ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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2025/08/14現在、カタナ兄の名前が不明なのでふわっといきます。


第98話 原作時間軸・真実

 

 絶望の草原、ケンタウロスの里。

 里の奥に、壁一面が固めた雪で作られた氷室がある。

 

 その氷室内。

 一人の男ケンタウロスが、蓋が外された棺の中を見つめている。

 その棺は、棺の中で眠る人間のためにわざわざ作られた特別製だ。

 

 左耳を半分無くし、左頬の顎から左耳方向に刻まれた傷跡はまだ新しく、痛々しい。

 『名前秘密男』こと、カタナ兄は。

 左頬の傷跡に右手で触れながら、ぼんやり彼女の顔を眺めていた。

 

 青いリボンで結ばれていたその金髪は、今はストレートロングヘアとして梳かれている。

 防腐処理が施されたその顔は、静かに眠り続けているかのよう。

 簡素な貫頭衣を着ている為に表からは見えないが、布に隠された身体には内臓が入っていない。

 縫合も化粧もしているが、中に詰まっているのは大量の綿だ。

 両腕両足も、化粧で誤魔化しはされているものの、一度切断された傷痕がうかがえる。

 身体の前で手を組んだまま、永遠に眠り続ける彼女。

 

 結果として、剥製とかわらない保存措置がなされている。

 

 クコロ・カンド・サンゼバー。

 またの偽名は、シオン。

 

 この世界線における、彼女の末路だ。

 

 

 * * *

 

 

 燃えさかる7530・マイナス5780木造基地。

 炎の中を疾駆する人間が、舞うように白刃を煌めかせ、亜人を殺していく。

 

 漆黒の鎧を身に纏い、異国の曲刀を手にした人間が物凄い勢いで特務部隊の人間を殺している。

 特務部隊に情報が伝達された頃には、既にレッドキャップ部隊は一人を残して全滅していた。

 

 ただ、流石のシオンも駆けすぎた。

 戦場の広さ、月夜の暗さ、亜人達の強さ。

 どれもこれもが、シオンの体力をゴリゴリ削っていく。

 

 呼吸は乱れはじめ、少しずつ動きが鈍っていく。

 しかし止まらない。シオンは、母は、止まらない。

 息子のユウのためならば、この命果てるとも。

 

 

 * * * 

 

 

 開拓城壁都市アイギスと、絶望の草原にあるケンタウロスの里の間で、取引がはじまった。

 

 ケンタウロスは元々人間なんかいつでも殺せると思っている。

 迫り撃ち・離れ撃ちでケンタウロスが一方的に勝つと昔から相場が決まっている。

 そもそも深き不可知の迷宮(ラスボス)との戦いが忙しいから人間との絶滅戦争には参加していない。

 高貴なケンタウロス様の住処である絶望の草原を調べにきた男冒険者は生かして帰さないし、女冒険者は強姦して子供を産ませながら、草原の民の素晴らしさについて教育を施してから家に返してあげるぐらいで丁度いい。

 

 そんな中、『人間というヤク漬けの病気猿』の方からケンタウロスに頭を下げてきて、偉大なる草原の民の開発した素晴らしい調味料を取引したいと願ってきたのだから、態度次第では応じてやらないでもない。

 

「うむ、人間クン! はじめますでござる! 例の調味料の取引を望みやがるのなら、カタナちゃんに(こうべ)を下げやがって心から奉仕をするでござそうろう! お兄ちゃんは妹ちゃんの願いを叶える生き物でやがるゆえ、カタナちゃんの希望通りにカタナちゃんに尽くして尽くして尽くすのを頑張られよにございまする! では人間クン! さらばにえん!」

 

 そんな感じではじまった人間とケンタウロスの取引だった。

 だが、流通量の拡大に伴い、ケンタウロス側はルート開拓を試行錯誤するハメになった。

 元々妹ちゃんの様子を見に行くためだけに頻繁にアイギスと往復はしていたが、取引ともなれば輸送路が重要となる。あーでもない、こーでもないと探っていたルートのうちの一つが、7530・マイナス5780木造基地のそばを通る道だった。

 

 木造基地のそばを通っていた時に、ケンタウロスの通商部隊はオーク帝国の人間基地侵攻に巻き込まれてしまった。(いくさ)の音と、炎の手が大きな範囲に広がっている。

 通商部隊の行く手を、黒鎧を着た人間の男が塞いでいる。

 ヤク漬け病気猿ごときがケンタウロス様の行く手を阻むんなら殺すしかないよね。

 

 カタナ兄は、一撃で射殺すべく、黒鎧の男に向けて弓を射た。

 せめて痛みを知らず安らかに死にやがれでございますです!

 放った矢は、黒鎧を身に纏った男の兜に命中し、兜が吹き飛んだ。

 あれ、あんな兜ごとき、ケンタウロスの矢で貫通できるはずでありますけれどん?

 

 男は疲労が蓄積していたのか、兜を吹き飛ばされても立ったまま動かない。

 燃えさかる炎の中、一陣の風が吹き。

 鎧男の青リボン金髪ポニーテールが広がり、美しい女性の顔が露わになる。

 ……うん? 女でやがりますか!? 男物の鎧とかわかりにくいでます!

 

 リーダーが撃ったんだし撃つか、と通商部隊の仲間が続けて撃った。

 ドスドスドス、と彼女の鎧に矢が刺さったりはじかれたりしていく。

 それにしても、なんで矢が全部貫通しないのか不明でやがりますね!

 

 しかし、それでもまだ彼女は倒れない。

 彼女の目は死なず、ふらつきながらも刀を構えようとする。

 

「ごめんね、ユウ。ごめんね、ユーリ……」(人間語)

 

 ユーリって取引先のヤク漬け病気猿の名前でございますか?

 殺したらまずいでやがりますか?

 しかしその背後、弓引き投げで彼女の背中を狙うレッドキャップの姿が見える。

 んんん! このままだと彼女は死にやがりますね!

 

 仕方なく一気に間合いを詰め、カタナ兄はシオンを殴り飛ばす。

 鎧が固いのだとしても、殴り倒せば一撃で終わりでござろうて!

 

 男物の鎧を着ているから、女性であることが遠目では酷くわかりにくい。

 せめてこの鎧を脱がして、女であると皆に伝われば生存確率があがるはず。

 殴り倒した彼女の鎧を脱がせていると、レッドキャップが興奮して騒ぎ出す。

 

「邪魔をするな、ケンタウロス! そいつを殺させろ! どうしても犯したいのなら、その女の目を抉り足の指を落とせ、話はそれからだ!」(亜人語)

「この女はうちらが倒したんで、うちらのモンっす。余計な口出しは無用っす」(亜人語)

 

 カタナ兄は、人間語と亜人語では口調が違う(16巻108P)。

 人間語は不慣れなので、「やがります」「ござそうろう」など変な感じになる。

 あえて口調のテンションをおかしくて、正体を隠す側面もあるが。

 

「ならば犯せ、今すぐ犯せ! そいつは殺しすぎた、仲間を皆殺しにしやがった!」(亜人語)

「わかったっす。お前の前でこの女を犯して、こっちで所有権を主張するっすよ」(亜人語)

 

 強姦することで女の所有権を主張する。レッドキャップの所属がオーク帝国なのか赤帽同盟なのかはわからないが、引き下がらざるを得まい。

 

 (シオン)が持っている武器を蹴り飛ばし、全裸に剥いていく。

 それなりの人数のケンタウロスが一斉に放った弓矢だったが、鎧に全部命中したわりには、一本しか貫通を許していない。

 矢が貫通したのは、左肩の付け根付近。矢を抜かなければ、命は無事だろう。

 

 矢の場所は、シオンの現在の体格に合わせて結び紐を緩めた為に隙間の空間が発生した場所だった。たらればに意味は無いが、いまの彼女の体格に合わせて再調整されていたら、セルロースナノファイバーは貫通を許さなかっただろう。

 

 カタナ兄は素早くしゃがみ込むと、(シオン)の両腕を押さえつける。

 誰が見てもこれから女を犯しますよ、と一目でわかるように乳房をしゃぶる。

 自分の試し竿を素早く取り出し、軽くしごいて勃起させた。

 

 試し竿には精巣が無いから精液を含めて何も出ない。

 だから、ここで自分が彼女を犯しても、彼女が妊娠することはありえない。

 

 つまりこれは緊急避難に該当する、彼女の為の強姦(レイプ)

 試し竿による試しのセックスであり、ケンタウロスの間では挨拶!

 だから強姦(レイプ)ではないのだと、ヤク漬け病気猿も理解できるはずっす!

 それでもうるさく騒ぐのなら、膣内射精(なかだし)して妻に娶ってあげてもいいっす!

 子供を産ませて草原の民の思想を教えて解放すれば、命も無事で彼女も満足っす!

 

 

 * * *

 

 

 体力が尽き、肩に矢が突き刺さり、鎧も服も剥かれ。

 両腕まで押さえられ、乳房をしゃぶられている。

 無理矢理に足をこじ開けられるが、抵抗できない。

 怒張したケンタウロスのイチモツが、ずぶずぶと自分の膣に侵入していくのがわかる。

 

 ……もう少し、連中を殺せると思ったんだけどなぁ。

 っていうか、そんなに無理矢理入れられても、痛いよ。

 全然濡れてないんだから、ちょっとぐらい優しくして。

 ユーリだったら、絶対優しくしてくれたのに…… 

 

 自分の周囲でも、似たように女騎士が犯されている。

 シオンは強引に激しく抱かれながら、無抵抗の意思表示の偽装として目を閉じる。

 

 音見の技術。シオンが執念で会得した技の一つ。

 シオンの脳裏に、誰がどこにいて息をしているか、などの情報が入ってくる。

 

 クッコロ、逃げられなかったんだね。

 演技か本気かわからないあえぎ声で、苦笑しちゃうけど。

 

 痛みに耐えられず、メキシちゃんが悲鳴をあげている。

 わかるよ。こいつら、無理矢理すぎるよね。

 

 セズレさん。抵抗を止めないと、死んじゃうよ。

 それ以上殴られたら、ちょっとやばいと思う。

 

 そして、シオンの耳がとんでもない情報をとらえた。

 

 音の反響から判断するに、小さな……4~5才程度の子供が。

 藪の中で隠蔽(ステルス)しているゴブリンに背後から奇襲(アンブッシュ)をしかけ、殺した!?

 

「お母さん……お母さんッ!」(人間語)

「……ユ……ウ?」(人間語)

 

 信じられない。どうしてこんな場所に。

 駄目、来ちゃ駄目、来ないで、今すぐ逃げて、隣町はこっちじゃない! 

 

 ケンタウロスに犯されながら、シオンの顔は絶望に染まる。

 

 

 * * *

 

 

 シオンの息子ユウ君、という表現だと少々語弊がある。

 

 オリンピック選手とオリンピック選手が結婚したら室伏広治が生まれました。

 レスリング選手とテニスの国体選手が結婚したら吉田沙保里が生まれました。

 

「神様がディープインパクトとアーモンドアイを掛け合わせたら強い馬出来たって言ってた」

「サンデーサイレンスの2x3インブリード? ノーザンテーストや、凱旋門賞連覇のエネイブルの例があるから………いけるのか?」

 

 競馬好きの人に変な例えをすると、日本語の会話が通じなくなるのでやめましょう。

 

 ともあれ。

 前世で暴の人、今世でも3才より武の鍛錬を積み重ねた人類最強格にして神の加護持ちのユーリ・ハーベラ・セルヨーネと。

 バーチェの実家がエルフを作ろうと妙な婚姻を重ねたように、まるでサラブレッドがごとく武家同士の婚姻を重ねて生まれた武家の子女。そんな武家子女が、幼少期より愚直にひたすら鍛錬を積み重ね、齢13才にして合気捕り(=雷切(らいきり))の技術を習得したクコロ・カンド・サンゼバー。

 13才で合気捕りの技術を習得した異世界美少女とかもはや意味不明である。植芝盛平翁や、塩田剛三翁の加護があると言われた方がまだ納得できる。

 

 そんな二人が、脳内麻薬ドバドバ状態で理性より本能が上回る獣の交尾の末に生まれた息子が、ユウ。元々のスペックが、なんかちょっと色々ヤバいのである。

 

 その上で。

 

 唯一の遊び相手であるお母さんから雷光流の套路(とうろ)を教えて貰い、お母さんと一緒に推手(すいしゅ)で遊び、女騎士としてのお母さんの訓練風景(弾丸すべり含む)を見学し、お母さんの同僚から遊び代わりに短剣術を教わり、最前線すぎて友達がいないから、お母さんが働いている時は一人で黙々と雷光流の套路(とうろ)を繰り返していた。そんな四歳児。

 

 木造基地に迫る悪意を誰よりも早く察知し、泣いて表現するしかできなかった。

 木造基地を埋め尽くす勢いで大型弩砲(バリスタ)級の火矢が広範囲に着弾すると察知したうえで、火矢が自分と母親に当たらないとわかったから特に逃げようと言い出さなかった。

 そして、母の指示通りに隣町に行くと母が死ぬと直感で理解してしまったがゆえに、母の指示に背いて戦場に戻ると決め、兵士の死体からナイフを奪い、母の元へ向かった。

 

 自分と母を結ぶライン上にゴブリンがいたから、背後に忍び寄って。

 膝裏を蹴って体勢を崩したらゴブリンの首に手が届くようになったのでナイフでゴブリンの首を切って殺した。

 

 ニュータイプ音(ZガンダムのカミーユSE)演出がはいる感じの子供。

 それが四歳児の、ユウ君です。

 

 

 * * *

 

 

(BGM:アカメが斬る!「Le chant de Roma (虐げられた者達の為に) 」 作曲:岩崎琢)

 

 

「駄目、ユウ! お願い、お母さんの言うことを聞いて、隣町まで逃げて!」(人間語)

 

 焦ったシオンが、必死に叫んでユウを止めようとする。

 しかし言葉に反して、ユウはシオンを助けようと歩み寄っていく。

 

 今のユウは、血に染まったナイフを手にしている。

 強姦されている母を助けようとしている子供……ではない。

 それは戦士として敬い、戦士として扱わなければいけない存在。

 

 そんなユウを見た、唯一の生き残りのレッドキャップが。

 人間であれば、子供ですら平然と殺すレッドキャップが。

 軽い助走から、全力の弓引き投げをユウの背中に向かって投擲した。

 

「やめろぉッ!」(亜人語)

 

 思わず大声で叫び、カタナ兄は右手を伸ばす。

 あまりの大声に、クッコロや戦士長を含めた大勢が視線を向ける。

 

 だが、ケンタウロスですら戦士として扱わなければいけない存在を。

 人間殺しのレッドキャップが、見逃すはずもない。

 

 不運だったのは、ユウが躱すとシオンに当たる変則的な軌道でレッドキャップが弓引き投げをしたことだった。

 普通に躱したら母さんが死んでしまう。直感したユウは即座にナイフを捨て、背中側から時速250km近い速度で飛んできた投槍のような太い矢を左脇で抱え両腕で押さえると同時に、脇で抱えた勢いのまま身を左に捻るように跳ねた。

 ユウの体重と螺旋の力が加わり、『レッドキャップの投槍』と呼ばれる太い矢が、ユウの身体を吹き飛ばしながらその軌道を変える。

 なお、投槍のごとき太い矢の全体像は、原作3巻105Pで見ることができる。

 結局のところユウは四歳児なので、痛みと衝撃に耐えきれず失神した。

 

 (やじり)の部分がユウの左脇を引き裂いた為、ユウは血をまき散らしつつ、回転しながら吹き飛んだのだと周囲には見えた。倒れたユウはこの太い矢を左脇に抱えたまま動かなくなってしまった為、傍目には「投槍の直撃を受け、血をまき散らしながら吹き飛んで即死した子供」だった。

 

 母親を助けるべく、強姦しているケンタウロスを殺そうとした人間の子供を、ケンタウロスが子供に手を伸ばして叫んでまで行為をやめさせようと試みた。

 子供を制止できないと判断したレッドキャップが後ろから子供に矢を投げ、子供を殺した。

 子供は血のついたナイフを手にしていたので立派な戦士であり、レッドキャップでなくとも殺すのは礼儀となる当然の行為だった。

 

 

 * * *

 

 

 犯されていたシオンは、絶望しながらも冷静に状況を判断する。

 

 自分は犯されている。ユウは死んだ。

 

 自分を犯している男は、間抜けにも腰に刀を差したままだ。

 ケンタウロス達は、基本的に左腰に剣を装備している。

 このケンタウロスは、大小の二本差しだから戦士格なのだろう(原作16巻105P)。

 

 私の両腕は押さえられていたが、彼が右手を伸ばしたので私の左手はフリーだ。

 左手を軽視されているのは、私の左肩の付け根に矢が突き刺さっているから。

 相手の筋肉の付き方から、彼の二刀は飾りではないと判断できる。

 相手の刀に手を伸ばせば、私の手は一瞬で止められ、その場で殺されるだろう。

 

 シオンは考える。

 雷光流奥義・雷切(らいきり)の習得のために一週間、ユーリに特訓して貰った時。

 手掌腱膜(しゅしょうけんまく)以外でも相手を崩す力を生み出せる、と教えて貰った。

 

 右手を主軸として刀を使いまくったせいで、右手の疲労が濃い。

 普段ならまだともかく、相手に強く押さえられたこの体勢で、右手の手掌腱膜(しゅしょうけんまく)も右肩の裏も上手に使える気がしない。

 

 雷光流のその先、二刀を覚えずに飛び出しちゃったのは、失敗だったかな。

 ユーリの二刀を、見る機会が無かった。

 それはいい。今更もう、どうしようもないから。

 

 相手を崩せる場所として私が知っているのは、あと一つ。

 鼠径部の、鼠径靭帯。

 

 

 ケンタウロスの戦士を改めて見直す。

 

 彼はいま、私の膣にイチモツを突っ込んだまま動かず、倒れたユウの方を見ている。

 ケンタウロスの人間部分は、人間の骨格部分なら崩すことは可能だろう。

 そして……結合部。そこには私の鼠径部があり、鼠径靭帯がある。

 

 特訓の時の、ユーリの言葉を思い出す。

 『脚の力は手の何倍もある。鼠径靭帯は、脚の力を相手に伝えることができる』

 

 私と彼は、大変不本意ではあるが、大変不本意な場所で触れあっている。

 だとするならば。

 彼と私が()()()ことが出来れば。

 理論上、彼を崩すことができるのではないだろうか。

 

 膣と鼠径部を中心とした下半身に意識を集中させる。

 ……あ、これ、もしかして……いける?

 こんな馬鹿らしい技に成功したなんて言ったら、ユーリは一体どんな顔をするのだろう。

 笑ってくれる? それとも、驚いてくれる?

 

 ごめんね、ユーリ。

 多分、もう会えない。

 

 免許皆伝をした一番弟子のご褒美で、貸し一つ。

 決闘に勝ったご褒美で、さらに貸し一つ

 

 一つ目の貸しは、貴方から子種を貰ったことで返してもらった。

 二つ目の貸しは……本当は、亜人達に妊娠させられた時に、私を殺してもらうことで返してもらうつもりだったんだけど。

 

 流石に今回は、もうどうしようもないから。

 貴方に会えないまま死ぬのを許してもらうことで、貸しを返してもらったことにするね。

 ユウと一緒に、あっちで待ってるから。

 ゆっくり来てね。急がなくていいよ。

 

 

 * * *

 

 

 カタナ兄は、呆然と吹き飛んだ子供を見ていたが。

 ぐにり、と変な感覚が下腹部から伝わってきたので、思わず女を見やった。

 

 身じろぎもせず、黙って犯されていた女が、じっとこちらを睨んでいた。

 16巻142P、『もう完全にあなたは敵だ』とセスレに宣言した、あの顔だ。

 

「シオン」(人間語)

「なんでやがります?」(人間語)

「私の名前」(人間語)

 

 鼠径靭帯の力がカタナ兄の首の骨に伝わり、彼から見て斜め右下方向に()()した。

 ガクン、とカタナ兄の身体が崩れる。

 

 まさに前代未聞、Youtubeに動画があるはずもない、意味不明の境地。

 膣経由の聴勁(ちょうけい)、陰茎を含めた下腹部経由の鼠径靭帯合気捕り。

 ユーリにすらできない、シオンにしかできない。

 

 彼の身体がシオンから見て左下に崩れたことで、彼の左腰の刀に手が届く。

 シオンの左手がカタナ兄の左腰に伸び、脇差しに該当する刀を一気に引き抜いた。

 

 斬る空間はない。

 突く。突いて一撃で殺す。

 

 15巻174P、マンティコアを槍で刺した時のように。

 シオンの突きが、カタナ兄の顔面を襲った。

 

 このままでは間に合わない、とカタナ兄は判断した。 

 斜め右下方向、身体が落ちる勢いを殺さぬままに。

 首を捻りながら、彼女に一番近い場所にある左手を拳にして振り抜いた。

 

 白面金毛やヒィロ同様、拳打の概念はケンタウロスにもない。

 そもそも相手に近づく前に、弓を放てば全てが終わってしまう。

 苦し紛れの、一番近い場所にあった手でどうにかしようとした結果にすぎない。

 彼の戦士としての直感が、最適解を選択するに至っただけの話だ。

 

 シオンの左肩の付け根に刺さっていた矢が。

 全てを賭けたシオンの一撃を、最後の最後で邪魔をした。

 ……痛みは無視したつもりだったが、軌道がわずかに逸れた。

 

 カタナ兄の左頬に、一筋の赤い線が走り。

 左の長耳が、半分斬れて飛んだ。

 

 カタナ兄が振り抜いた左拳は、シオンの右こめかみに突き刺さった。

 ボクシングで言うところのテンプル。

 急所に強烈な一撃を受けたシオンは、脳震盪を引き起こして意識を失った。

 

 からり、とカタナ兄の愛刀が落ちる。

 

 

 シオンと名乗った女は気絶しただけで、まだ息はある。

 こんな、拳を使う攻防なんてはじめての経験っすよ。

 カタナ兄は女の無事を最低限確認すると、愛刀を回収してから子供の元へと向かった。

 歩きながら、イチモツをしまうのも忘れない。

 

「……ウソでしょ。アレで生きているっすかこの子?」(亜人語)

 

 身体の怪我も確認したが、『レッドキャップの投槍』を背後から受けたとは思えない軽傷だ。

 この様子なら、怪我の治りも早いだろう。

 とりあえず、場をしのげたか?

 先端が子供の血で赤く染まった太い矢を手に取り、しげしげと眺める。

 カタナ兄が安心したまさにその時、通商部隊の仲間が驚愕と共に伝える。

 

「お、おい。お前が犯していた女、レッドキャップが持って行ったぞ」(亜人語)

「はぁ!?」(亜人語)

 

 地上移動に関して、ケンタウロスはレッドキャップの上位互換だ。

 とはいえ、レッドキャップの走行速度は時速70kmある。

 

 シオンの身体を持ち去ったレッドキャップの目的が、拉致や強姦ならまだなんとかなった。

 しかしレッドキャップの目的は、仲間を皆殺しにしたシオンへの復讐と、儀式だった。

 

 カタナ兄達が追跡に成功し、レッドキャップに追いついたその時。

 まだ生きていたはずのシオンは、手足が落ちた達磨となり。

 腹を縦に引き裂かれ、内臓を全て取り出されて。

 わずか数分、ほんの数分。

 そのたった数分で、シオンはあっさり殺されて遺体は辱められていた。

 

 歓喜に打ち震えたレッドキャップが、シオンの内臓を首にかけて狂喜乱舞していたので。

 カタナ兄は、手にしていたままだった『レッドキャップの投槍』を、思わず投げつけた。

 一撃で心臓をぶち抜かれたレッドキャップは、10秒ぐらい、全力で笑い続けた。

 

 シオンの気絶を確認したのはカタナ兄だけだったので、見ていた全員、シオンが死んだと思っていた。しかし、シオンの()()をレッドキャップが運び、笑いながら儀式をしようとする直前は目撃されていた。同盟相手のレッドキャップを殺したとも言えず、レッドキャップの死体は誰にも見つからないようケンタウロス達に処理された。

 

 実際には、シオンの遺体も、失神したユウも、ケンタウロスの通商部隊が回収した。

 オーク帝国から見れば、いつの間にか子供はおらず、女の遺体は儀式後にレッドキャップがどこかに持って行った。

 

 シオンは22人中12人殺したとされたが、正確には11人だ。

 1人はユウが殺した。でも子供がゴブリン戦士を殺したなんて、誰も思わない。

 きっとゴブリンも彼女が殺した。だから全部で12人。数え間違いはない。

 

 

 * * *

 

 

 クッコロもテオも、嘘はついていない。

 目撃者も報告者も、全員嘘はついていない。

 ただ、それぞれの視点から、見える景色が違っただけだ。

 

 『試し竿で犯したから強姦(レイプ)ではない』とケンタウロス以外の種族が説明するだろうか?

 名前秘密男が手を伸ばして叫んだ時、その対象が子供なのかレッドキャップなのかを議論する必要はあるだろうか?

 

 だから『大体合っている』。

 流れも、結果も、大して差違はない。

 

 所有権を主張する強姦(レイプ)と、膣内射精(なかだし)をして強引に娶る強姦(レイプ)の、何が違うというのか。

 試し竿での強姦(レイプ)と、本竿での強姦(レイプ)は、何が違うというのか。

 

 尊厳を麻薬の一種として否定すること自体は、ケンタウロス達の自由だ。

 だが、実際に尊厳を破壊した上で、『ヤク漬けの病気猿』に『尊厳は麻薬の一種だから気にする必要はない』と笑顔で(さと)してどうするというのだろうか。

 

 

 * * *

 

 

 ユウを保護したケンタウロスの里は、『草原の民』の哲学からユウに教育しようとしていた。

 包帯を身体に巻かれたユウは、食事もできるし受け答えも出来ている。

 母親の死に心がやられて塞ぎ込んでいる……といったことは、幸いなさそうだ。

 

 ケンタウロスの男性が、ユウに優しく語りかけている。

 通商部隊所属なので、片言だが人間語が話せる(7巻23P)。

 

「せかいは自由。自由なせかいはつよくなければ死ぬ」

「お母さんは、弱いから死んだの?」

「そうだ。よわいからしんだ」

「お母さんは、大きいのも、早いのも、小さいのも、10ぐらい殺したよ。弱かった?」

「……つよくない者、しゃかいという城でホゴする。生きていけない」

「強くなるには、どれぐらい殺せばいいの?」

 

 その子供は、不思議な模様の青地の布を決して手放さない。

 洗濯のために取り上げようとすると、大暴れする。

 しかたなく、その青地の布は彼の好きにさせてある。

 

 白と金の刺繍がほどこされた青地の陣羽織。

 レッドキャップの投槍で一部が破損し、ゴブリンの返り血の跡もそのままだ。

 

 洗うぐらい、許してくれてもいいだろうに。

 淡々と受け答えをする銀髪の少年との会話は、話が通じているのかいないのか。

 教育役の男性は、誰か代わってくれねぇかな、とぼやくしかなかった。

 

 

 * * *

 

 

 ケンタウロスは強い。

 大体の相手には、迫り撃ちと離れ撃ちで一方的に勝つ。

 突撃用槍によるランスチャージ、剣鉈のような片手剣もある。

 「飛び縄」という、ボーラと投げ縄が合体した特殊武器もある(科学的11巻113P)。

 

 人間に対して自重もしてあげている。

 『都市に対して疫病を流行らせ毒を撒くような攻撃』をしていない。

 

 5巻38Pでティーチ教官が言ったように、理不尽な強さの『剣姫』カタナもいる。

 『剣姫』? いやいや。地獄門作戦の大英雄、『剣鬼』カタナちゃんです。

 彼女は草原の民として生まれ、教育されているからヤク漬けでも病気でもない。

 終身名誉ケンタウロスなので、カタナちゃんは人間ではない。以上、証明終了。

 

 だから下に見る。ケンタウロスは人間を下に見る。

 どこまでいっても、人間は『ヤク漬けの病気猿』だから。

 

 

 * * *

 

 

 アイン・ジャールートの戦い、文永の役、弘安の役。

 ……いや、モンゴル帝国と比べたらダメか。

 

 長篠の戦い?

 機の一改(ライトマシンガン)と、狙の一改(スナイパーライフル)を一丁ずつしか持ってきてない。

 『戦国自衛隊』とか、『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』の路線だろうか。

 

 ジュネーブ条約、ハーグ陸戦条約、化学兵器禁止条約、生物兵器禁止条約、オタワ条約……地雷(オタワ)はケンタウロスに効果が薄そうなイメージがある。

 

「ん。ユーリ。あそこ」

「む? アレかぁ。ケンタウロスの里」

 

 カタナが指をさす。

 ジャンが聞いてたら顔を真っ青にして『何をするつもりなんですかユーリさん!?』と叫びそうな事をぼんやり考えていたユーリは、顔をあげる。

 

「ほー、空気が綺麗やなぁ」

「見て見てあそこ!」

「羊の世話しながらセックスしてる!」

 

 せっかくバトが良い感想を言ったのに、ミルヒとカカオが台無しにした。

 ぶほっ、とバーチェがむせて、笑いを堪えている。

 

「ほ、『本番』ですよね? あれ……ふふっ」

「……そうだねバーチェ、あれは『本試し』じゃなくて『本番』だ」

 

 遠くの方、羊の世話をしている男女のケンタウロスが、羊の群れの脇でセックスをしている。

 本竿と本穴による、どこをどう見ても『本番』。

 

「ほら、子宮に直接当たってるよ? 出されたらキミは僕のものになっちゃうのに」

「はい……♡ 中で出しちゃダメですけど……どうぞお使いください……♡」

「これは試し穴じゃなくて本穴だよ? 中に出したいなぁ……」

「はっ、ふっ♡ 駄目ですよ? 父の許可なく押し倒して『本番しごき』だなんて♡」

「……中で出したら、赤ちゃん、できちゃう?」

「いけませんっ♡ お父様の許可なくこんなこと……っ♡」

 

 風に流れて、セックス中の男女の会話が聞こえてくる。

 皆の視線が、カタナに向く。

 

「んん~、どうしよう……むー、困った……」

 

 16巻88Pのように困り顔のカタナ。

 苦笑しながら、ユーリは補足してあげる。 

 

「ケンタウロスにとって、性的なタブーや禁止事項は、破らせるためにあえて作ってある側面がある。だってほら……興奮するだろう?」

「子供ができたらできたで、産むんか?」

「出産と、子育ての練習になる……」

 

 バトの質問に、カタナが答える。

 ユーリはさらに説明を続ける。

 

「ケンタウロスの子供の性教育は、親の役目なんだ。だから父親が実の娘を抱くし、ミスって孕ませたりもする。こっちで例えるなら、僕がヒカリを抱くような……」

「あ"?」

「違うバトさん、例え! 例え話! 彼らの話です!」

 

 傍目には、仲良さそうに会話している、絶望の草原にやってきた無謀な冒険者だ。

 男は殺され、女性陣は全員が犯され、子供を産み、草原の民の教育を受けるだろう。

 男女ケンタウロスは、人間の冒険者達の将来を哀れに思いながら、孕むか孕まないかわからない、ギリギリの本番セックスを楽しむことを優先した。

 

 『剣鬼』カタナ以上の、理不尽の権化。

 そういう存在がいるという事実に、ケンタウロスが思いを馳せることはなかった。

 

 ……今までは。

 

 





「被告人は、殺意と共に被害者女性の顔面を弓で撃ち、殴り倒して鎧を脱がし、被害者女性を犯しました。試し竿なので、決して強姦ではないそうです。犯している途中で被害者女性に反撃されたので殴打しました。目撃者達はその殴打が原因で被害者女性が死亡したと判断しましたが、被告人は『彼女を殺してはいない。気絶させただけ』と主張しています。しかし、レッドキャップが被害者女性の遺体を辱めるために移送する姿を確認したと証言する者がおり、実際にレッドキャップも被害者女性の遺体も見つかっておりませんので、今後の捜査が待たれます。別件ですが、被害者女性の息子を殺す指示は出していないと被告人は強く主張しており……」

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