら死ぬという直感に襲われていて動けなかった。

 

「ジャン君、よくやった。君は英雄だ。利敵行為を推奨はできんから(おおやけ)にはできんし君にも黙っててもらうが、D級冒険者パーティ『ジャンパーティ』のC級への昇格と、C級冒険者ジャンのB級への昇格を約束しよう」

「あ……りがと、ござます」

「おめでとうジャン君! さ、帰ろっか!」

 

 ユーリとジャンの二人が肩を組んで退出したあと、副ギルドマスターは腰が抜けてその場にへたりこんでしまった。

 三代目ギルドマスターのルドスは、ため息をつく。

 

「わざわざ竜の住処に手を出すことはないだろうに」

「すっ、すみません……」

「怪しいからといって全てに首を突っ込んでいたら、首が落ちちゃうよ? 扉の修理費用はキミの給与から引いておくから」

 

 うん、これでよし。

 ギルドマスター・ルドスは、満足気な顔をした。

 

 

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