ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第90話 原作時間軸・†闇の女王†

 

 「ケンタウロスには手を出すな」という理由を一から説明するのは難しい。

 そもそもテオの説明自体がわりとふんわりしていた。

 

 ケンタウロス達は、生きた「深き不可知の迷宮」というラスボスと150年以上戦っている。

 だが、人類と亜人が絶滅戦争をはじめてしまった関係で「深き不可知の迷宮」がラスボスであるという情報は人類側に知らされていない。

 オークエンペラー・テオとしては、ラスボスと戦っているケンタウロス達の足を人間が引っ張らなければそれでいい、どうせ人間はオーク帝国が暗黒大陸から追い出すのだから、と大幅に説明を省いた。ゆえに説明できるギリギリが「ケンタウロスには手を出すな」だったのだ。

 

 なので冒険者ギルドからは『絶望の草原での被害が大きいので、絶望の草原には行かないように』という控えめな発表がされた。絶望の草原=ケンタウロスの図式は有名なので、冒険者達はなんとなく「ケンタウロスはスルーってことね、了解」と察する。

 ケンタウロス側も人間に関与してる暇はないし、元々人間のことは下に見て馬鹿にしていたので、うざい人間がスルーを決め込んでくれるのならそれに超したことはない。

 人間側は知らずとも、ケンタウロス伝統の調味料がアイギスで活用されはじめたことはケンタウロス側も輸送の関係で知っている。

 ユーリ側が提供していたのは、醤油をはじめとした物々交換。結果として原作よりアイギスと絶望の草原間をケンタウロスが行き来する頻度が増えた。

 

 この、一見無害でなんともなさそうな変化が最悪のバタフライエフェクトとなり、本気で洒落にならない事態が発生してしまうのだが、それはまた別の話だ。

 

 

 * * *

 

 

 冒険者の夜は基本的に、シェルター内で交互に見張りをする。

 照明の焚き火の有無は状況に左右される。

 手慣れた冒険者だと、炭火を灰に埋め軽く土をかぶせて、枝葉で周囲を覆い外から見えないよう厳重に隠したりする。

 

 今夜は雲が厚く、三日月も星も見えない。

 こんな暗すぎる夜は、逆に明かりをつけてはいけない。

 

 目を開けても閉じても何も変わらない真の闇の中、じっと息を殺す。

 

 これは冒険者だけでなく、全ての旅人の鉄則。

 何故なら、この世界にはレッドキャップがいるからだ。

 

 人間の血で赤く染められた帽子に、鉄の長靴をはいた老人の姿の殺人妖精。

 フクロウのように闇を見通し、風のように速く駆け抜ける『夜の死神』。

 そんな彼らに見つかったら、決して生き残れないからだ。

 

 ゆえに見張りは「耳」でする。

 

 リィン、リィン、リィン……

 サワワ……サワ……ザァァァァ……

 

 騒音に等しい虫の声と、ノイズめいた木々のざわめき。

 決して雑談などしてはならない。物音も立ててはならない。

 『夜の死神』を前にした人間は、一方的に狩られる側なのだから。

 

 

 * * *

 

 

 リィン、リィン、リィン……

 カツン。カッ。カツン……

 サワワ……サワ……ザァァァァ……

 コッ。カツン……

 

 レッドキャップの足音は特徴的だ。

 蹄でありながら二足歩行、人間より軽量。

 そして往々にして足音を殺すような意図を感じるから、すぐにわかる。

 

 何も見えぬ真の闇の中、レッドキャップ達は彼らのみが使う特別なランプを手に歩いていた。

 下方にのみ、極わずかな光を漏らして地面に反射させ、周囲を照らすランプ。

 人間の眼では光自体が視認困難であり、彼らがそれを所持していることすらわからない。

 

 レッドキャップ達は、狩った冒険者達をいつものように達磨にし内臓を抜いて運んでいた。

 真の闇の中を、12人のレッドキャップ達が笑顔で移動している。

 狩りの成果を誇るように。憎き人間を狩った証を、見せつけるかのように。

 

 

 そんな、真の闇の中。

 物陰に潜んでいた五人の人影のうちの一人が、両手を動かした。

 左の手のひらを右手の人差し指で二回つつき、右手を開く動作。

 

 残りの四人が、無言で弓を構える。

 手を動かしていた一人は、右手を掲げて……下ろす。

 

 ひゅひゅん、ひゅん。

 

 12人のレッドキャップ達は、3人を一組とし、四組で動いていた。

 一組に1つずつの光源だったので、つまり光源は合計で4つ。

 光源と表現はしたが、とてもではないが明かりと言えない光量のランプだ。 

 その4つのランプが、飛んできた弓矢によって同時に破壊された。

 

 流石のレッドキャップ達も、真の闇の中では何も見えない。

 立ち止まって状況確認、防御態勢という、当たり前の行動を各自がとる。

 

 ひゅひゅん。

 

 槍を持った3人のレッドキャップが、地面に倒れ伏す音がした。

 同時に、何かが高速で駆け抜ける音。肉が斬られる音が一つ、倒れる音が三つ。

 

 ……今の一瞬で半分削られたというのか!?

 最初は弓だとしても、次の三人はどうした。一刀で三人同時に斬られたとでも?

 

 ひゅひゅん。

 

 追加で3人が倒れた。

 勝利の証として達磨にし、内臓を抜いた女冒険者を抱えていた2人は、慌てて荷を落とす。

 女冒険者の死体を、いつものように人間達が住む街の前に捨ててくる予定だったのに。

 もはやそんな事を言っている場合ではなくなってしま――

  

 慌てて荷を落とした2人の背後で、1人が倒れる音がした。

 

 リィン、リィン、リィン……

 サワワ……サワ……ザァァァァ……

 

 騒音に等しい虫の声と、ノイズめいた木々のざわめき。

 なんということだ。これでは、()()()と逆ではないか。

 『夜の死神』の我らが、闇の中で恐怖するなどッ!

 

 恐怖に耐えきれず、2人のうち1人が時速70kmで駆けだした瞬間。

 剣か何かが振られる音、肉の切断音、倒れて転ぶ音が順にした。

 悲鳴をあげようとした残り一人は、自分の胸から刀が飛び出ているのがわかって驚いた。

 気配も無く、無音かつ正確に背後に回った誰かが、背中から正確に心臓付近を突き刺した。

 

「そない急がんと、ゆっくりしていってや」

 

 耳元で、小声で囁かれる。自分の胸から溢れ出る血が止まらない。

 次の瞬間蹴り倒され、地面に倒れると同時、耳に刀を突き入れられた。

 最後のレッドキャップは、ああ、これで死ぬのかと考えながら死んだ。

 

「バトさん、こっわ」

 

 駆けだしたレッドキャップを瞬殺したユーリは、取り出した冒険者用指向性ランプにライターで火をつける。火打ち石どころかファイアーピストンすらあざ笑う速度で明かりを灯すと、周囲に人が集まってくる。弓を手にしたバーチェ、ミルヒ、カカオだ。

 

「弓ばっかじゃ(なま)ってまうやろ……」

「ユーリ様、運ばれていた冒険者達の冒険者証を回収しました」

 

 バーチェが淡々と報告する。

 運ばれていた達磨の冒険者達の死体を見ながら、ミルヒとカカオがげんなりする。

 

「うえー、死体の色んな所に精液がついてる」

「ストレスに耐えきれなくて、セックスしてたのかなぁ?」

「レッドキャップからすれば、セックス中の人間なんてカモでしかないね」

 

 ユーリが苦笑する。

 

「今夜は『真っ暗闇』なんやろ? 知らんけど」

「もー、†闇の女王† ってばまたそういうこと言う-」

「よっ、†闇の女王† ! 格好いい! 素敵!」

「まー、†闇の女王† の前じゃねー、仕方ないよねー」

「じゃかぁしいわアホんだらァ! その二つ名は撤回させたやろが!」

 

 全盲のSのF級。「下部ダンジョンの案内人」「深き不可知の迷宮に最も愛された女」「音見の創造者」「盲導人」バト。

 そう、この世界線では「闇の女王 」の二つ名はバトが怒って撤回させた。

 ユーリと双子がいじりまくってバトがぶち切れたせいだ。

 

「なーんか知らないけど、バトさんだけ二つ名多いんだよね、なんでだろう」

 

 ユーリが首を傾げる。

 魔法少女服を着ているミルヒとカカオ達が、魔法少女っぽいポーズをとる。

 

「SのD級、『音見』のミルヒ!」

「SのD級、『音見』のカカオ!」

 

 ばばーん。

 事実上の二つ名が無い。

 冒険者ギルドから、何故か雑に扱われている双子だった。

 

「……なんか自己申請しとく? マジカルとか、プリティとか」

「やだー! 自己申請やだー!」

「第三者に勝手につけられる二つ名がいいー!」

 

 まぁ、気持ちはわかる。

 そんなやりとりをしていると、双子がしたポーズと同じポーズをとったバーチェが唐突に。

 

「Sの準B級、図書館(ライブラリ)竜討伐の呪い(ドラゴンバスターズ・カース)、『長耳』のバーチェ……です」

「ぶほっ」

 

 バトが噴く。

 

「バーチェさん急に来るからずるい」

「ギャップ萌え? 的な?」

 

 双子がぶーぶー文句を言う。

 みんな子持ちなのにテンション変わらないね、とユーリは笑う。

 

「とっとと討伐部位切り取って帰ろっか」

 

 真の闇は、SのA級パーティ『鳴神(なるかみ)』にとって狩りの時間でしかなかった。

 原作の「闇蝙蝠」が余裕のA級パーティだったように。

 全員音見ができて、発明型S級、知識型S級、音見の創造者まで揃っている。

 ミルヒとカカオに至ってはラケットメイス術も修めているから、日中だろうが関係ない。

 

 

 * * *

 

 

 さて、翌日の冒険者ギルド。

 

「更新! 下部ダンジョン地図更新ー!」

「『鳴神(なるかみ)』の盲導人バトがまたやったぞー!」

 

 何も知らず、噂に踊らされ、いまだにユーリのことを侮ってかかる冒険者達もいたが。

 バトの音見の技術は確かなものであり、眼を負傷して盲目となった者達が「闇蝙蝠」入りして冒険者として再デビューできたのは事実だったので、むしろユーリよりバトの方が知名度は上だった。そのあたりが、バトの方が二つ名が多かった理由でもある。一つ減らしたが。

 

「あれが……」

「あの人が……」

「もっとも高名な冒険者……」

「全盲の、SのF級……」

 

 新人冒険者達が、ざわつく。

 

「闇の女王、バト……」

「ほ、本物だぁ……」

 

 イラッ。

 バトが思わず反応する。

 

「おう、聞こえとんねん。闇の女王ちゃうわ。こそこそ喋んなや」

「す、すいません!」

「わかります、レディ。『盲目の聖女』……ですよね?」

 

 なんか勘違いした男性冒険者が、急接近してバトの手をとった。

 知っている人間は、隣に旦那がいるのに怖い物知らずだな、と優しい瞳をする。

 

「おー。わかっとんなぁ! そうやで、『盲目の聖女』様やでー♪」

 

 この世界線のバトは、原作と違って既に二児の母だ。

 片思い相手のボーゲンに告白できず、ヘタレまくっていたバトはもうどこにもいない。

 異性に対して余裕のある対応ができる、立派な人妻なのである。

 

 もしかしたら、ワンチャンあるのでは?

 何も知らない男の冒険者達が、美人のバトに声をかけようと集まってきた、その刹那。

 

 

 兵法のはやきと云所、実の道にあらず。

 はやきといふ事ハ、物毎のひやうしの間にあはざるによつて、はやき遅きと云こゝろ也。

 其道上手になりてハ、はやく見ヘざるもの也。(五輪書 風之巻)

 

 剣術は単純な早さが全てではない。

 早すぎても遅すぎても見切られる。

 達人となれば、(動作は)早く見えないものだ。

 

 

 物理的に斬る速度が早い、そういう演出をする物語は多々存在する。

 だが、宮本武蔵は真っ向からそれを否定する。

 早さが全てじゃないんだよ。起こりとかそういうのを消せよ。

 

 前世で生前の黒田鉄山に居合いを教わった経験のあるユーリが。

 今世で全盛期とも言える身体を得て、理論値最速が可能となったユーリが。

 雷神にして剣神、建御雷神(たけみかづちのかみ)の加護を得ているユーリが。

 

 そんなユーリが、全ての無駄を捨て去るとどうなるのか。

 

 

 バトの手をとった男性冒険者の首元に、0.05秒で刃が出現してくるりと回った。

 皆の脳がそれを理解した時には、既に納刀動作で刀が半分以上鞘に収まっている。

 ユーリの一連の動作は、自然で当たり前のことなんだなぁと頭が認識したその時。

 

 ちゃりん、と音がして冒険者証が床に落ちた。

 

 一瞬、その場の全員の動きが止まった。

 何が起きてどうなったのかを判断するのに時間がかかったのである。  

 防御反射の速度を上回った抜刀と納刀だったので、仕方が無かった。

 

 ユーリはなんでもないように、床に落ちている冒険者証を拾った。

 バトの手を握ったままの男性冒険者に冒険者証を見せながら、優しく声をかける。

 

「落としましたよ?」

「は、はい」

「ショックで壊れたみたいですね。受付に言えば修理して貰えますよ」

 

 男性冒険者は、おそるおそる冒険者証を受け取り、後ずさってから逃げた。

 何も知らなかった冒険者達も、目線を合わせないようにして逃げた。

 

「う、ウチは美女やから、モテモテでアカンねんな?」

 

 両手の人差し指をほっぺたに当てて、小首を傾げた可愛いポーズをとるバト。

 バトのそんな姿を見て、ユーリはため息ひとつ。

 

()()

「ふぇ?」

 

 突然の呼び捨てをされたかと思ったら、顎クイからのディープキス。

 周囲で大勢の人が見ているのに、恐ろしく濃厚なキスを実行された。

 唾液が糸を引くように、ゆっくりと解放されたバトだったが。

 ユーリの次の一言で、バトは硬直する。

 

「『闇の女王』と『盲目の聖女』。好きな方を選ばせてあげる」

「……や、闇の女王で……」

 

 バトの顔は真っ赤で、涙目で、口もむにゅむにゅだ。

 ユーリは『闇の女王』の二つ名を復活させるべく、情け容赦なく受付に向かった。

 

「なんで煽っちゃったんすか」

「涙目バトさん可愛い」

 

 ミルヒとカカオが苦笑する。

 バーチェは、自分の二つ名の数が多すぎないことに心から感謝した。

 

 もっとも高名な冒険者、「全盲のSのF級」「闇の女王」「下部ダンジョンの案内人」「深き不可知の迷宮に最も愛された女」「音見の創造者」「盲導人」バト。

 

 結局のところ、妙に多い数のバトの二つ名は、この世界線でも原作と同じ数になった。

 

 

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