ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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ふかダン最新刊の17巻、本日発売です!


第92話 原作時間軸・逆鱗

 

 原作の世界線とこの世界線は大きく違う。

 原作3巻部分だけを抽出したとしても、以下の通り。

 

 ・ジャンパーティにクロスが同行しない(今後も同行しない)

 ・見開きレッドキャップ部隊全滅

 ・バトの抜刀シーン自体が無し

 ・風呂場での抜刀術指南も無し(ユーリに聞けばいいのでミルヒの質問が発生しない)

 ・無反動矢の試射をジャン達がしないので、ジャンを弓の師と仰ぐ弓王ボーゲンはいない

 

 最大の違いは「死生観や思想すら変わるほどに超強化されたクコロが子持ちとなって木造基地に居た」ことだ。その上で「人間とケンタウロス達が中途半端に仲良くなりはじめていた」ことが、最悪のすれ違いを発生させることになる。

 

 

 * * *

 

 

 冒険者ギルド、最寄りの酒場。

 注文した食事が届くのを待っていた弓王ボーゲンが店の隅に座っていたが、纏うオーラが凄すぎて周囲の冒険者は誰も挨拶ができない。

 そんな中、銀髪の貴族礼服の青年がニコニコ笑顔でボーゲンに近づいていく。

 

「ボーゲンさん、おひさしっす!」

「ユーリか、久しぶりだな!」

 

 二人は目線を合わせると、ニヤリと笑って。

 パシィンと、片手を同時に打ち合わせて一緒に叫ぶ。

 

「「ところがぎっちょん!」」

 

 店内で食事中の冒険者達は、動揺する。

 多分これは、近づかない方がいいやつ。

 

「またいつものやつか?」

「はい、ボーゲンさん! 今回は、僕も合いの手を入れますので!」

 

 ピシッと正しく頭を下げ、両手で紙を差し出すユーリ。

 弓王ボーゲンは受け取った紙を開くと、苦笑する。

 

「この、三つの台詞だけでいいんだな」

「はい、それで! 追加注文でもなんでも全部奢ります!」

「奢りならそれでいい。本当に物好きなやつだな」

「なんかこう、宿命のライバル同士が戦う感じでひとつ!」

「ふむ……」

 

 ボーゲンは紙を手にしながら、咳払いを一つ。

 ユーリはキラキラした目でボーゲンの台詞を待つ。

 

「俺は傭兵だぜ……それになぁ! テメェだって同類じゃねぇか!」(ボーゲン)

「テメェは……戦いを生み出す権化だ!」(ユーリ・低音っぽく)

「喚いてろ! 同じ穴のムジナが!」(ボーゲン)

「テメェと一緒にすんじゃねェ!」(ユーリ・低音っぽく)

「右側が見えてねぇじゃねぇか!」(ボーゲン)

 

 酒場の一角で、突然小芝居がはじまった。

 流石のボーゲンも、演技は下手なのかちょっと棒読み気味だ。

 一緒の空間にいる冒険者達は、気まずい雰囲気だ。

 そこに空気を読まず、店員がボーゲンの料理を持ってくる。

 

「お待たせしましたー」

「おう」

 

 ボーゲンは何事も無かったかのように、料理をガツガツ食べ始める。

 ユーリは店員を呼びつける。

 

「キミ、今夜のボーゲンさんの食事代は僕が全部出すから」

「ありゃっしたー」

「ごちそうさん」

 

 物凄い早さで食べ終え、水を一気飲みするボーゲン。

 ユーリは余韻を味わうかのように、小芝居を思い出している。

 

「……くぅ~、今日も最高でしたボーゲンさん!」

「うむ。ではな。そろそろ寝なければ明日に差し障る」

「お休みなさい!」

「おう」

 

 ボーゲンが酒場から立ち去った後。

 感極まったユーリが、ぱたりとテーブルに頭をのせた。

 

「はぁ、最高かよ藤原啓治ボーゲン……耳元で囁かれたら誰だって妊娠する、僕だって妊娠する」

 

 ふにゃぁ~、とユーリがごろごろする。

 周囲の冒険者達は、何が起きているのかわからず大変気まずい。

 

 

 原作バトさんが陥落してたイケボって、どんなものだろう?

 

 前世も今世も「好きになった男の声なんて全部イケボに聞こえるから気にするだけ無駄」と、イケボについて尋ねた女性はみんな同じ答えを返してきた。

 とはいえニク=ドレ卿がCV井上和彦だったんだから、ボーゲンも知っている声優の可能性がある。中田譲治だろうか、山寺宏一だろうか、森川智之(としゆき)だろうか。

 そんなオタ心理で気軽にボーゲンに近寄ったユーリは、ボーゲンの声を聞いて一発で悶絶した。

 拝みに拝み倒して、メシ奢りの条件でボーゲンに「ところがぎっちょん!」の一言を言ってもらった。

 それ以来、ボーゲンに何か台詞を言ってもらうことでユーリがメシを奢る関係となっていた。

 

 なおジャンはライト層寄りのオタだったので、声優名を言われてもよくわからない。

 つまりこの趣味はこの世界でただ一人、ユーリだけが堪能できるものだった。

 

 

「ユーリ、やっぱりここに居た!」

「あれ? セスレ」

 

 普段はアイギス港街にいるセスレが、汗だくで酒場に飛び込んできた。

 馬の匂いもしている。愛馬ハルジオンで、ここまで全力疾走してきた?

 

「クコロの居場所がわかったの! でも予想される居場所の基地と、連絡がとれない!」

 

 ガバッとユーリが跳ね起きる。

 

「セスレ、詳細を教えて。店員、冷たい飲み物を何でもいいから早く」

「ありゃっしたー」

「暗黒大陸に来てからずっと調べてたんだけど、偽名だから当然どこの基地にもいない。想定される子供の年齢と髪の色からも辿ってみたんだけど、それでも無理だった。だから発想を変えたの。記録に残らない、あるいは残さないような場所にいるんじゃないかって。出入りの商人達からも話を聞いて絞り込んだわ。多分ビンゴよ、本来なら託児所が存在しないことになっている最前線の木造基地、子供の名前はユウ、銀髪で4才の男の子!」

「母親の情報は?」

「18才女騎士、名前はシオン。出生も含めて過去が辿れない。偽名というより、彼女の記録を抹消したい誰かが手を加えたかのように」

「……クソッ、店員、会計だ! 僕はギルドで心当たりの情報を尋ねてくる。セスレ、使い潰す用の馬を一頭買っておいて!」

「ええっ!? もう夜よ、無理だわユーリ!」

「馬屋が渋るなら金貨でも投げつけろ! この酒場の前で落ち合おう!」

 

 いるかどうかが確定でわかるのなら、最上位秘匿兵器のパラグライダーを使っても良かったのに! 現時点の不確定情報では、馬を使い潰すのが限界だ!

 舌打ちしながら、ユーリは冒険者ギルドの扉を激しく開け、早歩きで受付に近づく。

 困惑する受付のお姉さんの胸ぐらを掴み、ユーリは睨みつけながら言う。

 

「A級パーテイ『先導者』が申請した、探索予定地を教えろ。今すぐに!」

「えっ、いやその、苦しっ、言います、言いますから……」

 

 冒険者は、活動予定ルートと帰還予定日時をギルドに提出する。

 冒険者がギルドに帰ってこない時に、ギルドが捜索隊を出すためだ。

 

 ユーリの脳内が、慌ただしく原作を思い出す。

 原作とは流れが違いすぎてわからなかったが、まさかジャンがボーゲンの師となっていた頃か? だとするとさっきの僕の会話は、バトさんとボーゲンが童貞について話していた時期?

 まさか原作でクコロが居た同じ基地にいただなんて思わないじゃんかよ!

 

 原作でクコロが居た基地については、当然ユーリは真っ先に調べた。

 だが軍として子供はいないことになっている以上、ユーリが探している女性も子供も居ないと言われてしまっていた。

 今回は、セスレがコネをフル活用して外周から潰す探索をしていったので、そこではじめて発覚した。軍の規律と、貴族の過去隠しの二つが絡んでいたので、捜索難易度が高すぎたのだ。

 

 

 * * *

 

 

 数日後、上部ダンジョンの奥地にある未踏地域。

 A級パーティ「先導者」臨時キャンプ地たる川辺。

 

 皆で鎧を脱いで、川で身体を洗う。

 カタナちゃんの気分次第では、セックスも追加だ。

 

「んん~~
?」

「どうしたカタナちゃん」

 

 山の中で光る何かを見つけたカタナが、日差しを手で隠して覗きこむ。

 先導者リーダーのリードが、カタナに声をかける。

 

「ちょっと出てくる」

「えっ」

 

 言うや否や、カタナは上半身裸で駆けだしていった。

 

「カタナちゃん、上くらい着ていきなさい! ああもう、あの子はぁ……」

 

 リーダーは最近お母さん化しつつある。

 そう思いながら、半裸のカタナは全速で駆け抜けていく。

 『時を遅く見る目』を行使しての全力機動。

 木々の枝葉を足場として利用しながらも、優しく手を添えて折らないように。

 

 

 * * *

 

 

 皆が殺気立っている、とクッコロは感じた。

 

 結局クッコロは脱出できず捕まり、オークに心の底から一瞬で屈服した。

 女騎士鎧を脱ぎながら誠心誠意犯してくれと懇願しただけあって、オークは許してくれた。

 今も座位でオークに跨がっているクッコロは、一応優しく抱いてもらえている。

 

 種付けを嫌がるメキシと()()()は、乱暴に犯されている。

 首と両手を縛られ、強引に四つん這いにさせられて。

 ゴブリン達は彼女達を殴りながら、業務として種付け作業をしているのがわかる。

 

 だがそれすらも、彼らの苛立ちの方が強すぎる。

 セズレに至っては、殴られすぎて死にかけている程だ。 

 レイプするにしてもやりすぎだ。流石に少し、休ませた方がいい。

 

 クッコロはオークに抱かれながらも、ご主人様達の隠し拠点を見渡す。

 クッコロの知識ではよくわからない兵器類が、沢山隠されている。

 木造基地を壊すよりも、隠し拠点に戻す時の方が大変だったらしい。

 

 単純に、人手不足なのだとわかる。

 木造基地組は恐らく、ほぼ全滅した。

 しかしご主人様達もまた、沢山死んだ。

 多分、本当に、それだけの違いなのだ。

 

 とはいえ、このよくわからない兵器達は。

 これがあれば、また私達のように。

 別の拠点が、一瞬で破壊されてしまうだろう。

 ああ……誰か伝えて、私の代わりに。

 ご主人様達を裏切るつもりはないけれど、それでも……。

 

「何者だ」

 

 オークエンペラー・テオが、人間の言葉で話す。

 クッコロは、自分と同じ言語で喋りだしたオークに驚愕する。

 

 街中の喫茶店に入るかのような気軽さで、一人の少女が悠然と歩を進める。

 黒髪に異国の曲刀二本差し。

 何故か上半身裸だけれど、白く薄い服のような革の具足。

 

 SのD級。「応答剣(アンサラー)」「鉄の自動人形(アイアンゴーレム)」「最強の女冒険者」『剣姫』カタナ。

 

「ん。ただの通りすがり」

 

 皆が呆然とする中、ミステリアス系少女はそう言った。

 

 

 * * *

 

 

 馬は、走らせ続けようとすると死ぬまで走り続けると言われている。

 言われてはいたが、本当に死んでしまうのだな、とユーリは感じた。

 役目を終えた馬をスライム達に食べさせつつ、目的地へと走り、辿り着くことができた。

 

 見れば、半裸のカタナがオーク達と打ち合っている。

 寸止め試合に間に合ったか。

 

 しかし、思っていたより亜人達の数が少ない。

 原作でも人数描写は少なかったが、こんなものだったか?

 確か20人規模の部隊だったはずだが……。

 

「今日は来客が多いな。何者だ」

 

 またか、という顔でオークエンペラー・テオが言う。

 走り疲れが少し残っていたユーリは、桜煙草を懐から取り出す。

 

「通りすがり、と言いたい所だが……観測者、かな?」

「お前もここに、知り合いがいるかどうか調べに来たのか?」

 

 カチッ、シュボッ。

 この世界ではユーリしか所持していないライターで、ユーリは桜煙草に火をつける。

 ユーリを見る周囲の全員が驚く中、深く煙を吸い、ゆっくり吐いてからユーリは一言。

 

「正解だよ、オークエンペラー・テオ」

 

 名乗ってはいない。だがこちらのことを知っている。

 殺すべきか? だが今は、兵士が減りすぎている。その事実が、テオに様子見を選択させる。

 寸止め試合をしていたカタナが、ユーリに気がついて手をぶんぶんと振る。

 

「ん。久しぶり、ユーリ」

「ユーリ……剣聖(ブレードフルネス)ユーリ!」

「ドラゴン……スレイヤーの……ユーリ……」

 

 SのA級。「発明家(インベンター)」「血塗れ侯爵(ブラッディ・マーキス)」「虐殺王の虐殺者(シャイニングドラゴンスレイヤー)」『剣聖(ブレードフルネス)』ユーリ。

 

 しかし、事前のカタナの『好きにするといい』の会話が効いていたのか、メキシもセズレも助けてくれとユーリに懇願はしなかった。

 いや。セズレは、意識が飛びかけている。

 

 ユーリは周囲を軽く見渡し、オークのイチモツに跨がったままの少女に声をかける。

 

「名前は?」

「……クッコロです」

「クッコロねぇ……」

 

 ユーリは苦笑しながら、縛られて四つん這いだが気力のある少女に声をかける。

 

「名前は?」

「メキシ……です」

 

 学校で会えるかと思ったけど、会えなかったな。平民だったのかな?

 そんな事を思いながら、ユーリは2Pカラーセスレを眺める。

 

「名前は?」

「……セ……」

 

 ずる、ずるり。

 2Pカラーセスレは四つん這いを維持できず、崩れ落ちる。

 ユーリはため息一つ。

 

「馬鹿かお前ら。殴りすぎだ。寝かせて、水を飲ませるぞ」

 

 そう言って、腰の刀を抜いた。

 少ない数のゴブリンが驚いて弓を構える中、ユーリはセズレの縄を切り、納刀する。

 撃つなら撃てよと言わんばかりにユーリはセズレを抱え、少し離れた場所にそっと寝かせる。

 

 竹水筒を取り出し、少し水を口に含み。

 口移しでセズレの口に水を運ぶ。

 こくり、こくり。喉が水を嚥下する音。

 やがてゆっくりと、彼女の意識が復活した。

 

「セズレ……です」

 

 彼女が答えた瞬間、ユーリは凪魔法を膜のように周囲に張った。

 左手の脈を測る仕草をしながら、ユーリは告げる。

 

「そのまま聞いて、セズレ。答えがハイなら右手の人差し指を曲げて」

 

 セズレは右手の人差し指を曲げる。

 ユーリはセズレの乳房の間……心臓の上に触れ、何かを調べる仕草。

 

「君はこのまま敵の本拠地に連れて行かれ、肉奴隷として働くことになる。君の誇りは傷つけられ、死にたくなるだろう。それでも生きのびたいかい?」

 

 やや逡巡の後、右手の人差し指が曲がる。

 ユーリはセズレの額に手をあてる仕草。

 

「暫くは耐えて欲しい。そのうち人の言葉を話す魔物が敵の本拠地を襲うだろう、それが合図だ。全力で逃げろ」

 

 人差し指が曲がる。

 額から体温を計測するような仕草。

  

「いい子だ。君が無事に帰還したら、また会おう。悪いようにはしない」

 

 そう言って、ユーリはセズレの頭を優しく撫でた。

 セズレは微笑を浮かべてから、眠るように気絶した。

 ユーリは凪魔法を解除する。

 

「これ以上、彼女の首から上を無闇に殴るな。本当に死ぬぞ」

「それで、知り合いはいたのかね」

 

 オークエンペラー・テオが、興味深そうに尋ねる。

 上半身裸のカタナのせいで気が抜けて、どうでもよくなってしまったかのようだ。

 クッコロとメキシの顔を順に見ながら、ユーリは問う。

 

「シオンという名の女騎士と、ユウという名の子供に心当たりは?」

「シオンは……親友だったわ。ユウ君も、可愛い盛りの男の子だった」

 

 クッコロが、顔を歪めながら答える。

 歪めた理由は単純で、話すのがつらい内容なのと、たった今オークに膣内射精(なかだし)されたからだ。

 寸止め試合を終えたカタナが、興味深そうにユーリのそばにやってきた。

 

「シオンは、私達と同じ基地で働いていた。ユウ君は託児所で、元気にしていたわ」

「クッコロ、正直に頼む。……何故、過去形で話す?」

 

 桜煙草を吸いながら、ユーリはクッコロに問う。

 

「シオンは……沢山の亜人を殺したけれど、増援のケンタウロスに深手を負わされた。動けなくなった所を無理矢理に()かれて、結局強姦(レイプ)されたわ。ユウ君は……とても勇敢なユウ君は、隣町まで逃げていたはずなのに。そんなお母さんを助けに戻って来たの。でも、強姦(レイプ)していたケンタウロスの指示で、槍で刺されて……苦しまずに即死だったと思うから、それだけは救いかも。ユウ君が目の前で倒れたのを見て、それまで大人しく犯されていたシオンが最後の力を振り絞って反撃したわ。ケンタウロスが持っていた剣を奪うことには成功したみたいだけれど……その反撃は届かなかった。結局シオンは、彼女を強姦(レイプ)していたケンタウロスに殺されて……私自身も激しく犯されていたから、そこから先はわからない」

「……えっ?」

 

 カタナが青ざめる。どういうこと?

 

 話を聞いていたオークエンペラー・テオは、内心で首を傾げた。

 報告と少し違うような……いや、()()()()()()()のか?

 亜人(モンスター)語がわからない前提で、彼女の視点からだとそうなるのか。

 ……ふむ、興味深い。

 合っているとも違うとも言い難いから、「大体合っている」で押し通したくなる話か。

 

「テオ。オークエンペラー・テオ。その強姦(レイプ)したケンタウロスとやらに、心当たりはあるか?」

 

 問われたテオは、少し考える。

 ヤツの本名は知っているが、人間には内緒にしていると言っていたような……まぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

 そしてこの、ケンタウロス一族への好意を含んだテオの答えが、最大最悪のすれ違いに致命的なトドメを刺すことになる。

 

「『名前秘密男』だ」

「ええっ!?」

「彼女の話は、()()()()()()()どうだ?」

()()()()()()()

「えええっ!?」

「そっか……そっかぁ……」

 

 ユーリは煙草を一度口から外し、ゆっくり青空を見上げる。

 

「シオンは、さ。僕のお嫁さんなんだ。つまりユウ君は、僕の子供」

「あっ……うん、ユウ君も、貴方と同じ綺麗な銀髪だった……」

 

 クッコロが、ユーリの髪を見ながら答える。

 ユーリは桜煙草を目一杯深く吸い込み、ゆっくり、ゆっくり、吐き出していく。

 

「オークエンペラー・テオ」

「なにかね」

sg(スグ) f() naq(ナアク) t()。ユーリ to(テオ) サイエン ^(キャレ)(刻は満ちたか。ユーリからサイエンへ)」

0tzq(レトジク)(わかった)」

 

 ぞわり。

 カタナの背筋に、悪寒が走る。

 これは上半身裸で寸止め試合をして、汗をかいたせい。

 そう、汗で身体が冷えちゃったから、鳥肌が――

 

「ドーモ、カタナ=サン。麻薬漬けの病気猿です」

 

 桜煙草を、地面に向かってユーリがはじいた。

 落とした煙草を足で踏みつけながら、ユーリはカタナの方を向く。

 

「えーと、なんだっけ。『ケンタウロスは敵に対してそんなに甘くない(キリッ)』だっけ」

 

 原作における未来のカタナの台詞、といいたいところだが。

 この世界線ではテオの警告として、ジャンとギルドの上層部のみが知っている。

 

「ケンタウロスを一匹殺すと、人間一万人ぐらい殺されちゃうのかなぁ?」

 

 なお、SNSにおける創世神のありがたいお言葉として『亜人は人類扱いされてる場合は「人」「名」。モンスター扱いされてる場合は「匹」。逆も然り。ふかふかだと、亜人に人間は匹で数えられる』というのがある。

 それを踏まえてなお、ユーリはケンタウロスを「匹」で呼んだ。

 

「じゃぁ、妻と子の二人を殺されちゃった僕は、ケンタウロスを族滅させても許して貰える?」

 

 ユーリの右手が左腰に、左手は鯉口に添えられていた。

 全く起こりの無い、自然で、そうあってしかるべき動作だった。

 

「教えてよ、カタナちゃん。ねぇ」

 

 いつもカタナに見せていたものと、全く同じ笑顔でユーリは笑った。

 温かくて優しい、慈愛に満ちたいつもの笑顔のはずなのに。

 

 青ざめたままのカタナは、思わず半歩、後ずさってしまった。

 

 

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