非実在青モモイ   作:吾妻西紀

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私の青春の青い部分

 かつて私の頭の中にはもう一人の私が居た。

 

 その事に気が付いたのは中等部1年生の頃の夏。初等部の頃は何をするにも一緒だったミドリと段々反りが合わなくなって、一人でゲームばかりするようになっていた私に彼女は突然話し掛けてきた。

 

 『よっ、私』

 

 「えぇっ!?だ、誰!?」

 

 『私は貴方の中のもう一人の私だ』

 

 突然頭の中に響き渡った声に、思わず持っていたゲーム機を取り落として驚いたのを今でも覚えている。その声は私と同じ声色をしていて、話していると何だかミドリと話しているような気分になった。

 

 『私の名前は…あぁ…そうだ、"アオ"にしよう。どうかそう呼んでくれ』

 

 「あ、アオ?」

 

 『うん、よろしくモモイ』

 

 それが"アオ"と名乗ったもう一人の私との初コンタクトだった。

 

 アオは決まって私が一人の時に話し掛けてきた。当時の私は周囲の人間とも馴染めず、妹のミドリとも疎遠になってゲームに打ち込んでばかりだったから、結果的にアオが話し掛けてくる頻度は多かった。

 

 『お、ハイスコア更新したな』

 

 「えへへ、凄いでしょー!」

 

 『凄い凄い、でもそろそろコイン無くなるぞ』

 

 「えっ、あーっ!?貴重なお小遣いが!!」

 

 人との関り合いに飢えていた私は頭の中に現れては欲しい言葉をくれるアオとの交流に夢中になっていた。特に私がアオとすぐに打ち解けた理由は、彼女が飴と鞭を使い分ける…姉のような人だったからだろう。

 

 『おいモモイ!お前英語12点はヤバイぞ!』

 

 「うぐぅ!?でも今回は特に難しくて…」

 

 『…教えてやるから、毎日一時間は復習しような』

 

 「…はーい」

 

 アオはもう一人の私とは思えないほど頭が良く、また教えるのも上手かった。お陰で彼女に勉強を教えて貰うようになってから滅多に赤点を取ることは無くなった。また、時々良い点数を取ると良くやったと褒めてくれるその言葉が嬉しくて…お姉ちゃんが居たらこんな感じだったのかなと思うことが多くなって…

 

 …ふと、私と同じように孤立しているミドリのことが頭に過った。

 

 「…ねぇ、ミドリ」

 

 「…何」

 

 「あのさ…一緒にゲーム、しない?」

 

 この件が切っ掛けでミドリとは()りを戻したというか、昔みたいな関係に戻ることができた。ゲームも二人ですることが増えて、いつの間にか一人で居ることが少なくなった。…当然、アオの声が聞こえることも少なくなった。

 

 『なぁ、モモイ』

 

 「何?アオ」

 

 『今、幸せか?』

 

 「何さ突然。幸せだよ?」

 

 『そうか』

 

 「明日はね、ミドリとゲーセンに行くんだ~」

 

 『…じゃ、早く寝ないとな。おやすみモモイ』

 

 「おやすみ~」

 

 …それがアオとの最後の会話だった。それ以来、彼女の声を聞いたことは無い。最初こそ半身が引き裂かれたような、心に穴が空いたような気持ちだったが…ミドリや新しくできた友人達と話しているうちに心の傷は癒えていった。

 

 今思えば"アオ"は私の寂しい気持ちが生み出した分身だったのかもしれない。だから、役目を終えてまた私の心の中に戻っていったのだろうと、そう思う。本当は別れの言葉と感謝の言葉を伝えたかったけど、でもきっとそれは私がこの気持ちを覚えていれば彼女にも伝わるはず。

 

 だから、何年経っても忘れないように私は貴方に向けた日記を毎日書いている。もしまた再会したそのときは沢山色んな話をしようね。アオ。

 


 

 「うわー…先生これ何?」

 

 「本当だ…石板が浮いてる…」

 

 今日はシャーレの当番日。私とミドリは初めての当番ということでシャーレの設備を見て回っていた。その中で目についたのは地下室にあった、何やら石板のようなものが浮いた謎の機械である。

 

 「"これはね、クラフトチェンバーと言って特殊な材料を入れることで物体を生成してくれる…俗にいうオーパーツだよ"」

 

 「オーパーツ…!」

 

 「何か凄そう…!」

 

 まるでゲームに出てくるキーアイテムのような設定に思わず目を輝かせる私とミドリ。そんな私達の姿を見た先生は部屋の隅に置かれていた箱の中から石のようなものを数個取り出すと、私達にそれを手渡した。

 

 「"折角だから一回やってみる?"」

 

 「いいの!?」

 

 「いいんですか!?」

 

 「"うん。他の皆には内緒でね?"」

 

 流石は先生、太っ腹である。どちらが先にクラフトチェンバーを動かすかということで順番を掛けてミドリとじゃんけんをすることになったが、私が出した会心のグーはミドリの出したパーによって敗北を喫するのだった。

 

 「くっ…でも余り物には福が何たらって言うからね!ミドリより凄いものを出して見せるよ!」

 

 「いや、別に余り物がどうこうって話じゃないと思うけど…」

 

 ミドリが石…キーストーンというらしい…それを石板に押し付けると、ガコンという音と共に石板の表面に浮かんでいる紋様が青白く輝いた。先生曰く、これで準備は完了らしい。

 

 「"それじゃあ出すよ"」

 

 「ドキドキ…」

 

 「何か緊張する…」

 

 先生がチケットのようなものをクラフトチェンバーに押し付けると、青白く輝いていた紋様が一際激しく輝き部屋全体を白く染め上げた。私達が思わず目を瞑っている間に物体の生成は終わったようだ。

 

 「わぁ…!」

 

 「凄い…!」

 

 そこには煌びやかな装飾の施された机や、面白そうなボードゲームなどが置かれていた。家具の大きさ的に先生が予め用意していたというわけでもなさそうだ。つまり、本当に今さっきクラフトチェンバーによってこの家具達は生み出されたということになる。

 

 「"この家具はシャーレで運営してるカフェに置いても良いね。こっちのボードゲームは…欲しい?"」

 

 「「欲しい(です)!!」」

 

 「"うん、じゃああげよう"」

 

 こうなってくると、俄然やる気が湧いてくるというものである。ここは私が真打として先生も驚くような何かを出すべきだろう。期待に胸を膨らませて、私はキーストーンをクラフトチェンバーの石板に押し込んだ。

 

 「…?」

 

 4つほど押し入れたキーストーンのうち最後の一つを押し込んだ瞬間、妙な感覚があった。何かこう…体の中に溜まっていた何かが急に抜けたような…不思議な感覚である。大きく伸びをした時に体の力が抜けていく感覚に少し似ているかもしれない。

 

 「ん~?」

 

 「"どうかした?"」

 

 「うーん、いやなんでもない」

 

 いや、きっと気のせいだろう。そう思って私は先ほどと同じ位置まで下がって先生の操作を待った。先生は再度チケットのようなものを取り出し、クラフトチェンバーに押し付ける。すると、先ほどと同じ青白い光の奔流が地下室全体を眩く照らした。

 

 「………?」

 

 数秒経っても白い光が落ち着かない。恐る恐る目を開けてみると、そこには真っ白な人型の何かがぼんやりと佇んでいた。私達と先生はそれを呆然としながら見つめている。

 

 「お、おおおおお、お化け!?」

 

 「お、お姉ちゃん落ち着いて!!まずは、えっと…銃構えて!!」

 

 「"二人とも!すぐに距離をとって!!"」

 

 三人それぞれが混乱しつつも行動を起こそうとする中、白い人型が放っている光が徐々に小さくなっていく。見えてきたのは、猫の耳を象ったヘッドホンとブロンドの髪。やがて顔や服装が浮かび上がってきたが、それは何処からどう見ても…私と同じ容姿をした少女だった。

 

 「ミドリ!…私だっ!私がいるよ!!」

 

 「お姉ちゃん!そんな段ボールを被って敵地に侵入するゲームの主人公みたいなことを…!」

 

 「カラーリングは青色だけど完全に私だよっ!?」

 

 まさか恐るべき姉妹達計画が!?と混乱する私に対して、目の前の青色の私が目をパチクリとさせながら近付いてくる。思わずぎゅっと目を瞑る私に対して、少女は動揺した様子で話し掛けてきた。

 

 「…モモイ?」

 

 「えっ、あっ、はい」

 

 「待て、何で、私に身体があるんだ」

 

 「…へ?」

 

 「ここは何処だ?何故私がモモイの中から外に出ている!?」

 

 どうやら向こうもかなり混乱しているようだ。私の肩に手を当てて良く分からないことを捲し立ててくる。ふと、彼女の目と私の目が合う。空色よりも少しだけ濃い青色の瞳…青色。

 

 「アオ…?」

 

 ふと、口から漏れた言葉は意図せず出たものだった。しかし、その言葉に対して…

 

 「…っ!」

 

 少女の動きが図星を突かれたように固まった。

 

 「アオ!アオなの!?」

 

 「…久し振りだなモモイ」

 

  まるで悪いことをしていたのがバレたような顔で苦笑する少女…アオを見て、私は思わず彼女を抱き締める。本当にもう一度出会えるとは思っていなかった。もう一度だけでも会いたかった人に出会えた。

 

 その事が嬉しくて、嬉しいのに涙が止まらない。

 

 結局、私は先生とミドリとアオに宥められ、アオの着ている服が涙と鼻水でズルズルになった頃にようやく泣き止むのだった。

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